モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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1章:激闘を制する者・5話

「マジで心配したよ」

「悪いな。だが、まだ、終わってはいない」

 

 クレパスからおよそ50mほど離れた位置。そこにいた俺は、振り向いて這い上がって来たクレパスの方を睨んだ。

 逃げ切れた、なんてことにはならない。それに、逃げるつもりもない。それに、俺だけではない。

 ここにいるみんな一同、同じ気持ちには変わりなかったのだから。

 

「皆、覚悟はいいわね?」

 

 心意を確かめるかのように尋ねるセツナに、誰も異論を挟まず。黙ってはいたが、きちんと頷き返すのが見てとれた。

 各々が武器に手を当てがい、

 

 いつでも来い!

 

 そんな気迫じみたのが見てとれる。

 

「お、ビビっているのか? んな時に」

「うるせぇ‼︎ これは武者震い、っだ! つーの」

「へ、格好つけやがっての」

「うるせぇ‼︎ それこそ、テメェだって、その被り物の下で青ざめてんじゃねぇぞ!」

「うっせーな。んな訳――」

 

 その直後である。クレパスの中から、ティガレックスの雄叫びが、地を這うように響いて来た。

 足元から頭の先まで、恐怖が伝わるのが肌感覚で分かるような気がした。恐らく、罠を脱出したのだろう。

 

「来るぞ!」

 

 その言葉と共に、場が一瞬にして張り詰めた。

 

 やがて、不気味な足音が大きくなって行き――

 

 っ!

 

 巨大な影が地上へと飛び出す。高らかに跳躍した巨体は、俺たちの直ぐそばに舞い降りた。ドスンッ、と鳴り響く振動。

 それは生死を分つ討伐戦のコングであった。

 

「行くぞ‼︎」

 

 もはや出し惜しみしない。俺の掛け声と共に、皆が立ち向かう。

 

 傷だらけの轟竜は、全く持って疲れを見せない。深追いしたJ.O・ケインが、奴の大回転攻撃に巻き込まれ吹き飛ばされた。

 

「ケイン‼︎ J.O‼︎」

 

 俺は叫んだ。吹き飛ばされた衝撃でダウンしていたらまずいと思い、すぐさま走り出す。

 敵に背を向ける危険性。顧みないその姿に、セツナから声が掛かり――

 

「ユウト!」

 

 だが、しかし、

 

「奴を気を引きつれてくれ!」

「分かった」

 

 少しの間でもいい。時間が欲しいことを告げた。全速力で飛ばされた二人の元へと駆け寄る。

 

「二人とも大丈夫か?」

「サンキューなユウト。俺は大丈夫だ」

「よかった」

 

 そして、J.Oの方

 

「J.O! お前は? ……J.O?」

「う、うう……」

「ったく、図体デカいくせに気絶してやがるぜ」

「ケイン! それは言い過ぎだ。ともかく、彼を起こさないと……」

 

 彼の元へと急いで歩み寄る。なんとしても起こさないと。そんな思いで呼びかけた。

 

「おい、起きろ! 寝てる場合じゃないぞ。……起きろ! 起きろってば」

 

 呼びかけるだけでなく、体までを揺さぶって見せる。そんな中、起き上がっていたケインが、彼の元へと歩み寄り――

 

「こいつ、本当に大丈夫かよ」

 

 そして、徐に被り物に手を差し伸ばしてみては、覗き見るような形でめくろうとして――

 

「え? 頭が――」

 

 直後である。

 

「!」

 

 ガシッ、と凄まじい速度で、めくろうとしていた腕を鷲掴みにしては、

 

「さわんな」

 

 怒りを込めた、今まで感じたことのないようなドスの効いた声を。思わず、ビビって狼狽えてしまったケインは

 

「お、おお……」

 

 と被り物からすぐに手を離し

 

「な、なんだ。目を覚ましていたんか」

 

 胸を撫で下ろすに至った。なんとか立ち上がるJ.O、表情は被り物が邪魔で見えなかったが、なんか機嫌悪そうな雰囲気を醸し出していた。

 

「間合いに気をつけろ!」

 

 俺は叫ぶ。

 

「分かっているわよ! そんなこと」

 

 大剣だけに、咄嗟のガードは効くが、双剣のセツナはそうはいかない。だから、念には念を。注意喚起したつもりだったのだ。

 一旦、奴から距離を取る中、直後、跳躍の兆候を見せた。雄叫びを上げ、瞬間的な風圧が、俺と、ティガレックスを挟んで対岸にいたセツナに襲いかかる。

 

 くっ

 

 そして、片目だけで跳躍した方向から目線を離さず。その先に誰かいることを察知。

 

「小凛‼︎」

 

 直後、飛び込んで来たティガの巨体の陰に隠れる。まさか、一撃を受けたのだろうか?

 嫌な予感が脳裏をよぎる。

 

「セツナ!」

「うんっ」

 

 すぐさま大剣を納刀し、奴を追いかける。粉雪がティガレックスの周辺を纏うように包んでいて、どうなったのか視認できない。

 

「うおおおー‼︎」

「ケイン!」

「食らえ!」

 

 追いかける最中、その道中に姿を現したケインが、先に追撃せんと切り掛かったのだ。

 

「無茶するな!」

「無茶なんか」

 

 次の瞬間である。奴の頭が擡げ、本能的に俺はガード態勢を取った。凄まじい怒号とも呼べるようなバインドボイスが、衝撃波を伴って放たれたのである。

 逃げる隙もなかったであろうケインが、そのバインドボイスを前にして、吹っ飛ばされるのを垣間見る。

 轟竜の体表に赤みが浮き彫りになり、怒り状態となったことを知らせた。俺は語気を荒げた。

 

「くっそー‼︎」

 

 怒り状態のティガレックスは、狙いを吹き飛ばしたケインへと向けただけに、だ。

 

 間に合うか間に合わないか?

 

 怒り状態のティガレックスは、トドメを刺さんばかりにケインへと襲いかかった。

 

――やばい――

 

 ケインのキャンプ送りが、脳裏に過った。

 

「ひぃー‼︎ た、助け――!」

 

 次の瞬間である。人影が、彼の前に。そして、ケインはその人影により、強引に投げ飛ばされて――

 

 バギィ――ン―……‼︎

 

 凄まじ金属の衝撃音が、辺りを轟かした。暴れ来るティガレックスを前にして、大盾による防戦一方の狩人の姿。

 

「助かったぜ! おっさん」

「ぎ、ギリギリだったがな。小狼! 頼む」

 

 決死のノブ公の合図。一瞬、何かが投げられたのを垣間見た俺は、すぐさま大剣を盾にしたガード態勢に転じ。次の瞬間、破裂音と共に凄まじい閃光が周辺一帯を真っ白に染め上げた。

 

 グギャー‼︎

 

 閃光に目をやられたティガレックスが、悲鳴をあげ仰反る。同時に、あと1、2秒遅れていたら、奴と同じ目にあったのかも知れない。と、胸を撫で下ろした。

 ガードとして利用した大剣を背に、再び走り出す。その間、ノブ公はティガの仰け反ったタイミングを見計らって、なんとか危機を脱したようだった。

 ティガレックスの間合いへ入るや、長い尾を狙って、重い一撃を繰り出す。間髪入れず、横に薙ぎ払い二撃目。

 

「あたしも加勢するわ!」

 

 双剣の両刃を掲げ、全身にオーラを纏い鬼人化。声を荒げては、懐へと潜り込んで行く。

 

「俺も行くぜ‼︎」

 

 とJ.O。負けじと、やや遅れてケインも加勢に入った。距離を取っていたであろうレイナは、持ち前の狩猟笛を奏で、強化効果を引き出し後方支援。小凛・小狼は、離れた場所から矢を浴びせまくる。

 各々が繰り出す総攻撃。辺り一帯は、血飛沫の山華で彩った。だが、ただでやられっぱなしのティガレックスではなかった。

 態勢を立て直さんばかりに、後方へと跳躍してみせたのだ。着地時の衝撃で粉雪が舞い上がり。直後、どデカい雪塊が複数個、勢いよく飛来して来る!

 

「ガードが間に合わ――」

 

 思わず大剣の柄を手放しては、両手で顔を庇い――

 

 うぶっ‼︎

 

 無意味な防御態勢だけに、雪塊をモロに直撃。衝撃で、10数メートルは吹き飛んだであろう滞空感を味わう羽目になった。

 何回か転がり込むや、すぐに顔を上げて見せ。眼前の体力ゲージが3、4割近く削られていたことに、血の気が引くような思いを抱いてしまった。

 しかし、迷っている暇などない。ティガレックスは、雪塊攻撃だけでなく、その巨体を使って押し潰さんと突進してきたのである。

 

「くっ」

 

 俺はすぐさま立ち上がる。だが、怒り状態だけに、回避が間に合うはずもなく。2、3秒過ぎたか過ぎないかのうちに、僅か5メートルまで攻め入り。

 持ち前の大剣でガードしようとして――

 

「なっ!」

 

 空振りの感触。先程、手放したことを思い出しては、もはやこれまで。そう死を覚悟して――

 

 ………

 

 ……

 

 …

 

 え?

 

 再び無意味な、両手での防御態勢から、ゆっくりと、閉じた両目を開いて、思わずその光景に目を疑った。

 

「どう言う――」

 

 なんと言えばいいのだろうか? いや、こんなことが、あり得るのだろうか?

 言葉にするなら、そう……

 

 〝時間が止まっている”

 

 見る景色は変わらず。しかし、俺以外の、ティガレックスを含めて、その場にいる全員が、完全に止まっていたのである。

 目を疑った。流石に目を疑った俺は、とにかく襲われそうになっている場所から、すぐに別の場所へと移動。ひとまず安全を確保した。

 

「そうだ! 他の者たちは?」

 

 雪塊攻撃範囲は、俺だけではなかったはず。そう思い至り、俺以外の誰が巻き込まれているか確認しようとして――。

 突如、どこからともなく、機械的な音声が頭の中に響き――

 

『サポートナンバー、002、解除。繰り返します。サポートナンバー、002、解除します』

 

「え? サポー……」

 

 そう、呟きかけた。次の瞬間、止まっていた時が、いきなり動き出し。直後、

 

 ドシ――ン―……‼︎

 

 対象()を踏み潰さんと襲いかかっていたティガレックスは、空振ったまま、壁に頭をぶつける羽目になった。

 大顎を壁にめり込めたまま、抜け出さないでいる中、俺は呆然としていた。そんな中で、

 

「何、ぼー、としてんだ! ユウト。今がチャンスだぜ! チャンス」

「っ! あ、そうだな」

 

 ケインの叱咤に我を取り戻した俺は、改めて気を取り直す。ともかく、こいつを倒すのが先。雑念を振り払い態勢を立て直すと、改めて尾への攻撃に転じた。

 

 身動きが取れない時間は数十秒と言ったところか。俺たちは、その間隙を見逃さなかった。

 今まで以上に総攻撃を繰り出し、一気に体力を奪っていった。そして、壁にめり込んだ顎が抜けたとの同時。ために溜めた大剣の一撃が、これまで以上に炸裂。

 遂に間合いを踏み込む上で障害になっていた尾の切断に漕ぎ着けたのである。切断された直後、バランスを崩すティガレックスは、前のめりで仰け反った。

 

「畳みかけるぞ‼︎」

 

 J.Oが意気揚々と声高らかに叫ぶ。それはまさに、千歳の一隅を掴まんとするばかりの気迫が垣間見えた瞬間に思えた。

 納刀した俺は、追撃戦とばかり走り出す。しかし、先陣を切ったのはケイン。すでに走り出す団員たちを置いてけぼりで独走し、ティガレックスに再接近していた。

 俺を含め、ケインは勿論。J.O、セツナ、ノブ公の計5人衆は、瞬く間にティガの懐へとつけ入り始める。

 遅ればせながら、オトモ達も加勢しに入った。一方、小凛、小狼、レイナは、援護射撃、後方支援に入り、バックアップ態勢を陣取った。

 次々に繰り出される猛攻撃。流石のティガレックスも、これ以上、暴れる余裕も無くなってきたのであろ。

 接近戦組の俺たちから距離を取るべく、後方へと跳躍したティガは、すぐに攻撃に転じることができず。

 口から涎を垂らしては、目は虚状態に。全身疲労からバテバテになっているようだった。

 俺は悟る。もう一息、もう一息で討伐を果たすことができると。追撃に踏み込むのは俺だけでなく。

 我先にと、セツナ、ノブ公、ケインらが続くのを、肌と感じているようにさえ思えた。

 

「あと、一押しよ〜」

 

 レイナからの、ほんわかとした激励。そして、狩猟笛からの後方支援が、俺たちを後押ししていく。

 

「俺が奴の気を惹きつける。お前らは――」

「言われなくとも」

 

 ノブ公の意図を読んでか。セツナはケインを連れて、ティガレックスを中心として右回りに回り込んで行く。

 

 ノブ公の奴、自分が囮に。

 

 俺もまた、J.Oと共に左回りに回り込み始めた。斜めから攻め込むタイミングを見計らい、間合いに注意しながら。だが、対してティガレックスは、このまま座して死を待つことはしなかった。

 読み通り、ノブ公へと突っ込んで行くが――

 

「なっ」

「!」

 

 俺を含めて攻め入った者達が、同時に驚いた。なんと言っても――

 

「まずい‼︎」

 

 ノブ公の表情に焦りが滲む。と言うのも、ティガレックスは、このままノブ公に喰らいつくかに見えた。

 それが、土壇場に来て彼を飛び越えて行ったのである。行き着く先は、小凛・小狼ら、後方支援組。俺たち接近戦組とは違い、彼らは接近戦用の強力な装備をしていない。

 それだけに、突っ込まれたら逆にピンチだった。

 

「まずいにゃ‼︎」

「ボクたちが」

 

 ミルク、バターらオトモ達が、ティガレックスの突進を阻もうと、勇猛果敢に前に出た。だが、それも無駄。

 

 ふぎゃー‼︎

 

 ものの見事に、ひとまとまりで吹き飛ばされてしまった。

 

「逃げろー‼︎」

 

 俺は叫ぶ。レイナが小狼・小凛、二人を手引きする様子が垣間見えた。しかし――

 

「小狼!」

 

 小石に躓く。すぐさま駆けつける小凛であるが、もはや、間に合うはずもなく。

 

「くっそー‼︎」

 

 ここに来て、犠牲者を出してしまう結果を覚悟して――

 

 上空。曇天の狭間にて、得体の知れない大きな気流の刃が、ティガレックスに直撃。その衝撃波は凄まじく。

 ティガレックス、小凛、小狼の三者は、爆風に晒されたかの如く吹き飛ばされてしまった。

 

「な、なんだ! 一体」

 

 瞬く間に粉雪が舞い上がり、吹き飛ばされた彼の姿が見えなくなったことに、驚きを隠せなかった。

 

「な、なんだよ! おい」

 

 俺と同じく、J.Oも驚きの声を上げた。辺り一面舞う粉雪。得体の知れない一撃を垣間見。

 ティガレックスはもとより、小狼・小凛。2人が吹き飛ばされたように見えた俺は、不安になって再び走り出した。

 レイナの姿がチラリと見えて

 

「来ちゃダメ‼︎」

「え?」

 

 !っ

 

「レイナ?」

 

 親友の呼びかけに、レイナが珍しく語気を荒げて叫んだ。

 

「古龍‼︎ 古龍よ! だから、ここに来てはダメ!」

「え? 古龍って……」

 

 思わずその場に立ち止まる俺。

 信じがたい言葉を受け固まってしまう中、舞っていた粉雪が薄くなり、次第にその全容が顕になっていき――

 銀翼、ギンギラの巨躯。ティガレックスの体格とは比べ物にならない威圧感を醸し出すモンスター――クシャルダオラが、そこにいたのである。

 

「な、なぜ? クシャルが……」

 

 俺は目を疑った。疑いざるを得なかっただけに。そして、チラリと目線を脇にそれれば、そこには、胴体と頭が真っ二つにされたティガレックスの遺体が、無惨に横たわっていた。

 レイナのすぐそばにいたカデットが叫ぶ。

 

「2人は無事です。気絶はしてますが」

「え? どう言う――」

「その話はあとです。早く、こいつの気を逸らさないと――。きゃっ!」

 

 突如発生した暴風に、カデットが煽られ、その場に尻餅をついてしまう。

 

――非常にやばい――

 

 狩猟本能が切実に訴える。

 

「くっ、このままでは……」

 

 今の装備では歯が立たない。いや、それ以上に軽い一撃を受けただけでキャンプ送りは火を見るより明らかだったから。

 なんとかして立ちあがろうとするカデットの姿。しかし、凄まじい暴風の前に、まともに立ち上がれそうに見えない模様。

 

「今、行く‼︎」

 

 暴風の範囲外を迂回していけば。俺は走り出す。――とその時だ。

 

 頭部をもたげるや否や、ティガレックスの衝撃波を伴った咆哮よりかはマシではあったが、まるで奏でる冷徹な金属を轟かしたような。鼓膜を破らんばかりのドラゴンのような金切り声のような甲高い雄叫びが、大気を激しく震わせたのだ。

 

 くっ、

 

 思わず耳穴を庇い、その場で動けなくなってしまう。――と突然、風圧の衝撃波が俺を襲い。

 風速数十から100キロに及ぶような暴風。俺は紙を強風設定の扇風機で吹き飛ばされたかのように、軽く遠くに吹き飛ばされてしまった。頭が真っ白なまま宙を飛び、そして、雪面を何回か転げ回ってようやく落ち着いて。

 素早く顔を上げ、奇跡的に無傷で済んだのか? 体力ゲージに変化がないことに、少しホッとした。だが、それも束の間。素早く立ち上がった俺は、セツナ、ケインらの安否を確認すべく目を右往左往、忙しくなく動かした。

 

「ケイーン‼︎ セツナー‼︎」

 

 2人だけでなく、他の面々の名を叫んだ。しかし、舞い上がる粉雪と暴風音。クシャルの巨影に阻まれ、確認する術がなかった。

 

「くっそー!」

 

 なんとかして奴の注意を逸らすことができれば。

 

 そんなことを考えるが、現実問題、(クシャルの)全身を纏うように覆う荒れ狂う暴風の結界の前には、どうしようもなかった。

 まさに、

 

 〝手も足も出ない″

 

 そんな印象であった。だが、それは一見してそう見えるだけ。実際は、打つ手はまだあった。一か八かではあるが……。

 手早い操作でアイテム画面を開くと、閃光玉の有無を確認する。そんな最中、クシャルがこちらを振り向き――

 

 っ! まずい!

 

 直後、危機感を覚えては、奴の正面から逸れるようにその場から急いで脱出しようとした。

 巨躯が猛烈に迫る、かに見えた。その直後、頭をもたげるや、渦を巻くような暴風の鋭槍。そう言わんばかりの特大ブレスが、突っ込んで来たのだ。

 新幹線の如く突っ込んでくる一撃死を招くブレス。もはや、躱わせそうになく。

 

「くっそー‼︎」

 

 ダメで元々、俺はその場でダイブした。宙にいる間隙、その間隙を凄まじい衝撃波が、ダイブする俺を襲い――

 

 意識が一瞬で吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 クシャルの向こうにいるであろうユウトの安否が、心配でならなかった。だけど、今はそれどころではなく。

 僅かな隙を見出したセツナ達は、ノブ公の機転もあってか、奴の視界から隠れることに成功していた。

 

「皆、無事?」

 

 岩陰に隠れている仲間の安否を、念のために再確認してみる。皆が頷く中、珍しくレイナが問題提起をしてきて――

 

「でも〜、ここに隠れていられるのも時間の問題ですよ〜」

「同感ネ。この際、一旦、引き返すに限るネ」

 

 すると、セツナは

 

「それはできない。だって、ユウトが――」

 

 そこで焦る気持ちになっている彼女の肩に、そっと手を置いたのはノブ公。

 

「落ち着くんだ、セツナ。今、乗り出したとて、あの古龍を避けて向こう側に行くのは、いくらなんでも無謀だぞ」

「で、でも……」

「彼らを見るんだ」

 

 言われて、右往左往していた視線を仲間の方へと向けて、彼らの表情を一瞥。仲間の表情は、背に腹はかえられぬ様相を醸し出していた。

 まさに、判断を見間違えてはならない場面。それが、団長たるセツナにのしかかっていたのだ。

 ユウトの安否。非常に心配であったが、一呼吸するや、その焦る気持ちを無理やり抑え

 

「分かったわ」

 

 ようやく決断に至った。

 

「ありがとうネ」

 

 小凛からのお礼。他は言葉にせずとも、謝意をにこやかな笑みを浮かべて表現した。

 

「だけどよ。話映るけど、どうやってここから抜け出して引き返すんだ? 向こうは、こっちの動向を警戒しているみたいだしよ」

「まだ、見張っているんか? J.O」

「ああ、覗いてみれば分かるが、間違いなくここから出た瞬間を狙いうちにするつもりだぜ」

「え?」

 

 興味本位と言うべきか。ケインが徐に大岩を背にするJ.Oの元へと歩み寄った。

 

「ちょっと、ケインってば」

 

 危険を察知してセツナが静止を図る。

 

「大丈夫、大丈夫だって。ほんの少し覗くだけだから」

 

 そう言うや否や、恐る恐る岩陰から顔を覗かせてみせた。吹き荒れる風に堪え忍びながら、クシャルの様子を伺って見るが、

 

「影だけでよく見えんぞ」

「無理して出張るなよ」

 

 念には念を。そんなところか、J.Oは警告を促した。

 

「やっぱりよく見えん」

「もう、いいあるネン。これ以上の深追いは危険ネ」

「……そうだな」

 

 小凛の言葉を受け諦めがついたのか。これ以上、覗き見るのは断念したようだ。

 

「それにしても〜、困ったものですねぇ。一時的とは言え、ここのエリアから退避するとなると」

「……」

 

 レイナに言われて、そう言えばと置かれた現状を考えてみた。古龍の目を盗んで隠れることには成功したものの、いざ、エリア外へと脱出となると、再びリスクを冒さざるを得ない。

 それだけに、場合によっては、クシャルとの激戦も避けては通れそうになく。最悪、仲間の犠牲も。と不意に想像してしまうのだ。

 

「なにか、良い手は……」

 

 ありとあらゆる策を講じてみたりして、ぼやいて見せた。そんな中、

 

「セツナ」

「なに? パパ」

 

 何か秘策でもあるのか、ノブ公は〝彼ら″をセツナに見せた。

 

「オトモ?」

 

 と一言。

 彼女の手前、そこには、ミルク、ジャム、バター。そして、何か思うところがあるのか。考える仕草を続けているブレットの姿がそこにいた。

 

「彼らの許しを得たんだ」

「許しって? ……まさか⁉︎」

「別にいいにゃ。それに、君達とは違って、ボクらはキャンプ送りで死ぬわけでないしにゃ」

「そ、それはそうだけど〜」

 

 そこでブレットが、分析した結果を冷静沈着に滔々と述べた。

 

「計算によると、チャンスは一度キリと見たにゃ。私達が身代わりになっている隙に、団長はどこを目指すか? それも最短距離で向かう場所さえ考えてくれれば良いかと」

「ま、そうだけど」

 

 そんな時である。吹き荒れる風圧が一段と強くなって来たのを、感じ始めた。恐る恐る外を観察していたJ.Oは、催促にする。

 

「どうやら時間がないみたいだぜ。団長とやら、決断してくれや」

「わ、分かったわ」

 

 最短距離で向かう場所、それもエリア外。そう考えるとなると――

 

「あの場所、あの場所からこのエリアを脱するわ」

 

 と指を示すは、一見して崖になっている場所であった。

 

「え? あそこって……」

 

 と疑心暗鬼になるケイン。しかし、地図を開いていたセツナは、確信していた。

 

「大丈夫。ここからじゃ見えないけど、下に降りれる段差になっているのは間違いないから」

 

 そして、ノブ公は

 

「もう、これ以上は限界みたいだ。早速、そうと決まれば」

「そうだにゃ。迷っている時間はないにゃ。指示を」

 

 キャンプ送りで死ぬことはないとは言え、正直、賛成しかねる部分は多々あったが、セツナは決断に踏み切った。

 

 まさに、それは一瞬であった。だが、そのオトモ達が作ってくれた一瞬の隙が、セツナ達を新たな安全地帯へと導いたのだ。

 けれど、逃げ切ってはいない。だから、彼らは急いで何段にも連なる段差を飛び降りていく。

 恐らく後で合流するであろうオトモ達を信じて――

 

「早く、早く!」

「そう、急かすなよって」

 

 段差はきめ細かい。それもそのはずで、足場となり得る段差のサイズは、踵サイズから、ひと2人分までのサイズまでに至り。

 誤って踏み間違えれば、急勾配なだけに、あっという間に滑落しかねないからだ。

 だから、下りも遅くなり。特に最後尾にいるケインは、皆と一線を画して遅れをとっていたのであった。

 けれど、急がなければならない理由もある。クシャルの出現のタイミング。今、この状況下で遭遇したら、非常にまずいことだけにだ。

 滑落しないよう気を使い、曲がりくねった段差の坂道を下っていく。ケインの動向が気にはなってはいたが、もう少しで、下の広場に辿り着けそうだ。

 

「あと、もう少し……」

 

 クシャルの出現を警戒してか。その焦る気持ちが、言葉となって口からこぼれ落ちた。

 やがて、中間地点に。そこから、数十メートル降れば広場。そんな目前に差し掛かった。――と、その時‼︎

 

「くっ」

 

 不吉な突風が、突如としてセツナらを襲い――

 

「やばい」

 

 連なる山脈が見える方角にて、

 

 なんと! 

 

 あのクシャルダオラが、舞い降りて来たのだ。まさに、

 

 〝逃げ切れてはいなかった″

 

 その現実が、クシャルの再出現を物語っていたのだから。この状況下で攻撃されたらまずい。

 セツナは声高に叫ぶ。

 

「逃げてー‼︎」

 

 だが、時すでに遅く。段差から降りゆくセツナらを目掛けて特大一撃死ブレスを喰らわすべくして、頭を擡げるや――

 

「伏せろ‼︎」

 

 どこからともなく男の、それも身に覚えのない声が飛び込むや

 

「うっ」

 

 ピカ――‼︎

 

 グギャー‼︎

 

 一瞬、それはまさに一瞬の出来事。ブレスを放つ刹那、風圧のバリアが途切れたタイミングで、どこからともなく舞い込んだ閃光玉が弾けたのである。

 

「ま、眩しい……」

「な、なんだよおい!」

 

 他の者も同様、各々が身に覚えのない事態に直面して、困惑の声を論った。景色が眩い光に包まれる中、またしても声が聞こえて――

 

「こっちだ! こっち」

 

 誰? 誰なの?

 

 それは、下から声が聞こえて来て。まるでセツナ達を窮地から救わんとするような声だった。

 導かれるように、不意にもう一段、降りようとして――

 

 ズルッ

 

「なっ」

 

 足を踏み外し、そのまま急勾配を滑落してしまう。

 

「な、な、な、な、た、助け――」

 

 直後、広げていた手を誰かが、

 

 ガシッ

 

 力強く掴んでくれた。まさに間一髪。その先は崖だっただけに。急死に一生を得て

 

「あ、ありがとう。助けてくれて――、え?」

 

 そこには、誰とも知らない狩人がそこにいて。セツナの腕を掴んでくれていた。

 

「危なかったな、嬢ちゃん」

「あ、ありがとう……」

 

 鉄兜をしているだけに、その素顔は定かではなく。しかし、口元はイタズラっぽいような笑みを見せていた。

 引き上げられ、窮地を脱すると、そこにはいつもの団員と団員外のケインらの姿。そして、先程助けてくれた謎の狩人と、もう1人のガンナーが、そこにいたのであった。

 

「初めまして、かな。俺んちの名は、ビックス! アルカディア解放軍・派遣調査隊の一員さ」

「派遣、調査隊?」

 

 (これは、一体……)

 

 戸惑う以外、他になかった。

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