モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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2章:新たな出会い・4話

 もし、キャンプ送りとなっていたら、と今振り返ってみればゾッとするような話ではあった。渓流に飛び込む行為=自殺行為=キャンプ送りという一連の流れは、今、こうして無事に岸辺に辿り着いたことを鑑みれば、運良く間違っていたわけであり、なおかつリオレイアからの襲撃から逃れたことも含めて、まさに不幸中の幸いでもあった。だからこそ、今こうして安堵の一息が付けるわけである。けれど、現実的にびしょぬれになってしまったのは確かのはずなのだが、どういうわけか、システム上、びしょうぬれ判定にはならなかった。余計な手間が省けた。俺はそう思っていた。ともあれ、こうなったのも、全部ケインのせいだったわけである。ケインが洞窟なんか行くからこんな目に遭ったわけであり、早速、俺は隣でくつろぐケインに向かって、文句を言いだそうとした。

 ところがそこで、意外な言葉がケインの口から出てきた。

 

「ごめんよ、ユウト。おれのせいで」

 

 勢いをそがれた俺は、そっぽを向く。

 

「ったく、しょうがねえよ、おめえはよ」

「反省してます」

 

 心の底から反省しているみたいな言葉を受け、攻めるに攻められず、俺もまた、座り込んで岸辺をぼんやりと見つめてしまう。

 ざ――、というような渓流の音が周囲を響き渡らせ、それ以外の音をかき消していくなか、俺はため息を零す。

 

「でも、俺も悪かったと思っているよ」

「え!? なんでだ。ユウトは別に」

「俺も乗った口だからな」

 

 そう、乗った口。ケインに「どうみても怯えているじゃん。ユウトらしくないぞ」と言われてから、俺もすっかりムキになってしまった。「乗った口?」と疑問符を浮かべるケインに俺は、そのことを話してみせる。すると――

 

「それは結局俺のせいじゃん。そう言われれば、誰だってムキになるよ」

「それでもさ。もう少し我慢すればよかったなあと、今振り返ってみてそう思うよ」

「んー、ユウトがそう言うのなら……」

「それにさ、情けないと思ってな」

「情けない?」

「ああ。俺、一応、トライアルマスターの称号持っているじゃん」

「まあそうだけど、それが?」

「実はな、トライアルマスターの称号を得る際、一回試練突破の際、リオレイア討伐しているんよ」

 

 そこでびっくりするケイン。

 

「えっ、あのリオレイアをか?」

「そう。確かクエスト名は……狩人と地の女王群奏活劇(アンサンブル)、つったけかな。予め準備されていた装備であったとはいえ、ソロだと困難極めるクエストだったんだな。そんで――」

 

 とそこで、森の奥から突如として悲鳴が上がった。

 

「!?」

「っ!」

 

 俺たちは揃って何事かと思ってびっくりし、互いに顔を見合わせる。

 

「今の聞いたかケイン?」

「ああ、この森の奥からのようだ」

 

 俺たちは即座に立ちあがると、各々装備を一応チェックして悲鳴の上がった方へと駆けだす。

 

 そして、向かい始めてからおよそ5分後……。

 

 奥へ奥へと入っていくにつれ、生い茂った木々によって光は遮られていき、次第に薄暗さが増していく。とはいえ、どこを走っているのかは、表示されっぱなしのマップを見れば一目瞭然であり、悲鳴がした場所もだいたい見当がついていた。というのも、表示されていたマップ上に警戒を意味するアイコンが囲った黄色いラインが描かれてあったからだ。枠の範囲はそれほど広くなく、ぱっと見て手あたり次第探す必要はそれほどはなかった。

 やがて枠の中へと入ると、俺はそこで立ち止まる。

 

「どうやらこの辺のようだ」

「みたいだな」

 

 その台詞から察するに、ケインもマップを表示させていたみたいだった。茂みをかき分けつつ、俺たちは散策を開始する。すると、一匹のランポスがそこにいた。

 ランポス? 悲鳴の正体はこいつなのだろうか。そこにいるランポスを見つめながら疑問に思う。けれど、いやいや、そんなわけがないと否定する。あれは確かに(プレイヤー)の声だった。それも少女の声。ランポスがそんな声を出すわけがないと自分に言い聞かせて。

 

「とりあえず、ランポスを追っ払おうぜ」

「ああ、そうだな」

 

 ケインの意見に同意し、俺たちは動き出す。――のだが、そこでどこからともなく、小さな声が聞こえてくる。

 

「誰かそこにいるの?」

 

 それを受けて「ちょっとまった!」と同じく動き出そうとしていたケインを制止させる。

 

「ん? どうした」

 

 疑問を投げかけるケイン。俺はケインの疑問を無視して、耳を澄ませる。さすがにおかしいと思ったのだろうか。

 

「おいっ、ユウト?」

「しー、静かに!!」

 

 突然そう言われて黙してしまうケイン。一方で俺は、木々が奏でるそよ風の音が時折なびくなか、引き続き耳をそば立てる。そして、しばし様子を窺っている中、時々放つランポスの声、靡く風の音、渓流の流れる音、それ以外の音という音は聞こえてくることはなかった。

 おかしい。さっき、人の声がしたのだが……。そんな感じがしてくる。

 

「ごめん、やっぱり、気のせいだったかも」

「そっかあ。まあ、しょうもねえな」

 

 そう言いながら、ケインはなあんだと言わんばかりに両手を頭の後ろで組み、草木によりかかった。その瞬間、枝葉はバキッ! と折れ、

 

「うわっ」

 

 とそのまま後ろへと引っくり返ってしまう。

 

「いちちちち」

「何やってんだよ~」

「わりい、わりい」

 

 そう垂れこうべるケイン。しかし、ひっくり返ったことが仇となり、目先にいたランポスはこちらの存在に気付いてしまう。早速近寄ってくるランポス。

 

「あ~あ、ばれちゃったじゃないか。おいっ、いくぞ! ケイン」

 

 仕方なしに、ケインを置いてけぼりにして飛び出す。相対する俺とランポス。俺はすかさず抜剣し、切りつけた。真っ赤な閃光が弾け、一撃でのけ反るランポス。そこに3、4度立て続けに切り結びあっという間に断末魔と共に討伐を完了させる。ランポス一匹。あっけなかったなあ、なーんて思う間、先ほど隠れていた茂みの中からケインがひょっこりと姿を現す。

 

「俺の出番、なしってか」

「残念だったな」

「ま、一匹じゃ、しゃあねえか」

 

 なんとなく残念そうな表情を見せる。ほんの少し前までは、どうしようどうしよう、なんて不安がっていたのに、一匹だけとなったらすぐこれだ。あん時のクエスト(青き鳥竜種の群れ)は群れだったから仕方ないにしろ、一匹を相手に余裕こきすぎたような発言はどうなんだろうと思ったりもする。

 

「よくそんなこと言えるよな。あの時はどうしようどうしようなんて言っていたくせに」

「あの時? ああ、あれか。ま、いいじゃないか。俺だって、一匹くらいなら対して恐くないし」

 

 呆れて自然とため息が零れる。

 

「まあいっか。じゃあ、早速この辺を散策しようぜ。ポイント圏内だし」

「ポイントも何も、見つかったじゃん。さっき倒したランポスがそうじゃないのか?」

「ばーか。ちげぇーよ」

「そうなのか?」

 

 わざとらしくボケるケインに、自身のマップを見せてやった。早速解説を入れる。

 

「岸辺で聞こえた声は間違いなく、人の声。んでもって、ポイント対象を発見した場合、このマーカーは消失。つまり、ランポスがポイント対象ではないってことだ」

「ふーん」

「ふーんって」

 

 ――とそこで、近くの茂みがガサガサと動き出した。思わず何事かと思って同時に振り向き、俺は身構える。ケインも同じく身構え、様子を窺っていると、茂みの中からその正体が飛び出してきた。正体は小柄な少女であり、いきなりのことで動揺する中、彼女はケインに抱きついてくる。

 

「な、なんだあー、一体!!」

 

 いきなりのことで動揺しまくるケイン。俺もまた正体が少女(プレイヤー)だと分かって一安心し、剣を収める。一方、少女はケインの懐にうずくまりながら、すすり泣きしているようにも見えた。見るからに俺と同じ片手剣使いであり、その容姿からまだ年端もいかない感じではあった。しかも、よくみると全身震えているようにも見えた。

 

「じょ、じょうちゃんよ。大丈夫か?」

 

 心配になって問うケインに、その少女は怯えた目を向けた。

 一旦、優しく体を放すと、ケインは視線を合わせるようにしゃがみ込む。

 

「何があったのか、このお兄ちゃんに教えてもらえるかい?」

 

 すると、少女は小さく頷きその経緯を少しずつ話し始める。

 

「私、猟団のメンバーに置いて行かれて……」

「置いて行かれた? どうして……」

 

 どういうことなんだ? 興味が沸き、俺もまたその少女の言葉に集中する。

 

「わかりません……」

「わからない、か~。う~ん」

 

 困ったような表情を浮かべるケイン。俺はそこで、表示されていたマップをちらりと目にする。すると、さっきまで表示されてあった警戒を意味するアイコン。そのアイコンが消失されていたのに気付く。どうやらターゲットはこの少女みたいだと知り、それに伴って、さっきの悲鳴の正体もこの少女に間違いないと確信する。

 

「どう思う? ユウト」

「どう思うって。うーん、それを言われてもなあ……」

 

 アイコンの対象者がこの少女だということは間違いない。しかし、狩団のメンバーに置いてかれたというのには、理解に苦しんだ。さっきの悲鳴の件も含めると、やっぱり何かがあったことは間違いないと思うが。

 けれど、このパターンから察するに、はぐれた団員たちを探すといった面倒事は避けられそうにないとも言える。そこで俺は厄介払いのため、こう切り出して見せる。

 

「とりあえず、ハンターズギルドに聞いてみてはどうだ。あとのことはギルドの方で何とかしてくれると思うからさ」

 

 しかしケインは、それを否定する。

 

「そんな悲しいこと言うなよ、ユウト」

「おいおい、面倒事は御免だぞケイン」

「面倒事? 人助けの間違いじゃないのか」

「人助けって……」

 

 どうにも言い出しにくかった。他者との関わりを極力避けたい俺のこと。ケインの前では、この場面に置いて言い出しにくかった。

 

「そうだぜ、ユウト。このパターンから察するに困っている人を助ける。あたりまえじゃないか」

「う、う~ん……。人助けなら、ギルドに任せればいいじゃないか。それこそ確実だと思うけどな」

「確かにギルドに預ければ確実かもしれないけどよ――」

 

 とそこで、少女がすまなそうな表情を浮かべてこう言う。

 

「あの~、それじゃあ……」

 

 慌ててケインは

 

「いやいやいやいや、待てって。こいつもはぐれた団員探すって言うから、それの相談してたわけなんだ。なあユウト?」

「おいっ、俺は別に人助けするなんて言って――」

 

 すかさずケインは、俺の耳元で告げる。

 

「ここはそう言うことにしとけ。お前が他者との関係を持ちたくないのは分かるけどさ」

「う、う~ん。じゃあ、責任は、お前が持てよな」

「す、すべての責任って……」

 

 責任を追うかどうかについて解答に困るケイン。一方、少女は再び落ち込む。

 

「何の話しているの? やっぱりあたしなんか……」

「さっきもいったけど、そうじゃないって。こいつも協力してくれるってさ。なあ」

 

 渋々つられて

 

「あ、ああ。俺たちに任せろよ、な」

 

 と言ってしまう。直後、密かにケインに耳打ちする。

 

「お前頼みだからな」

 

 今度はケインが渋々そうな表情を浮かべて

 

「ああ。任せとけ。てか、なんとかなるよ」

「なんとかって……」

 

 ここでケインは、少女の方へと振り向く。

 

「とりあえずだな。ここは俺たちと一緒にベースキャンプへ戻ろうか。ところで、譲ちゃんの名前、なんて言うん?」

 

 少女は小声でぽつりと答える。

 

「……サユリ……」

「サユリちゃんね」

 

 そう答えるケイン。その様は、まるでこれから誘拐でもしようかと企んでいる誘拐犯を思わせた。俺はケインに聞こえないように、ぼそりと苦笑いして言う。

 

「ちゃんね、って……」

「ちなみにはぐれた団員名とか分かる?」

 

 これもまたか細い声で答える。

 

「肉級カフェ……」

 

 なんだか怯えているようにも見えた俺は、ケインに諭すように告げる。

 

「なんだか、怯えているように見えるじゃんかよ」

「ただ、不安なだけだよ。団員達とはぐれたことがよ。なあ、サユリちゃん」

「だから、そのちゃんづけやめろ」と小声で愚痴る。

 

 さらにもう一つ付け加えると、彼女に向けられたその笑みはどこか気色悪かった。とはいえ、この場でだべり込んでも仕方ないので、

 

「とりあえずだ。一旦、BCへ戻ろう。この場でだべり込んでもしゃあないしな」

「ああ、それもそうだな」

 

 そういうわけで、俺たちはサユリを連れ、できるだけモンスターがいなさそうなルートを通ってBCへと戻ることとなった。俺としては、そのあと、ハンターズギルドにこいつ(サユリ)をさっさと預けて、とっとと面倒事を終わらせたかったのだが、どうもそう簡単には行かない予感がしてならなかった。

 

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