モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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1章:激闘を制する者・7話

 ……そっと、朦朧とした意識の中、目を開けてみた。視界がぼやけていたが、それも最初のうち。

 次第に視界が良好になっていき、その代わり、凸凹とした岩のようなものが見えてきた。

 僅かばかり遅れて、ここが洞窟の中であることを認識して、ゆっくりと起き上がる。

 周りを見渡し、各地に灯され仄かな明かりが満たされた洞窟であることを再確認する。

 

「ここは一体……。確か俺は――」

 

 記憶の意図を手繰り寄せてみる。だが、霞かかっていて、イマイチ思い出せそうになかった。

 誰かが被せたのだろうか? ボロ切れのような布を取り払い、ゆっくりと寝床から起きあがろうとした。

 ――とその時、暗がりから人影が見えた。

 

「あら、気付いたのね?」

 

 暗がりから、声の主が現れる。装備は外され、私服のようなラフな格好の女が現れたのだ。

 

「私はアメリア。グーク響奏局のリーダーよ」

「グーク響奏局?」

 

 猟団の名前なのたろうか? しかし、どこかで聞いたような……。思い出そうとしている俺に、アメリアは続けて話す。

 

「その様子だと知らないようね」

「……確かに。だけど、よく覚えていないとは言え、礼を言わせてほしい。助けてくれてありがと」

「礼には及ばないわ、お互い様だし。それより、フラヒヤ山脈は1人で?」

「……いや、1人で来たわけでは。だが、自分の身に何が起きたかまでは」

「まぁ、いいわ。いずれにせよ、もう少しだけゆっくりとしていると言いわ」

 

 そう言い残すなり、アメリアは踵を返して、そのまま何処へと行ってしまった。1人残される俺は、再び記憶を手繰り寄せてみた。

 

「俺は確か、セツナ達と一緒にいた筈だが……」

 

 しかし、そこまで分かったいたとは言え、何故、この場所にいるかまでは皆目検討がつかない。

 それに、アメリアとか名乗っていた狩人。表面上は何気なく接してはいたが、どうも赤の他人。

 それも初対面となると、凄く違和感を抱かずにはいられなかった。

 

あまり、関わるべきではないな

 

 我ながら身勝手な自己解釈ではあったかも知れないが、そう感じずにはいられなく。

 

「早く、セツナと合流しなければ」

 

 すっかり居心地が悪くなった俺は、この場から立ち去るべく歩き出す。

 

 人目を気にして、そして――

 

 ボックスから自分の装備を再装備し、それからその流れで洞窟を出た俺は、天候が芳しくないのを感じずにはいられなく。

 特段、今は何も降ってはいないのだが、いかせん、曇天が空を覆っているだけに、いつ降り出してもおかしくはなかったのだ。でも、ここにはいたくはない。

 猟団名は、アメリアとかいう少女の名は、それぞれ聞いたことがある気もしたが、それでも全くの赤の他人。

 それだけに、安心して一緒にはいられそうにないのだ。ハッキリ言えば、赤の他人と馴れ馴れしくしたくない。

 そう言う心境だった。

 

〝危険は承知の上、行かなければ”

 

 一歩踏み出す手前、生態地図を広げてみた。今いる場所。そこから、周りに目印となるものを、徐々に縮小しながら目を凝らして探していく。

 しかし、等高線が入り乱れる中、目印となるものは皆無の様相。

 

「やはり、一筋縄とは――」

 

 そう呟くや、万事休すかに見えた。だけどそこで、ある方法が脳裏を過ぎる。

 

「そうだ! あの方法なら」

 

 思いつきではあるが、微かな望みを賭けて画面を切り替えた。チャット……。相手先は勿論、ケイン達。

 彼らが今、どの辺にいるのかを問うた文面を書き連ね、そして、送信してみせた。案の定、送信は成功し、あとは返事が返って来るだけとなり。

 だけど、このまま待っていても仕方ない。アメリア達の猟団が信頼できる根拠がない。更に赤の他人とはこれ以上、関わりたくない。

 そんな思いを抱いている以上、残された行動はただ一つ。自分からある程度、目星を立てて、雪山を進むしかないのだ。

 改めて地図を開く。さらに探索範囲を広げ、そして、ある一点に目が止まった。

 

「しめた! ベースキャンプがある」

 

 現在力はだいぶ離れている上、道中、谷間を通過しないとならなかったが、それでも心落ち着けるであろうベースキャンプが、そこにあった。

 そうと決まれば、早速、俺は歩き出す。

 

 次第に天候が悪くなっていく。その影響もあって、ついに雪が降り出していく。視界が悪くなりつつある中、

 

 〝進むべきではなかった″

 

 そのような後悔が脳裏を過った。だけど、今更である。今更引き返してどうなると言うのだ。

 そのような言葉を自分に聞かせて鼓舞する。それに、万が一引き返したとて、どのような面を見せればいいのだ。

 それを思えば思うほど、更々、引き返す気にはなれなかった。

 

 やがて、靄が立ちこめていく。

 

 地図を見て判断しない限り、どこを歩いているのか、一瞬で分からなくなるのは目に見えていた。

 それくらい、半径数十メートル圏内は、視界不良に見舞われていたのである。

 俺は、そこで立ち止まる。地図上に表示された現在地を基準に、あとどのくらいでベースキャンプに、その前の峡谷に辿り着けれるのか目算してみた。

 三角定規アイコンをクリックし、現在地から目的地まで、ビー、と線引き。距離を測ってみる。

 

「あと、2.5キロか」

 

 おおよそで表示された数値に落胆。気持ちの現れとして、なんだか肩を落としたくなった。

 だけど、それでもだ。それでもだった。俺は引き返すことはしない。突発的に表示されたメッセージに、ホットドリンクを飲み。こんがり肉を食した後、再び歩き始めた。

 

 それから暫くして……

 

 時折、地図を見ながら歩いていたが、正直、それでも、今、どの辺を歩いているのか分からなくなってきた。

 恐らく錯覚には違いないが、それでもこの豪雪の中を彷徨うのには十分な不安要素だった。

 冷静に考えて見れば、ここはゲームの中であることには間違いない。だけど、今となっては、それも曖昧であり。ここが現実(リアル)のように思えてならないのだ。

 側から見れば今更なんだろうけども……。事実、キャンプ送りになれば、それは即ち死を意味していて。

 だけど思うに、

 

寒さでキャンプ送りになることだってあるのだろうか?

 

 試していない、試したくもない。そんな疑問が脳裏を過ったのである。

 

「まさかな」

 

 半信半疑だけに、そう呟いてみせた。

 

 それから更に時を経て、豪雪とホワイトアウトにより景色全体が白く塗りつぶされた後――

 

 吐息が、ある種の蒸気みたく白煙となって現れるのを、ただただ歩きながら見つめる俺がいて。

 ホットドリンクを飲んだばかりとは言え、そこで立ち止まれば、一瞬で凍死しそう。そのくらい身に染みる寒さに襲われていた。

 

「もう、そろっとなんだけどな〜」

 

 心細い中、再び地図を広げてみせる。手元ですら見えにくくなっている中、現在地を示すアイコンを探して――

 ――と、その時である。

 

 っ!

 

 何処からともなく気配を感じ、本能的に警戒心を抱いて立ち止まった。周りを見渡すが、当然ながら何も見えず。

 そうこうしているうちに、

 

 ノシッ! ノシッ! ノシッ! ノシッ! ……

 

 雪を踏み締めるような。更に言えば、重みを加味したような。そんな不気味な足音が聞こえてきた。背中に背負った大剣の柄に手を当てがい、謎の気配の方向を探ってみせる。

 空気を通してくる足音。間違いない、大型種だ。やがて、真っ白な景色の向こうから、黒い巨影が見えてくる。

 いつでも攻勢に出れるよう、集中力を研ぎ澄ませて――とそこで、先に動いたのは、相手からだった。

 ドスの利いたような雄叫び。同時に、巨体が強襲して来る!

 

 ぬ!

 

 攻撃範囲から逃れるように駆け出し、横切るように楕円を描いた。直後、姿を現し、先程までいた場所に巨躯が押し寄せる。同時に、その正体が明確となり――。

 その姿は、白い被毛に兎をモチーフにしたらしい黒い耳が特徴。別名、白兎獣こと、ウルクススだった。

 ソリのように滑走しながら舞い込んできたウルクススは、再び白い景色の中へと溶け込む。

 背後を取り反撃に出るはずが、見失っただけに迂闊に手が出せず。防戦に周りざるを得なくなった。

 舌打ちをし、仕切り直す。一瞬の油断も許されない中、再び気配を読み解いて――

 背後から滑走音。俺は振り向きざまに、その場から跳躍しようとした。だが、一歩遅く。

 

 くっ

 

 突然迫る巨影に、思わず大剣を使って防備に徹する羽目になった。直後、

 

 ガギギギギギ――ン―……‼︎

 

 巨体が激突した。歯を食いしばり、そのまま後退りながら威力を逸らそうと角度を変えようとするが、

 

〝できない″

 

 全くと言って良いほど踏ん張りが効かずして、逸らすことが出来ないのだ。そのまま押されていく。

 

 ぐぬぬぬぬ……、このままでは――

 

 視界不良の中、どこまで行ったら崖に行き当たるか分からない。その恐怖が焦りを生み出していく。

 

 なんとか体勢を立て直さなくては

 

 押されていく中、強引に足捌きをしようとして――

 

 ぬあ!

 

 当然ながら、攻撃範囲から逸れたものの、その場でバランスを崩してしまった。だが、それだけではなく。捌いた左脚を捻ってしまい捻挫状態に陥ってしまったのである。

 ウルクススは再び姿を消す。

 

「な、なんとかこの場から離れなければ」

 

 とてもじゃないが、この修羅場はあまりにも不利だと悟った俺は、一目散に離脱することを優先しようとした。

 すぐさま立ちあがろうとして――

 

 う!

 

 左足首に激痛が。当然ながら、立ち上がることは叶わなくなった。

 

――捻挫状態――

 

 初めて知る状態異常、これまで酷いものとは。

 

「ふ、不覚だ。これ程とは」

 

 だが、それだけでない。こんな動けない状態で先程のような攻撃を受けたら――

 無防備の中での一撃。どのくらいのダメージを受けるか分かったもんじゃない。俺は必死で痛みを堪えながら立ちあがろうともがき始める。

 

「なんとか、この場から離脱せねば〜」

 

 しかし、システム上ゆえに、捻挫状態は伊達ではなく。俺の意思を捻じ曲げるが如く、立ち上がらせてはくれなかった。

 

 ならば、這ってでも

 

 匍匐前進でその場から離脱しようと転じようとした。直後、猪突猛進の如く、ウルクススが姿を現して。

 その光景を捉えた俺は、大剣を盾にしたが――

 

 バキ――ン―……‼︎

 

 うぼ‼︎

 

 ガード虚しく、強い衝撃と共に俺は吹き飛ばされてしまった。弧を描くように、数メートルは吹き飛んだんじゃないかと思われる。それも、車に思いっきり轢かれたかのような感じに。

 粉雪を舞上げ、何回も何回も雪上を転げ回った。

 

「う、ううう……」

 

 呻き声を上げながら、ゆっくりと視界を開き。そこで目に入って来た体力ゲージに目を見張った。

 

「な、なに⁉︎」

 

 驚愕するのも無理もない。無防備のまま直撃を受けたこともあってか、体力ゲージが残り3割程度しかなかったのである。

 

 防御無視かよ

 

 苛立ちと焦りが募った。よろよろと起き上がり。しかし、捻挫状態からの強打の影響もあってか、体の自由が効かなかった。

 

「は、早くこの場から……」

 

 もはや、ウルクススを相手にする余裕はなし。一刻も早く修羅場から脱するべく、両手を使って俺はもがいた。

 

 万が一、逃げきれず次の一撃を受けたら……

 

 想像するだけで背筋が凍てつくような、そんな恐怖を覚え。生還するべくして――。

 だが、それもどうやらここまでのよう。背後からの視線を感じて、思わず後方を向いた。 

 ウルクススの巨体が、そこに、ずどーん、と立っていたのである。

 

 〝逃げきれない″

 

 キャンプ送りを覚悟する中、ウルクススは完全に俺を仕留めようと振りかぶって来て――。

 

 バビューン‼︎

 

 っ!

 

 濃霧を切り裂いて、何かが飛来。ウルクススの左肩に命中するや、直後、小爆。不意を突かれたウルクススは、その場で仰け反りざるを得なかった。

 正体を垣間見た訳ではない。だが、特徴からして、拡散弾の一種だと思われた。一時的とはいえ、仰反るに至ったウルクススは、注意を逸らす。

 唸り声を上げ、濃霧の向こうを見据える白兎獣。だが、弾丸は一発だけではなかった。

 遅れて次々に投擲物が降り注ぐ。弾丸だったり、矢だったりと……。

 

 そして

 

 姿なき敵の猛攻。堪え兼ねたウルクススは、その場から逃げ去ってしまった。他方、そんな光景に呆気に捉われていた俺は、一言。

 

「た、助かったのか……」

 

 本当は安堵すべきなのだが、正直、唐突な出来事だっただけに、戸惑いを隠せないでいた。

 そんな中、濃霧の中から声が

 

「やったかな?」

「なんとも……」

「あれくらいでは、仕留めた訳ではなかろうて」

 

 聞いた限り、少女と青年。それに、もう1人は、老人? そんな声達がだった。やがて、彼らが濃霧から姿を現し――

 

「あ〜あ、やっぱり逃げたじゃん」

「ん? プレイヤー? 大丈夫か?」

 

 それから、僅かばかり遅れて、老齢の狩人が姿を現す。

 

「2人とも、早すぎるんじゃて。……ん? 君、大丈夫かい? 見た感じ、負傷しているようだが?」

 

 息が上がっているのか? 上下に肩を動かしながら息をしていた老齢の狩人は、自分の存在に気付いたようだ。

 気付けば、少女と青年、それに老齢のお爺さん? 3人が一同にして、自分に目を向けていた。

 

「あ、ま〜。そんなところです。てか、……ありがとうございます。助けてくれて」

 

 それに対して、少女は照れ臭そうに

 

「べ、別に助けたつもりじゃないもん」

 

 そっぽを。そんな彼女に、老齢の狩人は

 

「これこれ、初対面の人にそんなことを言うでないぞい」

 

 そして、青年の方は

 

「別に礼には及ばないさ。それより、事情を訊きたいところだが、その前に、体、動けそうか?」

 

 そう言いながら、片手を差し伸べて来た。体の方……。改めて自分の状態に目を落としてみる。

 目の前に表示されていた状態異常(捻挫)は,未だに表示されたまま。なんとか立とうにも、やられた脚が障害となってできそうになかった。

 

 くっ

 

 思わず、歯を食いしばる。

 

「む、無理せんでいいぞ」

「そうですよ」

「……」

 

 今の体の現状と青年と老齢の狩人、2人に言われたこともあり、返す言葉がなかった。

 

「兄、仕方ないから」

「分かってるさ」

 

 〝兄″と呼ばれた青年は、妹らしき少女に言われ、徐に歩み寄って来た。

 

 っ!

 

 反射的に身構え、それ以上、近づくな! そんなサインを出してしまう。無理もない。見ず知らずの他人、何をしでかすか分からないだけに警戒したのだ。

 

「おいおい、何もしねぇよ」

 

 しかし、

 

「あ、あんたらの素性が知れないんだ。近づくなよ!」

 

 警戒心、バリバリだけに、思わずそんな暴言的な言葉を吐いてしまった。青年は差し出した手を引っ込め、頭を掻く。

 そこで、老齢の狩人は青年に対して、何かを耳打ちしたようだ。瞬間、ハッとなり――

 

「そ、そうだよな。すまない、自己紹介が先だったな。俺の名は竜騎。グーク響奏局のメンバーだ。よろしくな」

 

 そして、竜騎は目線で少女に合図して、彼女は慌てたように

 

「わ、私はアオバ! 見ての通り、ハンター、よ?」

「それ、言わなくてよくね? 格好からして、一目瞭然だし」

「う、うるさいわね。兄こそ、いきなり見ず知らずの人を助けようなんて、正直、ドン引きしたし」

「う、うっかりだよ、うっかり」

「へ〜」

「……」

 

 そこで、

 

「まぁまぁ、2人とも」

 

 と場を和ませるや、改めて自分の方に目を向けて

 

老龍(ラオロン)だ。2人と同じく、猟団の団員じゃて」

 

 そして、自分の番。素性を話してくれたこともあり、やや話しやすくなったとは言え、どことなく警戒しながらポツリと一言。

 

「ユウトだ」

 

 それだけに留めた。

 

「なんだ、言えるじゃん!」

 

 といアオバ。そんな軽口を叩いてしまった妹に、竜騎は慌てて

 

「おい!」

 

 ツッコミを入れた。何よ! そんな風に反発するアオバは、兄である竜騎と歪みあってしまう。

 そんな中、老龍(ラオロン)は、柔らかそうに問いかけて来る。

 

「事情はともかくとして、動けないのならワシらが肩を貸すが、どうじゃ?」

「い、いや。これくらい……」

 

 だが、強がってはみたものの

 

 ちっ、

 

 舌打ち。どうしようもないことに苛立ちを募らせた。

 

「無理せんでいいぞ。それに、自力で歩くにせよ、この吹雪じゃ。だから――」

 

「……分かりました」

 

 仕方ないのかも知れない。不本意ながら、俺は彼らの手を取ることにした。

 

 それから程なくして、元いた洞窟より――

 

 何か文句の一つや二つ、言われるのを覚悟していた自分がいた。でも、実際は意外であり。心配していたことは言っていたが、無事に帰って来られたことに、安心した様子だった。

 

「ともかく、安静にね。その体では、当分、登山は無理だから」

 

 それだけを言い残し、アメリアは去っていった。だが、ちらっと表情を見ただけなんだが、非常に悩んでいる様子を垣間見せていた。

 特に何も、これと言って言われた訳ではなく。だけど俺は、そんな彼女に罪悪感みたいなものを抱いていた。

 それだけに、横になりながら。それも壁に向かって珍しく、自問自答を繰り返す自分がいて。

 

 ここにいるのは居心地が悪い。だけど、だからって1人で出歩くべきではなかったのだろうか?

 いや、そんなことは……。だが、しかし――

 

 そんなことを頭の中で繰り返していたのである。けど、結局のところ、結論には至りそうもなく。

 それ以前に、自分の気持ちとは裏腹に、皮肉ながら、現状、動けそうもなく。

 

「考えても仕方ないか……」

 

 俺はこれ以上考えを巡らすことを辞めるに至り。そのまま、微睡の中へ意識を鎮めることにした。

 

 

 翌朝――

 

 すっかり体の調子が戻っていた俺は、寝床からスクッと起き上がった。周りから忙しなく聞こえてくる雑踏に、耳を傾けること勿れ。このまま1人で洞窟の出口へと向かう。

 外から差し込む光の向こうへと抜けた俺は、昨日までの悪天候が嘘のように晴れていたことに、どことなく安堵した気持ちになった。

 そんな中、

 

「また、一人で行く気?」

 

 後方から声が聞こえてきて――。聞き覚えのあるような声に導かれるようにして、振り向いた。

 

「えーと、確か〜」

「アメリアよ」

 

 それから、彼女は自分の方へと歩み寄る。

 

「ん〜、いい天気ね。外出するなら打ってつけだけど――」

 

 そう言うや否や、自分の方へと顔を向ける。何が言いたいのか、直感的に分かった俺は

 

「別に行かないよ」

 

 と否定した。

 

「なら、安心ね」

 

 アメリアの表情が、どことなく和らいだような錯覚を抱く。そんな中、敬語とそうでないのとで、てんでんバラバラな感じで緊張はしていたが、聞きたかったことを聞いてみることに。

 

「一つ、質問していいですか?」

「なに?」

 

 一拍置いて

 

「これから、どうするつもり、ですか? この山脈にいる辺り、なんとなくだが、ただ、クエスト受注した訳ではなそうみたいだし」

「……察しがいいわね、そんなところよ。……そうね〜、今のところ収穫はあったようでなかった感じだし、一旦、合流地点に引き返そうとかな」

「収穫? 合流?」

 

 なんとなくだが、その二つのキーワードが気になった。後方から声が聞こえて来る。

 

「団長、準備できたよ」

「オッケー。なら、早速だね」

 

 声の主が気になり、俺は振り向く。そこには、昨日とはまるで違う装備をしたアオバがいた。

 

「えーと、確か。ユウト? だったけ?」

 

 うる覚えみたいだが、きちんと自分のこと。覚えてくれたみたいだ。けど、内心は嬉しかったのかも知れないが、まだ、抵抗がある。

 無愛想を浮かべ、彼女の問い掛けに答えてあげる。

 

「そうだけど」

 

 と。

 

「なら、よかった。間違えていたら、失礼だったしね」

 

 (失礼か。……別に、どうだっていいんだけどな)

 

 そんなどうでもいい解釈にしておいた。

 

「それよりも団長」

「ん?」

「無事に合流したとして、なんて報告するつもりなの? 実際に、取り逃したとは言え、ウルクススと遭遇したことには代わりないからさ」

「そうね〜。極端な話、収穫には間違いないけど……」

 

 そこで、俺は

 

「掻い摘んだ限り、ウルクススがキーワードみたいになっているが、どう言うことなんだ? 部外者だけども」

 

 自分で言うのもなんだが、口を出す立場じゃないのに、それなのに問いかけるって、なんか変な感じがしてならなかった。

 

 〝あんたは関係ない“

 

 そんな風な返答が返って来そうな。当然のように勘繰っていたが、

 

「そうね。強いて言えば、古龍調査のお邪魔虫、てとこかな」

「お邪魔、虫?」

 

 その割には、動向に注視している風には見えた。アメリアの話は続く。

 

「マルグリットさんも言っていたけど、いずれクシャル討伐になる際に、先に巣穴だけでも特定して置かないと、片付けるにあたって二度手間になるからね。ウルクススの討伐を怠ってクシャルと対峙した際、ウルクススが後から出現して混戦。てなったら、それこそ危険だから」

「念には念を、か〜」

 

 なんとなく、理解できたような。そんな気がした。

 

「そうね。そのための調査って訳だね。……頃合いね」

 

 彼女の目線が別の方を見た。俺も彼女の目線を辿るように、そちらへと向く。揃いも揃って、準備万全と言った様相の団員達がそこにいた。

 

「行こうぜ、団長」

「そうね。ユウトさんも来るでしょう?」

「……」

 

 そう、頷く他なく。選択の余地はないのかも知れない、セツナ達と合流できるのなら。俺もまた、準備に着手し始めた。

 

 

 ザクザクザク……

 

 雪を踏みしめる足音が、無数に聞こえる。あとは、時折、山風。他はなく。それだけが、この地を奏でていた。

 昨日の悪天候とは違い、今は晴れ渡っている。それだけに、先が見通せて。前方には、山間が広がっていた。何というか、V字のように先が細ぼっていくのが、見て取れる感じに。

 沈黙が場を支配する中、先に口火を切ったのはアメリアだった。

 

「だいぶ来たけど、老龍(ラオロン)、疲れてない?」

「まぁ、今のところは。ゲームの中だけに、助かっている感じじゃて」

「なら、よかった。ところで3人とも、どの辺まで散策したか、把握できそう?」

 

 すると、竜騎は

 

「ハッキリとはしないかな、あの吹雪の中だったから。だが、少なくとも谷間付近までは来たことは確かだ。それ以上は、さすがに踏み込んでなかったような気がする」

「上出来ね」

 

 谷間付近までか……。すると、前方に見える山間まで来た。そんなところなのか。

 

 そんな想像を張り巡らす。

 

「それにしても、あのウルクスス。一体、どこから侵入したんだろう?」

「確かにのう。引き返した矢先に、遭遇した感じじゃったからなあ」

「え? それって谷間の向こうから来たんじゃないの?」

 

 とアメリアは、疑問を投げかけた。外野から、俺は耳を傾けることに徹し、その中でアオバは答える。

 

「それが、そうでもないんだよね。この景色を見渡して思ったんだけど、この場に来るのに谷間を越える以外、どうやらなさそうだし」

 

 言われて周囲を見渡す竜騎は、

 

「そう言えばそうだな。確かに山に囲まれている感じが否めないからな。だけど、それだけで侵入したことへの疑問が湧く根拠にはならないと思うがな」

 

 確かにそうかも知れない。俺もまた周囲を見渡して思ったが、開けたこの場所。そして、昨日のホワイトアウト(悪天候)を鑑みるに、最初から居たことだって考えられるから。

 ところが、老龍(ラオロン)は違った見解を示し、アオバの意見に賛同した模様。

 

「それがそうでもないんじゃてな」

「どう言うこと?」

 

 とアメリアは首を傾げ、老龍(ラオロン)は訳を話す。

 

「簡単に話せば〝気配“じゃて。こう見えても、わしの装備には気配のスキルが付与されていて、近くにいたら。……まぁ、そうでなくても、この場にいたらすぐに気配を感じるよう処置されているんじゃ。それだけに、谷間から引き返して暫く、前方からいきなり気配を感じ始めたのだから、少なくとも谷間に着くまではその場に居合わせてなかったと見るべきなんだがな」

 

 そこで、俺はようやく口を開く。

 

「つまるところ、今の今までウルクススはいなかったと?」

「そう言うことじゃて」

 

 老龍(ラオロン)の意見を聞いて、さすがに竜騎は難しい表情をして

 

「ん〜、わからんな。腑に落ちないと言うか。それだと、ウルクススは突然、前触れもなく何もないところから出没した。そう解釈しざるを得ないと言うか」

「ただ、単に気付かなかっただけじゃないの?」

 

 とアオバ。

 

「気付かない、か〜」

 

 老齢の狩人は、そんな事でもあるものだろうか。そんな風にして、しばし思索に耽り始めてしまった。

 

「まぁ、考えても仕方ないことじゃない。それに、もう、そろそろ谷間よ。どのくらい狭いか分からないけど、落雪とかに気を付けてね」

 

 先頭を歩いていたアメリアが、目の前に差し迫った谷間を見ながら皆に注意を促した。半ば下を向きながら歩いていたせいか。

 正直、いつの間にであった。

 

「道、塞がってないといいけどな」

 

 何気なく竜騎がボソリと呟き、皆がその言葉に共感の念を抱く。

 

 それから暫く歩いて、その谷間とやらの入り口付近に到着。それほど狭くないものの、大型種と遭遇したら不利な地形。

 その程度しかないような道幅が永遠と続くような気がした矢先、老龍(ラオロン)が何かを察知したようだ。後方へと振り向いた。

 

「どうした? 老龍(ラオロン)

 

 竜騎が不思議そうに言葉をかけ。そして、老龍(ラオロン)はと言うと――

 

 一言

 

「気配じゃて」

 

 その言葉に、俺たちは、一同、半信半疑ではあるものの、驚きを隠せなかった。

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