モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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5章:ガルド湖の戦い・8話

 もう直ぐなんだろうけど、何も見えない。それだけに、距離感が掴めないでいた。

 視界は0%で真っ白。標高がそれなりに高いわけでもないのだが、ケイン達猟団(蒼天の翼)の面々は、吹き荒れる暴風とホワイトアウトに苦しめられていた。

 

「あまり前列から距離を離すなよ」

 

 気を遣ってか、先頭にいるであろうノブ公が声をかけてきた。皆がそれに応える中、J.Oの後方を歩くケインは、暴風を押し退けつつジャムとミルクを肩に乗せて歩くだけで手一杯。

 返事をする余裕などないに等しい。代わりにジャムとミルクがノブ公の言葉に返事で返してくれた。

 悪戦苦闘するケイン。その後ろでは小凛、小狼の姉弟がいて。

 

「それにしても酷すぎるネ。一向に病む気配ないし。小狼、大丈夫ネ?」

「な、なんとか」

 

 しかし、その声は苦し紛れのようにも聞こえて

 

「無理はいけないネ。手を繋いだ方が――」

 

 しかし、

 

「い、いいよ。そこまでしなくても」

 

 すかさず気恥ずかしそうにして強がりを見せた。ところが弟想いが強い小凛のこと。食い下がる事なく

 

「でもネ?」

 

 と一言。――とここで、小狼と手を繋いで歩く、バターが代わりに答えてくれた。

 

「心配しなくても大丈夫だにゃ。私が付いているから」

「バター……」

「……すっかり心強いオトモアルネ」

「え、ま、ま?」

 

 気恥ずかしいのか、声のトーンがやや下がった。方や小凛としては、内心、僅かに羨ましらしく

 

「なら、この次は私のエスコートしてもらいたいネ」

「え、エスコート??」

 

 小狼が姉の思いがけない言葉に驚く。続いて

 

「私が、にゃ?」

 

 バターもそれなりに驚いたようだ。

 

「いや、とか?」

 

 わざとらしく焦らす。声だけ聞いていたケインは、ふと思った。この2人、そんな間柄だったっけ? と。

 何気なく、互いに気を遣って、それでいて摩擦を生んで対立していたようなイメージが今まであったから、大した一部始終なんだけども、どこか新鮮味を感じた。

 

「大したポジションだな、バター。2人を手玉に取るなんて」

「J.O……」

「なんて言うかな。不思議と俺も欲しいと思ったってのよ。そんなオトモがな」

 

 珍しい、あまりに珍しいことだ。何気ないやり取りに、ソロ志向のJ.Oが触発されるとか。だが、

 

「ま、不意に過ったに過ぎないがな。どのみち、俺の方針は変わらない。利害の一致、俺がここにいるのはそれだけだからな」

「は、は?」

 

 その言葉を受け、小凛はやや白けたようだ。

 

 それから暫くして……

 

 気候の移り変わり初めか? 吹き荒れる暴風が少し弱まってきたような塩梅になってきた。それに伴い、ホワイトアウトの視界に切れ目が出始めてきた。

 隙間を垣間見れば雪化粧の山脈が。そこから、時折、眼下に湖水らしきエリアも見れて。

 いずれにせよ、合流地点までは一足と言った感じだ。

 

「もうすぐかしら」

「恐らくな」

 

 下ることに夢中になっていたレイナとJ.Oが声を揃える。先を見据えて先頭を歩くノブ公は、2人の問いに答えた。

 

「その勘は遠からず当たってるな」

 

 そこで立ち止まっては、視界が鮮明になりつつある頃合いを見計らい。

 

「ビンゴ! ほら、あそこ。目指すべきガルド湖だぜ」

 

 その眼前、その場にいた全員は湖水の全貌を目の当たりにした。

 

「なんとも、ま?」

 

 とレイナ。

 

「ふん、この距離なら1時間もかからないか」

ユウトとセツナ(あの2人)がいるなら、いいけど」

 

 J.Oと小凛が口々に一言述べる。

 

「でも、どの道、確証はないけど行くんだろう?」

 

 とケイン。

 

「まぁな。例えいなかったとしても、あの2人が行き着くとしたらあのガルド湖くらいしか思い当たらんしな」

「いずれにせよ、てか」

 

 行く価値はある。例え無駄足になったとしても……。

 

 改めて納得したような気がした。――で、再び下山を始めようとして、そこで

 

「ん? どうしたネ?」

「あれ? さっき、なんか……」

「あれ?」

 

 2人のやりとりが後ろから聞こえてきた。少なからず気になったケインは、歩調を緩め聞き入る。

 

「ほらっ、また」

「え? どこネ?」

 

 横目で見つめれば、右往左往する小凛の姿が目に映る。指を示した方向。その方向にケインも小凛と同じくガルド湖を見つめて――。

 一箇所、小さな雪煙が舞い上がったかのように見えた。――かと思いきや、

 

 っ!

 

 と鼓膜を通して反射的に認識。猛獣の、それも飛竜の咆哮と思いしき反響が聞こえてきたではないか。

 

 ピタリッ

 

 先頭を歩くノブ公も、さすがに気付いたらしく。いや、それ以上に、メンバー全員が気付いたと言うべきか。行進が止まった。

 

「聞いたか? さっきの」

「ええ」

 

 ノブ公がレイナに確認を。それに合わせるかのように、J.Oも答えた。

 

「バッチリな」

「おっさん、これは――」

 

 ケインの問いに、ノブ公は

 

「間違いない。モンスターの咆哮、それもドドブランコとは別に大型種の咆哮だ」

「てことは?」

 

 小凛の問いに

 

「皆、急ごう。もしかすると」

 

 そこから先は何を言いたいのか、判然と分かるような気がした。何かとの修羅場が展開されていて。

 その何かと言うのは、まさにユウトとセツナ。2人が凶暴なモンスターと死力を尽くしている。

 そんな構造が目に浮かんだからである。

 

 

 

 

 遠方からではその広さは大したことがないように見えた。だけど、実際に来てみれば、その広さはまさに大雑把に言って雪原のように見えなくもなかった。

 ガルド湖はそれくらい、思った以上に広がったのである。だけど、問題はそこではない。

 簡単に言えばその地形。暴れまくったであろうその痕跡が、ひと目でわかるように多種多様の障害物として、行く手を阻んでいたのである。

 立ち塞がる障壁の数々。その向こうからは、激しい戦闘音が聞こえてきて。それに混じる様にして、聞き覚えのある声が。

 叫ぶ様なやり取りする様な男女の声音。見るまでもない。間違いなく、ユウトと、そして――

 

「小狼、足元、気をつけろよ」

「うん」

 

 底知れない深さ、大の大人4人分ほどの幅のあるクレパスを挟み、ケインは僅かな足場を示しながら小狼を導いていた。

 分厚い氷柱のような雪塊。横倒しになったその雪塊の上によじ登りながら、次の足場へと渡り歩く。

 そのなかで、

 

 くっ

 

 またもや振動。ただでさえ、不安定さながら足場が危ういのに、度々伝わる地響きが、ケインと小狼の。

 ……いや、その場にいる団員達の行手をなん度も阻むのだ。

 揺れが収まる僅かなタイミング。その間隙を縫ってケインは、雪塊の上を伝い歩く小狼の手を取り、引き寄せた。

 

「あ、ありがとう、ケイン」

 

 しかし、

 

「礼を言うのはまだ早い。全部終わってからな」

「……うん」

「大丈夫か? 2人とも」

「ああ」

 

 コクリッ

 

 心配したノブ公に言われ、ケインは答え、小狼は頷いた。

 

「なら、先を急ごう。いずれここも、崩れ落ちるやも知れないからな」

「言われなくても」

「へっ、ビビんなよ」

「あんたに言われたくないわ。豚頭」

「んだとー??」

 

 思わず歪み合ってしまう。しかし――

 

「ケイン」

「っ! ……そ、そうだな」

 

 肩に乗せたミルクに一声かけられ正気に戻ったケインは、ひとまず一拍。J.Oを無視して先を急いだ。

 

 クレパスを超え荒れた大地の丘に先に立ち、先方を見据えたのは、ケイン含め、小凛とJ.Oの3人だった。

 対して、ミルク、バター、ジャム、ブレットのオトモ達。そして、小狼、レイナは、未だにノブ公に手を借りて奮闘をしていた。

 

「なんだありゃ? 見るからに酷い暴れっぷりだな」

「ユウト」

「団長……」

 

 ユウトと、彼と共に団長と呼ばれた女ハンター。2人が対峙するは、まるで頭部がTレックス、体部がトカゲ。全身、黄ばんだ様な硬質的な体表。そんな変な組み合わせをした飛竜だった。

 あまりにも激しい狩猟戦を前に、3人は呆気に。そんな彼らを知ってか知らずか、残された仲間を手助けするノブ公は、背中を見せながら問う。

 

「どんな感じだ?」

 

 と。

 

 っ!

 

「あ、ま?。いや……」

 

 言葉に表せない。表せないくらい苛烈極まる修羅場が目の前で繰り広げられていたからだ。

 時折遠方から迸って来る咆哮が、素肌をピリつかせる。その度に、鳥肌立つレベルで恐怖をいたがざるを得なかった。

 これ以上の言葉が出ない。そんなケインに小凛はサラッと代弁してのけた。

 

「酷いあり様なのネ」

「ああ、確かに酷いあり様」

 

 繋げる様にしてJ.Oが言葉を紡いだ。

 

「足場に注意しろよ」

 

 そう仲間に言い残すと、彼も気になってかケイン達の方へと歩み寄った。

 

「ティガレックス……」

「え? 今なんて」

 

 しかし、ケインの問いには取り合わない。その代わり、くまなく目線を走らせた。走らせて、それでいて――

 

「セツナ……」

「え? えあ、ちょ、ちょっと??」

 

 何を思ったのか、いきなり地を蹴ってノブ公は走り始めたのである。当然、ケイン以外、J.O.と小凛も副団長らしくない突発的な行動に目を丸くした。

 

「「お、おっさん??」」

 

 珍しく2人の声が重なった。取り残されつつあるケイン達。ノブ公は後方、こちらへ目線だけよこすと 

 

「お前達はここにいろ!」

「え? それって……。あっ」

 

 理由を語ることなれ、勝手に1人で行ってしまった。ただ、ちらっとだが、ほんの僅か、その表情には焦燥感が垣間見えたような気がした。

 

「あの野郎、1人で勝手に――」

 

 触発されたかの様に、J.Oも乗り出そうとしていた。だが、

 

「待つネ」

「え? ……なんでだよ!」

 

 思わぬ一言に立ち止まる。遠方の戦いに目を細め、何かを探る様な眼差しを見せる仕草。そして、後方のレイナ達を見て、それから――

 

「なにか考えがあるんネ。ともかく、私達はみんなの手助けを先に済ますネ」

 

 しかし、

 

「だ、だってよー」

「J.O」

 

 珍しく、この場を借りてケインが彼の名を。その一言を受けて

 

「だーもー?? 分かった、分かったよ! やればいいんだろう、やれば」

 

 渋々と言うべきか、J.Oの後に続いてケインと小凛の両名は、踵を返した。

 

 残りはバターと小狼だけとなる。この最後の亀裂を越えれば、全員、難所を超えたことになるわけであり――

 

「行けそうか? 小狼」

「う、うん……」

 

 答えてみたものの、その表情には難色が滲み出ていた。方やバターもバター。ミルクとジャムから差し出されたピックの先端を見つめながら、小狼と同じ心境に立っていた。

 その一方で、ブレットは周りをキョロキョロ。「安全な脇道があるかも知れない」とか言って、どこかへと行ってしまっていた。

 小狼・バター、両名が無理を強いられるのも無理がない。先程のティガレックスから放たれたバインドボイス。

 そのとてつもない反響を受けてか、橋渡しを担っていた氷柱の一部。その一部が崩落。小狼とバターの両名は、危うく奈落の底に足を滑らすところだったのである。

 まさに間一髪であり、あと一歩か二歩。前に出ていたら巻き込まれるところだったのは言うまでもなかったのだ。

 

「無理もないかもね?」

 

 両名の気持ちを汲んでか、レイナは呟く。しかし、

 

「大丈夫だ。俺らがガッチリ掴んでやるからよ」

 

 ケインの隣に湧き出るはJ.O。その図太い腕を差し出し、力強い言葉を投げかける。

 他方、ミルクやジャムも同じであり、必死に呼びかけていて――

 

「小狼、先に行ってにゃ」

「いや、バターこそ」

 

 互いに遠慮し合う羽目に。でも、

 

(うち)は大丈夫だにゃ。元々、小狼と違って――」

「そんなこと言わないでよ。縁起でもない」

「だけど、現実だにゃ。それに小狼の方が落ちる方が見たくないにゃ。万が一落ちたら」

 

 そこで、ケインが

 

「んなことで揉めるなよ。2人とも絶対に落とさないからさ」

「そうだにゃ」

 

 そして、ジャムも

 

「100%、保証するにゃ。同じ仲間として」

「小狼……」

「それはバターだって」

 

 そこで、J.Oが苛立ちを露わに。

 

「だー?? めんどくせい。大丈夫だ! つってんだろう。なんなら、俺がそちら側に行って――」

「そ、そこまでしなくても」

 

 流石にそこは面を食らった様子。強引さを見せつけてきたJ.Oを前に、遂に小狼は仲間を信じて意を決した様子。助走をつけるべくその場から数メートル弱、離れた。で、

 

「うわ――??」

 

 奇声を上げるや否や、全速力で地を蹴って走り出し――

 

 次の瞬間!

 

 ワァオ――??

 

 ズシンッ??

 

 っ!

 

 強烈なバインドボイス。強烈な振動が突如として襲いかかってきたではないか。

 

「ちち、こんな時に」

 

 揺れに堪え忍ぶJ.O。

 

「小狼」

 

 と小凛。

 

「「バター??」」

 

 思わずミルクとジャムが声を揃えた。

 

「だ、大丈夫だにゃ」

 

 とバター。

 

「な、なんとか」

 

 バランスを崩したものの、なんとかしがみつくことができた小狼がそこにいた。

 

「ったく、こんな時によ」

 

 ケインが愚痴をこぼす。タイミングが悪いと言うか何というか。一拍置いて、

 

「行けるか? 小狼」

「う、うん。なんとか」

「うちらが必ず掴まえるから」

「シャオネー……」

 

 皆に勇気つけられ、再び立ち上がる。

 

「今度こそ」

 

 意気込む。再び立ち上がり、そして、一歩踏み出そうとした。――と、その時、

 

「のわっ!」

「「小狼??」」

 

 必然的に小凛・ケインの声が重なり。踏み出した手前、なんと! 振動によってすっかり脆くなった氷柱が割れて崩れ落ちたのである。

 突然の事態に尻餅を着く小狼。ケイン達はその瞬間を前に肝を冷やした。

 

「あ、危なかったな?」

「う、うん……」

「大丈夫ですか?」

「な、なんとか」

 

 これには一声かけざるを得なかったレイナの言葉に、小狼は気丈にも振る舞った。

 

「さっきのは本当にやばかったにゃ。あと一歩踏み出していたら」

「全くだにゃ」

 

 ミルク、ジャムが口々に言い合い、それに賛同する様に小狼の後ろにいたバターまでもが頷いた。

 ――で、

 

「でも、これではもう向こう側には、流石に行けないにゃ」

「そ、そうだね。これでは」

 

 目視距離で換算。氷柱の先端から対岸まで、およそ数メートル。とても飛び越えて渡れるようなレベルとは思えなかった。

 

「困りましたね?」

 

 腕を組み頬杖を着くレイナの一言。これにはケインも同感であった。本当に困ったものである。

 頭を掻くケイン。そんな彼にミルクは

 

「どうしようかにゃ? ケイン」

 

 と答えを求めて問う。しかし、当のケインは

 

「んなこと言われてもよ」

 

 返す答えがなくて困っていた。辺りを見回す。数メートルから十数メートルの底なしのクレパスが、ケイン達と小狼とバター。2人の前に越えることのできない巨壁のようにどこまでも続いていた。

 そんな障壁。そんな障壁を前にして

 

「ちっ、厳しいか」

 

 思わず苦渋の面持ちをしてしまう。流石に万事休すか? そう思った矢先、ふと視線がある一箇所に行き――

 

「根っこ?」

 

 と一言。それと小さな影も視界に入った。入って、それでいて何かを訴えるかの様に手を振ったり、飛び跳ねているではないか。

 

「あれは??」

 

 とジャム。それと何かを求めて辺りを見回すレイナの姿が。

 

「どうしたんだ? レイナさん」

 

 気になったのか、J.Oが声をかける。

 

「何処に行ったのかな?、と」

「ん? 何処にって?」

「ブレットさんです。今更に気づいたんですが、見当たらなくて」

 

 すると、ミルクが

 

「確かににゃ。何処かを探し求めて行ってしまってから帰って来てないにゃ」

 

 だが、いつのまにか双眼鏡を持ち出して眼鏡を覗いていたジャムが、それを否定してみせた。

 

「そうでもないにゃ」

「そうでもないって?」

 

 レイナが不思議そうに答えると、

 

「ん?」

 

 唐突に何かが来たのであろうか? 小凛はそこで指先で空を切り、画面を見開いた。何度かクリックした後、その口元は少しだけ笑みを見せる。

 その様子に、渡ることができない対岸から小狼が問いかけて――

 

「どうしたの? シャオネー」

 

 すると、

 

「呼んでいるネ。ブレットが」

「え? 呼んでいるって」

 

 しかし、それには直接応えず。代わりに指を挿した。その示す方向。その方向には、根っこの近くで未だに呼んでいる小さな小影がいるわけであり――。

 

 

 

 

「ようやく来たにゃ」

 

 待ちくたびれた様子で、開口一番、ブレットが言い放った。

 

「チャット機能は使わなかったのか?」

 

 と小凛に、ブレットは

 

「それも試そうとしたにゃ。でも、レイナさんに送ったきり返って来なかったのにゃ」

 

 と嘆かわしそうな表情を向けた。

 

「私に?」

 

 そして、画面を開く。開いて色々弄る中、

 

「あ、ほんとだ! ……ごめんなさいね?」

 

 今更ながら気づいた様だ。

 

「酷いにゃ?」

 

 流石のブレットも、これにはショックを隠せない模様。やや半泣きしてしまった。バツが悪そうに頭を小さく掻く彼女は、

 

「私、こう見えてメール機能、殆ど使わない方だから……。本当にごめんなさいね」

 

 申し訳なそうに謝った。そんなレイナに、小凛は

 

「メール機能、普段から使わないって。でも、団長とは親友の間柄なんでしょ?」

 

 と追及。

 

「そうよ」

「だったら――」

 

 しかし、その回答は意外なもので

 

「ふぅ?ん、それでも使わない方かもね。いつも、面と会う時しか会話したことしかなかったから」

 

 そこで、ブレットが

 

「にゃんだそりゃ?」

 

 思わずと言うべきか、愕然としてしまった。他方、ケインとしても、彼女の何処常識が抜けたような考え方に、さすがに驚きを隠せなかった。

 

 無理もない。

 

 このデスゲームと化したオンライン・ゲームを前にして。……いや、デスゲームであってもなくても、オンライン・ゲームなら、メール、或いは、チャットのやり取りを日常茶番時することなど、常識中の常識。そう思っていたから尚更だったのである。

 けど、なにはともあれ余計に考えても仕方ない。レイナの意外な一面を初めて知っただけのこと。

 いずれにせよ、どの道、ブレットは見つかったんだし、それに小狼やバターは対岸に来られたのだ。

 まさに結果オーライ。それだけで十分だった。

 

 ……そう

 

 先程、ブレットがいないいないと言って騒いでいた上、根っこの辺りで見つけた謎の影。

 その正体こそ、ブレットだったのであり。そして今、その対岸を繋ぐ根っこを伝って渡れたのである。

 1番の難所を超えた今、ケイン達は一息ついていたところであった。だが、長居は無用。

 ふと、J.Oを見れば、彼はもう既に先を見据えている。視線を辿って同じく先を見据えれば、未だに暴れるティガレックスを前に、ユウトと謎の女ハンター。そして、加勢に加わったノブ公の悪戦苦闘が目に映った。

 

「ぬか喜びはできそうにないな」

「ああ……」

 

 J.Oの呟きに応える形でケインが頷いた。先を見据えて険しそうな眼差しを向けるケインに、ミルクが一言。

 

「ケイン……」

 

 と。当のケインは

 

「先を急ごう。おっさん達、かなりヤバいらしいからな」

「そうだネ?」

「うん」

「ですわね」

 

 小凛・小狼、それにレイナが同じ考えを示した。気を取り直し、皆が走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 皆が立ち向かう中、後ろの気配に気付いたジャムが振り返る。すると、案の定、1匹のオトモ――ミルクがいた。

 一歩もその場から動こうとしないミルク。俯くその表情を観察してみれば、何かを躊躇っているようで、視線が泳いでいた。

 心配したジャムは一言。

 

「どうしたにゃ?」

 

 問いかける。すると、ミルクは

 

「大丈夫かにゃ?、と思ってにゃ」

「大丈夫って? こ、こんな時ににゃ?」

「そうだにゃ。頭では大丈夫、大丈夫、と分かっているはずにゃんだが、どうも、胸騒ぎがするにゃ」

「胸騒ぎって」

 

 縁起でもない、と思った。ただ、分かる気がする。視線をあの暴れ狂うティガレックスへと向ければ、連携をきちんと組まないと瞬く間に――、と。

 

 だげど……

 

「きっと大丈夫だにゃ」

「大丈夫って……」

 

 そこで、ミルクの小肩に猫手を置き、繰り返すように励ます。

 

「大丈夫だにゃ。皆、それを承知で立ち向かっていく筈だし」

 

 しかし、ミルクは

 

「全然、安心材料になってないにゃ! 万が一、誰かがやられたら――」

 

 と、余程、思い詰めていたのであろう。吐き捨てるかのように胸の内を曝け出してしまった。余りにもの勢いを垣間見たジャムは、驚いて目を丸くしてしまう。

 けど、不思議とジャムは冷静であった。ここで、大の字になっては

 

「ストープ?? にゃ!」

「っ! じゃ、ジャム??」

 

 冷静になれ!

 

 そう言わんばかり、体を張ったのだ。これには流石に、今度はミルクが驚く番だった。目を丸くする彼女に、ジャムは

 

「後先考えても仕方ないにゃ。それに、例えそうだとしても、ここでウジウジして動かないで後悔するよりかは、やることをやって後悔する方が断然マシだにゃ」

「ジャム……」

「そ、それに、今はあの2人を助ける方が先だにゃ。そのためにも、1人でも多くいるんであって」

 

 それ以上、かける言葉が出ない。それだけに、精一杯の気持ちでもあった。事実、ジャム達オトモはモンスターにやられてもまた復活できる。

 ただ、ユウトやケイン達プレイヤー(ハンター)はそうはいかないだけに、内心、ミルク同等、心配でならないのだ。ましてや仲間である以上、余計に。

 だから、彼女の気持ちが分かる。凄くとまでいかなくとも、表情や言動を垣間見れば、肌感覚で伝わって来るのだ。

 顔を覗かせ、真意。……いや、決意の度合い、と言うべきか。ともかく、それらを確かめようとするミルクの姿が、視界に映った。

 

 そして……

 

「わ、かったにゃ」

 

 元気でない返事とは言え、そこには背に腹は変えられない。そんなところだろう。ようやく彼女は前を向いた。

 

「なら、行こうにゃ。少しでも彼ら、彼女らの役に立つように」

「うん……」

 

 差し出した猫手。ミルクはその猫手の上に自らの猫手を重ね合わせ、頷いた。

 

 ――全員、無事に――

 

 その決意を込めて、ジャム・ミルク、両名は走り出す。2人の立ち向かうその先には、生と死の境、修羅場とかした光景。

 まるで火中の栗を拾うかのようなものであった。

 

 

 

 

 

 

 

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