モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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5章:ガルド湖の戦い・6話

 ベースキャンプのある森。そこの洞窟を抜けた先、そこは見晴らしの良い丘の上だった。

 丘の上、と言ってもそれほど高くはない。眼下の河川を挟んで遠方に対岸が見え、そこには草食モンスターが群れをなしているのがはっきりと分かる程度だ。

 遊び半分で走って下れそう。なだらかな斜面からなる丘の上にいたのだ。

 そして、このクエストを依頼した目的。それは、まさに緊急クエストだったからに他ならない。

 

 『怪鳥の目撃談』

 

 クエスト名はそんな感じであり、内容としては、イャンクックの討伐、或いは、撃退。

 森中にある畑近くにそのモンスターが出現したため、追っ払って欲しい。そんな感じだった。

 

 セツナ達は大丈夫だろう。問題は自分たちだから。

 

 無理もない。小狼や小凛にとっては、イャンクックと言う怪鳥なんて、見聞きした程度で実物なんか見てないからだ。

 いわゆる初見、そんなところだけに

 

 正直、緊張する。

 

 単なるゲームなら大したことはないのだが、いかせん生き死にがかかっている。手元を見れば、清々しい景色を堪能する余裕なんてないことの証明だろう。

 小刻みにだが、震えが止まらなかった。

 

「どうしたにゃ?」

 

 深刻そうな表情がいつの間にか顔に出てしまったのだろう。バターが心配して声をかけてきた。

 

「え? あ、いや、なんでもないよ。なんでも……」

「ひょっとして、怖いアルカ?」

「う、うるさい! 集中しているんだよ、集中」

「の割には、手が震えているネ」

「……こ、これは、日本で言う……」

 

 武者振るい。そう答えようとしたが、一言

 

「よっ」

 

 そこでノブ公が近くの段差を降りて、なにやら探し物をし始めた。

 

「どうしたの? ……あっ! 何しているのパパ?? 汚い!」

「汚いって……、一応、これでもゲームの世界なんだぞ」

「だけど」

「どうかしたのにゃ?」

 

 2人の問答を気にしてか、ブレットが歩み寄り段差の下を除き込んだ。それで、ドン引きして一言

 

「ひぃ?! うんこ。うんこだにゃ」

 

 小狼、小凛。それに一拍遅れてバターが歩み寄り、ノブ公がうんこ塊に手を突っ込んで弄っている様を目の当たりにしたのである。

 当然、2人はノブ公の意図する意味を知らない。だから――

 

「うぇ?」

「き、汚いネ。最低ぇ」

 

 お互い揃って、腫れ物を見ているような軽蔑的な視線を投げかけ、半ば狼狽えてしまった。

 そんな中、

 

『〝モンスターのフン″を手に入れました』

 

 のメッセージが。

 

「よし、一度に3つも手に入れたぞ。これで、あとは――」

「あとは――、じゃないよ。汚いからやめてってば」

 

 次いで、流石に見かねたレイナも、これには言わずにはいられず

 

「その不潔な手で、近寄らないでね?」

 

 控えめに言ったつもりではあったのかもしれないが、その苦笑した表情の裏には殺意が見え隠れしていた。

 向けられる冷徹なる視線。

 

「おいおい、マジなんだから。みんながして?。ブレットだっけ? なんかフォローしてくれよ」

 

 ところが

 

「あたしのオトモに、変なことをさせないでよ!」

「変な事って……」

 

 他方、こんな親子の他愛ないやり取りを眺めていた小狼と小凛。

 

「いつから、そんな親密関係になったネ」

「それ、僕もそう思ったところ」

 

 当の本人には聞こえない程度に、小言で言い合った。

 

「ま、いいさ。万が一に備えての素材も得られたとこだし。先を急ごうか」

 

 一人乗り気のようで、ノブ公は先頭に立った。しかし、そんな彼には誰もついて来ず。

 それはノブ公以外、同じ気持ちであったのかもしれない。

 

「ん? どうした?」

 

 すると、セツナが指差し呼称して

 

「手」

 

 と一言。

 

「手?」

 

 反復するかのように答えたノブ公は、先程まで弄っていた自分の掌を見舞う。 

 けれど、元開発者だけにゲーム慣れしているのだろう。気にやむことなく。そんな父を見兼ねたセツナは、軽くため息を漏らした。漏らして――

 

「ちゃんと洗ってよね。汚いんだから」

 

 と。

 

「汚いって……。第一、この世界では――」

 

 しかし、有無も言わせず。娘に睨まれ、流石に周りの目もあってか、ここは仕方なく

 

「分かった、分かったって。だから、そんな目で見ないでくれよ」

 

 やれやれ

 

 そんな言葉が聞こえてきそうな印象を匂わせ、ゆったりとした足取りで河川へと。じゃぶじゃぶ、と水流を利用して音を立てつつ手洗いをした。

 

 それから暫くして――

 

 場面は切り替わって、薄暗い森の中。そこは、まさしく獣道と言うべきか。木々の間、小幅が小さい林道であった。

 

「なんで、わざわざこんな狭い道を通るネ」

 

 先に堪え兼ねた小凛が、ここぞとばかりに文句を垂れこべる。一方、小狼としても、早く抜け出したい一心だった。

 そんな中、ノブ公は訳を話す。

 

「痕跡だよ、痕跡」

「痕跡? その怪鳥のかネ?」

「分からない。ただ、あったからね。蹄痕が」

「蹄痕?」

 

 それだけ訊いても首を傾げるだけである。蹄と言っても、それに関するモンスターなんて、知る限り沢山いる。一概に、怪鳥の、とはいかない。

 

「ふ?ん……」

「レイナ?」

 

 何か思うところがあるのか、セツナの親友は頬杖しながら物思いに耽りだした。だけど、

 

「ま、なんの痕跡かは分からないけど、手掛かりの一つには変わりないにゃ」

「ブレット」

「僕の推理によれば、少なくとも小型モンスターの類ではないはずにゃ」

「へ?、入隊したての癖に随分偉そうネ」

「う、うるさいにゃ。知識にゃ、知識。一応、元教官だから」

「知識ね?」

「にゃに? まさか疑っているかにゃ?」

「まさか?」

 

 けれど、側から見ていた小狼としては、小凛のその投げかけるジト目は、疑念がついて回るように見えていた。

 そんな中、

 

「いや、遠からずではあるかもだが、その推理はハズレではないかもな」

「おっさん」

「お、おっさんって……」

 

 思わずついたシャオネーの言葉に、ノブ公は表情を引き攣らせていた。――とここで、茂みの奥から声が。それも、絞り出すような掠れ声が聞こえて来て――

 

「おーい?? 誰かいるのか?!」

 

 その声を聞いてか、一同が声のした方へ。

 

「レイナ、パパ」

 

 セツナの合図に、二人は頷き。そして、セツナとノブ公は真っ先に走り出す。

 

「あ、待ってにゃ?!」

「ブレットは、私と共に?」

 

 直接のパートナーではないものの、ブレットはレイナの差し出した手を伝いに肩へ。彼女と共に走り出す。

 

「シャオネー、僕たちも」

「うん」

 

 揃って追いかけた。

 

 そして――

 

 厄介な藪漕ぎをした後、開けた場所に出た。出て、そこには、先程の声の主と思いしき一人のプレイヤーが、木に寄りかかっていた。

 パッと見た感じ、あっちこっち枝葉を体中に引っ付かせたまま疲労困憊しているように見えるが……。

 こちらの存在に気付いたのか、ゆっくりと顔を上げた。

 

「助かった?、てっきり来ないものかと」

「どうしたんです? こんなところで」

 

 何気ないノブ公の質問。その質問を受けたそのハンターは、溜息と共に微かに笑みを漏らすと、疲労感を滲ませたまま答えた。

 

「逃げてきたのさ。……あの怪鳥からね」

「怪鳥? もしかしてイャンクック?」

 

 セツナが憶測を口にした。だが、その憶測は正しかった模様。

 

「そんなところだ。だが、不覚にもあそこまで暴れるとは想定外だけにな」

「で、逃げてきた、と?」

「ま?、そんなところさ」

 

 そこで小凛が

 

「自業自得ネ」

 

 姉の防具の裾を引っ張りながら、流石にそれは言い過ぎと思った小狼は小言で

 

「ちょっと、シャオネー。それは――」

 

 しかし、

 

「君の言う通りだよ」

 

 と述べ、あっさりと認めてしまった。でも、そのやつれた表情からは、なにか後ろ髪引かれている印象が、見え隠れしているようにも見えた。

 

「だけど、もう少ししたら、自力でなんとかベースキャンプへ戻るよ。君たちが来てくれたおかげ。礼を言う、ありがとう」

「いや、そんな礼を言われる程には……」

 

 そうそう、小狼達は彼の声を聞いて駆け付けただけ。ただ、それだけなのだ。特段、何かしたわけではない。

 だから、遠慮がちなノブ公のセリフには多かれ少なかれ理解できた。

 疲労したハンターは、俯いたまま溜息を漏らす。やや呆然とする中、何か意味深なことをちょろっと漏らした。

 

「きっと彼らなら、あのプレイヤーも……」

 

 あのプレイヤー? やっぱり他にも……

 

 だけど、そんな風に思っていたところ、そのハンターは注意喚起だけをしてきた。

 

「君たち、この先にまだいるであろう怪鳥。決して油断しないようにな」

「あー分かった。分かったが、本当に大丈夫なのか?」

 

 しかし、

 

「大丈夫さ、多分な。疲れていると言っても、精神的なものだから。だから――」

「そ、そっか……」

 

 それ以上は答えようもないみたいだ。ノブ公は小狼達の方へ向くと、

 

「ま、そんな訳だ。俺とセツナ、レイナさんは大丈夫だろうけど、お二人さんは油断――」

 

 ――と、ここで

 

「セツナ?」

「え?」

 

 ポツリと一言漏らしたハンターに、小狼達は一斉に振り向き。それでいて、そのハンターは何かを思い出したように振る舞った。振る舞って、それでいて――

 

「そう言えば、あんたら――」

 

 なんだろうか。彼の一言を皮切りに空気が一瞬にして張り詰めたような錯覚を覚えた。

 それはまるで、次なる一言を前にして戦慄を覚えるかのように。皆が、特にセツナとノブ公からは、僅かだが、ゴクリッと大量の唾を飲み込むような音が聞こえたような気さえした。

 ……だが、それは杞憂だったらしい。

 

「やっぱり、なんでもない。気を付けてな」

「お、おう……」

 

 穴が空いたかのよう、張り詰めていた空気が抜けていく感覚を覚えた。

 

 

 

 

「聞いたか?」

「うん、あたしも」

 

 あの親子だけではない。小狼も、……いや、確実的にだが、この場にいる全員が聞き取ったであろう。怪鳥と思いしき甲高い怪音を耳にした。

 

「この響きから察するに、かなり近いにゃ」

 

 鼻眼鏡を直して、ブレットが推理。しかし、そんな推理はするまでもなく――

 

「言われなくとも」

「ありゃ」

 

 地を蹴って駆け出したノブ公に言われ、肩透かしを食らってしまった。小狼、小凛の姉弟も、レイナに続いて走り出す。

 

「あ、ま、待つんだにゃ!」

「行こうにゃ、ブレット」

「……うん」

 

 タイミングを外したブレットを、バターが引率してあげた。

 

 湖水のあるエリアに出た。生い茂った雑木林に囲まれた湖水が一面に広がり、辺りは日陰になっているのか。やや薄暗く肌感覚で言えば、少しばかり冷え込んでいた。

 普通なら和んでいられるような風景なのかも知れないが、今はそう言ってられない。

 耳元に飛び込んでくるは、戦闘音。時折、怪鳥の鳴き声までもが、聞こえて来る。

 

「あそこだにゃ!」

 

 ブレットの示す方向。セツナやノブ公までもが見る先には、あの怪鳥と、その怪鳥と戦う1人の狩人の姿があった。

 

「あれは!」

 

 とセツナに、ノブ公は

 

「イャンクック……」

 

 呟くように返した。悪戦苦闘しているのか、狩猟中の狩人からは悪態をつくような言葉が訊こえてきた。

 その様子に、バターは危機感を募らせる。

 

「まずいにゃ、助太刀しないと……」

「分かってるネ。小狼!」

 

 うん

 

 言わずもなが、セツナやノブ公よりも先に反応。加勢しに行く。一方、セツナ達は――

 

「セツナ」

「セツナ」

 

 ノブ公とブレットの問いかけるような声。したかと思うと、意を決したのか、

 

「……あたし達も行くよ」

 

 遅ればせながら動き出す。

 

 そして……

 

 怪鳥ことイャンクックは止めどなく暴れ回る中、小狼と小凛は安全圏ギリギリのポジションに立つと、お互いの武器を取り出した。

 先陣切って小狼の弓が、取り出した際の勢いのまま幾つかの矢となって放たれた。やや遅れて、小凛の重厚なるヘビーボウガンの砲口から火砲を吹き出す。

 互いの攻撃が怪鳥に意表を突かせ、当のイャンクックが吃驚。先に対峙していたハンターを蹴散らした後、こちらを向いた。

 一方、吹き飛ばされたハンターはやや背丈以上ある茂みの中へ。一旦、姿を消す。

 

 クェエエエ――??

 

「シャオネー??」

「言われなくても」

 

 来る!

 

 直感が冴えた。迂回するかの様に斜め左に走り出した直後、イャンクックは地を蹴って突進。そのまま、遠くまで行ったかと思いきや、勢い余って前のめりで倒れ込んだ。

 すかさず弓を構える。その間、流石の小凛(シャオネー)、無数の弾丸が直線上に空を切って、怪鳥の巨体を穿った。

 負けじと雨霰の如く、矢を連射。無数の矢が刺さりまくった。夢中になる中、2人のハンター――セツナとノブ公が視界を横切る。

 態勢を立て直す間隙を突くかの様に、切り刻み。或いは、穿つ攻撃を繰り出していった。

 

「距離を!」

 

 ノブ公が叫んだ。

 

「!」

 

 夢中になりそうになっていたのであろう。いつの間にか態勢を持ち直し、セツナとノブ公の方へ向いていたことに気が付いたようだ。

 

「くっ」

 

 その場を飛び退ろうとしたセツナ。方や、自慢の大楯を構え、ガード態勢になるノブ公。

 直後――

 

「くっ」

 

 ガキ――ン――??

 

 強行さながら突進に。モロ直撃を受けたノブ公は、やや後退り。方やセツナは、身軽さながら間一髪、交わしたようだ。

 

「パパ??」

「大丈夫だ。セツナは?」

「あたしは大丈夫」

 

 突進で距離を開けたイャンクックを尻目に、2人は無事の様だった。

 

「シャオネー!」

「分かってるネ」

 

 距離を詰めるべく、イャンクックへと向かう。――とここで、

 

「俺の獲物だ――??」

 

 え?

 

「っ!」

 

 先程、謎のハンターが吹き飛ばされた方向にある茂みから、怒声のような威勢が聞こえたのである。

 思わず4人は、そちらの方へ。すると、ガサガサと葉音を立てながら、

 

 なんと! 

 

 あのハンターが! あの、ブルファンゴフェイクをした、奇怪な姿をした巨漢が、鬼気迫るかのように向かって来たのである。

 

「ひぃ!」

 

 思わず小さい悲鳴を挙げる小凛。小狼も、思わず恐怖を感じずにはいられず、自然とその場を退いてしまった。

 ブルファンゴフェイクの巨漢は、そんな2人を顧みない。それどころか、イャンクックと直接攻防を繰り広げていたセツナ・ノブ公までも。

 まさに猪突猛進。その様は、あのブルファンゴの突進の様な錯覚さえ覚えるほどであった。思わず呆気にとられる小狼達。そのハンターは、自分の背丈程あらんばかりのハンマーを手にするや、両手握り拳に、力を注力し始めた。

 動きはやや鈍ったものの、それでも態勢を立て直しつつイャンクックに迫り――

 

「お返しだ――??」

 

 振り上げては

 

 ドシーン――……??

 

 巨躯に巨槌を打ちつけた。

 

 グギャー??

 

 堪らず悲鳴を上げる怪鳥。大量の鮮血が迸った。だが、それだけではない。ほぼ間髪入れずして再び構えを見せるや、渾身の力を激らせて、

 

「おりゃー??」

 

 ドスーンー……??

 

 先程の威力程には劣るものの、またもや強烈な一撃をお見舞いしたのである。――とそこで

 

 ハッ!

 

 我に返った。

 

「シャ、シャオネー!」

「え? あ、う、うん」

 

 呼び掛けに、彼女も今しがた気が付いたのだろう。再びヘビーボウガンを構え直した。

 加勢に打って出る。つられるようにして、セツナ、ノブ公もまた、攻撃に転じようとした。ところがそこで、

 

「邪魔だ! お前ら」

 

 っ!

 

「え?」

 

 想定外の反応に面を喰らい、思わず立ち往生。

 

「邪魔なんだよ、邪魔。これは俺の獲物なんだよ」

「だ、だって。あたし達が加勢しなかったら――」

 

 しかし、

 

「加勢なんて、はなっから頼んでねぇよ! ともかくこいつは俺の獲物なんだ!」

「は? なにそれ?」

 

 流石のセツナも不快感を滲ませた。他方、小狼と小凛、両方とも意味がわからなかった。分からないで、それでいて――

 

「意味が分からないネ? 第一、やられていたじゃないの」

「う、うるせ! 一時的な不覚を取っただけだ。不覚をな」

 

 が、そこで、やられっぱなしのイャンクックが、突如として無理な体勢からひと暴れ。

 

「くっ」

巻き込まれたブルファンゴフェイクのハンターは、思わず尻餅。そして、再び体勢を立て直そうとして、

 

 ブン――??

 

「のわ!」

 

 刃物を振り被さらんばかりの強靭な翼にぶち当てられ、吹っ飛ばされてしまった。何度も転がるハンター。その間抜けとも思いしき光景を目の当たりにし、

 

「な?にやってんネ」

 

 セツナとお揃いで、小凛は半ば白けたようだ。羽ばたくイャンクックに、繰り出される突風。立ち上がれずにいるブルファンゴフェイクのハンター。

 セツナやノブ公も、強風に煽られ身動き取れず。当然ながら、今の今まで役に立てそうになかったバターやブレットも、これにはなす術なしと言ったところ。

 そんな中を、上空へとイャンクックは舞い上がっていく。

 

「く、くそー! 逃げんなこら?」

 

 悔しさを滲ませ、そのハンターは吠えるのであった。

 

 イャンクックが逃げてしまってから数分後、依然として言葉をかけずらい雰囲気であったが、その状況を打破したのはセツナだった。

 彼女は小狼と同様、同じ疑問を抱いていたらしい。

 

「ねぇ」

 

 と声かけ。しかし、

 

「……」

 

 背中を見せながら無反応。

 

「ねぇってば。……ねぇ!」

 

 直後、

 

「……お前らのせいだ」

「え?」

「お前らの……」

 

 振り向いては、いきなり語気を荒げ

 

「お前らのせいだ??」

「な、なにを?」

「お前らがしゃしゃり出なかったら、仇は取れたんだ!」

「仇?」

 

 流石に、この単語には小狼は首を傾げざるを得なかった。続けてセツナは

 

「仇って、なんなのよ? 先程、訊いたハンターからは、あなたくらいしかいなかったって訊いたのよ」

 

 すると、

 

「人じゃないんだよ、人じゃ」

「え? 人じゃない? じゃぁ」

 

 この意味不明なことを話し出すハンターを前に、小狼と小凛は顔を見合わせ、さ?、と示し合わせた。

 ――で、

 

「人じゃないって。じゃぁ、何? オトモか何か? そう言いたいの?」

 

 しかし、

 

「んな訳ないだろう! モス、モスだよ! モ、ス」

「え?」

 

 (モスって……)

 

 恐らくセツナも同じことを抱いたのかもしれない。と言うのも、モスと聞けば、頭の片隅に連想するは、あのブタのこと。

 あの、アオキノコを求めて彷徨い。そして、見つけては頬張り。そんな生活を続けているせいか、背中には苔が生えている豚。

 そんなイメージが浮かんだのである。てか、そもそも野生のモンスター。

 

 (モスの敵討ち、する必要、あるんだろうか?)

 

 そんな疑問が頭を擡げ、それは押し黙ってしまったセツナも同じく思ったに違いなかった。しかも、荒げた口調からは本気であることが伺えられるし……。

 小狼にとっては、まさに初めて出会うタイプ。それも、突出して変わったタイプだけに、腫れ物を見るかのように近寄り難しだった。

 対するブルファンゴフェイクのハンター。そんな彼らに気にも留めずと言ったところだろう。

 背丈程もあるハンマーを軽く納刀すると、イライラしたオーラを纏わせながら、ある箇所を目指して歩き出した。

 その箇所、と言うのは、まるで中州のような位置にある茂み。小さい一塊のような茂みであった。

 皆が見つめる中、そのハンターはその茂みの手前まで歩み寄る。

 

 (何か採取でもするのだろうか?)

 

 そんな予感が過ぎった。しかし、彼がしたことは全然違い――

 

 (え? お祈り?)

 

 そう……

 

 彼がしたことは、まさに、両手を合わせてのお祈り。礼儀良くお祈りすることだった。しかも、何かをぶつぶつ呟いていたりもしているしで……。

 これには、流石に引いたのだろう。今まで黙っていた小凛が白けムード全開で話しかけた。

 

「何してんネ?」

 

 と。

 だが、彼はすぐに返事しない。返事しないで、今度はレイナが恐る恐ると

 

「あの?」

 

 と一言。そして、ブルファンゴフェイクのハンターは、お祈りし終えるや、肩を落として――

 

「で、お前らいつまでそこにいるんだよ?」

 

 と突飛な疑問を投げかけてきた。思わず、え? となるが

 

「いつまでって? 仕方ないでしょ。あんたの奇怪な行動を見ていれば」

 

 と、文句を言うかのように言い返したるは、セツナ。それは、この場にいる皆が思っていることを代弁するかのように、言い返したのである。

 しかし、

 

「なっ! き、奇怪って。……て、てめぇ?……」

 

 癪に触ったのだろう。ムカっ腹全開。両拳に力を込め、威圧感丸出しで迫って行った。

 

「ちょ、ちょ、ちょ、な、何よ??」

 

 そして、たじろぐセツナを相手に胸ぐらを掴もうと手を伸ばして、そこで

 

「おっと、タンマ」

「は?」

「暴力はいかんな、キミ」

 

 そう間一髪で留めたるはノブ公。セツナとイラつくそのハンターの間に割って入るように手で制した。

 

「んだよ、おっさん? 俺とこいつのやり取りの邪魔をするつもりか?」

 

 彼の行動に苛つく態度を、当然ながら見せる。しかしノブ公、ここは、いわゆる大人の対応と言うものを見せた。

 冷静な口調で宥めるように話す。

 

「邪魔も何も、殴りかからんばかりの勢いだったからね。いくらゲームの世界とは言え看過できないものでな」

 

 だが、

 

「看過できないから? だと」

「まぁね。それに相手は女の子だ。それを男が殴りかかるのも、どうかとね」

「は? 何言ってんだよ。んなこと関係ないだろう? こいつは、俺のモスを愛するが故の行動を、〝奇怪な行動”呼ばりしたんだぞ」

「それでもさ」

「ぐぬぬぬ……、こいつの肩を持つなんぞ」

 

 歯に物を言わせないノブ公に、歯を食いしばるように悔しさを滲ませた。――とここで、ちっ、と舌打ち。

 埒があかないと察したのだろうか。

 

「興が覚めたわ」

 

 諦めて踵を返した。返して、どこかへ行こうとした。それも、明らかに来た道とは逆に。

 今までのやりとりを傍観していたバターは、

 

「どこ行くにゃ?」

 

 と声をかけた。背を見せながら、そいつは

 

「散策だよ。気晴らしにな」

 

 吐き捨てるかのように述べた。

 

「は?、気晴らしに、ネ。……あ、そうだ!」

 

 そして、何かを思い出したらしく

 

「あんた、相棒、どうするんネ?」

 

 (相棒……、あっ)

 

 今更ながらに思い出したのである。そうだ、相棒。ここに来るまで、そう言えばと、イャンクックから逃げてきたと言うハンターに出会したことを思い出したのだ。

 だけど……

 

「相棒? ……あ?、あいつか。……ふんっ、しらねぇよ」

「知らないって?? あ、あんた、さっきまで一緒じゃなかったの?」

 

 言われて、そこで立ち止まってからに

 

「一緒も何も、勝手について来ただけだしな。相棒、という言葉にすら値しないがな」

「な?? 何よそれ!」

 

 さすがの小狼も、これには酷いとさえ思った。〝相棒に値しない“って……。

 

「何よそれ、って。そもそも勝手について来たのは向こうなんだぜ。逆に邪魔だったから、今は清清しているくらいで。だが、その結果がこれよ。俺のモスを、よくも?」

 

 勝手に思い込むや、そのハンターの両拳に力を込めた。メラメラ?と怒りを激らせ、その様は全身に紅き怒りのオーラを纏わんばかりに錯覚した。

 

 だけど……

 

「ち、仕方ねぇか」

 

 そう言うなり、やや肩をすくませると、アテのない旅を始めんばかりに歩み始めた。 

 しかし、やはり、あの逃げて来たハンター絡みで、気になっていたのだろう。

 

「どこ行くのよ?」

 

 強く呼び掛ける。

 

 引き止めるのだろか?

 

 側から見ていた小狼。恐らく小凛もそうかも知れないが、半ば無駄にも思えていた一声だった。

 案の定、

 

「どこだっていいだろう。俺は一人でクエスト進めるのが、性に合ってんだからな」

 

 片手を上げ、

 

 じゃ?な

 

 あばよ。さよならを意味していた。けれどそれは、どことなくやけっぱちのようにも聞こえた。

 バター、ブレット。そして、小狼・小凛。それ以上、誰も引き止めないかに思えた。

 ――と、ここで

 

「ちっと、甘く見過ぎているんじゃないか? キミ」

「っ! ……あ??」

 

 思わず足を止める。

 

「パパ??」

「おっさん??」

 

 小狼もまた、思わぬ言葉に驚きを感じるセツナ達と共に彼を見た。ノブ公の表情は真剣そのもの。その目線は、キッチリとブレずに立ち去ろうとしていたハンターを強く見据えていた。

 続けてノブ公は、話を続ける。

 

「なんのクエストを、今後こなして行くかは知らないが、キミの言動を見て、これだけはハッキリと言わせてもらうよ」

「は? 何をだ。……てか、あんたらは俺とは関係――」

「死ぬぞ」

 

 っ!

 

 恐らく、動揺したのは、自分だけではないはず。この心臓にナイフを突き刺したような言葉は、ある意味、マトを得ていたように思えたから。

 しかも、その言葉を皮切りに、周囲が凍てつくように強烈な悪寒が走ったくらいに。

 

 (なんだろうか?)

 

 自分には関係ないはず。ノブ公とそのブルファンゴフェイクハンターだけのやり取りでしかないはずなのに、まるで自分に言われているような錯覚を覚えた。

 しかし、

 

「死ぬ? 死ぬって。んな冗談な。いくらなんでも、そんな死に急ぐような無謀なクエは受けねーよ。第一――」

「第一。……そう、第一にだ。キミは、俺たちが駆けつけて来なければ、恐らくキャンプ送りになっただろうな」

「なっ??」

 

 核心を突かれたのか。彼に動揺が走ったのが、一瞬だが見え隠れした。だか、それを誤魔化すかのように

 

「だ、だけどよ」

「だけど?」

「……ま、マグレ。そう、マグレだ、マグレ。たまたま出くわした怪鳥に、手こずっただけだ。……す、少しだけな」

「ほぅ」

「な、なんだよ。その嫌味のある余裕は。……ったく、気に食わねー」

 

 余裕綽々のノブ公に、苛立ちを露わにする。

 

「気に食わないか?。ま、それも言いだろう。だが、キミの動揺は、どう説明するんだね?」

「ど、動揺だと?? ……んな、バカな。第一、動揺するレベルの案件では――」

「してんネ」

「え?」

 

 珍しく、ノブ公に続けて指摘するシャオネーに、小狼は少し意外性を見た。皆の視線が小凛に向き――。

 そんな中、

 

「言葉の節々でタジタジになっているんネ。自覚ないと思うが」

 

 (た、確かに……)

 

 だけど、

 

「んなアホな。この俺が、か?」

 

 そこでノブ公が、

 

「ま、いずれにせよ。これからはキミ自身の判断だ。うちらと共に付いてくるのもよし。或いは、変わらずソロで続けるのもよし。強制はしない。しないが、メリットやリスクの有無については……。分かるよな?」

「ぐぬぬぬぬ……」

 

 そこまで言われただけに、具の字も出ないようだった。そんな中、バターが小狼のグリーヴの端を引っ張りながら呼び掛けてきた。

 

「ね、ね?」

「ん? どうしたの?」

「それよりもにゃ。あのハンターのところに戻ろかないかにゃ? 一人にさせたままだと、何かあると悪いし」

「……た、確かに」

 

 そう、同感だった。あの逃げて来たと言うハンター。ほったらかしだっただけに、あのまま無事でいられているかどうか気になったのである。

 

「シャオネー」

「ん? なにアルカ?」

「戻らない、一旦。あの逃げて来たと言うハンター、気になるから」

「ふ?ん、確かに」

 

 そして、

 

「セツナ、とか言ったっけ? 一旦、戻らないアルカ? あの例のハンター、気になるネ」

「……う?ん、確かに」

 

 続けてレイナも

 

「そうね?、確かに気になるわね」

 

 と同考だったようだ。

 

「パパ、戻ろう?」

「それもそうだな」

 

 一連の話を聞いていたノブ公もまた、同じ考えに行き着いたようだった。ブルファンゴフェイクのハンターを除き、皆がその場を後にする。

 

 

 

 

 戻って来た。とりあえず戻って来た、のだが……

 

「あれ? いないにゃ?」

 

 ブレットの言うように、その例のハンターとやらは、何処かへと行ってしまったらしい。居なくなっていた。

 荒らされた形跡もないだけに痕跡もない。考えられるとしたら、離脱(リタイア)したのかも。そう勘繰った。

 他方、バターとブレットが小狼と同じ考えに行き着いたらしい。

 

「帰ったかもにゃ」

「たぶん……」

 

 温度をとった。

 

「でも?、彼を置いてリタイアしたのなら、彼の言ったことは一理あるかも知れませんね」

「確かに……」

 

 レイナの言葉に、セツナは今更ながら納得したようだ。ちなみに、いわゆるその彼とは、例のブルファンゴフェイクのハンターであることは、この場にいる全員が理解していたであろう。

 

「でも、別にいいんじゃない? あたし達には関係ないしさ。それよりも、これからどうするか考えよう?」

「それもそうね」

 

 彼女達に成り行きでついて来た小狼と小凛、それにバターも、同じ考えであった。とは言え、決める権限はないわけであり……。

 

「任せるネ」

 

 決定事項を委ねた小凛が、そこにいた。セツナ達は考える。考えて、それでいて――

 

「団名、考えてみてもいいんじゃないか?」

「団名? 猟団を作るってこと?」

「ああ。少人数ながらでも、7名集まったんだしさ。この際にな」

「そうね?、いいと思いますよ。団名」

「レイナ……」

 

 ノブ公の提案に載ったレイナに、セツナが不思議そうに見つめた。そして――

 

「団名、団名か?」

 

 彼女は一人歩き出す。歩き出して、しばらくして森を抜けて。青空の下に出て森丘を一望した。

 それから澄んだ空を見上げて、何やらつぶやいて見せ。それでいて――

 

「自由になりたい」

 

 皆に聞こえるように、一つの願いを口にした。振り向いて

 

「あたし、この死と隣り合わせの世界から自由に、そして、解放されたい。……あの空のように」

 

 そう指差すは、言葉通りの蒼空。柔かな笑みを見せて

 

「だから、翼が欲しいんだ。だから、……その?、その空に向かって羽ばたく翼が欲しくて……」

 

 一拍置いて

 

「蒼天の翼。……そう、団名は、蒼天の翼。それで行こうと思う。あたしのこの思いを込めて」

「いいんじゃないか。悪くないと思う」

「私も、セツナさんが決めたなら」

「でしょ?」

 

 それから、小凛も

 

「悪くないネ。異議なしネ」

 

 小狼としても、別に違和感は感じ得なかっただけに頷いた。他方、オトモ達も同じ気持ちだったらしい。口を挟むことはなかった。

 

「なら、決定ね。蒼天の翼、これで行こう」

 

 皆が再び頷いた。――と、ここで、

 

「ちょっと待てー!」

「え?? 何?」

 

 聞き覚えのあるような声が唐突に聞こえてきて、皆がそちらを向いた。皆が驚くのも無理もない。

 そこには、先程のハンターが。それも、息を切らしたまま枝葉を身に纏わせて、あのブルファンゴフェイクのハンターがいたのである。

 

「あれ?? 来ないんじゃなかったかネ」

 

 嫌味ったらしく小凛が、疑問を投げかける。しかし、彼の口調からは意外な言葉が。

 

「ちげぇよ。気が変わったんだよ」

 

 そう反論してみせた。

 

 そう……。

 

 暫し、愚痴愚痴と文句を言っては見たが、後々、現れたのには理由があったことを語ってくれたのだ。

 口先では利害の一致。と言いつつも、心の奥底で、彼は悩んでいたのである。その実、皆と共に行動するかどうかを。

 しかし、ここに来たからには、その意志は固まっていた。

 

 彼の名は、J.O。

 

 モスをこよなく愛するハンマー使い。そして、新たな猟団メンバーだ。

 

 

 

 

 

 

 

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