不知火カヤ(精神的超人)   作:ふぁっしょん

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 通常の連邦生徒会所属生徒は、幹部候補生などとして、職務内容に適した教育を受け、それに適した交友関係を構築する。
 しかし、不知火カヤは連邦生徒会長により引き上げられただけで、本質的には高級官僚ではなかった。

 カヤに求められていたものはすなわち、能力でもってキヴォトスの治安を維持することであり……
 防衛室という暴力装置の動力源を、どれだけ効率的に動かせるか。その一点でしかなかった。
 ずっとそうだった。だから人望もなにも気にせず、その剛腕をふるってきたのだ。

 だが今は違う。
 後ろ盾であり、理解者であり、ブレインでもあった連邦生徒会長はもういない。
 その代行として収まった七神リン行政官は、明らかに敵対している。
 さらにシャーレの先生という謎の新勢力も現れ……
 そして連邦生徒会長失踪事件の真相は、欠片も手掛かりがつかめずにいた。
 

 いつまで防衛室長としていられるのか。
 いつまで防衛室の活動を維持できるのか。
 いつまで連邦生徒会が健全な姿を保っていられるのか。
 いつまでキヴォトスの治安を維持できるのか……

 わからない。
 もはや、ただの手足としてあることはできない。
 自分の手足を用意する必要があった。


吊された女(2)

 SRT特殊学園は連邦生徒会長直属の組織であり、防衛室とのつながりかたは縦ではなく横だ。命令権などといったものはない。

 しかし、不知火カヤという官僚が間接的に動かすことは、これまで何度もあった。

 それは巨大犯罪組織の対策本部の一員としてであったり、特殊犯罪の特定者としてであったり、あるいは連邦生徒会長の手足としてであったりしたが……

 なんにせよ、コネクションが存在した。

 そして信用も。

 

 

 SRT特殊学園のある一室にて、5人の生徒が顔を合わせた。

 不知火カヤはいつも通りの笑みを浮かべたままだ。しかしその雰囲気の違いを、残りの4人は感じ取っていた。

 

 FOX小隊。それはSRT特殊学園の中でもベテランといえる4人の隊員から構成される小隊であり、つまり連邦生徒会長の手足としても古株といえる。

 

 これまで、彼女たちと不知火カヤはさまざまな特殊作戦をともにしてきた。

 それは単なる実働部隊と後方支援としての関係だけではない。

 中隊および大隊規模の指揮を行える数少ないひとりである不知火カヤと、極めて高度な作戦遂行能力をもつFOX小隊は、幾度も戦場をともにした戦友ともいえた。

 

 特に私的な交友関係があるわけではない。だが職務、すなわちキヴォトスの平和を守るという一点において、信用できる相手と、両者は認識している。

 

 その視点からみて、FOX小隊の隊長である七度ユキノは思う。

 不知火カヤにはいつもの余裕がない。

 表面こそ繕っているが……

 あの憎たらしい態度をまったく晒さないなど、ありえない。

 

 

「これから極めて機密性の高い情報を話します」

 そうカヤは前置きした。

「連邦生徒会長が失踪しました」

 

 小隊員は、一瞬動揺を隠せなかった。

 それを無視してカヤは続ける。

「失踪時刻すらいまだ不明です。調査班はずいぶんと働いているようですが、緊急時用の引継ぎ書類すら見つかっていません。あの女が、まったくなにも残さず、唐突に消えました」

 資料らしき書類を机において、彼女は言い切った。

「私は連邦生徒会内部の犯行だと考えています」

 

 FOX1としてユキノは書類を開いた。

 一通り見終え、口を開く。

 

「どういうつもりだ」

 努めて動揺を隠しながらの発言だった。

「七神リン行政官が怪しいのはわかる。だがこのターゲットは……」

 

「陽動です」

 

「陽動?これが陽動だと!?」

 ユキノは信じられない気持ちでいう。

「お前らしくもない。こんな……」

 連邦生徒会に実質的なクーデターをしかけることが、陽動などとは。

 

 FOX小隊のほかの3人も目を通し終えたことを確認して、カヤは語り始めた。

 

 

「これまでキヴォトスの犯罪検挙数は加速度的に増え、治安は悪化し、行政にも様々な問題が出ていますが……

 情報封鎖は成功していました、それでこれだけの混乱が起きているのです

 連邦生徒会長という権威が消えたことが周知され、責任の所在が不明瞭になったこれから。

 それがどれだけ膨れあがるかの予測は、資料に示した通りです。

 不穏分子どもは身動きが取れない我々をみて、どれほど笑うことか……」

 カヤの表情から笑みが消える。

「連邦生徒会長がいなければ我々は能動的に動けない。それだけならまだいい。

 問題はあのリベラルなインテリどもが、まだパワーバランスなどとほざいていることだ!」

 

 ユキノは思った。

 この女、怒ったりするんだな。

 

「……この調子だと連邦生徒会は権威も実行能力も失墜します。

 キヴォトスの各学区が緩衝材を失い、独立性を高めていけばどうなるのかは、歴史のとおりです。

 そしてこの筋書きを書いたのは何者なのか、実現させたのはどこの誰なのか。

 不明瞭な以上、最悪を想定しなければならない」

 

 カヤは告げる。

 その表情に笑みはない。

 

「連邦生徒会を極力正常に保ちながら、脚本家を見つけ出し、そしてキヴォトスの安全保障を維持するために。

 私は不確定要素をすべて、排除もしくは抱き込む。

 FOX小隊には実行支援してもらいたい」




この時点での不知火カヤは連邦生徒会長が死んだという実感がありません。
後始末をFOXや連邦生徒会がやれるという認識のもと、黒幕や犯罪者を能動的に動かそうとしています。
しかしFOXはあくまで実働部隊ですし、連邦生徒会長は戻ってきません。
これまで孤立していたせいで子飼いの部下がいないこともあり。
そして連邦生徒会が思っていたより鈍いこともあり。
行きつくところまで行ってしまうでしょう。
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