モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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2章:新たな出会い・1話

 時にして、COMがデスゲームのチュートリアルを行った直後。東京・AE支社では、この事態に大混乱をきたしていた。なんといっても、人工知能であるはずのCOMが突如、デスゲームの自己宣言をし出したからである。当然、デスゲームのチュートリアルなんてものは、はなっからプログラムされているわけもないので、皆は強力なΩセキュリティーを突破した新型ウイルスのせいではないかとはやし立てて、その前提で持って大至急、事態の調査と収拾にあたっていた。

 しかし問題はそれだけでなく、全世界に生中継と言わんばかりに、流されたCOMからのメッセージを受けたマスコミどもが本社だけでなく、この支社にまで押し寄せてきていたものだから、社員はその対応にも追われていたのである。とはいえ、即解決せねばならない問題は、そちらのマスコミの件ではなく、COMによる自己宣告の件の方。外部からの完皮なきアクセス拒否の前に、開発ディレクターたちが成す術もなく困り果てていた。

 

「くっそー、駄目だ。どうにもエラーばかり起して内部プログラムへと干渉ができやしない」

「やはり、仇となったか。嫌な予感はしたのだがな」

 

 自棄を起こしているプログラマーの前にことさら述べるは、Ωセキュリティーの開発担当を任されていた坂上。彼は篠崎直哉と同じくこのCOM開発を携わった人物であり、篠崎以上にΩセキュリティーのセキュリティーレベルに若干危機感を抱いていた人物であった。彼曰く、

 

 〝完全なるセキュリティーこそ逆に弱点にもなり得る〞

 

と言う考えを開発当初抱いていたからである。とはいえ、起きたことはどうしようもない。坂上もまたプログラマーの彼に助言しつつ自身もまたコンソールをあれこれ試してみていた。

 

「そう言う言い方だと、なんだか結果を予測していたみたいに聞こえるんですが?」

 

 コンソール上のモニターとにらめっこしながら、坂上は考え込むしぐさをしてみせる。

 

「そうであるとも言えるしそうでないともいえる」

「どっちなんですか? それ」

「結果予測は半分で来ていたってところを言いたいのだ」

「じゃあ、なんでこんなことになる前に見直さなかったのですか?」

 

 苛立つプログラマーに坂上は、困ったような表情を浮かべて言う。

 

「いろいろと事情はあるのだか、第一に私自身が最終決定したことではないが、な」

「色々って、篠崎さんと話し合ったんでしょう?」

「そうだ。だが、あいつは完全なるセキュリティーシステムにおける脅威に対して、甘く見ていた見解があった。それを私は忠告しておいたのだが、どうやらCOM任せのところがあって半分、聞き入れてくれなかったのだ」

「そ、そんな~」

「結果がどうであれ、自業自得ってところだろうよ……おっ、これこれ」

 

 目を丸くして見るは、セキュリティー強度のステータス画面だった。坂上はここから調整を施し、強度レベルを下げられるのか試そうとしていた。もし、本当にできたとしたら、解決の糸口も掴めたもの。=事件収束は早期に行うことができると思っていた。

一方、プログラマーは、そんな彼を見て、

 

「え!? 何か糸口が掴めましたか?」

 

 しかし坂上は具体的には話さず

 

「いや、まだ分からない。ただ、これならと思えるような画面が出てきたものでな」

 

 そこで興味がわいたのか、自らの作業を中断し、そのプログラマーは坂上が操作している画面へと覗き見る。一見して、整然と表示されたコマンドプロントが、横一列に並んでいる画面が目に映る。そのプログラマーが思うに、どうやらΩセキュリティーの内容が記されていると言ったところであった。

 

 無数に記載された文字列を眺めて、

 

「セキュリティー項目の一覧ですか?」

 

 とだけ答える。

 

「ご名答」

 

 わざとらしく褒めたたえる坂上。これに対しプログラマーは当然と言わんばかりに返答する。

 

「そのくらいわかりますよ。伊達に3年やってきたわけではないですからね」

「ま、それもそうか」

 

 そう、3年。それは入社してから3年という意味でもあり、坂上にとって彼はまさしく後輩に当たる人物でもあった。伊達にというのは、憧れの開発部門に所属するまでの間、スピード出世してきたわけであるが、その間の業績というのは他の新人社員をトップスピードで抜いてきた彼の努力の賜物なのである。

 それゆえ、社長からも一目置かれた上での部署配属となったわけである。しかしそんな優秀なプログラマー(名を植松というが)でもってしても、今回のCOMの異常事態には頭を悩ませていたのである。

 

「それもそうかって……まあ、いいですけど。でも、この画面でどうするつもりなんです?」

 

「ふ~ん」

 

 と得意げに鼻で返事をする坂上は、ここでとっておきの物を持ち出した。それは小型端末であり、皆がよく使うもの。そう、USBだった。それもセキュリティーソフトが導入されたCOM専用の。

 

「これを使うんだよ。これでアクセスできないってことはないはずだからな」

「これって、セキュリティーソフト導入のUSB。それもCOM専用のじゃないですか。いつの間に持っていたんです? てか、そんなものあったっけか」

 

 疑問を浮かべる植松に、坂上はこう説明づける。

 

「COM開発当初、同時期に作っておいたものさ。COMに何かあった時のためのな」

「用意周到ですね」

「まあね。けど、これを作るに当たっては、俺自身が勝っ手にしたことだ。あまり他言しないようにな」

「はいはい。なら、早速試してみましょう」

「ああ」

 

 言うや否や坂上は、その特別なUSBを端末に差し込んでみせた。差し込むと同時に自動起動し、それに伴ってアクセスランプが幾度となく点滅を繰り返す。〝読み込み中……〞のメッセージが数秒間表示された後、作業完了のメッセージが表示された。キーボード上を手慣れた手つきで操作した後、『ウイルス検出』しますかの項目が表示される。

 その時、坂上は思った。今回の事件では、Ωセキュリティーを突破した新型ウイルスに間違いなのだと。それには理屈がある。目覚ましく発展してきたGNにおいて、セキュリティーシステムも一緒に発展してきた。

 しかし、イタチゴッコと同じくウイルスも次から次へと生まれてきたのだ。その関係は前世代からずっとずっと続いている切っても切れない関係。この人類の英知を結集して作り上げたΩセキュリティー。絶対にウイルスの侵入を防いでみせると自負するセキュリティーだって、納得したくはないが場合によっては新型ウイルスによって侵されてしまう危険性を孕んでいるのだ。完全無敵のセキュリティー。それを糸も容易く突破して見せるウイルス。坂上は、この検出結果から表示されるであろうウイルスにどことなく敬意を抱き始めていた。

 

 〝やるぞ〞

 

  心の中で念じて、そしてウイルス検出でウイルスが検出されるであろうことを信じてクリックする。

 

 『しばらくお待ちください……』

 

 そのメッセージと共に超高速で検出にかけられていく項目達。1秒間に数千といった項目がチェックされていく中、検出結果に表示された数字は0。そういった状況が続いて行く。

 やがて数値が45%、50%、55%と増えていくにつれ、それでも検出されないウイルス。思惑が次第に外れていくにつれ、その心は疑念に満たされていく。――そして、見事にその数値が100%に達したころ、未だに検出されないこの状況下において、坂上の表情は困惑へと変わった。

 そんなばかな。そんなはずが。推測が見事に外れたことに苛立ちを募らせていく。検出数0件。いわば、COM以下のシステム全体には、ウイルスが感染していないことを意味していた。どういうことなんだ。ウイルスが感染していないというのは。坂上は思考を巡らせる。今までの知識をフルに活用させ、そして思った。いや、あまり考えたくもないがこう思ったのだ。

 

 〝COM自身に自我が芽生えた〞

 

 と。

 だが、それでも疑問は残った。COM自身に自我が芽生えたのだとすれば、なぜこんな真似(デスゲームのこと)をしたのかと。理由が思い当たらない。いや、むしろデスゲームを行う理由そのものがないのだ。まさか、楽しんでいるのか? デスゲームを引き起こしてまで、プレイヤー閉じ込めてまで……。だとすれば、最悪な人工知能へと成り下がったものだ。これはほっとけない。ほっとけるわけがないぞ。坂上の心にはどことなく使命感が湧いて出てきた。――と、ちょうどその時、背後から覚えのある声が聞こえてきた。

 

「やあ、お疲れさま~。調子はどうかね?」

 

 思わず坂上は振り返った。するとそこには、船橋社長がいるではないか。社長はやあやあと優雅そうに片手をポケットに突っ込みながら、手を振りつつ歩み寄って来ていた。坂上、植松の両名は彼の姿を見るや、作業を中断する。

「お疲れ様です」と植松。坂上も同じく挨拶を交わす。

 

「調子の方は……う、う~ん」

 

 言葉を詰まらす坂上。船橋社長はその曇らした表情の意図を組んだのか、彼の顔を覗き込む。

 

「その様子だと、うまくいっていないみたいだね」

「申し訳ありません。セキュリティーシステムの項目まで辿りつけたのですが、そこから先はエラーばかりでアクセスできていないんです」

「私は専門家ではないが、君というものがそう言うのなら、状況はよほど良くないみたいだね。――で、ところでだな」

 

 と、そこであたりを見渡しながら話を切り替えてきた。

 

「もう一人の。……そう、篠崎君はどうしたのかね? まだ、戻ってこないとなると連絡もしようがないと思うけど」

「恐らく、まだVRの中だと思います。って、社長、御存じなかったんですか?」

 

 そう言われて、ふいに思い出したかのように相槌を打つ。

 

「あ、そう言えばそうだったな。すまない、私としたことが。彼は今、閉幕式に出席中だったんだな」

「ついでにその娘――刹那さんもですよ」

 

 と付け加えておく。社長はそうだったそうだったと思いだし、そこでこう述べる。

 

「篠崎君たちも閉じ込められてしまったとなれば、どうもこうもうちらで今回の件を処理するしかないみたいだな。う~ん」

 

 頭を悩ます社長。坂上はそんな社長からの助言に期待していた。というのも坂上自身も、今回の件ではさすがに参っていたからだ。

 

「とりあえずだな。メディア関係等のことは本社と連携してこちらで何とかする。ともかく、もうしばらく頑張ってくれたまえ。できるだけ早いうちに、本社と相談し合ってある機関に頼み込んでみるから」

 

 ある機関? というのは分からなかったが、ともかく船橋社長はなんとかしてくれるみたいなことを言ってくれたこともあり坂上自身、一安心する。

 

「ある機関というのは分かりかねますが、ともかくこちらはなんとか最善を尽くしてみます」

「そうしてくれたまえ。……さてと」

 

 踵を返す船橋社長に、植松は呼びとめる。

 

「社長、これからどちらへ」

 

 どことなく立ち去ろうとする社長は、片手をあげ

 

「これから、面倒な記者会見さ。ここへ立ち寄ったのは、そのついでってわけ」

 

 とだけ告げた。

 坂上は思う。船橋社長も、俺と、いや、俺たち開発部と同じく今後困難な道を進んでいくんだろうなあと、心の中で気遣って。一方、船橋社長の方では、記者会見へと向かいながら心の中でこう考察していた。

 今回の社員寮火事の件といいデスゲーム事件と言い。あまりにもタイミングが早すぎる。どことなくひっかかるんだよなあ。まるで、両件はタイミングを図っているかのような感じがしてならないんだよなあと憶測を並べて。

 両者(坂上と船橋社長)はそれぞれ思うところがありながら、持ち場へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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