モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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5章:ガルド湖の戦い・2話

 

 パラパラパラ……

 

 粉のような雪が降り、双眼鏡越しからの視界を遮る。その視界の先には、崖先でブランコの群れが3頭いた。

 その陰から

 

 ノシ、ノシ、ノシ、……、

 

 と重厚な足音が死角から聞こえてきては、それが間違いなければ、噂のモンスターの正体が直に分かるだろうと読んでいた。

 

「副長、どんな様子?」

 

 横で、団員の一人――白銀の髪を靡かせた子供のような狩人が、メイド姿の副団長(カデット)に様子を尋ねてきた。

 

「直に、ってところですね。……あっ」

 

 どうやら足音のヌシが来た模様。獅子顔に白の毛並み、まるで巨大なマンドリルの様相をしている牙獣種。

 ブランコ達のリーダー格であるドドブランコが、遂に姿を現したのである。

 

「あっ、て。遂に来たの?」

「遂にってところですね」

「見せて見せて」

「あっ、ちょっと!」

 

 グイッと強引に引っ張られ、覗いていた双眼鏡を横取りされてしまう。

 

「あ〜、アレね。名前は、え〜と……」

「ドドブランコ。……全くも〜」

 

 いくら上下関係の隔てが皆無に近い分団とは言え、これでも列記とした猟団なのだ。少しは弁えて欲しいものである。

 そんな中、後方から男の声が

 

「カデット」

 

 ん?

 

「状況はどんな感じなんだ? サヤカちゃんが嬉しそうにしているから、収穫はあったとみたけど」

「拓也……。まぁね、とりあえずターゲットは見つけた」

「お! てことは、ミッション完了か?」

「焦らない。条件あったでしょ? 確たる痕跡の一部を入手してくるって」

「確たるって、……確たるってなんだよ?」

「それは……」

 

 そこで、最後尾で見張りをやっていた団員から声が掛かった。

 

「カデット、ブランコの群れが集まってきた。長居は難しいかも」

「ブランコの群れ?」

 

 なぜドドブランコのいる対岸とは違うのに、こちらにも集まって来るのだろう?

 

「あれ? どうしたの?」

 

 カデットの行動に違和感を感じたサヤカが、不思議そうに声をかける。見張り役に回っている赤髪の親友――エルザの方へと歩み寄り、彼女の隣へと来た。

 

「あそこ」

 

 無愛想にしながら、その場所を指差し。氷壁の陰から覗きみれば、そこにはブランコが数頭。いつの間にか広場で屯していた。

 険しい顔になる。蹴散らす分には容易いかも知れない。だけど、戦闘が長引いたりすればドドブランコに気付かれる恐れもあった。

 軽めの装備してきていない現状、万が一ドドブランコと戦闘になれば無事では済ませるはずがなかった。

 それに、ドドブランコの痕跡もまだ。痕跡といっても、なんでも良いのだが、できれば証拠力が高い方がいい。

 

「どうするの? 副長」

「っ! サヤカ」

 

 いつの間にか隣に来て、共に覗き見していた彼女に驚かされる。

 

「ねぇってば」

「ん〜」

 

 押し黙っては悩んだ。どの道、そこを通らないことには、引き返せないだけに。

 そんな中――

 

「これ、使ってみてはどうかな〜?」

「? それは?」

 

 掌の上でポンポンとバウンドさせる素材玉らしき、投擲アイテムに目がいく。拓也は得意満面に応えた。

 

「閃光玉さ」

「閃光玉?」

 

 つまり、ブランコの群れに向かって投げ付けて撹乱させる算段なのだろうか?

 

「いいね〜、その手」

 

 とサヤカ。

 

「いいねって、決めるのは私ですよ」

 

 しかし、エルザまでもが

 

「賛同ですね。無駄な戦闘を避けるためにも」

「エルザ……」

「で、どうするん? カデット」

 

 少しだけ悩んだ。確かに使わない手はないのだが。ん〜、何というか。少ないながら経験上の直感から、なんとなく嫌な予感がしてならないのだ。

 しかし、無駄な戦闘をしてドドブランコに発見される末路だけは避けたい。

 

「仕方ないですね。その手で行きますか?」

「じゃ〜、決まりだな」

 

 そして――

 

「いくぜ!」

 

 思いきっり群れの渦中へと投げつけた。緩やかな放物線が群れの近くへと導いていき。

 次の瞬間、ボンッと鈍い音と同時に、閃光が破裂。一瞬にして視界を真っ白な空間で塗り潰した。

 投擲直後に目を庇ったカデット達はいざ知らず。虚を突かれたブランコは、閃光に目をやられて眩暈状態に陥った。

 

「行きましょう」

 

 カデットの一声。拓也、エルザ、サヤカは彼女に続いて駆け出した。

 

 ザクザクザク……

 

 雪を踏みしめる音を奏でつつ、ブランコの群れの外側をなぞる様に走っていく。数にして、10頭近くいることに、少しばかり驚きを隠せない。

 あのまま無意味に突っ込んでいたら、乱戦になり戦闘の長期化は避けられないことをつくづく思い知った次第だ。

 動けない隙にこのエリアを越えるべく、素通りするかのように走りまくる。走って走って、それでいて――

 

「ん? どうしたサヤカ?」

「あれ、もしかして痕跡じゃない?」

 

 え?

 

 思わずそちらを向いた。その視線の先、そこには大きな足跡があった。それも、明らかに獣道へと続いているかのような痕跡であり、

 

「ちょっとみて来る」

「え、あ、ちょっと!」

 

 カデットの静止を振り切り、勝手に彼女は痕跡の方へと走った。

 

 彼女を連れ戻さなければ。

 

 眩暈から立ち直れば、群れの渦中だけに戦闘は避けられないと踏んだからだ。同じく、拓也もそう思ったらしい。

 

「サヤカ、早う戻って来い! こんな場所で痕跡を採取している場合じゃ――」

 

 しかし、

 

「大丈夫、すぐ終わるから」

「サヤカさん、ここは――」

 

 とその時である。何処から共なく牙獣種の、それもライオンのような雄叫びが響いてきた。

 

「まさか!」

 

 嫌な予感がした。採取に夢中になっていたサヤカも、思わず手の動きを止めていて。

 

「戻れ! サヤカ」

「うん」

 

 拓也の声に、すぐさま作業を中断した彼女は、カデット達の方へと引き返す。――とその時である。

 気配を感じて、3階建程の高さもある高台の上を見たエルザが思わず叫んだ。

 

「危ない‼︎」

「え⁉︎」

 

 その直後である。雄叫びと共にサヤカとカデット達との間に降って掛かるは、巨獣の白獅子――ドドブランコだった!

 2、3回宙返りしては、

 

 ドスーンー……‼︎

 

「ひぃー‼︎」

 

 着地時の衝撃と驚愕で、その場にて尻餅してしまった。

 

「サヤカ!」

 

 拓也は叫んだ。

 

「拓也」

 

 舞い降りたドドブランコは、こちらの存在に気付くや

 

 ガオォォォー‼︎

 

 耳をつんざくようなバインドボイスを放った。途端、緊張が走り、場が修羅場と化す。ブランコ達を見れば、いつの間にか眩暈から復帰していた。

 

「俺が囮になる。二人はサヤカを――」

 

 直後だ。構えを見せたドドブランコは、いきなり撲殺せんとばかり飛び掛かってきやがった。

 

 っ!

 

「な⁉︎」

 

 2人は咄嗟にその場から飛びすさり、拓也は間一髪、ガンランスの大楯のみを引き出しては

 

 バキ――ン―‼︎

 

「くぅ!」

 

 さらに勢い余って、

 

 ザザザザザー……、

 

 と後方へ後退り。まるで突っ込んで来る巨岩をガードするかのように、大量の火花を散らすと共に凄まじい衝撃を全体重かけて凌いで見せた。

 しかし、気合いで凌いだものの、背後はすぐ壁。結果的に追い込まれたような格好になってしまった。

 

「拓也」

 

 うつ伏せのまま振り向いたカデットが叫ぶ。

 

「俺は大丈夫だ」

「けど――」

「副団長、だろう?」

「……分かった」

「なら――、くっ」

 

 壁際をいいことに、ドドブランコが剛腕を振るっては攻勢をかけて来る。正直、なんとかしたい状況だった。だけど、今は2人を無事に逃すことが先。

 

 この先は確か……

 

「エルザ、サヤカを連れて早く!」

「分かった」

「副長は?」

「私は大丈夫だから」

「サヤカ、行こう」

「う、うん……」

 

 後ろ髪を引かれる気分なのか。彼女の返事が元気なさそうだった。

 

「カデットも……」

 

 強烈な連続攻撃を凌いでいく中、苦し紛れに促す。しかし――

 

「何を言っているんですか?」

 

 と背負ったライトボウガン(クックアンガー)を取り出すや、ガチャリッと砲身をセット。

 

「副でも。団長たる者、仲間を置いていけるわけがないじゃないですか!」

 

 気炎を激らせた。

 

「……こ、心強いね〜。しかし――」

 

 遂に堪えきれず、膝折れ。それ以上は声を出せなくなってしまう。これ以上見殺しに出来なかったカデットは、猛攻のドドブランコの気を引くべく

 

「喰らえー‼︎」

 

 ボンー……‼︎

 

 砲身の先から火を上げて射出。奴の尻に命中するは、何発もの爆薬が破裂。連続した小爆は、まるで連続花火を連想するかのような様を見せつけた。

 

 拡散弾。

 

 複数個の小爆弾を内蔵した特殊弾であり、着弾時に中の小爆弾が飛散し複数回に渡り肉質無視のダメージを与える代物。他の弾丸に比べれば、火力面では1位2位に匹敵するくらい強力な弾だった。

 しかし、やはりと言うべきか。一回限りでは、巨体は巨体だけに、気を引くような痛手を与えるには及ばなかった様子。こちらを見向きもせず。そればかりか、

 

 え?

 

 いきなり後方へと跳躍、カデットの方へと飛んできた。慌てて飛び退るカデット。だが、彼女のいた場所までには至らず。構えを取るや、再びガードし過ぎて疲弊してしまっていた拓也へと目掛けて、突っ込もうとしていた。

 

 間に合わない。

 

 武器を収納して閃光玉を投擲するまでのタイムラグでは、到底間に合わないと悟った。――とその時、どこからともなく投擲アイテムを目に。

 瞬間、

 

 ピカ――‼︎

 

 眩い閃光が炸裂、周囲を真っ白に染め上げた。

 

 くっ、

 

 眩しさで目が眩むと同時に、野獣の呻き声が聞こえて来る。自らも動けない中、サヤカの声が

 

「拓也、こっち!」

 

 足音まで聞こえてきた。

 

 やがて、眩しさから解放されていく中、視界が回復していき――

 

「カデット、こっちに」

 

 グイッ

 

 力強く手を握られては、なされるがまま誘導させられる。

 

「エルザ⁉︎」

 

 まさか副団長たる自分が団員に手引きされるなんて……

 

 しかし、ここはそうも言ってられない。エルザと共に駆け抜ける中、後ろを振り向けば、あのドドブランコが眩暈から立ち直ろうと懸命にもがいていたのだ。

 

「副長ー‼︎ 拓也、エルザ‼︎ 早くこっちにー!」

 

 人一人がようやく入れるような氷窟の前にいるサヤカが、声を大にして叫ぶ。横をチラリと見れば、いつの間にか回復していた拓也が全力疾走で駆けていて。

 まさにそれは、マラソンレースで例えれば、どちらが先にゴールテープを切るのが先か? そんなような様を見せつけられた。

 

 はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、……

 

 スタミナゲージが減っていくに連れて息が上がってくる。が、そんなことは構わない。

 

 もう目前、目前に迫っているのだ。サヤカの元へと辿り着ければ。

 

 危機脱出の糸口、掴みかけていた。――とその直後、

 

 ガァウ!

 

 っ!

 

 唸り声と共に突如として、真横からブランコが急襲。カデットを張り倒してきた。

 

「カデット!」

 

 エルザの声。のしかかるブランコを相手にライトボウガンで必死にガードしながら抵抗する中、彼女の方へと視線を。すると、青ざめた表情が垣間見え、まさか、と思ったカデットは、ドドブランコの方へと向いた。

 途端、

 

 まずい!

 

 そこには。眩暈状態から復帰したばかりのドドブランコがいて。頭を振って気を取り直すや、こちらを向いたではないか。

 

 くっ、早くブランコを退かさなければ。

 

 のしかかられたままドドブランコの巨体が突っ込まれたら、ひとたまりもない。今まで以上に必死で抵抗しまくる。

 その中で、疾駆する足音が。足音は当然、こちらに近づいて来ていて――。

 

 や、やばい!

 

 もはや、巻き込まれて一撃キャンプ送りかに思われた。――と、そこで

 

「くっそー‼︎」

 

 ドンッ!

 

 とブランコ目掛けて体当たり。一撃が重たかったのか、意表を突かれたブランコは吹き飛ばされ

 

「拓也⁉︎」

「さ〜」

 

 バシッ!

 

 グイッと彼の手を掴んで起き上がるは、そのまま思いっきりダイブ。直後、先程までいたドドブランコの巨体が、飛び込んできた。 

 獲物を空振りで仕留め損ねたドドブランコ。

 

「ふ〜、間一髪ぅ」

「ありがとう」

 

 しかし、

 

「礼は後だぜ。副団長、指示を」

「あ、うん」

 

 すくさま、立ち位置から状況を読み解く。ドドブランコの見る方には、物陰に隠れるサヤカとエルザが待つ氷窟が。

 そこに逃げ込めば、この危機から脱することは、重々承知。だが、現状、この巨獣を誘導しないことには、逃げ込めそうになく――。

 

 てか、それ以前に2人が危ない!

 

 そんな危機感を抱く。

 

「エルザ‼︎ サヤカ‼︎」

 

 思わず叫んだ。――とここで、カデットの声に反応してか、白き野獣はこちらを向いた。

 

「っ! しまっ――」

 

 間合いを取ってなかったことに、今度はこっちの身に危険が迫り。その直後、突如としてドドブランコは直立姿勢に。

 

 この体勢、まさか⁉︎

 

 小ジャンプした矢先、カデットと拓也を下敷きとせんとばかり、ダイブからのボディプレスをかましてきやがった。

 

 ――交わしきれない――

 

 防具も防具。紙切れと同様の防御力しかないだけに、一撃キャンプ送りを覚悟して――

 

 ドンッ!

 

 横からタックルが。吹き飛ばされたその直後、

 

 ガキ――ン――……‼︎

 

「くっ」

「拓也!」

「間一髪だな」

 

 そして、ドドブランコの体勢が整わないうちに、ガンランスを収納するや

 

「ほら、行くぞカデット。今のうちだぜ」

「あ、う、うん……」

 

 我に返った後、立ち上がっては走った。走って走って、右へと。ドドブランコを迂回するかのように走り、そして、必死にサヤカ達のいる氷窟へと目指した。

 

「早く早く!」

「カデット、拓也!」

 

 2人の呼びかけが訊こえてきて――

 

 直後、背筋に悪寒が。だがしかし、構わない。構うことなく、走りまくって、サヤカとエルザの元に。

 一方、その2人はこちらを見ながら目を丸くして、

 

「まずい! 逃げるわよ」

「うん」

「え⁉︎ まずいって?」

 

 拓也が惚けたようなことを。彼とは違い、カデットは感じていた。

 

 獲物を逃すまいと、ドドブランコが突っ込んできたことを。

 

「そのまま逃げ切るわよ、拓也!」

「逃げ切るって? あ、ちょっと待っ――」

 

 背後から

 

 ガウガウガウガ――‼︎

 

「え? えええ、え――⁉︎」

 

 雄叫びを上げて追いかけて来た野獣の気配に、ようやく気が付いたのか。血相を変えて拓也は今まで以上に必死になった。

 本来は安全地帯だと踏んでいた洞窟内。今ではその体を成さず。目指すべき場所も定まらない中、がむしゃらに走りまくって。

 洞窟内へとねじ込んでくるドドブランコは、洞窟全体を破壊せんとばかり剛腕を振るいまくった。

 もはや、追撃は止まない。それはもう、恨みを買ったかのように執拗に。洞窟全体に激震が走り、壁面やら天井やらに亀裂が入りまくる。

 

「ひぇ〜、崩れるよー‼︎」

 

 死に物狂いで駆けるサヤカが鳴き叫ぶ。

 

 ミシミシミシ……

 

 と歯止めの効かない亀裂が入っていく音を耳にしながら、走り続け、やがて、遂に洞窟の出口を見た。

 

 間に合うか? 間に合わないか?

 

 崩落が激しくなりに連れ、出口が狭まっていき――

 

 くっ、

 

「うわ――‼︎」 

 

 先陣切ってエルザ、サヤカが揃って脱出に成功。やや遅れて喚き散らす拓也と共にカデットもダイブしながら、間一髪、脱出。執拗に猛追するドドブランコも脱出するかに思われたが、脱出直前に大量崩落。

 事実上、あの野獣だけ生き埋めになるような格好となった。

 雪崩打つように崩落した洞窟。その瓦礫から転がってきた氷塊が、拓也の足元に転がってきて

 

「ふぅ〜、一時はどうなるかと思ったよ」

 

 と一言。

 

「二度とごめんだね」

 

 続けて、エルザもまた、気を緩めた。

 

「さ、さすがにこれじゃあ無理だよね?」

「だろうな」

「少し休みましょうか? ……どうやら、この先も気が抜けそうにないですし」

 

 言いながら、目の前の光景を見据えた。カデットの見つめるその方向。およそ50m先にて、谷にかけられた一本橋がかけられていて。

 凍てついた縄で編みられた吊り橋は、なんともまぁ、脆さを前面にしているかのように見えた。

 

 ひと休憩……。と言っても、1時間ほど休んだ訳ではない。そこまで時間はかけられないから、感覚で言ったら30分くらいってところだと思う。

 なにせ、フラヒヤの天候は、いつ豹変してもおかしくないから。だから、晴れているうちに下山するべきだと考えていた。とは言え、今回の依頼でクリア条件となるような証拠品、手に入れた訳ではない。

 どちらかと言ったら、目撃しただけ。それくらいしか収穫がなかった訳である。

 なので、場合によっては無駄足で終わるかも知れない。期待はできそうになかった。なかったのだが、先を急ごうとしたところで、サヤカが何かを入念に探している姿を見た。

 

「何をしているんです? 行きますよ」

「あ〜、もうちょっと待って副長。もしかするとあるかも知れないから」

「何を?」

「え? 部位破壊の痕跡」

「部位破壊の痕跡? そんなもの――」

「だって、一瞬だけ見たんだよ。生き埋めになる直前に、(ドドブランコの)どこかの部位が砕けたところを」

 

 しかし、そこでカデット同様、拓也が信じられない態度で

 

「んなアホな」

 

 と一言。だけど、その一方で、エルザもサヤカの意見にはやや賛同だったらしい。

 

「やはりか」

「エルザ?」

 

 含みを持たせる彼女に、意外性を見た。

 

「なんとなくだけど、薄々気にはなってたから」

 

 そこで、エルザもサヤカの元へと歩む。カデットは思った。

 

 まさか〜

 

 と半信半疑に。でも、もし、部位破壊の素材が得られるんだとしたら、この調査クエストは無駄骨ではなかった証拠。少しは期待してもいい気がしていた。

 

「どうせある訳ないだろう? 部位破壊の素材なんて。てか、それよりも、早いとこ行こうぜ。いつ悪天候になるか分からないんだしさ」

 

 せっかちな性格と天候不安定な環境下の中、拓也は苛立ちを隠せないでいた。

 

「少しだけ、ほんの少しだけ待ちましょう。それでなかったら、行きますか」

「……分かったよ」

 

 返事のトーンからして、まさに、渋々って感じで了解したようだ。

 

 それから、数分後……

 

 タン、タン、タン、タン、……

 

 と地団駄を踏みながら両腕を組んでいた拓也は、やはりと言うべきか。天候を気にしてか、催促して来た。

 

「まだか〜?」

 

 エルザと共に探すサヤカは、説得するかのように答えた。

 

「あとちょっとだけ待って。そしたら……」

 

 しかし拓也は、彼女の返答には答えず。代わりに

 

「な〜カデット、どうするつもりなんだ? いくらなんでもないとしか言いようがないぜ。……なー?」

 

 と催促。催促されたカデットは、軽くため息を吐いた後、諦めた表情をして

 

「仕方ないですね」

 

 と前置きし

 

「約束ですもんね。……サヤカ、エルザ。そろそろ――」

「あった!」

「え?」

「あった? あったって?」

 

 そして、何かを握りしめたまま、サヤカは驚く2人の元へと歩いて来て――

 

「はい、これ」

 

 と手渡そうとして来た。思わず受け取ってしまったカデットは、

 

「これは……」

 

 と呟いた。と言うのも、彼女が受け取った物とは、ドドブランコの素材――〝雪獅子の牙″だったからだ。

 

「ありがとう。……てか、私に渡してもいいんですか? せっかく見つけたのに」

 

 しかし、サヤカは遠慮気味に答えた。

 

「いいのいいの。なんだか、1番欲しそうに見えたの副長だったし。それに、これっぽっちの素材見つけても、あたしなんか使い道ないしさ」

「そ……、ありがとう」

「ん? 元気ないけど?」

「あ、いえ。そうじゃないんです。ただ複雑で。せっかくサヤカが見つけた物なのに、て」

「さっきも言ったけど、別にいいって、あたしなんか。だから、持っていて」

「分かった」

 

 複雑な心境は横に置いとくことにした。

 

 あとで首飾りにでもしようかな。

 

 なんとなくだが、特別な素材のような気がした。

 

 

 

 

「どうしたの? 難しい顔をして」

「あ、言え別に……」

「そ……」

 

 顔を覗き込んできたサヤカを前にして、取り繕ってみせた。でも、内心では違和感を抱いてならなかったのである。

 それは、サヤカも含めて、エルザ、拓也を見ても明らかであり、その感情を抱くのは、どうも自分しかいないみたいだったからだ。

 なにせ、その3人を見ても、それらしき様子がなくあっけらかんとしていたから。つまるところ、その違和感とやらは一つに集約されていた訳であり。その訳と言うのは――

 

 〝生態系の変化″

 

 そのことだった。オムラ村長の話では、普段は人前――つまり、村間の貿易ルート上には、例えフラヒヤ山脈をやや迂回するとは言え、ドドブランコが現れることは珍しいとのことだそう。

 ましてや、ハンターでない限り、危害が及ぶ可能性が低く行者が襲われるケースは稀と聞かされていた。と言うか、そもそもゲーム上の設定なのだから、理由なんていくらでもつけれるのだが……。

 ともかく、ドドブランコを討伐する依頼を直に出せばいいのに、なぜ、調査クエスト扱いにしたのか。気にはなってたのである。それに、一戦やってみて思ったが、やたらと気性が荒かった。

 それはまさに、ドドブランコ以外の。それはもう、ドドブランコ自身が天敵と遭遇したかのような感じに気が立っていたように見えたからである。

 ちなみに、調査クエストの依頼では、こんな感じに書かれていた。画面に表示された依頼内容を見る限りなのだが、

 

『困ったものじゃ。普段は安全であるはずの交易ルートに、被害が出てしまった。目撃証言から、襲って来たのは白き獅子だそうじゃ。恐らくドドブランコの仕業だと思うが、確証を得るため依頼を頼めるかのぅ?』

 

 とのこと。

 勿論、依頼内容では情報不足も懸念していたから、フラヒヤ山脈のドドブランコの特性も聞いて来た訳であり。

 こうして、今となっては違和感がしてならないのだ。別の見方をすれば、その天敵とやら。うちらにも遭遇する危険性が場合によっては可能性がある。

 その点、違和感と共に、やはりと言うべきか。多少なりとも不安もあった。

 

「お、小屋発見じゃん!」

 

 第一声、拓也が歓喜の声を上げた。

 

「あ、ほんとだ。……副長」

「そうですね。今夜はここに泊まりましょうか」

「やっほーい‼︎」

 

 歓喜の拓也。彼につられてサヤカもまた、こぞって走り出した。走って行く2人を見つめながら、

 

「無邪気なものだね、あの2人」

「そう言うエルザも、ようやく安堵できる場所、見つけたんでしょ?」

「当たり前じゃん。あんな目には二度とごめんだからな」

 

 ははは……

 

 気持ちがわかるだけに、思わず苦笑してしまった。カデットを置いて、エルザも早歩きで小屋へと向かう中、その小屋を一時眺めるカデットは、

 

「結局はリアルに見せかけたゲームに過ぎないんだよね、これも」

 

 その言葉の通り、深く考えずに割り切ることにした。とは言え、いくら調査クエストだけに、発見次第、討伐。それができなかったことだけは、本当にもどかしかったけども。

 なにせ、それができれば、ある意味、報酬がごまんと手に入る。そうなれば、新たな武具作成兵の道が切り開かれる。装備に関しては、カデット自身、コレクターのようなもの。

 楽しみが増えるんだけども、しかし、現状は現状。武器面に関しては、なんとかなるかも知れないが、方や防具に関しては、結局、紙同然のようなもの。

 総合的に考えて、まともに戦って勝てるわけがない。だから――

 

「仕方ない。まぁ、いっか」

 

 その考えは追々としよう。

 

 再び歩き出した。そして、生態マップの通りなら、この場所が、事実上、最後の設営地となるだろう。

 カデットは拓也達に告げた。

 

「今日はこの辺にしときましょう。もう、日も暮れてきたことですし」

 

 その言葉を皮切りに、休息の時を過ごす。このまま、一抹の不安が少しあるだけに、

 

 無事に、生還できるよね。私達……

 

 そう願っていた。

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