不知火カヤ(精神的超人)   作:ふぁっしょん

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 エデン条約調印式当日。
 ゲヘナ学園とトリニティ学園の首脳が一堂に会する数少ない機会。
 連邦生徒会全体としては、無干渉を貫くという姿勢を保っているが……
 キヴォトスの安全保障を担当する防衛室としては、無干渉などということは不可能だ。

 ゲヘナもトリニティも、一般生徒が緊張を緩めない。
 その雰囲気は伝播し、よくなりつつある治安は、湯だった鍋の様にふつふつと。
 確実に、不安を蓄えていた。


 不知火カヤは中継映像をみていなかった。
 通常の業務を中断し、かつて……
 ただの防衛室長だったときのように、コーヒーを味わっていた。
 高いコーヒーだ。高級官僚にふさわしい値段だ。

 正直、味がよくわかるとか、香りがどうとか、そういう理由でこれを始めたわけではない。
 ただ、必要だといわれたのだ。

(理解できないものを通じて、私たちは理解を得ることができるのか。
 幸せを守るためにも、幸せを……)

 あいつはいつも、わけのわからないことをぬかした。
 連邦生徒会長という女はいつも……


 強いノックの音。
「防衛室長!カヤ防衛室長!?」
「なんですか、いったい……」
「エデン条約が!調印式で……」

「巡航ミサイル?」


吊された女(7)

 防衛室職員はそのとき、地獄の釜の蓋が開く音を幻視していた。

 不知火カヤが笑みを浮かべていない。

 開いた目、無表情、そして鋭い声。

 

「SRTへ要請を出してください」

「し、しかしSRTは」

「ゲヘナとトリニティだけでは足りません。ヴァルキューレだけでも足りません」

 

 自ら座標を打ち込み、部隊を配置していくその姿は……

 どうみても、これまで振舞ってきた官僚としてのカヤではなかった。

 

(巡航ミサイル……高度、速度、破壊力、どれをとってもおかしい。

 なぜ防衛室が見つけられなかった?)

 

 カヤ防衛室長は情報機関を、連邦生徒会長失踪からずっと、酷使している。

 FOX小隊を動かすための事前調査は一切怠ったことがない。

 だがこれまで、これだけの兵器を製造し、運搬した形跡は、一切確認していなかった。

 

(あのタイプはどこかで見たことがある……かなり高度な技術。

 キヴォトス内部、連邦生徒会の監視下であれだけのものは、そもそももう作れないようにしたはず。維持するための設備もない。

 だがあった。なぜだ。なぜ、どうして、どうやって、どこから……

 キヴォトスに、我々の監視していない経済ブロックがあるとでも?)

 

 地図をみながら、指示を下す最中でも、カヤの思考は止まらない。

 

(輸送経路に無理がある。外部からの輸送ではなく、学園自治区内部に違いない。

 どこだ?どこが隠している……どこかが隠しているはずだ。

 この混乱をみるかぎり、トリニティ首脳が隠していたわけではないはず……

 ゲヘナでもない。どちらでもないが、近い。

 まさか……)

 

 脳裏にいくつかの考えがよぎった。

 

(少なくとも、まだ隠れることに成功している勢力がいる。

 そしてそれはキヴォトスや連邦生徒会を壊すためではない……

 どこか、統括室や学園自治区が隠していた地域で活動する理由……

 いや、そんなことはもうどうでもいい)

 

 この勢力は弄んでいる。

 

「ふざけるな」

 思わず言葉が漏れ、付近の生徒が怯えた。

 

(これまでの混乱も、あらゆる関係者の努力も、この新しいゴミにとってはおまけだ。

 連邦生徒会長(あいつ)を排除したこと以外はおまけなんだ。

 自分が好き勝手するだけの手足を伸ばすために、そのためだけにこんなことをして。

 そしてついでに巡航ミサイルを突っ込んだ。

 そんな余裕があった……)

 

 不知火カヤは大きく息を吐いて、気を落ちつける。

(だが、こちらに余裕はない)

 目を細めろ、笑みを保て、冷静に……

 だめだ、できない。

 

 努めて声を穏やかにして、カヤは命令を発した。

「ゲヘナとトリニティ自体の正面衝突を抑えることは不可能です。

 我々は一般市民の安全を守るため、生徒や反社会勢力による市街地の襲撃、略奪などを対処します。部隊はそれを前提に展開。自警団にも連絡を出し、援護要請を」

 

 防衛室長は、キヴォトスの安全保障を維持するために存在する。

 内部で混乱が起きているいまこそまさに、外部からの干渉を抑えなくてはならない。

 つまり同時に対処しなければならなかった。

 

「私はほかの行政委員会幹部に連絡を取ります。指揮系統は緊急時マニュアルに従って構築すること。こちらへの連絡も同様に」

 

 足早にオフィスを出ていく。

 FOX小隊とも連絡を取らなければならない。

 

 その背中を怯えた視線が少しだけ追って、離れた。

 カヤが部屋を出たとき、誰も彼女を見なかった。




すこし勘違いしているかもしれません。
連邦生徒会長を痕跡も残さず消した勢力と、本来用意できないはずの巡航ミサイルを痕跡もなく用意した勢力は、別々のものという可能性もありますよね。
ふたつが繋がっている可能性もありますが。
なんにせよ行政委員会が知らない勢力がいて、それとカイザー(黒服)および統括室は関係がありそうです。調べる必要があります。とはいえ……

時間の余裕がありません。
相手がどれだけ動けるのかすらわかっていない状況、このままだと後手に回ります。
エデン条約調印式を物理的に壊した勢力の最終目標とはなんなのか?
いろいろ頑張る防衛室長を、普段と違って怖いな~と、防衛室の職員は思っています。いつもニコニコしてる人が豹変してるのを見た少女の感想です。

ところで、先生の存在……どこ?
まあ先生はカヤというか防衛室のことを(Vol.2終了時点でシャーレ一周年なのに!)そもそも全然知りませんし、防衛室への挨拶すらしてないので当然なんですが。
不知火カヤ防衛室長というキヴォトスの安全保障を維持する存在は、Vol.3の第四章を知ることができるのでしょうか。

それ以前に一般市民や生徒を守れるのでしょうか。
もともと少なかったリソースですよ。大規模な組織犯罪が起きると困るというのは、前にもFOX小隊が言ってましたよね。
これは困りましたね、やることが多すぎる。
いや、やれることが少なすぎるのかも?
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