生態マップを確認したら、レイアは先の咆哮と共にどこかへと飛び去って行ったことが一目で分かった。
ここからの捜索では、二通りある。一つはペイントボールのマーカーを頼りに追跡する方法。そして二つ目は、再び導虫を頼りに追跡を開始する方法であった。
俺が思うに、ここはせっかくペイントボールを付けているのだから、一つ目の方法で追跡をしたいところであった。けれどその前に、確認したいことがあった。それは、作戦である。ケイン達はすっかり忘れているかもしれないが、クエスト開始前に作戦会議を開いてある程度作戦を練っていたのである。そのことを俺は確認しておきたかったのだ。
2人で一つの生態マップを見ながら、
「なあ、追いかけようぜ、ユウト」
と話しかけるケイン。俺はそこで、2人に聞く。
「なあ、2人とも。ここに来る前に作戦会議開いていたこと覚えているか?」
そう言われて、う~んと、何やら思い出すような仕草を2人は見せながら、そう言えばとサユリが先に思い出す。
「そう言えば、私達、すっかり忘れていましたね。作戦のこと」
「あ~。確かしていたような。でも、すっかり内容忘れっちまったな」
「おいおい、大事なことなんだぜ」と念を押す。
「まあいい。とりあえず、第一段階は俺がうまく成功させて置いた。あとは、第二段階と言ったところだな」
そこで、サユリは作戦内容の一部を思い出したらしく、キーワード的な事柄を話し出す。
「作戦の内容としては、罠とかいろいろ駆使して使っていくんですよね。最終的には、総攻撃を仕掛けていくとか」
「まあ、当たらずとも遠からずと言ったところだな。とりあえず、お前らはだなあ……」
そこで俺はメモ用紙の欄を選択し、超高速で作戦内容を書き殴って行った。一見して乱雑な記載ではあったが、ある程度は分かるように書いたつもりであった。収支文面を確認した後、俺は2人に向け送信をする。
「とりあえず、それを見ろ。つたない文字だが、そこは目をつぶってくれよな」
「は、はあ……」
隊長に押しつけられたような部下の表情を浮かべて、ケインは戸惑う。一方、サユリは、しばし目を細めて終始確認していたが、やがて
「うん、わかりました」
と言ってくれた。ケインはともかくとして、サユリだけでも作戦内容が再度伝わったのを確認した俺は、そこで生態マップを表示。レイアの動向に注視するとともにレイア追跡に置けるルートを探っていく。
そのなかで、川を渡って上流へと向かう必要があることを確認。ハンドマーカーでルート上に線を描いていく。そして、地図を表示させたまま2人と向き合った。
「じゃあ、追跡開始な。特にケイン!! 追跡中でも俺が渡した作戦メモ、きちんと理解しておくんだぞ」
肩を落としながら、
「はーい」
と元気なさそうな声を漏らすのであった。
その後、俺たち3人は、生態マップを見ながらレイアを追跡することとなった。途中、やはりだと思っていたが、川を渡る羽目になった。生態マップ上からでは、川は小川ほどの川幅であったが、実際、この目で確かめると、思っているより川幅は大きく、そして、流れが速いものであった。当然、直接向こう岸へと渡るのは困難であり、レイア追跡に当たっては障壁となっていた。
「はて、どうするよ」
ケインが俺に尋ねてくる。一方、俺は周囲を見渡し、川の上流の方と下流の方を見る。
「ん~。んっ!?」
そこで俺はふととある一点に注目した。
「あれは……」
そう言う目先には、いくつかの岩が浮き出ていた。それも向こう岸まで渡れるではないかと言った感じで、大岩がいくつも転がっていたのである。あれを利用する手はない。そう思った俺は、指をさす。
「あれを見ろよ」
言われた通り、2人が俺の指す方へと見る。すると、
「岩、ですね……」
とサユリが呟き
「でも、なんだか渡れそうな感じがするような気が……」
とケインまでもが呟く。
「気が……でもないさ。若干、危なげだけど、あの岩を伝って向こう岸まで渡れると思うぜ」
「なるほどね」
「でも、なんだか、実際に渡ってみようとすると恐いような気がします」
「大丈夫さ。俺がフォローしてやるから」
「ありがとう、ユウト」
「なあに、当然のことだよ。さてと……」
そう言うや否や、俺は率先して歩きだす。そして、足元に転がっている大小様々な小石に何度か足をすくわれそうになりながらも、俺たち3人はようやく例の岩へと辿り着く。見た感じの通り、岩と岩の間はそんなに距離は離れておらず、軽くジャンプするだけでも隣の岩に着地できる距離であった。ただ、一点注意すべきなのは、滑らないこと。それだけであった。
「よし、俺から先に行く。お前らは自分のペースに合わせて登って来るんだぞ」
「了解」
「分かりました」
2人の了承を得ると、俺は早速、登り始める。手に力を込め、ふんばり、防具の重さを改めて感じながら、なんとか岩の頭頂部へと登りきる。広さはちょうど、2人か3人分のスペースが入れるくらいってところ。そんなに広い感じではなかったが、それでも十分なスペースがあって助かった。
「よし、いいぞ。お前らも登って来い」
「さ、サユリちゃんも。お先にどうぞ」
「ケインさんは?」
「俺は先輩らしいからよユウトいわく。だから、その次に登ってくるよ」
ケインの気遣いあってか、サユリはこくりと小さく頷くと、手に足に力をかけ登り始めた。途中、
「あっ!」
とか言ってずるりと滑り落ちそうになったが、そこは、俺が手をさしのばしたこともあり、その手を掴んだことで、なんとか踏ん張って登りきることに成功。「いいぞ、サユリ」と励ました。
「次はお前だぞ、ケイン」
「ああ、分かっている」
そう言って、ケインは手をかける。
「手を貸しましょうか?」
「いや、いいや、俺は」
遠慮するケイン。ケインの方は自力で大丈夫だろう。そう思った俺は、彼のスペースを確保するため、隣の岩へと飛び移った。振り向き、両腕を組んで彼が登ってくるのを待つ。
――とそこで、茂みの方から、なにやら、ガサガサガサ、と大きな葉音が立っていることに気が付く。なんだろうか。俺は嫌な予感に苛まされる。一方、ケインも先の葉音を聞いてか、動きが止まる。
「ユウト、先の葉音」
「ああ、とりあえず、早く登って来い」
「ユウトさん」
心配そうな表情を見せるサユリ。俺は彼女にとりあえず、こっちに飛び移っていろと呼びかける。
サユリが自分のところへと飛び移るのと交代で、俺はサユリが先にいた場所へと飛び移る。よじ登ってくるケインに手を差し伸べつつ、茂みの方へと注意深く観察をする。すると、その正体がようやく姿を見せる。
「ドスファンゴ!?」
目を見開き、茂みから這い出た牙獣種を見つめて言う。しかもその際、一瞬であったが、ドスファンゴの双牙の片方が、何者かによって折られていたのも目にしてしまう。このことにより、
「えっ?」
となって気を取られ向くケイン。奴――ドスファンゴは気付いていないようだが、俺はこの状況下に、直観的にやばいと思った。
「まずいなこれ。ケイン! 早く俺の手をとれ!」
「あ、ああ」
俺の手を力強くとるケイン。一方、それと同時にというものか、ドスファンゴは周囲を見渡すや否やこちらを発見。なにやら警戒しつつ近寄ってきた。俺は勢いよくケインをよじ登らせると、俺とケインとでドスファンゴの動向に注視してしまう。
下手に動けば、奴は間違いなく突っ込んでくる。それも猛スピードで。俺は恐る恐る岩の端へと自然と出、そして、落っこちそうな俺を心配してかサユリが声をかける。
「ユウトさん!!」
その声に俺たちは思わず「えっ!?」となり、同時にケインが足元にあった小石を踏み落としてしまった。
パラパラパラ……
石が転がる音が緊迫した空気を響かせる。そして、それが引き金でもあった。ドスファンゴは先の音でこちらに気付くと、地を何度もこすり、ブッヒー!! と高らかにいななくや否や、全速力で突っ込んできた!!
「やばい!! ケイン! 隣の岩まで飛び移れ!!!」
「あ、ああ」
さすがのケインも驚きを隠せない表情を浮かべ、俺と共にダッシュをかまして隣の岩。サユリがいる岩へと飛び移った。サユリはうわっとなって、慌ててよける。と、次の瞬間、猪突猛進のごとく突っ込んできたドスファンゴが、先のいた大岩に思いっきりぶち当たった。
ドカーン!!
大きな音を立てて、岩が蹴飛ばされドスファンゴの勢いが減速する。そして、ゆっくりとだが、こちらへと向きを変えてきた。
俺たちのいる場所がほぼ急流の真上。ここで突っ込まれては3人ともブルファンゴの突進に巻き込まれて急流へとジャボーン!! なんてことにも。俺は率先して隣の岩へと飛び移ると、ケインとサユリに向かって声を張り上げる。
「こっちにこ来い! 2人とも。一気に向こう岸へと渡るぞ!!」
「ああ」
「はいっ!」
両名は返事をすると、すぐさま全力で駆けだす。2人が岩を飛び越えこちらにやってくると同時に、俺はもう一つ隣の岩へと大きく跳躍した。一方、ドスファンゴは急流にものともしないのか、脚を地にこすり始めると、全力疾走で突進。大岩をこれでもかと言うほどに蹴散らしてくる。それも、一つ一つの岩にぶち当たるたびに動きは一瞬止まるものの、それでも怯むことなく、まるで古龍の進撃のごとくに突っ込んできたのだ。これは非常にまずい。巻き込まれでもしたら、大ダメージを負うばかりかそれ以上に急流に呑まれてキャンプ送りに。……なんてことに。そう焦った俺は声を張り上げ叫ぶ。
「早く逃げろー!!!」
その言葉と共に背後から豪快な破壊音が轟くのを聞きながら、2人は一目散に駆け、そして飛び越えていく。つられて俺も逃げ、やがて、先に向こう岸へと辿り着いた。
(よしっ、ここまでくれば、高低差が十分足りていてドスファンゴがこれ以上近づけないはずだ)
心の中で一安心し、そして、ケイン達の方へと向く。一方、ケイン達は無我夢中で駆け続けていた。そして、対岸まで一歩と言うところで、先に飛び越えこちらへと辿り着いたのは、ケインであった。
「へへ、ここまでくれば」
先ほどまで慌てていたものの、最後は余裕綽々の表情を浮かべるケイン。残るはサユリのみであった。
「サユリ、こっちへ早く!!」
そう呼びかける俺。だが、当の本人は、対岸を目の前にして、一歩踏み出せないでいた。それもそのはずで、対岸までの距離はおよそ3mほど。全速力で跳躍してなんとか届く距離であったからだ。ととのつまり、届かなければ急流に呑まれてしまうわけであり、そのことにより、彼女は一歩勇気が踏み出せないでいた。
駆けだすタイミングを図ろうと懸命に前へ前へと体を押しだそうとするが、それを体が拒んでしまう。そして、とうとう彼女の口から弱音が出てしまう。
「ダメ! 飛べそうもないよ」
しかしその一方で、ドスファンゴはこちらの状況を見もせず猪突猛進で次から次へと大岩を蹴散らしつつあった。このままではやばい。
けれど、彼女をせかすにも無理と言う者があった。視線を迫るドスファンゴに向けつつ、サユリを安心させようと説得する。
「安心して飛んで来い! 俺が絶対掴んでやるから」
「本当?」
「ああ、本当だ」
背後から岩を打ち砕く轟音が近づいてくる中、迫る恐怖に堪えかねたサユリは、泣き出しそうな声を漏らす。
「絶対に、絶対に掴んでくださいね。お願いしますから」
「ああ、命に代えてでも必ず」
そう言って俺は手を差し出す。そして、意を決したサユリは、一瞬、後ろへと目線を移動させた後、ヤケクソニなって全力疾走をした!
「えーい!!」
バシッ!!
差し出された彼女の手。俺はその瞬間を逃すまいとしてがっちりと掴む。
「ユウトさん!!」
「ユウト!」
サユリとケインの声が重なる。俺は気合いを込めて
「うおおおおおお――!!」
と全力で彼女の体をひっぱりあげる。そしてその直後、迫ってきたドスファンゴが対岸にドッシーン!!! と激突。崖に双牙が突き刺さり、間一髪、サユリは難を逃れた。
難を逃れた後、俺とサユリは揃って地べたにへたり込んでしまった。まさに九死に一生を得た出来事であり、奇跡的な生還を得たことで少しずつであるが先ほどまでの緊張がほどけていく。やがてほどけていく緊張感な一種の笑いへとなっていき、俺とサユリは胸いっぱいになって笑った。
「やばかったな。マジで」
「私も、あの場面を前に死を覚悟しました」
互いに共感し合う俺とサユリの前に、ケインもほどなくして笑みがこぼれる。
「俺も正直焦ったよ、ユウト。そして、サユリちゃんも」
崖にくっ刺さり身動きとれないドスファンゴに一瞬だけちらっと視線を向けた後、俺は応える。
「無理もないさ。あの場面ではさ」
そう言うと、俺はここで落ち着きを取り戻して、
「さてと」
と生態マップを広げた。
「じゃ、いいか。2人とも」
そこでサユリは笑うのをやめて、ユウトの声に耳を傾ける。
「はい」
「う、ううんっ! いいぜ」
咳払いをして一旦落ち着きを取り戻したケインのタイミングを見計らって俺は、口を開く。
「さっきもドスファンゴに襲われたから分かるだろうけど、とにかくクエストと言うのはな、対象モンスター以外にも中型・大型モンスターが乱入して来るってことが時折あるんだな。それを先に言わなかった俺が悪いけども」
「そこは大事だよな、ユウト。実際、危ない目にあったんだしよ」
「正直、反省している」
「よろしい」
そこで、サユリが俺とケインのやり取りを見て、何を思ったのかクスリと笑みをこぼす。俺は疑問に思って彼女に問いかける。
「どうした、サユリ?」
しかし、彼女は首を横に振りながら
「うんうん、なんでもないの」
とだけ答えるだけだった。俺は首を傾げた後、まあいいかと思って続けて話し出す。
「まあ、ともかくそういうことだ。クエスト上における乱入モンスターの件に関して俺からの注意点はそれだけだな」
「ユウトが言わなかったのが一番悪いけど、一応、肝に銘じておくよ」
「私も参考程度に注意しておきます」
「そうしてくれ。俺からも、前もって注意点を言うように心掛けるようにするから」
「そうだな」
「さて……」
そう言いだすと、俺は前方へと向き直り、そこで一新。
「そんじゃ、行きますか」
「目指すは、レイアのもとってか」
「まあな」
「なんだか、緊張しますね」
「もう大丈夫だろう。さっきまでの修羅場潜り抜けてきたしさ」
「そうそう」
と気前良く頷くケイン。サユリは
「そうですよね」
と、どこか自信を得られたかのような感じを醸し出していた。そうして俺たち3人は、レイアがいるであろう湖のほとりエリアへと赴くのであった。