モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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3章:越えるべき壁・7話

 ユウトがレイアと遭遇するおよそ10分前、ケインとサユリは向こう岸へと渡るべく、腰ほどにもある茂みの中を散策していた。もちろん先頭はケインで、その眼前には生態マップが表示されている。どこかおぼつかない様子を垣間見せる中、ケインは何やらぶつくさと言っていた。

 

「う~ん、この辺りだと思うんだけどな……目印の岩場は」

 

 彼はある場所を目指していた。と言うのも、生態マップ上で示された目印の岩場。そこには、向こう岸へと通じる倒木があるからである。

 けれどその倒木、ユウトから聞かされたことなのだが、通常、ただの倒木なら通行可能表示は表示されないとのこと。

  しかし、とうの倒木はどういうわけか通行可能表示になっているわけであり、よって、この通行可能表示マークが付いた倒木は通行可能であるからして、ケインは何の考えもなくここなら通れるだろうと睨んでいたのであった。だが、そこに行きつくまでに見つけるべき場所――いや、目印ともいうべきか。その目印ともいうべき岩場が、生態マップと照らし合わせてもなかなか見つけられないで困っていたのであった。

 おかしいなおかしいな。そんなことを思いながら、ぶつぶつつぶやき続ける中、前々から気にしていたサユリがとうとう口を出してくる。

 

「さっきから、何をおっしゃっているんです? ケインさん」

 

 しかし、とうのケインは自分のことで夢中であり、気付かない様子。彼女はもう一度、今度は一段と大きな声をかける。

 

「ケインさん、ケインさん!」

 

 そこで、ケインは「っ!!」となって我に返り振り返る。

 

「どうしたん? サユリちゃん」

「どうしたもこうしたも、さっきから何をぶつぶつと呟いていたんです?」

「あ、ああ、いや……その……。ある場所を探していてな」

「ある場所、ですか?」

「そうそう、ある場所をね」

 

 そこでケインは表示されたままの生態マップをサユリに見せた。現在地を指でさし、解説を始める。

 

「今、この辺にいるんだけどな。目的の岩場ってのがここにあって……」

 

 そこは、見るからに楕円形の粒粒がいくつも密集した場所となっていた。道幅が狭く、所狭しとその粒粒状の岩が乱雑に入り組んでいる感じでもあった。見るからに荒れ地。実際にはそこも密林地帯ではあるのだけれども、地形の状況からして荒れ地と言わんばかりの場所でもあった。

 

「ふ~ん」

 

 と鼻で返事を返すサユリ。何やら考えでもあるのだろうか。ケインは彼女の返答を待つ。

 

「見たところ、大体この辺りですね。その岩場ってのが」

「だろう? でも、周囲を見るからにそれらしき大岩も見当たらないんだよね」

 

 何も答えず、サユリはケインから離れて、茂みを掻きわけつつも周囲の散策を始める。その様子に、一瞬だがモンスターの襲来を心配していたケインだが、そんなに遠くに行かなければ大丈夫だろうと思い、一旦見守ることにする。だが、その考えは甘いものだとすぐに気付かされることとなった。サユリが茂みの端まで言ったその直後、

「きゃあっ!!」

 

 と悲鳴を上げ姿を消し、ざざざーと滑るような音を立てたのである。

まさか、滑落!? 彼女の身に危険が。

 咄嗟に、ケインは消えたサユリの後を追う。――とそこで、自身も危険な目に合い

「おおーっと、あぶねぇー!!」

 

 と急ブレーキ。危うく、自分もサユリと同じく滑落するところだった。 

 呼吸を整え落ち着かせると、崖下を覗くような感じで見下ろす。見るところによると、崖は急勾配となっており、ところどころに岩肌が顔をのぞかせていた。生態マップで表示されていた岩場。どうやら、この崖周辺のことを示していたみたいだった。

 

「おーい!!」

 

 と声高らかに呼びかける。すると、近くでどこからともなくギャーギャーと泣き喚くモンスターの声が。このことにより、やばいと思ったケインは、咄嗟に口元を手で覆う。辺りを見回し、しばらく様子見。モンスターが近くによって来ないようだと思ったケインは、そこでサユリの様子を遠目で観察する。一見して彼女は倒れていた。ここではよく分からないので、崖下に降りてみる。ゆっくりと腹ばいになって崖下を降りていく。ゆっくりとゆっくりと。だが、そこで足元が滑り――

 

「う、うわー!!」

 

 と小さな悲鳴を上げると、そのまま、ざざざざざーと滑り落ちてしまう。

 

「あちちち」

 

 膝を抑えて呻く。片側に開いた眼には、体力ケージが表示されており、わずからながらダメージを負ってしまっている様子であった。

 膝を手で払いのけ、サユリの元へと駆け寄る。

 

「大丈夫か?」

「う、ううう……」

 

 どうやら気絶しているようであった。ケインは胸をなでおろし――が、そこで視線が彼女の体力ケージに。思わずその体力ケージのバーの減り具合にどきりとしてしまう。と言うのも、サユリの体力ケージが、さっきまでは満タンだったはずなのに、今では6割ほどになっていたからである。この滑落で半分近くのダメージを負ってしまったことに、ケインはサユリのことが心配になってしまう。

 とりあえずと思い、近くの大岩へとサユリを抱えて移動。容体を気遣いながら、周囲を見回してみる。

 

「どうやら寄ってくるモンスターはいなさそうだな」

 

 ケインが心配していたのはランポスの類。普段なら奴らの討伐くらいなんとか自力でできるようになっていた。しかし、今度ばかりは負傷者も抱えた状態でそうもいかない。獲物を見つけ次第、執拗につけ狙ってくるランポスの存在がいないかどうか。まあ、それ以外の獰猛なモンスターも対象だが、今はまあ、そのランポスだけに焦点を宛がい警戒していたのであった。

 奴らの存在がいないことに一安心すると、ケインはウィンドウ画面からアイテム欄へと切り替え、回復薬を選択。気が付いた際、手渡して回復させようとしていた。――とここで、どこからともなく、羽音が聞こえてくる。

 

「ん?」

 

 再び周囲を見渡す。すると、遠目ながらだが、一輪の花の上でクルクルと回っている何かの存在を見つける。

 

(あれは……なんだ?)

 

 不思議そうに見つめるケイン。ここからじゃあ、よく見えないこともあって、早速立ちあがる。

 そーと、気配を殺す感じで近づき、そして、その正体を確認する。見たところによると、蜂。まさにただの蜂であった。けれど、一般的に知られる蜂とは違い、その蜂は腹部に深緑色の液体を抱えていた。液体はまさに水溜りのような状態であり、それ以外は特に変わった感じはなかった。害はなさそうだなと安心したケインは、少しばかりかそのモンスターに興味が湧いたのか、ユウトに向け、そのモンスターの特徴を踏まえてメッセージを送る。

 

 数十秒後……。

 

 ユウトから返信が返ってくる。メッセージにはモンスター名、そして、特徴が記載されてあった。メッセージを読む限り、そのモンスターの名は、回復ミツムシとのこと。特徴からして、攻撃を与えると腹部に抱えている蜜袋が破けて回復効果を与えるとのことだそうだ。メッセージを読み終えたケインは、このことを知るや否や岩に横たえていたサユリの方を見やり、こいつ(回復ミツムシ)で彼女をと考えつく。

 背にサユリを背負い、重たい足取りで回復ミツムシが飛びまわる一輪の花の近くにきたケインは、そこでサユリを下し寝かせる。そして、太刀を抜くと、ひと思いに回復ミツムシを斬りつけた。

ナシ汁ブシャー!! のごとく辺り一面に緑状の液体が散布されまくる。と同時に、サユリとケインの体が煌めく光に覆われ、2人の体力ケージがマックスになりリフレッシュされる。

 一方、回復ミツムシの方は、蜜を破かれたことにより、ぷ~ん、と情けない羽音を靡かせ、どこか遠くへと飛び去ってしまった。

 

「う、うう……」

 

 とサユリが気が付くと、ケインは目線を彼女に向ける。

 

「ここは……」

 

 周囲をきょろきょろと見回すサユリ。その様子からして、一時の記憶喪失みたいな感じであり、ケインは彼女を気遣うようにして声をかける。

 

「無事で何よりだ。もう大丈夫だぜ」

 

 ぼんやりとした表情を浮かべつつも、サユリはそこで礼を述べる。

 

「あ、ありがとうございます。けれど、ここは一体……」

 

 自分がどう滑り落ちたのか曖昧な様子であった。無理もない。あの高さ(およそ6mほど)からである。いくらVRとは言え、実際には現実世界での感覚や衝撃に近いものが襲い掛かってくるのだ。それに伴うダメージの影響はま逃れないはずである。それもあってか、ぼんやりした彼女を諭すような感じで、ケインは言う。

 

「俺が目指していた場所だよ。まあ、気にするな」

「そうですか……あ、そう言えば」

 

 そこで、電撃のごとく記憶が蘇ってくる。自分がケインのために岩場のありかを探していたこと。そして、崖から滑り落ちてしまったことを。思いだした記憶を整理しながら、サユリは、後方を振り返る。同じく、ケインも後方を見やり、

 

「あの高さから……」

「ああ、あの高さからだ」

 

 そう声を揃える。自分が先ほどまでいた場所を見つめ終えると、彼女は前方へと振り向く。

 

「行きましょうか、ケインさん」

「もう、大丈夫なのか?」

「うん、大丈夫です。ここは現実世界とは違いますから、そんなに体に気を使わなくても大丈夫だと思います」

「ま、まあ、それもそうだな」

 

 そう言って2人は立ち上がった。――とそこで、ユウトからメッセージが届く。内容には

 

『レイア発見したから、マーキングしておいたぞ』

 

 とのこと。2人は生態マップを表示させ確認。

 

「さあ、行きましょう、ケインさん」

 

 とサユリが率先して先を歩き出し、ユウトが記した場所へと倒木を伝って向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、どう攻めたらよいのか。俺は周囲の気配を探るリオレイアを前に思案していた。現状の装備では、武器もそこまで強くなく防具に至っては紙同然と言えるレベル。BT時に相対したリオレイア見たく真っ向勝負で挑めば〝敗北=キャンプ送り〞は目に見えていた。かと言って、このままただただ時間だけが過ぎていけばいずれ夜になり、攻略はさらに困難。緊急クエストの条件にこいつの討伐がある以上、どの道避けては通れない壁であった。

 とりあえず、ケイン達が合流するまでの間、こちらとしては何もしないでいるわけにはいかない。と言うわけで、何かいい方法はないものだろうかと考えながら、アイテム一覧を吟味していく。

 そうした中、いくつかある狩猟道具の中から、閃光玉がいくつかあることに目が止まる。調合材料も含めて、せいぜい15個と言ったところ。閃光玉からの奇襲作戦はどうだろうかと、俺はそう考えに行きつく。

 

「これなら」

 

 閃光玉を掌に表示させ、軽く握る。そして、レイアが向こうを見たその瞬間、俺はレイアの眼前へと閃光玉を思いっきり投げつけた。ゆるやかな放物線を描き、直後、閃光玉はレイアの眼前で激しい閃光を伴って弾ける。周囲の景色が真っ白に一変し、顔を伏せていた俺までもが閃光にやられそうになる。

 閃光が収まった頃、俺はレイアを見る。目論み通り、レイアは閃光玉の激しい閃光の前にめまいを余儀なくされていた。突然視界を奪われたことで困惑するレイア。俺は背に背負った大剣(ブレイズブレイド)に手を宛がい、全速力で駆けていく。そして――

 

「おりゃあ――!!!」

 

 渾身のこもった一撃を、頭部へと叩きつけた。元々の切れ味ケージが緑色あることもあってか、血が吹き出なかったものの硬い鱗がたった一撃の前にひびが入るまでに至る。俺は勢いに任せ、続けて横に薙ぎ払おうと、体をひねった。

 

「これでも食らえー!!」

 

 めまいを起こし何もできないでいたレイア。二撃目をまともに食らい、そこでめまいを起こしながらでもハッとなって我に返り、自分を攻撃する敵を振り払おうとしてくる。

 

「おっと!」

 

 攻撃直後の硬直時間を前転でキャンセルし、俺は薙ぎ払ってきた強靭な尾を優雅に交わす。そして、間髪いれず態勢を立て直すと、柄空きになった脚を狙うべく地を蹴って突進して行く。

 

「うおりゃー!!」

 

 獲物を抉るかのような鋭い刃を持ったブレイズブレイドの重い一撃が脚に叩き込まれ、少量の血のエフェクトが迸る。続けて、横に薙ぎ払うべく胴体を捻り、――とそこでレイアが方向転換しこちらの方へと頭を向ける。

 

(まずい!!)

 

 直観的に突進攻撃だと悟った俺は、ひねり出しのところを強引にキャンセルし飛びのき、一撃死に繋がりかねない突進攻撃を間一髪で交わす。前転し着地した俺は、突進して行ったレイアの方へと向く。一方レイアは、上体を投げ出すかのようにして制動かけているところであった。

 正直、すごく危なかったと思う。あの巨体での突進。巻き込まれていたら、怒り状態でないにしろ巻き込まれていたらただじゃおかなかった。俺は間一髪避けきれたことにほっと一息を突く。

 納刀し、追撃をかけずレイアの動向を探る。レイアは立ちあがってこちらを向くや、獲物をしとめ損ねたことに悔しさを洩らすかのように唸り声を発する。

 再び相対する中、レイアは遠くにいる獲物を一発で仕留めるべく頭を持ち上げた。俺はチャンスだと思い、この瞬間を逃さず左へと回り込む感じで懐へと走り込む。勢い良く吸い込む動作。直後に放たれる火球ブレスは、またもや空振りになり、その瞬間にできる一時的な膠着状態を逃さず、俺は奴の弱点でもある頭部へと一撃をお見舞いしてやった。

 ブシュ―!! と、堅い鱗が割れると同時に盛大な血飛沫が吹き荒れ、レイアは一瞬だがその攻撃に怯む。前転からの攻撃直後の硬直時間キャンセルを行って間合いを取った後、納刀。相手の出方を見る。

 ニ三度、首を振った後、レイアは再びこちらを向き、今度はこちらの動きを読むべく警戒しながらゆっくりと近寄ってくる。お互い読み合いの状態が続く。その中で俺は思う。レイアの全体的な外見。俺の知っているレイアの体格とは、少し小さいような感じもしていた。と言うのも、俺の知っているリオレイアと言う雌火竜は、全長約1600cm(詳しくは、1654.3cm)ほどの巨体であり、今、目の前にいるリオレイアはその巨体よりも一回り小さかったからである。

 考えられる要素としては、最小サイズのモンスターだと言うこと。それと、まさかだと思うが、子供のレイアだということ。この二つである。戦闘中の中で色々と余計なことを考えるのもおかしいが、そのくらい外見が自分の知っているレイアとは一回り小さかったのだ。

 余計な考えを首を振ってかなぐり捨て、再び神経を集中させる。とりあえずはケイン達が合流するまでの間、できる限り体力を減らしておきたい。これに尽きる。

 そーと前へ前へと踏み出していき、間合いを図っていく。そして、一触即発の流れはレイアの咆哮の予備動作で一変する。俺はブレイズブレイドを盾として構え、襲い掛かるであろう咆哮に備えた。直後、

 

 ギャオ――!!

 

 けたたましい咆哮が周囲の空気を大振動させて襲い掛かってくる。

 

 ガキ―ン!! 

 

 と激しい金属音を響き渡らせ、咆哮をガード。すぐさま納刀して、直後にできた隙を逃さんとばかりに駆けだす。だが、レイアもレイアで計算していたらしく、簡単には攻撃させないとばかりに、俺に向かって突進をかましてくる。それも目標を見定めてホーミング的な形に。

 

「ちっ」

 

 舌打ちをするや否や、チャンスを逃した俺は急制動をかけ横に飛び退る。前転して態勢を立て直し、突進からの急制動によってバランスを崩していたレイアに向かってバックアタックを狙っていく。

 

「おりゃああああ!!」

 

 気合いを込めて、討伐する上で一番厄介であろう尻尾への攻撃を見舞う。

 

 ガキ―ン!! 

 

 とブレイズブレイドの刃が尾の堅い鱗にぶち当たり、当然のごとく弾かれる。が、うろこの強度がいまいちだったことが幸いしてか、多少なりとも攻撃を受けた鱗にひびが入った。今の確かな一撃。これならいけるかも。俺は討伐する上での作戦の優位性に自信を持ち始めた。

 討伐する上での基本的な戦術――ヒット&ウェイに意識をして、深追いせずに一旦距離を置く。レイアは立ち上がり、こちらへと振り向く。そして、またもや突進と同じ手を使ってきた。何度やっても同じだ。俺は難なく横へと飛び退り―――とそこで、重大な読み違いをしてしまう。それは、レイアが突進を見せかけて行った、フェイク攻撃。つまり、突進からの急制動。目標(俺)を巻き込まんとばかりにかまされた尾での薙ぎ払い攻撃だった。

 

「なっ!?」

 

 このことにより意表を突かれた俺は、立ち上がりざまでの一撃を否応なく受けてしまうのだった。

 

「ぐはっ」

 

 腹部に直撃した棘のある尾での一撃は、かなり痛烈なものとなった。肺の空気を全部吐き出されただけでなく、それ以上に棘で胸を貫かれた不快な感触を味わうことになり、俺はおよそ20mも吹き飛ばされることとなったのだ。何度も転がり、やがて一本の気にぶち当たってようやく止まる。

 

「う、うう……」

 

 仮想世界だってのにリアルにも朦朧とした意識の中、突っ伏したままの俺は、眼前に表示された体力ケージに自然と目が行ってしまう。100%の体力ケージからごっそりと抜け落ちるかのように表示された真っ赤なケージ。削られた命の量を示す真っ赤なケージが、緑色の命のケージを4割型塗り潰さんとしていた。

 朦朧とした状態を振り払うかのように首を振って、力の限りよろよろとブレイズブレイドを杖代わりにして立ち上がる。一方、リオレイアの方は、こちらの出方を見極めているのか、はたまた警戒しているのか、唸り声をあげていた。

 手早く操作しアイテム欄を表示させると、薬草では回復猟が間に合わないと思い回復薬を選択。手元に表示させると、グビッと一気飲みして3割ほど回復。再び、レイアと対峙する。

 怒り状態でないにしろ、食らったダメージの量からして油断はできない。俺は深追いはせず、出方を窺うべく警戒する。

 

 そして……

 

 次に動いたのは、またしてもレイアの方だった。飛びあがったかと思いきや、そのまま飛行状態で突進。俺の意表を突くつもりなのか、急襲してくる。まさにとっさの判断だった。そのくらい、相手の攻撃動作は速かった。俺は、間一髪でブレイズブレイドを盾代わりにして、その攻撃を防いだのである。

 

 ガキ―ン!!

 

 と火花を散らして後ずさり、力の流れをそらすべく斜めへと剣腹をずらす。しかし、突進の威力が威力だけに、

 

「くっ」

 

 と歯を食いしばり、思わずのけぞりそうになってしまう。

 態勢を立て直し、手早く納刀すると、俺は飛行突進直後のレイアを追撃するべく駆けだす。

 ――とそこで、どこからともなく聞き覚えのある声が2つ、響いて来た。

 

「「お――い!!」」

 

 俺は咄嗟の出来事に、その場で制止。周囲を見渡した。そして、またもや声が聞こえてくる。

 

「この声は……」

 

 まさか、もう来たのかと直感した。声は主はサユリとケイン。間違いなかった。俺は、この状況ではまずいと思い、閃光玉を投げて一旦退く算段に打って出る。 しかし、タイミングがここぞとばかりに遅い。ここは一旦、タイミングを図り、冷静になってレイアの出方を窺う。そして、火球ブレスだと言わんばかりに首をもたげる攻撃動作をした際、俺はこの隙を狙って閃光玉を投げつけた。

 咄嗟に顔を庇う俺。一方、レイアの方は攻撃動作中だったこともあり、またもや、まともに激しい閃光に目を焼かれてしまう。激しい閃光がやんだ後、俺はレイアの方を見る。レイアは頭部にひよ子のエフェクトを表示させて、めまい状態になっていた。

 

(今のうちに)

 

 俺は素早く近くの茂みに身を隠し、そして、その場から先ほど声のした方向へと全速力で離脱する。

 

 タッタッタ……

 

 姿勢を低く保ちながら、地を蹴って走る。できるだけ遠くに。そして、ケイン達との早めの合流を果たすべく全速力で。遠ざかっていくレイアを見向きもせず俺は走り続け、やがて一本の獣道へと出る。

 荒い息を吐きながら、ここまでくれば、とひとまず息を整える。その中で眼前に表示されたままであり、底が尽きた状態から徐々に回復しつつあるスタミナケージを呆然と見やる。

 ふぅと息を吐き、呼吸を整えた後、辺りを見渡す。遠くの方でレイアの遠吠えが響いてくる中、続く獣道の先で2人の人影を目撃。一目でケイン達だと分かると俺は心の中で一安心する。

 ややって手を振って、ケイン達は歩み寄ってくる。

 

「やっと追い付いたよ。ったく、導虫とか何とか持っている奴はいいよなあ。最短で発見できるし」

 

 愚痴をこぼすケインに、サユリは俺をフォローするかのように付け加える。

 

「そこは我慢しましょうよ、ケインさん。どの道、私たちも使えるようになるのですし」

「確かに、そうだけどよ……」

 

 腰に手を当てて、どことなく腑に落ちないでいた。俺は慰めではないけれど、助言しておく。

 

「彼女の言うとおりだぜ、ケイン」

 

 う~ん、としばし唸った後、彼は渋々、

 

「分かった分かったよ」

 

 と納得する。

 

「ところでさ、ユウト」

 

 ここでケインは、俺の進捗状況を尋ねてきた。

 

「レイアの方は、あれからどうなったんだ? 俺たちはペイントボールを頼りに来るので手一杯だったから、どうなったか知らないからさ」

 

 つられてサユリも

 

「私も気になります」

 

 2人して気になられ、俺は正直、どう言ったもんだかと困ってしまう。と言うのも、レイアとは対峙したものの手こずってまともにダメージを与えられず、一旦退いたこと。情けない感じがして言いづらかったからである。そう言うことがあって、俺はしばし悩んだ末、簡潔にこう話しておく。

 

「ああ、あれはだな……。まだ、狩りの途中なんだな。それが」

 

 それを聞いて、

 

「ということは」

 

 と言った後、2人の顔が次第に青ざめていく。恐らく、彼らはこう言いたいのだろう。

 

 〝近くに獲物を探して回るレイアがうろついている″

 

 と。俺はケイン達が想像しているであろうことを察して言う。

 

「そう、お前らの考えている通りだ」

 

「ゲ――!! ま、マジかよ」

 

 と驚くケイン。一方、サユリは、生態マップを見ながら「た、確かに近くにレイアがいるであろうマーカーが表示されていますね」と脂汗を掻きながら確認をする。

 2人の注意を俺の方へと向かせるべく、「とりあえずだな」と切り出してみせる。

 

「とりあえず、今の段階を言うと、多分、まだ見つかっていないと思う」

「なぜ、そんなこと言えるんだ?」

「そ、そうですよユウトさん。狩りの途中だったら、すでに私たちも見つかっているはずです」

 

 当然のように聞いてくるケインとサユリ。俺は事のあらましを簡潔に。そして、身振り手振りを交えて訳を話す。すると、ケインとサユリは揃ってわずかばかりであるが、一安心をする。

 

「なるほどねぇ。どうりで」

「あまり油断できないですけど、それなら今のところは騒ぎ立てなければ大丈夫そうですね」

「まあな。……さて」

 

 そこで俺は、これから今後どうするのかについて考えだす。一方、ケインは俺の考えを言い出す前に

 

「で、これからどうするんだ? 作戦は」

 

 と言いだしてくる。

 

「それはまだこれからだ」

 

 確かに。わずかばかりでもダメージは与えてはいるが、本格的な討伐戦はこれからだった。

 とりあえず、うーんと唸り、思いつく限り立案を思案して行く。そのなかで、誘い込んで落とし穴に落とし、そこで大タル爆弾を使って攻めていく。あるいは、誰かを囮にしてレイアに飛び移り、乗り技でレイアをダウン状態に。あとは徹底的に猛攻をけしかけていく。とか、それ以外にも、いくつか作戦が思いついていく。が、それをネガティブな思考が時折脳裏をよぎってはかき消されてしまう。堂々巡りになってしまう中、そこで、ぽつりとサユリが提案してくる。

 

「役割分担はどうでしょう?」

「役割分担? レイア相手にか」

「ダメでしょうか?」

 

 よそよそしく尋ねくるサユリに、ケインは掌をひらひらさせて諦めの態度をとる。

 

「あー、無理無理。レイア相手に役割もへもなにもないぜ」

「そんな……」

 

 あきらめの表情を浮かべる彼女。けれど俺は、ケインとは違った考えをしばしの間を置いて思いつく。

 

「もしかしたら、その案は使えるかもしれないな」

 

 それを受けて、2人そろって「えっ!?」とこっちを向く。続けて、ケインが言う。

 

「どういうことだ? ユウト」

「使える案だと言うことさ」

「使えるって……。相手はお前も経験あるだろうけどあのリオレイアだぞ。ユウトだけで挑むならまだしも、俺たちに役割を持たせて挑むってのはどうかなあと思うぜ」

 

 否定的な考えを述べるケイン。そこで俺は、持論を持ち出す。

 

「確かに、適当な役割分担を持たせて挑むのは無謀というものだ」

 

「だろう」

 

 と頷くケイン。

 

「だけどな。きちんと作戦を立てれば、無謀なことでもないさ。それに……」

 

 そこで言いかけてどもってしまう。言いたいことは、相手のレイアが子供であり、きちんと役割分担を持たせて挑めばそんな大したことでもないさ。そういうことであった。だけど、それは考えが甘いよなあとすぐに思って、そのことは伏せておいたのである。

 けれど、ケインはそこの部分が気になってか、当然のように食らいついて来た。

 

「それに、ってなんだよ。何か他に言いたいことでもあるのか? 逆に気になるじゃないか」

 

  気迫の籠った感じで聞いて来たので、思わずうろたえてしまう。が、そこはうやむやにしておくことにした。

 

「別に、それにと言うのは、そんなに大したことじゃないよ」

 

 しかし、サユリの方も、

 

「私も気になりますねぇ」

 

 と〝それに〞という思わず口から出てしまった言葉に反応を示してきたので、

 

「おいおい、サユリまで……しょうがないな。それにと言うのは、レイアのサイズのことだよ」

 

 と渋々答えてやる。

 

「サイズ?」

 

 首をかしげる2人。続けてサユリが言う。

 

「大きかったとか。とてつもなく」

「いや、その逆だ。通常種より、一回り小さかったな」

 

 そこでケインが「てことは、子供か。そのレイア」

 

「わからない。ただ単に最小サイズのレイアってだけかもしれない。ま、いずれにせよ討伐して素材手に入れないことには何とも言えないな」

 

 自分で言うのもなんだが、確かにその通りであった。討伐、あるいは捕獲して手に入れる素材。最小サイズだろうと思っていたのが、実は、なんてこともあるかもしれないからだ。

 

「確かにな」

 

 とケイン。サユリも納得したのか、鼻で返事を返すのみであった。

 

「でもよ」

 

 ここでケインが、現金にも変に解釈を入れてくる。

 

「最小サイズってことは、ある意味、小さいからして楽勝じゃねえか」

 

 俺はその言葉に、内心、やっぱりそう考えてくると思ったよと、呆れてしまう。だが、そのことは表には出さずにいた。――とそこで、レイアがいた方角からけたたましい咆哮が響いてくる。

 

 ギャオオオオオオ――!!!

 

 空気を振動させ伝わってくるそれは、まさしく衝撃波の如くであった。

 

「あれを聞いても、そう言ってられるか?」

「う、ううう……。そ、それは……」

 

 さすがのケインも、先ほどの咆哮には考えを改める以外、見つからないようだった。

 

「なんだか、サイズが小さいとはいえ、先の咆哮聞いたら引き返したくなってきました」

 

 手を戦慄かせて、恐怖の色を浮かべるサユリ。俺はそんな彼女の手をそっと取ると、

「それは俺も同じ。大丈夫だ。きっとなんとかなるよ」

「ありがとう、ユウトさん」

 

 そこでケインも、あやかろうとして俺の腕にしがみつく。

「お、俺もこえーよ」

 

 しかし、そこは心を鬼して

 

「お前は彼女の先輩だろうがっ」

 

 と喝を入れてやった。すると、ケインは残念そうに

 

「そ、そんな……」

 

 と首を垂れるのであった。

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