連邦生徒会長の失踪から三ヶ月が経過。
犯行の形跡がない。犯行の声明がない。犯行の関係者がいない。
なにもかもが絶望的といえる。
FOX小隊のもとに記録が積み重なっていく。
不知火カヤの冒したあらゆる行動と、そこに至るまでの経緯が。
これまでいくつもの特殊犯罪を特定してきたFOX1として、七度ユキノは考える。
不知火カヤの差配には一定の規則がある。
代替可能な要素を残しておくことだ。
この混乱のさなかですら、不知火カヤ防衛室長の席を挿げ替えたところで、防衛室およびヴァルキューレの職務上の混乱は非常に少ないといえるだろう。
それは組織の一員として結構なことだが……
限界がある。
FOX小隊と不知火カヤは顔をあわせた。
防衛室の管轄ではない、かつて連邦生徒会長が特殊作戦のために用意したセーフハウスに集まった。
ある問題について話すために。
FOX小隊の隊長として、七度ユキノは発言する。
「……やるべきだ」
主語のないその言葉を聞いた瞬間、カヤは吐き捨てた。
「やりません」
FOX1として七度ユキノは告げる。
「やるべきなんだ」
SRTのある小隊が、連邦生徒会内の汚職を嗅ぎつけている……
連邦生徒会長が不在である状況下でも、SRT特殊学園所属生徒は職務に忠実だ。
特殊作戦が認可されることはないとわかっていても……
その調査能力は決して鈍ることなく、キヴォトスに潜む邪悪を探っている。
不知火カヤ防衛室長の起こした急激な変化は、本来の様々な推移予測を裏切らせた。
それだけではない。すでに目をつけていた不穏分子を謎の組織が襲撃しているという事実は、決して隠し切れるものではない。
いくつかのSRT所属小隊が調査を進めている。
そしてその中でも特に優秀なある小隊が。
暗がりで動かされた物資に気づいた。
「カヤ防衛室長、資料を見てもらたい」
いうまでもなく、カヤはすでに手に取っている。
そもそもこれは、かつてカヤ自身が用意したデータだ。
「連邦生徒会長失踪事件の実行犯すら見つかっていない現状で、権限は引き継がれることなく、SRT特殊学園の能動的行動は制限されています」
いうまでもないことだ。
「ヴァルキューレや自警団などによる治安維持活動は、限界を越えた稼働率でとどまっています」
防衛室長としていわれるまでもなくわかっている。
「この状況下で大規模な組織犯罪が発生した場合、それを対処するリソースは……」
不知火カヤは努める。
目を細めたまま、笑顔を保ったまま、平常心を保ったまま。
(だからこの小隊を、どうにか、するべきだと?)
「できない。絶対にできない」
思わずこぼれた言葉だった。
「私がなんとかします」
不知火カヤは口早に言おうとした。
「SRT特殊学園は……」
しかしそれを遮ってユキノは強く言い切る。
「だがそれは証拠が揃っていれば別だ
まだ実行犯すらわかっていない状況で、連邦生徒会内のどこに共謀犯がいるのかもわかっていないのに、実行能力を失うわけにはいかないと。
そういったのは、お前だ。
お前以外いないんだぞ!?」
先月の議題。
SRT特殊学園の責任の所在がない。
だれが責任をとるのか。
だれも責任をとろうとしない。
防衛室が持つというのは、パワーバランスが……
ではどこが?
SRT特殊学園は閉鎖するべきではないか?
ヴァルキューレ警察学校に編入というかたちで……
なにをいっているんだ。
SRT特殊学園所属生徒の経歴は機密情報だ。
特殊作戦を実行する人材、報復などを警戒して秘しておくのが当然。
ヴァルキューレに編入なんてしたら……
「SRT特殊学園を閉鎖すれば……」
「は?」
「先月の議題です。SRT特殊学園の責任の所在が不明である以上、危険な火薬庫も同然。今は閉鎖するべきではないかと……所属生徒はヴァルキューレ警察学校に編入というかたちで……」
「な……それは……しかし……」
「SRTがなくなってしまえば、行動権はなくなります。
私がなんとかします」
「だが、それは!」
不知火カヤは言い切った。
「私がなんとかします」
だんだんと、戻れない位置まで歩を進めていきます。
連邦生徒会内の非七神リン行政官派閥は、決して不知火カヤ防衛室長派閥ではありません。ただ利害がすこし一致しているだけです。
それを利用して、本来相反する意見を推し進めることにしました。
これから本来高級官僚ではない不知火カヤ防衛室長は、政治的に手を広げていきます。同僚も上司もいませんし、味方はFOXと業務的繋がりしかない部下くらいですが、敵と敵ではない輩ははっきりしていますね。
連邦生徒会長失踪事件についてはさっぱりですが。
やれることが払底していきます。
やりたくないことが残っていきます。
ここでやめるのも、アリかもしれませんが。
それで得をするのは誰でしょうか。
少なくとも損をするひとはいっぱいいますね。