一体、どこから?
いつの間にか、背後から現れたウルクススに、俺たちは驚愕していた。もし、
けど、いつまでも動揺している場合ではない。周りと同じく、俺もまた、臨戦態勢になった。
「いい? 深追いしないこと。目的はあくまで寝ぐらを突き止めることだから」
アメリアの一声に、皆が頷き返す。とは言え、防戦一方では限界がある。できるだけ、アオバと竜騎。それから、あの爺さんに標的が定まらないよう、俺とアメリアで注意を引きつつ、時には反撃に打って出た。
そんな中、鬱陶しい限り弾丸やら矢やらの雨に晒されて続けていたせいか。頃合いを見計らって、攻撃が空振った勢いをかって、なんと! アオバ達の方へと向き直ったのである。
しまった! 注意が
予期せぬモーションに、慌て俺はウルクススの背後に一撃をお見舞いせんと食って掛かった。
「てりゃー‼︎」
だが、振り下ろすと同時に、ウルクススはダイブ。まるで、ソリで滑走するように、アオバ達の方へと突撃していった。
「2人とも、散会じゃ‼︎」
アオバと竜騎、2人の間にいた
「爺さん‼︎」
「
「くっ! 鼻っからワシを――」
差し迫った脅威に、もはや避けることなど不可避。もはや、ガードするしかないかに見えた。
無意味だとは分かっているのだろうか?
咄嗟に太刀でガードしようとして――。直後、滑走して来たウルクススが、何かを踏んづけたらしく。急激にその場で止まるや、悶え苦しみ始めたのである。
全身に磁気のような稲妻が走るのを目にして、すぐにシビレ罠だと気付く中、
「ふぅ〜、ヒヤヒヤしたわい」
「爺さん、脅かすなよ」
「すまんじゃて」
そんな中、アメリアは
「でも、いつの間に?」
手際の良さに、驚きを露わにしていた。
「ともかく、攻撃するなら今のうちだ」
「そ、そうだよ。ユウトさんの言う通り」
「え、そうね」
疑問は脇に置いて、俺たちはシビレ罠で動けないウルクススへと再びの反撃に打って出た。
やり過ぎには注意とは言え、ある程度、攻撃を与えないと危険を察知してくれない。だからこそ、敢えて全力で行かせてもらった。
その甲斐もあってか、ようやくシビレ罠から脱したウルクススは、半ば疲労困憊を醸し出していた。
解除したタイミングで、アメリアが叫ぶ。
「打ち方やめい!」
その言葉を皮切りに、俺たちは距離を離す。様子を伺うようにする中、流石に身の危険を感じ取ったのだろうか?
あらぬ方向へとダイブするや、その場から、滑走するようにして逃げ始めた。
「追いかけるわよ!」
アメリアに続いて、俺たちはウルクススの後を追う。だが、全力で追いかけるのにも限界があり。
よって、見失うのも無理はなく――。崖から飛び降りたかと思えば、遅れてやって来た俺たちは、結局、見失う羽目になった。竜騎が、悔しそうに舌打ちを
「ち、見失ったか」
しかし、アオバがある箇所を指摘。
「待って! あれは?」
俺も含めて、アオバの指差した方へと注目。その箇所にて、なにやら洞穴みたいなものを発見した。
「ふむ〜。どうやらビンゴ、ってとこじゃな」
何やら腑に落ちたように、爺さんは頷いてみせた。
「洞穴か〜」
確かめる必要があるのかも知れない。
「あ、どこ行くの? ユウトさん」
「ちょっと、確かめにな」
「あ、待ちなさい。まだ、許可した訳では――」
慌てて、アメリアが制止を促し。だが、そこで竜騎が問い掛けて来て――
「行かないのか? 団長」
「あ、いや、そうでは……」
なにか思うところがあるのかも知れない。しかし、アメリアは続きの言葉を飲み込むかのように、言葉をつまらしたようだ。
「団長?」
きになったのか? アオバが問うが……。けど、アメリアはどことなくため息を漏らすと、
「まぁ、いいわ。行きましょうか?」
俺が見つめる中、許可を下した。
崖を降りた先に、その洞穴とやらがあった。ただ、崖は険しく、一度降りたら戻って来られそうにもなかった。
後から聞いたが、アメリア曰く、一方通行だけに、洞穴へ行くにあたり警戒していたらしく。そのことで躊躇していたことを、俺たちに話してくれた。
その話を聞いてからに、確かに、今思えば、一度来たら後に引けないのは、ちょっと気が引けない感じではあるが……。
けど、その一方で、ウルクススの奴。もし、その洞穴から出入りしているとしていたなら、どこからこの崖を登って来たのだろうか?
その疑問がついて回る次第ではあった。
「足元、かなり滑るな」
歩いている最中、ここに来て立ち止まった竜騎が、足場の悪さに感想を漏らす。
「確かに、ところどころ滑るわね。
「ああ、そうじゃな。……のわ!」
ズテーン‼︎
「あたっ!」
「爺さん!」
「おいおい、返事したそばから」
「へへ、確かに危ないな。これは」
尻餅つく彼に、半ば呆れていた俺。けど、それでも歩み寄ると
「立てそうか」
と手を差し伸べた。
「悪いのう」
と面目なさそうに一言発した。その光景を前にして、竜騎とアオバ、2人から思いがけない言葉が飛び交って
「あ、優しいんだな。ユウト」
「素敵」
その言葉の前に、照れ臭くなり
「う、うるせー。当たり前のことしたに過ぎない。言われる筋合いは」
しかし、
「でも、大切なことよ。その労わる姿勢は」
「……」
アメリアに諭されたような気もして、返す言葉が見つからなかった。
「それにしても、大事に至らなくてよかったよ」
とアオバ。続けて竜騎も
「そうだぜ。これがリアルなら、最悪、骨折ものだったからな」
「すまないのう。今後とも気をつけるわい、それも念入りにな」
「そうしてくれよ」
最後の言葉に、
それから更に、奥へ奥へと進む。今の所、降りっぱなしとは言え、一本道だったが、ここに来て分かれ道へとぶち当たることになった。
「分かれ道か……」
と竜騎。
「どうする? 団長」
アオバの問い掛けに、アメリアは熟慮しているのか? すぐには反応を見せず。
やや遅れて
「二手に分かれましょうか」
「二手に? ……まー、いいけど。それだと、二、三、ってことか」
「そうね。で、メンバーは――」
4人――俺・アオバ・竜騎・
「アオバと竜騎は、
「妥当だと思うぜ」
「おいおい、年寄りを甘くみるなって」
しかし、竜騎は
「いいじゃねぇか。若者が2人いた方が安心だろう?」
「お願いね」
「……アオバが言うなら」
なんだか、どこか釈然としないような。そんな
「ユウトさんは?」
フラれて、俺は素っ気なく
「構わない。仲間の元へ合流できれば、それでいいから」
「なら、決まりね。……え〜と、あとは――」
言い出しかけていた中、アメリアの言いたいことを代弁するかのように、竜騎が先回りするかのように
「遭遇したら、手を出すな。だろう?」
「そ、そうね。話が早くて助かるわ。と言うわけで、気をつけてね」
「あいよ。爺さん、アオバ。早速、行こうぜ」
「全く、人を老人扱いしようってからに」
「老人扱いもなにも――」
3人が遠ざかる中、アメリアは声高に
「発見したら合図を送ってね」
告げるや、一方、竜騎は軽く手を挙げ返事を返した。
「じゃ、私達も」
頷くのみ、それだけを返した。
沈黙が、俺とアメリアの間を取り巻く。何というか、居心地があまり良くない雰囲気、的な。
腹の探り合い、とは違うんだけど。けど、そんな雰囲気が醸し出されていて、俺は落ち着いていられなかった。
そんな中、そのような空気を打開するべくして、アメリアが口を開く。その口調たるや、2人っきりだけに緊張しているのか。どこか、畏っているように聞こえた。
「そ、その〜。聞いてもいいかしら?」
その問い掛けに対して俺は。いや、俺もなのだが、緊張しつつ、断る理由もないだけに
「あ、ああ」
と返した。アメリアは言う。
「ユウトさんの仲間のことなんだけど、その仲間って、猟団のメンバー、なのかしら?」
「は?」
「あ、言え。ごめんなさい。少し気になったもので」
「べ、別に、謝ることでは……」
正直、あまりにも意外だっただけに、驚いたかも。だけど、そんな心境は、顔には敢えて出さなくて。仮面を被ったかのような、無表情を維持したまま平静を保ちつつ
「……そうだね。猟団、確かに猟団の仲間、だね」
と聞かれたことだけを答えるに留めた。けど、自分で言うのもなんだが、〝仲間″と表現した割には、正直、当たり障りのない仲間、程度のような。
そんな感覚でしかなかったが……。
「どんな感じなの? 雰囲気とか?」
「雰囲気って言われてもな〜」
振り返って思えば、皆、それぞれ適当に好きなことしているような。特に際立っているとしたら、J.Oくらいのような。
そんな気がしなくもなかった。
「あ、無理しなくても」
しかし、
「勝手な奴ばかりだな、ザックリ言って。裏を返せば、自由人の集まりみたいなものだし」
自由人……。ま、そうなのかも知れない。特段、厳しいルール、ある訳ではないだけに。
「ふふふ」
「笑うところか?」
「いえ、そうでなくて。何というか、微笑ましいな〜、と。……それに、羨ましいと言うか」
「ふん、羨ましいか。正直、うるさいばかりだけどな」
敢えて、皮肉って見せるのだった。
「でも、感じが良さそうで何よりね。それに比べたら、私の団ときたら……」
視線が下を向くのが見て取れたような。表情に影を落としたように見えた。
「その感じだと、訳ありそうだな」
「そう、見える?」
「こう見えても、多少なりとも、相手の気持ち、分かる方だから」
「そう〜」
相手の気持ちに敏感とまではいかないが、それでも、なんとなく的な感覚ではあるが、読めることには変わりなかった。
「変な話だよな」
「え? なんで?」
「本当言うと、俺自身、赤の他人と関わることには、強い抵抗がある方なんだよね。なのに、なんでか知らないが、相手の気持ちを汲み取ることには強いんだよ。普通なら、相手の気持ちを汲む気持ちなんざ、これっぽちも持たない筈だからさ」
「いいじゃないの」
「……なんで?」
「本当は、優しいから、じゃないかしら。優しいけど、人とどうやって付き合っていけばいいか分からない。そうだと思うから」
「……優しい、か」
「そうよ」
あまり意識したことではなかったが、相手からそう言われると、そうなのかも知れない。
腑に落ちた訳ではないのだけど。
「それに比べて、私なんか……。反対する人がいるのに、半ば強引に加盟した節があるから、ある意味、冷徹なのかなあって、思うことあるもん」
「加盟?」
「ええ、加盟。アルカディア解放軍にね。あの猟団同盟、なにかと情報が集まるから、今後の方針で役に立つと思って。ただ、向こうからスカウトされた面もあるけど、元々、猟団同盟自体、規律が厳しいから。それで」
「へ〜、なるほどね」
「今となって思うけど、もう少し話し合ってからするべきだったと思うんだよね。私ったら、団員達を守るためだからと情報欲しさに目が眩んじゃったばかりに。……は〜」
肩をすくめ、彼女自身、不甲斐なさでいっぱいいっぱいのようであった。そんな様子を見て、自然と言葉が出て
「色々と苦労しているんだな」
と。ちらっとこちらを向くや
「……ありがとう」
と礼。しかし、俺は意図したものでないだけに
「別に、慰めたつもりでは――」
否定してみせた。――とその時である。
「ん?」
アメリアが何かを気付いたらしく、その場で立ち止まって見せ。不思議に思った俺は
「アメリアさん?」
やや遅れて、彼女は
「っ! あ、ごめんなさい。チャットが来たもので」
「チャットって、アオバ達からの?」
「うんうん、本隊から。調査状況を報告してくれ。だって」
「報告って……」
「べ、別に気にしなくてもいいのよ。加盟しているだけあっての与えられた任務だから」
その言葉を最後に、アメリアはチャットへの打ち込みを手早く済ますことに、一時的に集中の眼を光らせた。
数十秒後、画面を閉じるや
「さ、行きましょう。こっちからも、何か手がかりを見つけないといけないし、ね」
気持ちを切り替えた様子で、颯爽と再び歩き始めた。ただ、俺は付いていくだけではあったが、気持ちを持ち直したのなら何よりだった。
それから、更に奥へと足を運ぶ。運んで、それでいて――
柵のように、幾重にも並んだ氷柱の隙間。そこから、波打つ小川の音色が優しく聞こえてきた頃、歩きながらふとした拍子で生態マップを広げてみた。
地図上には、案の定、小川が描かれていて。俺とアメリアがいる現在地も、すぐそこに表示されていた。
指先で、先の先、この先なにがあるのかを手繰り寄せてみる。すると、どこからか伸びてきた別のルートが接近しつつあり、更にその先にて、だだっ広い空間があることを突き止めたのである。
別のルートが、もしかすると。そんなことを予想していた矢先、再びアメリアの足が止まった。
?
何かを表示しているように見えるが……
「ユウトさん。朗報よ、朗報」
「朗報? なんの?」
「アオバ達、遂にウルクススの寝ぐら、発見したそうよ」
「お、それは何より」
寝床を見つけたか。なら、目的を果たした、ってとこか。俺としては、セツナ達と合流したかったが、ま〜、アメリアの事情もあるのだ。ついでだと思えばいい。
「じゃ、目的を果たした、ってところで、早速、合流だな」
「そうね。とりあえず、指定場所を、と」
数秒のうちに打ち込み。それから、俺とアメリアは返信が来るまでそこで待機することにした。
「あ、来たわ。……え? このルートって」
「ん? ルートがどうしたって?」
気になっただけに、アメリアの元へ歩み寄った。彼女の見ている画面を見て、驚く理由に納得がいった。
簡単に説明すれば、アオバ達の向かったルートと俺らのルートは、この先にある広間で合流していた。
枝分かれした道は、結局は小川を挟んで合流するルートだったのである。
「この分だと、引き返さなくて良さそうだな。ただ……」
アオバ達が発見したウルクススとやら。それが、この広間を寝床としているのなら、かなり厄介と見た方が良さそうな感じがしていた。更に付け加えるならば、この洞窟の出口も広間を通過しない限り辿り着けないとなると、特段的に厄介さレベルが増すことになるのは、火を見るより明らかであり――
「ともかく行きましょう」
「そうだな」
実際に広間がどうなっているのか?
或いは、
ウルクススは今、どうしているのか?
そこんとこハッキリしない。それゆえに、俺らは広間に向かって歩き出した。
広間――
その場所は、寝床であろう箇所を中心に、天井から落ちてきた、大小さまざまな氷柱が何本も地面に刺さっていたり。
また、流れてきた小川が枝分かれして、四方に分散していたり。ところどころ、大きな鉱物が散りばまれた場所であった。
標高で言えば、今いる場所から数メール降りたところ。つまり、今いる場所は、広間の全体像が見て取れる位置だった。
「案外、入り組んでいそうだな。で、肝心のウルクススは――」
探そうとする。その最中、アメリア、ある場所を指差して
「いたわ」
「え?」
指差した方向、そこを見た。遠方より、アオバ達が手を振っているのが、見て取れた。
アメリアがアオバ達と同じく手を振る。場所的には、ちょうど入り組んでそうな広場を挟んで対岸に位置していた感じであった。
「あんなところに……」
しかし、彼女らと合流するには、いずれにせよこの広間を通らないといけないことには変わりなく。
俺はまた、ウルクススの位置を探し始めた。寝床を見れば一目瞭然ではあったが、とうのウルクススの姿はない。
どこかに潜んでいることは間違いない筈なんだが……
「アメリアさん、彼らにそこで待機するよう伝えてもらえないかな」
すると、彼女も分かっていたのだろう。話が早いことに
「そのようね。伝えておくわ」
アオバが行動に移らないうちに、手早くメッセージを送り始めてくれた。
ここに来て、今回の目的について纏めてみる。今回の件は、討伐ではないこと。場所の把握だけ済めばそれでいいこと。
それだけなのだと。でも、ウルクススに発見されてしまったのなら、その前提が崩れかねない。
そんなリスクが孕んでいただけに、迂闊に広間に足を踏み入れそうになかったのである。
相手も馬鹿ではない筈。万が一見つかったのなら、あとから寝床を変えるかもしれないから。
討伐するだけなら簡単なんだけどな〜
事情が事情なだけに、歯痒い気持ちだった。
「ともかく慎重にいきましょう。いずれにせよ、寝床は特定できたので」
「とりあえずは、な」
いずれにせよ、居場所が特定できないだけに。直接、踏み入れるしかなかった。
アオバたちには待機してもらうことにした。下手に動かれたら、ウルクススに見つかりかねないから。
見つかったのなら、危険を察知して寝床を変えかねない。その点を踏まえての判断だったから。
だけど、合流したとして、その間どうする?
目指すべき場所は、洞窟の出口であることには変わりない。その上で、やるべきことは潜んでいるであろうウルクススの居場所ではあるが……
「どうするんだ?」
そう、問うてみた。
「え? どうするって?」
「だから、ここを見つからずに切り抜けるには、二手に別れるしかないだろうってこと。1人は見張り役、もう1人は道案内役と」
「そうね、確かに」
やや間を置いた後、
「なら、私が見張り役を引き受けるわ。ユウトさんは、アオバたちとの合流をお願い」
「別にいいけど」
「ありがとうね」
礼を言われる筋合いはなかったのだが、敢えてそのことは口にすることはなかった。
それから、暫く先を進む。
小川を超えて、氷柱の密集地帯付近に来て。それから、氷壁の角に差し掛かった辺りで、そこで、どことなく気配を感じた。
「どうしたのです?」
前に進もうとしたアメリアを、片手で制止した俺に問うてきた。
「気配だ。気配がする」
「気配? 近くに」
「分からない。でも、感じる」
ひとまず、氷壁の物陰に隠れつつ雪面を観察してみることに。俺はその場でしゃがんでみた。
手でそっと地面に触れてみて――
「これは、痕跡か……」
はぎ取りナイフを手にして、その地面に突き立ててみた。すると、
〝「牙獣種の足跡」を発見しました″
アイテム入手と同じく、手掛かりを入手したのである。
「やっぱりな」
勘は当たったようであった。
「やっぱりって?」
とアメリア。それに対して俺は
「痕跡だよ、痕跡。足跡だ」
「と言うことは」
「間違いない、ウルクススだな。辿っていけば、見つからずに居場所を突き止められるかも知れない」
再び立ち上がるや、アメリアを連れて歩き始めた。
それから、更に進み――
氷柱地帯の中程、獣道となっているような小道の先にて、ウルクススを遂に発見した。
序でに言わせれば、その正反対の道の先には、洞窟の出口へと繋がっているようであった。
「じゃ、先程の打ち合わせ通り。見張を頼む」
「任せて」
ここから先は、二手に分かれる。俺はアメリアをその場に残して、道を挟んだその先へと向かう。
目指すべきは、アオバたちのいる対岸。だけど、そこで俺はふと、あることを見落としていたことに気が付いた。
「しまった。
ターゲットは、いついかなる時も移動する。そのことを忘れていたのだ。更に付け加えるならば、ペイントボールを当てて、目印を付けるわけにもいかなくて。
万が一、ペイントボールなんか使ったのなら、ウルクススに気配を察知してしまう可能性だって、否めないはずだった。
けれど、今更引き返す訳にはいかない。アオバ達との連絡手段は、アドレス交換した訳ではないだけに持ち合わせてなく。
ここは、アメリアに任せるしかなかった。
「……仕方ないか」
そんな思いを振り切るように、俺はアオバ達の方へと向かった。
氷柱地帯を突き抜けた先、アオバ達の姿が見えた。
こちらから手を振った方がいいのだろうか?
そんなことが、ふと脳裏を過った。――かに見えた。
「あれ? ユウトさん、1人」
先に気が付いたのは、アオバだった。続いて、彼女に呼応するかのように、竜騎も
「ユウト? 団長は?」
彼の問いに答えるかのように、素っ気なく答えてみた。
「見張り役に立った、だから俺が来た。それだけさ」
「それだけって……」
別に馴れ馴れしくつもりはない。竜騎がどう反応するかなんてどうでも良かった。
素っ気ない対応に、複雑な心境を見せた竜騎。彼に変わって、今度は
「見張り役に立った、と言うことは、(ウルクススは)見つけたんじゃな?」
「まあな。ただ、俺からはやり取りできない。だから、アメリアさんとのやり取りは、そちらで任せた」
「任せた、か。連絡交換くらいしろよな」
「兄!」
「……ふん」
「ま、連絡手段に関しては、こちらでなんとかするわい。ともかく、伝言してくれて感謝する」
「役目は果たしたからな」
その後、俺を除く三人は、チャットを使ってアメリアとやり取りをし始めたのであった。
団長こと、アメリアを見つけ、そのまま無事に合流できるかに見えた。合図を送り、アメリアはその合図に気付いたところまでは順調であったが。
しかし、いかせん。ウルクススはこちらの気配に気付きかけていたのである。
そして、肝心な洞窟の出口は、今いるウルクススから先にあって。今回の任務の肝である、
〝気付かれないで洞窟の出口へ”
は、ここに来て、壁にぶつかってしまったようだ。発見されたら、警戒して、最悪、寝床を変えかねない。
この際、討伐してしまうと言う手もあるが、このゲームの使用上、恐らく俺たちがクエストから帰還した後、寝床を中心にポップアップするはず。
もし、討伐してしまい、後々、いざ、クシャルダオラ戦となった際、再びウルクススがポップアップし、あまつさえ、討伐の邪魔にでもされたら、目も当てられない事態に。
恐らくウルクススが配置されている数が〝1”で固定されているのなら、ここはクシャルダオラ戦に向けて討伐せず。
クシャルダオラ戦当日に、先に寝床と共にウルクススを片付けた方が賢明に他ならなかった。
だけど、それも確証を得た上での判断ではない。あくまで、推測の域でしかないのだが。
「くっそ、動きが読めんな」
苦虫を噛むかのように、竜騎が舌打ちした。
「無理もなかろうて。見つかってないとは言え、気配を察しつつあるのじゃからな」
「分かっているよ、爺さん」
「アメリアさん……」
少し離れた位置で、見張りをするアメリアに心配するアオバがいた。周りをキョロキョロと見渡し、落ち着く様子が一向にない。
「埒が開かない。迂回していこう」
痺れを切らした竜騎は、そう提案した。しかし、
「え? そんなことできるの?」
アオバが問い掛ける。
「そんなことって。別にここから先へ行かなくても、他に道がありそうだからさ」
確かに。氷柱地帯で唯一開けているこの一本道を無視すれば、それに越したことは無いのかもしれない。
その代わり、道なき道を進むだけに、足場は悪くなるのは致し方ない面はあるが。
そんな中、見張りをしているアメリアからメッセージが入った様子。受け取ったであろうアオバから、俺らに伝えて来た。
「団長から。〝ここは一旦、引き返そう”だって」
「引き返そう、か。と言うことは、別の道を模索すると言うことじゃな」
「仕方ないな。そう決断するのだったら」
三人は団長たるアメリアの決断に、少しばかり落胆した様子だった。返事を返す。アメリアが受け取り、それで持って、こちらへとウルクススに勘付かれないよう警戒しながら引き返して来た。
「無理強いはできないわ。ここは一旦、引き返しましょう」
アメリアの決断の前に、俺を除く4人は、その場を後にしようとした。
「? ユウトさん、どうしたんですか?」
そこに踏み止まる俺に、アメリアは問い掛けてきた。俺は応える。
「いや、別に迂回しなくてもいいんじゃないのかとね」
「え? どう言うこと?」
俺の意味深な言葉を前に、竜騎・アオバ・
「ようは、注意を逸せばいいってことだろう? だったらさ――」
言いかけて、足元を見。何も無いと判断し。それから、アイテム欄を開いては、ペイントボールを取り出して見せた。
「一体何を?」
俺の行動を理解できないアメリアが、警戒心露わに。構わず俺は、その答えを解き放つ。
「これで、一時的とはいえ、注意を逸らすってことさ!」
「ちょっと!」
制止を待たずして、俺はペイントボールを投げたのであった。その投擲方向は、氷柱地帯の中へと。
べちゃ!
潰れたような音を立てた。途端、辺りを警戒していたウルクススは反応を示し。音がした方向へと。
バキバキバキバキ……‼︎
沢山の氷柱を破壊しながら走り出したのである。
「な、これで解決だろう?」
「え? ま、ま〜。そうね」
戸惑ってはいたが、アメリアは俺が作った活路を生かすように、そのまま洞窟の出口へと目指すよう指示を飛ばした。