モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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4章:秘めたる思い・9話

 深い深い闇が何処までも続いている。今、どの辺りにいるのかも、当然、分からない。更に言えば、

 

 今まで自分は何をしていたのか? 

 

 その辺りの記憶も、靄がかかっているようであやふやなのである。ただ、一つだけ確かなことがある。

 それは――

 

 ――地獄を見た――

 

 その一言で言い表せるくらい、確かな直感があったのだ。

 

 ――とそう思った瞬間、闇の深淵から声が聞こえてきた。徐々に聞こえてくる人の声。

 それは、紛れもなく複数からによるもの。それも、親しみを込めた声ではなく。寧ろセツナに向けられた、怨嗟、憎悪、殺意。

 それらがごちゃ混ぜになっているような、騒然とした声達として聞こえてきたのである。

 頭の中、それも心の中に直接。しかも刃をぶっ刺してくるような勢いで、襲い掛かってくるのだ。

 堪らず頭をかばい、その場にしゃがみ込む。

 

 やめて、

 

 やめて、

 

 もう、

 

 やめて――‼︎

 

 ………

 

 ……

 

 …

 

 はっ!

 

 ガバッ

 

 跳ね起きるように、目が覚めた。自分の両膝が震えているのが、視界に。いや、両膝だけでない。手元を見れば、これもこれでまた、小刻みに震えていた。

 

 ドキ、ドキ、ドキ、ドキ、……

 

 心拍音だけが聞こえてくる。そんな中、

 

「大丈夫か? いや、大丈夫じゃないよな……」

「パパ……」

 

 気持ちを気遣って覗いてくるノブ公の姿が目に映る。――とそこで、彼の周辺から沢山の人の影。それも、怨嗟の声がざわめく様に聞こえてきた。

 あの闇の中で見た光景。

 

「いや、いや、いや――‼︎」

「セツナ⁉︎」

 

 恐怖のあまり後退りする。

 

「来ないで、来ないで、こっち来ないで――‼︎」

 

 もう、絶叫と言わんばかりに叫んだ。

 

「落ち着くんだ! セツナ」

「セツナさん!」

 

 パパはともかく、流石のレイナも恐怖に駆られる自分を心配してか、説得しようと試みた。

 自分を抱きしめる2人。セツナを抱きしめるレイナ。彼女を、自分を抱きしめるノブ公。だが、そんな抱擁さえはねつける勢いで、それ以上に恐怖の幻視が彼女に襲い掛かってきていた。

 

「いや、離して! 離してってば! 離して――」

 

 必死に逃げようともがきまくる。――とそこで

 

 パーンー……‼︎

 

「しっかりするんだ!」

 

 ダメ押しで、やむなくノブ公からビンタを貰った。

 

「ノブ公さん⁉︎」

 

 唖然とするレイナ。方や呆然とする自分に、ヒリヒリと頬が痛むのが感じられる。

 

 一体何があったのか?

 

 堪えきれない恐怖から、途端、困惑だけが残っていた。

 

「落ち着いたか? セツナ」

「あたし……」

 

 一時的に我に返ったはいいが、頭が真っ白。どうしていいか分からなかった。

 

「大丈夫ぅ?」

「大丈、夫ぅ〜。……じゃない。分からない、分からないよ、あたし」

「セツナ……」

「無理もない。二度も目の当たりにしたからな」

「……もう、いや」

「セツナ?」

「いやだよ。……もう、何かもいや。ほっといて!」

 

 考えるだけで生理的に拒否反応が。それも沸き立つように、溢れてきていたのだ。

 いわゆる現実を直視できない。現実逃避、と言う症状だろう。突然のデスゲームを、理不尽ながらにCOMに突きつけられ。あまつさえ、会社関係者と言う立場だけに、皮肉ながら追及される。

 本来、自分たちも被害者であるのにそれが通用しない。上にこの牢獄から逃げられない。

 それどころか、群衆から永久に近い形で憎悪を向けられ続ける。

 

 もう、一層の事、自らキャンプ送りになって死にたい。

 

 そんな自殺願望で満たされつつあったのだ。その中で、どう言葉をかけていいのか分からない2人は、頭を悩ましていたに違いなかった。

 差し伸べてやりたいのだろうか。ノブ公は娘の肩にそっと触れるか触れないか。

 そんな曖昧な距離感を図っていて――

 

 ギャー! ギャー‼︎

 

 何処からともなく響き渡る鳴き声が聞こえてきた。聞き覚えのある響き。

 

「この鳴き声、まさかドスランポス⁉︎」

 

 確か、クエスト討伐リストには、2頭のドスランポスがいたような。そのことがあってか、ノブ公は精神的に衰弱している娘を前にして危機感を露わにした。

 だけどその一方、自分のことで手一杯なセツナは、そんなことはどうでもよく。寧ろ、キャンプ送りになれる絶好のチャンスとしか見ていなかった。

 やむに止まれずと言ったところだろう。セツナへと手を伸ばしながら

 

「行こう、セツナ。ここにいては」

 

 と彼女に念を押した。――とここで、

 

 パンッ!

 

 その手を振り払い除けたからに

 

「ほっといてよ‼︎」

 

 感情の赴くまま声を荒上げた。もう、どうでもいいのだ。このままドスランポスが迫って来るなら、いっそうのこと餌食になった方がマシなくらいに。

 だが、そんなことを許すわけにはいかないのだろう。手を掴むや否や、

 

「だめだセツナ‼︎ ここは、立ち上がるんだ! 出ないと――」

 

 と強引にも立たせようとした。しかし、当然

 

「やだ! やだ! やだって言ってるでしょ! 離してよ!」

 

 まさに運動会さながら、網引き大会の様相を醸し出す。強引にも立たせて、なんとか危機を凌ごうとする父。対するは、自棄になり自死念慮に駆られたセツナ。

 そんなイタチごっこが展開される構図となっていた。

 

「痛い! 痛いってば! いや、いや――‼︎」

「ちょ、そんな声を荒げたら――」

 

 ――とその時である。近くの茂みから、

 

 ガサガサガサ……

 

 葉音が。直後、

 

 ギャー!

 

 セツナとノブ公の間を割って入るかのように、ドスランポスが急襲してきたのである。

 反射的に娘を蹴飛ばすノブ公。

 

 きゃー‼︎

 

 後ろに大きくのけ反り、方やノブ公はその反動を利用して大きく回避する。

 

「な、何よ! パパ――、っ!」

 

 目の前に蒼の巨躯が、ドンと現れたのを目の当たりにし、言葉を失ってしまった。

 

 ――死が目の前にいる――

 

 しかし、湧き出て来るのは、恐怖ではなく無気力。生きるために戦う気力が、湧かなかったのである。

 俯いたまま

 

「どうでもいい……」

 

 どうせ、なる様にしかならないんだから。

 

 そんな気持ちだった。このままこちらを発見し、そのまま餌食にでもなればそれでいいのだ。

 最初は痛いかも知れない。でも、それは一時的。すぐに死が待っていて、何も感じなくても良くなるからだと、自分に言い聞かせていた。

 ところが、

 

 〝来ない″

 

 そう、襲って来ないのである。すぐに来るかと思ったのにだ。代わりに言ってはなんだが、向こう側から戦闘音らしき剣戟が聞こえてきて――

 

「パパ、レイナ?」

 

 肝心のドスランポスが対峙するは、レイナとノブ公の2人であった。まさに、自分は眼中にはない。

 そう言わんばかりに、ドスランポスは2人の狩人に神経を尖らしていたのである。

 ガンランスの大盾と銃槍で攻防一体を演出するノブ公に、サポートに徹するレイナ。

 2人が必死にセツナに注意が向かないよう、必死で応戦していたのだ。

 

「なんで? なんでなの?」

 

 こんな自分をなぜ守らないといけないの?

 

 目の前の光景を前にして、動揺が広がって行く。しかしその一方で、戸惑いを見せ始めるセツナを他所に、ノブ公は対峙するだけで手一杯の様子。

 

「くっ、ちょこまかと」

 

 俊敏性のある標的を前に、思うように武器が振るわないことで苛立ちを露わにしていた。

 

 なぜ? なぜ? なぜなの……

 

 理解に苦しむ中、動揺が胸いっぱいに広がって。奏でられる戦闘音の中、そんな思いが言葉となって弾けた。

 

「もう、やめてよ‼︎ なんであたしなんかに!」

 

 ガキーンー……‼︎

 

 強烈な一撃を前に後退りしたノブ公。それを訊いて即答した。それもらしくない言葉と共に。

 

「バカやろう‼︎ 生きていて欲しいからに決まっているんじゃないか」

 

 っ!

 

 愛の鞭、愛を込めた一言。その言葉に、これまた違った意味の動揺が走ったのを感じた。続けて、間隙を縫ってレイナも語りかける。

 

「だって、親友でしょ? 私達」

「れ、レイナ……」

 

 しかし、次の瞬間だった。間合いを与える隙を相手に与えてしまったのだろう。大きくバックステップを踏んだドスランポスが、なんと! 尻込みしているセツナの前に躍り出たのである。

 

「ちっ、しまった!」

 

 慌ててガンランスを折り畳み、セツナの元へと駆け寄ろうとする。一方、ドスランポスと相対してしまったセツナ。戦意損失の最中にあって、途端、逆に恐怖が勝ってしまった。

 

「戦え! セツナ」

「セツナさん!」

 

 2人の叫ぶ声。しかし、頭には入らず。なされるがまま、鋭爪を振りかぶられ、あわや一撃を被るのみ。――かに見えた。

 ――とその時、一陣の矢が虚空を切り裂いて飛来。襲い掛かろうとしたドスランポスの体躯に、

 

 ブスリ! 

 

 垂直に突き刺さったのだ。

 

 え? 矢?

 

 しかし、それだけではない。立て続けに、2本、3本。はたまた、一二発の弾丸らしき一撃が、ドスランポスの巨体にぶち当たっては、血潮をあげたのだ。

 意表を突かれたドスランポスは、そこでセツナへの攻撃を中断。鬱陶しく思ったのか。狙い撃ちされた方へと向き直った。

 

 誰?

 

 そのタイミングで我に返ったセツナは、飛んできた方向を見て――

 

「どうやら足止めに成功したみたいネ」

「待ってよー、シャオネー」

 

 先程の黒フードで素性を隠した2人が現れたのを見た。その2人の手には、ヘビーボウガン、弓が携えていて。

 特にヘビーボウガンを手にしたフードの子は、扱いに多少苦労している様子。銃口をやや下げて重たそうにしていた。

 注意が完全にそちらに逸れたらしく、先程まで対峙していたドスランポスが2人に迫る。

 やや身の危険はま逃れたが、今度はその2人。特にヘビーボウガンを携えた子は、まさにピンチだと直感的に感じた。

 なんてたって、ヘビーだけに重量感が半端ない。すぐさま逃げ切れるとは思えなかったからだ。

 

「あ、あぶなーい‼︎」

 

 咄嗟に声が。今の自分らしくない行動に、思わず口に手をあてがう。その一方、弓の子はすぐに逃げたみたいだが、案の定、ヘビーボウガンの子は、その重量を前にして逃げれない模様。

 立ち往生する子の目前に来た獰猛な蒼の体躯は、そのまま紅き鋭爪を振りかざして

 

 やられるー!

 

 思わず目を覆い。そして――

 

 ブンー‼︎

 

 えっ?

 

 まるで空気を切ったかのような音だけ。その音だけしなかったことに、見なかった光景を疑問視した。

 恐る恐る目を向けて、そこには先程までヘビーボウガンの子がいた場所にて、ドスランポスが。方や、肝心のヘビーボウガンの子は、巨躯の傍に立っていたのだ。

 

 まさか、交わしたの? あの一撃を?

 

 いや、間違いない。でないと、食らっていたんだもの。

 

 頭がやや混乱していたが、そうとしか考えようがなかった。

 

「セツナ、立てるか?」

「え? あ、う、うん……」

 

 いつの間にか傍に来ていたノブ公に促されるがまま、セツナは立ち上がった。

 

「さ、今のうちに」

「う、うん……」

 

 別に特段、関わる義理がない。恐らく2人が参戦したのは、自分達の獲物を求めてのことだろう。

 そう思って、その場からレイナを連れて去ろうとした。

 

 ――と、そこで

 

 ガキーンー……‼︎

 

「くっ」

「シャオネー‼︎」

 

 何かにぶつかり甲高い金属音が鳴り響くと共に、少年の叫ぶ声がセツナの鼓膜を突き刺した。

 思わず立ち止まってしまうセツナは、そのまま振り向いて。その光景たるや、ドスランポスを相手に防戦一方になるヘビーボウガン使い。そして、ドスの注意を逸らそうと必死になる弓使いの子の姿がそこにあった。

 

「どうしたの? セツナ」

 

 それには敢えて答えず。その光景を前にして、途端、自分の中で湧き出してきた衝動と言うか、思いというか。

 そんな得体の知れない〝何か″に戸惑いを感じずにはいられなかった。当然、理解できない。理解できないが、しかし――

 

 ――ほっとけない――

 

 自分達とはなんら関係ないはずなのに、見て見ぬ振りができそうになかったのだ。

 

 ダンッ!

 

「ちょ、セツナ⁉︎」

 

 驚く父の声。反して地を蹴ったセツナは、勇猛果敢にドスランポスへと立ち向かった。

 

 なぜだろう?

 

 そんな疑問は湧かなかった。特段理由なく。ただ、駆り立てられた衝動のまま、勝手に体が反応したのだ。

 走りながら背中の双剣を引き抜き、そのまま防戦一方のヘビーボウガン使いへ気を取られているドスランポスの背後に、奇襲をかけた。

 瞬時に幾重にも斬撃を浴びせて血飛沫のエフェクトが炸裂し、ダメージを高速で蓄積させていく。

 

「やー‼︎」

 

 無我夢中だった。無我夢中で、それでいて周りのことなど、当然、眼中には入らず。そこにあるのは、ただ、衝動のみ。

 きっと、今での自分を卒業したい。デスゲームを宣告されて、非難轟々の嵐に苛まされ、挙句にやり場のない自殺願望を抱かされてしまった弱い自分。

 短い間とは言え、そこまで疲弊してしまった自分との決別。そんな感じと言ったところか。

 猛攻の最中に溢れる涙は、そんな自分が悔しくて悔しくて堪らないものだったに違いないのかもしれない。

 一方、背後からの奇襲に一方的にやられ続けるドスランポスではなかった。堪らず攻撃に堪え兼ねのけぞったドスランポスは、鬱陶しく感じたのだろう。

 セツナの方へと振り向くや、その牙を振りかざそうとした。無我夢中で攻撃しまくっていたセツナは、その瞬間、ハッとなり我に返ったが時すでに遅く。

 コンボ中に攻撃動作が止まらない中、見上げながら

 

 やられる!

 

 直感的に危機感を抱いて覚悟した。――と、その時であった。

 

 グイッ!

 

 あっ

 

 後ろから強引に引っ張られ、代わりに先頭に立つは、大盾を構えた父の大きな背中。直後――

 

 ガキ――ン――……‼︎

 

 紅き鋭爪がぶち当たったのだろう。火花を散らすと共に強烈な金属音が鳴り響いた。

 

「パパ〜」

 

 まさに驚きでしかなかった。困惑して頭が真っ白の最中、続けて、隣にいたレイナが優しく言葉をかける。

 

「大丈夫。セツナだけに、任せるつもりがないから〜」

「レイナ」

 

 直接攻撃には加わらなかったが、身の丈以上もある狩猟笛を、ぶぉー、ぶぉー、と重低音を響かせて、2人へ付与効果を与えるような形で援助に回っていた。

 呆気に取られていたセツナであるが、彼女と父の加勢を交互に見て1人じゃないと再認識。

 

「うん」

 

 再び意義込んだ。一方、3人の加勢は、ドスランポスを求めてやってきた2人のフードの狩人達にも驚きを与えたみたいだ。

 セツナの攻勢が再開される中、弓を携えたフードの狩人は、戸惑いながら問う。

 

「シャオネー……」

「よく分からないけど、ここは細かいことは考えない方がいいアルネ」

 

 そう言うな否や、力強くヘビーボウガンを持ち上げて構え出した。そして、

 

「そこの双剣の方、離れて!」

「え?」

 

 唐突に指摘されて、思わず動作が止まる。直後、隙ありとばかりに、ドスランポスが鋭利な爪を振りかざそうとし。その瞬間を捉えたノブ公は叫んだ。

 

「セツナ‼︎」

 

 っ!

 

 驚いて尻餅。直後、

 

 ズドーンー……‼︎

 

 と咆哮。ブスリッと何かが、刺さったかと思えば、次の瞬間、小爆。その規模たるや、小タル爆弾並程度ではあったが、驚きの小さい悲鳴をあげるセツナの傍ら、攻撃を仕掛けようとしたドスランポスは、タイミングを逸らされたのだろう。

 衝撃を受けて、真横にのけぞった。

 

「今よ、小狼」

「うん」

 

 これよがしと、弓の子――小狼は、ありったけの矢の雨を横っ腹に浴びせまくった。

 たちまち紅き水飛沫が、そこらじゅうに舞う。

 

「大丈夫か? セツナ」

「うん」

 

 差し出されたノブ公の手を掴み、再び立ち上がった。

 

 もう、ここまで来たら関係ない。

 

 ドスランポスを討伐した後、フードの2人から何か言われるかも知れない。そんな不安を抱くこと自体、アホらしくなっていたのだ。と言うよりか、そこまで気が回らない。そんな感じだった。

 一方、小狼とヘビーボウガンの子も何を思っているのかは分からないが、修羅場においてはこちらの事情のことなど気にもとめていないのだろう。

 凛として、ヘビーボウガンの子は勇ましそうに指示を出した。

 

「おっさん、陽動。双剣使い、スイッチ!」

 

 それはもう、すでに慣れ親しんでいるようなもの。セツナ自身、堪らず、負けず劣らずの勝ち気な性格を露わにしてした。

 

「何処の馬の骨かは知らないけど、勝手に指示しないでよ!」

 

 しかし、言った側から既に立ち向かっていた。そして、ノブ公に気を取られるドスランポスの脇腹目掛けて斬撃を。

 それから、吐き捨てるようにもう一言、言い放つ。

 

「それに、あたしはセツナ。覚えておいてよね! しっかりと」

「セツナ? ……ま、まさか!」

 

 ヘビーボウガン使いの気付き。その言葉を聞いて、セツナは今更になってしまった〜、と血相を変えて青ざめた。

 途端、恐怖に変わろうとするが、直後、鬱陶しく思ったドスランポスの爪が薙ぎ払うかのように襲って来た。

 

 きゃー‼︎

 

 バシンッ!

 

「セツナ!」「セツナさん!」

 

 驚愕するノブ公、レイナ、両名の声が重なる。と同時に、吹き飛ばされたセツナは、何回か地を転げ回っては茂みのそばに落ち着いた。

 

「つつつ……、痛ー」

 

 ヒリヒリする頬に手を添えて、よろよろと立ち上がろうとした。が、

 

 っ!

 

 目の前に見下ろすドスランポスの姿が。直後、硬直状態に。

 

 ――やられる――

 

 そう覚悟して、再び襲い掛かろうとするドスランポスを前に、手を翳して顔を庇って――

 

「喰らえー‼︎」

 

 ドヒューンー……

 

 火砲が唸り声を。ほぼ同時に、ドスランポスの頭部に着弾したのだろうか。

 小爆。部位が部位だけに衝撃でよろめいた。続いて間髪入れず、矢の束が無数に襲い、串刺し地獄を味合わせていく。

 

「大丈夫アルカ? セツナ」

 

 弾を装填中のヘビーボウガンの子からだった。セツナはハッとして

 

「だ、大丈夫……。ありが――」

 

 しかし、

 

「礼はあと。こいつを片づけるネ」

「う、うん」

 

 捲し立てられ、地に落ちていた双剣を拾い、力強く握りしめた。

 

 後先なんて考えてられない。

 

 自分が何をすべきかは、もう、明らかだった。今まで使ったことがほぼなかった狩技――鬼人化。

 掲げて刃同士を重ねて、

 

 ジャキーンー‼︎

 

 効果音と共に紅き闘志を激らせて発動した。一進一退のノブ公の火砲が唸りを上げる中、ダンッと地面を蹴って立ち向かい。

 そして――

 

「や――‼︎」

 

 乱舞が炸裂。血飛沫がそこら中に撒き散らし始めた。

 

 ズバズバスバズバー‼︎

 

 無数の斬撃音。

 

 ドコーン‼︎ ボーンー‼︎

 

 ガンランスの砲撃にヘビーボウガンの徹甲榴弾の爆裂。そこに弓の雨。間髪入れずに繰り出される猛攻。

 遂に――

 

 うぎゃー‼︎

 

 堪えきれずに断末魔。爆煙を纏う中、とうとう屈強のドスランポスは崩れ落ちた。

 

 

 

 

「は〜、は〜、は〜、……」

 

 息が上がる中、とてもじゃないが信じられなかった。その心境を表すかのように一言。

 

「やったの?」

 

 ポツリと呟く。まさにそれは、初めて勝利したような感覚でもあっただけに、実感があまり湧かなかった。

 そんな中、

 

「やったな」

 

 ポンッと肩を叩かれて、ハッとする。気持ち的には嬉しい。と言うよりか、助かった〜。

 そんな心境に近かった。

 

 礼を言わなくちゃ。

 

 経緯はどうであれ、礼をせねばと2人のフードハンターへと歩み寄った。一方、一段落したのか、小狼とヘビーボウガン使いの子は、ふ〜、と互いに気を緩めると、こちらを向いた。

 手を差し出しながら、

 

「あ、あの〜。先程はありが――」

 

 突如、込み上げてきた恐怖に言葉を詰まらせた。それは、すっかり忘れていた恐怖であり、その恐怖とは自分達に置かれた立場的なものでもあった。

 

 どうしよう? あたし達の立場って……。

 

 不安と恐怖が入り混じり、表情が自然と暗くなっていく。このデスゲームを招いた運営側の自分達。

 あのハンター集団と同じく、また激しいバッシングを受けるのであろうか。手元の震えが止まらない。

 

「どうしたの? セツナ」

「セツナ?」

 

 心配そうに、ノブ公とレイナが揃って歩み寄る。顔色を伺うノブ公。僅かばかり見つめていたが、そこでハッとしてセツナの心境。そして、自分達に置かれている立場に、今更ながら気が付いた。

 だけど、かける言葉が出ないらしい。無理もない。この緊迫感。相手がどうこちらに接してくるのか、分からないからだ。

 歩み寄るヘビーボウガンの子。

 

 ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ、……

 

 近寄ってくる度に鼓動が激しくなり、そして、目の前に来るや、両目をぎゅっと力強く瞑り覚悟した。

 

 ………

 

 ……

 

 …

 

 暫く間を置いた後――

 

「ありがとう」

「え?」

 

 今なんて?

 

 意外な一言に疑問が生じ。だか、しかし、

 

「だから、ありがとうネ。助かったアルヨ」

 

 その表情を恐る恐る直視すると、素顔を晒し、柔かな笑みを浮かべる少女がそこにいた。

 とてもじゃないが、信じられなかった。

 

「だ、だって、あたし達――」

「分かるネ。運営側の方、でしょ? 名前は、えーと、セ、セツナ。そう、セツナだったかネ」

「なら――」

「いいネ、別に。ここまで来たら、気にする必要なくなったネ。それに、あんたらも、結局は被害者なんでしょ? さっきの討伐戦見ていて、必死さがあったから。とても、憎む気にはなれないアルネ」

「な、なによ。それ?」

 

 まるで足元を見られているような。セツナとしては、少し悔しいだけに噛みつきたくなった。

 けれど、そこで後ろから肩に手を添えられて現れたるはノブ公。

 

「まぁ、いいじゃないか、セツナ」

「パパ〜」

「彼らと一時的ながらも共闘して見て感じだけど、どうやら今のところ敵意は感じられなかったしな」

「い、一時的って……」

 

 より懐疑的になった。今のところはと言うと、今後はあり得るかも知れない。そんな風に受け取りかねなかったからだ。

 だけど……。

 

「私も感じましたわ。私達の立場を知ってもなお、彼らの表情は変わりなかったみたいですし」

「れ、レイナまでも?」

 

 セツナ自身として、2人の解釈には戸惑いを隠せなかった。そんな中、ヘビーボウガンの子は、何やら手元に小さな画面を出し何やら操作。それをしながら、こちらを向くや

 

「私達もある種、似たようなものアルネ」

「え?」

「私達、こっそりと抜けて来たんネ。でしょ? 小狼」

 

 コクリッ

 

 小さく頷いた。

 

「抜けて来たって……」

 

 セツナには全然理解出来なかった。あのまま、共にいればなんてことなかったはずなのに。

 けれど、ヘビーボウガンの子の考えていたことは意外だった。意外だっただけに、一言に尽きた。

 

「空気が悪かったのネ」

「空気?」

「そ、空気。ん〜、雰囲気と言った方が分かり易かもネ。ドスランポスを討伐した後、君たちの正体が分かったんだけど、そのことに対する憎悪の念ときたら、とても彼らについて行こう。なんてとても思えなかったアル」

「そ、そんな……」

 

 続けて小狼も、何を思ったのか。手早く画面を開くや否や、超高速で文字を書き起こした後、メッセージを見せて来た。

 そこにはこう書いてある。

 

『僕もシャオネーと同じ。居心地が悪くなって』

 

 だそうだ。

 しかし、2人の気持ちを前にして、本当かどうかはそれでも半信半疑だった。

 

 無理もない。

 

 憎悪の眼差しを二度も向けられていただけに、半ば人間不信になっていたセツナは、困惑を極めて始めていたからだ。

 そんな中、ヘビーボウガンの子から

 

「そう言えば、自己紹介まだだったネ。私は小凛、宜しくアル」

 

 と握手して欲しいとばかりに、手を差し出され。方やセツナは、その手を受け取るべきかどうか思いを張り巡らす。

 その光景。見かねたノブ公は、

 

「別にいいじゃないか、セツナ。気持ちは分かるけど、こうも気軽に好意を持って接してくるんだし」

「だ、だって――」

「それに。普通、憎悪の念だかなんだかを持ち合わせていたら、こんなことしないぜ」

 

 そして、レイナからも

 

「思うに、大丈夫だと思うよ、セツナ。信じてもいいかもね」

「れ、レイナまでも」

 

 ノブ公とレイナ。そして、小凛。忙しなく交互に目線を行き来したセツナは、恐る恐る小凛の手を握った。

 そして、戸惑いこそあれ

 

「こ、こちらこそ……」

 

 握手を交わすのだった。――で、その握手を見たノブ公とレイナは、共に中間に歩み寄り

 

「俺はノブ公。宜しくな」

「私はセツナの親友のレイナ。宜しくね」

 

 小狼も、口では直接言わなかったが、得意の文字起こしで自己紹介した。この瞬間、

 

 なんだろうか。

 

 セツナは初めて、運命を180度変えてしまったデスゲーム開始以来、仲間を得られたような。

 そんな気がしなくもなかった。

 

 その後……。

 

 自分も含めて、レイナ、ノブ公、小狼、小凛の計5人からなるパーティーは、

 

 〝世界からの解放を求め、蒼天を翔け戦う翼〞

 

 の大義の名の下、小さな小さな猟団――〝蒼天の翼″を設立するまで、そんなに時間を要することはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 2350年――。

 

 気象衛星ステーション――パンデモニウムから起動エレベーターを使い地上に降りた篠崎博士は、助士の緒方純、旧友のホークを連れて、タワーステーションをでた。

 出て、それからシャトルバスを使って、そして――

 

「久々ですね。地上の街並みを見るのも」

 

 窓ガラス越しに見える風景をみながら、緒方純は感想を述べた。そんな彼女を尻目にスマホを弄りながら、篠崎博士は、一言

 

「数ヶ月振りかしらね」

 

 と適当に返す。通路を挟んで隣席するホークは、博士と同じくスマホを弄りながら、提案して来た。

 

「ここはどうだ? 篠崎。ここの喫茶店なら、俺も常連と言うことで、特割が効くぜ」

「ギルドカフェ、ね〜」

 

 言いながら、SNS上で送信されてきたアドレス。そこを検索して、中身を確かめてみる。

 

 写真、記事、アクセス……。

 

 まとめると、これら3つの要素から成り立つが、大々的に取り上げられている写真には、第一印象に残らんばかりのものが取り上げられていた。

 それは、グルメもそうだが、なによりも内装にこだわりがあると言うこと。パッと見た限り、一言で言えば、

 

 〝和式″

 

 そう……。

 あの懐かしき日本特有の御座敷と砂利で敷き詰められたお庭が広がっている内装が、そこに載っていたのだ。それはもう、ノスタルジアを感じずにはいられないと言うか……。

 なにせ、ここはアメリカ・カルフォニア州。中華連邦による分割統治による影響。それによる国内情勢の不安定。そんな混乱の最中、渡米して来てからだいぶ時が経つ。

 無理もない。それだけに、自然な感情だったからだ。

 

「悪くないわね」

「だろう?」

「ん? 博士、良いところ見つけたんですか?」

「まぁね」

 

 そう言いながら、緒方にスマホを貸してあげる。

 

「ギルドカフェ、か〜。……ん〜、悪くないかも」

 

 そして、

 

「お、美味そうなものが! こんがり肉、か〜。はい、博士」

 

 返してもらう。――で、画面に目を押して、そこに載っているメニューを見て、篠崎博士自身も、思わず見入ってしまった。

 なにせ、美味そうな。緒方純が頷くのも分かるくらいに、そこには串刺し棒で貫かれたこんがり肉風のステーキがあったからだ。

 とてもジューシーな光景に、食欲がそそられて思わず涎が出そうになる。そんな中、

 

「で、どうするよ? そこにするか?」

 

 ホークの問いかけ。篠崎博士の意思は決まっていただけに即決した。

 

「あたしは構わないわ」

 

 そして、緒方純も

 

「同じく、いいぜ」

「なら、決まりだな」

 

 行き先はギルドカフェ。空路(スカイライン)を走るシャトルバスは、そんな3人を乗せて目的地近くを目指す。

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