それからどのくらい経ったのか、ケインは床の上で目が覚めた。ぼんやりとした表情を浮かべながら、じーと前だけを見つめている。サユリはそんな彼を気遣うように顔をのぞかせる。
「大丈夫です?」
しかし、ケインの反応は乏しい。サユリは顔の前で手を振ってみせると、一声かけた。
「おーい、ケインさん」
そこでハッとなってケインが気付く。
「ここは…………あっ、そうだ! 俺は確かカクテルを一気飲みして……」
ようやく記憶が戻ってきたのか、そこで相槌を打つ。
「どうやら思い出したみたいですね。もう、ユウトさん、行っちゃいましたけど」
「ユウト……あ、そうだ!! あいつ、どこ行くか言ってなかったか?」
「買い出しに行くとか言ってましたよ。それに、なーんか、あいつのことだからきっと大丈夫だろう、とかも言ってましたし」
「おいおい、それはあんまりだぜ。ちょっとばかし気遣ってくれてもいいのによ。ったく……」
とそこで、やや愚痴を漏らす。
「そう言われましても……」
そこでケインはやや慌てて、弁解する。
「あ、いや、サユリちゃんのことではないんだ」
「いやあ、それは分かりますけど……」
どこか言いたげそうな表情を浮かべて、言葉を詰まらせる。一方、ケインは周囲を見渡した後、足元に目を当て、それから彼女の方へと顔を向けた。どことなくよそよそしい感じを滲ませるが、しかし、彼は言葉を発する。
「あ、えーと、俺たちも行こうか。買い出しに」
「そうですね」
やっとのことで雰囲気が良くなったと思ったケインは、そこでウィンドウ画面を表示させ、卓上に未だにあったグラスを片付けた。それにともなって、サユリの方もケインと同じくグラスを返却。意義投合とはあまり行かないものの、ケインとサユリは揃って買い出しに出かけるのであった。
人々が行き交う商店街の中、一取り買い物を済ませた俺は、ただただケイン達が買い物を済ますまでの間、ぶらついていた。何も考えてなくただぶらついていた、とは少しばかりニアンスが違うものの、それに近い感じでもあった。というのも、おぼろげであるものの、行き交プレイヤーの防具や立ち並ぶ店店の種類。それらを観察しながら歩いていたわけであった。
特に防具に関しては、ドンドルマやミナガルデから得られるクエストでは入手できない素材を使った防具を着こなしたプレイヤーがちらほらいるのもあって、少しばかりか興味を注がれる感じがあった。防具を見るからに、あるい程度のプレイヤーの進捗状況が見て取れる力量を持っていた俺は、内心、もうそこまで行ったんだなあと思う。
恐らくではあるが、彼らは猟団を組んでいると思われる。
そう、猟団。
ハンターズギルドに申請された正式な狩猟団体のこと。ギルドに申請されてないパーティーとは違い、クエストに限らず色々な情報や権限が付いてくるといったメリットを持ち合わせているのが特徴的であった。特に上位のクエストを進めていく上では欠かせないもの。猟団に所属してなければ、クエストに関する情報を得ることがままならなく、よってクエストにおける生存率も大分変ってくるのだ。
けれど、俺にとっては、そんな団体には属したくない思いがあった。他者との関わり。そんなものに抵抗がある俺にはどうしても受け入れたくない思いがあったからだ。
だけど、クエストを進めていく上ではそうは言ってられないのも現実。そこで俺は、こう機転を生かして考えていた。サユリとケイン。見知りいったこいつらからの関係を築き上げていく猟団ならいいかも。なーんて希望を。――とまあ、そんな思いを巡らしながら歩き続けていると、店前でひと際大きい円卓を取り囲んで座る一組のプレイヤーたちを目にする。彼らは皆、武器のジャンルは異なるにせよ、その各々の身に纏う防具には、互いを助けあった歴戦の証が刻まれていた。推測するに、彼らは猟団に所属しているものと思われる。
どうせ関係ないよなあ、なんて思いながら、横目でみやり通り過ぎようとする。すると、どういうことだろうか。防具が邪魔ではっきりとは言えないものの、中には公開祭で見知った者が混じっているではないか。それも一人だけとは言わずに2人も。しかもその一人は、公開祭当日、ケインを待つためドンドルマの桟橋上で待っていた際、ばったりと出くわしてしまったプレイヤー、セツナであった。俺は思う。見知った彼女のこと。ここで見つかってしまえば、猟団への勧誘は避けられないだろうと。警戒心を露わにすること、俺はその場を去るべく気付かないふりをして立ち去ろうとした。だがしかし、運悪く見つかってしまう。
「あっ、ユウトじゃない」
「げっ」
思わず視線がセツナ達の方へと向いてしまう。立ち去るに立ち去ることができず、その場で固まってしまう中、彼女は気さくに歩み寄ってきた。
「久しぶりだね、ユウト。あれ以来どうなったのか少し気になっていたよ」
「あれ以来?」
疑問で返す俺に彼女は、
「あの日だよあの日。公開祭の日」
そこで俺は、セツナが言わんことを理解する。要するにだ。デスゲーム事件があって皆が大混乱になった日以来、俺がどうなったのか気になっていたとのことだろう。
「あ~。気遣いどうも」
「気遣いどうも、じゃないわよ。これでも結構心配したんだから」
「それは悪かったよ。んで、そっちはどうなんだ? なんだか、見るからに猟団っぽい組合作っちゃっているみたいだけど」
そこで、視線をセツナの後方に控えている面々に移す。
「猟団っぽいじゃなくて、列記とした猟団。これでも創るのにはそれなりに苦労したけどね」
「ふ~ん」
興味とかは別になかった。ただ、彼女なりにもそれなりに努力したんだなあと、ふと思っただけであった。別に詮索はする気はない。あの事件以来、非難されることを避けられない中、どうやって創ったのかといったことを。
「そうそう。それよりも、そっちはどうなのよ。相方、いないみたいだけど」
「ああ、ケイン達なら別行動中さ」
「達? ユウトにしては珍しいわね。ケインと誰かでも組んでいるってこと?」
俺の性格から珍しいと思ったセツナは、そこで少し深めに詮索してくる。ところが、詮索されるのがあまり好きではなかった俺は、そこで「別にいいだろう。そんなこと」と断る。彼女はふーんと何やら考え込むようなそぶりを見せた後、何かを言いだそうとした。――がそこで、彼女の後方から、誰かが呼ぶ声が聞こえてきた。
「おーい!!」
その声に反応してか、セツナはそちらの方に振り替えると手を振って見せた。
「あ、今すぐ行くから」
しかし、声の主は
「いいよ、いいよ。ゆっくり話し合ってても」
「誰なんだ?」
「ああ、あたしの友人」
そう言うセツナ。俺も気になってか、声の主のアバター名を確認してみる。すると、
「……レイナ……か」
ぽつり、つぶやく。そして、そこで俺は思い出す。
そう言えば、公開祭当日に行われた焼き肉早焼き大会のクエストにおける結果発表で、レイナとかいう人と1位取っていたなあと言うことを。このことから、恐らく、レイナもセツナと同じくかなりの実力派何だろうとも思った。
「ところでさ、ユウト」
そう言って、含み笑いを浮かべ顔を覗き込む。俺はやや身構えて
「な、なんだよ」
と後ずさる。
「そう身構えなくてもいいよ。別に勧誘とかじゃないから」
それを聞いてほっとする。しかし、
「なら」
「最近の近況、どうかなあと思って」
「どうかなあって。いや、別に大したことないよ。敷いて言えば、一人仲間が増えたくらいかな」
そう、仲間。その仲間と言うのは、サユリのことであった。出会った当初は、仲間だとかには抵抗感があり、なかなか受け入れなかった。でも今は、それからあるい程度の時間が立っている。サユリのことを心底仲間として信じているわけではないが、表面上は大体仲間として意識し始めている感じではあった。
「ユウトも変わったんだね。私なんか、自分のことで色々と話したいことがたくさんあるよ。例えば、猟団作り始めた経緯とかでね」
「大変だった。そう言っていたよな」
「そうそう、それはもう……ねえ」
――とそこで、ケイン達からチャットが入ってきた。メッセージには、買い物が終わったから、先に練武広場に待っているとのことだそうだ。
一方、セツナはそのことを察してか、
「どうやら仲間からの呼び出しみたいだね」
「ああ、悪いな。話の途中で」
「いいよ、別に。また会えたときにでもお互いのこと話し合おうね」
「そ、そうだな」
そうして俺たちは、いつまた会えるか分からない中、一旦、別れることとなった。離れていく中、俺はわずかに振り向く。セツナの背中、どこか寂しげな。もっと話していたっかったろうにと言ったような感じがなんだかしみじみ伝わるような感じがした。
石畳みのだだっ広い広場には、案山子のようなものが何本と立ち並び、そして、広場の中ほどには一人の防具を着こなした
「おーい!!」
と一声をかける。俺はややあと手を振って返し向かう。
「待たせたか?」
「そうでもないぜ。俺たちもさっき着いたばかりだしよ。なあ」
唐突に向けられたのか、サユリはおぼつかない返事を返す。
「え!? ええ、はい」
「2人とも、道具類は万全か?」
と念のために確認をとる。2人は
「ああ」
とかなんとか返事を返し、どうやら万全みたいな感じで返事を返してきた。
「ならいいみたいだな。あとは作戦次第だな」
「それよりもさあ」
とそこで、ケインは何かと好奇心に充ち溢れているまなざしでこちらを見つめる。俺は彼が何を言いたいのか分かっていた。だから
「ああ、分かっているさ。あの例の話だろう」
「そうそう」
つられてサユリも
「私も、実は興味があります」
「2人とも、そんな焦る必要なんてないよ。てか、それ以前にあまり期待しないでくれよ」
と念を押す。ところが
「なんでだ?」
とケイン。俺はそれに応える。
「なんでだって言われても、実を言うと俺自身そんな詳しいわけではないんだな」
「おいおい、モンハンにかけての知識は豊富じゃあなかったのかよ」
「確かに豊富だよ。でも、あいつには及ばないさ」
そこでサユリはきょとんとして「あいつ?」と首をかしげる。無理もない。サユリにはまだ亡き親友・神宮寺晃のことをまだ話していないからだ。だから俺はこう付け加えておく。
「ああ、あいつとは昔の親友のことさ」
と。
「そうですか? で、その友達は今は何を……」
応えずらい質問だった。本当のことを言うべきかどうか、迷う中、ケインは重苦しそうに口を開く。
「今はいないさ。事情は聞かないでくれ」
事情はともかくとして、そこを察したのか彼女はただ
「わかりました」
とだけ返す。
「ともかくだ。何度も言うが、パターン化については、大雑把にだがあいつから聞いただけしか知らない。だから期待とかはしないでくれ」
二度言われケインは「ああ、分かった」とだけ静かに返した。
「さて……」
俺はめぼしい丸太を見つけると、そこに腰を据える。長話にはなりたくはないから、……というよりも、俺自身、そんなに多弁ではないからすぐ解説は終わるとは思うが、とにかく要所要所かいつまんで話しだした。
「パターン化。簡単に言うと、モンスターの行動を把握して、それに対処することを指すんだな」
ケインもサユリも同じく、石造りの席に腰をかけた。
「なんだか、大雑把過ぎる気がするんだが……」
「いまいち……」
彼らはどこか納得できないと言った表情を浮かべる。俺は仕方ないなあと思い、味を付け足す感じでもっと具体的に解説する。
「わかった、わかったよ。なら、もっと具体的にすよ。パターン化と言うのはな、自分たちが相手しているモンスターの攻撃動作を一瞬で見切り、それに対応した行動をプレイヤーがすることを言うんだ」
「なんだかそれ、聞いた感じ、いつも俺たちがやっていることとなんら変わらないじゃん」
ケインがそこで、すかさず突っ込む。
「まあ、極端な話、そう言うことになる。だけどな、パターン化と言うのは、そう簡単に言い表せるようなものじゃないんだな、これが」
「どういうことだよ」
意味ありげだなあそいつは、と言わんばかりに懐疑的な視線を送ってくる。
「なんというか……。あいつが言うには、確か……(モンスターの)攻撃動作におけるありとあらゆる危険を、意識せずして回避できるようになるってことらしいんだ。てか、俺もよくわからないんだよね。それ」
「なんだそりゃあ。なんかどこかの某アニメに出てきそうな技みたいじゃないか」
呆れてしまうケイン。けれど、一方のサユリは、
「つまりは、無意識に危険を回避するってことですよね、それ。なんだかすごいですね」
と女の子にしてはらしくもなく、目を輝けせながら興奮気味になる。俺としては、そんなに興奮しなくてもとでもいいたいのだが、この際黙っておくことにした。
「ま、まあ、具体的に言うとそうなるってことだ。でも、これだけは言っておくよ。はっきり言って、無理だと言うことを」
そこで、サユリは素人ながらでも疑問を言う。
「どうしてです? 素人である私にはあまり言えた立場ではないですけど、そう言った技見たいのが実在するってことは、相当練習をすれば可能ってことですよね」
「いや、練習どうこうという問題じゃなくて、このゲームのシステム的に無理なんだ」
そこで俺はその詳細について知っている限りのことを話す。
「もともと、モンスターの行動と言うのは、AI自身がハンターの動作を。まあ、ここで言うとプレイヤーのと言う意味になるが。ともかくそのAIが学習してそれにある程度対応できるよう攻撃動作をしてくるもんなんだ。つまりはランダム性があるということ。それも、上位のクエストに行けばいくほど、ランダムで行動してくる範囲は大きくなっていくものなんだ」
「なんだか、説明が難しいそうですね」
キョトンとするサユリ。ケインは視線だけよこして聞いていると言った感じの表情を浮かばせていた。どちらかと言うと、少なからず興味があると言った感じに。それもそのようで、ケインは
「じゃあ、何か。上位のクエストに行けばいくほど、モンスターの行動。ようするに攻撃パターンが読みずらくなっていくってことか?」
「的確に言うねえ。つまりはその通りだ。だから、パターン化と言うのは、実在したとしても使いこなすのは無理なんだなあ」
サユリはそのことを聞いて、
「なーんか、宝の持ち腐れですね」
と言い、少し肩を落とした。
「とまあ、俺があいつに聞いた話では、そのくらいであり、俺の知っていることはそこまでだな。まあ、そのうち、なんか情報でもきっと出てくるだろうと思うよ」
「ふーん」
と鼻で返事をするケイン。サユリは
「気になるけど、どのみち、今は考えても仕方ないですね」
とだけ返した。
「俺からのパターン化については以上だ。本当はあいつさえいてくれたら、もっと詳しく教えられたかもしれないけどな」
「なんだか残念ですね」
「まあ、そんなに気を落とすなよ。俺だって気になるところなんだ、そこは」
そこでケインは、前かがみの姿勢となり両掌を組むと、期待の言葉を口にする。
「けれどよ。そのパターン化について言えば、俺の予想なんだけどよ。ユウトほどの実力者ならそのうち会得できそうな気もするけどな。なんとなくだけどよ」
「そんなに期待されてもなあ」
正直、俺だってその領域にいつしか達したいとは思っていた。でも、実際には、出来そうもないような気がして、全然自信なかった。それもそのはず、俺は頭を掻く。
「でも、これから先、上位のクエストに踏み込んで行くとなると……」
そこで俺は彼の言葉を遮った。
「別に今考えなくてもいいんじゃないかなあ。いずれの話なんだし」
「確かに……」
自分で言葉にするのもあれだが、ケインの言う通り、確かに今考えてもしょうがないことなのだ。それよりも、武具の充実やら作戦やらの方が大切。それもあって
「まあ、そんな高度なテクニックとかよりもさ、今は色々とオプションやら装備やらを拡充させて行った方がいいと俺は思うよ」
そこでサユリは「そうですね」と賛同してくれた。
「サユリちゃんまで言うのなら……」
何か意見でもあったのだろうか、ケインはそこで黙してしまう。俺は彼のその様子を見て
「なんだ。何か言いたいことでもあったのかケイン?」
しかし、ケインは遠慮がちに
「いやいや、別に」
とだけ返す。
「そうか……。なら、パターン化については、俺のの知っている限るではこれだけだ。それよりも、お前ら、道具類の方はどうなんだ? 相手はあのレイアだぞ」
話を切り替える俺に、ケインは早速と言わんばかりにウィンドウ画面を表示させる。
「俺はこんな感じだ。ばっちりだぜ」
続けてサユリも、ケインと同じく画面を表示させて
「私も、です」
表示された二つの画面。俺は個々に目を配らせ、う~んと唸る。
「どう、です?」
サユリが緊張した声で尋ねてくる。とりあえず、表示されているリストを一瞥し、
「まあ、いいんじゃね」
とだけ答えた。というのも、多めに回復関係の道具類を揃えているからである。それに調合の知識もそれなりにあるのだろうか、アオキノコと薬草、それにハチミツがいくらか入っているのを目にする。
「それなら……」
とサユリ。そこで俺はあえて口を挟んで付け足した。アドバイス的な意味を含めて。
「敷いて言うなら、調合書、一冊は持っていた方がいいかな。できればだが」
「調合書、ですか……」
キョトンとする彼女。俺はその書物についての重要性についてさらりと説明する。
「そうそう、調合するにしても100%成功するとは限らないからね」
「そうなんですか? 私、てっきり、調合はするからには100%成功するものかと思っていました。だって、今まで失敗した例がなかったもので」
そこでケインは、腕を組みながら口を突いてくる。
「確かに。サユリちゃんから、調合に失敗したあとか聞いた覚えないしな」
「なくてもだよ、ケイン。まあ、失敗つってもせいぜい50%未満だけどな。多分」
実際にはどのくらいの確率で失敗するかは定かではなかった。過去の経験からして、恐らくそのくらいなんだろうなあと、妥当線を付けたにすぎなかったからだ。
「多分って……」
「俺も、実際の数値までは分からないさ。どうだ、サユリ。念のために入れてた方がいいと思うぞ」
「ふーん」
しばし考え込んだ後――
「分かりました。あとで追加で入れておきます。なにわともあれ、ユウトさんはこの道の教官ですからね」
「教官って……」
そんな大したものじゃないんだけどなあとか、心の中で思い、頬を掻きながらなんだかムズ痒くなってしまう。
「ところでよ。俺たちの道具類聞いたんだから、今度は、ユウト、お前のも見せてくれないか? こっちばかし見せられても、なんだかフェアじゃない気がするしさ」
「それもそうだな。ああ、いいよ」
俺はそう返答すると、何の感慨もなく平然と道具類一覧を彼らに見せる。一覧を覗き込むようにして見入るケイン達。俺の道具が色んなものでひしめき合っているのを見て、
「うわあ」
と感嘆な声を漏らす。
「なんだか、きっちりと考えて揃えられている感じがありますね」
「それはそうだろう」
当然のごとく、返答する。
「ふーん……」
何か気になる物でもあったのだろうか、ここでケインは睨みつけるように目を細める。
「スリンガ―とか、導く……虫? とかなんとか、聞いたこともないようなものまであるなあ」
「導く虫? ……あ~あ、導虫のことか」
てっきりなんことかと疑問に思ってしまう。俺は簡潔に、手始めとして導虫について教えてやった。
「しるべむし。って言うんだ。まあ、ペイントボール代わり、ってところかな。ペイントボールも一応使うけど」
それを聞いてか、サユリが首をかしげて疑問符を浮かべる。
「つまり、兼用、と言うことですか?」
「そうそう」
「でも、なぜです? ペイントボールあれば十分な気もしますが」
確かに。一見してみればペイントボールだけあれば十分でもあった。けれど、今回向かう狩り場はジャングルに近いフィールド「樹海奥地」。しかも、対象となるリオレイアはどこにいるのか見当もつかない状態からのスタート。そう言うこともあり、痕跡を辿りながら対象となるリオレイアを見つけることとなるわけであり――
「まあ、確かにな。だけど、今回のクエストでは、アドバイス的な項目にもあった通り、導虫がいるんだな。これが」
「う~ん……」
どうもこうも意味を理解してない感じであった。俺は彼らにこれだけ言っておいた。
「まあ、そのうちわかるさ。導虫の使い道がな」
「そうのうちって……」
どこか腑に落ちない表情を浮かべるケイン。サユリもまた右に同じくってところだった。けれど、先陣切ってケインが、
「まあ、いいか。そのうちわかるなら」
と妥協してきたので、俺は少しだけ安心する。
「なら、これはなんだ。もう一つ気になっていた物なんだがな」
そう言うと、ケインはスリンガ―の方へと指さした。
「ああ、これか」
今度は導虫とは違い、そのうちわかるさと言ったことがなかなか難しいと思ったので、はっきりと解説を言う。
「モンスターに使う道具だな。まあ、端的にいえば、中型から大型にかけてモンスターに飛び乗る際に使うんだ」
それを聞いてか、サユリが驚きの声を漏らす。
「暴れるモンスターを相手にですか!?」
「そうそう。そんでその暴れまわるモンスターをダウン状態にさせる為にも使う道具なんだな」
「おいおい、そんな無茶な。相手は人間の数倍もあるんだぞ。腕力だって、比べ物にならないくらいあるだろうし」
「そうだな。まあ、これは上級者向きの道具さ。俺だって、成功させたのは5本指に入るかどうかくらいしかないけど、リオレイアに対しては以前に成功した試しがあるから、それでね」
ここでケインは俺がトライアルマスターだと言うことを思い出したのか、
「あ~、もしかして、あのクエストに挑んだ際に使っていたのか」
「そうそう」
けれど、サユリは何のことか分からなかったみたいであり、指先を口に当て首をかしぐのみ。
「あのクエストとは?」
疑問を浮かべる彼女に、俺はBT時代だった頃の自分を話をする。
「ああ、あのクエストと言うのは、俺がBT時代にやった高難度クエストのことだよ」
と。ついでに、続けてクエスト名も付け加えておく。
「ちなみに、クエスト名は狩人と地の女王の
それを聞いて、サユリは思い出したかのように、相槌を打った。
「あー、そう言えば、前にも話していましたね。トライアルマスターがどうたらこうたらとかって。そのことだったんですね。そして、そのクエストでスリンガ―を使っていたと」
「そうそう」
ようやく理解してくれたかと、俺はうんうんと頷いた。
「でもよ、よくそんな道具でもって、レイアに馬乗りできたものだよな。俺だったら、とてもじゃないが乗る気にはなれないぜ」
感心するケイン。俺はウィンドウ画面を閉じ、彼と向き合う。
「あまり感心することじゃないさ。あの時はクエスト制限時間も相まって無我夢中で戦っていたから、どちらかというと、今までの正攻法ではクエスト制限時間以内に討伐できないから、ここは一つ、無謀な挑戦的な意味合いで使っただけさ」
「やることなすこと、お前はすげえよ」と俺の肩をポンポンと軽く叩くケイン。かえって感心の的になってしまう。俺としては、そのつもりではなかったけれども。
「でも、馬乗りになるからには、レイアは当然、暴れ出すんでしょうけど、どうやって……その……」
言葉を詰まらせるサユリ。俺は彼女の言いたいことを察してこう切り出す。
「どうやってダウンさせたか、だろう。それはスリンガ―の先端にかえしのついた鉤爪をセットさせて、そいつを対象のモンスターに向けて突き刺すように飛ばして使うんだ。慣れるまで時間かかるだろうけど成功するコツさえつかめば、案外うまくいくようなものさ。あとは自動的にワイヤーが巻き取られるから、それに乗じて飛び乗るさ」
「ふーん。でも、恐いですね。いきなり暴れ出すようなモンスター相手にそれを使うのは」
「勇気と慣れだけさ」
そこでケインは、両目を閉じ手をひらひらさせて
「俺は御免だな。スリンガ―で飛び乗るのは」
と意思表示をした。きっと恐いのだろう。俺はそう思った。けど、そのことは口には出さなかった。けれど、代わりにサユリがそこはいたずらっぽく述べる。
「ケインさん、もしかして恐いんじゃあ……」
サユリの推測。ケインは速攻で否定した。それも言い訳っぽく。
「そ、そんなわけないだろう。ただ、気が乗らないだけさ」
「そうなんですか? ふ~ん……」
気持ちの真意を覗き込むかのように、ケインノ表情を覗き込むサユリ。目線で俺に助け船を出してくれるよう訴えてきたので、俺は仕方なくフォローしてやった。
「まあ、そこは人それぞれの捉え方だと思うな。サユリ、そこはケインを責めないであげてくれな」
「そうですか。……まあ、いっか」
静かに了解しましたと言わんばかりに、これ以上気持ちの真意を覗きこむことはなかった。ケインは一息ついて胸をなでおろす。ようやく一区切りついたところで、俺は手をパンと叩いた。
「さて、俺の道具類に関しては以上だ。とりあえず、今日はもう遅いから、明日、俺のマイハウスにて集合ということにしよう、な」
「それもそうですね」
「あ、ああ、……って、もうそんな時間か!?」
驚くケイン。俺は「ああ、そうだ」とだけ答える。もう夕暮れ時。夜のクエストなんざ、こいつらと同行する上で危なっかしく思っていた俺は、ここで今の時刻を表示させ、彼に見せた。まあ、本当は見せるも何も、周囲の風景を見れば夕暮れ時だってことは一目でわかるけども。
「気付かなかったんですか、ケインさん」
「ま、まあ、話に夢中で気付かなかったな。そこは」
と頭を掻いた。
「鈍感なんですね」
ふふふとほほ笑むサユリ。ケインはどこか照れくっさく思えたのか、そのまま頭を掻き続けることとなった。
「ま、とりあえずだ。今日のところはこれにて解散しよう。明日は、そうだなあ……」
思考を巡らす。そして……
「8時、この場所で集合と言うことで、いいか?」
「8時ですね。了解です」
「8時か。了ー解」
「了解か。ケインの場合は遅刻することも念頭に入れて、30分くらい大目に見て置いてやるよ」
「おいおい、なんだそりゃ」
「ま、いいじゃないか。チ・コ・ク・マ」
「おい! 遅刻魔ってなんだよ」
「いいじゃないか。大目に見るって言っているからに」
肩をポンポンと軽く叩く俺。一方、ケインはそのことを認めたくないのか、少々子供っぽく憤慨。一方、サユリは俺たちの無邪気なやり取りを見ていて再びほほ笑むのだった。