モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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1章:激闘を制する者・3話 

 陽光が雪面を反射して、眩しい大地と化していた。眩しさのあまり、これまた難儀な登山となるのは、想像に難くない。

 しかし、とにもかくにも進むしかない。前方に歩く、セツナとノブ公に遅れを取らないよう、必死に着いて歩く。

 そんな中である。

 

「ユウト、ちとペースが早いぜ。もう少し落としてくれ」

 

 ケインの要望、俺は振り返った。眩しいのは変わらないが、遠方の景色が視界の7割ほど入って来る分、進行方向よりかは眩しさの要因たる反射光は、ある程度、抑えられていた。

 いつの間にかであった。後方を歩くケイン達との距離が大分広がっている印象だった。

 向き直り、前を歩くセツナとノブ公に告げる。

 

「ちっと、待ってくれ! ケイン達が遅れを取っている」

 

 その声に、2人はこちらを向き、その歩みを止めた。

 

「悪いな、ユウト」

「別にいいよ。大変だもんな、雪山登山は」

「面目ない」

 

 気遣って貰っただけに、具の根も出ないようだった。

 

 ケインだけでなく、ようやく後続のメンバーが揃った。遅れた面々を代表するかのように、レイナが礼を述べる。

 

「ありがとうございます、セツナさん」

「別にいいよ。こっちこそごめん。みんなのペースに合わせてなくて」

「別に、そんな〜」

 

 一方、J.Oは、強気で発言。

 

「気にするこた〜ね〜よ。ただでさえ遅いんだからさ。……まぁ、俺様を除いてだがな」

 

 そこで、小凛が水を差すかのように

 

「その割には、息、荒げてうるさかったネ。しかも、わざとらしく追いつこうとしていたしで」

「う、うるせー‼︎」

 

 恥ずかしいことを言われただけに、身構えてしまった。

 

「ともかく、全員、揃ったようだが、セツナ、どうする? 見たところ、息上がっている者も少なくはないが」

 

 皆の様子を一瞥したノブ公が、娘に提案してみせた。

 

「そうね〜。それもありと言えば、そうなんだけど」

 

 (気になることでもあるのか?)

 

 手軽な操作でフラヒヤ山脈全体図を広げると、ある一点を指差し、トントントン……、と軽快なタッチを見せた。

 そんな中で、少し俺たちと距離を置いていたカデットが、意図を察したかのように発言する。

 

「設営地までとの兼ね合いですか?」

「え?」

 

 意表を突かれたかのような表情をするセツナ。彼女と同じく、俺だけでなく、その場にいた誰もがメイド娘の方を見た。

 一斉に注目が集まることに、一瞬だけ動揺したかに見えたが、その口調は冷静、そのものだった。

 その場から動かずして

 

「中途半端な場所は、危険が伴いますからね。例え、今が晴れでも」

「……」

 

 ピリッとした空気が張り詰めたような感触が、肌に伝わってくる。なんだか、得体の知れないような気まずさが、セツナとカデットを中心に渦巻いているような錯覚を抱いたのだ。

 

「何が言いたいの?」

 

 とセツナ。その発した言葉には、どこか鋭さが籠る。だけど、対してカデットは、意に介さずして表情を一切変えなかった。

 ただ一言

 

「特段、何も」

 

 と。側から見ても、カデットがどう思っているのか、いまいちよく分からなかった。

 それなのに、見透かされたことが癪に触ったかのように、必死になって探りを入れるセツナの姿が目に映る。

 2人の視線がぶつかる。その間には、火花がぶつかり合っているような光景が、幻影となって見えいて――

 

「ったく、もう、よそうぜ。こんな時によ」

 

 空気に堪えかねたJ.Oが、2人の間合いに割って入る。我に返ったのか? 或いは、気を逸らされたのか?

 いずれにせよ、先程までカデットを鋭い眼差しで睨み付けていたセツナの表情は、やや和らいだように見えた。

 

「そうだにゃ」

 

 J.Oに続いて、ミルクまでをも同意見とばかりに仲裁に出たのだ。

 

「こんな場所で、いがみ合っても仕方ないにゃ。とりあえず、どうするにゃ? ここで、休息にするのか? しないのか?」

「……なんだか癪だけど、先を急ぐわ。設営地、近いから」

「なら、決まりだな」

 

 そして、一番、神経を擦り減らしたであろうケインが、ここに来て、全身から力が抜けたのだろう。

 

「ふぇえ〜……」

 

 その場でへたり込んでしまった。

 

 セツナ・ノブ公を先頭に、再び歩み始める。その中で、未だにへたり込んでいたケインに、俺は声を掛けた。

 

「ほら、行くぞ」

 

 と。

 

「ほら、行くぞ。じゃないよ! めちゃくちゃ疲れたよ。無駄にな」

「ふん、無理もないな」

「だろう? 女同士の神経戦なんて、懲り懲りだぜ。身が持たんよ」

「まぁ、大分、空気がやばかったからな。……ほら、立てるか?」

 

 手を差し出して見せた。その差し出した手を掴み、ケインは

 

「へっ、(かたじけな)い」

 

 俺の手を支えにして、ようやく大地に立つことができた。彼らを追いかけ始めた彼。尻餅を付いていた箇所に、大きく楕円形の跡が残っていて。

 

「……辱い、か。……ん?」

 

 ケインが言った言葉を反芻し、ぼんやりと跡を見つめる中、俺は気になるものを見つけたのだ。

 積雪に隠れて、ハッキリとはしない。しないが……。そのまま、しゃがみ込んでしまった。

 

「あと、どんくらい歩くのやらな。……なぁ、ユウト。……ん? ……ユウト?」

 

 遠くに、皆を追いかけに行っていたケインが、側に俺がいないことに気になり出した。

 けれど、そんなことは他所にして、片掌で、サッ、サッ、サッ、……と積雪を軽く除けていた俺は、とうとう新発見したのである。

 

「これは……」

 

 そう目を見張ったそれは、まさしく〝爪痕″。それも、奇妙ながら、その爪痕の周りには、血痕らしいものが、爪痕の縁を彩るかのように残されていたのである。

 血痕はともかくとして、爪痕の形状からして、脳裏を過ったのは、まさしく、今回の討伐対象であるティガレックス。

 多分……。いや、ほぼ間違いないと思うのだが、なんだろう。違和感が否めなかった。

 

「なんかあったの? ユウト」

「あ、セツナか」

「あ、セツナか〜、じゃないわよ! 心配したじゃない。ケインが気付かなかったら、あんた、遭難していたわよ」

「わ、悪かったよ」

「ったく〜。……で、何か分かったの? 痕跡を炙り出しているから」

「分かったと言うか〜」

「なによ、ハッキリしなさいよ」

「ハッキリって……」

 

 そんな中、いつの間にか俺の傍に来ていたカデットが、何やら訝しむような視線を投げかけていた。

 指先を口元に軽く当てながら、思索にふけつつ

 

「何者かに、やられた感じですかね?」

 

 と意味深な言葉を漏らして。

 

 〝やられた感じ″

 

 それは、つまり獰猛かつ凶悪な轟竜を相手に、生死分つ戦いを繰り広げた意味を指してのことだろう。

 少なくとも、俺はそのような認識をした。

 

「つまりアレか? その爪痕の持ち主が、誰かにやられた的な」

「そうですね」

「で、誰なんだよ? そいつは」

「そこまでは……」

 

 ケインからの質問、それ以上は流石に分からないようだ。無理もない。俺だって分からないのだ。

 ティガレックスを相手にした奴なんて。ハンターか、或いは、同族のモンスターか? はたまた……

 考えたらキリがないから。

 

「それで、どんなモンスターの痕跡だったんです?」

 

 俺が見つめる痕跡に興味津々なのだろう。レイナも、自分から質問に手を挙げた。

 

「ティガレックス、だな」

「ティガレックスって……」

 

 どんなモンスターかまでは見当がつかなかった小狼が、驚きの声を上げた。無理もないのかも知れない。

 先日の遭遇戦の際、酷く危険な目に遭ったから。

 

「と、ともかく。ユウト、痕跡の採取、しときなさいよ」

「分かっているって」

 

 言われなくとも。結果的に、俺はセツナの命令に従って、痕跡採取に取り掛かった。その際、入手した痕跡名が表示され、その名称も頷けるものであった。

 

 

 

 

 痕跡を採取した後、再び歩み始めた。目指すべきは設営地。どんな設営地かまでは分からないが、多分、簡素的なものだろうと推測するに至る。

 けれど、万が一、天候の急変で悪天候に移り変わった際には、雨宿りは少なからずできるはず。

 それだけを取ってみても、道中で休息するよりかはマシだった。案の定、今となっては、先程の快晴とは違い。やや、怪しい雲が何処からともなく沸いていたから。

 だから、尚のことである。

 

「これで2本目か〜。……なぁ、あとどのくらいなんだ?」

 

 手にしたホットドリンクを手に、ケインが、まだかまだか、と催促してくる。

 

「もう少しだと思う。ここを登り切った先にあるらしいから」

「らしいって……」

「しょうがないでしょう? 目的地まで大雑把な距離しか記されていなかったんだから」

「うむむむ……」

 

 セツナの返答に、ケインはすっかりグズりだす。そして、手にしたドリンクを飲むか飲まないか?

 非常に悩んでいる様にも見えた。

 

「不安だったら、飲めばいいネン」

「んなこと言ったってよう、個数には限りあるんだぜ。悩むに決まっているだろう?」

 

 側から見れば、正直、どうでもいい問答だった。でも、なんとなくだが、その曖昧な気持ち、分からないわけではない。

 あと少しなんだけども、その少しがどれだけのものなのか分からないだけに、だ。その最中、そんな悩む彼を他所に、レイナが何かを発見したらしく声を上げた。

 

「あれ? あそこに洞穴が見えますね。もしかして、そこなのかな〜?」

「え? ……ん〜、多分、そうかも」

 

 とここで、レイナとセツナのちょっとしたやり取りを掻い摘んで聞いたケインの目がきらりと光――

 

「え? 見えたのか? 設営地とやらが」

「多分……」

 

 とレイナ。それを聞き、確定ではないにしろ、水を得た魚のようにケインは大はしゃぎ。

 

「なら、行かずにはいられないぜ! これで一休みができる。やっほ〜い‼︎」

「あ、ちょっとおい!」

 

 俺の静止を聞かずして、ケインはそのまま全力疾走。勢いよく前列を抜き去った。その様は、まるではしゃぐ子供の様に。

 その様子を垣間見た小凛は、

 

「あのバカ、早まり過ぎネン」

 

 と呆れた。まさに同感、俺もそう思った。だが、逆に言えば、そんな元気があること自体、羨ましくも思えた。

 

 ケインの勝手な見立ては、偶然ながら正解であった。確かにそこは設営地だったのだ。

 だけど、設営地を覆う洞穴は、全員が全員入れるようなスペースがあるわけでなく。せいぜい、4、5人が入ればいいくらいで、ハッキリ言って小さ過ぎる場所だった。

 ただ、これだけは言える。雨宿りとして役目を担っていたような飛び出た岩が割れているところを見る感じ

 

 〝モンスター同士が争ったのだろう″

 

 と、なんとなく第一印象、そう感じた。その証拠に、岩肌には、幾つもの爪痕が刻まれていて。中には、爪片までも刺さっている始末である。つまるところ、要するに、この設営地は半壊状態とも言えた。

 全員は入れない。

 

 〝誰がどう外に出ることになるか?″

 

 そんな話し合いが始まる最中、俺は率先して

 

「俺は外でいいよ」

 

 と、第一声。

 

「なんなら、ボク達もにゃ」

 

 続けて、オトモ達も声を上げる。

 

「ユウト……」

 

 とケイン。

 

「だって、入れないんじゃん。狭過ぎて」

 

 あと、1人か2人。最悪、3人目が洞穴からでないと行けない感じ。オトモ達はまだしも、俺達プレイヤーはそうはいかないから。

 けれども、

 

 〝誰がどう出る羽目になるか?″

 

 結論が出ず、やがて揉める、揉めそうになる。その前に、俺自身が率先した格好。俺の態度を受けて、どこかバツが悪そうにしたのか。ケインの表情が暗くなってしまった。

 

「そんな顔するなよ。お前が一番、設営地で休みたがっていたんだからさ」

「……だけどよ」

 

 ――とここで、洞穴の中にいた小狼が、そこでスクッと立ち上がり、視線は自然と彼に向き、

 

「? 小狼?」

 

 不思議そうに見つめる中、

 

「僕も出るよ。その代わり、ケイン、僕の分まで休んでね」

 

 と友を想い、気遣い始めたのだ。

 

「お、お前まで……」

「いいのか? 小狼」

「いいよ。それに、火を炊くのはここでなんでしょう? まさか、洞穴の中で炊くわけでないし」

「ま、まぁな」

 

 そう……。この場所で火を炊く。

 

 洞穴の入り口前にて、やや雪で埋まっているとは言え、焚き火の跡がある。だから、特段、洞穴に入れなくとも、暖まる分には困らない。特に、雲かかっているが、悪天候でない限りにおいては、今は尚のことである。

 

「さて……」

 

 積み上げられた木炭に表示されたアイコンに、ようやく視線を移す。見るからに、確かに〝焚き火″が記されており、あとは火打石さえあれば、使えるだけと見た。

 

「で、誰か持ってないか? 火打石の類は」

 

 そこで、ノブ公は前へと出て

 

「勿論だとも。必需品だからな」

 

 そして、洞穴から出ると、そのまま焚き火痕まで歩み寄った。

 

「みんなも行こう」

 

 セツナが号令を掛けては、レイナ、小凛、J.Oは、揃って焚き火近くに寄り添った。皆が集まる中、1人、反応しない者がいて

 

「カデットさん?」

「え? あ、はい。では、私も」

 

 ?

 

 (なにか考え事していたのだろうか?)

 

 改めて呼ばれて、ようやく反応を見せた。

 

 木炭に火がつく。皆が、両手をかざして、暖をとる。

 

「あったけぇ〜」

「私もだにゃ」

 

 ケインとジャムが、揃って和んだ。俺もまた、心が和む様な感覚を抱かずにはいられなかった。

 皆が見つめる焚き火は、そこまで大きいものではない。ないが、しかし、今にも消えそうな弱火でもない。

 丁度、その真ん中辺り。いい感じの火力と言ったところである。

 ふと、視線がカデットの方を向く。彼女もまた、優しい暖かさに包まれていたが、しかし、その表情は、未だに硬いままだった。

 

「なんか、考え事でも?」

「え? ま〜」

 

 一言、まさにその一言、それだけである。対面にいたセツナも、気になったのか? カデットの方に視線を向けていた。

 

「ね? 聞いてもいい?」

「あ、はい?」

「もしかして、あたしのこと、苦手?」

「……い、いえ。そんなことは」

「ふ〜ん。なら、なんで表情が硬いの?」

「そ、そうですか? そんな風に」

「うん、そう見える。なんかこ〜う、考え事でもしていたかのように」

「そ、そうでしたか? わ、私としたことが、す、すみません。場の空気を読まずに」

「いや、別に謝る事ではないわ」

 

 そこで、俺も

 

「同感だ。別に迷惑だとか感じた事ないからな。寧ろ、悩み事、あるように見えたくらいで」

「そうそう。この際なんだけど、一回、あたし達に話してみたら?」

「……相談、ですか〜」

 

 そこで、少しの間、沈黙が続いた。でも、やっぱり、心に閉まっておきたいのだろう。

 

「やはり、別にいいです。なんでもありません。ちょっと、ティガレックスに対して思うことがあった程度なので」

「そ、そう……」

 

 しかし、見たところ、それは建前な様な気もしてならなかった。まるで、本心は別のところにあるかの様に。しかも、そこから目を逸らすかの様にだ。

 だけど、セツナだけでなく、俺も同様。それ以上はやぶさかなのかも知れない。そんな気がした。

 

「私も、あたりに行ってもいいですか?」

「え? う、うん……。構わないけど」

 

 どうもこうも気になってしまうが、結局のところ、仕方ないことなのかも知れない。

 

 

「やはり、落ち着きますね」

 

 火に両掌を翳しながら、カデットは心境を述べた。火を見つめ続けると、煩悩とやらが焼き払われるとどこかで聞いたことがある。

 それだけに、先程までの険しい表情とは違い、カデットの火に照らされた表情は一段と柔らかさを帯びていた。

 

「そうだろう、そうだろう。寒いと心まで寒くなってしまうからな」

 

 と呑気にケインは言う。火を取り囲む様にして、みんなが暖をとる光景が、まるで連帯感があるように思えて。

 それが、不思議なことに仲間意識とやらが、久々ながら少しだけ感じられるような気さえした。

 それはもう、ケインと、かつての親友・神宮寺晃と過ごした日々を想起させられる感じがして。

 なんだか……

 

「あれ、これは涙……?」

 

 いつの間にかであろう。頬に伝う湿ったさを感じて、自分が今、少なくとも泣いていることに気付いた。

 

「とは言え、これからどうすんだ? なんだか、天候も怪しくなってきたしよ」

 

 空を見上げていたJ.Oが、今後の方針、どうするのかを尋ねた。

 

 (方針、方針か〜)

 

 団長たるセツナが、本来、考えるべきことなんだが、自分ごととしてふいに思ってしまった。

 天候具合を伺う彼女は、暫し黙す。黙して、それでいて、

 

「無理は出来なさそうね」

 

 そうぼやくや、設営地の査定を図り、どう思ったのか。再び地図を表示させた。

 

「本来は、ここで一夜を明かしたいところだけど……」

 

 と、なにやら悩みがある様な雰囲気を醸し出し、その悩みとやらを父であるノブ公に相談を持ち掛けた。

 2人だけの対談。相手先のノブ公も、セツナに提示された地図を見つめては、う〜ん、と難しい表情を見せていた。

 

「あ〜あ、どうするんだかな」

 

 その場に腰を据え、近くにあった岩を背にしておっ掛かるケインは、まるで他人任せの様な口ぶりでぼやいた。

 けど、俺も同じことを思っていた。普通に、かつ、単純に考えればここで一夜を明かすべきなんだろう。

 けど、そうもいかないから、今、こうしてノブ公とセツナが話し合っている訳で。

 

「どうやら、時間かかりそうみたいですにゃ」

 

 ブレットが、2人の話し合いの様子を推測してか、この様な見立てを立てた。立ちっぱなしも疲れるだけだしな。

 ここで万事休すと捉えては、俺もまた、その場で腰を下ろすことになった。目の前に焚き火。それを見つめながら、時を過ごす。

 

「……焚き火、か〜」

 

 確かに悪天候になり吹雪けば、焚き火も使い物にならいしな。そんな風に、ぼんやりとしながら思いを巡らせていた。

 

 そして……

 

 火、火か〜

 

 そんな連想をしていると――

 

 うっ!

 

 突然、頭痛が。あの時と同じ、頭痛がして、そして、脳裏にある光景がフラッシュバック。

 一瞬、一瞬、コンマ数秒単位である映像が。それも、火事になった住宅の光景が、人々の叫ぶ声が、蘇ってきたのだ。

 

「な、ななななんだ⁉︎」

 

 叫ぶ人々。その中に、どこかで会ったような白衣の、それもセツナに似た様な容姿の女性が、呆然と立ち尽くしている光景が脳裏を掠めたのだ。

 

「こ、これは一体……?」

 

 疑問が湧き立つ。だが、それ以上に頭痛が酷い。意識も消えそうで。遂に堪え切れなくなった俺は、その場で突っ伏してしまった。

 

 

 

 暗闇……。それはもう、どこまでも続く暗闇だった。しかし、ぼんやりとした感覚も、やがて鮮明になっていく。

 そうした中、どこからともなく懐かしい声が遠くから聞こえてきて――

 

「う、うう……」

 

 どんよりとした雲空が、暗闇に入ってきた亀裂から除く様にして、視界いっぱいに広がってきた。

 

「こ、ここは……?」

 

 記憶が曖昧なだけに、そう答えざるを得なく。最初に顔を覗き込んだのは、セツナだった。

 

「よ、よかった〜。意識が戻ったのね」

「い、意識? 俺は一体……」

「覚えていないの? 突然、倒れたのよ。それも、焚き火を見つめながら。ほんと、びっくりしたんだから」

 

 焚き火を……。

 

 一体、なにが起きたのかを振り返ってみた。……確かに焚き火を見つめていたのは覚えている。

 なんだか和む様な感じも、しなくもなくて。でも、突然と言えばそうなるが、酷い頭痛がしたような気もしなくは……。

 

「大丈夫か? ユウト」

「ケイン……」

「ほんと、びっくりしたんだぜ。頭を抑えながら急に倒れるからさ」

「今は大丈夫なんですか? まだ、具合が悪いとか」

「レイナさん……。みんな……」

 

 俺のことを気遣ってか。みんながみんな、俺のことを心配そうに見つめていた。そんな中、J.Oは

 

「アレ、なんじゃないか? VRSが、元から合ってなかったとか?」

「ま、まさか〜」

 

 J.Oの言葉が、半分冗談のように見えて、もう半分は疑念を感じずにはいられなかった。

 

「? どうしたんだ? ノブ公のおっさん」

「あ、いや。ちょっと考えてみたんだよ」

「考えてみた?」

「ああ。もしかしたら、それも(ヘッドギアとの相性)あり得るんじゃないかとね」

「やはり、あるのか?」

 

 とケイン。しかし、そこでセツナが反論。

 

「でも、それならセンサーが感知して鳴るんじゃないの? 確か、それを組み込んでいるとかないとか? パパ、言っていたじゃん」

「アレ? そうだったっけ?」

「多分……」

 

 逆に聞かれたことに、少しだけトーンダウンしてしまったようだ。でも、俺自身は、なんだか少なくとも、その件とは全然違う様な気がしていた。

 あの頭痛は、どこか別の意味があったんじゃないのか、と。そうした思考を巡らす中、

 

「ま、考えても仕方ないな。とりあえず、ユウト、今は具合大丈夫なんだよな?」

「J.O……。ああ、今のところな」

「なら、それで十分だろう。団長とやら、それでいいんじゃないか? 色々、詮索してもキリがないんだしよ」

「ま、ま〜、そうね」

「確かに、な。言われてみれば、詮索したところでどうしようもないな。さて……」

 

 そこで、重い腰を上げるように、ノブ公がスクッと立ち上がり――

 

「そろそろ決断どきだな」

 

 雲空を見上げて、先を見通した。時間経過と共に、雲行きも怪しくなるばかりの空。セツナだけでなく、俺もノブ公と同じ目線に立つ。

 

「正直なところ、ここで一夜明かすのは難しいわね」

「確かにな」

 

 フラヒヤ山脈の目紛しい気候変動。十分経験済みなだけに、とてもこんな半端な設営地では一夜を明かせないことくらい、重々承知だった。

 改めて地図を表示させては、目をくまなく動かす姿が伺える。

 

「で、どうすんネ?」

 

 流石に不安になって来たのであろう。ここぞとばかり、小凛が尋ねてきた。皆の視線が団長たるセツナに集まる。

 彼女は必死なのかも知れない。眉間に皺が寄せ集まりつつあった。そんな様を見て、俺も生態マップとやらを表示させてみた。なんだかんだで黙っていられない様な気がしただけに。

 現在地が、今の設営地を示している。縮図にして、周辺機器を探してみる。くまなく見て回る中、なんとなくだがセツナの、今の心境が分かったような気がした。

 つまるところだ。周りに一夜明かせそうな場所が、何一つなかったのである。無理にめぼしい設営地を探し出しても、ここからでは2、3時間は覚悟しないといけないような距離にあった。

 

「ユウトも見ていたのね?」

「まずな。ふ〜ん、難しいところだな」

「でしょ?」

 

 そんな中である。

 

「ユウト、どうなんだ?」

 

 小凛に続いて、ケインまでも聞いてきた。

 

「正直なところ、難しいとこだな。次に休める場所が近くにないから」

「え? じゃ、じゃ〜」

 

 ――と、そんなとこである。

 

「セツナ、このルートから設営地を目指すのはどうだ? いずれにせよ、当面、歩かないといけない訳だし」

「このルートって?」

 

 ノブ公もまた、調べていたのである。調べていて、それでいて、どうも妙案がありそうなことを述べてきたのだ。

 一見して、なにもない様に見えるが……。再びノブ公が指先を画面に触れるや画面が切り替わり、代わりに洞窟を記したルートが顕に。

 そして、そのルートは曲がりなりにもクレパスの下部へと通じている様だった。

 

「わざわざ、クレパスの中を通るってか?」

 

 とJ.O。

 

「この天候だからね。いつ、吹雪始めるか分からないし、クレパスの中なら雨除けになると思ってな」

「だけどよ、クレパスの中を通るったって、次の設営地まで行ける保証なんて……」

 

 とケインは反論するが、当の俺は既に気付いていた。

 

「よく見ろよ、クレパスの先を」

「え? 先を?」

 

 亀裂の先を辿る様に、彼の視線が移動していき――

 

「あ、確かに。ってか、なんでこんなところに?」

「そこを言われてもな〜」

 

 返答には困ったものの、ケインも次なる設営地の在処を確認した様だった。

 

「だけど、どうすんネ?」

「どうするって?」

「そんなクレパスの中の設営地で休むとして、どうやって地上に上がるってことネ。まさか、天候を見て引き返すとか言うんじゃないよネ?」

「え? 引き返す?」

 

 間に受けてしまったケインが、驚きを見せてしまう。

 

「ん〜……」

 

 そこは考えが及ばなかったのだろうか? 

 

 すぐに答えは出ない様だった。けれど、その代わりとはなんだが、セツナが代弁してくれた様だ。

 

「運が良ければ、そのまま先に行けば地上に出られるはず。けど、そうでなくても……。ここ、ここなら、地上に出られるはずよ」

「ここ? あー、確かに」

 

 その場所たるや、次なる設営地から少し引き返した先の分かれ道。その反対側のルートにて、梯子アイコンが表示されていたからである。

 つまるところ、今のところ、確実にクレパスから抜け出せる道を意味していた。

 

「いずれにせよ、吹雪始めるのも時間の問題。早々と切り上げた方に越したことないわね」

「だな、その方が賢明だ」

 

 ノブ公のアドバイスもあってか、ようやく進むべき道が決まった。焚き火を消すと、俺たちは揃いも揃ってこの場を後に。目指すべきクレパスの中へと通じる洞窟へと向かった。

 

 それから程なくして――

 

 想定通りと言うべきか。先程の晴れ渡る天候の面影も微塵もなくして、どんよりとした雲に空全域を埋め尽くされると、瞬く間に吹雪に見舞われることとなった。

 けれど、ホワイトアウトになる前に洞窟に辿り着けたのは、不幸中の幸いなのかも知れない。

 全員が全員、雨宿りみたいな感覚で洞窟に避難するや、俺は来た道を振り返る。

 

 (正直、こんな中、先程までいた設営地で一夜明かさなくてよかったかもな)

 

 早々と場所を変えた決断は正しかった。そのように思えて、そして、吹雪の景色を後にした。

 

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