どこまでも不透明で、確実性のない状況。
なにが起きたのか。
起きているのか、終わっているのかさえわからない。
そんな中を、不知火カヤとFOX小隊は進んでゆく。
もはや戻ることはできない。
光は霧散し、拡散と減衰を繰り返す。
暗い世界を歩くと、肌がじっとりと濡れ。
空気中なのか水中なのか。
息をしているのか、こらえているのか。
進んでいるのか。あるいは……
浮かびながら、足を動かしているだけなのか。
わからないからということは、わかるための努力をやめる理由にはならない。
しかし。
わかることができるのか?
エデン条約調印式に巡航ミサイルが撃ち込まれ、謎の勢力がトリニティとゲヘナを進行し。
それはかつてのトリニティ分派のアリウスで、連邦捜査部シャーレが鎮圧に成功……
そういった断片的な情報だけが残り、なにもかもが有耶無耶に終わったように思った。
不知火カヤは焦っていた。その自覚があった。
防衛室はさまざまな事後処理に奔走しようとして、しかし止められた。
トリニティの中でも歴史と威厳のある遺跡のひとつであり、未知の移動ルートが残ると発覚した古聖堂を調べることは、明らかに行政委員会としての原則を逸脱しており……
そしてトリニティとゲヘナの各機関が躍起になって調査に励んでいる現状、干渉することは完全な越権行為だ。
犯行組織と思わしき団体の本拠地であるアリウス自治区への移動経路はすべて塞がれた。
会場に残る巡航ミサイルの断片すら回収することができない。
統括室からの情報共有は少ない。
それは余裕からだろうか。だが一体何の?
カヤは焦っているという自覚があったが、もはや止まっていることはできないとも思う。
これまでの手がかりは状況証拠ばかりで、いまだカイザーの内部資料によるものしか、明確な異常がない。
より深く探らなければ……
なんのためにエデン条約調印式に干渉したのか。
なんのためにアビドス砂漠や廃墟が確保されているのか。
なんのために
はっとして、カヤは目を開いた。
防衛室長のオフィス。
冷めたコーヒーを入れたカップが、机の上に残っている。
防衛室職員と同じ、質の悪いインスタントコーヒーが。
「私は……」
(眠っていた?)
たとえエデン条約調印式の一件を調査できないからといって、防衛室の仕事がなくなるわけではなかった。この事件を機会とみたさまざまな勢力、あるいは一般生徒が暴れまわり、それを止めるためヴァルキューレや自警団をはじめとした治安維持組織は奔走した。
その事後処理だけでも、かなりの量だ。
しかし問題は事前の準備段階にあった。
弾薬をはじめとした装備の枯渇。
汚職によってカイザーから引っ張ることに成功したが、それでも。
もともと足りなかったものが多少保った程度でしかない。
正当な理由で予算をもぎ取るには、ヴァルキューレは名に傷を負いすぎている。そして不知火カヤ防衛室長の政治的影響力は、まだ浅い。
まだなにもかもが足りない。
カヤは目を見開いて、時計を見た。
まだ時間があることに安心した。
今日の予定はまだいくつもある……
ただこなすだけではいけない。素早くこなせなければいけない理由があった。
予定にない時間を捻出し、FOXと接触するのだ。
(これ以上、カイザーに深入りする必要は……)
何度目かの自問をした。あまりにもリスクがある行為だ。
FOX小隊もまた、消耗しつつある。
先々月のサンクトゥムタワー内部への潜入作戦は、大きなダメージを伴った。
本来これだけの警備をかいくぐるには、一個小隊にオペレーターひとりでは全く足りない。より多数のサポートが必要だった。
そして、そのリターンは不相応に少ない。
(カイザーとつながることは成功しましたが、いまだ黒服につながる経路は見えてこない……
もとより尻尾切りを前提とした構造。より利権に絡まなければ、接触することはおろか手がかりを見つけることすら難しいでしょう。
そろそろカイザーPMC内部に接触できるはず、ですが……
このままではカイザーに動きを操られることになってしまいます。
いや、もうすでに……)
カヤは自答する。これ以外手はないのだと。
(汚職をより進め、奪取した統括室の書類を足掛かりにし、カイザーPMC内部に接触。アビドス砂漠の件について強引にでも関与する)
防衛室長の持つ情報網は対外的な面を大きく持つ。
それでもいまだなにも見つからない、謎の勢力……
急がなければならない。
(しかし、もし成功しても……
FOX小隊はもう限界が近い)
得た情報がなんだろうと、動く内容はもう決まった。
いまだ姿を見せない勢力がいる。それも戦術規模ではなく戦略規模の戦力を持ったものだ。
連邦生徒会一丸となって対応しなければいけない問題なのだ。
もし、リン行政官が敵だとしたら、本当にクーデターを起こさなければ……
いや敵でないとしても、もう動かなければならない。
この状況下で動かない上司は、危険だ。
「それでも」
不知火カヤは立ち上がる。
その背に一瞬疲労が映り込み、消えた。
自らのオフィスを出たとき、彼女はいつものような防衛室長だった。
BlueArchiveはVol.4 CH.1からVol.3 CH.4に続き、Vol.2 CH.2へと続いて、そして最終編が訪れます。原作時系列は複雑怪奇で困ります。
Vol.4 CH.1がVol.3 CH.4の前にあることを知った瞬間はもう……驚愕と絶望でした。
ここで一区切りです。なので……
次はVol.4 CH.1 Page.5(カヤ視点)/吊された女(6.5)をお見せしますね。重要なカヤの認識が入っているので、よろしければ見てください。長いですよ。
せっかくですから知らずともいい部分について語ります。
カヤ視点では、かなりわかりにくい核心であり。
原作という素材に、カヤ視点という別側面を重ねた際に生じる。
事実を理解するうえで重要な認識でもあります。
そしてこれまでの展開の根幹で、これからはあってもなくても関係ないことです。
物語の区切りとして、そんなおまけを挟みましょう。
あらかじめ言っておきますが、これからの内容は決してリン行政官や先生の行いを責めたり擁護したりしたものではありません。むしろ、そもそもこの展開は、単なる彼女らのミスで終わるような問題ではなかったといいたいのです。
原作の七神リン主席行政官の職務内容は悲惨です。一度知ったものは愕然とします。
なんでこんな業務の中過ごせるのかと。そういう業務に浸る毎日でした。
そんな彼女が派閥や政治に詳しいでしょうか?
カヤは勘違いしています。リンは政治的に聡いわけではない。
ただ業務上都合がいいから代行に収まっただけ、みんなと親しいだけです。
リン行政官の配慮、というより遠慮は小さなものでした。
彼女はあくまで行政官であり代行。シャーレに指図すると越権行為です。
だからいつもシャーレに指示を出さないよう自制しています。
そして先生は、よく知った親しいひとがわざわざ呼び出した人物でもあります。
孤立無援の重要人物に、キヴォトスに少しでも慣れる時間を与えたかった。
だから先輩として振舞わず、挨拶回りすらさせなかった。
それはつまり、原作序盤でリンは、先生をよく知らなかったわけです。
予想される防衛室側からの圧力を避けるため、リン行政官は少し手を回しました。
リン行政官にとってはほんの少しです。しかし彼女は自分では慕われてないと思っていますが、実のところかなり慕われています。傍からみて派閥を形成しているくらいには。
そんな彼女の少しと、カヤにとってのそれは、全く違います。
ぱっと見では同僚と仲がいいものの、実は交友関係が薄く政治的にも孤立しているカヤ防衛室長という存在。
それらを知るには、知っている人とのコミュニケーションが必要でした。
それもまた知らなかった。
原作でも言い方がいつも悪いリン行政官。ちょっと注意するつもりで口頭で言うだけに留めます。
連邦生徒会長からの指示を受け取り応える副官的立場だった、元職業軍人のカヤ防衛室長は、そんな私的なコミュニケーションには慣れていませんでした。
カヤはそれを注意ではなく、代表者による代表者への通告であり指示と受け取りました。
どちらかがなにかを知っていれば避けれたかもしれませんが。
それもまた知らなかった……
早期段階で先生とカヤの接触に成功していれば、この物語は成り立ちませんでした。
先生が謎の政治的勢力ではないとわかっていれば、カヤ防衛室長はリン行政官が外部勢力と結託して連邦生徒会長を排除したと疑わず済んだからです。
思い出してください、カヤがリン行政官を本格的に疑い出したのは、廃墟とアビドス砂漠、行政官とカイザーの共通点がわかったから。つまりそれまでに疑惑を解消できれば……
そんなことは知る由もないですね。
これまでは、カヤとFOXという互いをよく知った、しかし連邦生徒会とは縁遠い軍人の少女たちが、誰が敵かわからない状況で、しかしそれを探り当てようとしていました。
視点を変えると、よく知らない誰かを知ろうとする努力だったとも見えます。
だんだんと、悪い人の影響から善良な人を守る面が大きくなっていきましたが。
改めて言います。これは単なる判断ミスではないと。
これが核心です……原作そのまま変えてないとはいえ、カヤ視点ではわかる筋がなさすぎですね。しかし……
「理解できないものを通じて、私たちは理解を得ることができるのか」
かつて連邦生徒会長はリンとカヤに、この古則を伝えました。
そして知ることはなかった。
ところで、シャーレの先生は、エデン条約調印式に出席を許された数少ない組織の高官です。
それはつまり、トリニティとゲヘナ両者と外交できる数少ないひとりということ。
トリニティ高官暗殺事件などの諸問題に介入するにとどまらず、事後処理および調査を依頼できました。
安全保障や政治的立場を踏まえると、断りたかろうが引き受けるほかないです。カヤ以外が防衛室長だとしても。
もしカヤ(超人)が先生から高官暗殺事件の連絡を受けたら、防衛室がヴァルキューレに編入(と経歴隠蔽)手続き中のSRTを強引に運用してました。
Vol.4 CH.1時点で閉鎖が決まり学籍データが抹消されていくということは、Vol.3前半時点でSRTは完全に閉鎖されているわけではなく、犯罪の形跡や要請があればSRTは上司なしで動けます。
ただ誰も要請しないだけでした。もう違いますが。
はっきりいってSRTの精鋭はアリウスの一般戦力の練度を大きく上回っていますし、これまでの特殊犯罪捜査に基づくさまざまな調査は、部隊の移動痕跡を見つけられた可能性があります。
トリニティ高官の暗殺事件がSRTにばれた時点でアリウスはアドバンテージを失います。外部犯とばれたらもう終わりです。
もしSRTを動かさずとも、アリウスが運用した出所不明の兵器を調査するお手伝いをさせてもらうだけで、だいぶいろいろなことがわかったはずです。
不知火カヤ防衛室長が管理する特殊作戦などの記録、その中に、過去取引されていた無名の司祭の遺産(特に黒服が取引していたもの)は間違いなくありますからね。
芋づる式で統括室に情報開示請求してました。これどこが作ったやつ?それはね……
はい、語りすぎです自制します。
そんなことはもう後の祭りです。
不知火カヤ防衛室長の汚職はかなり深いところまで進んでいます。
本来の彼女が知れば問答無用といったところ。
なのに、どうして歩みを止めないのでしょうか?