モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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1章:激闘を制する者・終話

 

「となると、犯行グループは?」

「間違いなく、背後に中華連邦が一枚噛んでいるのは確かです」

 

 篠崎博士は、警部の事情聴取にことの成り行きからバックに控える黒幕について推測を言い当ててみせた。

 目の前の警部は、改めて渋い表情をしてみせた。国際問題が絡んでいるとなると、事はそう単純にはいかないのだろう。

 ここは取調室。とは言え、ある意味、会議室のように部屋全体は広く明るく。壁や床、それに天井まで真っ白に覆われていて、どことなく閉塞感を感じさせない作りをしていた。

 けれども、やっぱり取調室だけに、用意されたテーブルや椅子は、それぞれ一台と二つのみ。と言う、ある意味、部屋全体が広い割にこじんまりしていて、思いっきり部屋全体を活かせず無駄が有り余る様相を醸し出していた。

 渋い表情を見せていた警部は、隣に座りパソコンで記録していく記録係にどうするべきか相談し始める。

 

「難しい問題ですね。話によると、逮捕した犯行グループも、この件に関しては黙秘しているので、確証を得られないで困っていると言う話なので」

「そうか」

 

 黙り込む警部に、篠崎博士は問う。

 

「あの〜、あたしはどうしたら? この後、やることが山積みなんですが……」

「そうだな〜。とりあえず、事情は分かった。しかし、ここで約束して欲しいことがある」

「なんですか? 約束とは?」

 

 すると、警部は

 

「ケインさんにも知らせておいたのだが、この件に関しては他言無用にして欲しいのです。特に、事件に巻き込まれてしまった2人――ホークさんと緒方さんも含めて」

「え? なんでです? あの2人も被害者ですよ!」

 

 しかし、警部は理由は話さずして

 

「それでもです。事は厄介なんで」

「……分かりました」

 

 歯痒い、歯痒くて。でも、警察がそう言うのなら、仕方ないのかもしれない。そう解釈するに留めた。

 

「では、話は以上です。玄関まで案内しますね」

「はい」

 

 そう返事すると、警部に連れられて取調室から出、玄関ホールまで案内されることになった。

 

 玄関ホールに行くと、緒方純とホークが待っていた。2人は何かを話し合っているようであったが、こちらの存在に気付くとやあやあとばかり、手を振って来た。

 

「では、私はこれで」

 

 そう告げると、付き添っていた警部はどこかへと去っていく。

 

「博士、大丈夫だったか?」

 

 とホーク。

 

「あたしなら問題ない。ただ……」

 

 と言いかけて、あの警部の

 

――この件は他言無用に――

 

 の言葉を思い返すと、

 

「いえ、なんでもない。何でもないわ」

 

 言いかけていた言葉を飲み込んだ。緒方純は、その様子に首を傾げたようであったが、どうやら目を瞑ったらしい。

 特に、これについては疑問を投げかけないでくれた。

 

「ともかく帰ろうぜ。ほんと、今日は散々だったよ」

「だな。皆が待っている事だし」

「そうね」

 

 警察署から出ると、パンデモニウムへと帰るべくセントラルタワーを目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 〝やはりこの件は、例の事件と同列に考えるべきかも知れない″

 

 篠崎博士達が帰った後、マギ警部は一人、休憩室で考えを張り巡らしていた。例の事件とは、マグナスCEOの誘拐事件のこと。

 人工ソウルライトの第一人者であり、ソウルライト研究機関のCEOでもある彼は、表向きでは長期の出張で不在と言う扱いではあるが、その実態は、まさしく誘拐であったからだ。

 敢えて事情を表向きにできないのかと言うと、彼としては理解に苦しむが、どうやら政治的な要素が絡んでいるらしく。その関係上、できない、とだけは理解していた。

 

「は〜、参ったな」

 

 しかしだ、しかしである。いつまでも、隠し通せる話ではない。

 

 上層部は何を考えているのだろうか?

 

 甚だ疑問しか湧かないのだ。電子タバコの先からミストのような燻煙を立ち上らせては、ニコチンの快感を味わう。

 考えてもしょうがないのだが、責任の一端を担っていることには変わりなくて。ソウルライト研究機関関係者から。……いや、マスコミもからか。

 ともかく、この件で追及されたら、どう釈明していいか。頭を悩ます次第であった。

 口元から、電子タバコを話して卓上に置き。それから手元の電子資料を眼にする。

 資料には、篠崎博士から得られた情報が載っていた。この記載されているファイルは、職場内である程度、共有されていることだから、自分一人だけ考え込んでも仕方ないこと。

 なのだが、どうにも気になってはいたのだ。彼女――篠崎博士が供述していた中で出て来た人物――神宮寺霊奈。

 

 犯人が言っていたこと。全ての元凶である神宮寺霊奈の行方を知りたがっている、とはどう言うことなのだろうか?

 

 その一点だけども、どうにも気になって仕方ないのだ。名前と一緒にハイパーリンクも備えられているだけに、自然とクリックしてみる。

 すると、神宮寺霊奈に関する事件に纏わる情報が出て来て。そこには、アカデミアの火災事件から端を発して、病室から行方不明になってしまったことまでへの事の成り行きやら。

 それ以外のプロフィールに関する情報などが、ずらりと記載されていたのである。どのようにして、病室から消えたのかは定かではない。ないが、その兆候らしいことは、この経緯からでも読み取れていた。

 聞き込みから得た情報も加味すると、やはり、アカデミアの一件に全てが収束することは、想像に難くなかった。

 ただ――

 

「埒が明かないな……」

 

 呟いた一言。それが、全てを物語っているような感じがして、迷宮入りしそうなのである。

 ともかく、現実的に分かっていることを精査すれば、今回の誘拐事件は、中華連邦が一枚噛んでいることだけは確か。捉えた容疑者から、情報をなんとしてでも聞き出す必要があった。

 

「さて、行くか……」

 

 重い腰を上げて見せる。残りの仕事をちゃちゃっと片付けて、引き上げるか。そう思い至った。

 ――とその時である。エレベーターが降りてきた音。扉が開いた音と同時に、誰かが走って来るような足音が聞こえてきて――

 

「あ、マギ警部!」

「ん?」

 

 その方角を見るに、部下の一人が、何やら慌ただしい様相で、姿を表すのを目にした。

 

「どうした? そんな慌てて」

 

 すると、部下は

 

「どうしたも何もないんです! 自殺です。自殺を図ったんです、容疑者の一人が」

「っ! な、なんだと⁉︎」

 

 思わぬ告知を受け、目を見開いた。

 

 現場へと急行すると、そこは2、3人。……いや、奥にもう一人か。ともかく、通路に人だかりができていた。

 場が騒然としていることは、一目で分かって――

 

「何があった? 君たち」

 

 すると、一人の警官がこちらを向いて

 

「自殺です。それも、二名」

「二名? まさか、捕まえた容疑者じゃ」

「そのまさかです。他は、なんとか間一髪、取り押さえたんですが、それでも、救急搬送しないとならないくらいのレベルでして――」

「よく見せろ!」

 

 人の垣根を手で払いのけて、割って入る。そして、超えた先、そこには、2人の遺体が静かに横たわっていた。

 両名とも、共通しているのは、口元から血を垂れ流していることであった。

 

「舌を噛み切ったのか?」

「はい、それも躊躇する様子もありませんでした。ただ……」

「ただ?」

「ええ、はい。ただ、最後に一言、中華連邦に、栄光、あれー! と」

「……ちっ、忠誠心と言うやつか」

 

 この事から察するに、供述するよりも死を選んだことが、すぐに伺えた。遺体と対面しただけに、ご冥福を祈りたい、ところではあるが、

 

「他に、得られた情報は?」

「いえ、特に……」

「……そっか」

 

 その報告を聞いて肩をすくめる。となると、頼みの綱は、救急搬送された容疑者達となるだろうとは思う。のだが、正直なところ、それも微妙な情勢ではあった。

 その最中、

 

「ん?」

 

 ズボンのポッケの中からではあるが、バイブレーションが鳴るのを肌と感じた。ポッケを弄り、スマホを取り出しては画面を確認すると、

 

「誰からですか?」

 

 の問いかけに、マギ警部は一言

 

「署長からだ。……君たち、現場は任せたぞ。私は外せない用事ができたみたいだからな」

 

 その言葉に対して、反射的に場にいた一同がこちらを向いては、はっ! と礼儀正しく敬礼。命令に答えた。

 それを見届けた後、自然と道ができていた中を進んでいく。振り返りもしない中、署長の元へと向かった。

 エレベーターホールへと向かい、エレベーターの中へ。指定した階番号を押しては、ゆっくりと扉が閉まっていく。

 何気ない余韻が流れる。その間、再び思考に耽る。このタイミングで、署長からの連絡。

 あまりにも、何かありそうな。そんな嫌な予感がしなくもなくて。署長は、容疑者が自殺を図ったこと。

 

 すでに知っているのだろうか? 

 

 不確定要素を想像するだけ、無駄な事だとは思ってはいたが、なんやかんやでしてしまうのは、人の性なのかもしれない。エレベーターが指定した階に止まり、扉がゆっくりと開く。

 内心、ドキドキしてはいたが、上司からの呼び出しとあれば、行くしかなかった。

 

 署長室に入ると、黒いソファーに腰を掛けて待っていた署長の姿があった。部屋全体が威厳さを物語り、どこか緊張してしまう様相を醸し出す。

 あまり出入りする機会がないだけに、そんな風に慣れてないのは、仕方ない事なのかも知れない。

 呆気に取られる中、署長は手招きしてきた。

 

「ま、座りたまえ」

「はい」

 

 軽く受け答えすると、しがないマギ警部はゆっくりと漆黒のソファを回り込み、それから腰を据えた。

 

「見るからに、らしくないな〜君。と言っても、早々にここに呼ばれることはないからな」

「それで、話とはなんですか?」

 

 単刀直入に来てみる。署長の表情がみるみる険しくなり、何処、悩ましそうな感じに見え始めた。

 

「話すのも、辛いものだよ」

 

 と肩をすくめつつ、前置きした上で

 

「君に。……いや、君たちに、今回の件、降りて欲しいんだ」

 

 と、意外の言葉が放たれた。途端、

 

 え?

 

 

 マギ警部は、何を言っているのか? 当然ながら耳を疑った。疑って、前のめりになるや、早速、理由を問う。

 

「それは、どう言う意味で?」

「事は複雑なんだよ。正直、私も、この件には反対なんだが」

「なら――」

「すまない、それ以上は話せないのだ。理解してくれ」

「いや、理解って。第一に、被害者が出ているんですよ。それに、私はこの件に関する担当課です。どう言う理由かは分かりませんが、それでは、責任を放棄しろ! と言っているものですよ」

 

 しかし、署長の答えは変わらなくて

 

「それでもだ。これは、私からの命令だ。それに、この件は、公安に自動的に引き継がれることになっている。決定事項なんだ」

「そんな、バカな。第一責任者である私を差し置いて、そんな……」

「分かってくれ」

「……」

 

 沈黙が2人の間を取り巻く。マギ警部はその間、考えた。考えて、考えて。それでいて、辿り着く背景に誰が控えているのか。

 なんとなく、察しがついたように思えた。

 

「……政治案件なんですね。公安が出るほどの」

「……」

 

 今度は署長が沈黙する番のようだ。口を閉ざす彼をみて、その態度から否定しないことを察したマギ警部は、ただ一言

 

「……分かりました」

 

 重い返事を一言、返すに留めた。

 

「部下にも、この件、説明しないと――」

 

 しかし、そこで言葉を遮って

 

「いや、私から言おう。君からだと、理由を語るのは難儀そうだしな」

 

 と打って出て来。マギ警部は確認するように

 

「本当にいいんですか?」

 

 けれど、署長は

 

「二言はないさ」

 

 返事は変わらないようであった。その回答に、正直、説明する手間が省けただけに、どことなく楽な気もしていた。ただ、罪悪感みたいなものは、どうしてもあるかも。

 いくら署長からの命令とは言え、まるで、案件を放棄したように見えて、後ろ髪が惹かれる気分であったから。

 その心境を察したかのように

 

「難しいかも知れないが、悪く思わないでくれ」

「気遣い、感謝します」

 

 建前上とは言え、ここは礼をすることにした。

 

「では、私はこれにて」

 

 そう言って、用事が済んだかと思って、切り上げようと席を立とうとし――

 

「まあまあ。そう、急ぐな」

 

 呼び止められてしまった。

 

 まだ、何かあるのだろうか? 

 

 気分的にも、署長室と言うのは重苦しい感じがして、どうにも慣れない。それだけに、早く退室したかったのだが……。

 呼び止められただけに、致し方なく席を座り直しては、改めて向き直る。

 

「他に何か?」

 

 すると、署長は内ポケットに手を入れつつタブレットを取り出しては、ある画像を提示してみせた。

 

「ディオン=マグナスCEO、君ならこの件を知っているよな」

「あ、はい。存じています。未だに行方不明であり、表向きでは長期の出張扱いになっているとかで。理由は分かりませんが」

「なら、話が早いな。実は、私の元に届いた情報に届いた情報によれば、彼が保護されたとの話なんだ」

「え? 見つかったのですか? いつ、どのようにして?」

「その様子だと無理もないようだな」

「当然です。私達の元には、一切情報が入ってきませんから」

「だろうな。この件に関しては、公安の管轄下だからな。そこでなんだが……」

 

 タブレット端末を指先で操作し、今度はある書面を提示してみる。

 

「君に。……いや、君たちに、この件を共有してもらいたいのだ。この書面にサインしてな」

 

 え?

 

 まさに、意図が読めなかった。公安案件なら、公安に任せれば済むもの。なんで自分らに、情報共有しないとならないのか? 

 理解に苦しんだからである。

 

「意味が分かりませんが。それに、今まで秘匿情報だったんですよね?」

「そうなんだが、事情が変わったのだよ」

「それは、どう言う――」

「彼は今、入院しているからだよ。それも、警察病院でな」

「入院? 無事だったのではなかったのですか?」

「まぁな。保護したことには変わりないが、どうやら精神をやられているみたいでな。まるで、魂を抜き取られた感じに、抜け殻状態になっているそうなんだよ」

「そ、そうなんですか〜。それは気の毒に。ですが、それもこれも、なぜ、元々公安案件だったものが、私達と共有しないとならないのですか? しかも、何故このタイミングで。はなっから秘匿情報だったんですよね?」

「そうなんだが、公安の言い分によれば、入院している警察病院が私達が管轄下に置く病院なため、この際、情報を共有して欲しいとのことなんだな。まぁ、私達の〝島″に運ばれて来て、秘密を隠したまま、では、どうも彼らは筋が悪いとみたようだ」

「……なるほどですね。なんとなくですが、理解できたかもです」

「それはよかった。まぁ、そう言う事情なんだ。ただ、この件は、限られた人達しか知り得ない情報だ。くれぐれも、公に出すような真似をしないでくれよ」

「当然です」

 

 とは答えたものの、なんだかより重たいものを背負わされたような形で、気分が悪くなりそうではあったが。

 

「そう言う訳だ。サインをお願いしてもいいかな?」

「はい。……あ、ただ、一つ、確認してもいいですか?」

「なんだね?」

「ここにサインして、情報共有したとして、私達は一体、どうすれば良いですか? ただ情報共有しただけ。では、ないですよね?」

「読みがいいな。確かに、情報共有が目的だけではない」

「となると?」

「マグナスCEOの容態に合わせてなのだが、定期的に事情聴取して欲しいのだ。特に、何があったのか? ここを念頭にな」

「事情聴取、ですか」

「そうだ。頼めるかい?」

「……分かりました。では、今まで得たデータ、あとでそちらに提供しますね」

「よろしい」

「それでは」

「恩に着るよ」

 

 その言葉を受けたマギ警部は、スクッと再び席を立つと、一礼。そのまま、署長室を後にした。

 

 後日、データを署長に手渡したマギ警部は、今回のやりとりについても、部下に説明することにした。

 署長、自ら説明してくれるようではあったが、やっぱり、自分の部下だけに、責任感があったのだ。

 けれど、思った以上に反発はなかった。恐らく、先に署長が根回してくれたのだろう。

 お陰で、面倒ごとにはならないで済んだ。ただ、彼らの心境を考えたら、納得行くようなものではないのだろう。

 こればかりは、致し方ないとは思っていた。

 

「マギ警部」

「ん?」

 

 これから、例の病院へ向かおうとするマギ警部を部下の1人が呼び止めた。

 

「また、警察病院に、ですか?」

「まぁな」

 

 すると、彼は

 

「なら、せめて私だけでもいかせてください」

「ついてくると言うのか? これは、強制ではないんだぞ」

「分かっています。しかし、同じ課の者として、マギ警部だけ面会に行くのはフェアではないです。それに――」

「それに?」

 

 僅かに考え込んだかのように黙すと、彼は

 

「みんなで話し合ったのです。流石に大御所帯で行くのはまずいから、せめて代表として赴いてくれと、私に」

「君だけではないと」

「ええ」

 

 連帯責任、か〜

 

「皆も同じか。……分かった。ただ、今回は面会だけだぞ」

「はい、心得てます」

「仕方ないか。分かった、来るといい」

「ありがとうございます」

 

 心意気を否定するつもりもないだけに、部下の彼も同行することになった。

 

 

 警察病院――

 

 最寄とはいえ、本庁から駅を挟んで向かいにあるだけに、車で数十分は取られた。それだけに、まるっきし遠回りさせられた気分。とは言え、渋滞に引っ掛からなかっただけに、まだ、マシな方だとは思った。

 部下を乗せた公用車が、病院の敷地内へと入る。正直、滅多に来るような感じではなかっただけに、なんだか初めて来るような体感を抱いてしまう。

 保護されたディオン=マグナスCEOに関する資料を閲覧していた部下が口を開く。

 

「背後に中華連邦が控えているとなると、誘拐された理由、分かる気がしますね」

「分かるのか?」

「憶測ですよ、憶測。確定ではありません。けれど、確信には近いです」

「確信に、近いか〜。確か、彼はソウルライト研究の第一人者だったよな?」

「ええ。しかし、奇妙なんですよね」

「奇妙?」

「はい。資料は一通り見てはいるんですが、マグナスCEOのプロフィールに関する情報では、第一人者としての地位を確立するための、裏付けとなる実験データが載っていないんですよね」

「載ってない? 概略に絞っただけの経歴だからではないのか?」

 

 そうだとするならば、ことの詳細は別紙となるはず。ここは、見る場所が違うのではないのか?

 

 そんなニャアンスを含ませておいた。けれど、部下はその事には否定的であったようだ。

 

「いえ、そうでもありません。各経歴はリンク付きで詳細が盛り込まれている感じです」

 

 と。

 

「となると、敢えて伏せられている。と言う話なのか……」

「そう見て間違いなさそうです」

 

 うむ〜

 

 思わず唸る。その心境たるや、恐らく、ここでも公安が一枚噛んでいるような。そんな勘が働くもなかっただけに。

 篠崎さん達の誘拐事件と言い、CEOに関するプロフィールによる不審点といい。なんでもかんでも公安が絡んでいると考えると、どうも釈然としないのだ。

 

「署長も含めて、上層部は何を考えているんだ」

「しかしマギ警部、我々には考えても仕方ないことですよ。ともかく、マグナスCEOに会ってからにしましょう」

「そうだな」

 

 とりあえず、それが第一優先。そう自分に納得させた。

 

 某警察病院・施設内に入ると、行き交う人々の光景とガヤガヤとうるさい喧騒がで迎えてくれた。

 パッと見た印象、そこらにある大病院と大して変わらないように見えたが、やはりと言うべきか。

 警察関係者が右往左往しているだけあって、一般の病院ではないことを、すぐに実感させられる。

 余韻に浸っている場合ではないので、そのまま受付へ。簡単な手続きを済ませたあと、CEOのいる病室へと向かう。

 その過程において、中庭のある長いチューブ状の通路を、エスカレーターを使って登っていく。

 建物全体が、まるで一つ一つの区画に分かれたキューブ状になっていて、エレベーターを使って直接上層へ行くのもよし。

 今みたいに、エスカレーターを使って対岸の上層部へ行くのもよし。と、独特な作りになっていることを窺われた。

 やがてエスカレーターを二度使い、ある区画へ辿り着く。そのまま、病室へと足を運び入室しようとすると、なぜかロックがかかっていた。

 まるで、よほど厳重な監視下でも置かれているような感じを醸し出していた。だが、マギ警部は迷わなかった。IDパスを使って入室する。入室すると、そこは個室になっていた。

 

「おはようございます」

 

 妻であろう1人の女性が見舞いに来ていただけに、マギ警部は挨拶を口に。部下もまた、軽い会釈に留めたようだ。

 

「マギ警部さん……」

 

 その妻もまた、こちらの存在を知ってか。軽く会釈した。

 

「容態の方は?」

 

 その問いかけに、佇む女性は

 

「なんとも言えません。起きている事には変わりませんが」

「そうですか」

 

 そのまま、そっとベッドで寝ているであろうCEOの様子を除いて見せる。上体を軽く起こした感じで、彼は起きていた。

 パッと見た印象、まるで人形のような。そんな様子をしていて。胸元には涎掛けのようなものまで付けていて、その目は、まさに死んだ魚のような虚な瞳を湛えていた。

 一目で察したマギ警部は、ポツリと言葉を漏らす。

 

「会話はできそうにもないか」

 

 と。その後、改まって奥さんの方へと向き直りつつ、近くに置いてあった丸椅子を手にとって見せては、部下と共々、座り、面と向かった。メモパットを取り出して

 

「お聞きしますが、なにか変わったことはありませんか?」

 

 問うて見せた。

 

「言え、特に。ただ、運ばれてきた時は、少なからず口に出す感じはありましたが、時間が経つにつれて今のような感じに」

「そうですか」

 

 ちらっと、CEOの方を見、それから

 

「最初はどんな感じだったのですか?」

 

 すると、奥さんは

 

「どうもこうもないですね。あー、とか、うー、とか言う感じくらいで」

「そうですか」

 

 その言葉を聞いた限り、手掛かりはなさそうに思えた。続けて、奥さんは

 

「ただ……」

 

 と前置きしては

 

「はっきりとはしないのですが、時々、こうも言っていたように救助に当たっていた人からは聞かされました。〝私のソウルライトを“と」

「ソウルライトを、ですか?」

「あ、はい。でも、それ以上のことは何も」

 

 とそこで、隣に座っていた部下が耳打ちを

 

「マギ警部。念のために、救助に当たっていた人を訪ねてみては」

 

 それに応えるかのように

 

「ああ、そのつもりだ」

 

 と返すに留めた。奥さんの方に向き直り

 

「分かりました。事情を聞いて良かったです。ありがとうございました」

「いえ、私は特に何も」

「いや、いいんです。こちらとしては、これ以上、深掘りはする気はないので。ただ、簡単な話を聞きたかっただけなので」

「そうですか」

「では、これで私達は失礼致します。ご主人、良くなるといいですね。それでは」

 

 軽く一礼して見せては、丸椅子を元の場所に戻し、そのまま踵を返し、個室を後にした。

 

それから程なくして……

 

 警察病院を後にしたマギ警部は、僅かばかりではあるが、得られた情報を一旦、本庁へと持ち帰る事にした。

 このまま、捜査を継続してもいい気がしたのだが、なにせ、公安が絡んでいる案件。下手な行動には出られなかったのだ。

 

「なんだか、歯痒いですね。やろうと思えば、更なる情報が得られそうな感じもしなくもないので」

「仕方ないさ。0でないだけ、マシと思えば」

「0よりかはマシ、か〜」

 

 反芻するかのように、部下は得られた情報に想いを馳せる。CEOが言っていた言葉、その意味。

 

〝私のソウルライトを“

 

 その言葉を解釈するに、CEOとソウルライトには、因果関係があることには間違いないだろう。

 魂の抜け殻のような、痛々しい姿。

 

 ソウルライトなるものは、自分自身の物なのか?

 

 或いは、

 

 人工ソウルライトのことを指すのか?

 

 そこら辺は確証は得られたものではないが、少なくとも、奥さんの証言は貴重な情報源となり得ることは確かではあった。

 機会があれば、また、彼の元へ訪れよう。深追いすることはできないが、署長から任された案件だ。必ず成果を上げて見せる。マギ警部は、今度こそと静かに意義込んだ。

 

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