モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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4章:秘めたる思い・8話

 兎にも角にも、ログハウスの残金、支払うしかなかった。その為に一回のクエストで済まして、得た報酬で支払うことになった。

 それで今、その身の丈に合い、かつ、報酬も上手いクエストを受注した訳であるが――。

 

 クエスト名:蒼の双爪

 

 まさか緊急クエストを選ぶなんて、思っても見なかった。確かに一回の報奨金は、ログハウス支払いを済ましてもお釣りがでる。そのくらい上手い取り分に他ならないのだが。

 

 なんと言うか〜

 

「なんで、こうなるのよ!」

 

 思わず語気を荒げてしまった。と言うのも、セツナ、ノブ公、レイナらお尋ね者組は、彼らの前方、約50mくらい離れた位置にて、他の一団が先陣切っていたのである。

 つまり、どう言うことかと言うと、自分達が受けたクエストと前列の団体様が受けたクエスト、被ってしまったわけである。

 ようするに

 

 〝最低最悪″

 

 この表現を使わざるを得なかった。けど、それは敢えて言わない。だから――

 

「あたし、帰る!」

 

 意地を張って踵を返した。

 

「ちょ、セツナ⁉︎」

「いくらなんでも無理よ。無理無理無理、絶対、無理だから」

「そ、そんな。んなこと言ったって。――あっ、そうだ。敢えて別ルートを使うとかはどうだ。それなら、向こうにも気付かれずに――」

「は? 何言ってんの、パパ。分からない? 嫌だって言っているのよ。赤の他人が受注したクエストを選ぶなんてことが」

「だ、だけど。他に打つ手が――」

「言い訳なんか訊きたくない! もう、付き合ってられないわよ。一人でリタイアして、そのままドンドルマのマイハウスに戻るから‼︎」

「あ、ちょ――」

 

 もはや問答無用だった。パパの手から離れ、一人、元来た道を引き返そうとした。

 ――とそこで

 

 ガザガサガサ……

 

 え? な、なに⁉︎

 

 不気味な葉音を前に、思わず立ち止まってしまった。途端、今まで感じたことのないような緊迫感が、周囲を取り巻いていくような錯覚を覚える。

 

「ぱ、パパ……」

 

 数メートル離れた位置にいるノブ公とレイナ。特にノブ公の方へと助け舟を求めた。

 一方、レイナやノブ公も何かを感じ得たのだろう。二人の表情が引き締まっていた。

 次第に近づいてくる気配。そして――

 

 ピタリッ

 

 音が止んだ。――と次の瞬間‼︎

 

 キャオー

 

「きゃー!」

 

 茂みから、セツナ目掛けて飛び出して来るはランポス。堪らず尻餅をついてしまう。

 追い被さるランポスを前にして、柄に収めていた双剣を抜刀。咄嗟に噛み付いて来るランポスの歯牙を前に刃を交差して、身を守っていた。

 

「セツナー!」

 

 ノブ公の叫び。だが、もう1匹いたのだろう。

 

「くぅ」

 

 すぐには助けられそうになかった。ガシャガシャと擦れるような金属音。ガンランスが構えられたことが、容易に想像できた。

 

「待ってろ! 今すぐコイツを片付けて助けに行くから」

「私も加勢致しますわ」

「助かるレイナさん」

 

 一方、セツナは連続で喰らい付くランポスに抵抗するだけで手一杯。だが、脳裏に声が過った。

 

 どうせ助かっても、また、あの地獄を味わうことになるのよ。それでもいいの?

 

 と。

 

「私は……」

 

 瞬間、生きることへの躊躇をしてしまったのだろう。刃を交えていた両腕の力が抜けてしまった。

 ――が、目の前に大振りで喰らい付くランポスを前にして、ハッとなり正気に。

 

 な、なにを迷っているのあたし。そんなことを考えている暇なんか――

 

 ガシッ

 

 あっ

 

 ぎらついた歯牙が、交差した刃を纏めて食らい付いたかと思いきや、力任せにぶんどり、遠くへと飛ばしてしまった。

 まさに一瞬の隙から生じた。それも己が抱える問題からなる気の緩みという名の油断が招いた、油断であった。

 

「ま、まずい――」

 

 覆い被さった状態で身動き取れず。双剣を失い無防備になったセツナは、両手で庇い決死の覚悟を。問答無用のランポスが再び食らいつこうとした。

 ――と、そこへ

 

 ブスリッ!

 

 ギャッ!

 

 謎の一撃を受けたのだろうか。今まさに喰らい付こうとしたランポスは、その一撃を前にして仰け反ったのである。

 だが、その謎の一撃はこれでは終わらない。

 

 ヒューンー……

 

 ドスッ! ドスドス! ドスッ‼︎

 

 グギャッ!

 

 堪らずランポスは、その謎の一撃の猛攻を前に、断末魔を上げで吹き飛んだ。

 

「な、何が?」

 

 混乱した頭でランポスの方を見た。すると、矢が数本、ランポスの亡骸に突き刺さっているではないか。

 スクっと起き上がり呆然と見つめる中、茂みの奥から女性の声が聞こえて来た。

 

「どうやら間に合ったネ」

 

 え?

 

 ガザガザガザ……、と葉音を立てながら姿を現すは、昨日、酒場の界隈に混ざっていた自分と同じフードコードで素性を隠した少女だった。

 ぽか〜んとするセツナは頭が回らない。当然だ、正体が分からないからだ。

 ――と続けて奥からもう一人の声が。こちらは少年の声だった。

 

「ま、待ってよー、シャオネー!」

 

 そして、勢いよく飛び出してきた。勿論、こちらもフードコートで素性を隠しており姿が分からないが。だが、こちらの方は、先に現れたフードの少女とは違い、セツナを見るや、警戒して距離を離した。

 

「あ、あんた達は?」

 

 ――とここで砲撃とノブ公とレイナが対峙していたランポスの断末魔が聞こえて。遺体を確認するまでもなく、セツナの方へ駆け寄って来た。

 第一声、放ったのはノブ公。見ず知らずの相手と自分達がお尋ね者の立場が故に、警戒心剥き出しに話す。

 

「お前ら、娘に何をしたんだ! 場合によっては、ただじゃ置かないぞ」

 

 まさにその口調たるや、敵を睨みつけるかのような鋭さがあった。慌ててセツナは、割って入るように弁明した。

 

「ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ、パパ! この人たちは」

「この人達?」

「え? あ、え〜と……」

 

 思わず咄嗟に付いた一言。それだけに、後に続く言葉が続かなかった。

 

「ともかく、あんたらは何者なんだ? 娘に何をしたと言うんだ?」

 

 血眼になりそうに問い詰めにかかる。ところが、状況を冷静に分析していたレイナは、彼を制止した。

 

「ちょっと待ってください、ノブ公さん」

「え?」

「あれを見て下さい。ランポスの遺体ですよ〜」

「あっ? ……あっ! 確かに」

 

 セツナと謎のフード少女の間、そこにランポス1匹の遺体が横たわっているのに、ようやく気が付いた。

 

「てことは――」

 

 そこで言葉を遮り

 

「シャオネー、待ってよー!」

 

 バサッ

 

 もう一人、こちらもフードで素性を隠した小柄な狩人が姿を現す。二人を見比べるに、少女の方はボウガン。もう一人は弓。お互い背負っていた。

 このことにより、先程のランポスを討伐したのは、この謎のフードの狩人の方だと簡単に推測ができた。

 ところが、セツナ、レイナ、そして、ノブ公ら3人に目を通すや、何を思ったのか後退り。親しくシャオネーと呼ばれたフードの少女の影に身を潜めた。

 

「こ、こら! 先に人助けした相手に、わざわざ身を隠さなくてもいいじゃない」

「だって……」

 

 お互い素性が分からない。疑心暗鬼が渦巻く。そんな中、ノブ公が前に出た。

 

「サンキューな、二人とも」

「いや、私は別に……。この子が勝手にでしゃばっただけですから」

 

 返す言葉もないのか。もう一人の子は、後ろめたそうになりを潜めた。

 

「シャオネー、もう行こう? 先頭チームに遅れを取っちゃうよ」

 

 クイクイッと袖を引っ張り合図を送る。

 

「あ、そうね。と言うわけで、私たちは先に行くネ。ちなみにあんた達は、どうするアル?」

「あ、あたしは……」

 

 とても応える気がなかった。余計に離して、少しでもうちらの素性がバレる。なんてことになったらと考えたら、怖くて仕方なかったからだ。

 一方、ノブ公も返事しづらい点では一緒なのだろう。だんまりしたまま。

 

「??? ……ま、よく分からないけど、何か訳がありそうとミタネ」

 

 そこへレイナが。セツナ、ノブ公の代弁者として答えてくれた。

 

「お2人には感謝しています。ですが、私たちのことは気にしないでくださいね」

「そう、分かったアル。……なら、小狼、行くネ」

「うん」

 

 こうして、謎の2人はレイナに言われるがまま、先へ行ってしまった。

 ガザガザガザ……、と鳴り響く葉音が遠くへ。時間と共に薄らいでいく。

 

「助かったよ、レイナ」

「こちらからも礼を言う」

 

 2人からの礼。彼女は、ふふふ、と軽く笑みを溢した。

 

「別に私は、今の立場を踏まえて断ったまでなので」

「でも、それでもだよ。あたしやパパにしてみたら、大助かりだから」

「そうそう、こちらからも礼を言うよ。ありがとう、レイナさん」

「そんな畏まらなくても」

 

 流石のレイナも、これには少し照れ顔になってしまった。

 

「と、ともかく、先を急ぎましょうか? え〜と、別ルートを辿るんでしたっけ?」

「リタイアするって話、あたしはね」

「セツナ……」

 

 直接は表情を見ていなかったが、ノブ公の口調からはセツナの心身を案じてか、どこか哀れみを感じずにはいられなかった。

 だけど、先程の一件で、すっかり気を紛らわしてしまったのか。いつの間にか、考えは前向きになっていた。

 

「でも〜、もう、いいよ。引くのも地獄、そして、なにも変われない自分に打ちのめされる人生しか待ってないんだったら――」

 

 言いながらノブ公の前へと進み出て、そして、振り返って

 

「進むしかないじゃない。ただし、別ルートだけどね」

「セツナ……」

 

 レイナも、その表情には笑みが見え隠れしていた。

 

 別ルート。とは言え、途中までは同じルートを辿ることになったのは言うに及ばない。

 だから、2叉路に差し掛かった際、先方の団体様が向かった先とは別の道。そのルートを辿る。それだけのことであった。

 余っていた唯一の生態マップを見るに、このルートを辿って行くだけなら、出くわす心配はまずないと言えるだろう。

 しかし、問題は別のところにあった。

 

 ――果たして見つけられるのだろうか?――

 

 見つけると言うのは、ターゲットのこと。つまり、討伐対象であるドスランポスのことを指していた。

 

「やっぱり、先方の団体様と同じ道を辿るべきだったかな〜」

 

 あまりにも手掛かりらしい痕跡が見つからないだけに、ぼんやりとレイナは呟いた。

 けれど、それはキッパリと否定してみせた。

 

「何言ってんのよ、レイナ。あたし達が選んだ道は間違いな訳ないじゃない」

「そうだけども〜。でも、今に至るまで、モンスターの手掛かり、何一つ得られていないのも事実なのよ」

「そ、それは……」

「俺もそう思う。レイナさんの言う通り、確かに今に至るまで痕跡の一つ、二つ、得られていないのは事実だからな」

「じゃぁ何、2人とも。あたしの選んだ選択が間違いだったと言いたい訳?」

「それは〜」

 

 らしくなく、セツナの言い分に気圧され吃ってしまう。代わりにノブ公は、レイナに代わって話した。

 

「半信半疑なんだよ、セツナ」

「半信半疑?」

「そ、半信半疑。セツナの要望でこのルートを選んだのか、吉と出るのかどうか、ってね。実際のところ、手掛かりが発見できるかどうかは、別問題だからさ」

「そ、それは……」

 

 後ろめたそうに視線を下に。両拳を握りしめたセツナは、確信を突かれたかのように悔しさを滲ませた。事実、自分自身もこれで良かったのか分からなかったからだ。

 

「ま、いいさ。どの道、すぐには手掛かりを見つけるなんて、容易でないことだしさ」

「う、うん……」

 

 それ以上は何も答えられなかった。

 

「それよりもさ。こんな湿ったるい話は辞めて、簡単な自己紹介しないか?」

「自己紹介? 誰の?」

 

 雰囲気を変えようと言う魂胆なのかも知れないが、こんな時に? それも今更ながらに自己紹介って……。

 突然のことに、内心、ドキりとした。

 

「そりゃあ、決まっているだろうよ。うちらとレイナさん、互いのさ。どの道、手掛かりを見つけるにも先の話なんだし、暇つぶしにと思ってな」

「え? 先に済ましたんじゃないの? パパ」

「ま〜、そのつもりだったけど。でも、どうも2人きりだと気が進まなくてさ。……な? いいだろう?」

「私は別に構わないませんけど〜」

「ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ!」

 

 慌てて2人の前に出る。

 

「あたしとレイナの関係、パパにも分かるでしょ? それにうちらのことも、レイナは知っているはずだし。別に自己紹介なんて今更――」

「でも、まだ、話してないこともあったよ、セツナ」

「レイナ……、いいの? 2人で決めたんじゃないの? 家柄のこと、秘密だって」

 

 すると、レイナはにこりと笑みを見せた。

 

「確かにそうだったけど〜。でも、ここまで来たらいいじゃないかしら。ただし、3人だけの秘密という形ならの場合だけど」

「秘密? 3人だけの?」

 

 思わず首を傾げたようだ。その様子を傍目に、レイナはセツナの方へと歩み寄り、そして、セツナと同じ方向へと踵を返した。

 

「ま〜、セツナと2人だけにしようと約束していたんだけど。もう、ここまで来たら話してもいいかもね」

「いいの? レイナ」

「別に構わないわ」

 

 そして、一拍置き

 

「そうね〜……」

 

 それは、遠い日々を郷愁するかのような眼差しであった。

 

「セツナにも話だけど、実は私、息子がいたのよね」

「息子⁉︎」

「その顔、意外だったみたいね」

 

 目を丸くするノブ公に、シレッと応えた。対する彼は当然のように反応。

 

「それはそうだろう。とてもそんな風には見えなかったから」

「ま〜、無理もないわ。で、話の続きなんだけども、私もその子と一緒にこのゲームに参加し始めたのが、きっかけかな。で、成り行きで、セツナに会って、レクチャーして。今に至る感じかな〜と。……ねぇ、セツナ、色々あったよね」

「まぁね」

 

 レイナの事情とやらは、プライベートを部分的に挟みながら聞かされていたから、大雑把には理解できていた。

 一方、そのことを知るはずもないノブ公は、良からぬ疑問を呈した。

 

「ちなみに、気になったんだけども、その息子とは今はどうしているんだ?」

「パパー‼︎」

「あっ! い、いや、気に障ったなら、撤回するが」

「構わないわ」

「え? いいのレイナ?」

「今更だもの。話しても差しあたることないわ」

 

 口元に手を添えて、目をそっと閉じて――

 

「名前は〝あきら″。昔から凄くモンスターハンターが好きな子だったわ。でも〜、不幸な事故でね」

「っ! それはすまない。余計なことを聞いてしまったようで」

「いいのよいいのよ、別に。それにこのゲームはあきらの想いが生きているような感じがするし。そう……、まるで共に冒険しているような感じでもあるから」

「そ、そうなのか」

「ま、そういうこと。……さ、行きましょう。見つけるんでしょう? 手掛かり。先は長いと思うし」

「あ、ああ。そうだな」

 

 レイナに促されるがまま、ノブ公は再び歩を進めた。

 

「レイナ……」

 

 後に残されたセツナは、気付いていた。にこやかに笑みを見せて語ってくれた家庭事情。そこには、悲しみの色合いが滲み出ていたことを。

 本人が構わないとは言っていたけど、親友であるだけにほじくり返すべきではなかったんじゃないだろうか。そんな気がしてならなかった。

 

「どうしたの? セツナ」

「え? あ、いや、なんでもない。今行く」

 

 一足遅れて2人について行った。

 

 

 

 

 和むような河川の音色。森を抜ければ、そんな岸辺が帯状に広がっていた。対岸にはアプトノスが群れをなしている姿が黙認できる。

 だけど、対岸へと繋がる道筋は今のところなし。それどころか、今に至るまで痕跡の何一つ、見つからないでいた。

 

「困ったわね〜」

 

 頬杖を付いて、さすがのレイナも困った表情を見せた。一方、セツナ自身も来た道を間違えてしまったのだろうか? 半信半疑になりそうだった。

 近くの岩に腰をかけ、ノブ公は頭を掻いた。

 

「ともかく一服しようか? どの道、見つかりにくいことは予想していたんだしさ」

 

 そう言うなり、愛用のパイプ煙草を取り出して、ぷかぷかと燻り出した。

 

「う、うん……」

 

なんだかバツが悪そうだ。自分のせいで、時間を取らせたみたいに。

 

「どうしたのセツナ?」

 

 川辺の方を見つめるセツナに、レイナは心配そうに声を掛けた。

 

「2人ともゴメンね」

「?」

「なんだかさ、あたしのわがままで時間取らせたみたいになっちゃって」

「それは……」

 

 とレイナ。

 

「んことないって、セツナ。どの道、俺も同じ気持ちだったからさ」

「パパは、……責任あるからそう言えるじゃん」

「責任? 親としてのか?」

 

 コクリ

 

 小さく頷く。

 

「な〜に言ってんだよ。そんなの……、そんなの当たり前じゃないか。つっても、正直なところ半々だけどな」

「半々?」

 

 珍しくレイナが、そこで疑問を投げかける。応えるかのようにノブ公は言った。

 

「あ〜、半々。親としての責任もそうだけど、自分自身も怖いんよな。他の団体と行動して、万が一素性がバレたなら〜、と思うとな。だから、……だからさ、分かるんよ、気持ちがな」

「……そう。そうだよね」

 

 振り返った。そして、

 

「同じだもんね。普通に考えれば」

「ああ、そうだ。だから、何も思い詰めなくてもいいんだぜ」

「ありがとう、パパ」

「……そう言うことなら、私も、立場が違えど同じようなものかもね」

「レイナ?」

「だって、そうでしょ? 知っていて共に行動しているんだから。普通だったら、巻き込まれたくないからと別々に行動しているわけで」

「その心は?」

 

 ちらっとノブ公を見て、それから

 

「友達。親友だから、かな」

「レイナ……」

 

 ガバッ

 

 親友から発せられた優しい言葉。嬉しすぎて、思わずレイナを抱きしめた。

 

「セツナ」

「ありがとう、レイナ。ありがとう……」

 

 側から見ていたノブ公は、一言。

 

「良き友を得たな、セツナ」

 

 労った。

 

 それから暫くして――

 

「ともかく、時間はたっぷりとあるんだ。何か食おうか?」

「そうだね」

 

 気が済むまで抱き合った後、落ち着いたセツナは、ノブ公の提案通り、ひとまず飯の時間を取ることにした。

 改めて向き合う3人。画面を何回かタップした後、焼き肉セットを持ち出した。

 

 ――とその時であった。

 

 森の奥から

 

 ぎゃー、ぎゃー、ぎゃー

 

 甲高く鳴り響くモンスターの鳴き声が。

 

「っ! この鳴き声は」

 

 心当たりがあるのだろう。ノブ公はスクっと立ち上がった。

 

「パパ」

「ああ、間違いない。近くにドスランポスがいる証だ」

「なら、行こう」

 

 同じくセツナも立ち上がった。まさに、今まで痕跡が見つからなかっただけに、ここに来て棚からぼた餅。チャンスが舞い込んできたわけだ。

 ところが

 

「ちょっと待って、2人とも」

 

 え?

 

 親子揃ってレイナを見た。

 

「どうしたのレイナ?」

 

 すると、

 

「訊こえてこない?」

「な、何を?」

 

 パパもよく分からない様子。静かに耳を澄ました。長閑な河川の音色、虫や小鳥の囀る鳴き声が環境音として聞こえてくるだけ。

 そして、先程のドスランポスの鳴き声が時折聞こえてきて――

 

 ガキンッ! ガッ、ガンッ! ……

 

 僅かばかりの金属がぶつかる様な。まさに戦闘音とも言える小さな音が聞こえてくるではないか。

 

 まさか⁉︎

 

「その感じだと、認識したようね」

「なんてこった。来客がいたとは」

 

 苦虫を噛むかの様な、苦渋の顔持ちをした。躊躇った。当然、躊躇った。そうしざるを得ない感じに。

 

「セツナ……」

 

 悔しい。とても悔しくて、居ても立っても居られない。堪らずその場に座り込んでしまった。

 

「恐らく、戦っているのは先頭にいた集団だろな」

 

 場の空気が諦めムードになりつつあった。

 

「帰りましょう? 行って加勢できるような立場ではないんですし」

「そうだな」

 

 立場的なものを鑑みて、焼き肉セットを片付け。ノブ公とレイナはベースキャンプへ戻るべく背を向けた。

 一方、セツナは河川の方を眺めたまま座ったままだった。

 

「あれ? セツナ?」

「……」

 

 しかし、彼女の声掛けには応えず。一方、内心ではどうするべきなのか、葛藤が始まっていた。

 このまま引き返せば、また、あの地獄のような光景を見ずに済む。だけど、

 

 本当にそれでいいのだろうか?

 

 こうなったのも、間接的ではあるが自分達社員が蒔いた種によるもの。

 デスゲームを招いて今日に至る責任。或いは、今後に渡ってその責務を果たすべく立ち上がらなくてはならないのではないかと言った責任感。それ以外でも思うところはある。

 けれど、主にそんな責任感、使命感みたいなものがあって、現実から逃げたい自分との板挟みで葛藤していたのだ。

 

「あたし……」

 

 視線が右往左往する。迷う、迷う、凄く迷う。どうしたらいいのかと。

 その時である。

 

 ポンッ

 

 誰かの手が自分の肩に当てられた。後ろを向いて

 

「パパ……」

「その様子じゃあ、思うところがあるんだね」

「……うん」

 

 そして、自分の返答にノブ公も同様、考え始めた。のだが、

 

「任せるよ」

 

 その一言だけだった。セツナは考えた。悩みに悩んで、深慮深く考え抜いてみせた。

 一言で言わせれば、変わるかどうか。もう少し具体的に言えば、

 

 今までの自分でいるのか? 

 

 はたまた、

 

 変化を求めるかどうか?

 

 この二者択一である。自分の心。即ち、今の気持ちに何度も語りかけた訳だ。

 そして、彼女の出した答えとは――

 

「行こう」

「え?」

「このままでは何も変わらない。だから、行こう」

「セツナ、それでいいの? 待っているのは――」

 

 親友の心情を察してなのかも知れない。レイナが心配そうな顔をした。だけど

 

「分かる、分かっている。それでも、あたし、このまま引き篭もりになっていくのだけは、やっぱり嫌だから」

「セツナ……」

 

 一方、ノブ公は娘の変化に笑みを浮かべたのみ。話は続く。

 

「それに、直接的な要因じゃないとは言え、あたし達社員の責任でもあるし。だから、責務を果たさなくちゃってね」

「変わったな〜」

 

 その一言だけ述べて、ノブ公は感心した様だった。他方、レイナは親友の変化に戸惑ってはいたが、

 

「……分かった。セツナがそう言うなら、出来る限りフォローするわ」

「ありがとう」

 

 こうして、セツナの心変わりと言う名の決意の下、3人はドスランポスが待ち構えているであろう森の奥へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 向かえば向かうほど炸裂する戦闘音。それに伴うドスランポスの鳴き声が響き渡ってくる。さらに付け加えるなら、ハンターの威勢までもが聞こえて来て――。

 それはもう、激戦の様相を醸し出していると言わんばかりだ。茂みをかき分けかき分け、かき分け切って、そして、バサッと葉音を立て獣道へと出た。

 その次の瞬間、1人のハンターが後方に仰け反りそうな勢いで躍り出て。

 

 ドキリッ!

 

 まさに口から心臓が飛び出んばかりに、滅茶苦茶びっくりした。

 

「くっそー、なんて奴」

 

 鉛の生地を仕込んだ防具――チェーンシリーズを体、腰、脚に。頭部をハイメタヘルムで装備した狩人は、表情が見えないながらでも苦戦している様であった。

 

 〝助太刀せねば″

 

 一瞬そう思ったが、いざ、口に出そうとして口を唾んでしまった。――とその時である。

 

 バサッ、バサッ、

 

「セツナ! ここにいたのか?」

「パパ」

 

 ノブ公とレイナが遅れて姿を現した。――とここで、流石にこちらの存在に気が付いたのだろう。

 モンスターと対峙し、これから再び挑みかかろうとしていた狩人はこちらを向く。

 

「君たち、いつの間に」

「え、あ、いや、あたし達は――」

 

 しかし、事情を知らない狩人は

 

「丁度よかった。手を貸してくれないか? 意外に手こずっているんだ」

 

 助太刀するよう依頼された。――とそこへ、遠くから

 

「バックアタック、頼む!」

「任された!」

「あ、あの〜」

 

 ダンッ!

 

 こちらの呼びかけに応じないまま、その狩人はそのまま地を蹴って駆け抜けてしまった。呆然としてしまうが、肩に手を添えられ一言。

 

「行こう」

「……うん」

 

 忘れかけていた決意を思い出し、セツナを先頭に討伐に参戦した。

 

 ドスランポスを中心に、7人ほど取り巻く狩人達。そこにセツナら3人が加わり勢いづく。

 そんな彼らの間を縫う様に、リーダー格を守らんとランポスが3頭。お邪魔虫的な立場で対峙していた。

 互いに威嚇し合い硬直状態。そんな感じの中、目配せをしてみれば、一回り離れた位置にあの先程出会ったフードの2人がいた。

 1人のハンマー使いの巨漢が、声を張り上げる。

 

「前列、牽制に。サポーターはランポスと。それから俺は――」

 

 ドスの効いた声が鳴り響く。風格からして、この一団のリーダーであることが伺えた。

 言われた通り、2人の片手剣使いがドスランポスと対峙。2人の太刀使いがランポスと。残り2人――フードの2人がランポスを狙い撃ちにせんとばかりに。

 そして、肝心のハンマー使いはドスランポスに隙があり次第叩きつける。そんな勢いで身構えていた。

 この状況を見ても、自分達に出番はない様に思えた。だが――

 

 シャー‼︎

 

 ひっ!

 

 ドスランポスの突然のフェイントに、1人の片手剣使いが尻込み。それを見たもう1人の片手剣使いが、奴の挑発に乗せられて

 

「このぉー‼︎」

 

 無謀に挑みかかった。

 

「や、やめるんだ! またしても――」

 

 しかし、時すでに遅し。ドスランポスはその行動を予測していたと言わんばかりに、その場を飛び退き。挑発に乗せられた狩人が躍り出たところを、すかさず襲い掛かった。

 鋭利な爪が、顔面を掠める。

 

「うわ!」

 

 思わず尻餅。掠っただけとは言え、体力の2割弱は削られたみたいだった。

 

「ひっ」

 

 本当の脅威を前にして、腰が抜けてしまった片手剣使い。一方、この状況を見てセツナは感じていた。

 

 この人たち、全然狩りに慣れていない素人集団じゃ〜

 

 と。

 ――と思った瞬間、後方からノブ公が躍り出た。重厚な銃槍をすかさず抜刀。ドスランポスの真正面から対峙するかの様に、躍り出たのである。

 勇気ある瞬間。巨漢のハンマー使いは驚いて言った。

 

「あ、あんたは⁉︎」

「自己紹介はあとだ。とりあえず、そこの片手剣使いの2人を引き下がらせてくれ!」

「わ、分かった!」

「パパ?」

 

 まるで別人の様な父に、驚きを隠せない。だが、迷っている暇はない。

 もう、動き出している。隣にいたレイナは、いつの間にか背に背負った狩猟笛を取り出し、離れた位置にて援護。他の者も戸惑いはしていたものの、ドスランポスはリーダー格の巨漢ハンターとノブ公に任せ、ランポスを相手に助太刀していたのである。

 

 自分だけ取り残される訳には――

 

 今までの不安やら恐怖やらはどこ吹く風。自分にもできることを即座に考え、加勢に加わった。

 

 戦況は一気に好転する。

 

 ほぼ三体一で対峙されたことで、瞬く間にランポスは粛清されてしまった。

 

「サンキュー、助かったぜ。あんた」

 

 本来、礼を言われる筋合いはなかったが、この時ばかりは、少し嬉しかっただけに小さく頷いた。

 

 ――直後、

 

 ガキ――ン――‼︎

 

 硬質な金属音が隣で鳴り響く。

 

「パパ‼︎」

 

 咄嗟にそちらを向く。

 

「スイッチだ!」

「うぉおおおー‼︎」

 

 ノブ公に呼応するかのように、巨漢は半身ほどもある鉄槌を振り上げ、そして、思いっきり――

 

 ドシーンー……‼︎

 

 グギャー‼︎

 

 まさに渾身の一撃。断末魔を上げて、ドスの巨躯は崩れ落ちた。

 

「やったぜー!」

 

 1人の狩人が歓喜を挙げ、それを皮切りに場の空気は歓喜に満ち溢れた。まさに勝利の瞬間。その光景を目の当たりにしたのだ。

 

「ありがとうよ、あんた」

「ああ」

 

 ノブ公自身も、フードで表情は隠れてはいるが、純粋に喜んでいる様であった。

 セツナは安堵した。それはもう、今までの心配ごとなどが杞憂だったかの様に――。

 ほっと胸を撫で下ろして、一息。今後どうしようか。な〜んて、呑気なことを考えようとした。

 ――とその時である。

 

 一陣の疾風が場を駆け巡り――

 

 くっ、

 

 バサリッ

 

 あっ、

 

 各々が被っていたフードが肌けてしまった。慌てて、フードを被り直そうとして、その場にいた太刀使いの1人が声を張り上げた。

 

「あ、あんたは! まさか、公開祭の主催者の」

 

 え?

 

 それを皮切りに

 

「そう言えばあんたも。主催者の隣にいた」

 

 ま、まずい。逃げなければ。

 

 焦りが高まる。だが、その次に言われた一言で、その場に釘付けされる羽目に。

 

「人殺し……」

「そうだ! 人殺し。そう、こいつら2人は、俺たちをこのデスゲームに嵌め込み、命を弄んでいる糞野郎なんだ」

「パパ……」

 

 助けを求めた。だが、場の空気は既に一変していた。ノブ公も同じく動けない。

 まるで、それは金縛りにあっているかの様な光景だった。周りで罵詈雑言、怨嗟三昧の地獄の光景が押し寄せてくる。

 

 助けて

 

 助けて

 

 パパ……。

 

 あまりにもの恐怖、それに伴うトラウマ。とても意識が保てようがなかった。全身から力が抜けていく。暗い暗い闇の深淵へと沈んでいき。

 最後に見たのは、レイナの姿だった……。

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