モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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1章:激闘を制する者・4話

 

 明け方――。

 

 外に出てみれば、昨日の悪天候とは打って違い、晴々としていて清々しい気持ちになれた。

 見渡す限り、連なる山脈。それから、中腹にて、半壊したガルド湖がハッキリと視認できる。

 

 他の者はいない。

 

 どうやら俺1人だけ、1人だけ早起きしたみたいだ。けれど、誰も起きていないからと言って、ベースキャンプを離れるわけにはいかない。

 例え生態マップを熟知してようがしまいが……。

 

 (心配かける訳にはいかないからな)

 

 そうやって、自分を戒めるように、心の中で言い聞かせたから。だから、なのかも知れない。

 俺はその場から踵を返すと、再びベースキャンプとして使っている洞穴へと引き返した。

 ――と、その時である。

 

「ユウト、起きていたのね」

 

 セツナの声。不意に声のした方を向いた。すると、曲がり角ら辺に彼女の姿がいて。その手には、何本かの薪が抱いてあった。

 

「俺だけじゃなかったんだな」

 

 ボソッと呟いて、それから

 

「薪、組んでいたのか?」

 

 問いかけてみせた。

 

「うん。皆が起きても、寒くならないようにってね」

「仲間思いなんだな」

「っ! と、当然よ。これでも、団長なんだから」

 

 やや頬を赤らめ、照れ臭く答えてみせた。

 

「……そ、それより、手伝ってよね。巻き運ぶの大変なんだから」

「え、あ、あ〜」

 

 (手伝う、って、正直、その気がないんだよな〜)

 

 朝っぱらから仕事とか、全然する気にもなれなかったが、それを言い出したら機嫌を損ねるのは火を見るより明らか。

 仕方なく、崖の裏手へと回った。

 

 薪の量はそこまで多くはなかった。やはり、薪収集において1人だと限界と言う物だろう。あと、3往復すれば片付く量であった。

 

 ただ、どこから薪を得たのか?

 

 そんな疑問が浮かばないわけでもなかった。

 

「これで、最後だぜ」

 

 両手一杯に持った薪を積み上げられた場所に、そっと置いた。

 

「ちょっとはやるわね〜」

「なんだよ。礼なしか?」

「ほ、褒めてるわよ。これでも」

「褒めてるって……」

 

 なんかそんな風には思えないんだが……。

 

 けど、とりあえずひと段落したことに、ようやく一息つけそう。薪を何本か用いて、そこら辺で腰を据えることにした。

 

「ふぅ〜、これであとは火起こしだけね」

 

 すると、そこに

 

「2人とも早いにゃ」

 

 オトモの声。振り向くと、そこにはミルクがいた。

 

「そう言うお前もな」

「まぁにゃ。……ふむ〜、薪を汲めて火起こしかにゃ?」

「そうね」

「へ〜、ありがたいにゃ」

「でしょ? みんなが起きた時に寒くないようにって」

「一応、俺も手伝ったけどな」

「でも、少しでしょ?」

「少しって〜」

「ともかく、2人ともありがとうにゃ」

「ま、ま〜、ミルクがそう言うなら……」

 

 兎にも角にも感謝されたことで、出かかっていた鞘を納める形となった。

 

 カチッ、カチッ、カチッ、……

 

 詰められた藁の中、火打石の叩く音が奏でられる。そして――

 

「上手くいった、かな?」

 

 点火した火は、藁を中心に燃えていき、やがて積まれた薪全体を燃やしていく。

 

「上出来じゃね?」

「だにゃ」

 

 焚き火としては、様になったかも知れない。

 

 最後に起きてきたのは、J.Oだった。当然、頭部はいつもの被り物(ブルファンゴフェイス)で、隠されていて。

 

「よく、そんな格好で寝られたよな」

 

 ケインが唖然としつつも、感想を述べた。俺も同じく思っていたのかも知れない。ケインの一言には、一理あった。

 無理もないのかも知れない。まるで、その〜

 

「なんか、本当の顔みたいだにゃ」

 

 ジャムが言った言葉、そのままに。つまるところ、J.Oの顔面部のアバターが、そのままブルファンゴフェイスであるような。

 そんな意味合いを匂わせていたのである。頭では、本当の素顔でないことは理解はしてはいたが……。

 

「当然だ。これが俺様の素顔だからな」

 

 そんな中、ケインがボソリと余計なことを。

 

「まさに、豚頭、そのものだな」

「うるせ〜」

 

 しかし、睨みを効かせるに留めた。

 

「にしてもにゃ。これはこれで、あったまるにゃ〜」

 

 ジャムが両手の肉球を焚き火に向かって突き出してみては、気持ち良そうに言葉を発した。

 気持ちよさそうな姿を見て、俺もまた両掌を翳す。みるみるにして心が和んでいき、寒さで凍てついていたような心を融解させていくような感覚を抱かずにはいられない。

 

「そうですね。ずっとここにいてもいい気分です」

「それには同感、かな」

 

 小言ながらも、小狼も同じような気分であったみたいだ。

 

「だが、現実はそうはいかない。だろう? セツナ」

「……うん。そもそも、目的が目的だし」

「……だよな〜」

 

 団長の言葉に、落胆色を露わにするケインがそこにいた。

 

「ティガレックス、の討伐。か〜」

 

 前回とは状況が違うとは言え、やはり目の上のタンコブには変わりは無かった。それだけに、いずれにせよ苦戦は不可避なのだろうと。

 気が思いやられる感じがして、憂鬱になりそうではあった。そんな中――

 

「カデットさん、どうしたアルネ?」

「……えっ、あ、言え。少し考え事をしてまして」

 

 俺と同じことでも思っていたのだろうか?

 

 先程まで、ぼー、として呆然としていたカデットは、ここに来て慌てて受け答えした様子を見せた。

 

「どこか、具合の悪いことでも?」

 

 とレイナ。皆の視線がカデットの方へと集まる。 だが、気持ちを語らずじまいと言うべきか。

 自分のことは傍に置いて、今後の方針とやらを尋ねた。

 

「いえ、別に。それよりも、どうするんですか? これから」

「これからって……。本当に大丈夫アルカ?」

「大丈夫です。心配には及びませんから。ただ、相手がティガレックスなので、どう対処するか考えていただけなんですから」

「そ、そっか〜」

 

 結局、小凛と同様、そう捉えるしかないような。それしかなかった。でも、反面、気のせいならいいのだが。

 そんな感じがしなくもなかった。なにせ、他に理由がある感じがしなくもなかったから。

 

「無理しないでよ、カデットさん。いざと言う時に、具合悪くなっては困るから」

 

 とセツナ。

 

「分かってます。そんなこと、言われなくても」

「なら、いいんだけど」

 

 気がかりではあったが……。そんなところだろう。だけど、それ以上、気を遣ってしまってか。

 どうも踏み込む気にはなれなかったようだ。

 

「――で、どうするんです? これから」

 

 とカデットは、改めて問いかける。その目線は、勿論、団長たるセツナの方に向けられていて。

 今度は俺も含めて、皆の視線が彼女に集まった。

 

「そうね〜」

 

 と前置きして。それから――

 

「ひとまず、先を進もうと思う。最終的には、ガルド湖を目指す形にはなると思うけど。けど、いずれにせよ、痕跡を見つけない限り、手掛かりも何もあったものじゃないからね」

「なるほどな〜」

 

 と同調してか、珍しくJ.Oは頷いて見せた。同じことを思ったのだろうか?

 

「豚頭にしては珍しいネ」

「ちょ、豚頭って……」

「ともかく、今後の方針に関してはセツナさんに任せますわ。どの道

、私たちは付いていくしかないですし〜。頼みましたよ〜」

「レイナ……」

「ま、同感って言えば同感だな。よろしく頼むよ」

 

 ケインまでもが、期待した目で見つめてきた。

 

「責任、重大だな〜。とても俺には引き受けられそうにないがな」

 

 と彼女の力量を褒めたつもりでいた。は〜、とため息をついてから

 

「ま、仕方ないわね。相手から直に言われると、どうもプレッシャーを感じずにはいられないけど。でも、任せて」

 

 再び意を決したようだ。 

 

 

 

 

 ベースキャンプを後にして、ガルド湖を目指す。でも、それは最終目標地点に過ぎず。本来の主旨は痕跡を見つけることであった。

 

 〝ティガレックスを討伐する″

 

 幾つか理由がある。ポッケ村の交易の阻害になっていること。緊急クエストであること。それから、命を賭した腕試し。とか……

 ただ、やはりと言うべきか。何より、過去との決着。カデットの要望によるものだが、これが一番、理由として大きかった。

 

「は〜、見つかんのかね?」

 

 ため息混じりで、歩きながらケインが誰に問うまでもなく疑問を投げかけた。そんな中、意気投合したようにJ.Oは、

 

「奇遇だな〜。俺も同じことを考えていたぞ」

「お前もか?」

「ああ。流石にこんな岩をも隠れるくらいの積雪だ。見つかりっこないと思っていたさ」

「だよな〜。……おーい! 団長とやら、本当にこのまま歩き続けるのか? 痕跡が見つからない中をよ」

 

 側から聞いていた俺も含めて、二人の視線が先頭でノブ公と肩を並べて歩くセツナの方へ向かう。

 しかし、距離があるのか? 気づいていない様子であった。怪訝そうに眉間を顰めるケイン。

 

「聞こえてないんじゃね?」

 

 とJ.O。

 

「なら、もう一度」

 

 とリトライしようと、声を大にして発しようとして、セツナが握り拳のまま片腕を上げた。

 皆が通じ合ったかのように、いきなりその場で止まり。

 

「おおっと! な、なんだ⁉︎」

 

 勢い余って、よろけた。

 

「待て、の合図じゃないか?」

 

 俺は投げかける。

 

「待て?」

 

 首を傾げるケインであるが、直後、ハッとしたように

 

「もしかして、痕跡か?」

 

 だが、どうも違うようだ。

 

「あ、チャットがきた」

 

 後列の俺たちを配慮してか、メッセージが来たのである。何気なく受け取ると、そこには注意書きが記されていた。

 

「クレパスに注意?」

 

 暗唱してみせる。すると、J.Oが愚痴るように呟いた。

 

「クレパス、クレパス、クレパスって、どんだけあるんだよ」

 

 と。

 

「注意書き、にゃ〜」

 

 バターも、口ではないにしろ呟く。前方を改めて見ると、何やらセツナが右へ手を振って合図しているのが見えた。

 

 (右? クレパスに注意ってことは、この先にクレパスありってことか?)

 

 そんな解釈である。

 

「仕方ないネ〜」

 

 少凛の言葉と共に、前方へと進むのを断念した俺たちは、皆と同様、右へと逸れることにした。

 ――と、その時である。

 

 のわっ!

 

 突然、底が抜けたかのように、足元が崩れたのである。

 

「ユウト!」

「ユウトさん‼︎」

 

 (俺としたことが!)

 

 隠れたクレパスにハマった俺は、そのまま真っ逆さまに奈落の底へと落ちた。

 

 …

 ……

 ………

 

 ………う、うう……

 

 呻き声を上げ、薄らと目が覚めた。目が覚めて、それからゆっくりと起き上がり――

 

「俺は、確か〜」

 

 霞みがかったかのような記憶を手繰り寄せてみる。

 

 (そうだ、そうだった)

 

 クレパスに落ちたことを思い出した。天井を見上げる。縦線に開かれた亀裂から、空がのぞいていた。

 それから、声が聞こえてきて――

 

「大丈夫だ。俺は無事だよ」

 

 俺の身を案じる仲間の声に、応えてやった。

 

「今、助けてやるからな。そこで待ってろよ」

「ああ」

 

 (助けてやる、か〜)

 

 周りを見てみる。どこも、クレパスの絶壁で塞がれているのが、側と感じずにはいられない。

 壁伝いに出口を目指すにも、4階建て家屋もある高さにすべすべ壁面。とてもじゃないが、無理であった。

 ケインの励ましの言葉は嬉しいが、助け出されるまでだいぶ時間かかりそうに見えた。

 

「ともかく、先を進んでみるか」

 

 片方は行き止まりであり、今いる場所は窮屈。先を進んで、少し広めのある場所まで歩くことにした。

 

 

――それから、暫くして――

 

 

 ――! ちっ

 

 俺は、思わず舌打ちした。

 

「ティガレックス、こんなとこに……」

 

 何をどう思えたら、こんなクレパスの中に潜んでいるかは理解に苦しむが。ともかく、我が家と言わんばかりそこで寝ていたのである。

 クレパスの中と、本来の寝床ではないことは、多分にしてそうだろうが。それよりも、起こさないよう迂回して先に進むことに越したことはなかった。

 それに、不幸中の幸い、と言うべきか。イビキをかいてやがるだけに、どうやら爆睡しているように見えた。

 気配を察知しないようかなり距離を取り、壁伝いに迂回していく。そんな中、俺は奴の体の異変を目撃した。

 

「爪痕か? かなり大きいな……」

 

 何者かと争った形跡なのだろうか?

 

 大小さまざまな爪痕。その爪痕の深さも、致命傷には至ってはいないまでも、かなり幅広く刻まれていたのである。

 それだけに、ふと想像すれば、その〝何者か“と死闘を繰り広げたことは間違いないようだった。

 

 ティガレックスと互角か? 

 

 或いは、

 

 それ以上の相手、か? 

 

 だが、

 

「ともかく、憶測は後回しだな」

 

 優先事項を考え、俺はその場から離れることにした。

 

「よ、早かったじゃないか」

「よ、じゃないわよ。こっちは本気で心配したんだからね」

「わ、悪かったよ。冗談だよ、冗談」

「ったくもー」

 

 二の腕を組んでは、セツナは不貞腐れた様子を見せた。苦笑するしかなかった反面、心の中では感謝していた。

 

「ともかく無事で何よりだよ」

 

 とノブ公。

 

「セツナと同じく心配したんだぜ、マジで。怪我とかないか?」

「ありがとうな、心配かけて。怪我、という事は特段……」

 

 一応、ゲームの中だけに、怪我、するようなものだろうか? と甚だ疑問には思ったが、敢えて口には出さなかった。

 

「それよりも、ここに来れたと言うことは、下り口、見つかったんだな?」

「そうだよ。と言っても、迂回しては段々になっていた段差から一思いに降りた感じだけどね」

「一思い、ね〜」

 

 ――とここで、カデットが意味深な。それも不吉な一言を。

 

「どの道、引き返そうないけど」

 

 え?

 

「引き返せない、って……」

 

 サラッと発した言葉だけに、凄く嫌な予感がしてならなかった。そんな中、ケインが話題を切り替えてきた。

 

「それよりも、ユウト」

 

 ?

 

「この先、どこに繋がっているんだ? 落下地点に行き着くことは確かなんだろうけど」

「ああ、それか。行き止まり、だな」

「行き止まり? そっか……」

 

 来る途中で、爆睡中とは言え、ティガレックスと遭遇した。なんて、口が裂けても言ってはいけない様な気がした。

 その事実を伏せるかの様に、すかさずこちらからも質問する。

 

「それより、そっちはどうなんだ? 迂回した挙句、段差を降りてまでこっちに来たんだろう? 来る途中でめぼしいものとか見つかったか?」

「特になかったネ」

「そっか。――って、それってお前らも、俺と同じ状況じゃ……」

 

 しかし、そこでノブ公は

 

「出られなくはないがな」

 

 と述べ。そこに小凛は

 

「どう言うことネ? どう見ても、一方通行しかなかったけど」

 

 疑問を投げかけた。

 

「一見してそうがな。だが、出られなくはなさそうな箇所を俺とセツナは、見たんだよな」

「ん? そいつは気になるな」

 

 小凛と同じ疑問を抱いた俺も、口にした。続けてノブ公が答えるかに見えたが、

 

「ここに来る途中で、私もノブ公さんと一緒に調べていたんですね」

「レイナ」

「ごめんなさい、セツナさん。言うのが遅くなってしまって」

「え? あ、うん……」

「それでどうなんだよ? ノブ公さんよ」

 

 J.Oの質問。ノブ公は訳を話す。皆がノブ公に注視する中、

 

「ここに来る途中なんだがな。一部だけ、氷壁が薄い箇所を見たんだよな。半透明で奥が見えづらくはなってはいたが、恐らく別なルートになっていることには違いないと思ってな」

「おお、そいつは良い知らせじゃないかよ」

 

 早速、J.Oは期待を膨らませる。だが、レイナがノブ公の言葉の続きを語り始めて――

 

「でも、簡単には行けそうにないみたいなんですよね」

「え? なんであるネ」

「それは、壁の層がやや厚くて。簡単には崩しきれないと言うか」

「なんだよそれ。ピッケルとかで切り崩せないってことか?」

 

 と今度は、推移を見守っていたケインが追求に打って出る。レイナの代わりに、ノブ公は訳を話し始めて

 

「実際に見てみれば分かると思うが、一言言って、ピッケルとかでどうにかならないんだよな。まぁ、大タル爆弾を使えば、崩せるかのせいはなくはないが、このクレパス自体、その爆発の衝撃波で崩れるかも知れないリスクがあってな」

「つまり、一か八か。そう言うことだな?」

 

 と俺は投げかけ、ノブ公は無言のままコクリッと頷くのみであった。

 

「でも、やるしかないんだろう?」

 

 とケイン。ノブ公とレイナさんも、否定はしなく。そんな中、小狼の異変に、ミルクが気にかけた。

 

「どうしたんにゃ? 小狼」

「……なんか、嫌な予感がして」

「嫌な予感にゃ? クレパスの崩壊のことかにゃ?」

「うん。でも、他にもあって、……ごめん、具体的に話せなくて」

「別にいいんだにゃ。ただでさえ狭いんだにゃ。心細くなるのも無理もないにゃ」

「そ、そうだよね?」

 

 そして、ノブ公らの場面になって、ようやくセツナが結論を出し――

 

「やるしかないわね。どの道、それしかないのなら」

 

 一部を除いて、皆が頷いた。

 

 やっぱり、嫌な予感がした。しかも、ここに来てだ。脳裏に過ったのは、ティガレックス。

 あの、傷だらけでボロボロ状態ではあるが、我が物顔で寝床についていた轟竜が過ったのである。

 

「どうしたんだ? ユウト」

 

 気持ちが顔に現れてしまったのだろうか? こちらを向いたケインが、顔を覗かせていた。皆が計算しながら爆弾のセットを行う中、

 

「あ、いや。特段、何も……」

 

 本当はあるはずなのに、それが言い出せずにいる。

 

「何も? そうは見えないが〜」

 

 するとそこで、ジャムが

 

「どうしたのにゃ? ケイン」

「え? あ〜。いや、こいつが、神妙な表情をしていたから」

「神妙な?」

 

 ジャムまでも、こちらを向く。

 

「具合でも悪いかにゃ? ユウト」

 

 しかし俺は、

 

「ぐ、具合悪くなんかないさ。ちーと、気になっていただけでさ」

 

 ――とそこへ、セツナが

 

「よし、準備できたわ。皆下がって」

 

 と呼びかけた。だが、そこで思わず声を上げてしまった。

 

「ちょ、ちょっと待った!」

「え? 何? ユウト」

「え、あ、いや。なんつうか。爆破したら、すぐここから逃れるんだよなぁと思ってな」

「すぐ逃げる? まぁ、逃げるとまではいかないけど、前には進められるようになることは確かだけど」

「あ、いや。そうじゃないんだ」

「そうじゃない? どう言うことなのよ?」

 

 さすがのセツナも、これには訝しむようになる。

 

「なんか変だぞ、ユウト。さっきから何を気になっているんだよ」

「そうだにゃ、変だにゃ。どう言うことだにゃ?」

 

 ジャム、ケイン。共に詰め寄る。――とそんな時である。来た道の先から、嫌な呻き声が風に靡くように聞こえて来たではないか。

 

「にゃ、にゃんだ?」

 

 思わずミルクが、驚きの声を上げる。

 

「ま、ずいな〜」

 

 嫌な予感が的中したと言うべきなのかも知れない。何かが迫って来るような気配が、得体の知れない余波となって皆に降ってかかる。

 

「どう言うことなのよ? これ。ユウト、ちゃんと訳を――」

 

 動揺するセツナは、俺に答えを求める。もはや、ここまで来たら隠しようがない。

 

「ティガレックスだよ。こんな狭い場所で皆を動揺させまいとしていたけど、それも意味をなさなくなったみたいだな」

「ちょ、ティガって⁉︎ それを早く言いなさいってば!」

「と、ともかく。早く壁を爆破しましょう。このままだと」

「そ、そうね」

 

 レイナに促され冷静さを取り戻したセツナは、ペイントボールを手に大タル爆弾の方へと投げつけた。

 

 ボカ――ン―……‼︎

 

 爆炎が轟き、同時に爆風が押し寄せた。霧氷が舞い散る中、改めて起爆地点を見据える。

 すると、穴が。ポッカリと空いた穴がそこにできていた。

 

「上手く行ったようだな」

 

 とノブ公。

 

「皆、早く!」

 

 団長は促す。一同が穴を目指して歩を進める中、

 

「にゃ! 奴が来たにゃ!」

 

 バターの声に俺が振り向く。

 

 ちっ、

 

 舌打ちし、予想を遥かに上回るスピードで追いかけてきた事に、焦りを感じる。

 

「皆、早く穴へ」

 

 呼びかける。

 

「ユウトは?」

 

 とケイン。

 

「俺のことは言い。お前らだけで先に行け‼︎」

「そ、そんな。それじゃ――」

 

 だが、しかし、

 

「いいから」

 

 捲し立て、最後尾になっていたケインを穴へと誘った。ただ一人残る俺。崩壊していくクレパスの中、氷壁を削りながら迫るティガレックスを前に、千載一遇のチャンスを掴み取ろうとする。

 失敗は許されない。かと言って、撃退することも叶わない。その刹那、俺の手には閃光玉が握られていて。

 奴との距離、僅か10数メートルの地点で、俺は叫んだ。

 

「食らえー‼︎」

 

 地に叩きつけ、ほぼ同時に俺は目をかばい。その直後、凄まじい閃光が炸裂した。

 

 ギャ――‼︎

 

 突然の激しい光に視界を奪われたティガレックスが、悲鳴を上げ仰け反った。一時的な足留めにしかならないが、それでもする価値はある。

 目眩状態になり動けなくなったのを確認した俺は、すぐさま爆破でできた穴の中を目指した。

 

 気が抜けない状況である。ともかく、クレパスの中では、狭すぎてまともに対峙する気にはなれなかった。

 穴が小さいだけに氷壁に阻まれて前に進めないであろうティガレックスも、いつ、氷壁を打ち砕いて迫って来るかわからない。

 

「団長さんよ。出口はどこなんだよ? このままじゃ、奴におい疲れっちまうぜ」

 

 未だに生態マップと睨めっこしているセツナに、J.Oは痺れを切らしていた。

 

「今、探しているわよ! それを」

 

 彼女も、焦っていただけに苛立っているようだ。語気を荒げて答えた。そんな中、小凛はある場所を指差す。

 

「あれ、使えるかネ?」

「え?」

 

 思わず先陣切って走るセツナが、振り向く。それから、指を刺した方向を見て。俺もまた、つられて同じ方を見た。

 

「ツタ! ……行けるかも」

 

 それには同感だった。段差ごとにツタが生え降りてはいるが、最終的には、地上まで伸びていそうなだけに、窮地から脱せそうで期待感が増したのである。

 ――と、その時である。来た道から何かが砕けたような破砕音が、ブロック崩しのような音を立てて伝わってきたのだ。

 

「まずいな」

 

 とノブ公。セツナとノブ公、親子は顔を見合わせるや否や、頷き合った。

 

「皆、早くツタの方へ!」

 

 セツナが叫ぶ。皆が我先にツタを目指して走り出し。そうした中、 迫り来る足音。皆が登り切るのは、どうも間に合いそうにないだけに、俺は――

 

「ケイン、先に行け!」

「でも、お前が」

「いいから。俺は大丈夫だからさ」

「わ、分かったよ」

 

 友を促したのである。

 

「ユウトさん、無事で」

 

 俺の意図を悟った小狼は、心配ながらでも声をかけた。俺は感謝を込めて頷き返し。来るべき脅威に備えた。

 そんな中、

 

「一人だけじゃ心許ないだろ、ユウトくん」

「おっさん⁉︎ ……ああ、助かるよ」

「あたしも助太刀するわ。これでも団長だもん。仲間を一人になんかさせない」

「へ、くたばるなよ」

「誰がくたばるってのよ。あんたこそ、キャンプ送りなんかしないでよね」

「そんなヘマ、する訳――」

「二人とも、来たぞ!」

 

 強引にクレパスの壁面を打ち砕きながら現れたティガレックスが、俺とセツナ。そして、ノブ公のおっさんの前に立ちはだかった。

 

 やはり、苦戦必死は避けられそうにはないようだ。なんとか、ノブ公の大楯によりティガレックスの猛攻は凌げてはいたものの、それも時間の問題だからだ。

 

「くっ!」

 

 猛攻に堪え兼ねたノブ公は、遂に膝を折る。隙があれば攻撃に打って出るが、タイミングを誤れば痛い反撃を受けるのは避けられそうにない。それだけに、歯痒さと焦りが募る。

 

「こ、これ以上は……」

 

 もはや限界、そのように思えた。ティガレックスも畳み掛けるべく、今まで以上に大きく振りかぶって――

 

 ――その刹那、俺は見逃さなかった。

 

 地を蹴ってノブ公の前に躍り出る!

 

「な、何を⁉︎」

 

 驚きの声が横から聞こえ。だが、それを無視して、全速力でティガレックスの後方へと向かって走り出す。

 直後、

 

 バキィ――ン―……‼︎

 

「むぐぅ!」

「パパ――‼︎」

 

 激しく唸る衝撃音。今まで以上に強烈な一撃を受けたノブ公は、ガードを破られると同時に吹き飛ばされたようだ。

 

 (これ以上、畳み掛けられたらまずい)

 

 この日の為に拵えた大剣(バスターブレイド)。気を逸らすべく、その重力感抜群の重い一撃を持って喰らわすべく奴の懐に、俺は飛び込んだ!

 

「うりゃ――‼︎」

 

 雄叫びを放ち、一撃をお見舞いする。分厚い肉質に阻まれたがそれも一瞬、それはもう滑らかと言うべきか。

 それ程抵抗もなく、盛大な血祭りを吹き散らかし、多大なるダメージを与えるに至ったのである。

 

 (これなら――)

 

 勢い余って、二撃目へ移行。横破りに刃を突き立てようとした。だが、さすがのティガレックスも、先の一言に堪えたのであろう。

 間髪入れずして構えを取り、その瞬間、

 

 まずい!

 

 自分が放った止めようがない攻撃モーションに乗せられ、直後、

 

 グルリッ!

 

 奴の大回転攻撃に巻き込まれてしまった。モロに食らった俺は、セツナらの叫びが聞こえたか聞こえてないかのうちに、思いっきり吹っ飛ばされ――

 

 ぐはっ‼︎

 

 氷壁に叩きつけられてしまった。

 

「ユウト!」

 

 駆けつけようとするセツナ。だがそけで、すかさずノブ公が娘の手を掴み、静止を効かせた。

 方や、ティガレックスに対峙する二人。方や、壁に激突され、動けずにいる俺。そんな彼らの間に、傷だらけのティガレックス。

 そんな戦況が、いつの間にやら出来上がってしまっていた。激しい痛みに苦悶の表情を隠せない中、

 

「今行くのはまずい!」

「で、でも……」

「それより、先に例のアレは設置できたのか?」

「と、当然。できているわよ!」

「なら、今はその手を使うのが先だ」

「そ、そうだね……」

 

 (アレ? とは一体……)

 

 いつもながらピンと来る筈ではあったが、今回はそうは行かなかったようだ。だが、ともかくこれだけはハッキリしていた。

 

 (このままでは2人が)

 

 と。だが、焦燥感に駆られる中、体が思うように動かず。異変に気付いた俺は、ステータスを確認。

 

「ち、ダウン状態か」

 

 10秒から20秒の間、どうやらダメージを食らったショックから立ち直れそうになかったようだ。

 

「お前ら逃げろー‼︎」

 

 俺は叫ぶ。けど、俺の意に反して、なんと!

 

「なんとか、こちらに陽動を」

 

 ノブ公が娘に指示していたのである。さらに驚くべきはセツナ。懐に潜り込んでは、鬼人化しながら幾多の乱れ打ちをかましていたのである。

 俺は真っ青になった。

 

「バカやろう‼︎ キャンプ送りにさせたいのか?」

 

 だが、時はすでに遅し。鬱陶しさに無視しきれなくなったティガレックスは、2人の方へと振り向いたのである。

 

「やばい‼︎ このままでは……」

 

 閃光玉を使って時間稼ぎをするべく、なんとか気合いで力が入らない右腕を持ち上げる。画面操作し、そして、アイテム画面を開く。

 ――が、そこで轟竜が吠えた。闇雲に2人に向かって突進し始め、俺は叫ぶ。

 

「セツナ――‼︎」

 

 突進していくティガレックスの姿が、死角へと消えて。そこから、3秒弱? 

 

 ギャー‼︎

 

 悲鳴が聞こえるや、巨大が落下するような音が響いて来た。直感的に悟る。まさか、

 

 〝落とし穴″

 

 と。その直後である。体に力が入った俺は、スクッと立ち上がることができた。様子が気になっていた俺は、ティガレックスが向かった方へ走り出す。

 ――のだが、反対側から2人が戻って来て。

 

「上手く行ったわ、今のうちよ」

 

 とセツナ。

 

「今のうちに、ツタの方へ向かうんだ。ユウトくん」

「奴は?」

「落とし穴に嵌ったわ。一時的でしかないけど、時間稼ぎになるはず」

「やはりか」

「ともかく、早くここを出よう。決着は地上に出てからでいい」

 

 俺たちは、ノブ公に促されるがまま地上へと繋がる蔦へと向かった。

 

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