モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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2章:新たな出会い・8話

 

 〝 ここで待っていろよな〞

 

 その忠告通り、サユリは生い茂った背丈ほどある草むらで身を潜めていた。イャンクックに襲われてからというもの、恐さでいっぱいだったサユリは未だに両手が小刻みに震えてやまなかった。

 ゲームであってゲームではない。ゲームオーバーが現実における死(確実かどうかも定かではないが)である以上、もう、二度とあんな思いはしたくなかったのだ。団長の死の瞬間、彼女は間近でそれを目の当たりにしていた。だから、同じ様にして自分も死にたくない思いでいっぱいだったのである。とはいえ、一人ぼっちなのは、正直言って心細い。団長が犠牲になったあの時、皆パニックで一目さんに逃げ去ってしまい自分だけが取り残されてしまった状況。それと今回が似ていたのだ。

 両手を揃え、そっと目を閉じる。静けさだけが立ち込める中、遠くの方で大怪鳥が大暴れし、金属音が鳴り響いているのが風に乗って聞こえてくる。

 ほ、っと息を静かに吐く。ただじっと待てばそれでよい。それでよいのだと、自分に言い聞かせる一方、心細いこともあってかケイン達の方へ行きたいと言った思いも募っていく。

 頭では分かっていた。行けばあんな危険な思いをすることになる。下手をすればそれが命取りとなって、今度こそ命が……なんてことにもなりかねないといことも。

 ただただ、時間だけが過ぎていく中、サユリは今までのことを振り返る。その気でなかったものの、共にクエスト同行を許してくれたユウト。さみしい思いをさせたくないと懸命に励ましてくれるケイン。2人への感謝の念が徐々に募り始めていく。それに伴い、このままでいいのかといった思いも……。

 心細いから彼らのもとへ行きたい思い。恐くて踏みとどまってしまう恐怖心。ケイン達を失いたくない名残惜しさ。3つの複雑な思いが交錯し合う。どちらを優先させるべきか悩みだす。3つの思いのうちどれを優先すべきなのかを。

 そして、悩んだ末、サユリが出した結論は……。

 

「っ!」

 

 遠方を見据えて立ち上がる。その表情は凛とした表情であり、何か決意を固めていた。行かなくちゃ。モンスター(イャンクック)の気を引くくらいなら私でも。立ち上がり一歩前と踏み出す。――が、そこで両脚がすくみ踏みとどまってしまう。行きたくても行けない。恐怖心が前へと踏み出そうとするサユリの邪魔立てをする。

 頭では行かなくちゃという決意が込められていたが、心がそれを拒む。葛藤の末、どこからともなくケインの悲鳴が上がってくる。

 瞬間、サユリは、えーい、自棄だ!! ダメでもともと。無理やり恐怖心をねじ込ませ、その場に落ちていた小石を採取してダンッ!! と駆けだした。

 

 

 

 

 風のように駆け抜け、荒れ狂う激戦地へと辿り着く。そこは、怒り狂うイャンクックを相手に狭い地形が仇となってか苦戦を強いられていたユウト達の姿があった。

 

「何のこれしき!!」

「無理するなケイン。ここは俺に――くっ!!」

 

 両者の戦いを見るや、サユリは一目で付け入れる隙がないのではと思った。けれど、ここに来たのは、ここで立ち止まることではない。非力ながらでも彼らを手助けするため。そのためにここに来たのだ。

 今度こそ変わって見せる。猟団内にいた時、何もできずに周りに助けられてばかりだった自分。それを変えるために。サユリは手にしたままに小石を力強くぎょっと握りしめ叫んだ。

 

「ケイン!! ユウト!」

 

 彼女の声に反応して、ユウト達がこちらを振り向く。

 

「さ、サユリ!? っ! ここで何しているんだ!! 早くここから逃げろ!!」

 

 ユウトの怒号が響き渡る。怒号に一瞬たじろいでしまうサユリであったが、ここは退かない。自分だって戦力になる。なって見せる。その思いの下、彼女は言う。

 

「いやです!! 私も戦いたい」

 

 しかしユウトは

 

「んなこと言っている場合か。死にたいのかおめぇは」

「危険なのは知っている。だけど、自分だって戦いたい。ユウト達の力になりたい」

「ったくもぉー」

 

 埒が明かないと来たのか、ユウトは言葉を詰まらせる。そこへ捲し立てるようにサユリは続けて

 

「今度こそ変えて見せるんだ、自分を。えーい!!」

「や、やめろー!!」

 

 言ったそばから、ユウト達の不利な状況を変えるべく、サユリはユウトの制止を振り切り、戦況打破の一手として手にしていた小石をイャンクックへと投げつけた。

 小石はきれいな放物線を描き、怒り狂うイャンクックの脚に命中する。とその直後、イャンクックはサユリの存在に気が付いた。クェー!! と凄まじい遠吠えを発し、巨大な嘴で地面を激しくつっつきながら火炎を零して迫り寄ってくる。

 一方でサユリは、その怒り狂うイャンクックが迫りくくるのを目の当たりにし、今までの勇気が嘘のように消し飛び、再び足がすくんでしまう。

 まるで金縛りにでもあったかのように動かない体。死が間近に迫る中

 

「あわ、あわ、あわわわあわわわわ……キャー!!」

 

 そして、振りかざされた一撃がサユリへと振り下ろされる。――と同時に

 

「どけっ!!」

 

 と誰かに吹っ飛ばされた。直後、

 

 ガキ―ン!! 

 

 と激しい金属音を響き渡らせる。

 

「あたたた…」

 

 尻をさすりながら何事かと思い前方を見る。するとそこには、ユウトがいた。強烈な一撃を貧弱ながらでもその小さな楯で防ぎきっていたのであった。

 

「ユウトさん」

「これでわかっただろ。今のうちにここから逃げろ」

 

 こっちを見ながら再度忠告するユウト。サユリは視線がそれていたユウトにイャンクックの尻尾攻撃が振りかざされようとしていたのを目撃する。

 

「あ、危ない!!」

 

 言われて振り向いた直後、ユウトは振り回された尻尾の一撃に吹き飛ばされてしまう。地べたを転がり、草むらの中へと消えていったユウト。取り残されたサユリは、再度差し向けられた敵意に再び氷漬けにされてしまう。が、そこへ、ケインの気合い声が聞こえてくる。

 

「でりゃあー!」

 

 しかし、一撃は虚しく弾かれ、バランスを崩してしまう。今度はケインの方へと向けられ、それに気付いたケインは一目散に駆けていく。

 小走りで後を追いかけていくイャンクック。草むらから這い出てきたユウトは、ケインとイャンクックの後を追いかけていく。取り残されたサユリは、呆然と立ち尽くす。

 結局、何もできなかった。そんな虚しさでいっぱいになる。それどころか、彼らにまで危険が及んでしまった。そんな罪悪感までもが込み上げてくる。一層のこと、このまま待っていようか。何もできない自分を受け入れて……。

 

 だけど……

 

 サユリはどうもこうも悔しさがあった。本当にこのままでいいのか。このまま変えられないでいいのかといった悔しさが。

 葛藤する。

 葛藤しまくる。

 自分を変えたい。でも、変えようとすれば仲間に危険が及ぶ。どうしたらいいのか。

激しい葛藤の末、彼女の出した結論は……。

 再び立ち上がったサユリは、再び彼らのもとへと駆けていく。思いを伝えるために。タッタッタ、と彼らのもとへと駆けつけたサユリは、ありったけの思いをユウトに伝える。

 

「私も一緒に戦う。 どうしても戦いたいんです」

 

 しかしユウトは

 

「また来たのかよ。だからあっちに――」

「それは嫌。もう退かない!」

「ったくもー!!」

 

 とうとう根負けしたユウトは、戦闘の合間を縫ってため息を零す。そして、サユリの思いが届いたのか

 

「どうなっても知らんぞ。そうだな……。何か投擲アイテムはあるか?」

 

 そう言われて、ささっと軽快な操作でウィンドウ画面を開きアイテム項目を出す。視線を下げていく中で閃光玉を見つけ出し、そう言えばと思い出す。

 そう。この閃光玉は、団長がサユリへ、お守りとしてもらったものだったのだ。団長いわく、

 

 〝これは大事に持っていろ。お守りだから〞

 

 そう語ってくれたことを今さらになって思い出したのだ。今しかない。今が使う時なのだ。彼女はそう決心してその閃光玉を選択。手にする。

 

「あります。閃光玉なら」

「だったら、俺の合図で投げてくれ。お前の役目はそれだからな」

「はいっ」

 

 サユリは笑みを見せた。乱闘が続く中、時は来る。

 

「今だ!! サユリ! 投げ付けろー!」

 

 合図と共に彼女はイャンクックの眼前へと閃光玉を投げつけた。直後、周囲一帯をまばゆい閃光が走る。目で直接見てはいけない光に、咄嗟に彼女は後ろに振り返る。閃光が迸る中、自分の影がはっきりと見え、それ以外が真っ白な世界を彩る。やがて閃光が消え去ると彼女は向き直った。イャンクックはめまい状態になり、フラフラとなっていた。そしてそこに、ユウトやケインが果敢に飛び出して行こうとしていた。

 

「でかいしたぞ、サユリ」

「サンキューな」

 

 両者の感謝が聞こえてくる。そして、これがチャンスだと思っていた彼らは、果敢にもイャンクックへと切りかかっていった。

 弱点である翼を集中攻撃され、バシュー、バシューと激しい血飛沫を立て、イャンクックは何度も怯む。やがて、猛攻に耐えかねたのか、翼を大きくはためかせ風を起こしたかと思うと、舞い上がった。

 

「あ、こら! 待ちやがれー!!」

 

 ケインが追い打ちをかけようとジャンプしまくる。

 

「そんな奴、ほっとけよ。もう」

「いいのかよ?」

「いいんだ。それにペイントボール付けるの忘れてたし」

「まあ、確かにな」

 

 言われて同意するケイン。彼は頭を掻く。

 

「それよりも」

 

 とここでサユリの方に視線を向ける。彼女はすかさずぺこりと頭を下げる。

 

「ごめんなさい」

「ったくもぉ~。無茶しすぎなんだよな」

 

 と先までのサユリの無茶っぷりを見てきたユウトは、そこで呆れかえる。でも、ここで意外な言葉が返ってきた。吐き捨てるような感じではあったが小声でこう照れくっさくこう言う。

 

「でも。……なんだ、その……、おまえ勇気あるよな」

 

 それを言われ感動したのか、やや涙目がちで彼女は応える。

 

「う、うう……。あ、ありがとう……」

 

 その様子からに、ユウトはやや慌てる。

 

「お、おい。泣くなっての。……ったくも~。世話焼けるぜ」

 

 一歩踏み出した彼女の心は、自信と充足感で満たされていた。

 

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