FOX小隊を救助していただき、ありがとうございました。
これから伝えなければならないことがあるので、再び連絡を取らせていただきました。
今回の件は、私の起こした事件と考えてもらって構いません。
カイザーはあくまで私の支持に従い、行動しました。
それをFOX小隊が察知し、防ごうとしたのです
あなたはこれを知り、RABBIT支隊とともに、連邦生徒会長代行執務室に向かいます。
そして私を拘束します。罪状はRABBIT支隊に任せてください。
よく聞いてください。これはもう、あなたが何かをすればどうにかできるような、そんな状況ではありません。
シャーレがカイザーの起こした問題を解決したという事実があってはならないのです。カイザーが今消えるわけにはいきません。
これを解決できるのは、私だけなんです。
すべては私が選んだ選択、その結果です……
先生、お願いします」
不知火カヤは連邦生徒会長代行執務室にて、ひとり、アルバムを触っていた。
写真を眺めていた。昔、戦友とともに撮った写真を。
もういないひとがいた。
写真を撫で、そしてアルバムを閉じる。
足音が近づいている。
扉を開け、先生とRABBIT支隊が入ってきた。
予想した通り、RABBIT支隊は武装したままだ。
急いできたからか、先生は少し汗ばんだ様子だった。
“カヤ……”
少しの静寂を挟み、カヤは口を開いた。
「……先生、あなたは私の伝えたことを理解したうえで、ここに来たのだと思っています。
なぜRABBIT支隊は私に身元を確認しないのですか?」
“君にはユキノがいる。
そして、彼女だけじゃないんだよ”
その言葉を聞いて、カヤは。
「……なるほど。
では、先生。少しお話をしませんか」
だからこそ、心に決めた。
影で端末を操作する。
「先生は、これまでキヴォトスの様々な問題に対して、責任を持って解決してくださいましたね。
はっきり言いましょう。あなたが羨ましかった。
私は、これまで随分と、いろいろなことをしてきました。
FOX小隊にも迷惑をかけました。
ですが、あなたのようにはなれなかった……」
「なぜなのか悩んだときもありました。
どうしてうまくいかないのか。
そのときは答えが出ませんでしたが、今なら少し、わかる気がします。
きっと、もっとわかりあうべきだったんでしょうね」
「私はあなたが怖かった。
突然あいつが失踪して、そこに入れ替わるように入ってきたあなたが……
連邦生徒会の皆が、あなたを認めているのをみて……
理解できなかった。すべてはそこからでした」
“カヤ……”
「はい」
“その言葉は、私に向けるべきじゃない。
いま君を待っている、みんなに言うべきだよ。
そしてその後で……それでも、自分のせいだと思うなら。
迷惑をかけた生徒たちに、きちんと謝ってあげて”
ほんの一瞬、カヤの表情が変わった。
一瞬、なにかを押し殺したような無表情が映り込み、しかし瞬く間に掻き消える。
「……も、もちろんです。先生がおっしゃるのなら、相手が誰であろうとも謝ります」
おどけたように笑いながらカヤはいう。
「だ、誰にあやまりましょうか……?リン行政官……?」
先生は彼女をよく知っているわけではない。会った回数すら数えるほどしかなく、当然推し量るものもないのだが……
その無表情に、なにか、不知火カヤらしからぬものを感じた。
廊下を走る足音が聞こえる。
RABBIT小隊の視線が、扉へと向いた。
「連邦生徒会長代行!無事?」
ハイネの姿が見えたそのとき、カヤの指が机の下へ伸びた。
「!先生」
その動きを察知したミヤコがカヤに射撃するものの、それよりもはやく、閃光が部屋を包む。
すばやくハイネに近づいたカヤは、その体を盾にして部屋から飛び出した。
「いたたたったったった!?」
猛烈な銃撃をくらうものの、さすが体育室長であるハイネは、悲鳴をあげるだけにとどまった。
「体育室長、ちょうどいいところに……!」
「なに!?なにがおきてるの!?」
閃光と銃弾に襲われたハイネは叫ぶ。しかしそれを無視してカヤは駆けた。
カヤは、不知火カヤを誰ひとり許すべきではないと知っていた。
不知火カヤ防衛室長は治安維持の第一人者だ。
そんな彼女自身からみて、キヴォトスの平和はいま、コップの縁ギリギリまで注がれた水のようなものだった。
もう少しなら、あふれないだろう。だが注ぐ勢いが強ければ、あふれる。
誰もが不安や不満や不平を訴えていた。
犯罪を犯すものも多い。
それを知って、不知火カヤは思う。
きっとそれがあたりまえなんだ。
不正を犯すことも、治安を乱すことも。
他人を蹴落とすことも、他人を傷つけることも。
それなら、きっとしょうがない。
みんなそうだ。
連邦生徒会長がいようが、連邦生徒会長代行がいようが、変わらない。
これがキヴォトスの真実なんだ。
だから、誰かが変えなければならない。
だから……
ハイネを盾として、カヤは駆けまわった。
彼女はわからないと叫びながら、ついてきてくれた。
生活安全局に突っ込み、職員を盾にした。
職員はびっくりしていた。
それから文化室に行き、交通室に行き、人材資源室に行き、交通室に行き……
とにかく連邦生徒会中に迷惑をかけた。
やがてハイネが気絶して捨てられ、カヤ自身も負傷を負ったが、諦めなかった。
許されないために。
連邦生徒会長は変な女だった……
その手腕は間違いなく超人的だった。
だが、その心は、ただの変な女だった。
キヴォトスをよりよくしようと頑張ってはいたが……
連邦生徒会のギスギスした人間関係におびえ、その癖みんなのいつもの日常、心の平安、生活の快適、これからの安楽といった、いわゆる幸福を求める「いいやつ」でしかなかった。
だから、いくつもミスをして、どこかへ消えてしまった。
だが不知火カヤは違った。
そんなものはなかった。
あったのは、これからを守るというひとつの意思だけだった。
痛みをこらえながら、カヤは防衛室長執務室に転がり込んだ。
ドアを近場のものでバリケードしておく。
そして、ある遮蔽に近寄った。
連邦生徒会全体を巻き込んだ逃走劇は各所に混乱を巻き起こし、実際いくつかの部署を巻き込むことに成功した。
だがいくつもの部署が静観していた。
「まさかここまでやって、たったこれだけしか動かないとは……自分の人望のなさを笑うべきですかね」
RABBIT小隊と先生は、カヤがやっとのことで拵えた混乱を簡単に鎮圧し、逃げ場を効率的に制限している。
防衛室で培った経験がなければ、ハイネが気絶した時点でもう捕まっていただろう。
このままいけば、不知火カヤは逃げ場を失い、確保され……
連邦矯正局に送られ、これまでの政治的基盤を失い、地位は適当な輩に奪われ、これまで通り、リン行政官が連邦生徒会を差配していくことになるだろう。
それだけは、避けなければならない。
ならないが……
どうしようもない、妥協しよう。
少しだけ避ける。
“カヤ!”
なにやら先生が言っているのを聞き流しながら、あれこれ考えを巡らせていく。
文字通り、逃げ場はもうない。RABBIT支隊……いや、今はRABBIT小隊か。
経路を封鎖しているのは彼女らだけでなく、連邦生徒会内のいくつかの部署が部隊を動かしていた。
このまま遮蔽に隠れていても、動ける程度に回復する前に鎮圧されるだろう。
「オトギ、狙撃は!?」
バリケード越しに聞こえる声はどこか曇っていて、耳鳴りで遠くなった耳では、何を言ってるのかうまく聞き取れない。
カヤは考える。
今後の展望として最悪なのは、SRT特殊学園の優秀な生徒がシャーレに吸収されるだけで終わることだ。
シャーレでは対処できない状況がある。そう皆が認識すれば……
そのために、すべてを用意した。
あとは私が、問題を提起すればいい。
カヤは床下の収納を開いて、機密保持用の爆薬と記録媒体を引きずり出した。
記録媒体を物理的に修復できない程度まで破壊できるようにと用意しておいたのだが、どう転じるかわからないものだ。
生徒の物理的損傷は小規模かつ体表に近いほど発生しやすい。
弱った状態で金属片が全身を切り裂けば、失血死するまでそうかからないだろう。
カヤは起爆のため、端末を起動した。
ふと、窓を見た。日が差し込む外を。
(誰もが昨日や今日のようなつらい毎日を待っているけれど、幸せな明日を求めれば、きっと……)
そして。
現在の観測済み世界線は。
√A:だから明日を求める。
√B:だから明日を求めた。
……ですが、ひとまず止まりましょう。細かいことは活動報告に置いておきました。
救いを与えるなら、半端なのはよくないと思います。
続きは、不知火カヤの救い方が定まってから。