モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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5章:ガルド湖の戦い・4話

 それは優しい刺激から始まった。程よい山風が靡いては、頬を撫でたからに他ならないから。それだけに、深く深く沈んでいた意識が、浮上してくるような感覚を覚えた。

 

 う、う……

 

 微かな呻き声と共に、うっすらと目を開ける。見知らぬ天井。細長い丸太をいくつにも組み込まれた、見知らぬ天井がそこにあった。

 かけられた麻布団を払い除け起き上がり、そのままベッド上で端座位。脳内、靄がかかったままなだけに、額に手を添えてみた。

 

「確か、私は……」

 

 試しに記憶を手繰ってみる。が、結局、寝起きも相まって今は無理のよう。安静にする他はないみたいだ。

 しかしその一方、それはともかくとして、不思議に思ったことがあった。あって、そのままベッドから立ち上がっては、部屋を散策してみる。

 

「ログハウス、って訳ではなさそうですね」

 

 部屋を出て廊下を見渡したり、隣室を覗いたりもしたが、明らかに誰かの住居であることには間違いないようだった。

 

 でも、誰の……?

 

 するとそこへ、背後からしゃがれた声が

 

「お、目覚めたようじゃのぅ」

 

 ドキリッ

 

 いきなり声をかけられたことに吃驚、全身鳥肌が立った感覚を覚えた。

 すぐに振り向いて、そこには背丈が自分の膝程か。或いは、それよりも若干小さいと言うべきか。

 ともかく、そんな小柄な老人がそこにいたのである。一瞬、

 

 誰?

 

 と訝しんだが、数秒を経て見覚えのあるご老人だと気が付いた。

 

「オムラ村長……。ってことは、ここは?」

「わしの家じゃよ」

 

 それから経緯を

 

「いや〜、吃驚したワイ。村の出口で倒れていたんじゃから」

 

 と、驚きを隠さなかった。

 

 村の出口で倒れていた? 私が?

 

 頭が混乱した、全然記憶がないだけに。……いや、かなり朧げであるが、そんな気がしなくはないかも。でないと、私がこうして、村長の家に居る理由が成り立たないから。

 

「私は、一体……」

「その様子じゃと、よほど疲れていたんじゃな。まぁ、ゆっくりしていくといい。時間はたっぷりあるからのぅ」

 

 そう言い残し、とりあえずその場を後にした。

 

 去った後、一人になったカデットは、ひとまず頭の中を空っぽにすることにした。なにわともあれ、混乱したままではどうしようもなかったから。

 

 はぁ〜

 

 頭の切り替えと言うべきか、軽く息を吐いた。再び静けさがやって来る中、心の赴くまま窓際へ。そこから見える景色には、あのフラヒヤ山脈がよく見えた。

 天候が良いのか、珍しく澄んでいて。それはもう、山奥まで鮮明に見えるくらい晴れ渡っていたのである。

 

「サヤカ……」

 

 ふとした拍子に、仲間の名を口にした。そして、その皮切りに、昨日のことを思い出して

 

「そうだ。私、逃げてきたんだ。サヤカと共に。でも、なぜ……? っ!」

 

 呟くうち、そこでカデットは全てを思い出してしまった。それはまさしく、堰を切ったかのように忌々しい記憶の波が押し寄せて来る感じに。

 そして、それを皮切りに、ひらかれていた両手に、悔しさ、自分への怒り、罪悪感。そして、絶望感。

 それらが入り混じったために、自然と力が籠り、そのまま握り拳となった。

 

 そう……

 

 カデットは逃げてきたのだ、一人だけ。それも卑怯と言わんばかりに。

 

 もはや、私には……

 

 そう思い掛けたところで、後ろから声をかけられた。

 

「落ち着いたかいのぅ?」

「村長……」

「ポッケラテ、一杯どうじゃ? 村で有名な特産品じゃて」

「ラテ、ですか〜」

 

 ちょっとした合間、それなら〜

 

 村長から受け取るなり、再び簡易ベットへと赴きそのまま腰を据えた。一方、オムラ村長も彼女の隣へと来るなり、

 

「失礼してよろしいかのぅ?」

 

 と一言。カデットとしては別に断る理由はなかったため

 

「ええ、ま〜」

 

 曖昧な返事をした後、少しばかり傍にずれた。小柄な村長が、体格に見合わないベットに、よっこらせ、とよじ登っては、彼女と同じ形で座り一息ついた。

 

「ほほほ、来客用でのぅ。よじ登るのに苦労したわい」

 

 言いながら苦笑してみせた。

 

「来客用、か〜」

 

 どうりで合点がいくな〜、と感じ得た。だって、体格に見合わないだけにだ。

 

「でも、結局、無用の長物しかならなかったがのぅ」

 

 その言い草、まるで粗大ゴミの視点で捉えているようにしか見えなかった。だけど、カデットとしては、全くの役立たずとは思えなく。

 ラテを一杯啜るや、やんわりと否定。

 

「それは違うと思います。実際、このベッドで休められたことですし」

 

 するとオムラ村長は、

 

「そうかのぅ〜」

 

 少し嬉しそうにした。

 

 ラテを啜る中、まったりとした時間が流れていく……

 

「ありがとうございました」

 

 コマンドから〝片付ける″を選択して、飲み終わったカップを消すとカデットは丁寧に礼を述べた。

 心の余裕ができたのか。一息ついただけに、なんだか落ち着いたような感じがした。

 

「それはそうとじゃが……」

「なんでしょうか?」

「いや〜、なんて言うがな。お前さん、勿論、仲間を連れて山脈に足を踏み入れたのじゃろう? 一人で下山してきたみたいじゃが、何かあったのかね?」

「そ、それは……」

 

 まさに痛いところであった。それだけに、あのトラウマが蘇ってくる。ティガレックスによる、拓也とエルザ、そして、サヤカの犠牲。

 それらから、逃げてきた情けない自分の姿までもが、客観的な立場から目に見えてくるのだ。

 

「その様子じゃと、訳ありそうじゃのぅ?」

「え、あ、いや、私は……」

 

 辛い心境が顔に現れてしまったらしい。関係ないアカの他人でしかない村長に、気を使わせてしまったみたいだ。

 だけど、オムラ村長はそれ以上、干渉する気はないらしい。ベッドから降りると、こちらを振り向いた。

 

「別に無理に話さなくてもいいわい。それに、返すものがあってのぅ」

「返す物? ですか」

「そうじゃ、返す物」

 

 その言葉を残し、村長は角に消えた。

 

 返す物、なんだろうか……

 

 一晩ぶっ通しで下山して、ポッケ村に辿り着いたところまでは朧げながら思い出した。

 だけど、あの時は必死だったから、下山中に何を手にしていたのか、まるで覚えてないのが正直なところだった訳であり――。

 

 数分経ったあと、オムラ村長は何かを肩に引っ提げながら。――いや、半ば引きずってはいるが、その返す物とやらを持って来てくれた。

 

「やれやれ、背丈に見合わないのを運ぶのは、ちと骨が折れるわい」

「それは……」

「よっこらせっと。ほれ、これじゃて。お主にとって大切な物じゃろう?」

 

 そう、その返された物とは、カデット自身が今まで愛用していたライトボウガン――クックアンガーだった。

 

「ありがとう、ございます」

 

 そして、そのまま受け取ろうとして――

 

 ピタリッ

 

 伸ばした手が寸前で止まった。……いや、止めざるを得なかった。それくらい、罪悪感があっただけに。

 一方、それを見たオムラ村長は、彼女の行動に対して不思議に思ったのか。心境を知らずして尋ねた。

 

「んっ、どうしたのじゃ? そんな険しい顔をして」

 

 すると、カデットは、

 

「……受け取れません」

 

 と一言。

 

「え?」

 

 思わずキョトンとしてしまう村長。であるが、しかし――

 

「ん〜、返してくれるのはありがたいんですが、もう、私にはそれを受け取る資格なんてないので」

 

 そう、私にはその資格が。経緯はともかくとして、結論からして仲間を見殺しにしたのだ。

 再び受け取り、一プレイヤーとして続けるなんて、厚かましいにも程があるものだと。そんな自分が許せなかったのだ。

 一方、

 

「じゃ、じゃがのぅ〜」

 

 流石の村長も面を食らった様子。その表情には困惑が滲み出ていた。

 カデットは少し冷静になり考えた。それで

 

「分かりました。受け取るには受け取ります。ですが、私にはもう居場所がありません。あの時、仲間を見殺しにしてしまったのですから」

 

 思わずと言ったところか。考えて発言したはずが、本音がポロリ。溢れたような気がした。

 

「なんだか、訳あり、そうじゃな。村の出口付近で、一人だけ倒れていたと言うか。良ければ話してごらんさいな」

「しかし……、わかりました」

 

 もはや話す相手など、村長以外、いないに等しいかった。それだけに観念して、徐々にだがカデットはことの顛末。それから、今後における自分の在り方。胸の内を開け始めた。

 そして、その意を汲み取ったオムラ村長は、カデットを居候させるに至り。方やカデットとしては、それはもう、恩人以外何者でもなく。

 それからと言うもの、オムラ村長のことを〝ご主人様″と呼ぶようになるのは、時間の問題だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうした? 浮かない顔をして」

「え? あ、いや。別に……」

「ふ〜ん……」

 

 素っ気ない返事だっただけに、彼は不思議な印象を伺わせた。けど、そんなJ.Oに指摘されたものの、別に答える義理はなかった。その心境とは、昨日のことである。

 昨日、オムラ村長との作戦会議を終えてから、カデットを見つけて。それでいて、彼女から、何故、ハンターを拒むようになったのか。その辺りの事情を聴いてからに、思うところがあったのだ。

 

 そう、思うところ……

 

 経緯は違えど、それは今は亡き狩友(サユリ)の団員達。ユウト自身も、口には出さないまでも、本心では抱えているのかも知れないが、彼らを助け出せなかった事実と罪悪感があったから。

 けれど、もはや過去のもの、そして、致し方ないものだと言うことで、普段、考えてはいなかったが。

 だけど、カデットの話を訊いてからは、それらをしみじみ考えさせることに繋がってしまったのである。

 だからなのだろう。辛い過去を抱えているだけに、カデットの気持ち、大方理解できたのは。

 いわゆる同情していた。そんなところだった。

 

「どうしたネ?」

 

 ん?

 

 小凛の声がしたかと思ったら、行進がそこで止まった。

 

「なんかあったのか?」

 

 とJ.O。ケインも彼と同じく、先頭にいるノブ公の様子を伺って見せた。よくよく見ると、画面を表示させて何やら調べ物をしているように見える。

 そんな中――

 

「あ、雪」

「あら、ほんと」

 

 粉雪のような柔らかい雪が降り始めたことに、小狼とレイナが揃って、掌を見せ感触を嗜んだ。

 やや間を置いて、

 

「……やはり、そう簡単にはいかないか」

「うまくいかないって?」

「え、あ、いや〜。なんて言うかな……」

 

 そこから先は、よく訊こえず。様子を伺うに、ノブ公と小凛、互いに相談しあっているように見えた。

 何やら話し込んでいる模様。

 

「もしかして、行き詰まった的な?」

「え? どう言うことニャ?」

 

 隣に寄り添っていたジャムが、疑問を投げかけた。それに気が付いたミルクの視線も浴びながら、ケインは思い付きで語り始める。

 

「つまり、普通に考えて無理もないってことさ。痕跡があろうがなかろうが、雪に埋まっていたら意味ないってこと。それに、地図にも明確な場所が書かれていなかったろう?」

「ん〜、確かににゃ。ミルクはどう思うかニャ?」

「ボクは……」

 

 そこで、最前列から声を掛けられた。

 

「悪い、みんな。やっぱり引き返そう」

「は? なんでだよ。ここに来て」

 

 とJ.O。意味が分かってないだけに、苛立つ様子を見せた。けど、ケインとしては、想定通りだっただけに、ノブ公の判断にはほぼほぼ驚かなかった。

 ただただ、一言で言わせれば〝残念″。それだけである。ノブ公が後列の者達に簡単な理由をし、それを訊いた、ブレット、レイナは揃って引き返そうとする。

 しかし、J.O。彼だけは納得がいかないみたいだった。

 

「揃いも揃って、本当にいいのかよ? 俺は反対だからな」

 

 俄然、そのまま突き進もうとした。ノブ公が説得、するかに見えたが

 

「無駄ネ、J.O。話を訊かなかったかネ?」

「訊いたよ、訊いた。だけど、この先で待っているんだろう? 見捨てて引き返せることなんてできる訳がねぇ」

「あ、ちょっと⁉︎」

 

 小凛の説得も空く、突き進もうとする。流石のノブ公も、これには口出さずにはいられないみたい。

 

「落ち着きたまえJ.O。何も、見捨てる訳ではないんだ」

「しかしな〜、おっさん」

 

 ――とそこへ、興奮気味のJ.Oの元へ歩み寄るは、レイナ。彼の背中に手を当てがう。

 

「団長の話は本当だから〜、大丈〜夫」

 

 彼女の存在に気付いてからに、振り向いて

 

「れ、レイナさん。し、しかし……」

 

 その表情たるや、説得する仲間からの言葉を訊いてからに、葛藤の色合いが滲んでいた。

 

「詳しい事情は訊いてないけどよ」

 

 と前置き。続けてケインは、この状況を鑑みて、自分なりに解釈して見せた。

 

「なんとなくだが、おっさんの言いたいこと察するんよ。第一、(隠れ里の)場所が判然としないんだ。それに、里に関する痕跡がありそうな箇所も含めて」

「……ん〜」

 

 その難しい顔たるや、頭では分かっているんだが……。そんな風に見え隠れしていた。

 

「ノブ公のおっさん、一つ訊いていいか?」

「あ? いいが」

「引き返すって、どこまで戻るつもりなんだ? 場合によっては」

 

 すると副団長は、言葉で言い表すのが難儀なのか、生態マップを表示。特定領域を見開いたまま、彼に歩み寄った。

 

「大雑把に言ってこのくらい。でも、最悪の場合は、村に戻るのも視野に入るかな」

「ぐぬぬぬ……」

 

 悔しさが滲み出ていた。一方、ケイン。だけでなく、レイナ、小凛、小狼、オトモ達も。揃いも揃って、2人の周りに集まって来た。

 気になるのだろう。彼らは示された地図を、覗き見るようにして注視し始めた。

 地図上には、おっさんが示したであろうマーカーが楕円形で描かれている。たぶん、大雑把で示したのかも知れないが、現在地を示す〝▲″からは、だいぶ離れていることには間違いなかった。

 それだけに、J.Oが苦い表情をするのも無理ない気がした。

 

「これだと〜、ほぼほぼ下山一辺倒ですね。困りましたわねぇ」

 

 のほほんと他人事のように、レイナが感想を漏らす。他方、J.Oの顔色を気にしていたブレットは、鼻眼鏡を直すと、何か考えでもあるのか

 

「副団長、ちょっと貸してみてもいいかにゃ?」

 

 頼んできた。セツナのオトモ。慣れ親しんでいる間柄だけに、ノブ公は地図をコンパクト化させると、そのままブレットに手渡した。

 

「う〜ん……」

 

 暫し、地図と睨めっこしていく。ケイン達も、彼の動向を固唾を飲んで見守り始めた。

 そんな中、気分転換するつもりなのか。小雪が少しだけ降っている景色を見渡し――

 

「にゃ?」

 

 ある一点を見据えた。

 

「で、妙案。どうなんだ?」

 

 とJ.O。ブレットは――

 

「ん? どうしたミルク?」

 

 ふと視界に、先を見据える彼女の姿を捉えたケインは、不思議そうに尋ねた。

 

「影、影を見たにゃ。一瞬だけ」

「は? 影。どこに……」

「あそこだにゃ」

 

 その示した方向。そこには、大小様々な岩が、ゴロゴロといくつか雪を被ったまま転がっていた。

 

「……気のせいじゃね? 岩陰と勘違いしたとかじゃぁ」

「そうかにゃ〜」

 

 さすがのミルクも、これには首を傾げてしまった。しかし――

 

「あ、まただにゃ!」

「え?」

「また、影が見えたにゃ」

「影? ……は〜、気のせいじゃね、きっと。第一、影つっても、ここからじゃ、よく――。って、おい!」

 

 勝手に一人で岩地帯へと向かって行くミルクに、やや慌ててしまった。

 

「ん? なんかあったネ?」

「あ、いや。ミルクがな」

 

 そう言いながら、彼女が向かった方へと指さして――。何かを見つけたのだろうか、呼びかけてきた。

 

「おーい! やっぱり何かあるニャ」

 

 ケイン、小凛。揃って顔を見合わせると、気になっただけに話し合い中のノブ公達を尻目に、彼らから離れてそちらへと走った。走って、そして――

 ミルクのいる場所は、プレイヤーの背丈の半分程度くらいの岩付近。その場所は、ちょうど先程までいた辺りから見て死角になるような箇所であった。

 おっさん達から見て、一応見える場所に2人は立つと、発見したその〝何か″と言うものを示してくれた。

 

「足跡? でも、小さいな〜」

 

 と呟くケインが見るは、先程まで何匹かいたような足跡であり、その形状はまるで、アイルー。はたまたメラルー。

 いずれかに該当するかのような肉球の足跡だった。

 

「いずれにせよ、採取しとくネ」

 

 剥ぎ取りナイフを持ち出した小凛は、その痕跡とやらを手際よく採取。分析にかけた。

 

「どうだったかニャ?」

 

 すると、案の定と言うべきか

 

「〝獣人族の足跡″だってさ。いずれにせよ、この場所にいたことは間違いないネ」

 

 ――と、そこへ別の声が。

 

「やっぱりか〜」

「お! ノブ公のおっさん、いつの間に」

「いつの間に〜、じゃないぞ、ケインくん。いつの間にか居なくなっていたから、こちとら心配したんだぞ」

「す、すみません」

「で、小凛も」

「ごめんなさいアル」

「ったくも〜。……で、足跡はいくつあったんだ?」

「少なくても2つ以上はあるニャ」

「ほ〜、どれ……」

 

 他の団員達もぞろぞろと集まってくる中、ノブ公はミルクが示した足跡とやらを確認してみた。

 それで、結論

 

「……なるほどな。確かに」

 

 足跡をなぞるかの様に、徐々に視線を遠くへと見据えて行く。

 

「何か分かったのかよ、おっさん?」

 

 気になったのか、J.Oが問う。

 

「恐らく価値はあるかもな」

「価値って?」

 

 疑問に思うJ.O。そんな彼をよそに皆の方へ向くと、ノブ公は方針を打ち出した。

 

「ルート変更だ、足跡を辿ろうと思う。恐らく、この先に隠れ里があるかも知れない。でなくても、それに見合う新たな痕跡が出る可能性を含んでいる。だから」

「え? そんなんでいいんかよ?」

 

 が、しかし、

 

「私は任せますね」

「おっさんがそう言うなら」

「ちょ、ちょっと、2人して」

 

 レイナ、小凛が同意。J.Oだけがやや懐疑的だったが、彼以外は異議はなかった。そして、皆が揃ってノブ公の後に続く中、

 

「え、え〜」

 

 納得いかず訝しむJ.Oの声が、後ろから訊こえてきたのは言うまでもなく――。

 

 危うく見失いそうにはなるが、足跡は途切れることなく続いていた。道筋を辿って行くに、その有り様は、縦一列で隊列を組んでいる様に見えた。

 

 もし、この行く末が隠れ里へと続いているのなら……

 

 ユウトとの再会に目処がつきそうで、なんとなくだが淡い期待が込み上げてくる。

 

「しかしな〜」

「どうした? ケイン」

「あ、J.O。いや、なんて言うかな。随分と脇に逸れているんじゃないか、ってな」

「脇に逸れてる?」

「ああ、先程までは、真っ直ぐ稜線目掛けて尾根伝いに登って行ったのによ。なんだかんだで回り道している感が否めなくてな。しかも、ほら」

 

 そう言いながら、手元に表示した、(現在地)記入済みの生態マップを、ヒョイッと投げ渡すかの様にして彼に見せてあげた。

 受け取った後、暫し見つめるJ.O。……そして、合点がいったのだろう。

 

「なるほどな。てか、反対方向に行ってないか? 目的地が逆だぞ」

「あ、確かに」

 

 うかつ、そこまでは確認しなかった。多分、縮図にしたから分かったのだろう。勘がいい奴だと、少しは関心した。

 

「だろう?」

 

 そんで

 

「なー‼︎ おっさん!。……おっさんってば! おっさん‼︎」

「あ、なんだ? J.O」

「道、間違ってないか? ガルド湖、逆だぞ、逆。いいのか?」

 

 すると、

 

「あ〜、確かに」

 

 そこで、自前の生態マップを見開く。色々と目を通した後、しばし思い悩む節が見られた。が、

 

「確かに、それも一理ある」

「だろう? だから――」

「だからだ」

 

 え?

 

「え?」

 

 J.Oと同じく、これには流石に首を傾げた。するとそこで、小凛が

 

「何か考えでも?」

「まぁな。ようは、言うは易し、行くは難し。だ」

「は? それ、なんの比喩だよ」

 

 言葉の意味が理解できず、困惑がさらに深まった。皆の注目が彼に集まる。そのなかで、一言

 

「地形」

 

 と。反芻するかの様に、J.Oは

 

「地形? だと」

「そ、地形。最初は行けるかに見えたんだけどな。しかし、現実は違ったみたいなんだな、これが」

 

 現実は違っていた? 

 

 謎は深まるばかりである。それもそのはずで、短気な性格も兼ねていたJ.Oは、苛立ちを見せ始めた。

 

「なんだよ水くさいな。ハッキリ言えよ、おっさん」

「は〜、仕方ない。……要するにだ、崖。崖だよ、崖。分かるか?」

「崖?」

 

 肩を落とすノブ公に、彼の一言に訝しむJ.O。ケイン自身も、はたまた小凛達も、持参の地図とやらを現在地を中心として表示させてみた。

 地図と睨めっこする。その中で、先に気付いたのはレイナだった。

 

「なんだか、太線が邪魔しているみたいに〜」

「太線? ……あ、ホントだネ」

 

 太線? ……っ! もしかして……

 

 表示切り替えから等高線モードへ。現在地からガルド湖方面にある〝太線″とやらの障壁を探ってみた。

 すると、なんてことだろうか。その線はくねくねと歪曲を描きながら、稜線近くまで刻まれているではないか。

 

 しかし、この太線の意味とは……

 

 その疑問に応えるかのように、ノブ公が解答を提示した。

 

「だろう? ようは高低差。少なくとも100mは、ゆうにくだらない崖が、そこに連なっているってことさ」

「100mって……」

 

 訊いて青ざめた。

 

「でも、行けなくはないんだよな? 第一、ゲームの中だぜ。へっ、まさか飛び降りたくらいで」

 

 たかを括ってみせるJ.O。モンスターの攻撃を受けるわけではない。落下したとて、まさかキャンプ送りなんかする訳が。

 そんな魂胆が見え隠れしていた。だけど

 

「なら、そうするか? ただ、これだけは言っておくぜ。地形ダメージがどのくらい下方補正されているかまでは、俺でも保証はできないぞ、とな」

「開発者なのにか?」

「開発者でもだ。その辺のバランス調整は、AI任せみたいな節があるからな。どんな結果をもたらすか。いずれにせよ、試すなら最初にやれよ」

「うぐぐぐ……」 

 

 そこまで言われて、具の根も出ないみたいだ。

 

「訊いた限り無謀だな。下手すりゃあ、キャンプ送りも視野に入りかねないからな」

「私もネ。ギャンブル紛いはごめんアル」

「と言う訳だ。だから言っただろう? 言うは易し、行くは難し、てな」

「J.O……」

 

 歯痒さを堪える彼の肩に、そっと手を充てがった。そっと目を閉じるや、どこか諦めたのか

 

「ったくよ……」

 

 言葉を吐き捨てるや、肩をすくませた。

 

「いずれにせよショートカットは無理なんだ。先を急ごう」

 

 再び足跡を辿り始める。隠れ里への、確かな手掛かりであることを祈って。

 しかしその一方、後ろを振り向けば、距離的にはだいぶあるにせよ、目前にあるガルド湖から背を向けるような形。

 それだけに、なんだか後ろ髪引かれそうな気もした。

 

 それから、足跡を辿ること暫くして――

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、……。おっ、どうやら勘は的中したようだな」

 

 先に丘を登り切ったノブ公は、息絶え絶えながらであったが、どこか確信めいたようだ。

 

「副長、なんかあったかネ?」

 

 するとノブ公は、自信ありありと答えた。

 

「あるも何も、里だよ里。目指すべき里、ようやく見つけたのさ」

「里? だと」

 

 ザクザクザクザク……

 

 気になり出したら止まらず、と言ったところか。妙にキツい登り坂を、猪突猛進の如くJ.Oは駆け出した。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、……。妙に元気ですにゃ」

 

 体力バカの意地でも見たように、息切れしているブレットが脱帽したよう。その様に、呆気にとられていた。

 

 そして――

 

 レイナ、ミルク、小凛、小狼。一足遅れて、ケインとジャム。続けて、ジャムに手助けされる形で、気合いと根性を見せ、丘を登り切ったブレットら一行。彼らは壮大な山脈を拝みつつ、眼下にて目指すべき場所を見据えるのだった。

 

 

 

 

「た、確かに里といえば、里、だな〜」

「そ、そうですね〜」

 

 ノブ公とレイナ。2人だけでなく、他も口元が引き攣るのも無理もなかった。なんと言うべきか……

 

「見た感じ、まるで、遺跡、だな。しかも崩れかかっていると言うべきか」

 

 皆を代弁するように、ケインが第一印象を述べた。

 

 そう、遺跡。

 

 ケイン達一行は、里とは名ばかりの旧世代が築き上げたような遺跡? の入り口の前に来ていた。

 

「な〜おっさん」

「ん?」

「これが、例の隠れ里、なんだよな? 元ディレクターなら理解できるとは思うが」

「ま、まぁな」

「まぁな、って」

「半分は開発に携わったさ。だけどもう半分は、COMと神宮寺を中心とした共同開発だったから、全部把握とまでは」

「おいおい……」

 

 なんてことだろうか。開発に携わった人間が把握し切れてないとか。直接命に関わる事ではないとは言え、なんだか不安になりそうだ。

 

「にゃ? どうしたのかニャ?」

「え? あ、うんうん、なんでもない。ちょっと考え事をね」

「レイナさん?」

 

 なんだか顔色が悪そうな彼女に、皆が気にかける。そんな中、レイナをフォローするかのように

 

「ま、無理もないさ」

 

 とノブ公。続けて

 

「気になって仕方ないんだろう? セツナが」

「え? あ、うん。そ、そうね〜」

 

 取り繕ったかのように笑みを見せた。しかし、

 

 なんだろうか? 

 

 ケインとしては、この時、彼女の受け答えに、妙な違和感を抱いてやまなかった。まるで、別のことを気にしているような。そんな余計な想像を働かせてしまったのだ。

 だけど、敢えて言わないでおいた。言ったところでどうこうするつもりもない上に、なんだかプライバシーに関わりそうな気もしたから。

 

「どうした? ケイン」

「え? あ、いや。なんでもねぇよ。それより、行こうぜ」

 

 変なものを見るような感じで見ていたJ.Oをよそに、ケインは一足早く、遺跡のような隠れ里に入って行った。

 そんな中、後ろからJ.Oを気にするような声が聞こえてきたのは、言うまでもなかったが。

 

 それから暫くして――

 

 遅れて続々と入って来るノブ公達。彼らを通りの中腹に立って、ケインは一人、様子見していた。

 遅れてきた者達は、物珍しそうに辺りを見渡す。一方、先程、ケイン自身も同じようなことをしていた。

 遺跡内に立ち寄ること、全く気配を感じられず。その気配とは、まさにモンスターのことを指し。

 それはもう、ある種のモンスターが立ち入れない禁止エリアかのようにさえ思えたのである。

 だけど、それは勘違いだと直ぐに気付かされた。特段、危険と言う訳ではないが、遠くに座すは白黒のニャンコこと、アイルー&メラルー。

 今のところ彼らしか目撃できていないが、ともかくその2種の獣人族(小モンスター)が棲息していたのを見かけた訳だ。

 

 アイルーはともかくとして、メラルーはな〜

 

 下手に近寄り、盗み癖のあるメラルーに構われでもされたら面倒。あまりうろちょろしないに越したことはないようだ。

 

「ほんとに、村長曰く、里なのかネ〜」

 

 遺跡の雰囲気を読み解いた小凛が、疑いの目を持ってして声をあげた。

 

「内部まで。これではまるで、旧世代の遺跡、そのまんまですニャ」

 

 小凛に続いて、分析担当のブレットまでも、懐疑的な観点を口にした。

 

「ま〜、無理もないかもな。だが、キャンプ候補としては売って付けだと思うぜ。なにせ、モンスターの気配もないみたいだし……。あ、いたか」

 

 喋りながら、今更のようにノブ公は、遠方に居座るアイルー達の存在に気が付いたようだ。

 

「ともかく、設営地設置の準備に取り掛かろうにゃ。早くしないと――」

「ま〜、そんなに焦らなくても」

 

 と天候を気にするミルクに、小狼は宥めた。他方、レイナはまろやかに補足するかのように、二人の会話に割って入る。

 

「そうですね〜。……副団長」

「だな。ともかく、さっさと山菜ジジイ見つけて、設営クエ、受注せんとな」

 

 こうして、手分けして山菜ジジイを探すことに。ちなみに、ここに棲息していたアイルー・メラルー達は先住猫らしい。珍しく何もしてこなかった。

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