そして一か月。
5人の名もなき計画が着々と進行する最中も、キヴォトスの不穏分子はアクセルを緩めない。
SRTの特殊作戦を承認する責任者が不在である以上、あらゆる公的治安維持活動は後手に回らざるをえなかった。
犯罪発生率はとめどなく上がり、各学区の治安担当組織も悲鳴をあげる。
表に見えるものだけがすべてではない。
各学区をまたいだ大規模犯罪組織をはじめ、様々な不穏分子が水面下でうごめき……
そして水底へと消えてゆく。
だれが沈めているのか。
溺れまいと天を見上げもがく人々。
気づかない彼らの影を、FOXとカヤは潜行してゆく……
会議が、踊っている。
不知火カヤは目を細めたまま、笑みを保ったまま、無言を保ったまま。
同じように黙っている連邦生徒会幹部をみていた。
「 が で だから なんだ!」
「 なければならない!」
皆、つまらなそうな顔だった。
たとえば扇喜アオイ財務室長は腕時計をみていた。
あれは彼女のくせだ。いつも、早く帰りたいと思うと、右腕につけた腕時計を見る。
交通室の由良木モモカは、スナックを齧っている。
明太子の菓子だ。いつもそうだ。
それを気にしてか、岩櫃アユム調停室長は、ちらちらと視線を向けていた。
彼女たちは仲がいいらしい。いつもそうだ。
そして七神リン行政官は、真面目腐った顔で手元の資料を眺めていた。
眺めているだけだった。視線も手も動いていなかった。
いつものように。
情報封鎖解除から一か月が過ぎ、連邦生徒会の業務処理能力は張り詰めた糸のようにぎりぎりだ。
行政委員会の各所で問題が発生し、その対応に追われる毎日を過ごしている。
それだけともいえた。
防衛室の調査によると、生徒の犯罪件数は300%ほど増加している。
自警団やヴァルキューレのような実働部隊は、馬車馬ですら倒れるだろう激務に追われ、あまりの消費に弾薬すら足りていない。
防衛室としても喫緊の課題だ。
だが対策本部がおかれるほどの特殊犯罪はまったく発生していなかった。
せいぜいが鉄道など公共交通機関のハイジャック程度で、SRTが要請を受けるような、連邦生徒会として対処するべき問題は、当初の想定より非常に少ない。
なぜか。それは明るみに出る前に処理しているからだ。
この一か月、不知火カヤは防衛室の職務内容を調整し、各情報機関を操作することに集中した。
普段はある程度職務に余裕を持たせているが、カヤらしからぬ激務を職員に課した。
そして情報封鎖の解除による変化を徹底的に洗い出したのだ。
大規模な兵器の移動はもちろん、薬物など違法所持品の取引を、組織的なものからブローカーによる個人間のものまで追跡した。
名の知れた傭兵や犯罪者がどこにいるのか、どこへいくのか。
当然、食料や弾薬など消耗品の動きもだ。
そしてその結果あらわれた多種多様な犯罪を、FOX小隊とともに事前に制圧していった。
事務手続きのない秘密行動だ。物資を暗がりで動かすため、後ろ暗いことをいくつもこなした。
それを利用して連邦生徒会内の不穏分子とつながることにも成功し、非七神リン行政官派閥を根こそぎ配下に収め……
これまでの不知火カヤ防衛室長らしからぬ動きだ。
怪しく考えて当然のことをしてきたと思う。
リン行政官がクロにしろシロにしろ、なにか、行動を起こすべきなのだ。
だというのに……
カヤは視線を落とし、手元を確認した。
そこには、SRT特殊学園の責任の所在について、問題視する旨の資料がある。
これを用意したやつの言いたいことが透けてみえた。
(SRT特殊学園はいまや危険分子ではないか……?)
今まさに連邦生徒会内で特殊犯罪をいくつも犯している危険分子である不知火カヤは思う。
だれも、なにも、していない。
連邦生徒会長が失踪したという千載一遇の機会で、ただ立ちすくんでいる……
キヴォトスの破滅という崖際で。
不知火カヤ(超人)は連邦生徒会長の指揮のもと、様々なヴィランを始末してきました。
SRTがつくられるまで、キヴォトスの各学区をまたいだ犯罪は基本的に野放しだったことを、原作Vol.4の序盤で不知火カヤが語っています。
それは長い歴史を持つ犯罪組織が成立できる土壌があったということで、それはもう巨悪というにふさわしい人物をはぐくんだことでしょう。
つまりこの時点での不知火カヤは、過去の巨悪と最低でも同レベルの敵を想定して動いています。
痕跡を一切残さず連邦生徒会長をどうにかできる実行能力を持つ相手が、連邦生徒会を支配あるいは転覆させられる絶好のタイミングで、協力するにせよ排除するにせよ絶好の派閥状況を用意したわけです。
だというのにまったく動きがない。
不安に駆られ始めますが、相談する相手が実働部隊であるFOX小隊しかいません。
様々なことを考えるでしょうね。
たとえば財務室がこの治安状況で金を回さないのはなぜなんだとか。
たとえばSRTがまさに必要な今閉鎖しようとする理由はなんだとか。
考えすぎです。