モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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5章:ガルド湖の戦い・終話

 スコープから覗く視界。十時の標準マーカーの先には、ガルド湖周辺を半円状に取り囲む崖に隣接した森林地帯が広がっていた。

 標準マーカーが合わせるは、その一箇所。その一箇所は、動く気配を追うかの様にピントを動かす。

 時折、その正体が見え隠れする。しかし、まだだ。まだ、タイミングが芳しくないだけに、指先のトリガーは引けないでいた。

 しかし、じっと堪えるにも限度というものがある。カデットはその正体を理解していたから。

 

 ――ティガレックス――

 

 荒れ狂う轟竜は、まさに目先の獲物を仕留めんとして、暴れ回っていたのだ。一撃に込める一発の弾丸。

 しかし、通常弾の類では、どうしようもないことは承知の上。だから、その弾丸は、ある意味、獲物から注意を逸らすためにあった。

 時折、雄叫びが聞こえてくるが、それ以外は、鼓動のみ。一定間隔を持ち合わせた鼓動が、冷静さを物語るかの様に、時間が限られる中、不思議と落ち着いていた。

 

 (あと少し、あと少しその位置までくれば……)

 

 放つ場所に目星を付けていたカデットは、引き金に当てがう指に全集中。

 

 そして、その時が!

 

 最初に木々が開けた場所に出てくるは、1人のハンター。それもかなりの狼狽した姿を目撃。

 次の瞬間、そこに追い打ちをかけんばかりに現れたるは――

 

 今だ??

 

 すかさず引き金を。射撃音と共に銃口から火を噴き出し、その特殊な弾丸は勢いよく放たれた。直後、今にも食らいつこうとしていたティガレックスの眼前で閃光が炸裂。その周囲一帯が輝きに満ち溢れた。

 満ち溢れて、それでいて射撃してお終いではなく。間髪入れずして、ヘビーボウガンの脇に置いてあった信号弾を手に。上空目掛けて一発放った。

 

「気付いて……」

 

 思わず声が漏れた。それから数秒を経て閃光の輝きが薄まってきた頃、スコープから覗く先には、狙い通りと言うべきか。目眩状態で動けないティガレックスの姿があった。

 けど、それだけでなく。何人かのハンター達の姿もそこにいた。皆一様に戸惑っているようではあるが、1人がこちらの存在に気付くや、指を示し。

 それに追随するかのように皆の視線がこちらに向けられた。

 

 (……よかった)

 

 気付いてくれたことに、やや安堵した。カデットのいる場所は、ガルド湖周辺から少し脇に逸れた郊外にある丘の上。

 彼らがいる場所から、大体、全速力で走った場合にして10分程度。危険地帯から一時的に退避するには、少しちょうど良い地点であることには違いなかった。

 彼らがこちらに気付いたことを確認した後、すぐに次の手を打つ。ヘビーボウガンを折り畳み背中に担ぎ、スコープを収納。その流れから、落とし穴設置に取り掛かるべくある場所へと向かった。

 その場所とは、まさに崖際。もう少し見たままを話せば、雪庇ギリギリ箇所。一歩距離感を見誤れば滑落しそうなギリギリライン。そんな場所を目指したのだ。

 

「この辺りかな……」

 

 勘頼みでしかないが、目星を立てたカデットは、早速、罠の設置に取り掛かった。

 そして、仕上げと言わんばかりに、大雑把的な感じで罠を隠すように滑らかな雪面を被しておいた。

 

 彼らがやって来た。

 

「カデットさん? な、なんで」

 

 最初に驚いたのは、セツナだった。彼女もまた、少なからずカデットがフラヒヤ山脈に立ち入らない事情を知っていただけに、今回のカデットの行動には目を丸くしたのだ。

 続いて、ユウトとケイン。セツナと同様、その意外性に驚いていて――

 

「もしかして、さっきの目眩しは?」

 

 ユウトの質問に、コクリとカデットは頷いた。

 

「サンキュー、メイドさんよ」

 

 とJ.Oが謝意を述べた。ただ、事態が事態だけに、そんな悠長にしている訳にはいかず。皆が思うであろう、なぜフラヒヤ山脈に?

 そんな疑問を口に出される前にして

 

「それよりも」

 

 と彼らがやって来た方向に険しさを滲ませた。皆が彼女の方向を振り返るその先、遠方より目眩状態から立ち直ったティガレックスが、森から姿を現したのである。

 辺りを見渡すその姿は、見失った獲物を探すようなもの。こちらの存在に気付くのも時間の問題。轟竜の動向に注意を払いながら、カデットは作戦の概要を話始める。

 

「考えがあります。あの轟竜を撃退するための」

 

 と前置きをしてから。しかしそこで、これまでの戦いの経緯から、無茶と思い込んでいたケインは

 

「無理だ! 絶対に、そんな撃退なんか」

 

 弱音を吐いた。けれど、

 

「いや、まだ、話してないだろう」

 

 すかさずJ.Oが遮る。

 

「で、考えとは?」

 

 とカデットの方へ。彼女は改めて考えを打ち明けた。それも長々話すのではなく、簡潔的に。

 

「この先の雪庇から落とすのです。罠を使って」

「罠? んなものどこにも……」

 

 疑問を抱いたJ.Oが、何もない雪面を睨めっこするかのように見渡した。同じく小凛も

 

「何もないネ、罠なんか」

 

 と。しかし、ユウトは違った風に捉えたのか

 

「隠した、そんなところか」

 

 的を得たように発言した。

 

「ご明察です。気付かれては、避けられてしまう恐れがありますから」

「え? 隠したって、どこに、そんな……」

 

 未だに信用できないでいたJ.Oは、その〝隠した″と思われる箇所へと歩み始めた。

 それはもう、確証を得ようと模索するかのように。――とここで、

 

「ストップ! それ以上は」

「え?」

「引いてください。そこから先は、雪庇ですよ」

「雪庇? んなもの、まだ先が」

 

 しかし、

 

「ダメです、絶対に」

「わ、分かったよ」

 

 威勢に負けて、J.Oは踵を返した。この場を仕切り直すように、ノブ公が尋ねて来て――

 

「で、俺たちはどうすればいいんだ?」

「え? そ、そうですね。皆さんは、この場にアイツを引き付けてくればいいです。引き連れて押し留めてくれれば」

「要するに、私達、囮かネ?」

「俺は勘弁だ。あんな奴とは」

「おい、ケイン!」

「なんだよ」

 

 J.Oの一言にケインは睨め返した。空気が悪くなるような予感。そんな流れになるかと思いきや、ユウトが軽く指摘。

 

「ようは陽動と言うことだろう?」

「そう言うことです」

 

 そして、

 

「皆さんは戦わなくていいので、……いえ、寧ろこのままここにいて、各自、ヤバくなったら逃げるだけ結構ですから」

「てことは、場合によっては、パスしてもいいんだな?」

「おい! お前だけ先に逃げるのかよ?」

「ったり前だろう? 俺には無理なんだよ。……あの時、助けようとした結果、ロクな目に遭ったんだからな」

「は? ロクな目に?」

 

 事情がよく分からないJ.Oは、ケインの訳ありそうな表情に戸惑いを隠せなかった。

 

「ともかく時間がありません。もう、こちらの存在に」

 

 見据えるその先。そこには、こちらを見据えて獲物に狙いを定めようとするティガレックスの姿があった。

 皆がそちらを向く中、ユウトは率先して声高に言う。

 

「カデットさんには何か策があるんだ。俺がこの場にて、ギリギリ残る。だから――」

「は? それ自分だけ良ければいいと思ってない?」

「セツナ……」

「いや、俺が残ろう。セツナの武器では、いざと言う時にはガードができないからな」

「え? で、でも……」

 

 そこで、彼女の親友レイナから

 

「ノブ公さんの言う通りですわ」

「レイナまで……。分かった」

 

 腑に落ちなかったものの、2人からの助言を受けて退いた。罠付近に残るは、ユウトとノブ公。この2人に注意がいく必要があり、カデットは言った。

 

「レイナさん、ですか?」

「はい」

「その狩猟笛で一瞬でもいいので、未だに選り好みしているティガレックスを引きつけられませんか?」

「あ、はい。一瞬なら」

「なら、お願いしますね。決して深追いしないよう」

 

 それを訊きレイナは頷いた。カデットは、いや、それだけでなく。ユウト・ノブ公・レイナを残して、彼ら彼女らは、その場から離れる形となった。

 

 狩が奏でられた2、3秒後、遂に見定めたティガレックスは、その凶悪なアギトをギラつかせ、怒涛の勢いで迫って来た。

 当然ながら、もうすでにレイナは退散。後に残るは、ユウトとノブ公だけ。だが、ギリギリのタイミングが近づく中、大楯を構えるノブ公の前にいたユウト。彼が徐々に後退りし、ノブ公に近寄って行く中、何を思ったのか、ノブ公はユウトの防具の端を鷲掴み。

 

「なっ」

 

 驚くユウトを尻目に、自らの盾の裏側へと引き寄せたのである。ノブ公とユウトの目線が合う。

 けれど、何かが伝わったらしい。文句一つも言わなかった。

 

 そして、2人がかりで大楯を構える中、遂にティガレックスの巨体が激突した。

 

 バギ――ンー……??

 

 凄まじ激突音と火花が散らかり、衝撃の凄さを物語。

 

 ザザザザザ……

 

 雪面に踏ん張りが効かずして、堪らず押し出されていく。徐々に雪庇側へ。側から見たカデットもこれには、危機感が否めなく。

 遂には注意を別に逸らすべく引き金を引こうと、トリガーに指先を当てがい――

 

 次の瞬間、

 

 ドス――ンー……??

 

 そこが抜けたかのように、轟竜の巨体が底なしのような落とし穴に見事なまでにぬかった。

 

 (よしっ!)

 

 一時は焦ったが、結果的に作戦が功を差したことに少しだけ安堵した。

 

「2人とも、雪庇に気を付けて早く離れてください」

 

 言われるがまま、そそくさとその場を離れる。

 

「で、この後、どうするんにゃ?」

 

 隣にいたジャムが問いかける。

 

「勿論、落とします。アイツの前はすぐ雪庇です。だから――」

 

 と、そこで、今まで伏せていたカデットは起き上がった。起き上がってからに、ある場所へと走り出したのだ。

 罠の効果はそれほど持つとは思えない。故に全速力で走り出したのである。その向かう先、そこには、丁度、道中、小凛・小狼の存在がいて――

 

「(落とし穴に)嵌ったら、前方に集中砲火、お願いします!」

「前方に? さすがに危ないネ」

 

 小凛の言葉に小狼も頷く。しかし――

 

「少しの間だけでいいんです。注意を前方に向けるだけなので」

「注意って……」

「私は対岸の方へ向かいます。お願いしますね」

「対岸って、あ、ちょ、ちょっと……」

 

 それ以上は応えなかった。ティガレックスの迫る音が勢いよく響いて来る。地響きと共に。

 ユウト、ノブ公の掛け合う声が聞こえて来て――

 

 ガキ――ン―……??

 

 凄まじい金属の衝突音が、周辺に響き渡った。目的の場所へ全速力で走る最中、そちらの方へ視線を巡らす。巡らせてみれば、力技で争う2人の勇姿がそこにいた。

 ちょっとだけ気を抜けば、瞬く間に吹き飛ばされることは目に見えている。しかし、徐々に後退りされていて――

 そして、遂に落とし穴付近に。足元の感触に勘付いた2人は、再び掛け合う。それでいて、わざと力を緩めた直後、さらに勢いよく押されて――

 次の瞬間、遂にその巨体が落とし穴に嵌った。ユウト・ノブ公はそのタイミングに乗じてその場を離れた。

 

「今です?? 小凛・小狼さん!」

「少しだけ、少しだけネ。小狼!」

 

 2人は数十秒間と言う僅かな時間をフル活用すべく、ティガレックスの顔面目掛けて集中砲火を浴びせ始めた。

 次から次へと繰り出される攻撃。その間、カデットは走り続けた。だが、そこでふと、良案が過った。

 確かにこの案なら、更なる効果を望めるかもしれない良案。しかし、果たして持ち合わせているだろうか? 

 とにかく支持を飛ばしてみた。

 

「オトモ達、大タル爆弾、持ち合わせていませんか?」

「お、大タル爆弾、にゃ?」

 

 先に反応したミルクとジャムが見つめ合う。他方、その2匹を見ずして応えたのはバター。キッパリと応えた。

 

「あるにゃ。一つだけなら」

 

 と。

 

「なら、お願いします。ティガレックスの前方に」

「ぜ、前方にかいにゃ?」

「ともかく、何か策があるのかもにゃ。早く置くにゃ」

「わ、分かったにゃ」

 

 ミルクに言われるがまま、バターは轟竜の前方。小狼・小凛の2人が邪魔にならないところに配置した。

 カデットは走り続け、遂に所定の位置に。すぐさま狙撃態勢に入った。そんでもって掛け合う。

 

「2人とも、すぐに離れてください!」

「え? わ、分かったネ」

 

 先に反応した姉は、弟を連れてその場を離れた。

 

 それから程なくして……

 

 落とし穴に嵌りもがいていたティガレックスは、ようやく上昇気流を巻き上げ、上空へと逃れた。そんでもって、

 

 ドスンッ??

 

 巨大は大量の雪煙を巻き上げて、地上へと着地した。予め臨戦態勢を取っていたカデットは、この瞬間を逃さない。

 前方へと、更に注意を引きつけるカデットは、次から次へと貫通弾を放ちまくる。一撃の攻力は低い。

 されど、頭から尾にかけて連鎖的なヒット数を稼ぐだけに、総体的なダメージの蓄積は十分ではあった。

 雄叫びを上げ、執拗に浴びせる狙撃手を睨みつけるティガレックス。遂に邪魔を排除せんとばかりに迫ろうとした。

 次の瞬間、この時を待っていたかのように、最後に放たれた一撃の向かう先は

 

 なんと! 大タル爆弾

 

 直後、激しい爆音。爆炎が同時に奏でられた。驚愕し炎に包まれるティガレックス。思わず仰反る轟竜は、新たな不運を招くことになった。激しい爆発は、周辺一帯に渡り崩壊し始めたのである。

 次から次へと亀裂が入っては、雪庇から急走りの如く崩壊。仰け反りバランスが不安定になっていたティガレックスは、抗いようのない雪崩に身を投じていく。

 雪崩に飲まれていくティガレックスの哀れな姿が、遂に敵討を取ったと言う優越感。それが自然と湧き上がって来て――

 しかし、その余韻もすぐに冷める事態に直面して来た。まさに想定外。いや、想定以上と言うべきか。

 

「小狼、早く??」

「早く逃げろ?? 巻き込まれるぞ!」

 

 叱咤するJ.Oの姿がそこにあった。

 

「そ、そんな。こんな筈では……」

 

 カデット自身、まさかの光景に唖然としまったのである。枝分かれしていくような亀裂は、止まるところを知らない。J.Oの足元にもその亀裂が忍び寄って来て――

 

「ケイン!」

 

 突然、眼前に現れた彼に驚くJ.O。亀裂が蔓延る中を、ケインが飛び込んで来たのである。

 

「ケイン」

 

 とめどない崩壊に足元を掬われ、思うように逃げられない小狼は、そんなケインの思いがけない行動に驚きを隠せない。

 

「くっそー??」

 

 間に合うか間に合わないか?

 

 必死で逃げようとする小狼の足場が、遂にそこが突き抜けたかのように崩れた。一か八かでダイブするケイン。

 傍目からその瞬間を目撃していた小凛が叫んで。その場にいた一同が息を呑んだ。

 突き出した救いの手は

 

…………

 

……

 

 

「大丈夫か? 小狼」

「え」

 

 ケインの言葉に、絶望的になっていたカデットはハッとした。突き出した救いの手はそのまま。語りかけた言葉への返事は聞こえず。

 しかし、

 

「今、引き上げるからな」

「引き揚げるって? まさか」

 

 心中穏やかではないカデットは、戸惑いを隠せない。安否を確認する必要がある。ヘビーボウガンを収納した後、ケインの元へと向かう。その最中、

 

「くっ」

 

 ケインの体が無事でいるであろう小狼の体重に引き摺られていく。徐々に。

 

 (このままでは)

 

 カデットは走った。走っていて、それでいて、先にケインの元へ飛び込むようにやって来たるは、ユウト。

 ケインの体に抱きつくように支えたのである。

 

「ナイスだ! ケイン」

「ゆ、ユウトか。恩に着る」

「そいつは小狼を助けてからにしろ! 絶対に離すなよ」

「ああ」

 

 心強い友の言葉に、力強く返事した。

 

「2人じゃ足りんだろう? 俺も助太刀するぜ」

「J.O!」

「豚頭!」

「へっ、生意気なことを言いやがってからに。後でシバイテやるから、絶対に離すんじゃないぞ!」

「シバクって……」

 

 脅しのような言葉に、少しだけ引いてしまったよう。だが、

 

「まぁ、当然だ! 離してたまるかっての」

 

 負けじと言い返してやった。その後、続々と仲間が集う。最後にはカデット自身も加わって――

 

「よし、引き揚げるぞ??」

 

 J.Oが声高に合図。窮地に陥っている小狼を救うべくして、まるで大根引きの様。或いは、綱引きでもやるかの様に、皆が力を合わせて引き揚げに掛かり始めた。

 

「この手を離すものか?? 皆で生還するんだ! 絶対に」

 

 ケインが語気を荒げた。その想いたるや、カデットも不思議と同じであった。まるで、彼らと一体となっているような感覚さえ覚えたのだから。

 

 (あの悲劇を繰り返したくない)

 

 ティガレックスに奇襲され、仲間を失った。特に、この目で焼き付けてしまった拓也の死。もう、あの悲劇を繰り返したくない。

 任せられたはずの分団の悲劇は、結果的に自分のせいで招いたことには変わりないのだから。

 後悔と自責の念。渦巻く負の感情は、今、ここに来て、あの悲劇の光景がフラッシュバックするが、それ以上に

 

 〝誰一人として犠牲者は出さない″

 

 その執念といい覚悟と言い。そんな強い想いで満ち溢れていた。

 

 やがて、ケインの掴んだ腕から先、小狼の手が見えてくる。

 

「もう少しだ、もう少し……」

 

 そして――

 

「おりゃ――??」

 

 遂に、転落しかけていた小狼を、引き揚げることに成功。死の淵に立たされていた彼を救い出すことに成功。無事に救出できたことに、その場の全員がヘタレ混んでしまった。

 

「ありがとう、ケイン。みんな」

「へっ。ったく、お前を引き揚げるのに、ほんと、苦労したよ」

「ごめん、不甲斐ないばかりに」

「な?に謝ってるんだよ。逆に死なれたら、目覚めが悪いじゃないか」

「……。そ、そうだね」

 

 生還できたことに意味を見出した小狼に、ケインは弟を撫でるかのように頭を撫で回した。

 

「にしても、間一髪だったにゃ」

 

 とバター。

 

「そうだにゃ。私の計算に寄れば、あと1秒反応遅れれば……。と不吉な計算式が浮かびましたですにゃ」

「そんな計算は余計だにゃ」

「ふにゃ??」

 

 どうでもいいことを考えるブレットに、ミルクが手持ちのピッケルを使ってど突かせて見せた。

 

「にしてもよ、まさかここまで崩落するとは思わなんだがな」

 

 崩落した箇所ギリギリに歩み寄ってからに、J.Oは改めて事のヤバさを振り返った。その言葉を返す様に、ユウトが答えて

 

「ああ、まさにな。まるで一枚岩が丸ごと粉砕した感じだったしな」

 

 と、まるで、ゾッとしたような感想を述べて見せたのだ。

 

「すみません。私の判断ミスで」

 

 ユウトとJ.Oの言葉に、彼らを危険な目に合わせたことへの罪悪感から、思わずそんな一言が漏れた。

 

「カデットさん……」

 

 とセツナ。

 

「本当にすみませんでした。正直、あの大タル爆弾の爆発であそこまで崩落するとは、想定外でしたので。結果、皆さんを危険な目に合わせてしまったからに」

「そ、そんな……。謝らないでください。結果的にそうなってしまったとは言え、あのままではあたし達は、ティガレックスによってもっと酷い惨事に見舞われていたかも知れないですし」

「そ、それでもです。だから――」

 

 と、そこへ、ユウトが

 

「謝るかどうかは好きにしてもいいが、結果的に助かったのも事実だ。それに、森中で興奮したティガレックスから逃してくれたあの閃光弾がなければ、事実、逃げきれなかったしな」

 

 更に言葉を追加する感じで、ジャムが

 

「そうだにゃ。結果オーライだから、全然気にしてないにゃ」

「……」

 

 そして、皆一同を見渡し、別に気にしなくていいような空気だっただけに

 

「分かりました」

 

 それだけに留めた。

 

「さて、脅威も去ったことだし、そろそろ下山再開しようぜ。どの道、麓の村までまだまだ掛かるんだしさ」

 

 率先して下山方向に向かって一歩踏み出したJ.Oが、頃合いを見計らって口にする。

 

「だな。長居は無用だしな」

 

 とノブ公。つられてレイナも、同じ意見を口にした。そんな中、セツナが気にかけて

 

「カデットさんも下山しますよね?」

 

 疑問を投げかけ

 

「当然です」

 

 と一言。ただ、そこから先は、まだ、考えが及ばずして

 

「ただ、今後はどうしたいのか。それだけは応えられないです」

 

 先が見通せない気持ちに向き合う感じで口にした。

 

「そっか?」

 

 それ以上は、敢えて掘り下げなかった様子。その言葉を皮切りに、皆が下山再開し始めた。

 そんな中、カデットは一人空を見上げた。今後のことは、先程口にした通り分からない。分からないが、しかし、ポッケ村に帰ったら、やるべきことが、あるような気がしていたのは間違いなかった。

 

 〝自分自身、何かが変わったのかも知れない″

 

 今回の決断は、そんな意味合いを持っていたから。だから――

 

 皆がポッケ村に向かって下山していく。徐々に天候が快調に向かっていき、下山することだけに集中する彼ら。

 ただ一人、空を見上げていたカデットは、そこで目撃したような気がした。

 

「あれは飛竜? ……いや、まさか?」

 

 晴れ渡りつつある雲の間を縫う様に、1匹の巨大な影を目撃した。ただのモンスターではない何かは、何かを全身に纏っているようにさえ見えたから。

 カデットの脳裏に過った、〝まさか″とは。まさしく、

 

 ――古龍――

 

 そのことであった。

 

 

 

 

 

 

 

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