モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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3章:越えるべき壁・1話

 

 〝佐々木 由里〞

 

 それが彼女の名前。そして、この真っ白な空間で覆われた個室は、まさに彼女のために用意されたものでもあった。

 VRSを被りながら病床に横たわる由里の姿は、まさにヘルメットを被った人形とでもいうような有様であった。実際には生きているのだが、呼吸をする際の胸の鼓動以外微動だにしないその様は、まさにそう例えるほかはなかったのである。そんな由里の前にて、数人の人が見守っていた。そう、彼らは皆家族。彼女の容体を心配してか、入院中の由里を見守りに来ていたのであった。

 

「由里……」

「お姉ちゃん……」

 

 母・佐々木 裕子や弟が気にかけて、声を掛け合う。特に弟――佐々木 翔は由里ことお姉ちゃんのことが大好きであり、いつの日にか元気になって一緒に遊ぼうと夢までに見ていた。実際には、彼女の患った不治の病――ALS〝筋委縮性側索硬化症〞の前では、そんな夢は大して叶いそうにないことなんか頭では分かっていたのだが。

 とまあ、とにかく翔はお姉ちゃんの容体を凄く気にしていたのであった。――とそうしたなか、個室外からノックの音が聞こえてくる。

 

「失礼します」

 

 どこかよそよそしい声が聞こえてくる。ドアはゆっくりと開き、白衣を着た若者が入ってきた。

 

「伊藤先生、お待ちしておりました」

 

 父・佐々木 龍が言う。

 

「容体はどうだろうか……」

 

 尋ねながら入ってきたドクターは、直で由里の前へと歩み寄ってくる。覗きこむようにして、そして、データや触診などを適当にやった後、一安心したかのように息を吐く。

 

「娘の容体はどうなんです?」

 

 母が心配して尋ねる。

 

「まあ、症状の方は大分落ち着いているから今のところは大丈夫だろう。ただ……」

 

 ドクターは視線を一箇所に集中してにらむ。母も父もドクターの行動を察してか、どこか罰が悪そうに伏し目がちとなる。

 一方、翔は伏し目がちとなってしまう両親を見て、父さんから買ってもらったばかりのVRSが入ったスポーツバックの方に思いを寄せる。正直、複雑な心境でもあった。買ってもらったことには嬉しいことなのだが、まさかこのような事態となるとは思ってもみなかったのである。COMがもたらしたデスゲーム事件によるユーザーの意識の隔離。その隔離されたユーザーの中には由里も含まれていて、その実、VRSへの恨みと言うべき心境も相まっていたいたのだ。

 翔は立ちあがって、スポーツバックのある棚へと歩み寄った。ジーとチャックを開け、中に入っていたVRSを取り出す。ずっと見つめてはいたが、そこで気持ちの中で恨みと言うべきものが勝ってしまい、

 

「こんなもののために、お姉ちゃんは‼︎」

 

 と吐き捨てるかのようにして廊下の方へと投げ飛ばしてしまう。

 思いっきり転がったVRSは、廊下の端に、ドンッ!! とぶつかり、そこで止まる。一方、その様子を見ていた母は、将の方へと歩み寄ってきた。そして、しゃがみ込んでは、彼を後ろから優しく抱きしめる。

 

「翔……。VRS(ゲーム機)が憎いのは分かるけど、投げてはいけない」

「分かっている。分かっているよ」

「だったら……」

「でも、お姉ちゃんが……」

「その気持ち、ママも一緒。パパも気持ちは一緒だと思うよ」

「うう……」

 

 堪えようもない悔しい気持ちが涙となって溢れてくる。VRSが、MHA・Oが、すごく憎い。あのせいでお姉ちゃんがこんなことになってしまったのだから。翔は拳を強く握りしめる。自分ではどうしようもない無力感。そして、それに対する自分への怒りも含めて。だが、そっと静かに息を吐くと、母の手から離れ転がっているVRSを拾い上げる。VRSを抱えたまま、翔は姉のもとへと歩み寄る。パイプ椅子にVRSを静かに置き、そして、姉の手をそっと握る。

 静かに語りかけるように言う。

 

「僕、信じているよ。いつか必ず戻って来てくれることを。だから、がんばってね、お姉ちゃん」

 

 それは決して叶うはずもない願いにすがるかのようなものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 辺り一面。それはもう、並みならぬものが漂っていた。臭い。そう、臭いだ。それも凄く臭いうんこの臭い。嗅げば嗅ぐほど、嗅覚が狂ってしまうほどの臭いであり、まさに鼻が曲がるとはこのことを意味していた。とは言え、臭いを放っていた原因は排除したことには間違いなかった。桃色の体毛に覆われたゴリラ的な牙獣種。いわばコンガは、俺たちの手で排除したのであった。数匹のコンガの遺体を一瞥し、鼻を手で押さえながらケインは考察する。

 

「にしても、こんなに臭いの残していりゃあ、畑もダメになっちまうものなあ」

 

 同じく俺も鼻を手で押さえながらそれに応える。

 

「だろうな。だからそのための支給品があるだろう。これが」

 

 そう言って、俺はアイテム欄から一種の消臭剤を取り出した。正式には、田畑用消臭剤というものだが、これは一度散布すれば、そのエリア内の臭いは一瞬で消えると言う優れものであった。

 

「もーう限界。とっとと、散布しようユウト」

 

 サユリもこれ以上我慢できないと言った様子で、険しい表情をうかばせていた。

 

「そうだな。確かにこのままでは気が滅入りそうだな」

 

 早速と言わんばかりに、俺はその消臭剤を散布した。ばふーん、という破裂音がしたかと思うと、時折吹く風が青白い粉を巻き上げエリア全体に広がっていくのを垣間見る。――と同時に、今まできつかった臭いも、嘘のように消え去っていく。

 

「ふぅー、これでやっとまともに息ができるぜ」

 

 実際には呼吸なんてものは、このVRの中では無意味なものなのだが、それでもケインは深々と深呼吸をした。する意味、分からなくはないのだけれども。とはいえ、俺もまた、ケインに続いてとはではないが、心底ほっとしたことには変わりはなかった。

 

「これでこのエリアは大丈夫ですね」

 

 サユリが安心しきったように言う。

 

「ああ、だろうユウト?」

「あ」

 

 確かにこの場はこれでよかったと思い頷く。今回のクエスト〝畑を荒らす獣たち〞では、指定されたエリアにいる指定されたモンスターを狩りきればあとは田畑用消臭剤を散布して終りのはず。クエスト要件ではそんな感じで書いてあったのだから間違いないと思っていた。

 ちなみにモンスターと言うのはコンガのこと。汚臭の原因モンスターを排除せよとかなんとか書いてあったので、当たり前だが、速攻で対象モンスターはコンガだと見抜いたのだ。とは言え、コンガの数がやたら多いのが気になるところ。本エリア内に20匹近くいたのには、なにか引っかかるようなものがあった。

 

「とりあえず、次行こうぜユウト」

 

 ケインに誘われるがまま、俺はそれに従った。――とまあ、話はここで一旦脱線するが、そもそも今日という日は、猟団〝肉球カフェ〞の面々がサユリ以外全滅してからおよそ2週間くらい経っていた。その間、思い返せば色々な出来事があったのは言うまでもない。例えば、サユリの装備調整をするべく色々なクエストにでかけ、それに伴ってHRを上げてきたこと。サブクエストを進めサブオプション的な要素(例えばアイテム収納数を増加したり、部屋の模様替えができるようになったりなど)を増やしてきたこと。親睦を深めより一層絆が深まってきたことなどだ。特に彼女の部屋に、いや、彼女だけではない。ケインや俺もだが、マイハウスにコックアイルーを雇いキッチンが使えるようになったのはかなり大きなニュースとして記憶に新しいのだ。そんなわけで、ここに至るまで色々あったわけである。

 そんな感じで思い返しながら歩いていた俺は、ここで次なるエリアにすぐ辿りついた。一見して開けた場所であり、守るべき畑が段々畑となって連なっていた。見るからに前のエリアよりも3倍はあるような広さである。

 

「ひえ~。広いねぇ~」

 

 ケインが感想を述べる。サユリも続けてうわ~と声を漏らし遠望する。俺は周囲を見渡し、対象となるコンガを見つけていく。そうしたなかで、俺は、ん? となるモンスターを発見する。

 

(メラルーか……)

 

 手癖が悪く少々厄介そうなモンスターメラルーが4匹ほど、たむろしているのを目撃する。うかつに手が出しずらいと思った俺は、いくら雑魚相手とはいえ周囲に生い茂る茂みの位置取りを利用する策を考案。ケイン達に自分の考えを提案した。

 

「なあ、お前ら」

 

 それを受けてケインとサユリが振り向く。

 

「ああ、どうしたユウト?」

「ユウトさん?」

「これ言って思うのだが、広いからって勝手に飛び出そうなんて思っちゃいないだろうなあ」

 

 ちょっとみずくさいことを言ってみる。

 

「えっ、なんでだ?」

 

 疑問符をを掲げるケイン。サユリも同じくキョトンとする。

 

「だからさ。広々としているから、思いっきり羽伸ばそうなんて思っているのかと思ってな」

「確かに、これかそれをしようなんてというのも思っていたけれど、なんかまずいことでもあったのか」

「やっぱり思っていたんだ」

「ま、まあな。でも、問題か?」

 

 ここで俺は、自分の考えを率直に言い出す。

 

「取り立てて言えば、問題だな。一見してコンガ討伐に簡単そうに見えるが、あそこに……ほら」

 

 と、メラルー達がいる方へと指をさす。ケインとサユリは、揃ってじっと目を凝らしてその方へと目を向ける。

 

「あ、あれは」

「メラルー、ですね」

「そうそう。普通にコンガ潰しに突っ込んで行ったら、恐らく、どさくさにまぎれてメラルーの格好の餌になりかねない。ってわけさ」

 

 それを聞いて、2人はしばし考え込んだ後、なるほどねぇと、少なからず理解を示す。

 

「けれどよ。それなら、近寄らなければいいんじゃないか?」

 

 今度はケインが提案する。確かに近寄らなければ、というよりも騒ぎ立てなければあいつらは来ないのは当然でもあった。

 だけど……

 

「それは難しいと思うな」

「なぜだ?」

 

 キョトンとしてケインが疑問を投げかける。俺は見つけた時のコンガの特徴を簡素的に説明する。

 

「なぜって、それはこっちに気付くと、あのゴリラ、腹を鳴らすからさ」

「腹を鳴らすって」

 

 苦笑いをする。

 

「腹を鳴らすってポンポンと太鼓叩きみたいにです?」

「んー、なんというか……」

 

 どう説明してよいものだろうか。俺は表現の仕方に困ってしまう。確かに腹を鳴らすというのはあっているのだが。

 ――とここで、

 

「ま、いいさ。どの道聞いてみれば分かることだし」

「ま、まあな。その方が早いな」

 

 しかし、サユリは興味本位で願望を口にする。

 

「実際に聞いてみたい気もするなあ。わたし」

「聞きたいって、そんな可愛い声鳴らすわけでもないぞ」

 

 ゴリラ風情の声音なんてどうでもよかったのだが、どういうわけか興味があるのだろう。きっとコンガ自体、その生態についてほとんど知らないみたいだった。

 

「でも、聞きたいな。それに見た目も、なんだか可愛いし」

 

 と、ここで彼女は勝手に妄想の世界に浸ってしまう。俺は半ばあきれて物が言いだせなくなってしまった。

 

「で、さあ」

 

 とそこで、ケインが話を無理やり戻してくる。続けざまに

 

「話を戻すけど、じゃあ、一体どうやって討伐していくんだ? ユウトなりに考えがあるんだろう?」

「あ、ああ。あるにはあるさ」

 

 そこで俺は周囲に生い茂った茂みに再び目を通す。確かに茂みは周囲に広がっている感じではあったけれど、その繋がり方で、メラルーが群がる場所まで生い茂っているのが特徴でもあった。そこで俺はこう説明する。

 

「周囲に生い茂っている茂み。こいつを隠れ蓑にしてメラルー達に近寄っていくのさ」

「メラルーから? コンガが先じゃないのか」

「確かにコンガが先だと手っ取り早く狩っていけるのは間違いないさ。でも、一撃で仕留められるほどあいつら雑魚ではない。それに見つかったら、あいつら腹を鳴らしてしまうじゃん。そうなったら、メラルー達にも気付かれて、いずれは乱戦状態に突入。あわよくば、気付けばアイテム盗られ放題になってしまうぜ。てか、その説明、先も話したぜ」

 

 そこで思い出したかのように、ケインは

 

「ああ、確かに」

 

 と言い、ぐうの音も言えなくなてしまった。俺は続けて本作戦について話し出す。

 

「とりあえず、茂み伝いにメラルー達に近寄って、一斉にメラルー達を追っ払いそれからじっくりとコンガを始末していくのが妥当なところってわけだ」

 

 頭を掻きながら、上の空で

 

「まあ、俺はそんなに詳しいわけじゃないし」

 

 と答えるケイン。曖昧な態度からして、作戦立案関係はユウトに全部任せるよ的な完全人任せ状態になっていた。

 一方、サユリはケインほどではないにしろ、お任せします的な感じがみて取れていた。いずれにせよ、2人からはこれ以上の案は出なかったこともあり、流れ的に俺の案で作戦を進行していくこととなった。近くの茂みからガサガサと割って入り、突き進んでいく。しばらく進んだところで、ケインが愚痴をこぼした。

 

「こんな面倒なこと。あの時のモンハンだったらせずに済むのになあ」

 

 あの時のモンハンとは、俺たちがまだPSP(正式には、PSPX)でモンハンをやっていた頃のことを意味しているのだろう。確かに、こんなVRなんかでちまちまやるよりかは、大体的に攻めていけて楽って言えば楽ではあった。俺も、今となってはあの頃の方がなんだか懐かしく思っていた。けれど現実は違う。現実は正真正銘のVRであり、それも一回のキャンプ送りが現実世界での死を意味すると言うデスゲーム。ここのとこ思うのだが、こっちが現実で向こう(現実世界)が仮想世界と言った真逆の錯覚を覚えてならないのだ。

 俺はここで一つ、ケインの愚痴に共感してため息を漏らす。

 

「同感だ」

 

 一方、俺たちのやり取りを少なからず最後尾で聞いていたサユリは、なんのことかさっぱりだったらしく、そこで首をかしげる。しかし、俺にとってはそんなことはどうでもよかった。こっちの話だから関係ないのだと。

 歩を進めていく中で、次第にメラルー達のかわいらしい声が聞こえてきた。といっても、にゃーにゃー、しか話さない彼らは、何をしゃべっているのかさっぱりではあったが。でも、近くに来たからには、こちらの存在を知れてはまずかったので、ここいらで注意を促すべく、さっと手を出し待ての合図を出す。思わずにと言った感じで、当然のごとく踏みとどまるケイン達。

 

「どうやらそばまで来たみたいだぜ」

「近くで見てみたいです。子猫ちゃん」

「俺も」

「しー!! ちと黙ってろ!」

 

 悪びれた様子で、2人は

 

「すまねぇ」

「ごめんなさい」

 

 と軽く会釈する。一方俺は、すぐさま向き直ってメラルー達の動向を窺った。

 様子からして、焚き火を取り囲むようにして縁談しているところ。隙だらけと言えば隙だらけであった。バチバチと燃え上がる炎のエフェクトが場を和ませている中、まさにこれから起こるであろう惨状の前触れもなくしてとはこのことでもあった。俺は柄に手を宛がい、いつでも飛びだせるよう身構える。

 

「いいか、俺の合図と共に一斉に斬りかかるぞ」

「ああ」

 

 

 反応よくケインが答える。一方、返答のなかったサユリの方に視線を向けると、どことなく躊躇いが見え隠れしていた。なんだかメラルー達を狩りたくないような気持が見え隠れしている感じがしていた。

 

「ん? どうした?」

「う~ん、んっ! あ、う、うんうん。なんでもない」

 

 とこちらの視線に気付いてか、せわしなく取り繕った。

 

「うーん、当ててやろうか」

 

 唐突にそう言われ、サユリは

 

「えっ」

 

 とだけ答える。

 

「ずばり、あれだろう。狩りたくねぇんだろう?」

 

 さしものサユリも、どうやら図星のようでそこは

 

「うっ」

 

 となった。視線を泳がせる彼女に、俺はため息交じりに呆れてこう述べる。

 

「あのなあ。ここにいるメラルーは街にいるメラルーとは違うんだぜ。かわいくてとかは知らんけれど、やりたくなけりゃあここにいてもいいんだぜ」

 

 言ったそばから、我ながら冷徹な意見だと今さながらに気付く。少々しまったあとは思ったけれど、今さらながら遅いとも思いここで口を閉ざす。

 一方、対するサユリは、当然ながら返答に困ってしまい

 

「う、うう~ん。そ、それは……」

 

 とどことなく悩む仕草を見せ始めた。恐らくであるが、自分好みのメラルーを狩りたくない。でも、狩らなければクエストを終えることができない。そんなこんなで葛藤していると言ったところなのだろう。俺は彼女の返事を待つ時間に煩わしく思い事を進めた。

 

「じゃ、俺たちは先に行こうぜ」

 

 ところがそこで、サユリが勢いに乗って、しかし、静かに意見を述べる。

 

「行きます。私も行く」

「いいのか? 相手はメラルーだぞ」

 

 改めて言われ、少しうなだれるそぶりを見せるサユリ。しかし、彼女の意思は固かった。

 

「でも、行きます。でないと、クエスト終わらないんでしょう?」

 

 逆に質問されて戸惑ってしまう。

 

「ま、まあな」

「なら行きます。本当は傷つけたくないけど」

「う、う~ん……」

 

 本当はこの後、傷つけるも何もないんだけどね、と言おうとしたが、成り行きで黙り込んでしまう。かわりについて出た言葉と言えばただの返事であった。

 

「わかった。じゃあ、行こうか」

 

 ――と、こうして、俺ら3人は改めてくつろいでいるメラルー達に相対することとなった。茂みの中から顔を出し、眼前のメラルー達を睨む。そのなかでそっと横目でサユリをみれば、どこか複雑そうな感情がみて取れていた。それもあってか、ごくりと唾を飲み込む。

 その様子からして、やっぱりまだ葛藤しているんだろうと思った。

 

「じゃ、行くぞ」

「ああ」

 

 とケイン。サユリは頷く。そして、5カウントが始まり――4――3――2――1――0――GO! の合図と共に、俺たち3人は一斉に斬りかかった。先陣駆け抜けるかのように、俺は寝ころんでいるメラルーに斬りかかる。

 

 フギャー!! 

 

 さしものメラルーも、吃驚仰天と共に悲鳴を上げ、血飛沫のエフェクトをまき散らす。ケインは俺の後を追いかけるように、焚き火を挟んで反対側のメラルーに太刀(鉄刀【楔】)を浴びせ、サユリは……やっぱり、切り捨てることは厳しかったのだろうか。焚き火を飛び越え、うとうとしていたメラルーめがけ、蹴りを一発ぶちかますのみだった。

 そう言うこともあって、場は一瞬にして惨状? と化す。メラルー達は大混乱に陥り、それでもなお、俺は残ったメラルー達にも容赦のない斬撃を浴びせていった。とはいえ、斬られたメラルーは。いや、アイルーもそうなのだが、この種の獣人族モンスターと言うのは、他のモンスターとは違い、斬られても死ぬことはない。吹っ飛びはするものの、自身の体力がなくなった地点で地面を掘り強制退散と言う形をとるのだ。そのことを知らないでいたサユリは、ふと見た際、血飛沫を上げ斬られたメラルーが逃げていく様を見て拍子抜けてしまうのだった。

 メラルーの数がそこまで多くなかったこともあってか、周囲のコンガたちにはあまり気付かれることなく済んだ。と言っても、〝あまり〞ということなので、一、二匹はさすがにこちらの存在に気付いてしまっていた。幸いなことに敵だと知らせる腹鳴らしはしなかったものの、こちらの存在に興味を抱いてはやや警戒しつつ近づいてきている感じではあった。いずれにせよ、討伐対象であったこともあり、このまま迎え撃つこととなった。

 ――とそこで、

 

「キャー!!」

 

 サユリの悲鳴が聞こえてきた。

 

「なんだ!?」

 

 ケインがそちらの方へと向き、俺は横目で何事かと確認する。すると

 

「あれ? サユリ。おーい、どこ行ったんだ?」

 

 どうやら悲鳴と共にサユリが行方不明となったみたいだ。とはいえ、今はサユリの捜索どころではない。向かってくるコンガ。これを先に肩付けるのが先だった。

 

「ケイン、サユリの捜索、お前に任せる」

「えっ、俺かよ」

「お前しかいないからさ」

「まあ、そうだな。了解」

 

 頭を掻きながら、さりげなく応える。一方俺は

 

「任せたぞ」

 

 とだけ答え、再びコンガに相対。そして、一番先に飛び込んできたコンガを出迎えた。コンガのボディープレスが宙を舞う中、俺は横に跳び退りこれを回避。側面からズバズバと何度も斬りつけてやる。出血の量からして、やはり片手剣だけあってコンガに対するダメージ量は少なく感じられた。それに伴って、相手に深手を負わせるまでにはなかなかいきずらい感じでもあった。

 続いて2頭目のコンガが突進してくる。俺は盾を構え出迎え、

 

 ガキ―ン!! 

 

 と衝撃音を響き渡らせこれを防ぐ。間髪いれず、盾越しから軽い一撃を食らわせ相手を怯ませた隙、俺は後方へと飛び退り2頭との距離をとった。

 一撃で決められるほどの攻撃力を持ち合わせていないだけあって、長丁場は避けられるものでもなかった。ゆえに戦況が長引けば他のコンガたちも集まっていき戦況はますます不利になる一方。俺としては早く片を付けさせたかった。

 

「てりゃあー!!」

 

 の気合い声と共に俺は地を蹴って駆けだす。そして、どんくさい反応もあってか、一撃がコンガの顔面に見事にクリーンヒットした。顔面を切られたことで顔を庇い慌てふためくコンガ。俺はすかさず、次の一撃をお見舞いし、立て続けにコンボを繰り出していく。

 ズバズバと切り刻んでいく中、もう一頭のコンガが仲間のピンチに鼓舞するかのように腹鳴らしをし、向かってきた。まずいと思った俺。最後の一撃を繰り出した後、周囲を見渡す。すると、そこにはこちらの存在に気付いたコンガたちが一斉に腹鳴らしをしているではないか。

 このままではまずいと思った俺は、勢い付けて先ほどまで切り刻んでいたコンガをそのまま気合いで斬り倒す。

 

「ケイン! サユリは見つかったか?」

 

 サユリの所在を聞く。すると

 

「いや、どこにも……」

 

 とその直後、

 

「ん? 尻?」

 

 そして――

 

 ぶわ――ん!!

 

 強烈な屁が、茂みの中を漁っていたケインの顔にぶっかけられる。

 

「うわあなんだ。ぺっぺ。くっせぇー!!」

「おいおい、何やっているんだよ」

 

 あきれ果てため息が漏れる。

 

「だってよ。いきなり、尻が出て来たんだぜ。それも茂みの中からよ」

「それは恐らく、コンガだ。そいつの始末は分かるよな」

「ああ。……ったく、しょうがねえな。って、ん?」

 

 何かを発見したのだろうか。ケインはコンガの後方にいる何者かをジ―と見つめていた。だが、それもすぐに正体が分かった。

 

「さ、サユリじゃないか!?」

「け、ケインさん」

「おい、大丈夫か」

「私は何とか。でも、コンガが」

「分かっているって。ユウト、こっちは任せておけ」

「当然だ。頼んだぞ」

 

 再び俺は、眼前の残り一匹のコンガに目を向けた。これで倒せばとりあえずは。しかし、少しばかりの余裕ができるとは言え、先ほどこちらに気付いてしまった周囲のコンガたちが襲い掛かってくるのも時間の問題。どの道予断を許さない状況だった。

 

「うおおお!!!」

 

 再び地を蹴って眼前のコンガへと立ち向かっていく。一方、コンガは一頭目の二の舞になるまいとして、ゼロ距離で俺が斬りかかろうとした寸前のところで後方へと交わしてしまう。

 

「くっ」

 

 空振りに終わる攻撃。直後、コンガはその隙を狙って突進をしてくる。当然、盾を前面に出し防御。ずっしりと重みが伝わってくる。盾の背後から剣先を突きだし、コンガに一撃をお見舞い。間髪いれずに連続攻撃を叩き込んだ。 一撃一撃が軽いとは言え連続攻撃はさすがに答えたのだろうか、血まみれの状態でコンガはその場で倒れ伏す。

 

「ふぅー」

 

 額の汗をぬぐい周囲を見渡す。段々畑の麓であるがためにこちらへと向かってくるのには少々時間はかかりそうな感じではあったが、確実に襲ってきているのが目に見えていた。このまま囲まれるのはまずい。そう思ってケインの方へと振り向く。

 

「そっちはどうだ」

「おりゃあー!!」

 

 ケインが最後の一撃をお見舞いしたところだった。

 

「と、とりあえずこっちは片付けたぜ」

 

 のこのこと出てきたサユリが礼を述べる

 

「ありがとうケインさん」

 

 と。一方、ケインはやや照れ気味で、頭を掻く。

 

「いやあ、そんな大したことでは」

「う、うん!!」

 

 俺はそこで、状況が状況だけに咳払いをして、仕切りなおす。

 

「ともかくだ。数頭ばかしだがコンガがこちらに向かってきている。このままでは包囲しかねない状況に陥ってしまうが、自信のほどはどうだ? 特にサユリは」

 

 名指しされサユリは前方を見渡すと、どことなく意を決する。凛とした口調で意見を述べた。

 

「私は大丈夫です」

 

 続けてケインも、どこか変な理由をこじつけて戦う意思を見せる。

 

「サユリが言うんだったら、俺も大丈夫だぜ。女の子が頑張るっていうんだ。ここは男である俺の出番だぜ」

「なんだそりゃ」

「いいじゃねえか。俺なりの理由だよ。り・ゆ・う」

 

 変な理由だよなあとか心の中で突っ込んで見せた。とまあ、理由はどうであれ、2人とも戦ってくれることには、正直、ありがたかった。いくらリオレイア討伐経験がある俺とは言え、ソロで狩るよりかは大分ましだったからだ。いわば多勢に無勢ってやつだ。

 

「理由はちょっとあれですが、心強いですねケインさん」

 

 心の中で突っ込んでいた俺とは違いサユリは、感心したような感じではあった。

 

「まあな」

 

 どこか照れくさく頭を掻くケイン。何がまあなだよ。と言いたくもあったが、そこはほうっておくことにした。

 

「さて……」

 

 そう呟いて仕切りなおし、本台へと入る。どう切り抜けるべきか。先陣切って次エリアへと移動すべきなのだが、などと思案を巡らしていく。

 

「っで、どうするんだ? ユウト」

「それを今考えている」

 

 コンガの数は数頭と言ったところなのだが、武器が、いや装備自体がまだ貧弱なためか一度に相手にするのにはリスクが大きい。一頭討伐するのに時間かかるような現状では、まともに相手にしているようではすぐに包囲され、抜け出すところか袋たたきに遭いかねない。となると……。俺は今までの狩りの知識を(主にBT期間中で得た知識と経験に限るが)フル稼働して、その答えを導き出していく。

 

「2人とも、次のエリアへの抜け道がどこにあるのか分かるよな?」

 

 そう言われ、えっ、あああーなどとと多少慌てふためき、2人は即座に生態マップを表示させ、これまた目を白黒させてすぐさま確認。

 

「まあ、なんとなくは……」

「私も……」

 

 なんともまあ、あやふやな回答を述べてきた。俺は自分の生態マップをすぐさま表示させ、2人に見せる。

 

「現在地はここ。っで、次へのエリアへの抜け道はここだ。この細道となっている場所」

 

 そう言って、等高線上でひどく狭くなっているが次へと繋がりそうな細道を指で指し示した。

 

「ちなみに、方角的には、んー、あそか?」

 

 ケインは当てずっぽに、岩肌が露出しておりその麓が雑木林で密集している場所を指さした。俺も、生態マップと方角を見比べ、奇跡的ながらも彼が指示した方角が合っていることを確認する。

 

「奇跡的ながら今回は当たっているな。やるなケイン」

 

 まぐれにしちゃあ上出来なものだと感心する。そうしたなか、周囲の状況をさっきから気にしていたサユリが焦ったように言ってくる。

 

「2人とも、どうやら互いに感心している場合ではないみたいです。もうそこまでコンガが迫って来ていますぅ~」

 

 涙目で勧告する彼女に、俺は

 

「そう焦るなって」

 

 と落ち着かせる。

 

「さてと」

 

 場所も方角も決まった。あとはこの包囲網を突破するのみ。見定めた俺は、コンガの包囲網の中で、一番手薄になっている箇所を睨みつける。その箇所は、コンガとコンガの間の距離が、他と比べてかなり離れていること。そして、なにより、下り坂であり一気に駆け下りれる場所でもあった。指で指し示しながら

 

「あそこだ。あそこを全力で駆け抜けるぞ」

「あそこって」

 

 どこか不安げに述べるケイン。サユリもどこか不安げな表情をのぞかせる。無理もない。コンガの群れ、真只中に突っ込むのとさほど変わりないからだ。俺は2人の肩に手をあてがうと、元気づけるかのようにこう励ます。

 

「そう心配しなくても大丈夫だって」

「でも……」

 

 それでもどこか自信なさげにぽつりと応えるサユリ。俺は彼女の方に顔を向け

 

「大丈夫だ。なんなら、俺が先陣切ってコンガたちの気を引き付けてやろうか」

 

 そこでケインが意義揚々と抜かす。

 

「お、それはありがたいねぇ」

 

 そこですかさず

 

「お前に聞いてねぇよ」

「だよなあ~」

 

 がっくりと肩を落とす。しかし、一方のサユリは、そこまで言われて俺に迷惑はかけたくないのか

 

「本当は怖いですけど、そこまでしてユウトさんに危険な目には遭わせたくないから。行きます。わたし」

 

 ようやく勇気を出してくれた。

 

「その意気だ、サユリ。なら行こうか」

「俺、不安なんですけど~」

 

 いまだに不安を口にするケイン。さっきまでの勢いはどこへ行ったのやらと、俺は半ば呆れてしまう。

 

 そして……

 

 ケインの不安をしり目に、俺は突撃の合図を出した。2人とも一斉に、わーと叫びながら無我夢中で俺が指示したコンガとコンガの間めがけて駆け抜けていく。一方、対するコンガは、そうさせまいとして何頭か飛びかかってきた。

 だしぬけに俺はサユリ達を守るべく、先陣切って一番邪魔になろうとしていたコンガを斬りつけにかかった。

 

「うおー!!!」

 

 ズバズバと何度も斬りつけ、その度に怯むコンガ。さすがに武器が貧弱だけあって、なかなか倒れてくれない。だけど、そんなことは今は関係なかった。サユリ達が無事に包囲網を突破してくれるのが今回の策略。俺はその切っ先となればそれだけで良かったのである。

 コンガたちの注意を引きつけつつ、サユリ達の動向を目で追う。すると、段差を飛び降りる形で駆け抜けて行ったこともあってか、サユリ達は雑木林の中へと無事に辿りつけたみたいだった。あとは、自分がこの包囲網から自力で脱して彼女たちに追いつくだけ。それだけだった。

 コンガたちに囲まれている中で、彼らの多彩なる攻撃が繰り出されてくる。俺は転がって交わしたり、盾で防いだりと狭しなく攻防を続け、ようやくできた一瞬のすきを突いて脱出。サユリ達の後を追うこととなった。

 

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