結局、オトモ達を除いて2人っきりとなった。その2人とは、まさにケインと小狼のこと。そのオトモ達とは、ミルクとジャム。それにバターのことである。
なぜ、こうなったのか?
答えは明白であった。つまるところ、一言で言わせれば
〝喧嘩″
である。しかも、その相手とは小凛のこと。ようするに、小狼と小凛の喧嘩でこうなった訳だ。
そして、ケインはと言うと、仲介役を引き受けたからに、彼女の言付けで残ることに。
バター・ジャム・ミルクは、お互いパートナーだからと言う理由で、これもまた残ることになった訳である。
簡単な経緯としては、こんな感じだった。
「別に残らなくても良かったんだぜ。関係ないんだからさ」
「いいのにゃ。ボク自身が決めたことだから」
「そう?」
他方、バターは未だに不機嫌な小狼に、腐心していた。
「もう、過ぎたことにゃんだから」
しかし、
「全然過ぎたことじゃないじゃん! シャオネーのバカ。いくら心配だからって、僕の意見、ガン無視とかあり得ないよ」
「た、確かに……」
そこまで言うのか。そのくらいの怒りの本音を間に受けたようで、逆に狼狽えてしまったみたいだ。まさに逆効果、かえってムスッとなってしまう。
無理もないか〜
事の発端は、吹雪が激しさを増す中、里周辺の散策に出向こうとした小凛達を、
と言い出したこと。里周辺の散策範囲は大した事ではないのだが、いかせん天候が悪化の一途を辿っていた。
弟に対する過保護的な面があるだけに、小狼を心配してか小凛がダメと言ったからに他ならず。
彼女の心配する気持ちを察しきれなかっただけに、最初はまろやかに。そのうち、エスカレートしていき、感情でぶつかり合うと言った形となったのだ。
小凛の気持ちも分かる。だが、小狼の姉に対する気持ちも、ケインとしては理解していた。
彼もそうなのだ。悪天候の中に出て行く姉が心配であると言うことを。互いに心配した結果なのだ、此度の喧嘩騒動は。
は〜
思わずため息が漏れた。
「な〜。気持ちは分かるけど、我慢して察してやれよ」
しかし、
「僕の気持ちを無視したくせに? 冗談じゃないよ」
「だけどよ、小狼は見てなかったかも知れないが、辛そうに見えたぞ、小凛。歯痒そうな感じでな」
すると、ミルクが
「そうだにゃ。だから――」
「……」
その言葉に思ったことがあったのだろう。悩ましい表情を見せた。そこへバターが一押し。
「それに、何も単なる留守番って役回りじゃないにゃ。一応、頼まれているでしょう?」
「た、確かに。……確かにそうだけど」
「だろう? それに、こんなところで悶々しているより、マシだと思うぜ」
「……そこまで言うなら」
観念したのだろうか。暗い表情で俯いたままではあったが、ようやく小狼は重い腰を持ち上げてくれた。
ま〜、結果オーライ? なのだろうか。先程までの確執を紛らわす分には、少しだけきっかけになった方だろう。
里内を散策すること暫く。小狼の表情は、先程までに比べてやや穏やかになりつつあった。
けれどその反面、流石にぶり返すことだけは敢えてしなかったし、する気はさらさらなく。
それよりも、肝心な依頼の方。一応、頭には入れておいたのだが、念の為、画面表示から内容を確認してみた。
歩きながらではあるが、リストしては2種類。
「ハチミツ20個に一品キノコ10個。しかも、サシミウオ10匹と来たか〜」
いくら山菜ジイジイからの依頼とは言え、なんでこんなに多く。思わず愚痴の一つが出そうだ。
だけど、ここは1人ではない。だから――
「で? どうするにゃ」
「ミルク……」
そこで立ち止まるミルクに、ジャムが振り向いた。
「どうするって、どうするも何も、やるしかないじゃないか?」
「ま〜、そうだけどにゃ。ともかく数が多いにゃ。役割分担、考えにゃいか?」
「確かに。それには同感だな」
すると、小狼が
「なら、僕はサシミウオを釣りに。1人でも出来るから……」
「1人でもって……」
「それに、1人でいたいんだ。少しの間だけど」
やっぱり、気にしているんだな。小凛との確執を。――とそこへ、バターが
「じゃ、付き添いで私も――」
がしかし、
「やめとけ」
「え? なんでかにゃ?」
〝少しは察しろよ″
そんなニヤンスを含ませて、首を横に振った。だけど、あまり伝わらなかったみたい。バターは首を傾げ、ジャムはそんなバターの肩に猫手をあてがった。
「じゃ、ここで」
「ああ。迷子になんなよ」
「余計なお世話」
そして小狼とは分かれ、バターはもの寂しそうに彼を見送った。彼が一人で釣りしに行った一方、後に残るは、自分を除いて、ミルク、ジャム、バターの3匹。
「さて、俺らも行こうか」
「だにゃ」
とミルク。他も頷き、再び歩き出す。色々と集めないといけない役回り。それだけに、サシミウオしか必要としない小狼は、なんだか羨ましくなる。
そこらで立ち止まっては、誰構わず疑問を投げかけた。
「えー、どうする?」
すると、ミルクが
「どうする? って、どうするにゃ?」
「いや、だからさ……」
「つまり、役割分担、ってことかにゃ?」
「そうそう、それ。役割分担、種類が多いからさ」
ジャムの指摘、まさにご明察通りだった。
「いくつあるんだっけにゃ? ケイン」
「ん〜、2種類。ハチミツと一品キノコ。だけど、個数が多いんよな。ハチミツ20個に一品キノコ10個と」
「にゃるほど」
何を思ったのか。両腕を組んだジャムが、容量を得たようだ。
「ハチミツは大した事ないとは思うよな。だけど、一品キノコって……」
ケインとしては、キノコと言えばアオキノコ、特産キノコ、毒テングダケ。その程度しか知らないだけに、一品キノコについては、さっぱりだったのだ。
「ジャム。何か分かるかにゃ、一品キノコについて」
バターが訊く。しかし、
「ん〜、にゃんとも。ただ、精算アイテムの類だとは思うにゃ。あの特産キノコみたく」
精算アイテムの類、か〜
そこで、ジャムが言う特産キノコとやらを採取していた頃の光景を思い出してみた。普段、見かけるキノコ。それとは違う、少々キラキラしたようなキノコ。
それが、まさに特産キノコだった。となると、その例に倣って言えば――
「なんとなく想像できたかも」
「ケイン?」
「分かったのかにゃ?」
ミルク、バターが、それにジャムまでもが興味ありげに彼の方を見た。
「ま〜、100%、自信あるって訳でもないんだがな。だいたいそうなるのかな〜、とね」
「へ〜」
「な、なんだよ。その目は」
目が細くなるジャムに、少し身構えてしまった。けど、そこへバターが、
「ま〜、分かるんにゃらなんでもいいにゃ。ともかく行こうかにゃ」
「そうだにゃ」
「……ま〜、いっか」
ジャム、ミルクに促されるがまま、再び足を踏み出した。――と、前方を見据えたところで
ん?
キラキラした何かを視界に。その場所たるや、瓦礫に埋もれかけた箇所の片隅。少々、陰った場所にあった。
「っ! どうかしたかにゃ?」
ミルクの声。彼女の声をよそに、その場所へと走った。走って走って、そして――
「お、これは」
それはまさにキノコ。キラキラとした、白キノコが生えていたのである。早速、採取。すると――
『特産キノコを手に入れました』
と。
「ちぇ、特産キノコかい」
舌打ちするや肩透かしを受けたように、落胆した。肩を落とすケインに、遅ればせながらジャム達が歩み寄ってきて
「何か得たかにゃ?」
と。だが、ジャムへの返事は期待するものではなく
「別に、大それたことじゃないさ。特産だとよ」
「特産キノコ?」
「ああ。でも、ま〜、まだ1回目だしさ」
それだけ言い残し、とりあえず取れる分、採取してみた。
『特産キノコが手に入りました』
『特産キノコが手に入りました』
『アオキノコが手に入りました』
『アオキノコが手に入りました』
:
:
:
幾度となく繰り返される、どうでも言いキノコ達。そして――
『一品キノコが手に入りました』
「お! ようやくかよ」
やっとのこと、一番欲しかったキノコが手に入った。で、きらきら光キノコは消滅。これ以上は採取出来なくなった。
まさに、一品だけあって、特産キノコ以上にレアキノコだと言うことが証明された瞬間だった。
「どんな感じかにゃ?」
とジャム。
「なんとか一つは採れたぜ」
「お! やったにゃ」
「一つだけ、だがな」
「でも、それでもにゃ」
「まぁな。これできらきらするキノコ群からは採れることが、証明された訳だ。……ん? ミルク、どうかしたか?」
なにやら瓦礫を漁る彼女に、問いかけてみた。――で、
「やっぱりあったにゃ」
と。
? 何を見つけたんだ?
そんなことを疑問に思っていたら、バターがすかさず
「何を見つけたんにゃ?」
と問うた。
「これだにゃ」
そうケイン達に見せたるは、一枚の羊皮紙。
〝受け取りますか? はい/いいえ″
の選択肢から、〝はい″を選択。貴重な一文が表示された。
「これは……」
「何を得たんかにゃ?」
ジャムの質問に、ケインは
「地図だよ、地図。それも生態マップだ」
「生態マップにゃ?」
「ああ」
そう、そこには、
なんと!
隠れ里からガルド湖への裏ルートが、筆でささっと描いたかのように簡潔に記載されていたのである。
「しかもにゃ」
と補足するかのように前置き。続けてミルクは、
「どうやらこの里の役割も記載されているみたいだにゃ」
と。
「役割?」
傾げるジャムに、バターもケインの隣へやって来て――。2匹を視界に捉えたケインは、疑問に答えてやった。
「観測所、ってやつだな」
「観測所?」
「ああ、この里の役割がな。……ここ、この今いる里に双眼鏡アイコンが記載されているだろう? だからさ。それに、他にももう一つあるみたいだな。同じ里であり、観測所でもある箇所が」
その場所たるや、稜線から逸れた場所。街で言えば、大通りから脇にそれた路地裏。
そんな例えに近いくらいに、狭苦しい隙間を抜けた先にて、こことほぼ変わらない里こと観測所があったのだ。
ただ、もう一つの観測所は、近くに源泉があるらしい。いわゆる天然風呂が、いくつか点在していた。
「ともかく重要な手掛かりを得たんだ。これさえあれば」
意気揚々と語るケインの影響を受けてか、ミルク達も新たな展望が見出せたことに嬉しそうにした。
有り余る程の特産キノコを抱えつつ一品キノコを必要数、他のオトモ達に分配。ハチミツも規定数集めた後、ケイン達は来た道を戻っていた。
そして、そこで待っていたのは、小狼ただ一人。一つの倒壊した石柱に腰を据えて、帰りを待っていたようだ。
「わりぃ〜な、遅くなって」
「別にいいよ。それよりも――」
「ああ、収穫はあったぜ。採取だけでなくな」
そう述べるや、先程、ミルクから受け取った新たな生態マップとやらを取り出してみせた。
「これは?」
「いわゆる地図だな。それもマーカー付きのな」
「それじゃ――」
「目処は立った。……ま〜、そんなところだ。ちなみに、そっちはどうなんだ? 釣れたんだろう? 魚」
「あ、うん。一応」
「一応?」
意味深な響きに訊こえた。まるで、裏に何かあることを含んでいるのかように。
「痕跡を見つけたんだ。これが、その〜」
痕跡リストを表示させるや否や、一つの痕跡を示した。
〝轟竜の片鱗″
明らかにモンスターの素材の一種、そう捉えてもおかしくなかった。
「轟竜……、って」
ふと想像するに、嫌な予感がしてならなかった。この荒れた里の光景と言い、その痕跡と言い。
まさに、その轟竜とやらが暴れ回ったんではないのだろうかと。そう勘繰ってしまいそうだ。
「ともかくにゃ、うちらの素材がこれで揃ったのにゃ。ひとまず引き返そうにゃ」
「あ、うん。そうだな」
ジャムに言われるがまま、ケイン達は来た道を引き返した。引き返して、……そして、暫くして――
ようやく戻って来るは、パッと見からして誰もいなく。どうやらまだ、散策を続けているみたい。
ケイン達は里で入り口前の広場に陣取り、横倒しの石柱に腰を据え待つことにした。
じわりじわりとケツがひんやりとしてくる。
ホットドリンクが必要でないエリアだとは言え、何か暖まる物が欲しかった。
そのことを考えるに、肉焼きセットを持ち出し、彼らは今、一時的な暖を。合間にこんがり肉を頬張りながら、ケインはふとした拍子に気になったことを喋り出した。
「な〜」
「ん?」
「ふと気になったんだけどよ。J.Oって、いつからお前らと一緒に行動するようになったんだ?」
「いつからって?」
「いや、なんて言うかな。あいつ、元々、ソロでクエスト進めるようなタチだからさ。なんでかな〜? とね」
「ん〜……」
思い出しているのか、小狼は上の空を見上げた。見上げて、それでいて――
「偶然、なんだよね」
「偶然?」
「たまたま、なんだよね。簡単に纏めると」
すると、バターが
「元々、小狼と小凛は、団長達と出会った時とJ.Oと出会った時が、大体、同じ時期だったんだなゃ」
「うん、そうだよね? バター」
「同じ時期って? セツナ達と最初から行動しているわけじゃない、ってことか?」
「まぁね。そもそも僕とシャオネーは、2人だけでしていたから。団長とは、団長と対峙していたドスランポスを追いかけていた際に出会したものだから。それがきっかけかな〜、成り行きで入団するようになったのは」
「なるほどね〜」
話が逸れたような気もしたが、小狼の事情はなんとなく分かったような気もした。
「それから間もにゃくだったよね? J.Oとは」
「うん。……だけど、団長達と少しだけ接してみて感じたんだよね。周りからの視線が痛いほど伝わってくるのは」
そこで彼は、あの時のことをより詳しく語り始めた。
道ゆくハンターや商人で賑わうドンドルマ。その中を、小凛と小凛、それにバターが揃って歩いていた。
向かう先は、出店が立ち並ぶ広場。円卓がいくつも設置してある広場だった。
セツナ達に紹介させたい。
それもそのはず、この
ようするに、セツナ達には未だにオトモがいない訳で、
この世界におけるオトモと、試しに接してみてはどうか?
そんな些細な話の流れで今に至っていた。
広場に着いた小狼らは、集まる人々の合間を探しながらセツナ達のいる席を探し始めた。
目を凝らし、それでなんとか彼女達を発見。と思いきや、見知らぬ誰かと話しているのを目にする。
話の途中ではあったが、相手の頭上にはアバター名として、〝ユウト″と書いてあった。
「どうやら仲間からの呼び出しみたいだね」
「ああ、悪いな。話の途中で」
「いいよ、別に。また会えたときにでもお互いのこと話し合おうね」
「そ、そうだな。……じゃ」
「うん、またね」
そんなような会話が聞こえたかと思いきや、相手方はそそくさにどこかへ去ってしまった。
「お! 戻ってきたか」
と、先にこちらを発見したのはノブ公。続いて、レイナとセツナ、揃ってこちらを向いた。
まだ、出会ってから間もない。自力で喋ることに抵抗感があった小狼は、手早くメッセを飛ばした。
『今の方は?』
すると、セツナは
「ユウトのことね。あたしの幼馴染」
と。
「幼馴染、あるカ〜。羨ましい限りネ」
「そ、そんな羨ましいとか思われても……」
あくせくしたのか、セツナの表情に照れが見え隠れした。だけど、ここは一旦、気持ちを入れ替え
「……で、話を戻すけど、例の紹介のオトモと言うのは?」
「ああ、コイツのことネ」
「よ、よろしくにゃ。お初にかかります、バターですにゃ」
「バター? なんか、調味料みたいな名だな」
緊張からか。ぺこぺこするバターに、ノブ公は空気を乱すかのように悪戯っぽく突っついて見せた。
「ちょ、調味料……」
「ちょっとおっさん、初対面にしては随分なもの言いあるネ。小狼と2人で、心を込めて名付けた名なのに」
「わ、悪かったよ。冗談が過ぎたようだな」
ぶす〜、と不貞腐れるシャオネーに、ノブ公は少しタジタジしたようだ。
「オトモ、か〜」
「どうしたの? セツナ」
「あ、うんうん。ただ、あたし達にはいないな〜、と思って」
「もしかして、欲しいのか?」
「ま〜、ね」
ノブ公の質問に、やや表情を赤らめた。
「別にいいんじゃないアルカ?」
「え?」
「いないよりかは、いた方が安心するなら。それに、案外、助けてもらっているし。ネ?」
「え、あ、うん……。ま〜」
いきなりシャオネーから話を振られただけに、しどろもどろな返事をしてしまった。
ただ、彼女曰く、バターを仲間にしてからと言うもの、色々と助かっているのは確かなのだ。そこは変わらないだけに。
「う〜ん……」
悩ましい顔が伺える。見かねたノブ公は、提案してみた。
「そこまで悩むんだったら、見るだけでもいいんじゃないか? 雇うかどうかは別にしてさ」
「そ、そう? ……なら、そうしようかな」
モノは試し。小狼達はセツナの要望を受けて、早速ネコバァに会いに行くことにした。
そして、ドンドルマ郊外――
セツナ曰く、所有している畑に立ち入るのは、今回が初めてだそう。小狼と小凛、それからバターも、彼女達の畑に足を運ぶのはこれが初めてだった。
見た感じ、ところかしこにコーナーは設けてあるが、一つ一つのコーナーには何もなかった。
方や小狼と小凛も、畑に関しては殆ど手入れをしていないだけに、セツナ達と似たようなものであった。
ちなみに畑の面積は、一言で言わせれば広い。それはまさに、小学校に例えるならグランドくらいの面積はありそう。
そんなだだっ広い畑が、小規模な鉱山を含めて、柵で仕切られたコーナーをいくつか設けてある感じだった。
「久方ぶりに長閑な光景だにゃ」
「バターと出会ったのも、畑にいるネコバァからだったもんね」
「そうそう」
「ま、売れ残りみたいに1匹だけしか雇えなかったがネ」
「酷いにゃ」
他愛無い会話であるが、バターとの出会いがまるで昨日のことのように感じる。
「パパ……」
「だな」
ネコバァを発見したのだろうか。セツナ達は遠くの水辺にいる、小柄な身長にそぐわないでっかい荷物を背負ったおばあちゃんネコを見つけたようだ。
セツナとノブ公を先頭にして、そのネコバァの方へと向かう。
そして……
歩み寄ってからに、岩陰になって見えなかったが、そこには3匹のアイルー達が何やら訓練に励んでいるよう。
ま、訓練といっても、そのうちの1匹は他のアイルーを指導する立場にいるみたい。銀プチメガネをかけ、その頭上には、〝教官アイルー″と表示されていた。
ネコバァに目線を戻す。体格にそぐわない大荷物を背負うネコバァ。所詮、NPCには変わらないんだが、なんだか押し潰されそうに見えて仕方なかった。
ふと、彼女の細目がこちらに向く。
「お〜、これはこれは。
「あ、おばあちゃん……」
「わしに来ると言うことは、もしや契約にゃて」
「え、ま〜」
本心ではどうしようかまだ決めかねていたが、言われるがままと言ったところか。やや緊張した顔持ちで答えてしまった。
一方、ネコバァは少しだけにこやかな笑みを見せると、
「その様子じゃと、迷っているみたいにゃのぅ。だが、安心するにゃて。お試し期間、用意しておるから」
そう言うなり、セツナの面前にて、リスト。それはもう、ざっと見て5匹のオトモの名が、詳細の項目も兼ねて連ねていた。
「うわ〜」
詳細の項目があるとは言え、一度に数匹リストアップされただけに、正直迷ってしまった。苦心するセツナの隣にて、小凛は軽口を叩いた。
「最初はそんなもんネ」
「シャオネー」
「うちらだって、結局、そんな感じだったネ。ま、選べたのはバターしかいなかったけども」
リストアップ的には同じだったけども、セツナさんとは状況は違ったんだけどね。
姉の言葉にやや苦笑した。一方、肝心なセツナはと言うと
「どれにしよう……」
なかなか悩んでいる模様。時折、詳細を見開きして吟味していた。
そんな中、
ん?
ふと視線を感じて向いてみれば、あの訓練していたアイルー達がこちらを向いているではないか。
「シャオネー」
「え?」
指を指す。こちらを物寂しそうに見据えてくるアイルー達。小狼だけでない、小凛も気になるのだろう。
「そこのアイルー達、私達に何か用アルカ?」
単刀直入に問いかけた。教官アイルーを除いた2匹のアイルー達は互いに顔を見合わせると、教官アイルーの耳元でヒソヒソ何かを伝えたみたいだ。
明らかに用事があるように見えるが、向こう側からはこちらを警戒してか、話しかけてこない。
――とここで、
「このオトモにしようかな。特徴的にも悪くないし、ね? パパ」
と確認するつもりでノブ公の方へ。と、そこで小狼と小凛の何かを見つめる様子を視界に捉えたのだろう。
「どうしたの? 2人とも」
そして、セツナもまた、2人の向く方へと見た。ネコバァを除き、この場にいる全員がそのアイルー達に注視する。
さすがの教官アイルー達は、これには応えるしかないのだろう。
「教官、いいんじゃないかにゃ?」
「そうだにゃ。俺たちはまた、ネコバァに頼んで新しい教官を雇って貰うから」
しかし、説得するアイルー2匹を前にして、教官アイルーはどこか後ろ髪引かれそうなのだろう。
「しかしにゃ、君達とはようやく親睦関係を深めることができたにゃ。それを手放してまでは――」
「それでもにゃ。だから――」
――とここで、ネコバァ。あの3匹の事情を語り始めた。
「お前さん方達、あのアイルー達のことが気になる見たいにゃのぅ」
と前置き。それから、
「教官アイルー。――いや、ブレットはな、実は流れ者の教官アイルーにゃて」
「え? 流れ者の教官アイルー? どう言うことネ」
それについては、小狼としても意外だった。たかだかアイルーに、そんな裏設定まであるなんてと。
だけど、気になった。ネコバァの方へ向く。同じくセツナ、ノブ公も。ネコバァは話を続ける。
「ブレットは、元々、新人教官アイルーとしての地位にあったのにゃて。だけど、少々自信過剰な性格が、その〜、あってのぅ。それが災いして、就任した先で、見習いオトモの指導に支障が出て関係を築けず。結局、それが原因で長続きせず、就任先を転々として今に至るんにゃて」
「へ〜、そんなことが……」
これには、バターも驚いていたみたい。小狼と小凛には今まで黙っていた、内情を打ち明ける。
「でも、確かにそれらしき噂を聞いたことがあるにゃ」
「バター?」
意外性を見ただけに、小狼、今度は
「でも、あくまで噂だにゃ。就任先を転々としている教官アイルーがいると言うのはにゃ」
「なんで話さなかったネ?」
「なんで話さなかった! って、そんなこと言われてもにゃ」
思わぬシャオネーのツッコミに、バターは困惑の色を浮かべた。他方、タイミングを見計らい、ネコバァは付け加えた。
「ま〜、人の口には戸が建てられにゃいからのぅ」
と。
「じゃが、ようやくにゃて。先月着任したばかりとは言え、今、こうして仲睦まじく続いているのは」
「へ〜、なるほどね」
自分のお庭なんだけども、セツナのその軽い受け答えは、まるでどこか他人事のように聞こえた気がした。
「それなら、致し方ないかもね」
事情を知った上で、ネコバァと面と向かった彼女は、ブレット以外のオトモ、どれがいいのか再考し始めた。
――とここで、
「待つんだにゃ!」
え⁉︎
「え?」
思わず声をした方を見た。皆が注目するは、なんと! 見習いオトモ2匹より、一歩前へと踏み出したブレット。やや間を置き
「待つんだにゃ。やっぱり僕は行きたいにゃ」
「ええ? ど、どう言うこと」
セツナと同じく、小狼も状況が読めなかった。ネコバァから訊くに、ようやく腰を据えれる場所を見つけたばかりと。
ゆったりとそちらを向いたネコバァは、
「心変わりかいの? ブレット」
だが、
「……」
後ろめたさを抱いたのか、そこで沈黙。けれど、そんなブレットを後押ししたのは、2匹の見習いオトモ達だった。
「俺たちのことは気にするでないにゃ」
「そうだよ、教官。私達はまた、別の教官を依頼するから」
「にゃけど……」
しかし、その2匹の教官を思う気持ちには一点の曇りがない様子。真剣な眼差しを受けて、ブレットは遂に決断し切った。
「分かったにゃ。2匹ともありがとうにゃ。……ネコバァ」
「事情は把握しかねるけど、ほんとにいいのかい?」
「いいにゃ。それに、これは僕の夢でもあるしにゃ。だから――」
「……分かったわい。なら、リストに追加しとくでのぅ」
コクリッ、小さく頷いた。
「で、話は戻すが、お前さんはどうするのにゃいの? ここに来てブレットを選べるが」
「どうするって言われてもな〜」
とりあえず外野のポジションではあるが、ノブ公にとっては複雑な心境だったみたいだ。軽く頭を掻いた。
セツナさんはどうするんだろう?
全ては彼女の判断次第である。断るのか、それとも――。注目の的が集中する中、セツナの下した決断は
「いいわ、望みなら」
「てことは?」
「望み通り、ブレットにするね」
「やったにゃ!」
夢が叶ったのか、新たな