モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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1章:悪夢の祭典・8話

 結局、クエストから帰還した後もずっとケインとJ.Oの口論は絶えなかった。ケインはあんな子豚ごときになんでキレまくるんだよ、と不服の様子。J.Oはもちろんモスを殺されたことにお前らのせいだとの主張。どっちもどっちで板挟みの俺としては、他人への干渉はなるべく……いや極力避けたかった俺としては、迷惑極まりなかった。もう我慢の限界だった俺は、ここで声を張り上げる。

 

「もう、いい加減にしろよな!! 2人とも!」

 

 半切れ状態で怒る俺。これで歯止めがきけばいいのだがとか思いつつ、

 

「あ、ああはい。って、へ?」

 

 と一瞬の出来事に対応しきれずにキョトンとした様子を浮かべるのみ。一方、J.Oはダンマリを決め込む。

 勢いに乗って俺は、ここで一気にまくし立てる。

 

「だいたい、どっちもどっちだと思うぜ。ケインはJ.Oに構わなければこんなことにならなくて済んだろうし、J.OもJ.Oでモス一匹に対してなんでそんなに執着するのか」

 

 そこでJ.Oは

 

「執着!? いや、これは愛だ。モスへの愛なのだ」

「愛、……ねえ~」

 

 どうにもこうにも理解に苦しむ。でも、ま、そう言う主張もありなのかと無理して納得させておく。ところがその意見を聞いてか、ケインは指摘する。

 

「だいたい、溺愛しすぎなんだよ。モスに」

「いいじゃないか。俺の勝手だろう」

「ったくもぉ」

 

 とうとう根負けしたケインは、それ以上何も言ってこなかった。正直、これで済むなら、その方がいいに決まっているのだ。とそこへ、頃合いを見計らってか、集合の声がかかった。どうやら、結果発表が始まるみたいだった。

 クエスト参加者全員がクエストクリアし終えたのだろうか。それにしては、なんだか早すぎるような。そんな疑問を残しつつも、俺たちは集合場所へと歩み寄っていく。

 2人の受付嬢のうち、一人が言う。

 

「は~い、みなさん集まりましたね。本当はクエスト参加者全員が帰還してから結果発表を行おうかと思っていたんですが、ちょっと、閉幕式が差し迫っているので、参加中のプレイヤーの皆さまにはすみませんが、やむを得ず前倒してやろうと思いま~す♪」

「閉幕式か……」

 

 もうこんな時間なのか。それなら仕方ないか。心の中でそう理解する。とはいえ、閉幕式の時間って何時だったけ? と思いウィンドウ画面を表示させた。

 

「ふ~ん」

 

 時間にして12時だった。今は時間にして11時20分。しょうがないか~。にしても、予定がぎりぎりすぎなんだよな。もう少し余裕ってもんがないのだろうか。と、クエスト参加中で結果発表に出られそうにないプレイヤーのことを憐れんでみたりする。

 

「ま、ともかく行ってみようぜ」

「それもそうだな」

 

 一方、J.Oは、よく聞こえなかったものの、なにやらぶつくさ文句を吐き捨てていた。

多分だとは思うが、きっと俺たちの性でどうたらこうたらとかいう文句何だと思う。あえて聞き流すこととした。

 とまあ、集合場所まで歩み寄ってきた俺たちではあるが、何ともまばらな人数ではあった。

 無理もない。結果発表するタイミングが早すぎるからだ。閉幕式までの時間がないとは言え、ね。あとでクレームの一つや二つ。来るかもしれないな。そんな風に思いつつ、受付嬢の話に耳を傾ける。

 

「ではでは、予定を早めて結果発表を始めたいと思いまーす」

 

 手をさっと宙にかざして、特大のホログラム――一覧表を表示させた。ぱっと見て1~50位までの順位が表示されてある。6位以下を省略しつつ以下をまとめるとこんな感じになった。

 

1位 セツナ&レイナ

2位 グーグ's

3位 ユウト&ケイン

4位 J.O

5位 デスぺラード

      :

      :

 

 もう猟団名を作っているところがちらほら見受けられる。早いとこは早いなあ……なんて感心していると、見知った名前を見つけた。

 

「あいつも出ていたのか……」

 

 1位に輝くはセツナ&レイナのチーム。レイナの方は分からないが、セツナの方はケインとの再会前再会したばかりだということもあり、彼女もまた参加していたんだなあと思った。てか、1位ということは、俺よりも実力あるじゃん……なんて、感心したりもする。

 

「あ~あ、3位かよ。ちぇえ」

「無理もないよな。お前が寄り道しようなんて言わなければ、こんな結果にはならんかったし」

 

 それには文句のくの字もでずに、素直に返す。

 

「た、確かに……」

「はあ~」

 

 肩を落とす俺に、ケインは声をかける。

 

「どうかしたか?」

「いや、なんていうか。お前って、適当だよなあ……」

 

 そう言われてケインは、とぼけたように答える。

 

「そうか?」

「そうかじゃないよ。ったく……」

 

 ほんと能天気だよな。とか言いそうになったが、それ以上は何も返さなかった。

 

「ま、いいさ。それよりも……」

 

 そこで背筋がざわざわするのを感じてやまなかった。後ろで嫌なオーラを感じて目船だけ振り返ってみる。

 すると、あのJ.Oがどす黒いオーラを立ち昇らせて、苛立っていた。その様はまるで、狂竜症にかかったモンスターのごとく、ただならぬ気配を感じてやまなかったのであった。

 ケインに耳打ちするかのようにささやく。

 

「分かるよな……」

 

 彼もまた感じたのだろうか。

 

「あ、ああ……」

「とにかくこの場を静かに去ろうぜ」

 

 正直、このあとの怒りぶちかましを食らうのは御免被りたかったので、そこで互いに以心伝心をした後、そーと静かに後ずさりしようとした。

 だが、そこを――

 

「き・さ・ま・ら――!!」

「やべえぇ」

 

 とケイン。俺も逃げる態勢にすかさず入る。そして、

 

「てめぇらのせいで――!!」

 

 皆まで聞かず、

 

「ひぇ――!!!」

 

 と俺たちは悲鳴を上げて、全速力でぶちギレ全開のJ.Oからとんずらこいた。

 

 

 

 

 猛然と追いかけてきたJ.Oをなんとか振り切った俺たちであったが、時間的に閉幕式の時間となってしまった。そう、俺が出たかったBT結果発表。それをすっぽかしてしまったのである。まったく、とんでもない災難ではあったし、最悪極まりなかったわけである。元はと言えば、こいつ――ケインのせいでだ。というわけで、息を荒げつつも 苛立ちを露わに彼へと詰め寄る。

 

「どう責任とってくれるんだよ。ケイン!」

「だから悪かったって」

 

 そう言いながらぺこぺこ頭を下げるばかり。話にもならない状態。

 

「ったく、悪かったじゃねえよ。勲章か何か貰い損ねたじゃねえか」

 

 はあ、とため息をこぼす。ほんとのこと言って、すげぇ~ショックだった。でも、とりあえず、これ以上怒っても仕方ないので、ここは切り替えることにする。

 

「とにかく。もういいや。それに閉幕式。もうすぐだろう。ついでだからそれに付き合え」

 

 そこは文句を言わずとも、ケインは素直に返答する。

 

「はいはい……と言いたいところだけどよ、ユウト」

 

 と閉幕式の会場へと踵を返して向かう俺を呼びとめる。

 

「すまないんだけど、どうやらトイレタイムみたいだ」

「トイレ? またかい」

 

 ウィンドウ画面を表示させたまま

 

(特に体調パラメーターの方をみているのだろう)

 

 股間に両手を宛がい子供らしくも行動で示す。

 

「そうそう、トイレ、だ。パラメーター見る限り、まだまだ我慢できるとは思うけど、開幕式、長くなると思うから、先に済まそうと思ってな」

 

 興味なさげにわざとらしく

 

「ふ~ん」

 

 と鼻で返事をしてみる。

 

「仕方ねえだろう。悪かったのは俺だけどよ。こればかりは」

 

 鼻で息を吐き

 

「ったく、しょうがねえな。行って来いよ」

「ほんと、すまねえ」

 

 そこはすかさず

 

「その代わりだ! 10分だ。10分以内に戻ってこいよ。逃げようたってそうはいかねえからな」

「ああ、わかったよ」

「じゃ、行って来い」

「ああ」

 

 そう言うと、先までのウィンドウ画面を手早く消した。一方、俺は向き直って、やれやれ、そう頭に手を添え呆れかえる。

 ほんと、しょうもねえ奴だなあ。なーんて心の中でボヤいてしまう。――とそこで、ケインから思わぬ一言が飛び出るのだった。

 

「なあユウト。ログアウトってどうやるんだっけ?」

 

 ケインの素っ頓狂な言葉に、俺は一瞬にして拍子抜けて

 

「はっ?」

 

 とだけ答え、振り返った。

 

「なんの冗談?」

 

 するとケインは

 

「えっ!? 冗談じゃないよ。ほんと、どこにもないんだよ。確かこのへんだったと思うんだけど」

 

そう言いながら、画面を反転させて、こちらにその画面を見せてきた。ど~れ、と吟味するかのようにみつめていく。

 そうしたなか、いくつかの項目が整然と並んであるが、一番下の段にあるはずのログアウトの項目。確かになかったのを確認する。見る限り、その画面はメインメニューだった。俺はその画面を見るや、なんかのバグだろうと、半信半疑になり、さっと手を振ってこちらもウィンドウ画面を表示。ささっと素早く操作し、同じくメイン画面を開いた。

 ゆっくりと目線を下におらして行き――するとケインと同じく、当然あるはずのログアウトボタン。そこにはなにも表示されていなかった。

 

「ん、んんんんー!?」

 

 これはどういうことだ。と困惑する俺をよそに

 

「な、ないだろう。ったく、トイレ行きたいつうのに、ここにきてバグかよ。冗談にしてはきついよなあ……」

 

と文句を垂れ流すケイン。俺はこれはバグか何かなのかと思い、色々と操作してみる。あれこれコマンドをいじくる中、他は正常に選択できていることから、どうもバグじゃないっぽいみたいだった。この事態に次第に焦ってきた俺であったが、ここは今一つ、焦る気持ちを抑えてこう切り返してみる。

 

「どの道だ。このあと閉幕式なんだし。きっとその際に説明あると思うよ。俺もなるってことは、きっとケインに限った話じゃないと思うしさ」

 

 ところがケインは、それに反論する。

 

「それじゃあ困るよ。こっちはトイレに行きたいってのに」

「でもよ、ログアウトできる方法、他にないんだぜ。たしか」

「だったら……」

 

と意固地になると、頭を持ち上げようと踏ん張る。どうやら無理強いでも、ヴァイステのヘルメットを脱ごうと懸命になっているみたいだった。俺は手のひららを振る。

 

「無理無理」

「じゃあ、どうせっていうんだよ。このままじゃ」

「まずは落ち着けって。きっと説明あるはずだよ。このあとに」

「うーんもー。わかった。わかりましたよ」

 

 ケインは渋々頷くように答えた。

 

「とりあえずだ。行ってみようぜ、閉幕式に」

「はあ~、しょうがねえな」

 

 肩を落とし、腑に落ちなさそうな表情を浮かべてケインはそう答えた。そして、ゴーン、ゴーン、ゴーン、と鐘の鳴る音がどこからともかくそよ風に乗って流れてくる。どうやら閉幕式開催を知らせる鐘のよう。俺たちはさっそく、閉幕式の会場へと向かった。

 

 

 

 

 ログアウトができないというバグ? に気付いたのは、何も俺たちだけではなかった。他のプレイヤーたちもすでに気付いていたのだ。もみくちゃになるほどの大勢のプレイヤーが怒りを露わに詰め寄る先は、ノブ公やセツナら開催者達の方。見るからにセツナ達もこうした事態は予想していなかったらしく、平和な閉幕式を迎える話はなくなり、

 

「これはどういうことだ」

 

 とか

 

「おい!  出してくれよ」

 

 とか、

 

「バグなんだろ? これ。バグって言えよ!」

 

 とか無理難題を突き付ける一方的な地獄絵図と化していた。

 とどのつまり、予想外の事態に対応できてない上に、対処のしようがないクレームという名の怒りが殺到してきているという事態になっていたのである。

可哀想というか、仕方ないというか。会社の責任とは言え、困惑するたった二人のスタッフでこの人数の相手は、さすがにきついものがあった。

 

「うわ~」

「こりゃあ、ひでぇな~」

 

 2人の声がほぼ同時に重なりあう。はっきり言って、訳が分からない状況とでも言うべきか、さすがに無理あるよなあ。心の中で憐れむ。

 そうしたなか、2人のうちの一人、多分、タキシードにサングラス姿から見るに開発ディレクター・篠崎直哉だと思われる人物の声がクレーマーの嵐の中から聞こえてきた。

 

「ですから、ただいま、開発部の方で確認しておりますので、しばらくお待ちください」

 

 しかしクレーマーは聞く耳を持たず、うるせぇー! だの、社長はよ出せ!! などと喚き散らすありさまである。とそんな中、クレーマーの嵐に耐えかねたセツナが意識を失いパタリと倒れた。その様子を見るや篠崎は、慌てて彼女の体を抱き寄せる。

 

「だ、大丈夫かセツナ!!」

 

 しかしその掛け声すら、聞こえないくらいに嵐は容赦なく殺到してくる。彼らの声を無視して、背を向けて待合室へと歩んでいく篠崎。ところがそれを見たクレーマーが、彼を取り押さえるかのように殺到。場はさらに大混乱を極めた。――とそこへ、上空からホログラムが投影され、やがて形を成していき――

 

「ソコノ2人、イヤ、社員全体ニハ何モ責任ハアリマセンヨ」

 

 どこか聞き覚えの有る声がしたかと思うと、不定形だったホログラムはやがて顔の形を成して行った。そう、あのGMのCOMが現れたのである。

 俺やケインも含めて、皆一様にそのCOMの方へと注目する。神として降臨したかのような登場の仕方をしてきたCOMは、群衆を一瞥する。対して、群衆は文句を吐き捨てるかのごとく、COMへと八つ当たりしだす。

 

「社員は関係ないってどういうことだよ!!」

「どう考えたって、社員全体の責任じゃないか」

「COMがそう言ってくるとは思わなかったぜ」

 

 それぞれに喚き散らす中、COMは静かに事の顛末をこう告げてきた。

 

「先ホドカラ御存ジノ通リ、今現在、ログアウトハ不可能ノ状況とナッテイル。プレイヤー諸君ハコレヲバグダト思イ、ソコノ社員二人二クレームヲ叩キツケテイルヨウニ見受ケラレル。ガ、コレハ、申訳アリマセンガバグデハアリマセン。モウ一度告ゲマス。コレハバグデモ何デモアリマセン」

 

 この言葉に動揺するプレイヤーたち。さすがに俺らも、聞き捨てならない通達だった。バグではない!? 何を言っているんだこのGMはと。そんな疑問が心の中を満たして行く。

 

「バグじゃないってどういうことなんだよ」

「じゃあ、バグじゃなく社員のせいでもないと言うんだったら、これはなんの冗談だよ」

「そうだそうだ。冗談にしてはふざけすぎだぞ」

「人工知能のくせに生意気なことしやがって」

 

 それらには、正直賛同した。確かに。COMは所詮人工知能だ。こんな冗談混じりなことを言うわけがない。それとも、これは何かの演出なのだろうか。そんな考えが頭をよぎった。しかし、COMは冷徹にもそれを拒否する。

 

「冗談? イイエ。冗談デハアリマセン。コレカラ話スコトハ、コレカラ君タチガ歩ムコトニナルデアロウコノ世界ノチュートリアルデス。ヨウコソ、真ノモンスターハンターアルカディア・オンラインノ世界へ」

 

 両手を広げ、期待してもいない歓迎を述べる。

 

「何を言っているんだ。あいつ」

 

 ケインが得体の知れない何かを見つめるような目つきでCOMを眺めてぽつりと言う。一方、俺は半信半疑で思う。これは現実なのだろうか。それとも何かの夢なのだろうか、と。頭にあるのは、COMはしょせん人工知能。何かのバグなんだよなあといった楽観的な考えであったし、その一方ではこれは何かの夢なんだよなあとさえ思うようになっていた。

 しかし、COMはしれっとして続けていく。

 

「早速、チュートリアルヲ始メル前二私ドモカラ、開幕時二申シ上ゲタ通リプレゼンントヲ差シ上ゲマス。メインメニューカラ確認シテミテクダサイ」

 

 そう言われて、俺は表示させたメイン画面から新規コンテンツがあることを確認する。何だろうこれはと思いながら、何気なくクリックする。すると、1枚の配布チケットが表示されるではないか。

 

「永住……無料券?」

 

 なんだこれ? 疑念を持ってその宙に浮いたアイテムを眺める。恐らく皆も一様に、そう思ったに違いない。そうしたなか、タイミングを合わせたかのように、COMは続けてこう言う。

 

「君達ガ今確認シタアイテムハ、コノ世界ニオケル無料ノ永住権。ツマリ、スベテノコンテンツガ無料デデキルト言ウ素晴シイプレゼントデス」

 

 そう言われて、このログアウトできない状況下に置いて、そんなふざけた解説はプレイヤーには通用せず、怒り心頭でこう言い返す。

 

「ふざけんな!! こんな権利いらねえよ。とにかくはよだせ――!!」

 

 とブチ切れるプレイヤーが続出する。しかしそうしたなか、もっともらしい意見が飛び出てきた。

 

「そうだ。外部から助けてもらえばいいじゃん」

 

 それを聞いたプレイヤーは、一様にそうだそうだとはやし立てる。確かに。この状況下に置いて、内部からの脱出ができなく とも、外部から助け出すことは可能だ。いくらなんでもこれは異常事態。もうじき運営側から出してくれるに違いない。そう希望を抱いた。――だが、COMはそれらをあっさりと否定する。

 

「ソレハ不可能デス。コレラノ映像ヲ見レバ分カル通リ――」

 

 とプレイヤー一人ひとりの周囲に外部映像を流した画面が表示される。映像には、救急車に搬送される者達が続出しており、しかも患者一人一人には、あのコネオンが装着してあるではないか。さらに他の映像も見ると、無理にコネオンを引き剥がそうとしたのか、はがした瞬間、生命維持装置のモニターが無慈悲にもピーと流れ、命を落とした者までいる始末である。

 これは現実なのだろうか。それとも夢なのだろうか。俺は不安と恐怖に駆られ周囲のプレイヤーを一様した。すると、時折、プレイヤーのアバターが消えて行っているではないか。

 その様を見るや、否応なく恐怖心が充満していく。思わず腰を抜かしてしまうほどに。

 

「こ、これって……」

「う、うそでしょ」

 

 プレイヤーが動揺の表情を浮かべる中、COMは続けて言う。

 

「今流シテイル映像ハ、残念ナコトニMADデハアリマセン。ヨウスルニ生中継トイッタトコロデス」

 

 な、生中継? だとお。その言葉に俺は次第に焦燥感に駆られていく。実際に時折プレイヤーが消えていくのを目撃しているのだ。その言葉に裏付けられるようにして。しかし俺は、焦りを抑えて耳を傾け続ける。

 

「シカシ、希望ハアリマス」

 

 そう述べると、各人のウィンドウ画面にて、〝チュートリアル中〞と表示され、分かりやすく解説やら図説やらが入ってきた。

 図説を交えてCOMは、

 

HR(ハンターランク)1000達成時二発生スルクエスト〝理想郷を統べる者〞ヲクリアスレバ、コノ世界カラ解放サレルデショウ」

「1,1000って……」

「そ、そんなむちゃくちゃな」

「そんなの辿りつけるわけねぇだろう」

 

 絶望的に人それぞれ口を突く。いくらなんでもHR1000は無理がある。HR1つ上げるだけでも、いくつかクエストをこなさないといけないっていうのに。これはあまりにもひどい仕打ちだった。〝希望はあります〞という言葉を聞いて、一瞬だが本当に希望が持てたというのに、この解説のせいで半ば頓挫してしまう。

 しかし俺は意を決し拳を握りしめ、続けて耳を傾ける。

 

「確カニ。1000トイウランクハソウソウ辿り付ケレル場所デハアリマセン。ケレド、幾多ノキークエストヲコナシテ行ケバ、ソレニ伴ッテHRヲ飛ビ越シテ行ケルノモ事実デス」

 

 そこでようやく希望が見えてきたと言えるだろう。

 

 〝ランク越え〞

 

 いくつかのキークエストをこなせば、HR1だったのが、いきなりHR3とか4になれるというシステムのことだ。予備知識として雑誌とかで読んだことあるが、このシステムが採用されるのならありがたい。

 本当のところ、希望は持てたような気がした。――ところがここで、COMはとある条件を、無視できない条件をつけてきた。

 

「タダシ、クリアスルニアタッテ一ツダケ条件ガアリマス。ソレハ一回ノキャンプ送リガゲームオーバートイウコト。ヨウスルニ、ゲームオーバー二ナッタ瞬間、君タチノ現実世界ニオケル肉体ハ、ゲームオーバートイウ名ノ死ノ電気信号ヲ脳二送り、事実上、脳ノ生命活動ヲ人為的二、カツ、不可逆的二停止サセルコトニナルデショウ」

 

 その言葉に裏打ちするかのように、深い絶望感で心の中が満たされていく。それは、まるでわずかに手にした希望を、救いを絶望という名のどす黒い霧で覆い尽くすかのように。

 

「一回のキャンプ送りでゲームオーバーって……」

 

 隣でケインがぽつりとつぶやく。モンハンの世界に置いて、上位に行けばいくほど一撃が重くなっていき、やがては一撃で即キャンプ送りという場合がほとんど。そんななか、一回のキャンプ送りが即ゲームオーバー=現実世界における死というのは、あまりにも無茶苦茶な条件であった。

 そんな中で出たケインの言葉。俺にはその意味の重さが十分に伝わってくる。絶望が満たす雰囲気のなかにおいて、プレイヤーからの声が上がる。

 

「一体何が目的なんだ」

「そうだそうだ。目的を言え!! 目的を」

 

 それに対してCOMはこう答える。

 

「目的ハ2ツアルガ、一ツ目ハ本来2週間ホドデサービス終了スル予定ダッタ本作。ソレヲ守ルコト二アル。2ツ目ハ、諸君ラガ幾多ノ困難ガ待チ構エテイルデアロウクエストヲ進メテイク上デ、私ノ2つ目ノ――真ノ目的モ理解スルデショウ」

 

 2週間でサービス終了? このMHA・Oが? 初耳な言葉にそうだったのかとやや残念な気持ちを抱くものの、遠まわし的な言葉にやや不満を抱く。

 その不満を表すかのように、プレイヤーたちが口々に言う。

 

「おいっ、もったいぶってないで2つ目も言えよ」

「みずくさいぞ」

 

 しかしCOMは、ここで一区切りつけるのか、本来の目的もはっきりとしないまま

 

「以上ヲモチマシテ、今作ニオケルクリア条件トゲームオーバー二ナッタ際ノ処分条件ハ伝エテオキマシタ。アトハプレイヤーノ諸君ノ健闘ヲ祈リマス。デハ、コレニテ、チュートリアルヲ終ワラセテイタダキマス。デハ」

 

 そう言ったのを最後に、COMのホログラムはボロボロと崩れ去り、全てが塵と化してしまった。一方的に告げられたデスゲームのチュートリアル。そしてその遠まわし的な目的。信じがたい現実に皆が呆然と立ち尽くす。――が数秒の間の後、誰かが叫んだのをきっかけとして、場は一気に騒然となった。

 それに反響して、ケインも表情を青ざめさせる。

 

「なあ、これって冗談だよな。な、ユウト」

「わ、わからない」

 

 こんなのは初めてだ。こんなチュートリアルなんて。自分自身も疑っているこの現状に、俺はそう言った言葉しかでなかった。

 

「わ、分からないって……」

「ともかく。一端はこの場を離れよう」

 

 そう言って、俺はケインの手を取った。

 

「おい、ユウト。どこへ行くっていうんだよ」

 

 と戸惑うケイン。ひっぱるようにして走りながら

 

「俺んちだ。ここにいては、埒が明かないからな」

 

 そう答える。

 正直当てがあるわけではなかったが、とにかく騒然となったこの場にいては考えがまとまらない。そう思っての判断であり、その判断に基づいて出した結論が、まずは自分のマイハウスでもあった。

 人込みをかき分けかき分け、そして、桟橋を渡りドンドルマへ。やっとのことマイハウスへと辿り着く。

 

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