モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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3章:越えるべき壁・6話

 星星が煌めく真夜中。俺はなぜかふと眼を覚ます。特に理由もないのだが、周囲が気になって辺りを見回してみる。

 手のひらを見た。なぜか汗ばんでいた。それに微かにだが震えてさえもいた。一体どうしたのだろうか。俺は不思議そうに疑念を抱く。グーパーグーパーを繰り返し、そして、一息ついた。

 ――とその時、俺は得体の知れない恐怖を脳裏にかすめた。俺はうっとなり頭を庇う。そして、映像から読み解かれる記憶を冷静になって手繰り寄せた。なんだろうか。一瞬だったが、映像が見えた。具体的には言えないが、リオレイアの、いや、リオレイアじゃない。もっととてつもなく大きくてどす黒い影だ。そいつが俺を飲み込まんとばかりに迫りくる瞬間みたいなものが映ったのだ。俺は思う。きっと思っていなくても、体で、それも本能で恐がっているのだろうか。思い当たる節はあれしかいない。猟団「肉球カフェ」の団員達が次から次へと襲われては、目の前でキャンプ送りとなったあの光景に。

 俺は懸念を打ち払うかのように、首を振った。んなわけない、んなわけない。俺があいつらと同じくやられるわけがない。心の中でそう念じ、そして、静かに息を吐く。

 

「もう寝よう。明日は早いんだし」

 

 そう自分に言い聞かせるようにして、俺は布団に再度潜り込んだ。――とそこで、誰ががノックをした合図を示す効果音がした。

 

「ん?」

 

 こんな夜中に一体誰だろうか。俺は気になり、布団から出る。

 そして、玄関先で誰なのか確認するべく、ウィンドウ画面を表示させた。

 

 (サユリ? どうしたんだろう)

 

 何の用だろうか。このままでは彼女の様子が分からなかったので、とりあえず〝入室許可〞にした。 

 無数の光粒が一転に集約し、やがて人の形を成して、彼女が姿を現す。表情はどこか暗く、何か思い悩んでいるようでもあった。とりあえず、俺は声をかけてみる。

 

「どうしたんだ? こんな夜遅くに」

 

 俯いたままサユリは、誰かを頼るように小声で言う。

 

「……ユウトさん……」

 

 俺はサユリの席を空けるかのように、ベッドの側へと移動。手招きをした。

 

「何か悩みでもあるのか? まあ、こっちこいよ」

「……うん」

 

 こくりと頷くと、彼女はそっと俺の隣に座る。かくして、しばらくの間を置いて、彼女はぽつりと口を開く。

 

「ユウト、私ね。恐いんだ」

「レイアだろう」

「うん。……団員全滅したって聞いた時からいずれ戦わなくてはいけないということを思うと、なんだか」

 

 同じ気持ちだった。まさに今の俺の心境と。正直、サユリには申し訳ないだろうが、なんだか心の底で安心したような感じであった。俺はそっと彼女の手のひらに手を重ね合わせ自分の気持ちを吐露する。

 

「それは俺も同じさ」

 

 すると、サユリは少し意外だったようで自分の方へと向く。

 

「えっ」

「意外だと思ったか。実は俺も怖いんだ。ましてや目の前で団員が犠牲になってしまうところを目撃しているからなおさらな」

「確かに、……そうでしたね」

 

 サユリは俺の気持ちを聞いてか、そっともう片方の手を重ね合わせてくる。同情のつもりなのだろうか。そんな憶測じみた考えがふいに脳裏をよぎる。

 

「私、ケインさんからでも聞いていたんですが、実際、この目でユウトさんの実力を見てきたから安心しきっていました。でも、ユウトさんの気持ちを聞いて、それはあまり良くないんだなあと思いました」

 

「なんでだ? 別に、多少は頼られてもいいんだけどな」

 

 そこはフォローするつもりで一こと言ったつもりでもあったが、彼女からは違う返答が返ってきた。両目を閉じ、首を左右に振る。

 

「いいえ、あまり良くないです。私も私なりにしっかりしないといけないんだなあって思います。それに……」

 

 そこで、どこか言いたげそうな表情を浮かばせる。俺は重ねるようにして尋ねる。

 

「それに?」

 

 しかし、サユリはそれには答えなかった。俺は思う。彼女には何か言えない秘密があるのではないのだろうかと。それもあってか「いえ、やっぱり、なんでもないです」とだけ答えた。

 

「何か言いたそうな感じだったけど、本当にいいのか? 無理にしゃべらなくてもいいけど」

「だ、大丈夫です。はい」

 

 気丈に振る舞うサユリ。俺は内心若干心配するが、そこはあえて詮索しないで置いた。

 しかし、ただ、これだけは一言言っておきたくて、口を開く。

 

「ならいいけど。でも、……これだけは言っておく。無理はするな」

「うん。ありがとう、ユウトさん」

 

 そして、サユリはすっと立ち上がる。うーんと思いっきり背伸びをした後、一息ついて

 

「さて、そろそろ寝にに戻りますね。今日は相談に乗ってくれてありがとうございました」

「いやあ、そんな大したアドバイスもしてないけどな」

 

 いいえ、そうでもありませんと言わんばかりに首を横に振って、サユリは

 

「そうでもないです。助かりましたよ。ユウトさんが自分と同じ思いを抱いていた。それだけ分かっただけでも、十分です」

「そっか……」

 

 相談という相談でもなかったが、そんな風に思われると、なんだか良かったのかなあと思えることができた。サユリはぺこりと頭を下げ礼を述べると、

 

「じゃ、明日、よろしくお願いしますね。おやすみなさい」

 

 と言い残して、部屋を出て行った。ただ一人になった俺は、そこでふと天窓を見上げて思う。サユリにも、……いや、ケインもかもしれないが、人それぞれ抱えているもんがあるのだなあと。

 夜空に煌めく星星。その無数の星星の中で、一瞬だが、流れ星が見えた。仮想世界とは言え、これほどまでにリアルさがあると、まるでこちらも現実世界だと錯覚しそうになってしまうのだった。

 

 

 

 

 早朝。練武広場で落ち合った俺、サユリ、ケインの3人は、リオレイア討伐に向けて作戦会議を開いていた。作戦上における情報源となったのは、なにはともあれクエスト情報。その一点に過ぎており、その情報をもとにどう練っていくのか考え合っていたのであった。とはいえ、作戦の考案の8割型が俺であることには、変わりなかったが……。

 

「とまあ、こんな感じで進めていくけど、異論はあるか?」

「特に私は……」

「俺も、特にないかなあ。ただ、最後の総攻撃を仕掛ける際に、倒しきれるかどうかが心配なだけだけどな」

「やはりそう来るか」

 

 それもそのはずだった。作戦上に置いては、できる限りレイアとの近接戦闘は避ける方針で、あっても俺が主体であとの二人は後方支援と言う形で成り立っていた。だけど、もし罠類や爆弾類を切らしてでも倒しきれなかった場合は、やはり、ケインの言った通りの心配事は避けようもなかった。けれど、俺としてはこう推測はしていた。

 

「思うにだ。そこまで行ったら、恐らくだけど、レイアの体力も限界にきている頃合いだと思うんだ、恐らくな。だから、万が一にも近接戦に持ち込んだとしても、最悪、俺一人でも倒しきれると思うんだ」

「ならいいけどよ。俺だって最後くらい加勢したい気持ちはあるぜ、これでもよ」

「わかっている、わかっている」

 

 彼の言いたいことは十分に理解しているつもりだった。いや、彼だけではない。口には出さないみたいだけど、サユリだってケインと同じ気持ちだとも思っていた。だから俺は、そのことを察して

 

「お前らの言いたいことは、十分分かるよ。だけど、今回は相手が相手だ。下手に一撃でも食らえば、……どうなるのか分かるよな」

 

 それを聞き、サユリは何か言いたそうだったみたいだったが、その思いを抑え、ケインは

 

「だけどよ……」

 

 と言ったっきり、それ以上は何も言わなくなってしまう。恐らくであるが、頭では分かっているのだが、気持ちでは、と言ったような感じなんだろう。

 

「なら、そうと決まれば、これで作戦会議はおしまいだな。じゃあ、そろそろ……」

 

 そこでふいにある思いが込み上げ、言葉を飲み込んでしまった。その様子に、ケインが尋ねてくる。

 

「どうした? ユウト」

「あ、いやあ……。ふいに思ったんだがな。最終的な止めを刺す役は、サユリにさせた方がいいかと思ってな」

「えっ? なんでだ」

 

 当然の反応だった。さっきまでは、近接戦闘は極力避けると言っていた口が、今度は近接戦闘を了承したのだ。それもサユリだけに。戸惑うケインに、俺は理由を付け加える。

 

「本筋を忘れかけていたんだ。今回のクエストはある意味、サユリにとっての転機にもなるんだと言うことをな。と言うのも、サユリは自分を見捨てたとは言え、自分の仲間をレイアによって葬られた。だから、その仇として、そして、越えるべき存在としてチャンスを与えようかと思ったんだ」

「ユウトさん……」

 

 俺の優しさを知ってか知らずか、サユリは感謝の念を抱く。けれど一方で、ケインはどこか白けたような表情を浮かばせて

 

「へぇ~」

 

 と横目を流す。

 

「なんだよ、その顔は」

「いやあ、別に。でも、まあ、分かんないわけではないけどさ」

 

 やれやれと言った仕草をする。正直なところ、ケインの納得したことがどんなものなのか気になってしまう。

 

「おいっ、一体何を納得したんだよ。おいってば!」

 

 しかし、ケインはそれ以上は言わなかった。仕方ないので、俺は流れを変えるべくして話を切り替える。

 

「まあいい。そう言うわけだ、サユリ。最後の方はお前に委ねるよ」

「はい、任せてください。……と言いたいところですが……」

「どうした?」

 

 一瞬だが、表情が暗くなる。けれど、

 

「いや、なんでもないです。頑張ります」

 

 と何かを開き直って応えた。俺は思う。きっと昨日、サユリが話していたリオレイアに対する心境。そのことで、今でも悩んでいるのだろうなあと。俺はそのことを察して、

 

「ま、どの道、無理するなよ」

 

 とだけ答えてやった。――と、そんなわけで、俺たちは、いよいよ、リオレイア討伐クエスト〝密林に君臨するは、陸の女王〞に挑むこととなった。

 

 

 

 

 ベースキャンプは濃霧に包まれていた。当然、視界は大分悪い方であり、およそ30m離れれば、前の人が見えなくなってしまうほどであった。俺たち3人は、互いに見える距離を保ちながら、俺を先頭に進もうとしていた。

 

「ユウト、ほとんど見えねぇぞ。どうするんだ、これ」

 

 ケインが不安を口にする。サユリもサユリで、彼と同じく緊張した表情を浮かばせている。そんな2人の様子を見ながら責任重大だなあと思っていた俺は、ウィンドウ画面を開き生態マップを表示させた。

 

「とりあえず、お前らこれを見てくれ」

 

 言われるがまま、サユリとケインは俺の前へと歩み出る。そして、先に愚痴をこぼしたのはケイン。

 

「生態マップなんか広げたって、こんな濃霧じゃあどこをほっつき歩いているのか全然だぜ、ユウト」

「まあまあ」

 

 なだめるようにすかす。

 

「でも、これを見てください」

 

 察しが良かったのはサユリ。生態マップ上に表示された▲マークを示す。

 

「お、察しがいいね」

「ただのマークじゃないか。それがどうしたっていうんだよ」

「よく見てください、ケインさん。これはただのマークじゃないですよ」

 

 言われて、ケインは渋々とそのマークの示した個所を睨みつける。すると、ここでケインはようやく気が付いたのか「これって」と呟いた。

 

「そう、▲マークは現在地を示すマークだってことさ」

 

 そこで俺は、その話の続きをこう付け加える。

 

「今、この生態マップ上で示されているのは、現在地を示すマークのみ。ここから先は、このマークを注視しながら、もう一つの道具を使ってレイアを見つけて行くことになるんだ」

「もう一つ?」

 

 疑問符を頭に浮かばせるケイン。サユリもこれから俺の出す答えに興味が注がれる。それもそのはずで、俺はアイテムリストからとあるものを選択し、そして、それを決定したからだ。2人が注視する中、俺の手のうちには光の粒が集約し、そして、あるものが出現。2人は見たこともない道具? に戸惑う。それは無数の羽虫のようなものであり、その虫には光を帯びていたからに他ならい。掌の上に出現したそれに向かって

 

「なんだそれは?」

 

 と不思議そうに問うケインに、俺はこう答えてやる。

 

「導虫さ」

 

 と。

 それを聞き、サユリが

 

「あっ」

 

 と何かを思い出したかのように口を開く。

 

「そう言えば、昨日、ユウトさんの道具類を見た際に導虫とか言うのありましたよね。それがそれだったんですね」

「そうそう」

「っで?」

「で? って」

「いや、だからさ、それを使ってどうするのかだよ」

 

 使い方を知りたがっていたケイン。俺は動作を交えてこう答える。

 

「こうやって使うのさ」

 

 それを見たケインは、やや慌てた感じで

 

「おいおい、放しちゃっていいのかよ」

 

 俺は使い方を事前に知っていたこともあり、そこは冷静に

 

「ああ、いいんだ」

 

 と応える。一方、飛んで行ってしまった導虫はと言うと、少しの間、靄が漂う景色の中を無造作に飛びまわっていたが、やがてここに何かあるぞとでも言いたげそうにある一点に集まり出す。俺は落ち着きを払ってその一点に向かって歩き出す。その中で、導虫とはどういったものなのか、2人にネタばらしとでもいうかのように身振り手振りを交えて説明してやる。

 

「導虫とはな。みて分かる通り、放した後、少しの間を置いて一点に集まりだしただろう。こいつはな、要するにクエストの対象モンスターの痕跡を追いかける習性を持っているんだな」

 

 そこでケインが

 

「習性? 何も手がかりもなしにか」

 

 と不信感を露わにする。俺は続けて話す。

 

「そうそう。ま、普通は何も手掛かりなしには飛んで行かないと思うが、このゲームの仕様上、そう言ったものだと思ってくれ」

「は、はあ……」

 

 よく分からないけど、とりあえずはそう理解しておくか。的な表情を浮かべて、無理に納得する。そうこうしている間、目的の光る一点の場所に到着する。すると、サユリが何かを発見したようで

 

「あ、これは」

 

 と声を出し、そちらの方へと駆け寄る。俺とケインもその声に反応してか、そちらの方へと赴く。すると、導虫が織りなす、光るモンスターの足跡。それが2、3個と苔の生えた木の根っこに刻まれていたのを目にする。

 

「足跡じゃないか? って、もしかしてユウト」

 

 そこで何かを悟ったのか、俺の方へと向く。俺もそれに応えるべく、頷いた。

 

「ああ、御察しの通りだ。この痕跡を導虫を使って辿っていくってわけだな」

「と言うことは、今までみたいに手探りと勘だけで探さなくてもいいってことですよね」

「そうそう、つまりそう言うことだな」

「あ~あ、なんだ。そう言うことなら、前から使っていればよかったじゃん」

 

 苦労して損したなあもうと言わんばかりに、愚痴がこぼれそうになっていたケイン。俺はここで、ある必要条件を持ち出す。

 

「だろう。確かに普通はそう思う。けどな、導虫を使うに当たっては、HR (ハンターランク)を50以上にする必要があるってわけなんだなこれが。俺の場合、HRがちょうどが50まできたから使えるようになったわけで……」

 

「なんだか便利そうな道具使えて羨ましいな」

 

 ここでサユリもケインと同じく思ったのか

 

「私も同感です」

 

 と欲しい物をねだる子供のような眼差しを向ける。

 

「まあ、どの道近いうちに使えるようになるから、焦らなくてもいいけどな」

 

 俺はそう言って、2人をなだめた。その一方で、気持ちは分からなくはないとも思ってはいた。というのも、導虫を手に入れるまでは、ペイントボールをぶつけるまで対象モンスターの散策なんて面倒なことはしたくなかったし、それに導虫の機能があるのなら、HRの条件関係なく最初から使える仕様であってほしいとも思っていたからである。だから、それもあってそう答えてやったのである。

 

「ま、気楽に行くさ。どの道使えるようになるのならな」

「そうですね」

 

 とそこで2人は、渋々、現地点では手に入らないこともあり一時だが我慢することにした。頃合いを見計らって俺は彼らをしり目に、光る足跡の採取に取り掛かる。ナイフを手に幹にこびりついた足跡を切り取る感じで剥いていく。ビンに入れ、それを導虫に嗅がせ、ほわんとまばゆい光を放つや導虫は次なる地点へと導いて行く。その手際の良さ。サユリは感想を口にする。

「見たところ、道具(導虫)の扱い方、手慣れているようですね」

「ま、まあな……」

 

 慣れているというか、なんというか。ただただ、道具の解説蘭に書いてあることをしただけであって、慣れているというわけではなかった。けれど、そこは、まあ、伏せておいた。

 

「導虫の示す方向、次は岩陰の辺りみたいだぜ」

 

 ケインが示す。俺はただ

 

「ああ」

 

 とだけ答え、そうして発見した足跡からモンスターの痕跡を辿ることとなった。いわずもなが、導虫は岩陰を示した地点からさらに次なるモンスターの痕跡がある地点へと指し示す。

 

 

 

 

 導虫を使っていくうちに、とうとう障害物となり得る地点へと辿り着いた。それは切りたった崖であり、向こう岸に行くには飛べばどうにか行けると言ったレベルでもなかった。困った表情を浮かべてケインがあきらめの声を漏らす。

 

「こりゃあ、駄目だな。回り道しようか」

「ですね。そうしましょう、ユウト」

 

 2人のアドバイス。俺は崖の向こう岸にある大木に注意を注いでいた。というのも、あの大木を利用さえすれば、向こう岸に渡れる可能性があったからだ。

 

「ユウト?」

「あ、ああ。そうだな。……と言いたいところだけど」

「何か、いい案でもあるのか?」

「案と言うか……」

 

 今、考え中であり、すぐすぐには答えは出せない状況。俺はしばし間を置いた後、ウィンドウ画面を開き、アイテムリストを表示させる。パラパラと適当にめくる中、思っていたことを口にする。

 

「行けなくはないけど、回り道するたってこのクレパス、結構な距離まであるからかなり時間かかって面倒なんだよね。正直」

 

 そう言われ、2人とも改めて生態マップを表示させう~んと唸りだす。

 

「確かにな……」

「そう言われてみれば、そうですね。回り道はできなくもないですけど、そうなると次のエリアまで移動しないといけないですね」

「だろう。それに導虫の示した方角、見失いかねないし」

 

 そこで俺はふとあるアイテムに目を落とす。それはスリンガ―と呼ばれる投擲道具。確かこれはワイヤーを使った道具のはず……とそこで、俺は閃く。スリンガ―を選択し手元に出現させると、ケイン達に断りを入れる。

 

「思ったんだけどさ、俺、先に行ってレイアをマーキングさせてこようと思うんだ」

 

 そこで当然のごとくケインが

 

「なんでだ? ここにきて急に」

 

 と返す。俺は訳を話す。

 

「このスリンガ―を使えば向こう岸まで渡ることができる上、レイアの痕跡を辿っていち早くレイアの元へと辿りつけるんだな。けれど、スリンガ―を使えるのはただ一人であって、それも確実に扱える者と言えば俺しかいないじゃん」

「確かに……」

 

 訳を聞いて頷くケイン。人差し指を立て、

 

「つまりアレだな。この場でスリンガ―を使えるのはお前しかいなく、向こう岸まで行けるのもお前しかいないってことだな」

 

 と正確な解釈をする。そして、しばし考え込んだ後、

 

「確かにユウトの言っていることは、効率的な良さでいえばいいかもしれん。だけどよ、残された俺らはどうするんだよ。お前さん見たく博識じゃない上、目的地まで辿り付けれるかどうか正直、不安でしょうがないよ」

 

 と不安を口にした。俺としては、そこなんだよなあと心の中で呟く。言われるだろうなあと分かってはいたが、実際言われると返答に困るもの。

 一方のサユリもまた、ケインと同じ気持ちなのだろう。表情に影を残す。俺は2人のそんな様子を見て、やや考えた後、思い改める。

 

「んー、分かった。俺としては大丈夫だろうとは思っていたけれど、そんなに心配そうならやめておくよ」

 

 しかしそこで、サユリから思わぬ事を言う。

 

「いいえ。ユウトの言う通りにします」

「えっ?」

「ん?」

 

 俺とケインは揃って意表を突かれる。それをよそに彼女は訳を話す。

 

「確かに、私たちだけじゃ正直不安です。けれど、だからと言っていつまでもユウトさんに頼ってばかりもいられないとも思います。それに、ここでユウトさんが先回りしてくれなきゃ、せっかくのレイアの痕跡、見失いかねないじゃないですか」

 

 た、確かに。ここで遠回りをしてはレイアの痕跡を見失いかねないことには一理ある。彼女の言っていることに、俺はサユリもまた一段と成長したなあと感心を抱くのだった。

 

「確かにそうだろうけどよ」

 

 不服そうな表情を作るケイン。一方で、サユリは狩りの先輩? でもあるケインに向け、期待のまなざしを向ける。

 

「頼りにしてますよ。ケインさん」

「おいおい、サユリちゃんまで」

 

 困惑した表情を浮かべるケイン。しかし、しばし黙した後、

 

「わかった。わかたよ。ここは俺に任せてくれ」

 

 とどこからともなく自信を掻きたてた。俺としては、恐らくだけど、きっとケインのことだろう。ここは男としてチャンスだと言わんばかりに、無理にでも力強く答えたのかもしれない。けど、どの道、2人は俺の提案を了承してくれたことには間違いない。それもあって俺は、2人に向け礼を述べる。

 

「それじゃあ、俺は先に行ってレイアにペイントボール付けてくるから、お前らは遠回りをしてペイントボールが示す地点まで行くってことで。お願いな」

「ああ」

「了解です。ユウトさん」

 

 2人は頷く。そして、俺は手にしたスリンガ―を発射。一本の樹木へと突きたてると、そのまま崖から飛びのき、ワイヤーが巻き取られていく中、俺は際立った崖を登り向こう岸へと辿り着いた。

 

 

 

 

 2人と別れ、どのくらい経ったのだろうか。導虫が対象モンスターを見つけた際に放つ淡く赤い光は、一向にならなかった。今までの散策手順から言えば間違ってはいなかったと思うが、少しばかり不安が募り始めていく。

 そうしたなか、俺は深い茂みの端っこまで辿り着く。すると、直後、またしても際立った崖を目の当たりにして、思わずうわっと驚く。あと一歩踏み込んでいたら崖下へと真っ逆さま。そんな危機一髪的な状況だった。後ずさりをして危なかったなあと、一息を突く。とは言え、眼下を見渡すとこれまただだっ広い草原にもなっていた。さらによくよく見ると、対象のレイアもいるではないか。それもあってか、導虫が対象モンスターの近くまで行くや否や、俺が発見すると同時に導虫は淡く赤い光を放つ。

 相手を睨むようにして目を細めると、周囲を見渡す。と言うのも、崖の高さからして50mほど。飛び降りるにしては、無事では済まされないようなあと思ったからに他ならないからだ。落ちないように注意しながら草むらを掻きわけ、そして、怪しい岩塊を発見する。内側から回り込み、そこで俺は下に降りるためのツタを見つける。

 

 (ここからなら)

 

 そう思って、ツタに手をかけると、ツタを握った手に力を込め、ゆっくりとツタを伝って下に降りて行った。

 

 ………

 

 ……

 

 地に足が付くと素早く近くの茂みに身を隠す。まだ距離があるとはいえ、レイアに見つかっては戦闘は避けられない。そう警戒しながら身を隠しつつ、レイアのそばまでしゃがんだまま前進して行く。

 そうしたなか、俺はふいに思う。こんなコソコソとした狩りなんかせずに正面から当たりたいと。でも、それは危険すぎると理性では訴えかけている。現状の装備。あのクエストでは、きちんとした装備があったからあとは腕次第で何とかなった。

 しかし、今では腕だけでどうこうなるような状況ではないと。そう、理性が訴えているのだ。それもあってか、ここではケインやサユリ達の力に頼りたいとも考えていた。けれどその反面、彼らを巻き込みたくはない。そう言った思いもあって、心境は複雑であった。

 できる限り気配を消しつつ徐々に接近して行く。みるみるその巨躯の全貌が改めて明らかになって行く中、猟団の面々を葬った光景を自然と思い起こす。BT期間中に討伐した経験があるとはいえ、やっぱり恐いものは怖い。それもあってか、ペイントボールを手にしていた右手が震えているのが目に見えていた。死の光景と共に呼び覚まされる恐怖と言う名の雑念を振り払うかのように、俺は数回首を振った後、意を決する。

 そして、狙いを定めるや否や、俺は思いっきりペイントボールをレイアに向けて投げつけた。ボールはなめらかな弧を描き、レイアの翼へと命中する。――と同時に、レイアは何者かの気配を察知したのか、首をもたげ周囲を警戒し出す。

 気配をできる限り殺す俺。

 気配を鋭く探るレイア。

 周囲は瞬く間に殺伐とした雰囲気に呑まれていく。

 姿勢を低く保ちながら、手元に表示されたままのウィンドウ画面に視線を向ける。チャットの項目にてキーボードを表示させた俺は、そこで手早く待機中であろうケイン達へとメッセージを送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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