「先生は我々とは違う概念で大人という言葉を使っており、その大人とは年齢的な概念ではなく、成長の末に完成された存在といった感覚」
「どんな大人が良い大人なのか、という点はブルアカの談論のひとつ」
なるほど、と思いました。
その理屈でいえば、不知火カヤ(精神的超人)は正しいことをなそうとする良い子供です。
ではこの正しいとは、良いとはなんでしょうか。そもそも誰にとって?
「理解できないものを通じて、私たちは理解を得ることができるのか」
不知火カヤは、連邦生徒会長代行執務室にてひとり、連絡を待っていた。
RABBIT支隊では、市民に大規模な被害が出る作戦を遂行することができないと判断し、FOX小隊単独での作戦を決定。
作戦内容は、作戦ポイントαと呼称することにした地点を制圧し、兵器を奪取。時限式起爆装置を設置し、子ウサギタウンを離れることだ。
スペアプランは作戦ポイントβへ移動し、もう一方の兵器を確保することだが、時間の余裕は少ししかない。
もしFOX小隊がαの兵器確保に失敗したなら、その時点で報告をあげるよう指示しておいた。
しかし、FOX小隊の作戦終了予定時刻はすでに過ぎていた。もし問題がなければ、あるいはあったとしても、確保が終了した時点で連絡が入るはずだが……
しかし、まだ何の連絡も来ていなかった。
そろそろ防衛室および警備局側の行動作戦が終了される時刻だ。
予定ではそろそろ防衛次長からの現状報告が入るはずだった。
カイザーの指揮系統確保について。そしてどこが破壊されたのかについて。
カヤは自分にできることはすべてしたという自覚があった。
カイザーに対する手配はすべて、準備してある。
あとは部下が実行するだけだ。
そして、1通の通話が入る。
カヤはそれを取った。
「こちら、連邦生徒会長代行の不知火カヤです。
防衛次長ですか、状況は。
……復唱します。ジェネラルの確保に失敗。カイザーPMC指揮系統の確保に成功。しかし一部は通信不能により制御不能。ミサイルの発射などといった戦術兵器の使用痕跡は確認できず、ですね?
間違いないのですか?」
カヤは通話を繋げたまま、FOX1に連絡を行った。
もし、行動作戦が完了しているなら、繋がるはずだった。
繋がらない。
「……もう一度、確認します。
子ウサギタウンにも、どこにも、形跡はないのですね」
カヤは最悪を想定した。
もし、FOX小隊になんらかの問題が発生し、兵器を確保できなかったとしたら。
それはつまり……
しかしそこで、次長があることを告げた。
「作戦ポイントαで爆発を確認……
RABBIT支隊がシャーレの先生とともに、カイザーPMCと交戦しているのを確認……?」
何が起きているのか。
混乱しながらも考える。
もしFOX1が無事なら連絡が通るはずだ。だが通らない。
FOX小隊自体は無力化されているのか?
しかし報告を踏まえると、ジェネラルがジャミングなどで妨害している可能性も……
なんにせよ、ジェネラルが先手を取った。
ここはすでに危険だ。
カヤは防衛次長に告げた。
「ヴァルキューレ警察学校およびカイザーPMCを統制し、情報を把握してから行動すること。
緊急対処プロトコルを発令します。現時刻より防衛次長に指揮権限を委譲。
私は機密情報を処分します」
そういって通話を切り、席を立ったそのとき。
また、1通の連絡が入った。
「こちら、連邦生徒会長代行の不知火カヤです。
……ジェネラル」
カヤは続く言葉を聞いて、動きを止めた。
カイザー・ジェネラルは言った。
子ウサギ駅を完全に破壊するだけの爆弾を設置し終え、更にミサイルも確保している。
「私を脅す気、ですか。
……なるほど。
……」
カヤは、そのまま動かず、机を凝視する。
(できない。絶対にできない。やってはいけない。
……だが、やらなければ。
やらないと……)
カヤは、選択を迫られていた。
もしもこの要求をのみ込めば、カイザー・プレジデントは野放しだ。ジェネラルの行方もわからなくなる。ようやく捕らえたキヴォトスの敵が、また野に放たれてしまう。
しかし吞み込まなければ、多くの市民に被害が出るだけに留まらず、連邦生徒会の職員までもが……
どちらの結果も、カヤにとって受け入れられないものだ。
だが……もし、どちらかを選ぶというのなら。
連邦生徒会長代行であり防衛室長であり。
そしてひとりの生徒として。
不知火カヤは。
「私は……」
(受ける!
受ける!
D.U.を復興すると決めて。
自分の変なこだわりを捨てると決めた。
今まさに、そのとき……
だから)
「う……」
もし、これを受けたなら、カヤは失脚するだろう。
もし、これを受けたなら、リンはなにも知らず舞い戻る。
なにもかもがもとに戻るだけだ。
いつものような連邦生徒会がまた始まるだけだ。
ただ、連邦生徒会長と、防衛室長が、いないだけ。
それだけだ。
だから。
「うけ……」
そのとき、銃声が耳を突き抜けた。
通話先のジェネラルが倒れた。
地面に通信機が落ちる音が聞こえ、そして。
≪tango、ダウン!≫
不知火カヤは通話の先から聞こえた声に、頭が真っ白になった。
何が起きたのか?
荒い息が近づく。
「はぁ……これは……カヤか?」
「ユキノ、いえFOX1、状況は!?」
座り込む音。
「ポイントαを制圧後、施設内部に隠されていた、EMP発生装置が、爆発……
FOX2は行動不能……FOX4に応急処置と、連絡を任せ、FOX3と……」
「もう十分です。位置情報を送れますか?
大至急警備局と防衛室のチームを送ります」
「ポイントβ、フロアδ……
こちらの通信端末は破損している、から、通信が……」
カヤは端末を急いで操作し、次長に連絡を行った。
「自分の応急処置をしてください。あるいはFOX3に頼んで!
もしもし次長ですか。大至急、これから送る位置に警備局と医療班と爆発物処理班を送ってください。ジェネラルを確保しました」
カヤは地図情報システムから部隊を向かわせる最短ルートとランデブーポイントを絞り込み、次長に送信した。
そして通信先に叫ぶようにして問う。
「FOX1、応急処置は?
FOX1!?」
「ああ……聞いてる。聞いているが、無理だ。
今爆弾とミサイルの遠隔操作システムを無力化してる。
FOX3は足止めだ……まだしばらくかかる」
カヤは唸った。次長から送られてくるデータを確認する限りだと、カイザーPMCは指揮系統が変わったことに反応できていない。ジェネラルの通信網破壊があまりにも早かった。
おかげで子ウサギタウンは、誰が味方かもわかってないカイザーPMCによって混戦状態となっている。
このままでは……
「無力化した……はは、ジェネラルがこれを持ってるとわかっていれば、簡単だったんだが……
う……」
倒れ込む音が聞こえた。
「ユキノ、意識を保って!」
(まずい)
カヤは悟った。このままユキノが意識を失えば、どうなるかわからない。
呼びかけながら、考える。
どうすればいい?
付近に防衛室が管理する部隊はまだいない。とすれば……
背筋に冷たいものが走ってゆく。
「ふふ、聞いてくれ、カヤ。
ジェネラルが確保していた、ミサイルは……
2つだった。あいつ、焦って…………」
「そのまま喋って!」
どうすればいいのか。
そもそもなにが起きたのか。
わからない。だが、間違いないことがある。
このままでは……
その想像にカヤは凍り付いて、ふと、自らの端末をみた。
もし……もしもだ。
もし、ここで戦術的指揮に優れる指揮官が、子ウサギタウンを突っ切ってポイントβへ突入してくれれば。
ユキノは、FOX小隊は、助かるのではないか?
カヤ自身が行くには、子ウサギタウンは遠すぎる。
次長も遠い。公安局長とその部下は行方不明。警備局は、分散しすぎている。
……先生は?
先生の持つ端末の位置情報は、子ウサギタウン内部にある。
RABBIT支隊もいるはずだ。
カヤは迷わなかった。
「もしもし、連邦生徒会長代行の不知火カヤです。
シャーレの先生ですか?」
通話をかけると一瞬、音声が乱れ、しかし正常なものに戻った。
繋がった。
「……カヤ?」
ユキノの訝しむ声が聞こえる。
「これから位置情報を送ります。そこへ向かい、戦闘を補助してください」
「カヤ、やめろ……カヤ連邦生徒会長代行」
「警備局もつけましょう。これは連邦生徒会の要請と考えて頂いて構いません」
「まさか、お前……だめだ……」
「ありがとうございます、では失礼します」
「カヤ……」
本作はカヤ(精神的超人)という原作との差異を利用して、状況を設計しています。
精神は超人です。しかし強い意思を持つ人物であることと、例えば選択のような、知識や経験を積み重ねた結果表れるものが既に完成されているということは、イコールではありません。
生徒はいざというときに取る選択を、別のかたちに変えることができるのです。それがどれだけ苦しいのかわかっていても。
大人はいざというときに取る選択を、変えることができません。たとえそれが正しくないとわかっていても、苦しいとわかっていてもです。
同じようにみえるときもありますが、違います。
だからこそ先生(本作)は、生徒がこれまでのあたりまえとは違う選択を選ぶとき、その責任を負うことで守ろうとしている、という風に私は解釈しました。
なぜシャーレ改善案を受けなかったのか。それは連邦生徒会に仇なす選択でも先生は守るからです。それを連邦生徒会が責任を負って全面的に補助……なるほど、先生的にNGですね。
先生は審判者のようですね。しかし、違います。
先生は救済者のようですね。しかし、違います。
先生は絶対者でしょうか……いいえ、違います。
BlueArchiveにおいて重要なのは、生徒自らが導き出した彼女たち自身の意思であり、そしてそこから生まれた選択と、結果という現実から少しでも生徒を守ろうとする先生の意思。
すると、救われるものもいれば裁かれるものもいる。それだけのこと。
私は先生という不可解な存在に対し、そういう解釈をしました。
そういうわけですから、すべてを解決できるわけではない、と解釈しました。