モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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1章:悪夢の祭典・終話

 

 「一体全体どうしたっていうんだよ? ユウト。そんな慌ててさ」

 

 さすがに困惑するケイン。いきなりのことにココアもびっくりしていたが、俺はそれを無視して近くにあった円卓に腰を据える。

 

「とにかく空いている席に座れよ」

「あ、ああ……」

 

 訝しそうな表情を浮かべつつも、言われるがままに座るケイン。俺は事情を話すべく口を開く。

 

「どこから話せばいいのやら。……とにかくあの場から少しでも離れたくてな」

「あの状況じゃ、それは分かるけどよ。でも、そんな手をひっぱってまで慌てることはなかったと思うぜ」

「あ、まあ……それはすまなかった。だけど、あのままじゃ、錯乱した連中に巻き込まれて俺たち離れ離れになりかねないと思ってな」

 

 続けて

 

「それに……」

 

 ここで躊躇いが生じてしまい一旦口を閉ざしてしまう。言うべきか言わないべきか。しばし考え込んだ後、俺は意を決して再び口を開いた。

 

「それにあの混乱の中じゃ、俺たちまでその影響を受けかねないし」

 

 その考えを聞いてケインは、やや押し黙りつつも

 

「……そ、それはどうも」

 

 照れくさくも礼を述べる。しかしそこで、反論をした。違う意味で。

 

「だ、だけどよ。あれはないよな」

 

 あれとはCOMが述べたこと。デスゲームのチュートリアルのことである。

 

「確かにない。あれはいくらなんでもおかしいし、俺だって信じられない。だけど、COMが言ったことは、確証はないが恐らく本当のことだと思う」

「おいおい、マジかよ」

 

 青ざめていくケイン。無理もない。非現実的なことが現に起きてしまっているんだから。しかし俺は続けて言う。ありのままを。

 

「現に、一人ひとりのアバターが消滅していく様を目撃しているから、なおのこと」

 

 とそこで話を聞いていたココアが、話題に入り込んできた。

 

「どうもこうも聞いていると、なんだかただごとではなさそうみたいだにゃ」

 

 よちよち歩いてくるわ、俺のところに近寄ってくる。

 

「ちょっと失礼してもいいかにゃ」

「あ、ああ……」

 

 断りを聞いて、ココアは俺の膝へと

 

「よいしょっと」

 

 といい、乗っかってきた。ケインはココアに目がいったらしく、

 

「その猫は?」

「ああ、こいつは給仕ネコのココアだ」

 

 と自己紹介を軽く入れておく。

 

「初期設定時に一番最初に出会ったんだ。お前にもいるだろう? 多分」

 

 そう言われてケインは、思い出したかのように、ここで相槌を入れる。

 

「ああ、まあな」

「ん? その言い方だと、あまりコミュケとっていないなあ」

 

 じと目で見つめる俺。ケインは言い訳っぽく身振り手振りを交えて話す。

 

「ん、んん……。だ、だってよ、ただのNPCだぜ。そんな必要なこと以外、ほとんど会話なんていらないだろう、普通」

「ああ、まあ……な」

 

 苦笑いする。確かに、ケインの言うとおり、NPCには変わりないと思うが……。一方、ココアは傷ついたのか、潤潤と涙を滲ませて言う。

 

「ひ、ひどいにゃ。確かに僕たちはNPCだけども、ちゃんと人前に話でもしてくれたっていいじゃないかにゃ。仲間が可哀想だにゃ」

「おいおい、そこまで同情しなくたって……」

 

 と慌てて取り繕うケイン。俺はじと目でいじわるっぽく述べる。

 

「あ~あ、泣かせちゃった」

 

 それに反応したのか、ケインは慌ただしく言い訳する。

 

「おいおい、ユウトまで。そんなに俺ひどいこと言ったけか?」

「言ったと思うぜ、多分。それに俺は、たとえこいつ(ココア)がNPCだったとしても、心をこめて人前に会話するぜ。一応」

 

 立場が悪くなったのか、ケインは困った表情を浮かべて押し黙ってしまう。状況を鑑みた俺は、ここで口を開く。

 

「ま、そこはただのゲームとして見るか、あるいはゲーム以上として見るかの違いだがな」

「ゲーム以上って……。そうとう思い入れあるんだな。そう言ういい方だと」

「まあな」

 

 さっきまで涙目をしていたココアが、ここで気持ちを切り替えて言う。

 

「とにかくだにゃ。最低でも、うちだけはただのNPC扱いだけはしてほしくないだにゃ。最低でもそこだけは守ってほしいのにゃ」

 

 そう言われてケインは、ため息を一つこぼすと

 

「はいはい」

 

 とそう返事をするのだった。状況を見はからっておれは、ここで話をCOMの件へと戻す。

 

「ま、ともかくだ。話はだいぶそれちゃったが、COMが告げたことは間違いないというわけだ」

 

 そこでケインは、気持ちを切り替えるようにして真面目そうな表情を浮かべる。

 

「それで、今後、俺たちはどうすればいいって言うんだ、ユウト。それにさ、俺、トイレ行きたいって言うのに、一体全体どう処理すればいいんだよ?」

「トイレの件は、はっきり言おう。――あ・き・ら・め・ろ――」

 

 きっぱりと告げる俺に、ケインはすっかりと肩を落として

 

「そ、そんな~。それじゃ、お漏らししろと言っているようなものじゃん」

 

 慰めるように、俺は彼の肩をポンポンと気安く叩く。

 

「ま、そういうことだ。ドンマイ」

「がくし……」

 

 そこでココアは、対岸の火事のような言い方で

 

「人間って、大変なんだにゃ」

「それを言うなよな」

 

 とケイン。俺もそこは少なからず同感であり、うんうんと両手を組んで頷く。

 

「でもよ、ユウト」

「ん?」

「トイレの件はどうしようもないとしてだ。これからどうするってんだ。俺、クエストで死にたくねえしよ」

 

 確かに。クエストで一回のキャンプ送りが現実(リアル)での死なら、このまま誰かがクリアするのを待つという手が安全だ。けれど、……なんだろう、この思いは。こーう、使命感というか、約束というか……。そんな思いが心の奥底でくすぶっていた。

 

「なあケイン。あれを覚えていないか?」

「あれって?」

 

 当然のことながら疑問符を浮かべるケイン。俺は亡き親友――晃との約束のことを持ちかけた。

 

「約束だよ約束」

「約束って……あれか、晃との」

「そうそう」

 

 察しがいいなと感心しつつも、一方では、ココアがクエスチョンを浮かべる。

 

「約束ってなんのことかにゃ?」

 

 無理もなかった。俺はまだこいつに、晃との約束――いわば狩友の誓いのことを話していないからだ。とくに深い関係とか、そう言う類ではなく友情関係上での約束であるため、俺はココアにこう告げる。

 

「ただの約束さ。友とのな」

「ふ~ん」

 

 それ以上は踏み込んでこなかった。ただ

 

「でも、なんだか羨ましいにゃ。そういうのって」

「羨ましいって。俺とココアじゃそういう関係(友情)じゃなかったのか」

「いやいや、そう言うわけでなくてにゃ。ただ、約束を交わし合うくらいの仲なんだから、相当なんだろうなあと思ってにゃ」

 

 相当って……。

 

 これにはさすがに苦笑する。相当というわけでもないんだけどなあと心の中で思う。

 

「そう言うわけでもないんだけどな」

「ただの約束。そう友とのな。そうだろうユウト……って、まさか」

 

 そこで俺の意図するところを読まれてしまう。そう、俺の意図するところは、デスゲームと化したMHA・Oにおいて、親友との約束を果たすチャンスだということ。条件は過酷だが……。

 

「そのまさかだ」

「おいおい、その約束を理由にクエスト進めていこうってか。冗談はよせよ」

「冗談? 俺は本気だぞ」

「本気って……」

 

 俺の本気に半ばたじろぐケイン。晃との約束。俺たち3人が交わした約束とは、HR1000到達時に現れるクエスト――理想郷を統べる者、を攻略し、3人で狩王の称号を得てモンハンの歴史に名を刻むこと。それを俺は、今がその時とばかりに意見していたのである。

 しかし、ケインは、

 

「条件、聞いてなかったのか? 一回のキャンプ送りが直接の死なんだぜ」

 

 と後ろ向きの発言。

 

「それは分かっているさ」

 

 ああ、確かに分かっている。だが、ここで踏みとどまっていても変わりないことには確かだ。誰かがクリアするまで待つという安楽的な選択肢はあるけれど。でも、この場で踏みとどまっていることは、晃との約束に反していると思えて、それがなんだか嫌でたまらなかった。

 

「だったら……」

 

 ここで俺は思っていることをぽろぽろと零すように言う。

 

「俺は嫌なんだ。このまま約束を果たさずにただ待っていることが」

「ユウト……」

「条件は分かっている。分かっているさ。でも、ただ待つことが、なんだかあの時の約束に反する。それが嫌でたまらないんだ」

「相当だな、お前……。確かに約束っちゃあ約束だけどよ。う~ん」

 

 ここで考え込むケイン。そして彼が出した結論とは

 

「よしっ、分かった。それなら俺にも条件がある」

「条件?」

「そうだ、条件だ。〝俺を守る〞それが条件だ。晃との約束とは言え、死にたくないからなあ」

 

 そう言って、自分のことを指でさす。言いたいことは分かるには分かるが、そこまで強調しなくてもなあ~。と思う。しかし、条件ありとは言え、俺の気持ちを受け入れてくれたことには変わりない。正直、それには感謝していた。

 

「あ、う~ん。わかった。わかったから条件を飲もう」

「なら良かった。てか、当然の条件だからなユウト。俺はルーキーなんだからな」

「ま、確かに。でも、ありがとよ」

「ああ、じゃ、任せたぞ。ユウト」

「ああ」

 

 そう互いに頷くなり、俺たちは互いを抱きしめた。これから先、幾多の困難が待ち受けようとも、俺たちは必ず最後までやり遂げることを誓い合って。一方で、ココアはその友情っぷりにハンカチを手に感極まっていたのだった。

 

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