その影を、不知火カヤとFOX小隊は這うようにして進む。
SRT特殊学園の閉鎖に向け、様々な手続きが進行する。
エデン条約調印に向けたトリニティとゲヘナの緊張は、各学区にも伝播し……
その隙をついて、いくつもの勢力が手を伸ばす。
治安はまだ、失踪事件前とは程遠い。
治安維持組織の動きが鈍い。
キヴォトスの違法勢力が動く隙はこれから消えていくだろう。
だがまだ、それは存在する。
そして鼻の利く一部勢力はおおよそ、過去に崩れた勢力の残骸を吸収している。
かつての恨みも。
暗闘が続く。
FOXはいくつもの勢力を鎮圧していく。
そしてカヤはそれを隠し、隠し、隠して……
その影に闇をみた。
探りあてたのだ。
あるセーフハウス、秘匿された書類のたまり場にて。
不知火カヤは、カイザーの内部資料をみていた。
かすかな違和感があった。
「元カイザーPMC理事の日程、移動時間はかなり余裕をもって設計されていますが、外部組織との接触と思わしきこの時間……浮いている。そして関係者の量も」
机上に資料を並べ、カヤは目を開く。
その表情は硬い。
「黒服……こいつは」
情報封鎖の形跡はないにもかかわらず、これだけの形跡の少なさ。
そしてカイザーのこれまでの動きと、接触と思わしきタイミングを顧みて。
不知火カヤは直感した。
(こいつだ。こいつは知っている。
なにか共通点がある、それを知っている!
何が共通しているのかはわからないが、間違いなく……
黒服は、
連邦生徒会外部の、連邦生徒会長の関係者だ)
振り返ってみる。
連邦生徒会長が失踪したという一件においての犯行目的は、おそらくキヴォトスや連邦生徒会を揺るがすためではない。それならばもっと手を出すタイミングがあった。
連邦生徒会長が直接管理していた謎の地域と、カイザーが調べていた用途不明の地域。
カイザーが手に入れた土地は、実体はともかく正当な契約のもと渡されている。
それに接触するのはこれまでの連邦生徒会、および統括室の行動原則を逸していた。
にもかかわらず、アビドス砂漠での一件で地域の謎がわかって以降、連邦生徒会は経緯に文句をつけて、その所持と運用を妨害して……
つまりいま状況を管理しているのは、
(統括室。七神リン主席行政官……!)
やつはクロか?
カヤは大きく息を吐いて、自らを落ちつけた。
冷静にならなければならない。
まだ、憶測だ。だがもし本当にそうだとしたら。
(……どうする?)
いまだ政治的地盤は緩く、連邦生徒会を差配するには少なくとも室長クラスの高官が複数名派閥に必要だが、関係性が薄い。体育室長や人材資源室長のような非リン行政官派閥をより取り込む必要がある。
それも、そうしてようやく、リン行政官を排除した際の内部混乱を制止できる程度だろう。
正当な理由、そして根拠が必要だ。たとえば失踪事件関与の証拠品のような……
(それだけでも足りない。連邦生徒会内部で本格的なクーデターが起きるとなると、ただでさえ湧き立っている違法組織が喝采をあげるのは目に見えています。
なにかしらの兵力を用意し、外部勢力を抑止するだけの勢力とつながり、そのうえでリン行政官を確保。
そして調べなければ……)
なんのためにこんなことをしでかしたのか。
リン行政官や黒服から聞き出すのだ。
連邦生徒会を、キヴォトスの安全保障を維持するために。
そしてふと気づく。
不知火カヤは、自らの手をみた。
握りしめられた拳。
「なにをしているんですかね、私は……」
手を緩めようとして、思わず指先が震えた。
爪のあとが残る掌を、カヤは見ていた。
ただの暴力装置が、連邦生徒会の高級官僚とつながり、政権転覆を企て……
外部組織と汚職を繰り返し、違法な無許可の行動作戦を繰り返し……
その末に得るものは、なんだ。
これからの、これまでの……
カヤは考える。
(取らなければならない責任を、誰もが無視していますが。
地位や暴力といった力には、それに基づく行いには、責任が伴うべきなのです。
そして誤った行いは罰せられるべきです、たとえ誰も気にしないとしても。
誰かが立ち上がらなければならない。
そして私も……
……?
待て)
「私がいなくなったあと……」
かつて用意されたセーフハウス、カヤはいまひとりだ。
そしてこれから、ここを去る。
ここからは、誰もいなくなる。
当初の想定より長期戦で根深い問題になってきました。
これからの混乱を収める担当者も手段もなく。
これまでの情報を引き継ぐだれかもいません。
FOXの信用性が危うくなってしまったのが痛い。
SRTが生きていればなんとかなったんですが。
防衛室長は兵站を維持するだけにとどまらず、様々な治安維持活動を援護します。
当然、特殊作戦群についても知識が必要です。
平時の業務をこなせても、有事に調整できなければ意味ありませんからね。
そういう面を踏まえてSRT特殊学園やヴァルキューレ警察学校から、いろいろわかってる人材を引き抜いて育てるべきだったのですが……
そのタイミングは逸しました。もともと高級官僚として教育されてないので、後継者教育の重要性をわかってなかったわけです。しかたないですね。
一代でのし上がった傑物によくある後継者捜さないと病にかかり、しかし頓挫した不知火カヤ防衛室長。精神的にも不安定になってきました。
不穏分子をどうにか捕まえて、やったことを吐き出させて……
そこで引責……したらだめか。
これはもう自分がどうにか維持して、その間に後継者を生み出すほかない。
というか自分が失敗していなくなったら、そこからどうなる?
そんなかんじです。
これからエデン条約調印式が開かれます。
力不足を実感するでしょう。