モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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1章:激闘を制する者・10話

 泥沼の底からゆっくりと這い上がるかのように、意識が浮上していく。小さな呻き声を上げて、微睡の中から次第に覚醒。視界がぼやけていたが、数秒を経てハッキリとしていく中、

 

「ここは?」

 

 薄暗く、無機質な部屋がそこにあって。周りを見れば、窓は一つもなさそう。密閉された部屋であることが、一目で分かった。椅子に座っている状況に、立ちあがろうとして――

 

 ガシャリッ!

 

 え?

 

 立ち上がることは叶わず。それどころか、両手を背に縛られていて身動きが取れない有様だと気付かされた。

 そんな状況。篠崎博士は、ようやく誰かによって拘束されている現状を把握できた。

 拘束している物。両手の感覚から察するに、手錠の類だろう。いずれにせよ、自力で拘束を解くのは無理なようだった。

 そんな中である。どこからともかく声が、それも変声器を使ったかのような、吃ったような男の声が聞こえてきた。

 

「お目覚めかね? 博士」

 

 博士? あたしを知っているの? 

 

 その声に対して、そんな疑問が頭をもたげ

 

「誰? 誰なの?」

 

 と反射的に問うた。しばしの沈黙。すると、程なくして、前方の扉が、スライド式に開いたかと思うと、一機のドローンがゆっくりと飛来。

 5mあるかないか。そんな近くに来るや、そこで停止。したかと思えば、ドローンの背後を投影するかのように、ホログラムが映し出され、1人のフードを被った者が姿を現した。

 素顔が分からないだけに、更なる警戒心が高まる。フードの者は、落ち着き払ったかのような感じで接してきた。

 

「自分がどの立場で、そして、今、ここにいるか。分かるかい?」

「どの立場って、どういう意味よ? ……っ! それより、ホークと緒方純(あの2人)はどうしたのよ? まさか⁉︎」

「あの2人のことか? 彼らは無事さ。ただ、別々の独房で過ごさせてもらっている。共にいては、困るからね」

 

 言った側から映像が切り替わる。画面が表示され、二つに分割された画面には、ホーク=フレンディアと緒方純。それぞれが、独房にいる姿が確認された。

 ただ、自分と同じように拘束されている訳ではないが、彼らは、相当、混乱しているよう。

 落ち着かない様子を醸し出していた。

 

「ホーク、純……」

 

 2人が無事でいることが確認できたことに、少し安心した。

 

「どうだね? 安心したか?」

 

 っ!

 

 しかし、その言葉を聞いて我に返った篠崎博士は、

 

「どういうつもりなの? あたし達を拘束して。何が目的?」

 

 すると、フードの者は、淡々と

 

「何が目的、か〜。……我々の目的は、最初からハッキリしている、とだけ言っておこう。つまるところ、全ての元凶たる神宮寺霊奈。彼女に関する情報を君たちから。特に君から得ることだよ」

「霊奈、から? ……それは」

「言えないのか?」

 

 彼女の名が出て、それに関すること。篠崎博士は、相手はどう言う狙いがあってのことか、すぐに分かったような気がした。だけど――

 黙ってしまう篠崎博士に、映像を切り替え、再び姿を現したフードの者は、事情を察してか、或いは、そうでないかは分からないが

 

「まぁ、いい。なんとなくだが事情は分からんでもない。ただ、我々としては、彼女の行方を追っているとだけ告げておく。だが、あくまで少ないながら情報を話さないとなれば、あの2人の保証は―― 」

 

 その言葉。危機感を抱いて

 

「わ、分かったわ! 話す、話すわよ。だから―― 」

「お、話す気になったか」

「知っている限り話すわよ。その代わり、あの2人には」

「いいだろう。我々も、無益な処分は下したくないからな。あくまで情報入手が目的。それを得たなら、君たちを解放する手筈だしな」

「……」

 

 約束を守るかどうか分からない。だけど、篠崎博士自身は、知っている限りのことを話すしか選択肢がないわけで――

 

「そこまで知っているわけでない。彼女は、あの日以来、人が変わったような感じで、そのまま失踪したから」

「ん? あの日? とは」

世界図書館(アカデミア)の火災のことよ。なんとか生還したけど、それ以前の彼女とはまるで別人だったのよ。強いて言うなら、何かに取り憑かれたような感じみたいに」

 

 そう、人が変わったように。あれは、まさしくそうだったのだから。それ以前は、あの世界(・・・・)を中華連邦から守るため、対策の一環として、代替的な世界構築の立案を自分達と一緒に考えていたけど。

 火災事件以降は、まるで自分の世界に閉じ籠ったかのように、性格が変わってしまったのだから。自分の告白を聞いてか、フードの者は言う。推測で物を語るように。

 

「で、入院中に、彼女は突然失踪。それ以来、行方は知らないと?」

「そうよ。だから、それ以上のことは分からないわよ。それに、逆に聞くけど、彼女が全ての元凶、ってどう言うことよ?」

 

 だが、フードの者は、その質問にはまともに答えようともせず、会話に見切りをつけたかのように

 

「事情は分かった。もう、いい」

 

 それだけを言い残すや

 

「え? ちょ、ちょっと!」

 

 呼び止める中、その者は、自分勝手の様相でかき消すようにして姿をくらましてしまった。

 もう、用済み。そう、言わんばかりの対応だけに、思わず焦りを滲ませてしまう。

 しかし、博士はこの時、思っていた。先の会話から察するに、きっとバックには中華連邦が一枚噛んでいるのだろうと。

 でなければ、自分と同じく計画に参加していた神宮寺霊奈のことなんて、聞くはずもないだろうし。

 

 〝全ての元凶″

 

 それはどう言う意味なのか? 

 

 その辺りは分からなかったが、間違いなくあのシステムを狙っていると自分なりに解釈できたような気がした。

 

ーアルカイブー

 

 死者の(ソウルライト)を保管し、生者との交流が仮想世界を通じて可能なシステム。

 中華連邦は、パンデモニウムの気象制御権だけでなく、そのシステムをも掌握しようと目論んでいるに違いない。

 縁朋也だけでなく、上馬香奈美のソウルライトまでもが、あのシステムによって幽閉されている現状。

 その現状があるだけに、篠崎博士自身、改めて危機感を募らせることとなった。

 

 ホロを投影していたドローンも、前方にある扉の向こうへと去って行く頃、博士は身動きが取れない中でも、なんとか幽閉している密室を見渡すことに徹した。

 なんとか、ここから脱出しなければ。そんな思いがあって。と同時に、ホーク=フレンディアや緒方純、2人を助け出さなければ。そのような使命感的なものも気持ちにはあった。

 

「監視カメラ的なものは……」

 

 その点だけを注意しながら、見渡す限り。だが、そのようなものは見つからなくて。

 どうやら、ただ、幽閉されているだけで、相手は監視するつもりもないようで。拘束を外せば、なんとかなりそう。

 そんな感じさえあるように見えた。だけど、色々と手首を動かしてみるものの、外れそうな気配はなくて。

 更に追加すれば、両足も足枷のようなものを嵌められ、ある程度は自由は利くものの、小幅程度しか歩けないと言った感じではあった。

 手錠さえなんとかなれば。そんな塩梅だった。だけど、そんな状態とは言え、一つだけ運が良かったのかも。拘束している椅子自体は、どうやら固定されてないようだった。

 セツナは椅子ごと立ち上がると、ブッ格好な体勢ではあったが、とりあえずそのまま前方へ。

 扉の方へと向かって歩き出した。床に散らばる破片を踏んづけないようにしながら、扉の前へと来て。扉窓越しから、覗くように外を観察してみる。

 

「誰もいないのかな?」

 

 渡り廊下からは、人の気配らしきものは感じられず。まさに、静寂に包まれた感じがした。正直、薄気味悪い。そんな印象を醸し出しているようだった。

 

「ともかく、この拘束を外さないと」

 

 今のままでは、何かあった時に対応ができない。そのことだけに、扉を背にして、改めて部屋中を見渡してみた。

 蛍光灯の光が真ん中を照らすだけで、壁際はまさに薄暗さを滲ませる。他には、破片があっちこっちに散らかっているだけで、拘束具を外すための道具はなさそうではあった。

 しかし、セツナはそれでも諦めなかった。なんと言っても、あの2人が心配。贅沢は言ってられないだけに、めぼしい破片がないかをくまなく探してみた。

 目配せする中で気付いたこと。それは、破片は主にガラス片が多かったこと。でも、その中に、僅かながら金属片らしきものも混じっている感じで。

 天上を見上げてみれば、星々が見え隠れする天窓の一部が破損しているように見えて。それに、太い配管が天井まで伸びているのも確認できた。

 一か八か、危険なことには変わりないが、うまくよじ登れば割れた天窓から脱出できそうな気もしなくもなくて。

 その中で、脱出できる段取りは、大体、目処がついた感じだった。ガラス片の中に混じるようにして散らかっている金属片の他に、手錠が外せそうなものがないか、更に探っていく。

 そうした中、部分的とは言え、針金が飛び出たような金属片を見つけた。椅子が邪魔だったが、しゃがみ込み寝転がり、なんとか手にすることができた。

 両手の感覚を頼りに、手錠の鍵穴に針金を差し込み。そして、なんとか解除しようと奮闘して――

 

 ガチャ

 

 そのような音と共に、手枷が外れた。万が一に備えて、錠外しのコツを学んで良かったかも。そのように思えた瞬間であった。

 手錠を外したあと、再び扉の前に行く。扉は左右にスライドするタイプのようで、ドアノブらしきものは見当たらず。自力で動かしてみようとしたが、案の定、無理であった。

 再び天窓の方へと目を向ける。一本の太い配管が割れた天窓の近くへと伸びる構造。

 作業用のハシゴが3m近くのところまで伸びていることもあってか、本来なら脚立か何かあれば軽く届く。

 そんな感じであった。

 

「やるしかないか〜」

 

 落下する危険性は十分あった。しかし、このままここにいても、何が待っているか分からない。身を危険に晒すリスクだってあるかもしれないから。

 覚悟を決めた篠崎博士は、椅子をハシゴ近くまで持って来るや、早速、ハシゴに飛びつき。懸垂のようにしてハシゴをよじ登り、そのまま登り始めた。

 中間まで登って来たところ、部屋の外から人の声が聞こえてきた。

 

「ったく、なんでオレも呼ばれないとならんのだよ」

「仕方ないだろう。拘束しているとは言え、暴れられたら1人じゃ手に負えないだろう?」

「だけどよ。相手は―― 」

 

 その直後、スライドドアが開く。そして――

 

「女だ―― 、え? いない? どこだ? どこ言ったんだ?」

 

 相方の方も

 

「た、確かに。この部屋は確かに密閉されていたはず……」

 

 戸惑う2人に、パイプにしがみつき身を潜める博士。変な動きを見せたら、すぐにバレると言った緊迫感が空気を支配した。

 2人の手には、何かを持っているように見える。形状からして、銃のようにも見えるが……

 1人が隅々まで探し回り、手掛かりを探る。だが、もう1人は、黙って辺りを見渡していたが、何かを見つけたようで

 

「手錠、……気合いで外したのか? おい!」

 

 呼びかけに応じて、もう1人が歩み寄る。手錠を手に取って見て、何やら2人で会話しているのが垣間見える。

 ハシゴのある辺りが暗がりになって、そこに椅子がある。いつ、こちらの存在に気付くかも時間の問題でしかないようで。

 はっきりとしていることは、いつまでもここにいる訳には行かないことであった。

 そんな訳で、できる限り前に進む。目の前には、再びハシゴがあって。あと、もう少し、あと、もう少し進めば、届く範囲にあった。そんな中、下からマズい声が聞こえて来て――

 

「おい、見ろ。ここに椅子があるぞ」

「椅子だと⁉︎ ……ほんとだ。どうりで見当たらないと思った。よく見つけたな」

「褒めている場合ではないぞ」

 

 それから、こちらを見るかのように見上げて来た。それを見た博士は、慌てハシゴに手を伸ばすや、しがみつくように体を寄せ、再び息を潜める。

 だが、その行動が仇になったらしい。

 

「どうした? 急に目を顰めて。―― って、おい!」

 

 まずい!

 

 訝しんでいた男が、急に椅子を台座にしてハシゴに手をかけ始めたのである。黙って登って行く男に、相方も戸惑いを隠せなかったが、やがて――

 それを見ていた博士は、さすがにやばいと思い。バレるのを覚悟の上で、急いでハシゴを登り始めた。

 直後、

 

「っ! いたぞ‼︎ 捕虜を見つけた。待ちやがれ!」

 

次の瞬間、手にしていたクロスボウのような銃をこちらに向けて発砲。稲妻のような感じの弾丸が、篠崎博士めがけて、次から次へと飛来して来た。

 恐らく、電気ショックの類だろう。直感的にそう解釈。そう解釈しただけに、ここで食らう訳にはいかなかった。

 

「待て! 待ちやがれー‼︎」

 

 しかし、相方は

 

「よ、よせ‼︎ こんなとこで、電気ショッカーを使うな! 万が一、命中したのなら、彼女をあの高さから落下させてしまうぞ」

「ちっ、確かに」

 

 説得に応じたのか。銃器を使うのをやめた。

 

「くっそ、あの命令さえなければ」

 

 悔しさを滲ます。ともかく、博士にとっては、電気ショッカーの脅威をま逃れただけに、食らった際のリスクは避けられたようだ。まさに、今いる地形が功をさしたと言えよう。

 

「やむを得ない。俺はこのまま追いかける。お前は先回りして、取り押さえるんだ」

「分かった」

 

 それを合図に、相方はこの場を去った。待ち伏せされるリスクが高まった。だが、博士としては、このまま引き返す訳にはいかない。そのままハシゴを伝い、割れた天窓近くへとよじ登る。

 

 天窓を蹴り飛ばし、そこから屋外へと出た。

 

「ここは……」

 

 見覚えのある場所ではなかったが、ここは港近郊の工業団地であることが一目で分かった。

 気持ちよさそうな塩風が、頬を撫でていく。だが、今はそんな堪能を感じている場合ではなかった。

 

 ともかく、追っ手を巻かないと。

 

 屋根の傾斜はそこまで急ではなかったが、足元に気をつけてよじ登り、そして、反対側へと向かう。

 屋根の三角部を超えて、屋根の端へ。その下にはベランダがあり。そこへと飛び降りた篠崎博士は、そのまま螺旋階段へと向かうが――

 

「いたぞ‼︎」

 

 ちっ

 

 案の定、待ち伏せされていたことに、思わず舌打ちをする。後ろを見れば、まさに追っ手が迫っていて。方や、螺旋階段の下からは、相方が迫ろうとしていて。

 まさに、挟み撃ちに遭おうとしていたのだ。だが、

 

 捕まる訳にはいかない。

 

 このあと、ホークと緒方純、2人を助けないといけないのなら尚更だけに。思わず立ち往生してしまう中、遂に追っ手が追いついてしまう。

 

「もう、鬼ごっこはおしまいだ」

 

 そう言うや、ベランダへと飛び降りる。一方、その間隙を突いて、打開策をとろうと手を動かそうとして

 

「おっと、変な真似はするなよ。こいつを食らいたくなければな」

 

 くっ

 

 例の電気ショッカーとやらを向けられてしまう。やがて、相方も、螺旋階段を登って来てしまい。

 もはや打つ手なし。将棋で例えるなら、詰み、そんな状況であるだけに、絶対絶命の大ピンチだった。

 

「さあ、観念しろ」

 

 警戒しつつても、こちらに歩み寄って来る。打つ手は。なにか、この状況を打開する手は……。

 高速で模索し始める。それが見破られまいとして、時間稼ぎに打って出てみた。

 

「一つだけ、質問、いい?」

「質問? いいだろう。いずれにせよ、終わりなんだしな」

「どうも」

 

 そして、一拍置いたあと

 

「質問はなに、簡単な内容よ。あの2人を誘拐したのは、なぜ?」

「あの2人? ……ああ、あの2人か。ふん、簡単なこと。目撃者を潰すことよ。あの場には、君を除いて、あの2人しかいなかったから、ついでに誘拐して目撃者を潰した訳だ。理解したか?」

「目撃者を潰した、か。……あ〜、なるほど。そう言うことね」

「そう言うこと? ま、理解できたのなら、もう、分かるよな?」

「えー、勿論」

 

 あたし達を誘拐した犯人。あの場に何人いたかまでは把握できないまでも、少なくともこいつは、そのうちの1人だと腑に落ちたような気がした。それだけに、ようやく観念できたような。そんな気さえした。

 

 あの2人は、せめて無事でいてほしい。

 

 切に、そう願おうとした。―― と、その時、どこからともなくホークの切迫詰まったような声が、

 

「博士‼︎ 伏せろ!」

 

 え?

 

 直後である。間髪入れずして、目の前に稲妻を纏ったような〝何か″が飛来。したかと思えば、目の前に迫る男の鼻っ面を掠っただけに、その何かは、屋根に刺さった。

 眼前の男は驚く。

 

「電気ショッカーだと⁉︎」

 

 そして、飛来してきた方を見た。つられて、博士もそっちの方へと目を向けた。2人の姿が薄らと見える。

 それだけに、姿をきちんとできなくとも、直感的に誰なのか分かった。

 

「ホーク! 純!」

 

 どうやって脱出できたかは定かではないが、無事だったようで安心した。

 

「貴様ら、どうやって?」

 

 動揺が走ったように、口走った。電気ショッカーの銃口を上に向けつつ、ホークが得意げに語る。

 

「隙だよ、隙」

「隙だと」

 

 しかし、隣にいた純が諭す。

 

「んな場合じゃないだろう? まずは博士を助けないと」

「っ! そうだね」

 

 彼女の一言に我に返ったのか。気を取り直し、銃口をこちらを向ける。

 

「てことで動くなよ。でないと――」

「ち」

 

 舌打ち。男の顔が険しくなる。戦況が好転する。そう見えた。その時、

 

「バカめ。状況が有利になると思ったか?」

 

 次の瞬間である。背後から、腕が回され――

 

 ガシッ

 

 なっ⁉︎

 

 抵抗する暇もなく、羽交い締めに。そのまま、銃口を頬に当ててられてしまった。

 

「ふ、不覚」

 

 ホーク・純も同様、人質にされてしまっただけに、これには打つ手がないようだった。

 

「やれやれ、どうなるかと思ったぜ」

 

 意表を突かれ戸惑っていた相方は、この状況に気を取り直したようだ。

 

「あとは頼む」

「任せろ」

 

 頼み事を承った男は、2人の方へと。螺旋階段を降り始めた。その間、

 

「観念するんだな。どちらが有利か、これで分かるだろう?」

「くっそ〜」

 

 さすがのホーク・純も、これには応じざるを得ない様子。項垂れるように、向けていた電気ショッカーの銃口を下した。

 そんな2人がいる中で、ふと視線を前に向ければ、港に船舶が停泊しているのが、チラッと見えて。

 その方向を保ったまま、篠崎博士は問い掛けてみる。

 

「話が違うとはこのことね。霊奈に関することを聞いたら、あたし達を解放するんじゃなかったのかしら?」

 

 そう、解放……

 

 例のフードの者と、こいつらの繋がりがあるのはほぼ間違いない筈。少なくともそう睨んでいたから。

 その最たる理由は、なんと言っても、自分を閉じ込めていた部屋にわざわざ訪れたのがそう。万が一、繋がりがなかったのなら、来ない可能性が濃厚だったのだから。

 問われただけに、男は答える。

 

「ああ、そうだよ。そのつもりだったさ。だが、君たちは、勝手な真似をしてくれた。知らないうちに解放させる手筈だったが、それが狂ったからね」

「要するに、居場所を知られたくなかった。そう言うことね?」

「理解が早いじゃないか。そう言うことだ」

 

 そして、相方が2人の方へ辿り着いたところで

 

「さあ、観念するんだな。その男に、銃を渡してもらおうか?」

「くっそ〜」

 

 悔しさを滲ませ、ホークは持っていた電気ショッカーを渡そうとした。もはやこれまで。そう見えたかに思えた。

 ――と、その時、遠くの方、海岸から汽笛が鳴り響き。一条の光が差し込んできた。

 夜の時間帯だけに、その光は眩いほど強くて、

 

 うっ

 

 一瞬とは言え、自分を羽交締めにしていた男は、目が眩んだよう。目に気を取られたせいか、頬に突きつけていた銃口の圧が、瞬間的に緩む感触を覚え。

 篠崎博士は、この隙を逃さなかった。頭で考えるより先に、体が勝手に反応。左手が銃を掴んでいる右手を鷲掴みにするや、引き剥がしにかかった。

 

「な、何しやがる‼︎」

 

 意表を突かれた男は、動揺を隠せずして、当然のように抵抗を試みて来た。直後、電気ショッカーの取り合いが始まる。

 その間、博士は叫ぶ。

 

「ホーク!、純‼︎」

 

 っ!

 

「ホーク‼︎」

 

 弾かれたかのように、真っ先に緒方純が反応を示した。連鎖反応的に、電気ショッカーを構えたホークは、自分らの元へと来た相方の方へ、銃口を突きつけ。意表を突かれ、目を見開いた男に目掛けて、即発射する。

 稲妻を纏った弾丸が、男の懐に飛び込み。そして――電気ショック!

 

 あぶぶぶぶぶ――

 

 声にもならない声を。断末魔と言えそうな声を上げると共に全身を酷く震えさせ、起立し硬直した状態のまま、地面に倒れ込んでしまった。

 あとに残るは、泡を吹く遺体のような様。

 

「き、貴様ら――‼︎」

 

 博士と揉み合っていた男は、その光景を見て瞬く間に激怒する。腕力だけに、女が男に敵うわけがなく。

 本気を出した男は、腕力に物を言わせて博士の抵抗を振り解き。そのまま突き飛ばす。

 手摺に叩きつけられ、

 

 あぐっ!

 

 背中を強打、痛さのあまり悶絶する。

 

「いった〜。何を、するのよ」

 

 辛うじて出た言葉。それから、ゆっくりと目を開けてみた。

 

 っ!

 

 その光景、電気ショッカーがこちらに向けられているではないか。苦痛に顔を歪めながら、恐怖に慄く。

 

「くっそ〜、舐めた真似を。こいつでも、くらえー‼︎」

 

 もはやこれまで。そう察したかに見えた、その時――

 

「あぶぶぶぶぶ――‼︎」

 

 突然、全身を戦慄かせ断末魔を。

 

「う、うかつ……」

 

 その言葉と共に、地に沈んでしまった。篠崎博士は振り返る。そこには、ナイスショットと讃える緒方純と、照れ臭そうに銃口をむけていたホークがいた。

 

 

「大丈夫か、博士」

「な、なんとかね」

「ホーク、肩を貸した方がいいんじゃないのか? 博士、キツそうだよ」

「いいよ、純。これくらい……。っぅ〜」

 

 強がってみたものの、背中の痛さは、堪えがたいものがあった。

 

「おいおい、無理するなよ」

「いいの、別に。それよりも、現在地を特定しないと。二人とも、スマホはある?」

 

 問われて、

 

「え〜と……」

 

 2人はポケットの中を弄ってみた。そんな中、ホークは

 

「博士こそ、どうなん?」

 

 問われて、自分もまた、ポケットの中を弄ってみた。案の定、と言うべきか。スマホはなかった。

 

「ないみたい」

「じゃ、同じだな」

「俺もな」

「2人とも、なのね」

 

 博士だけでなく、2人もスマホがなかっただけに肩を落とす。

 

「参ったな〜。これじゃあ、ここがどの場所か見当もつかないや」

「そうね〜」

 

 ホークの困惑に、博士は答えた形である。そんな中、純が

 

「そう言えば博士」

「ん?」

「気絶させた男達から、得ることができないとかは?」

「あたし達がやっつけた人から?」

「そうそう。博士はどうやって彼らから逃げたかは分からないけど、あたしら、脱出する直前まで、看守がうちらのところまで来たことには変わりないからさ。なあ、ホーク!」

「まあな。互いに示し合わせて、来訪した看守の目を欺くの、結構、だったからな。勿論、監視カメラの目を欺くことにもな」

「よく、そんな裏技みたいなこと、できたわね」

「なに、視界から逸れただけなんだけどな。それに、どう言うタイミングかまでは分からないけど、看守の奴ら、慌てて確認してきたから、うまく使ってやったくらいで」

 

 と緒方純は、自慢そうに語るのであった。緒方が語った序でに、ホークは尋ねてきた。

 

「博士こそ、どうなん? うちらは緒方の協力もあってか脱出できたけど、博士の場合は違うんじゃないか? 第一、1人だし」

「そうね〜」

 

 今の今までの経緯、さらっとだけだが、2人に話してあげた。

 

「ま、ザックリ話すとこんな感じね」

「よく、手枷なんか外せたよな。しかも、配管をよじ登る真似なんて」

 

 ホークは驚きを隠せずにいた。

 

「ま、それは相手方にも言えるけどね。まさか、よじ登って来るとは思わなかった訳だし」

「それで、今に至る訳だな」

「まあね」

 

 緒方純の納得に理解を示した。

 

「なら、そう言うことなら、誰が博士のスマホを持っているのか。明白じゃないのか? わざわざ、2人がかりで会いに来たわけだからさ」

「そう言えば、そうね。2人のうち、どちらかが持っていてもおかしくないわね」

「じゃ、俺らは下の奴を探すから。博士は向こうの奴のを頼むよ。手分けした方が早いわけだしさ」

「いいわ」

 

 その言葉を皮切りに、2人の男の所持品を探ることにした。それで、結果はどうであったかと言うと……

 

「見つかったことには代わりないんだけど……」

「確かにな。こいつは仕方ないか」

 

 見つかったことには見つかったが、ホークが仕方ないと言うのも無理もなかったかも。スマホは、完全に中の精密部品が焼けてしまったのか。完全に使い物にならなくなっていた。

 それだけに、せっかく見つかったものの、これでは意味がないのと同じ顛末と言えよう。本当の意味で、これからどうしていいか分からなくなってしまった。

 

「まさに、振り出しだな。博士、どうするんだ?」

「そう言われてもね〜。ホークはどう思う? どの道、あたしら一蓮托生でしょう?」

「一蓮托生って……。まあ、確かにそうだけどよ。俺に答えを求めても、仕方ないぜ。なにせ――、っ? 車?」

 

 え?

 

 突然、不思議そうな顔をするホークの見ている方角を見た。緒方純と共に見た遠方から、白黒カラーのパトカー数台もと一緒に、一般自家用車らしき車も、サイレンを鳴らして向かって来るではないか。

 明らかに慌てて来る様だけに、猛スピードでこちらに向かって来る。そして――

 

「なになに⁉︎」

 

 動揺を隠せない純の手前、博士らを取り囲むかのようにパトカー数台は止まると、遅れて自家用車もまた止まり――

 中から複数の警官が。

 

「怪我の方は大丈夫ですか? 何か、盗られたものとかは?」

「あ、いや、あたし達は」

「と、父さん⁉︎」

「ホークか。無事だったんだな」

「フレンディアさん⁉︎」

 

 驚く博士の手前、そこにはホーク=フレンディアの父――ケイン=フレンディアがそこにいた。

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