難を逃れたセツナは、ユウトの安否が気掛かりではあるものの、他のメンバーが無事なことに、僅かばかりホッとした。
セツナ以外のメンバーは、ビックスの相棒――ウェッジによる機転により助かったとのことだそう。
しかし、お礼を述べたものの、当の本人は緊張してか、黙したままだった。
「それにしてもよ。あんたらは何故、この山脈に?」
素朴ながら、J.Oが問いかけてみた。すると、ビックスはヘルムを取り外すや、トレードマークの赤いバンダナを靡かせて答える。
「俺らは。なんて言うか……、調査名目で来た、てことかな。今後、本格的に対峙するであろう古龍に向けてな。……そうだろう? ウェッジ」
すると、ヘビーボウガンを折りたたみ収納し始めるところであったウェッジが、一言
「ああ」
とだけ返事した。
「そう言う訳なんよな」
「へぇ〜。それで、この山脈に?」
と、今度はケインが、そう言葉を投げかけて。他方、ここら辺でノブ公は、耳打ちするようにセツナに話しかけてきた。
「セツナ、噂通りだとしたら」
「あり得るわね」
丁度、そう解釈するのも無理がなかったと思っていたところではあった。と言うのも、セツナとノブ公は、フラヒヤ山脈に入山する数日前、ビックスが所属しているとされる猟団――アルカディア解放軍の動向を、ギルドを介して知り得ていたからである。
けれど、それ以前に、噂としては聞いていたこともあってか、なんとなくだが、猟団自体の存在は知っていた次第であった。が、存在が明確となったのは、つい最近と言う訳であり。
そして、アルカディア解放軍は、高難度クエストに向けて、最大の脅威である古龍について、動き始めた情報を予めキャッチしていたのであった。
セツナは推測してみせる。
(調査に来たのは、彼らだけではないはず。それも、複数の猟団が現地入りしているかも知れないと)
「で、どうするんだ? あんたらは」
装備の手入れに入ろうとしていたウェッジは、セツナ達に対して、今後どうするのか? 尋ねて来た。
「どうするも何も〜、セツナ。……あ、いや、この場合は団長か。団長、どうするんだ?」
「別に、セツナでいいよ。そんな堅苦しい団でないし」
「そうすか……」
で、ケインからの問いに対して
「ウェッジだっけ? あたし達は、離れ離れになった友人を探すことには変わりないわ。ただ……」
そう述べてからに、ふと、その流れから外の景色を見た。未だに吹雪が止む気配もなく。また、いつ現れるか分からないクシャルに、どう対処してよいか、悩ましい限りの現実が横たわっていた。
そんな時である。ビックスが気前よく提案して来た。
「なんなら、俺らと共に同行しないか?」
――とそこで、ウェッジが
「おい、それは――」
しかし、
「別に構わないじゃないか。いくら軍律が厳しいとは言え、困っている団を助けない理由がある訳じゃないし」
「それはそうすけど……」
そこへ、ミルクが
「にゃにか、よくないことでも?」
すると、ビックスが事情を話して
「いや〜、めんどくさい話。うちの軍律厳しいんよね。俺んちは、その辺、ある程度、なあなあにした方がいいと思うけど、なにせ、軍を統率している団長が、なにも完璧主義だからさ」
「おいビックス、分かっているなら――」
だが、
「気にしすぎだってよ、ウェッジ。このクエストに例の団長が来ている訳じゃあるまいし。いないのに、敢えて気にするのもアホらしいぜ」
「……うちは知らんぞ」
「はいはい。……で、どうするよ? あんたらは」
改めて問われ、先のやりとりを踏まえてセツナは考えた始めた。別に参加に入る訳ではないし、それにクシャルダオラが現れた以上、少しでも欲しい。
それに、合間を縫ってユウトの行方に関して手掛かりが掴める。そんな気もする。ただ……
セツナは振り向いた。振り向いて、彼ら彼女らを一瞥し。対して、ノブ公らは、自分の心境を汲んでか汲まないか、それぞれ意見を口にした。
「私は〜、別に構いませんわ。団長がそれでいいなら、と」
とレイナ。
「別に、私も構わないアル。小狼も、そうアルネ?」
「ぼ、僕も……」
少凛、それから恥ずかしながらも小声で、小狼も賛同したようだ。それから、当然、ノブ公も承諾してみせた。
だけど、賛同する者もいれば、その逆も然りで
「めんどくせ〜、のはごめんだぜ」
「J.O?」
思わず訝しみ、そのセツナをよそにケインも。ただ、彼の場合は
「俺も。と言うか、俺はともかくとして、ユウトが嫌うだろうな。あいつ、ああ見えて、他者への抵抗感がかなり強い方だから。ましてや、そちらが入っているのは、軍だろう? なら、尚更だけだな」
二人の意見。見識が違えど、これで悩みの種として現存することとなった。正直言って、全員一致にしたいところではあった。
しかし、やはりと言うべきか。そう簡単ではないことを、改めて知ることとなった次第であった。
「難しいわね〜」
今の心境が、ポロリと口ずさむ形で溢れた。しかし、意外なことにJ.Oは、渋々そうな雰囲気で言葉を返す。
「いずれにせよ、決めるのはあんただ。俺らは従うまでだがな」
「……分かった」
そして、改めてビックスと向き合うと
「そうね〜、ここら辺一帯とクシャルの動向に詳しいなら、共に行動したいかと」
「つまりは条件次第? てことで」
とビックス。
「ええ、そうなるわ」
そう、まとめて返すや、対して彼は自信たっぷりに
「なら、任せろってところだな。そう言う条件なら、クシャルの動向は不確かな部分は多々あるが、山脈一帯に関しては自信あるからさ」
張り切って答えてくれた。
それからと言うもの、ビックスを頼りにウェッジも同行した形で一時退避した場を離れることにした。
ともかく優先事項としては、クシャルの影響下から離れることが大切だからと。表口はクシャルが見張っていることを念頭に、セツナら一行は、洞窟を通って裏口へと向かうことになった。
一見して普通の洞窟と見受けした。だけど、話によれば、ビックス曰く、これはアイルーやメラルー達が築き上げた坑道らしい。それも、主に氷結晶採掘をメインとした資源採掘のためだとか。
正直言って、半信半疑ではあったが、洞窟を支えているであろう木造の支柱を度々見かけるだけに、そうなのだろう。
「て訳なのだよ」
「ふ〜ん」
洞窟自体が坑道であることを説明されたものの、そこまで興味が抱けなかっただけに、鼻返事くらいしか返しようがなかった。
けれど、オトモ達は同胞に纏わる話だっただけに、凄く興味を抱いたみたいであった。
ジャムがまず先に話す。
「坑道が作れる、と言うことは、その技術は人間から学んだと見た方が妥当かにゃ?」
すると、ビックスがその疑問に答える形で
「だろうね。ただ、実際に交流した上で学んだかどうかまでは定かではないかな」
「それはどう言うことにゃ?」
とミルク。
「考える限り、二通りあると思うんだよ。一つは直接的に、そう交流する中で。もう一つは間接的に。つまり、人間たちが遺していった物から得た知識を元にね」
――とここで、先程まで考え込んでいたブレットは、持論を展開し始め
「推測するに、前者の方が可能性が高いと見たにゃ」
「ブレット?」
「よく考えてみにゃよ。いくら賢いとは言え、流石に坑道を掘るだけの技量は無理があるにゃ。それに、
そこで、ジャムは
「じゃあ何かにゃ。この坑道は人間の協力を得て作った。その解釈と言いたいのかにゃ?」
「人間の協力と言うか、同胞達の協力で、の方が正しいにゃと」
そんな折、会話の一部始終を聞いていたビックスは、
「意外と盛り上がるね〜、君たち。坑道の件だけに」
すると、ミルクが
「そ、そんにゃことは――」
と照れ臭そうに述べて。――と、ここでウェッジが、
「待て!」
と一言。先ゆく皆を制しした。
「え? 何?」
セツナが驚きの声を。皆がウェッジに注目する中、何も言わずに彼は、ある箇所へと警戒しながら歩み寄った。
そして、その場にしゃがみ。傍目からしたら、何もないように見えるが……
「罠が解除されてある」
「え?」
とセツナ。ビックスは徐に相棒に歩み寄って行く。
「ウェッジ、何か手掛かりでも?」
「一応な。仕掛けていた痺れ罠が破壊されてあるからな」
痺れ罠の破壊? モンスターを捕獲でもしようとしていたのだろうか?
セツナは訊いてみた。
「目当てのモンスターでも捕獲しようとしていたの?」
ちらっと一瞬、こちらに目を向けては
「……まぁな。近辺に大型種がいると耳にしたからな」
え? クシャルダオラだけではないと言うことないの?
もしそうなら、種類にもよるが、まさに前途多難であると言えよう。正直、遭遇したくない気持ちだ。
「痕跡の方は見つかったか?」
「……いや、今のところは。だが、警戒するに越したことはないっす」
「そっか……」
――とそこへ、J.Oが意気揚々と
「でもよ、想像するに先のクシャルなんとかよりかはマシなんだろう? だったら、屁でもない気がするぜ」
「それ、なんの根拠ネン?」
「直感だ、直感」
「バカか、ネン」
「な、何を――」
そこへ、ケインも
「俺はごめんだぜ、二度とあんな思いは。それに、はぐれたアイツの安否が気になる。んな、正体が分からないモンスターなんか構ってられるかよ」
続けて、珍しくノブ公も
「ケイン君が正しいね。今は安全地帯を目指さないとならないが、その中でもユウト君に関する手掛かりを、並行して見つけないとならないからね」
「……分かってるよ。ちと、気合い入れようとしただけだよ」
彼に正論言われたような気がしてか、J.Oはしょげかえってしまったようだ。ビックスが言う。
「ともかく先を急ごう。まずは安全地帯に向かうことが先だからね。君たちの仲間の行方に関しても、そこで得られなくもないから」
「そうですわね」
「……はい」
レイナと共にカデットも、それには賛同のようだ。
洞窟を抜けた先、そこは先程までとは一変して、天候が良く見晴らしが良い場所だった。
まるで
「先程までとは嘘のようだにゃ」
そう、ジャムが感想を述べるくらいに。
「ひとまず、安心てか?」
とJ.O。洞窟を抜けたセツナは、ある程度歩いた矢先、振り返ってみる。坑道は山をくり抜いたような格好であり、まるでそれは、山脈を跨いだような印象が見て取れた。
つまるところ、山の反対側に出たことを意味していた。それもあってか、危険な気配も嘘のように感じられなかった。
「ビックスとか言ったっけ? その安全地帯はここからどのくらいなの?」
「ん〜。ここから先、下ったところにあるっす。見立てでは、あと30分てとこっす」
「ビックス、本当にいいのか?」
「え? なにが?」
「いや、ほら。うちらの猟団てか、軍てか。規律が厳しいからさ」
すると、ビックスはウェッジの肩にポンと肩を置き
「ウェッジ、考えすぎだぜ。それに、どの道、うちらは調査から帰還する最中だったじゃないか? 別に人助け自体、悪い訳じゃないだろう?」
「……」
そして、セツナらを見ると
「お前達、余計なことするんじゃないっすよ。あくまで、ついでなんだから」
更に付け加えれば、睨みも効かされた格好となった。不快な気分になったセツナは、文句を言いたくなり。一歩前に出ては
「あのね〜、あたし達は――」
しかし、そこで後ろから肩に手を置かれ、振り向いてはノブ公
「よすんだ、セツナ」
と一言。不快な気持ちで苛立っていたセツナは、
「で、でもー」
「気持ちは分かるつもりだ。ただ、ここは我慢だ。相手にも事情があるし、それに私達は助けられた身。そこを弁えるんだ」
「……分かったわよ」
しかし、ウェッジの言葉に苛立ったのは、セツナだけではなかったらしい。J.Oが不貞腐れたような態度で
「けっ、気に入らね〜な」
毒吐くような感じで、言葉を吐き捨てた。ノブ公は言う、セツナの代わりに
「ともかく、礼は早いが、君たちには感謝するよ。ありがとう」
すると、ビックスが遠慮がちに
「いやいや、なんの。それよりも、すまなんだわ。相棒がこんなんで」
「おい! ビックス」
「まぁ、いいから。ここは穏便に、だぞ」
「……」
「ともかく、ここにいても埒が明かない。先を急ごうか」
再び、ビックスを先頭にセツナ達は安全地帯とやらを目指した。
〝安全地帯″
と言うのは建前。そこはある種の設営地みたいな場所だった。人数はまばら。大体居ても数人程度であり、蒼天の翼みたいな小規模な猟団くらいと同等くらいでしかなく。
ビックスがやや〜と手を振れば、焚き火を取り囲んでいる3人のうち、一人がこちらの存在に気付いたようだ。
「とりあえず、そこに居てくれ」
それだけ言うと、彼は真っ先にその三名の方に行ってしまう。それから程なくして、何かを説明しているのだろうか。
身振り手振りで表現しているのが見てとれた。そんな中、ウェッジは急用を思い出したようで
「では、うちはこの辺で……」
内容までは伝えずして、何処へと行ってしまった。その直後、代わりばんこのような様相で、ビックスが頭上で丸を描き
〝来ても大丈夫″
そのようなメッセージを発し。それを目にしたセツナ達は、顔を見合わせ、やや戸惑ったあと、ビックスの方へと歩み寄った。
3人の。……いや、その場に居合わせていた者達の目線が、と言うべきか。ともかく、セツナを中心に注目が集まるのを肌で感じずにはいられなかった。
「紹介するよ。彼女らが蒼天の翼の面々さ。……で、彼らが俺ら、黒衣の騎士団の団員達さ」
「そこまで関わることはないと思うけど、一応、宜しくね」
真っ先に答えたるは、女性プレイヤー。その次に、遅ればせながら男性プレイヤーも、形式上の挨拶を。
「宜しく」
さらに、3人目も後に続いた。
「にしても、どうするんだ? ビックス」
「ん?」
「ん? じゃないよ。他の団を助けるにせよ、マルグリットさんにどう釈明するんだ? 先の話を聞いても、軍と関係ない猟団まで責任は持てないぜ」
怪訝な表情で男のプレイヤーは、未だに腑に落ちない思いを告げだ。ビックスはこれ以上、釈明するのは難しいそうみたく、彼自身も言葉に詰まりそうであった。
「だから、何回も言うけど一時的だよ、一時的。長居させるつもりはないさ」
「だけどよ〜」
そこで、セツナが前に出
「別にあたし達のことは、気にしなくていい。ただ、情報が欲しいだけで、それを得たらここら立ち去るつもりだし」
「……」
「まぁ、そんなとこさ」
――とそこへ、先に挨拶に名乗り出てくれた女性プレイヤーは、
「まぁまぁ、いいじゃないのよ。聞いていれば、黙っていればいいだけのことだし。それに〜、情報がいるんだって? 内容にもよるが、助けになれば幸いさ」
「ありがとうございます」
「……私も、何か協力できるなら」
一人を除いて、結果的に2人が協力してくれたことで、セツナとしては安心できたような、そんな気さえした。
「……2人してか、俺は知らんぞ」
2人の意見を聞いてか、否定していた男も、もはや勝手にしろ。そんな態度になってしまった。
「で、改めてだが、自己紹介がまだだったね。名前を呼ぶにしても困るだろうし。私はグレース、宜しくね」
続けて
「アランだ」
名乗ってくれた手前、2人はセツナと握手を交わす。
「あたしはセツナ。……で、彼らは、ノブ公、J.O、小凛、小狼、……そして、あたしの親友、レイナよ」
それぞれ自ら、メンバーを紹介してあげた。で、その一方、オトモ達は自分らで自己紹介したような格好だった。
友好の証。そんな雰囲気を醸し出すようだったためか、協力に否定的だった彼も
「仕方ね〜な〜。俺の名はダイクだ、覚えておけよ」
なんだか不貞腐れながら名乗ったような。そんな気がしたが、ともかくこれにて、簡単な自己紹介は終わった。
「で、それで得体情報って?」
本題に入るに辺り、グレースが尋ねてきた。
「え? あー。えーと、端的に言うね。つまるところ、仲間が逸れたの。ビックスとウェッジがいた他に誰かいないかと」
「え? それは〜。……ビックス、それに関しては、あんたがよく知っているんじゃない? 私らはここでの待機組みたいなものだし」
「ん〜、そうだね」
上の空、何かを思い出すような仕草を見せる。
「聞いた限りでは、調査隊としての俺とウェッジ。あとは、別働隊で猟団がきていたはずだね。確か、名前は……。グーク響奏局、だったような」
「じゃ、決定ね。その猟団の面々と逢えれば、ユウトに関する手掛かりを得られるわ」
しかし、浮かれているのも束の間。そこで、ブレットが指摘する。
「待つんだにゃ」
「ブレット?」
「まだ、それだけでは確証は得られにゃいな」
「え? でも、他に手掛かりとなるものは」
「確かに、手掛かりにはなるかもにゃ。ただ、その猟団がどこに向かったのか? にもよるにゃ。万が一、セツナ達とビックスらが出会った場所からだいぶ離れていたとしたら、それこそ待つだけ待って、結局、無駄骨に終わる可能性だってあるにゃ」
「え? じゃあ、無駄ってこと?」
そこでレイナが、困り始めていた親友に助言を
「もう少し、情報がないか聞いてみては〜? ……ビックスさんでしたっけ?」
「え? は、はい」
「その〜、グーク響奏局、でしたっけ? その猟団とは、行動を共にしてたりとかしてませんでしたか?」
「行動を共に、ですか? ん〜、行動を共にしている訳ではないけど、あの猟団はクシャルの追跡が名目だった筈だから、俺とビックスより遅れて、あの場に来てる筈だな」
「てことは……」
と小凛に、セツナは即決。
「なら、決まりね」
けど、ブレットが
「待つんだにゃ。遅れてくると言っても、ユウトと合流しているかどうか定かではにゃいな」
そこでケインが
「でも、他に有力な情報はないぜ」
「確かに〜」
頭では分かっているのかも知れないが、ブレットとしてはどこか納得しないように見えた。
「そうと決まれば〜、そのグーク響奏局の皆さんと合流するに越したことありませんね」
「でもよ、すぐには行けそうもないぜ。まずは腹ごしらえ、それからだ」
「は〜、そうね。J.Oの言う通りだわ。少しだけ厄介になってもいいかしら? 休んだら、あたし達は、ここから引き上げるつもりだから」
「俺は構わないぜ。な〜、ダイク?」
「仕方ねぇ〜な。アランがそう言うなら」
「私も構いません。無理に先を急ぐよりかはいいと思うので」
「ありがとうございます」
3人の許可を得たセツナ達は、彼らの邪魔にならないような場所を探した後、休息をすることにした。
ただ、その場所は焚き火から離れた場所。寒さでひもじい思いをしているであろうセツナ達を見かけた者達が数人。彼女らへと歩み寄って来た。
「な〜? あんたら。せっかくだし、俺らと一緒に温まらないか? 寒いだろう?」
「え、でも〜。ウェッジって人から、あまり厄介になるようなことはするな! 的なこと、言われたし。だから――」
しかし、その者は
「別に気にしなくていいよ。あいつは堅物すぎるだけなんだし。それに、団長も不在なんだしさ」
「……」
それを言われ、悩む。正直、悩んだ。本当に言葉に甘えていいものかを。しかし、そんな時である。
ケインがしゃしゃり出て来ては――
「じゃ、早速、お言葉に甘えようかな?」
「ちょ、ちょっと、ケインってば」
と、慌てて制止してみれば、ケインは開き直ってからに
「別にいいじゃんかよ。それに、長居するつもり、ないんだろう?」
「そ、そうだけど……」
「じゃ、何か? 断る理由でも? それに、皆も同じだろうと思うけど、ここにいても寒いだけだぜ」
「……」
皆を一瞥してみた。一瞥してみて、それから――
「あーもー! 分かったわよ。じゃ、お言葉に甘えて――」
しかし、
「なに怒っているんだが……」
自分の心境を理解できていないケインは、理解に苦しんだようだ。セツナとしては、あまり厄介にならないように。それも、黒衣の騎士団団長の顔色を伺って(会ったこともないけども)相手方に迷惑をかけたくなかっただけに、だ。
それだけに、ケインに問われ、渋々、お言葉に甘える格好になった訳である。
セツナはため息をついた。それも、〝仕方ないね″そんな言葉を自分に言い聞かせるように。
焚き火に暖まってから暫く、先程の苛立ちもいつの間にか嘘のように消えていた。今思えば、無理に遠慮する必要なんかなかったのかも知れない。そんな気がしていた。
バチバチバチ……
燃える木が軋むような、そんな焚き火から奏でる音を聞けば、どことなく心が和む。
「さっきとは表情が違うな」
とJ.O。
「う、うるさいわね」
照れくさいだけに、顔をやや赤る。気がつけば夕暮れに差し掛かっていて。ふと、ユウトの身を案じれば、大丈夫かな〜、と心配になる。
「それにしても、この先、どうするか考えないとな。ユウトと再会した後のことも」
とノブ公。
「……うん、でも、今は彼のことでいっぱいかな。猟団の将来なんて、考える余裕ないし」
「まぁ、すぐすぐではないさ。ユウト君と再会してからじっくり考えればいいさ」
「ありがとう、パパ」
一方、ケインはと言うと……
ちら、ちら、ちら、と時折だが、J.Oの方を気にしているように見えた。そのことに気付いたJ.Oは問う。
「なんだ? ケイン。気になることでもあるのか?」
すると彼は
「あ、いや、なんて言うか。やっぱり気になってよ。その〜、なんて言うか、お前の素顔が見えないだけによ」
ふと小耳を挟んだセツナも、ケインの疑問には確かに共通するとこはあった。未だにブルファンゴフェイクで素顔を隠しているだけに、彼の素顔が知りたい。
自然的な気持ちでそう感じていたことがあったからだ。でも……
「残念だったな、ケイン。こいつは訳ありで脱ぐことは出来ないからな」
「訳、あり?」
「そうだ。訳あり、でな」
「じゃあ、その訳ありってなんだよ?」
「それは〜、……秘密だ」
「秘密? 素顔と言い、その理由も秘密ってか? そう言えば、朧げながら思い出してみたけど、お前、フェイクが外れかかった時、頭がなかったような〜」
直後である。突然、J.Oは何かを必死で隠すように、慌てて声を張り上げた。
「だー‼︎ ケイン、そこまでだ。そこから先は想像するな! 何も喋るな」
「え? な、なんでだよ? 事実じゃないかよ、それ」
すると、周りも流石に気になったのか、ケインの次に小凛が意地悪っぽく笑みを浮かべた。
「さっきから聞いていれば、確かに気になるネ。J.Oの正体を」
両手をわさわさしながら、歩み寄って来る。危機感を浮かべたJ.Oはやや仰け反りながら
「お前もか? 小凛。先程言ったが、これには訳が――」
と、その直後である。いつの間にか背後へと回り込んでいたケインが、彼を羽交締めに。ガシッと力強く歯がいじめにするケインは、
「つ〜か〜まえ〜た」
となんだか楽しみながら、J.Oに語り掛けたのである。
「や、やめろケイン。放せー! 放すんだ!」
「でかしたネン、ケイン。これでようやく――」
悪戯な両の触腕が、彼のフェイクに宛が割れ――
パカッ
やや外されたかに見えた。その直後、得体の知れないものを見たかのように
「ひっ! あ、頭が」
「え?」
黄色の悲鳴をあげて、素早くJ.Oから離れたのである。彼女が驚いたことに、気を取られてしまったケイン。
その直後、その一瞬を突いてか、J.Oは羽交締めしていたケインの腕を力強く鷲掴みするや、
「せーい‼︎」
「のわ!」
背負い投げをお見舞い。地面に叩きつけられたケインは、ぐはっ、と苦悶を浮かべては、すっかりと伸びてしまった。
「ったく、だから言ったじゃないか? 訳ありでフェイクを外すわけにはいかないと」
しかし、その言葉は小凛には届かなかったようで、
「あ、頭が、頭が、頭が、……」
信じられないものを目に焼き付けてしまったかのように、表情を青ざめながらぶつぶつと呟く始末であった。
一方、セツナはそんな小凛を見てか、
一体、J.Oの何を見たのか?
頭が、どうしたのだろうか?
そんなにやばいものだろうか?
そのようにして、色々と逆に気になってしまうような。しかし、やっぱり見ない方がいいのだろうか?
そんな風にして、複雑な心境を抱くに至ってしまった。
「ま〜、なにわともあれ、人の嫌がることはせん方だな。2人とも」
一部始終を見ていたのだろうか? ノブ公は、やれやれ、と言わんばかり、ケインと小凛に忠告したのであった。
ノブ公を中心として、人数分、こんがり肉を焼いた後、各々が焼き立ての肉を美味そうに頬張る。
その光景は、ある意味での和やかな団欒であり、熱々のこんがり肉が全身を芯から温まらせ、寒さを和らげてくれる。
それぞれが一言、感想を口にしていく中、ノブ公は自分に話しかけてきた。
「それにしても、今後どうしようかね〜」
話の意図を察したセツナは、
「そうね〜。ユウトを探すにしても、〝彼ら″の協力なしでは、どうすることもできないし……」
と言葉を返す。その〝彼ら″とは言うまでもなく、ビックスら黒衣の騎士団の面々のことを指し――
しかし、かと言って、あまり厄介になる訳には行かないとなると、ん〜、あまり頼るべきでないような。
そんな気がしなくもないのだ。
「そうだな。現実的にはそうならざるを得ないだろう。事実、どのような場所を散策しているのか、こちらとしては知りようもないからな」
「だけどね〜、あまり厄介にはなりたくないのよね」
「なぜだ?」
「いや、その〜。その猟団団長のことを考えると、部外者であるあたし達は、これ以上、関わると相手方に迷惑かけるんじゃないのかとね」
「……彼(ウェッジ)の言葉を気にしているのか?」
「ええ、ま〜」
そこで、ノブ公は一息つくと
「彼の言い分も然り。だけど、情報を持っているのは、相手方の方だ。それにビックスだっけ? 協力を申し出てみればいいのでは? 彼の性格を鑑みれば、断ることはしないように見えるけどな」
「でも、それって側から見た場合でしょ? それに、面識あると言っても、あの場所からここに来るまでの間くらいしかないし」
「それでもさ。なんなら、俺が話を付けに行ってもいいんだぜ」
「パパが? べ、別にいいよ。そこまでするなら、団長たるあたしが行くべきだよ」
「別に、無理しなくても……」
「いいの、あたしが――」
そんな時である。噂をすればなんとやら。セツナ達
「どうかね? 少しは休めたかな?」
やや驚きつつも、セツナは
「え、ええ。ま〜」
と言葉を濁らした。
「なら、よかったよ」
と安心した表情を見せるや、彼の口から思わぬ言葉を
「そうだ。今後のことなんだが、君たちも来るといいよ。仲間、とやらを探すんだろう? なら、丁度いいと思って」
「え? そ、それは……」
しかし、そこでノブ公が耳打ち
「チャンスじゃないか? 断る理由、ないだろう?」
「う、うん……」
返事に困ったものの、現実的には彼の言った通りである。気持ち的には前向きにはなれなかったものの、セツナはビックスの提案を受け入れることにした。