モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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2章:新たな出会い・6話

 湖岸のさざ波を静かに聞きながら、雑木林の中をゆったりと歩いて行く。ここ、ドンドルマの東にある密林エリアでは、俺たち3人、クエスト〝珍しきキノコの特産品〞の名の下、目的の特産キノコがありそうなポイントに向けて散策していた。とりわけ、BCにあった支給品箱から得た生態マップを頼りに歩を進めていくわけなのだが、全体図を見る限り山脈で入り組んでおり、なかなか奥深くまで行けそうにもなかった。

 とりあえず、俺が思うに特産キノコは密林の奥深くにありそうな気もするが、正直言って、どこに生えているのか見当もつかない状況。ともかく、そうゆうこともあってか、キノコが生えているポイントを手当たり次第散策するしかなく、俺を先頭にしてケインとサユリと共に今こうして歩いているわけであった。とそんななかで、サユリがどこか不安そうに語りかけてきた。

 

「何か出ませんよね……」

 

 剣を構えながら、辺りをきょろきょろと見渡す彼女に、ケインは両手を頭の後ろで組み気楽そうに助言する。

 

「だーいじょうぶだって。何かあったらこいつがなんとかするしよ」

「そうですか……」

 

 勝手に安心するサユリ。

 

「全部俺だのみかよ」

「だってベテランじゃん。モンハンの」

「いや、確かにルーキーではないけど。かといってベテランと言われる程大したこと無いぞ。」

「そうかあ」

「そうだって」

 

 そこでサユリはふふふと笑みを見せる。

 

「2人は仲がいいんですね」

 

 それを言われ、俺は思わず照れくさくなった。

 

「そ、そんなわけ……」

 

 けれどケインは

 

「まあな。案外頼れるとこいっぱいあるし。なあ」

「う、う~ん」

 

 断るに断れなく、押し黙ってしまう。

 

「ユウトさんでしたっけ?」

「そ、そうだけど」

「どのくらい前からプレイしてたんですか?」

「そ、それは……」

 

 あまりケイン(と亡き親友晃)以外の人間とコミュニケーションとるのが苦手であった俺は、ここでなんて答えようか迷ってしまう。もし、BTからとか言ったら、きっとこの子はケインに言われた通り頼り切ってしまうに違いない。そうなれば、あまり関わりたくない思いとは裏腹に余計に関わっていくこととなってしまう。つまりそれは、後に猟団と合流した際、面倒な人付き合いが待っているのが目に見えること間違いなしだ。そう考えた俺は、ここでBTからだということは控えるような形で応えようとした。

 ――が、先にケインが代わりに応えてしまった。

 

「BTからだよ。こいつは」

「お、おい。ケインってば」

 

 焦った俺は取り消そうと躍起になる。が、それはもう遅かった。

 

「BT? ああ、ベータテスターのことですね」とBTの意味を思い出す。続けて

「ということは、大分経験のおありなんですね」

 

 もはや隠しようがなかった。俺はため息を漏らし観念して応えてやる。

 

「まあ、一応は、な」

 

 とそこでケインが付け加える。

 

「一応ではないだろう。BTの初期段階からだろうが」

 

 そこまで言うか。内情をばらしにばらされたことでもはや隠しだてはできず、俺は観念してため息を漏らす。

 

「まあ、そんなところだ」

 

 サユリはかなり頼れる存在だということを認識してのことなのか、

 

「なら教官ッて呼ばせてください」

「教官?」

 

 ケインが

 

「経験豊富だからだよ」

「きょ、教官ねぇ~」

 

 こそばゆい感じがしてならなかった。人からそんな呼び名で呼ばれたのが初めてだったことなので。

 後ろ頭を掻きながら、〝教官〞と言う言葉を反芻していく。そうした中で、悪くはないだろうが、なんともなあといった微妙な考えに行き当たった。多分なれていないだけだとは思うけれども。

 

「悪くはないけどさ~。こう、なんというか」

「微妙って言いたいわけか? ユウト」

「微妙だな」

「あまりあっていなかったですか」

 

 サユリが肩を落とす。けれど、ケインは俺の肩を軽く叩き、

 

「まあ、慣れていなくってもそう言うことにしておけよ。きょーかん」

「こそばゆいなあ。その呼び名」

 

 そう言って頬を掻く。内心腑に落ちなかったとこもあるが、ここは一つ、3人だけの通り名ということにしておこう。俺はそう解釈した。――とそんな時、サユリが小さな悲鳴を上げる。俺とケインは同時に彼女の方へと振り向く。

 

「なんだ!?」

 

 とケイン。

 

「あ?」

 

 とだけ応える俺。

 羽音を立てて彼女の横をのそのそとよこぎったのは、なんとオルタロスだった。しかも3匹のオルタロスがのそのそと、驚く彼女をよそにどこかへと向かっている様子から察するに、どうやらこいつらは餌となるキノコを目指しているみたいでもあった。

 

「なんでぇい。ただの虫かよ」

 

 ケインが淡々と感想を述べる。

 

「害はあるの? この虫たち」

 

 わななくサユリ。その様子から、オルタロスを見るのはどうやら初めてみたいだった。

 

「いや、害はなさそうだ。別に威嚇しているわけでもないからな」

「そ、そう……?」

 

 半信半疑のサユリ。俺はここで、オルタロスについて少し知ってもらおうと、ちょこっとだけ解説を交えることにした。

 

「害はないって言っても、大型の方は襲ってくる危険性はあるけどな」

「え、ええー? じゃあ、安心できないんじゃ」

「あれは小型だから、こちらからちょっかい出さない限り……って、おいっ」

 

 話を皆まで聞かず、ケインはいつの間にか嫌がるオルタロスを一匹捕まえ、鋏がある顎部を避け胴体部を抱きかかえるようにして持ち上げていた。

 

「どーうだ、ユウト。試しに捕まえてみたぜぇ~」

 

 いじわるぽい笑みを浮かべて見せびらかす。ルーキーでもこのくらいならできるもんだぜぇ~とか自慢したげな様子だ。

 

「やめておけって。嫌がっているだろう」

 

 サユリも同調したらしく、

 

「そうですよ。やめた方が……」

「まあ、いいじゃないか。ちょっとくらい」

 

 とそこで、他のオルタロス2匹がケインの方へと歩み寄ってきた。鋏をむき出しにして、噛みつこうとする。

 

「おいおい、なんだよ」

 

 仲間を取られたことで怒っていたオルタロスたちのうち、その一匹がケインの足にすかさず食らいつく。

 

「あいて!! いて! なんだよ。あっちいけったら」

 

 足で蹴って追っ払おうと躍起になる。

 

「ほら、いわんこっちゃない。そいつ放したらどうだ」

 

 あまりにも噛みついてくるので、さすがのケインも観念したらしく

 

「しょうがねえな。ほらよ」

 

 と抱えていたオルタロスを地面に下ろしてやった。――とその直後、仕返しとばかりにそのオルタロスがブシュ―と体液か何かを吐きかけてきた。

 

「うわっ!! ぺっぺ。きったねえーなあ。もーう」

「罰が当たったんだな」

「ですね」

 

 防御力ダウンを示すアイコンが表示されるのをよそに、俺とサユリは揃って笑みを零した。そんななかケインが文句をタラタラ零す。

 

「笑ってねえで、これなんとかしろよな。全身から変な湯気まで立っているしよ。おまけに変なアイコンまで表示されてしまうし」

「どっちもしばらく諦めなって。そのうち消えっからさ」

「しょうがねえなあ。もう」

 

 手でぱっぱと払いのけ、渋々諦める。

 

「それよりもさ。オルタロスの行き先、見守ってみようかと思うんだけど」

「なぜだ?」

 

 不思議そうに尋ねるケイン。

 

「オルタロスはその習性から、俺たちと同じようにキノコ採取のために行動するからさ。だから、彼のあとをコッソリと付いて行けば確実にキノコがある場所に辿りつけると思ってな」

「なるほどね~」

「名案ですね」

 

 2人は納得する。

 

「というわけで、ここは一端隠れるぞ」

 

 そう言うや否や、ケインとサユリは俺の指示に従って茂みの中へと隠れることとなった。そして、しばしの間の後、危害を加えていたハンターたちの気配を感じなくなったと思ったオルタロスたちは、また、のそのそと歩きだした。俺達は彼らに感付かれないようこっそりと付いて行く。

そうしたなか、オルタロスの先の方にて、小川の近くでキノコが生えているのを発見する。

 

「おお、あったぜ。あそこに」

 

 ケインは指さして示す。

 

「この後どうするんですか?」

「特産キノコかどうかはここからじゃ視認できないからなあ」

 

 さて、どうすればいいのやらと、しばし考え込む。そんななか、キノコのところに辿りついたオルタロスたちは、早速と言わんばかりにちゅーちゅーちゅーちゅーとそのエキスを吸い始め、その腹部を膨らませていく。俺はそれを見つめながらこう言った。

 

「なにはともあれ、行ってみるっか。その方が早いしな」

「確かに……」

「そうですね」

 

 2人はそう言って納得する。

 

「じゃ、行こうか」

 

 俺達は去っていくオルタロスに続いて、茂みの中から出た。とここで、サユリが何かの気配を感じたのか、後方を振り向いた。

 

「どうした?」

 

 ケインが気になって声をかける。俺も彼女の方へと向く。しかし、すぐに気のせいだったと思ったのか、サユリは

 

「ううん、なんでもない」

 

 とだけ返事をした。俺らもこれ以上詮索せずに向き直って歩き出す。

 キノコ採取ポイントに辿りついた俺たち。採取ポイントでは、サイズが大なり小なりあって蒼いキノコや緑色のキノコやらといろんな色や形をしたキノコがまとまって生えていた。近くによれば、キノコのアイコンが表示され、ここでの採取が可能なことが示される。というわけで、早速、俺たちは特産キノコ目当てで採取を始めることとなった。採取していく上で色んなキノコが取れていく。なかには今作オリジナルアイテムとしてなのか聞いたこともないようなものまでも取れてきた。そうしたなか、〝虹色キノコを手に入れました。〞のメッセージが表示されたり、〝棘ダケが手に入りました。〞のメッセージが入るたびケインは、

 

「なんか、けったいなもんが手に入るもんなんだなあ」

 

 とかあれこれ文句を垂れ流していく。そんな彼に俺は、

 

「まあ、あとで確認してみようぜ」

 

 そう返してやるのだった。一方で、サユリの方は、うまい具合にお目当ての特産キノコが2、3本と採れたらしく

 

「みてみて。特産キノコ手に入ったよぉ」

 

 と見せてきた。

 

「やったじゃねえか」

 

 とケインが共感するが、俺は対して興味がなかった。正直、他人が喜ぶ姿なんて、俺にはどうでもよかったからだ。

 とまあ、そんなこんなで俺たち3人は採取ポイントを、採りつくしたこともありそろそろ切り上げようかと思い立った。

 

「特産キノコ6個か……」

 

 2人の方へと向いて「お前らそろそろいいか?」と尋ねる。

 

「もう少し欲しかったけど、まあいいか」

「私もこの辺で」

 

 2人はOKのサインを出す。

 

「さていくか」

 

 特産キノコの目標個数は50個。3人分合わせたところで、あと、2、3箇所回る必要があったので、俺は次なる採取ポイントを目指し立ちあがった。――とそこで、目の前に一匹のブルファンゴがいた。地面をかぎまわっている様子から、どうやらこちらの存在には気が付いていないとは思うが。

 

「な~んだ、ただの豚かよ」

 

 ケインが軽口を叩く。豚じゃなくて猪だけどなと心の中でツッコミを入れる。地面を嗅いで回っている様子から、そのブルファンゴはこちらの存在には気付いていないみたい。そう俺は捉え、ここはそそくさと面倒な戦闘は避けようと考える。

 

「とりあえず、相手にしないで行こうぜ」

 

「ああ」

 

 とケイン。俺とケインの2人は、その場を後にしようとする。――が、そこでサユリの様子がおかしいことに、俺は気付く。

 

「ん? どうした?」

 

 固まっていて動こうとしない彼女。なにゆえ、どうしたのかとその表情を窺う。すると、サユリの表情は真っ青になっていた。

 

「おいっ、どうしたんだよ」

「どうしたん?」

 

 さすがに心配になった俺は彼女の体をさすった。

 

「おいおい、しっかりしろよ。ただの雑魚モンスターじゃないか」

 

 しかしサユリの返答は意外だった。

 

「あわ、あわ、あわわわ……」

 

 直後――

 

「いや――!!」

 

 甲高い叫び声をあげるや否や、サユリは頭を抱えしゃがみ込んでしまう。その様子から、何か恐怖的なものを感じ取ったらしいことが窺えた。俺たちはこれはただ事ではないと思い気遣う。――が、その悲鳴にこちらの存在を感知したのか、ブルファンゴが、こちらに対して威嚇し出した。これはまずいと思った俺は、身構える。

 

「ケイン、サユリを安全なところへ」

 

 的確な指示を出す。

 

「わかった。ささ、サユリこっちへ」

 

 彼女の誘導が速やかに行われる。一方、ブルファンゴは、しばし、威嚇した後、こちらにめがけて地を蹴って突進してきた。

 〝ガキ―ン!!〞と甲高い金属音を響かせて、ざざざーと後退しつつブルファンゴの突進を斜めで受け止める。そして、今だと言わんばかりに、連続攻撃を浴びせまくった。盛大な血飛沫を上げつつも、ブルファンゴはこちらに振り向き、次なる一撃を加えんばかりに態勢を立て直してくる――が、そこで力尽きたのか、ひっくり返り断末魔を上げた。ふーと息を吐き出し、ケイン達の方へと振り向く。

 

「容体はどんな感じだ?」

「何かに怯えているみたいで、すごく震えているぜ」

 

 俺ははあと息を吐く。どうしたもんかと困ってしまう。そんななか、彼女は何やらぶつぶつと独り言を言っていた。

 

「あれは現実じゃない。あれは現実じゃない。あれは現実じゃない。あれは……」

 

 それは何かからの現実逃避でもあった。一体彼女に何があったというのだろうか。同じくしゃがみ込んで、サユリの顔をのぞく。

 

「おいおい、どうしたっていうんだ。何が現実じゃない、だ」

 

 しかし、サユリからの返答はなかった。正気とは思えない様子に、ケインはしびれを切らして大きくゆすった。それは正気に戻そうと言った行為でもあった。

 

「おいおい、しっかりするんだ。まずは落ち着けって」

 

 そこで、ようやくサユリが我に返り、周囲を見渡した。

 

「私は一体……」

「どうやら気が付いたみたいだな」

「ちったあ落ち着いたか」と気遣うケイン。

 

 サユリは小さく頷く。

 

「やれやれ、一体どうしたっていうんだよ。急に」

 

 彼女の目線に立って、ケインは諭すように言う。

 

「一体何があったのか言ってごらんよ」

 

 すると、その小さな口からぽつりと言葉が漏れる。

 

「……あの時……」

「あの時?」

 

 俺は首をかしげる。

 

「あの時のことを思い出しちゃって。ブルファンゴを見たら……」

「あの時とは?」

「……森丘のエリア14の川辺近くの森で、ブルファンゴの群れに襲われた時のこと」

「森丘のエリア14って……」

 

 そう言えばと思って、俺とケインがリオレイアから逃れてきた矢先に辿りついた川辺のことを思い出す。確かあそこは、マップ上では確かエリア14だったはず。そこで俺はもしやと思った。あの悲鳴はサユリからのものなのではないのかと。

 しかしそれは推測の域でしかなく、俺は続けて彼女の話に耳を傾ける。一方ケインは俺と同じことを思っていた。

 

「森丘で川辺近くつったら、俺たちがリオレイアから逃れた後に辿りついた場所じゃないかなあ。確か」

「ああ、そうだな。俺もそう思っていた」

「だよな」

「それで……」

 

 サユリは続けて話す。その表情はどこか暗そうであった。

 

「仲間の一人が、団長が……ううう……」

 

 話を聞く限り、どうやら団長が犠牲になったことを言っているのだろう。サユリはそのことを振り返るや否や、悲しみが込み上げたらしく、呻き声をあげ泣きだす。とどのつまり、彼女は団長が眼前で犠牲になったことによるショックで悲鳴を上げ、そのことで一時的に記憶が飛んでしまった。そういうことなのだろう。これで辻褄が合うわけだ。

 

「確か、お前の猟団は肉級カフェって名だろう?」

「……そうだよ」

「犠牲になったのは気の毒だったなあ」

 

 他者との関わりが苦手な俺のこと。これ以上かける言葉が見つからなかった。一方、同じくケインもなんだかかける言葉が見つからず困っている様子でもあった。けれど

 

「しばらく、俺たち、席外そっか?」

 

 それを言われ、しばし口ごもるサユリであったが、小さく頷いた。

 

「行こうぜ」

「ああ」

 

 俺たちはサユリに向こうにいるからと告げ、その後、距離をとって、しばし、そっと見守ることにした。

 それからしばらくした後、サユリは気が済んだのか俺たちのところへとやってきた。彼女の口からは、肉級カフェとはどんな猟団なのかといったことも話してくれた。SNSで出会った者から現実(リアル)で出会った者まで集まっている猟団だということ。みんなアイルーやメラルーが大好きな者たち――愛好家であること。それだけでなく、デスゲーム事件が起きて以来、クエストをどういう風に進めていくのかといった方針などもあれこれ話し合ったのだと。それらも話してくれたのだ。

 それらを聞いて、俺は思った。サユリをまだ生き残っているであろうメンバーのところまで送り届けるべきだと。そのことに関してはケインも賛同してくれた。とりあえず、今やっているクエストを終わらせた後、猟団「肉級カフェ」についての情報があるのかないのか見てみようという流れとなった。

 ――とそんなわけで、俺たちはクエストを終わらせるために特産キノコの残りを見つけるべく、その場を後にした。

 

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