モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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4章:秘めたる思い・終話

 

 タンッ、タンッ、タンッ、タンッ、……

 

 冷え切った硬質な床を踏み鳴らして、どこまでも続いている無機質な廊下を、ひたすら走っていく。

 なんで走っているのかは分からない。ただただ、アテもなく無性に走っていた。

 廊下の先は暗がりになってはいたが、不思議と全然怖いとは思わない。でも、夢中になって走り続けるのだから、この先に惹かれる〝何か″があるに違いない。

 そんな気がしていた。

 

 はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、……

 

 息を切らしながら、消火栓の赤灯を何回も通り過ぎて行く。通過する度に、体全体を赤く染め上げて

 

 一体、この廊下はどこまで続いているのだろうか?

 

 素朴な疑問が頭をもたげ、蛍光灯の切れ目。構わず薄暗い中を走り続けた。

 そして、90度の角を曲がり、その先を見て――

 

 誰?

 

 側から溢れる光の中、人影が1人、こちらに背を向けて突っ立っていたのを目にする。

 ある程度の距離を取って立ち止まる傍ら、小柄な体形は、まさに華奢な少女の様。

 その少女は、走って来た波恵の存在に気が付くと、前を向きながら勝手に問いかけてきた。

 

「どうじゃ? この先へ向かう決意は」

「どうじゃ、って。どう言う……。っ! てか、あなた、もしかして草薙さん?」

 

 独特の口調に聞き覚えがあった波恵は、直感的ではあるが、記憶通りなら彼女の正体が不思議少女――草薙蓮香だと、やや遅れて認識できた。

 けれど、その一方で草薙蓮香は、波恵の問いかけには応えず。腕を真っ直ぐにして、この先を示すかのように

 

「もし、決心がついたなら、この先へ行くがいいのじゃ。共に巻かれた〝運命の束縛″から解放されたいのならのぅ」

「え? どう言うこと? 運命の束縛、って?」

 

 意味深なメッセージには間違いなかったものの、全く理解できなかった。それに、共に、とは、一体……。

 思うに、波恵にとっての一番大切な存在と言う意味になるのだろうか。そうなると、兄・友斗、のことを意味するのかも知れないが……。

 

 果たして、共に、とは、本当に兄のことを指すのだろうか? 

 

 そんな風に勘繰っては見たが、言葉自体曖昧であり、結局、理解不能であることには変わりなかった。

 そんな有耶無耶な感情を抱く中、

 

「あっ、ちょ、ちょっと⁉︎」

 

 草薙蓮香は、1人、勝手に歩き始めた。当然、追いかけようとする。――が、なぜかそれができない、出来なかったのだ。

 

 そう……

 

 それはまさに、エスカレーターの進行方向とは真逆に歩いているかのように。或いは、すべすべの床が前進を拒むかのようにさえ思えたからだ。

 

「ね? ちょっと待ってよ。待って、ねぇってば! ねぇー!」

 

 その後も、必死に叫び続けた。叫んで叫んで、叫びまくって、やがて、視界が遠のいていき――

 

 ………

 

 ……

 

 …

 

「ねぇー‼︎」

 

 バサッ

 

 心の赴くままに叫び続けて、唐突に目が覚めた波恵は、勢いよく布団から起き上がった。

 

 はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、……

 

 影響によるものか、暫し興奮が止まない。だけど、それからやや間隔を置いてひとまず冷静になるまで、敢えて呆然と何も考えず。

 やがて気が付けば、心臓の音が聞こえ。辺りは深夜帯なのか、窓から星空が見える以外、部屋の中は真っ暗だったことを認識するに至った。

 

「ゆ、夢か〜」

 

 先程見た光景、それが夢であることをようやく認識した。

 

 しかし、なんだろうか? 

 

 夢にしては、かなり実態感が伴っているような気がして、不思議な感覚だった。

 そのことがあってか、

 

「草薙、蓮香〜」

 

 夢の中に出てきた少女の名を、何気なく呟いてみせた。呟いてみて、正直、謎めいた不思議な子だったな〜、と改めて思った。

 振り返れば、最初に出会ったのはコスモプラザにて、その施設のエレベーターの中。その時は、一言も声もかけず、親を連れて何処へと去った。

 続いて次に遭ったのは、息抜きで出た集会室前の廊下。ここでは、まともな会話が成立した様に思えた。

 そのなかで彼女の話によると、同志を募っていたとかなんとか語っていたような気がする。

 けれど、肝心なことに具体的な理由までは語らずじまい。その代わり、真剣な眼差しでそれ相応の覚悟を迫られた感じだった。

 

「なんなのよ、あの子」

 

 言うだけ言っておきながら、視線を外した側からいつの間にか姿を暗ます。かと思えば、コスモプラザの参加者名簿にも記載されていないときた。

 エレベーターでの出会い。途中で別れたとは言え、親連れで何処に行った。

 ただ単に来ただけにしては、あまりにも不自然であり、普通、何かに参加して居るはずなのが妥当なのだが……。

 正直、気になって仕方ない。考え込んでしまいそう。

 

「あ〜も〜!」

 

 ガシガシガシガシ……

 

 理解出来なさすぎることへの歯痒さだけに、苛立ちが募り髪を掻き毟った。当然、真夜中にも関わらず、再度、寝れる気がしなくて。

 そのことだけにベットから降りた波恵は、そろりそろりと足元を注意しながら手探りで暗闇の中を移動した。

 しかし、思わず差し出した足が勢い余って不運なことに

 

 ガンッ!

 

 あつぅ

 

「う〜……。もう、なんなのよ!」

 

 思いっきり角に足指をぶつけて、苦悶の表情を浮かべ。ぶつけた足指に手を充てがった。

 ――で、仕方なくそのまま四つん這いになり、彷徨い歩いてようやくドア前に。ドアノブを掴んだまま、なんとかドア付近を手探った後、部屋の電気をつけた。

 爛々とする強烈な光の刺激に、眩しさを覚える。けれど、それも時間経過と共に直ぐに治った。

 自室全体を見渡し、それでいて机上の写真立てに掛けられたデジタルフォトに目が止まる。

 歩み寄ってからに、その写真を見つめて。その写真には、幼き兄・友斗と自分が、満悦の笑みで華やかに映っていた。

 手に取って見て、左右の角度から見れば立体的に写り込み。その中で、2人の背景には遊具の断片が映り込んだのを目にする。

 

「遊具……」

 

 昔の記憶を思い出してみる。何年も前の記憶。当時の記憶がすっぽりと抜けている兄とは違い、波恵には、朧げながら少しの間、公園で遊んでいた頃の記憶があった。

 

 確か、近所の……。

 

 未だに残る、もやもや〜、とした気持ち。写真を机の上に置いた波恵は、気分転換がてら夜風に当たることに。

 くしゃくしゃの髪を適当にとかし、寝巻きの上からロングコートを羽織った。

 

 外出、それから程なくして――

 

 夜空を見上げれば、無数の星空が米粒をばら撒いたかのように小さく輝いていて。

 半ば闇に包まれ閑散とした街路を歩き続ければ、点々と街灯が暗闇の道を部分的に照らしていた。その様は、目指すべき場所への道導のようにも思える。

 目指すべき場所は、自宅から徒歩で10分近くにある公園。名前は確か……、緑ヶ丘公園、と言ったところだ。

 橋を渡り、木々が生える街路を歩いて。それから、ようやく公園にたどり着く。

 やはり、スマホを持ってきて正解だった。曖昧な記憶を辿りながら出向くより、スマホのナビを使った方が間違いなかったわけだから。

 

 緑ヶ丘公園は、当然ながらその大部分は暗闇に包まれていた。でも、その中で電灯が照らされている箇所が2つだけあった。

 一つは公園の外周路。二つ目は丘の上、と言ったところだ。ちなみに、二つ目の照らされた場所にはベンチがあり、その丘の麓には、自販機までもが備えられていた。

 

 財布、持ってくればよかった……

 

 少し残念に思う。

 丘を登り、そのまま歩み寄ってからにベンチに腰掛けた波恵は、背もたれにおっかかり夜空を見上げた。

 見上げれば、窓辺から見た星空が無数に煌めく夜空がそこにあって。その広大な空は、もやもやとした気持ちを少しでも和ましてくれるような気さえあった。

 そして、軽く吐息。闇に包まれた公園に目を向けた。呆然とする中、闇に包まれた公園と昔の頃の記憶。重ねて見た。

 それはもう、脳のイメージから来る投影と言えるものかも知れない。古い記憶が呼び覚まされて背景が一変し、夕方の公園の風景が炙り出された。

 

「お兄ちゃーん、待ってよー!」

「やなこった〜」

 

 小さい頃の自分と当時の兄が、追いかけっこする様がそこに映し出される。いたずら半分に逃げ惑う兄の手には、何かを手にしているようにも見える。

 だけど、白いボヤが掛かっていて、その正体が分からない。けれど、必死に追いかける当時の自分は、それをねだっているようにも見えた。

 しかし、今思えば記憶が曖昧なだけに、どうでもいいような気がした。

 そうした中、お母さんの声が聞こえてきた。

 

「こっちにいらっしゃ〜い、波恵」

「あ、お母さん。はーい」

 

 あれ? 自分だけ。

 

 瞬間的だったが、違和感を抱いだ。兄妹なら、「2人ともいらっしゃ〜い」のはずだが、と。

 そんな疑問が頭をもたげた。――とその直後、別の母の声がして

 

「こっちにおいで、友斗」

「あ、お母さん」

 

 明らかに自分の母ではない声に、兄は誘われてそちらへと向かった。朧げながら炙り出てきた思い出の筈なのだが、こればかりは流石に違和感を拭えない。

 

 私達、実の兄妹、なのよね?

 

 自分の思い出ながら、なぜか懐疑的になってしまう。いわゆる、自己疑念、ってところだ。

 

 でも……

 

「うんうん、違うよね」

 

 ただでさえ記憶が曖昧なのだ。何かの間違い、そう解釈することに。余計な記憶を振り払うかのように、首を横に振った。

 

「しかしな〜」

 

 そこで、草薙蓮香の言葉を、再度、思い出してみる。思い出して、それでいて自分はどうしたいのだろうかと自問自答してみる。

 1番の気持ちは、やはり、兄をあの死のゲームから助け出したい、と言うこと。だけど、その方法は分からない。

 このまま無事を祈って見守るだけ、と言うのが現実的であって。でも、草薙さんの意図することも気になる。

 

 もしかして、助け出す方法があるのだろうか?

 

 そんな淡い期待感も抱かずにはいられなかった。けれど、その反面、それ相応の覚悟がいると言う感じだった。

 

 それ相応の覚悟、って……

 

 正直、確信を持てるものがなかった。ただ、可能なら、自分も兄と同じ世界へログインし、力になること。

 自分も命の危険に晒されることは承知の上だが、それ以上に何も出来ないことの方が嫌だったからだ。

 

「私もあの世界に……」

 

 フルダイブできたらな〜、と思う。きっと、お母さんにバレれば猛反対を受けるだろう。

 けれど、それでも構わなかった。そう、あの世界に……。

 

 あの、世界……

 

 ……

 

 ……ん? あの世界? 世界?

 

「まさかね〜」

 

 自分で思っていて、感じずにはいられなかった。つまり、同志を募っていると話す草薙蓮香の意図とは、まさかのまさかで、デスゲームにダイブすることなのだろうと。

 

 けど……

 

「な訳ないよね」

 

 まず持ってあり得ないと常識に考えた。第一に、事件発生した当時、これ以上の被害者を防ぐためにも運営側が即、ログイン防止措置に踏み切ったから。

 第二に、自主返却と社員総出での問題のVRSを、強制回収に踏み切ったことが挙げられるからだ。

 ようするに、ログイン出来なくなった挙句、機器を回収された。と言うことで、実質、フルダイブ不可能と結論に至った訳であり。波恵はそれらを鑑みて、気持ちの半分ではとても信じれるものではなかった。

 

 は〜

 

 理想と現実の狭間で、思わずため息が漏れた。

 

「今、何時だろう……」

 

 ふと、何気なくコートのポケットから、スマホを取り出した。ノートカバーに保護されたスマホ。カバーを開くや、スマホの明かりが刺激的に飛び込んできて、目を顰めた。

 ――とここで、

 

 ?

 

 一枚の紙切れが挟んであることに気が付き、試しに手に取ってみた。スマホの明かりを頼りに確認してみれば、QRコードが。その背面には、草薙蓮香の名前が記してあった。

 

「そう言えば、あの時……」

 

 別れ際に貰ったことを思い出した。

 

 ここに連絡すれば……

 

 ふと、そんなことが頭を擡げる。

 

 だけど……

 

 夜空を見上げる波恵には、やはりと言うべきか。決心がつき切れないでいた。

 気持ちの面では決まっていたのだ。でも、いざ、踏み出そうにも、頭では色々と考えてしまい、そのことで余計な雑念が入り混じってしまう。

 あの世界に行けば命の危険に晒されること。その行動に踏み切った際、親が酷く心配してしまうこと。

 それだけでない。自分の行動により、数少ない友人までも心配を掛けてしまうからだ。

 

 どうすればいいの? どうすれば……

 

 悩みに悩んで、挙句には、雑念を振り払うかのように頭を振ったりもして見たが

 

「……あーもー‼︎」

 

 遂に降参。そう言わんばかりに、大の字になってベンチに寄りかかった。呆然とする先には、星々の煌めく夜空があるのみ。

 

「私、どうしたらいいの?」

 

 次々と入り込む雑念の前に、心が定まらない心境。ふと、スマホで時間を確認すれば、もう2時過ぎと来た。

 

 もはや考えても仕方ないのだろうか? ここは、諦めるしか……

 

 そんな境地に入りかけようとした。――とそこで、

 

 ――諦めないで――

 

 え?

 

 唐突に聞こえてきた謎の声。それも、自分の声とそっくりの声が。流石に驚いた波恵は、すかさず起き上がり――

 

「誰?」

 

 警戒心露わに、辺りを見渡した。見渡して、誰もいないことに

 

 気のせい?

 

 勝手に勘繰った。少しばかり息を吐いて、胸に手を当てつつ、ドキドキする自分を落ち着かせようと懸命になった。

 ――そして、

 

 きっと、考え過ぎかも。そ、考え過ぎ。だからもう、帰ろうかな。別に草薙さんの意図することが、はっきりした訳ではないのだ。だから、焦らなくてもいいよね?

 

 自分に言い聞かせるように念じて、その場を後に。立ち去ろうとして丘を降りた。

 それでいて――

 

「っ! 誰?」

 

 人の気配がして、咄嗟にそちらを向いた。一見して、電灯が誰もいない道を照らしているように見える。

 しかし、暗闇の中、何者かがいるような気配があり、闇の中の人影は、やや間を置いてこちらの様子を伺うと灯りの中へ。その姿を現した。

 

 女の子?

 

 小柄な少女がそこにいて、遠くにいるものだからよく分かりにくかったが、よく視認すればコートを着ているように見えた。

 少女は対話の距離を考えず、意味深なことをいきなり述べる。

 

「私は、もう1人のあなた……」

 

 え?

 

 よく意味が分からなかった。

 

 もう1人のあなた、って?

 

 その不可解な言葉に興味を惹かれた波恵は、その少女の元へと歩み寄った。歩いて行くうちに、その少女の正体が明確になっていき――

 

「え? 私?」

 

 思わず疑ってしまった波恵は、その場で足を止めてしまった。無理もなかった。なにせ、その少女はまさに――

 

 〝自分自身″

 

 だったから。

 つまるところ、波恵の分身と言うべきか。そこに立っていたのは、まさしく自分の容姿と全く同じ女の子がいたからである。

 瓜二つのそっくりさん、その言葉が相応しいくらいに……。

 その一方で、余計なことに

 

 先程の自分の声と同じ声。……いや、空耳? と言うか。その声は、もしかして彼女から? 

 

 そう勘繰ってしまった。けれど、それ以上に同じ人間が目の前に現れたことへの混乱と恐怖。

 それが勝ってしまい、

 

「あ、あ……の〜」

 

 と言葉を詰まらした。対するもう1人の少女は、表情を変えず無表情を貫く。その様は、まるで無愛想。その例えが相応しい程に。

 暫しこちらの様子を伺っていた少女は、再度、ようやく口を開いた。

 

「声、聞こえたよね?」

「えっ、声って? もしかして、さっきの空耳のこと」

 

 コクリッ、慎ましいそうに小さく頷く。

 

「実際には空耳ではなく、テレパシーと言う形で伝えた格好だけど」

「テレパシー? てか、あなた、一体何者なの? 私と同じ容姿ってどう言う……」

 

 すると、両手を腰の後ろで組み、ゆったりとした足取りで波恵を取り囲むかのように歩み寄ってきた。

 歩きながら、上の空で語る。対する波恵は、やや身構えつつ耳を傾けた。

 

「そうね〜。実際、理解できないと思うけど。私は、未来のあなたの記憶、みたいなものかな」

「未来の自分の記憶?」

「そ、……ん〜、その顔だと、無理もないみたいね」

 

 横目でこちらを見た波恵似の少女は、当然のように言った。無理もない。軽々しく述べられたことで返って混乱をきたした波恵は、余計に訝しんだから。

 そのことで、その気持ちが顔に現れていただけに、混乱を抱えながら負けじと前のめりで言い返した。

 

「と、当然よ! 〝未来の自分″って地点で、理解できる訳ないじゃない。じゃあ、その未来って、何年後なのよ?」

 

 そこで波恵似の少女は立ち止まった。人差し指を口に当てて考える仕草。した後、一言

 

「それは……、言えない」

 

 と。当然ながら、さらに怪しく思った波恵は、食って掛かる。

 

「はぁ? 言えないって。それじゃあ、あまりにも――」

 

 しかし、当の波恵似の少女は、少々、困ったような表情を見せると、やや凛とした後、手心を加えるかのように解釈してみせた。

 

「無責任、……そうだよね。でも、仕方ないんだよ。だって、私を管理する側がそれを言わせないようにしているから」

「管理する側? じゃぁ何、あんた自身、その管理会社の下っ端ってこと?」

「ま〜、そうなるかな」

「そうなるかな、って。平然と言わないでよ! こっちはただでさえ、容姿が全く同じ人間が目の前にいるだけで混乱しているんだから。第一、あんたは――」

 

 言いながら歩み寄って、思わず手が伸びた。伸びて彼女を追及せんとばかり肩を掴もうとした訳であるが、そこで、

 

 なんと!

 

 触れた側から空振りしたのである。

 

 え?

 

 波恵はキョトンとした。無理もない。それはまさに、3Dホログラムを直に触るかのようであり、実態に触れることができなかったからだ。

 

「どう言うこと? あんた、まさか――」

「言ったでしょ? 私は記憶そのものだって。……ん〜、実際には、この時代に部分的に干渉しているだけ。そう捉えた方がいいかも」

「この時代って……」

 

 やはり、話が飛躍し過ぎている。そう捉えざるをえなかった。

 

 未来からこの時代に、部分的に干渉? 

 

 まさに意味不明だった。それだけに、度が過ぎた冗談にしか聞こえず――

 

「分かった、分かったよ。これは何かのドッキリ番組ね、そうに違いないわ」

「え?」

 

 今度は波恵似の少女が驚く番だった。それを尻目に、波恵は不快感から勝手に勘繰り、興味本位でドッキリ番組の証拠となる物を探し始めて――

 

「きっとある筈よ。ある筈、悪質な連中が仕掛けた映像オブジェクターがきっと……」

 

 辺りの茂みを忙しなく探り始めた。バカの一つ覚えで、必死に探しまくる間抜けな姿。その間、波恵似の少女からため息が漏れたのを耳にし

 

「探しても無駄だよ私。それに――、っ! あ、もう限界見たいね。次、いつ頃この時代に干渉できるか分からないから先に伝えておくね」

 

 その言葉を聞いて、

 

「え? 何、伝えておくって。――っ! あっ、ちょ、ちょっと!」

 

 枝葉を頭に付けたまま、立ち上がって振り向いた波恵は、慌てふためいた。と言うのも、波恵似の少女の姿の映像に、ノイズが入りだしていたのである。

 まるで、通信映像が途絶えかけているその様。次第に不安定さが増して行く中、波恵似の少女は急ぎ足、かつ簡潔に伝え始めた。

 

「いい? 私。信じられるのは自分の気持ちだけだから。周りは気にしてはダメ。勇気を持って」

「勇気……。っ! あ、ちょ、ちょっと、ま――」

 

 言い返そうとした側から、ノイズが入りまくっていた少女の映像は、限界を超え、そのまま、す〜、と消失してしまった。

 再びの静けさに、波恵が一人残り。やや間を置いた後、

 

「もう、なによ! 言うだけ言っておきながら」

 

 結局、波恵似の少女の言動どころか、その正体も分からなかった。

 

 未来の自分の記憶? 意味が分からないよ。

 

 もやもやした気持ちを抱えたまま、時間も時間。他にすることがなく、仕方なしに自宅へ戻ることに。

 公園から出た後、再び思い出の公園の風景を一望。その場を後にした。

 

 

 

 

 朝――

 

 う、うう……

 

 ぐずつきながら、薄らと目を開けた。いつもの天井が見える中、頭が、ボーとする。

 やはりと言うべきか。深夜帯に起きて、そのまま緑ヶ丘公園へと外出。そこで悶々としていたことが祟ったのだろう。寝不足感ありありで、寝起きが凄く悪かった。

 

「あのまま、無理にでも寝れば良かったかも」

 

 後悔、あと先立たず。今日は登校日、枕元にあるスマホを付ければ、時間帯にして7時5分前。二度寝が叶う様な時間ではなかった。

 

 は〜

 

 二度寝の欲張りが出来ないことに、軽いため息が漏れる。スマホを握りながら大の字になって、それから再びスマホを見た。ケースのポケットき挟まれた紙切れを取り出し、QRコードを見つめる。

 

 どうしようかな〜

 

 そんな風に漠然と悩む。そして、昨日の波恵似の少女の最後の言葉を思い出した。

 

 〝信じられるのは自分の気持ちだけ″

 

 確かに、自分の気持ちは信じたい。信じてそのまま実行に移したいと思う。だけど……

 

「お兄ちゃん……」

 

 手にしたスマホを離し、自分の気持ちと向き合う。自分はどうしたいのか? 

 

 このままでいいのか? 

 

 或いは、

 

 彼女――草薙蓮香と再会し、運命を切り開いて行くのかを。

 

 信じられるのは自分の気持ちだけ。じゃぁ、周りはいいの?

 

 家族や親友の気持ちを蔑ろにされた様な、妙な気分にはなるが、結局、最後に決めるのは自分自身でしかなく。深く深呼吸して、そして――

 

 波恵は決断した。運命を切り開くべく、その一歩を踏み出すかのように。

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