モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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5章:ガルド湖の戦い・9話

 彼が来たことで状況が変わるかに思えた。事実、俺とセツナだけではとても立ち向かえるレベルではなかったから。

 だから、そのことだけでも、2人より3人。言うなれば、1人でも多く来てくれるだけでも、心強く思えたのだ。

 だけど、残念ながら現実問題、そこまで対して変わりようがなかった。そして、その

 

 〝彼″

 

 と言うのはセツナの父――篠崎直哉こと、アバター名ノブ公のことであり、背丈ほどもある砲台の如き銃槍と大楯をセットにしたガンランス。そのガンランスを背負いながら、激闘の最中にいきなり加勢して来たわけである。

 初めはいきなり聞き覚えのあるようなないような声掛けにドキリッとした俺であるが、その声に素早く反応したセツナが、半ば疑問符を投げかけていたとは言え

 

 〝パパ⁉︎″

 

 と返事したことから、彼女の父であること。即ちノブ公であることに気付いたため、最初のドキリッとした以上の驚きはなかった。だけど、最初に述べた通り戦況が特段変わった訳ではない。

 怒り状態になっていないとは言え、対峙する相手はあのティガレックス。無事にフラヒヤ山脈から下山するには、こいつを討伐するなり撃退するなりして退けない限り、絶対、避けては通れない死を振り撒く障害物であることには変わりなかった。

 ちなみに、こいつとの遭遇戦(エンカウト)に至った経緯は、偶然かつ単純明快。俺とセツナは下山の最中、ポッケ村まで一息。その道中にあるガルド湖を渡ろうとした矢先、既に撒いたであろうティガレックスが、どこからともなく上空から飛来。

 逃げようにも逃げられず。結局、そのまま成り行きで戦う羽目になった訳なのだ。

 

 見つけた獲物は、絶対に逃さない。例え縄張り圏外であろうとも――

 

 そんな見え据えた意図としたものとしか思えない。あまりにものストーカーまがいの執拗さから、血の気が引くような恐怖すら湧くレベルだった。

 そうした中、そのティガレックスと合間見えていたわけであり――

 

「くっ、さすがにこれ以上は……」

 

 接戦に持ち込み、自慢の大楯で猛攻を凌ぎ続けるノブ公が、苦し紛れの一言を発した。

 方や俺は、大タル爆弾×3の配置を完了して、あとは罠を張る作業に勤しむセツナの合図だけ。

 

「セツナ……」

 

 ノブ公の限界を感じ取ってか、彼女に早くするよう急かした。

 

「あと少し、あと少しで……」

 

 そう言い残し、最後に雪面に打ち付けられた四隅最後の杭を、ポンポンッと叩くと、

 

「よしっ」

 

 と一言。続けて、俺に向かってグッとサインを投げかけた。

 

「ノブ公!」

 

 俺は叫んだ。声に反応して、横目でこちらを確認するノブ公は、

 

「準備できたか。だがしかし、……くっ、このままでは」

 

 まさにガード一辺倒、その場から逃げられないでいた。打開策は一つ、ティガレックスの視界を一時的に奪うしか――。

 画面を開く。数々のメニューからアイテムリストを開き、そして、無駄のない操作で閃光玉を選びだし、それで――

 

 ピカッ――‼︎

 

 くっ

 

 「な、なんだ⁉︎」

 

 突如、どこからともなく、先に誰かが投げたであろう閃光玉が目の前で炸裂したのだ。

 反射的に目を逸らした俺。間一髪、炸裂した閃光に視界を焼かれずに済んだが、代わりに

 

 キ――ン――……

 

 と聴覚がおかしくなったかのように、耳鳴りがした。目を逸らしたまま、俺は問う。

 

「セツナか?」

 

 しかし、彼女は

 

「あ、あたしじゃないわよ」

 

 否定。その口調から、セツナ自身も俺と同じ目にあったであろう苦し紛れに聴こえた。

 

「じゃ、だ、誰が?」

 

 誰がこんな下手くそな扱い方を――

 

 そう思いかけた。――そのそばから、聞き覚えのある声が聞こえて来た。

 

「ユウト、ユウト! 無事か?」

「そ、その声は」

 

 ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ、……

 

 と雪面を踏み締める足音。無数の足音が聞こえてくるその方角。閃光玉の影響でやや眩しい中、横目でその方角を見た。

 すると、そこには、

 

 なんと!

 

「け、ケイン⁉︎ そ、それに、小狼にミルクに……」

 

 安否が気になっていた親友の姿。無事でいた友に、俺は驚きと嬉しさが込み上げてくる。

 

「へ、簡単にはくたばらなかったぜ。ユウト」

「ったり前だろう。くたばりなんかしたら、承知しないからな」

 

 眩しい最中、無事でいてくれた友に、グー、を差し出し、ケインもまた、再会の喜びと共に、グーでお返しして突き合わせた。

 ただ、そこで視界が回復していくと共に疑問が湧き立って来た。

 

「そいつらは?」

 

 見知らぬ顔の面々。ケインやミルク、それに小狼が連れて来たであろう面々に、戸惑いを隠せないでいた。

 だが、

 

「その件については、後で話すよ。それよりも――」

 

 視線を変えた友の表情が、一段と険しくなる。俺もまた、彼の見る方へと視線を変えて――

 

「のようだな」

 

 今、置かれた状況に改めて立ち直った。そうしたなか、ティガレックスの猛攻から難を逃れたノブ公が、のこのこと現れた。

 で、冒頭――

 

「ったく、いきなり閃光玉を放つなんて。ちっとは――」

 

 と一言文句を。それに対して、ケインは

 

「お、無事に逃げ延びたみたいだな。おっさん」

 

 軽口を叩く。

 

「助かったことには感謝はするが、その前にタイミングってのがあるだろう? 危うくこっちまで視界を焼かれるとこだったよ」

 

 確かに、そこは同考だ。なにせ、いきなりの閃光玉使用だったからな。合図もなしだけに。

 ノブ公の言いたいことは、手に取るようにわかっていた。――で、ちょっとしたやり取り。

 そこへ、遅れてミルクやジャム。それに小狼達がやって来た。

 

「無事アルカ? おっさん」

「ま〜、なんとかな。危うくコイツのせいで、目を焼かれるとこだったけどな」

「久しぶりだにゃ、ユウト」

「ああ、久しぶり、ミルク。それにジャムも」

 

 この場を借りて、無事に再会できたことに喜び合いたい気分になりそうだった。

 だけど……

 

「お前ら、どの道、喜び合うのは後にした方がいいぜ」

 

 とJ.O。その表情を推測するに睨む先には、ようやく閃光の影響から立ち直りつつあるティガレックスの姿があった。

 頭を何度も振りめまい状態から抜け出すと、先程、追い詰めていたであろう獲物を探し求めて辺りを見まわし。

 そして、こちらの存在に気付くや否や、とてもつもないバインドボイスを放って来た。

 

 

 

 

 氷結の湖面上であるのにも関わらず、砕けた氷片が粉雪のように舞い上がり、ティガレックスの暴れっぷりが物語る。

 俺たちは必死、必死でそんなティガレックスを相手に抗い食らいついていく。攻撃する隙がない中で……。

 かと言って、奴の一撃でも受ければ、その瞬間に待ち受けるは、確実な(キャンプ送り)

 翻って戦闘圏外から逃げようにも、執拗に振り回してくるティガレックスを相手に、それすら叶わないものであり――。

 

「今だ‼︎」

 

 千載一遇と言わんばかり、他ターゲットに注意が向けられ、かつ、無駄な動作の長い疲労状態の間隙を見逃さなかった。

 片手剣(ポイズンタバルジン)の毒刃が、疲労困憊のティガレックスの脚部に幾重にも乱刃し炸裂する。

 あれだけ暴れ続けていたのだ。懐に飛び込む直前、垣間見た奴の顔。口元から涎が滴っていた辺り、相当なスタミナ消耗をしたに違いなかっただろうに。

 

 そう、スタミナ……。

 

 俺たちハンターであるが故に狩猟戦においては欠かせない持久力の指標。ケージを切らせば、へばってしまい暫く動けないことを意味しているのであり、それは何もハンターだけに限った話ではないのだ。

 オトモにもあるように、今、目の前にいるモンスター(ティガレックス)にも、非表示とは言え、スタミナケージみたいなものがあるのだ。

 ただ、ハンターやオトモと違い、そのスタミナの多さは圧倒的に有利ではあるが……。

 ――とまぁ、幾ら膨大と言えど無尽蔵でないことは事実。だから、こうしてへばっているわけであり、俺はその隙を付いたに過ぎなかった。

 しかし、無数に切り刻んでいて思う。いくら、軟部の部類に入るとは言え、硬い。凄くとまではいかないが、とにかく硬いのだ。

 それはもう、何重にも重なった小手を懸命に叩き切ろうとしているかのようにだ。だが、時折発生する毒煙が、確実に毒状態へと蝕めている。それだけでも、攻撃し続けている意味があった。

 

「離れて‼︎ ユウト」

 

 セツナの必死の叫びが、鼓膜を唐突に刺激する。刃をしまい、何が起ころうとしているのか分からないながらも、その場から退避すべく走り出した。

 

 ――途端!

 

 ブォーンー……‼︎

 

 と大回転。

 

「のわっ!」

 

 と、まさに間一髪。あと少しでもタイミングが遅ければ、その大回転攻撃に巻き込まれるところだった。

 

「さ、サンキュー」

 

 まさに肝を冷やした瞬間。

 

「深入りは禁物よ」

「そ、そうだな」

 

 我ながら、いつの間にか注意が散漫し油断していたことを実感しざるを得なかった。

 

 (あの大回転(攻撃)に巻き込まれでもしたらと思うと……)

 

 途端、恐怖が込み上げてきて――

 

「大丈夫?」

「え? あ、いや、なんでも」

 

 顔を覗いてきたセツナに、慌てて気を取り直した。

 

「と、ともかく、次なるタイミングを――」

 

 ――とそこで、

 

「違うでしょ?」

「え?」

 

 思わぬ一言に彼女の方を向く。すると、親指である方を示しながら言う。

 

「もう忘れたの? トラップ、トラップ、仕掛けたでしょ? ちょっと、とんだ茶番があったけど」

「トラップ?」

 

 俺は見た。見て、そこには先程、俺とセツナが仕掛けた落とし穴と大タル爆弾の危険地帯があったのを目にした。

 そして、

 

「あ」

 

 思い出した。

 

「あ、じゃないわよ。ともかく、一旦、トラップの方へ退くよ」

「あ、うん」

 

 ティガレックスが突撃してきたノブ公、それとJ.Oに気を取られている間、トラップ地帯へと走り出した。

 

 全速力で走る。走って、走って、走って、それでいて――

 

 ムギュウッ

 

 落とし穴に掛けた縄編みの上を踏んづけた。ハンターが乗っても作動もしない落とし穴。それでも、頑丈とは言え、縄編みだけに踏んづけた瞬間、あわや抜かるような感触を抱かざるを得なかった。

 背丈ほどの大きさがある大タル爆弾2個の隣。そこへ来て、俺は叫んだ。

 

「ノブ公‼︎ J.O‼︎ 一旦、離れろ!」

「え⁉︎」

 

 先にJ.Oがこちらに気付いた。それでもって、

 

「おっさん! ユウトだ。ユウトが合図している」

 

 しかし、

 

 ガキーンー‼︎

 

「くっ、深入りした。離れそうにない。お前だけでも」

 

 改めて注意が完全にノブ公に向けられているのか、彼は全く動けないでいた。

 

「なら、俺が――」

 

 その直後、

 

「バカやろう‼︎」

「っ!」

「ハンマーじゃガードできないだろうが」

「くっ」

 

 そして、繰り出される攻撃と、それに伴う火花や金属音を響き渡らせながら

 

「ともかく、ここから離れろ! お前だけでも――」

「しかし――! ……わ、分かった。なんとか逃げ切ろよな」

「ああ、こんなとこでくたばってたまるかってのよ」

 

 だが、側から見れば分かる。防戦一方、ジリ貧状態に陥っているだけに、ガンランスの特性から即座に逃げられないことを。

 しかもタイミングを誤れば、一撃キャンプ送りは火を見るよりも明らか。

 

「まずいな〜」

 

 思わず本音が溢れた。とここで、

 

「あたしが陽動を仕向けに行くよ。ユウトはここで」

 

 頭で理解しているだけに躊躇していた俺とは真逆に、これ以上黙っていられないと言わんばかり、セツナが即座に反応したのだ。

 

「おい! ちょっと待て!」

 

 しかし、聞く耳を持たずと言うべきか。静止を振り切り走っていく始末である。堪らず俺は、ヤケクソの如く奇声を上げた。

 

「だーもー‼︎」

 

 俺もまた、走り出した。セツナを説得しに。

 

 そして、2人してノブ公を助けに向かう最中、突如として、ティガレックスの動向に変化が。セツナもそうだが、俺もまた、思わず様子見に立ち止まって。

 頭を擡げる轟竜。その視線の先には、……全速力で小狼・小凛の方へと向かって走り続けるJ.Oの姿があった。

 

 まさか!

 

 嫌な予感が、脳裏を掠めて――

 

「逃げろ――‼︎ J.Oぉ――‼︎」

 

 堪らず叫んで、その直後、ガード一辺倒だったノブ公を蹴散らすべく、巨大な首を振り回して来た。

 

 ブォーンー……‼︎

 

 唸る風音。直後、

 

 

 バゴーン――‼︎

 

 と打ち当たり、

 

「のはっ!」

 

 いとも容易くと言うべきか。守備範囲外を含めた振り回しを受けたノブ公は、あっさりと吹き飛ばされてしまった。

 

 ちっ

 

「ユウト!」

 

 セツナの声。しかし、構わず俺は走った。

 

 間に合うか? 間に合わないか? 

 

 否か。

 次なる標的を変えたティガレックスが、逃げ仰るJ.Oを捕食せんとばかり、凶牙を剥き出しに襲いかかりに走り出したのである。

 死の轟音を迸りながら、雪煙を立てまくって――

 

「な、な、なんだ⁉︎ ひぃえ〜!」

 

 訳のわからない不気味な轟音に、恐怖を抱いたJ.Oが脇目も振らず必死こく。一部始終の最中、1人が犠牲になりそうな光景に黙っていられなかった俺は、すかさず走り出す。

 

「間に合え! 間に合ってくれー!」

 

 即座に閃光玉を取り出した俺は、タイミングが合うその瞬間まで運の女神とやらに懇願しまくった。だが、現実的には、とてもじゃないが間に合いそうもなく。

 間合いを一気に詰めてきたティガレックスが、遂に――

 

 (くっそ! だめかー!)

 

 そう諦めたその時、

 

 ♪♪♪ ♫♫ ♪〜……

 

 どこからともなく、麗しき音色が流れてくるではないか。しかも、その音色と言ったら、場の緊迫感とは全く相容れない。相容れそうにない、ほんわかとした感触を醸し出していた。

 

「な、なんだ?」

 

 思わず疑問を投げかけた。しかし、その直後である。前方に視線を戻すや否や、当のティガレックスの行動に異変が起きていた。

 再び首をもたげては、何かを探し求める仕草。俺もまた、その様子に見入ってしまい。

 

「どうやら間に合った見たいわね〜」

 

 どこかのほほ〜んとした口調。しかも、聞き覚えのある声が、風に乗って聞こえてきた。

 

「この声は?」

 

 セツナの声と俺が振り向くタイミングが合致り。その方角を見れば、背丈の2倍近くはあるであろう狩猟笛を軽々と持ち上げながら、演奏最中にあったレイナ。

 そんな悠長な彼女が、いつの間にかそこにいたのである。

 

「レイナ?」

 

 俺は一言添えて。対するレイナは再び演奏を始めようとして、ふと目を開ければ、彼女の視界に自分を見つめる俺とセツナの姿に気が付いて中断。

 

「あら、2人とも」

 

 どうしたの? 

 

 そんな言葉を返さんばかりに不思議そうな表情を見せた。

 

「あら、出ないんだけどな」

 

 と俺。一方、セツナは、突然現れた親友の姿に驚きを隠せないでいた。

 

「いつからそこにいたの? 全然、気付かなかったから」

 

 すると、レイナは

 

「今さっき、かな。これでも、全速力だったんだけどね」

「それにしては、全然余裕そうに見えるけど……」

 

 思わず怪訝そうな表情になってしまった。だけど、状況が状況。

 

「それよりも、来るわよ。……ほら」

「え?」

 

 指摘されて、再び視線をティガレックスの方を見れば――

 

 っ?

 

「げげ!」

 

 直後、

 

 ブォオオオ――ン――……‼︎

 

 特大のバインドボイス。見るからに、こちらの存在を完全に敵視したような勢いに見えたのだ。

 

「結果オーライ、かな」

 

 とレイナ。

 

「結果オーライって、何をし――」

「挑発よ、挑発。J.O()を助け出すにはこの手がベストとね」

 

 そして、即座に狩猟笛を背に担ぐや否や

 

「じゃ、後はよろしくね」

「あ、ちょっと、レイナ!」

 

 だが、そこで眼前を睨んだまま

 

「引き留めてる場合ではないみたいだぞ」

 

 注意を促した。破壊的な咆哮、からの巨顎を生かした捕食行動。こちらに向かって怒涛のような勢いで迫って来たのだ。

 

「や、やばい。あたしは先に。ユウトも――」

「ああ」

 

 しかし、その方向はセツナとは違う方向。迫り来るティガレックスを敢えて誘い込むかのように一直線上、真逆に走ったのだ。

 

「ユウトも早く――、って、どこに⁉︎」

 

 が、その問いには答えず。ある地点から距離を取るように離れるや、その瞬間が来るまで待った。ただ待つのではなく、念のために盾を構えながら。

 セツナは叫ぶ。

 

「バカじゃないの? そんなことしたって――」

 

 ティガレックスの突進が轟音を立て、最後まで聞こえず。失敗すれば、避けれようがない運命に直面して――

 

 次の瞬間――

 

 視界いっぱいに轟竜が見えた側から、奴の足元が崩落。奴は抜かりにハマって動けなくった。

 

 そう……

 

 俺はこの瞬間を狙ったのだ。落とし穴に引っかかるこの瞬間を。

 

 もし、

 

 ここでセツナと共に同じ方向に逃げれば、逆に千載一遇のチャンスどころか、キャンプ送りの運命を彼女と共に辿りかねなかっただけに、だ。

 

「ユウト……、もしかして」

「ふん、狙い通りって奴。早速、起爆させにかかるぞ」

「あ、う、うん」

 

 半ば呆気に囚われていたセツナも、俺の作戦の一旦を理解してか、気を取り直した。

 落とし穴に抜かり暴れ回るティガレックス。迂回しながら真正面を避けて追撃の構えを見せるセツナ。

 作戦通りに行った末のチャンスを目にして、ここぞとばかり反攻しようと躍り出ようとするケインとJ.O。

 俺はすかさず、2人に制止をかけるや、ペイントボールを手に。ティガレックスの眼前に予め配置されていた大タル爆弾目掛けて、ピンクの投擲類を投げつけた。

 鋭いアーチ状の放物線を描き、直後――

 

 バゴ――ン――……‼︎

 

 爆炎と、そこから繰り出される衝撃波が炸裂。たちまち奴の姿が真っ黒い爆煙に包まれ消え失せた。

 起爆寸前に耳を塞いだとは言え、まるで戦車の発射音よろしく。流石に2つ配置しただけはある。あわや聴覚がイかれんばかりの爆音が鼓膜に突き刺さった。

 

 キーンー……

 

 その影響から耳鳴りがする。だが、そこで立ち止まってはいられない。構わず俺は走った。

 

「加勢するぞ!」

 

 状況を見てか、J.Oとノブ公が反撃に撃って出る。その間、セツナが切り刻む攻撃を幾度となく繰り出す最中、俺もまた同じく加勢。

 身動き取れないでいるティガレックスの翼膜に目掛け、一番当たりやすい付け根部分を全集中の如く、猛毒の刃を振るった。

 小凛・小狼は、今いるポジションから適度な射感距離へと詰め、矢の雨を。レイナは付与効果の恩恵がある音色を奏で、その恩恵の名の下にJ.Oは巨槌を振り上げ、渾身の一撃を幾度となく浴びせまくった。

 

「離れろ‼︎」

 

 ノブ公が叫ぶ。直後、ようやくと言うべきか、轟竜は落とし穴からの復活劇を見せるかのように、剛翼を羽ばたかせ旋風を巻き上げ上空へと舞い上がった。

 

 くっ

 

 強烈な風圧に身動きが。それも、俺だけでなくセツナも同じ。飛竜の風圧程度では微動だにしないJ.Oは、ハンマーの柄に気合を溜め込みその場でタイミングを。

 方やノブ公は、風圧の影響は多少なりともあるとは言え、大楯でガードしながら、何やら、何かのタイミングを見計らうかのように、巨大な砲身を構えていた。

 やがて、羽ばたき終えるや否や、上空からその巨体が落下。直後、

 

 ズシーンー……‼︎

 

「ぬっ」

 

 粉雪と土埃を同時に舞い上がらせて、ボディープレス。俺とセツナは、振動をモロに受けて尻餅をついた。

 ――と、次の瞬間、砲身を構えていたノブ公が叫んだ。

 

「今だ――‼︎」

 

 ギュィイイイ――ンー‼︎

 

 と砲口にエネルギーが集約するや、直後、

 

 ボガ――ンー‼︎

 

 グギャ――‼︎

 

 大タル爆弾に引けを取らない程の威力のある竜撃砲が炸裂。そのあまりにも、巨大な大ダメージに、さすがのティガレックスは悲鳴を上げて仰け反った。

 だが、それだけではない。

 

「こいつも、見舞いしてやらー‼︎」

 

 ドシ――ンー‼︎

 

 あぐぅ〜

 

 気合いを溜めまくっていたJ.O、最大級の渾身の一撃。おまけと言わんばかりに、脚部に叩き込まれたのである。

 

「助かった、2人とも」

 

 セツナの声が聞こえて来るや、2人が作ってくれたチャンスを活かして、風圧と衝撃波に足を取られていた俺とセツナは、なんとか窮地を脱することができた。

 

「大丈夫か? ユウト」

 

 逃れた先にいたケインに気遣われる。

 

「ああ、なんとかな」

 

 と一言。一方、どこか悪びれたように、ケインは

 

「すまなんだが」

 

 と。

 

「え? 何を」

 

 その問いに、彼は頭を掻いて

 

「せっかくのチャンスなのに、ビビって何も出来なかったから」

 

 と、釈明をした。けれど、俺は気にするはずもなかった。

 

「んなのどうでもいいって」

 

 しかし、ケインは

 

「だけどよ〜、俺だって本当は加勢できる筈なんだけどさ」

 

 その口調たるや、何処歯痒さが滲み出ていたように見えた。そんな彼に、俺は片手を相手の方に

 

 ポンッ

 

 と軽く置き

 

「いや、いいんだ」

 

 首を横に振った。

 

「ユウト……」

 

 そんな見惚れる彼に俺は、ことの重要性を説く。

 

「今は生き残ることだけを考えればいいんだから。だから――」

 

 ――とここで、強大な咆哮が2人の会話を遮った。思わず耳を庇い堪える2人。それから、奴の方へと視線を変えて――。

 強靭な脚力を活かして大きくバックステップ。かと思いきや、

 

 なんと!

 

 奴の黄ばんだ体表に赤みを帯びた血流が浮き彫りになるではないか。

 

 ――まずい――

 

 直感的に危機感を覚える。と同時に、同じ危機感を覚えたノブ公が、俺の代わりにすかさず叫んだ。

 

「怒り状態に入った! 全速力で逃げろ――‼︎」

 

 と。

 

「い、怒り状態って? っておい?」

 

 皆が散り散りに一目散に逃げる中、1人、状況が読めないケインが戸惑いを見せていた。今度は友のため、俺は彼に向かって叫ぶ。

 

「逃げるんだケイン! 早く」

「早くったって、な、何がどう言う……」

 

 が、時すでに遅し。彼を説得し切る前に、怒り狂ったティガレックスは、怒涛の勢いでこちらに向かって襲いかかってきたのだ。

 

「な、な、な、なんだ⁉︎」

 

 と慌てふためくケイン。

 

「ちっ」

 

 舌打ちした俺は、間に合うかどうか定かではない。ないが、しかし、一か八かすかさず閃光玉をアイテムリストからチョイスすると、その場で地面に叩きつけて炸裂させた。

 

「のわっ⁉︎ な、何するん?」

 

 突然の出来事に視界を奪われたケインが、慌てふためく。同じく俺もまた、激しい閃光の前に視界を奪われて――。

 しかし、視界を奪われたとは言え、目の前にケインがいたからこそ、すぐに彼の手を掴むことができ。

 そのまま引っ張り込むような勢いで、

 

「ちょ、ちょ、ちょ、ユウト?」

 

 混乱するケインを連れて走り出した。

 

 ――できるだけ離れなければ――

 

 何処へ向かって走っているのか分からない。なにせ、眩しすぎて目を開けないでいるから。それは、ケインも同じであり――。

 とにかく必死で逃げまくる。例えその先が、行き止まりにぶち当たり、結果的に自ら自分達を窮地に追い込む形になったとしてもだ。

 

 そして、時間経過と共に視界が回復していき――

 

「ここは?」

 

 どこに向かったのかは分からない。分からないが、気が付いたら周辺は雑木林の手前。そんな森林地帯入り口の前に俺とケインは立っていた。

 だけど、危機は去ったわけではない。

 

「っ! 奴は」

 

 咄嗟に来た方向を振り返る。すると、遠方より、いつの間にか怒り狂ったティガレックスは、ノブ公を中心とした別働隊に注意が向いていたのだろう。

 俺とケイン、こちらに向かって来る気配はなかった。

 

「う、うう……」

「大丈夫か?」

「な、なんとかな。だけど、説明ほぼなしで、流石に強引だったぞ」

「わ、わりぃ〜。あまりにも危険だったから」

「ふんっ、ま、いいけどさ。お前のその必死さから、あのティガレックスがいかに凶暴性丸出しになったのか、嫌でも感じたからさ」

「なら、説明は要らなさそうだな」

 

 皮肉ながらも、ケインも俺の意図することが分かったようだ。やや眩しさが残るのか、顔を顰めつつ周囲を見渡す。

 

「にしてもだ」

 

 と前置きするや

 

「ここは一体――」

 

 と疑問を投げかけた。無理もない。その疑問は、俺もまた同じく持っていたから。振り返って来た道の方へと見る。

 遠方。そこでは、前衛の2人。その2人から距離を置いて2人の仲間がティガレックスを相手に獅子奮迅している姿があった。

 

 (ガルド湖の端に来たのかもしれない)

 

 そんな感じがしなくもなかった。

 

「ともかく戻ろう。このままここに居ても仕方ないし」

「あ、ああ……」

 

 俺は走り出す。が、そこでふと振り返って

 

「ん? どうした?」

 

 返事はしたものの、何かを躊躇していそうに見えるケインの姿があった。その表情たるや、悩んで居そうに見える。

 

「いや、なんて言うかな。頭では分かってんだが……」

 

 ん?

 

 少し首を傾げて見た。歩み寄ってからに、組んだ手が小刻みに震えているように見えて――

 

「怖いのか?」

 

 ピンポイントで指摘。

 

「ば、バロウ! ん、んな訳あるかよ!」

 

 取り乱し語気を荒げた。でも、俺は分かっていた。彼に歩み寄り、その方に両手を置き

 

「俺だって同じさ、ケイン」

「ゆ、ユウト……」

「見てみろよ、俺の手を」

 

 そうして掌を見せて

 

「っ! お前……」

「分かっただろう? 俺だってビビってんだよ。正直、相手にしたくないだけにさ」

 

 そして――

 

「携帯ゲームしてた時と大違いだったぜ」

「……」

「ま、来ないなら来ないでいいさ。だが、俺は行くよ。最終的に全員生き残ればいいだけだしな」

 

 それから振り返った。振り返って、俺は走り出した。だけど、一瞬だが、ケインの表情には、先程までとは違った葛藤じみたものが垣間見えたような気がした。

 

 (あいつらを助けなければ)

 

 恐怖を振り切り、悪戦苦闘するセツナ達の方へ向かう。

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