モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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3章:越えるべき壁・9話

 レイア討伐における作戦は、大タル爆弾を大量消費すると言った以下の通りのものであった。

 

1.

 戦闘開始前に落とし穴、及びシビレ罠を設置しておく。

 

2.

 投石でレイアをおびき寄せ、そのまま落とし穴にはめる。

 

3.

 大タル爆弾を設置してそのまま起爆。その後、暴れるレイアに対して閃光玉をけしかける。

 

4.

 猛攻撃をしかけた後、落とし穴から脱したレイアは怒り状態になるはずなので、それを利用してシビレ罠にはめさせ、大タル爆弾の設置及び起爆。

 

5.

 シビレ状態にあるレイアの尾に猛攻撃をしかけていく

 

6.

 一時撤退。次の作戦を練る。

 

 主な前半戦における作戦は、そんなところであった。要約すると、まさに前半部分における作戦では、主に体力をある程度減らした後、ついでに尾への攻撃を行っていく。そんなところであった。

 特に尾への攻撃における重要性は、後の後半戦でも大きく影響するものでもあった。と言うのも、後半戦では、どの道、罠類や爆弾類を消耗しきっていることを鑑みて、接近戦は避けられず。それゆえ、尾があることでレイア本体への攻撃ができないことを無くすためであった。ようは、モンスターの攻撃リーチを短くする。それが狙いであった。だが、それ以上に重要なこともある。それは、尾には毒があり、尾による被弾で毒状態になると言ったリスクをなくすためでもあった。

 そういうこともあり、前半戦の最期から中盤戦にかけて尾の切断を狙っていくつもりでいた。

  雑木林を抜けて湖のほとりまできた俺たち。ケインとサユリは、今の今まで俺が提示した作戦内容を確認するのに耽っていた。そんな2人に俺はちらちらと目線を当てながら、もう大丈夫だろうと頃合いを見計らう。

 

「着いたぞ」

「え、あ、もう着いたのか」

 

 気が付いたみたいにケインは、少しだけ驚く。一方、サユリは真剣そのものの表情を浮かばせる。それは、まさに決意とも言えるものであった。

 雑木林を抜ける直前、俺は手で2人を制止。レイアの存在を探す。周囲を見渡す中、一本だけ巨大な大木。根元に苔が入りまくっているその大木の麓に、レイアはいた。先の戦闘で傷ついた体を労わっているのだろうか、水を飲んでは体を嘗めて癒していた。

 見るからに体格が通常種と比較して一回り小さい。ただ単に最小サイズのレイアなのだろうか。はたまた、子供のレイアなのだろうか。もし子供なのだとしたら……。そんなことを思うと、VRゲームだというのに不思議と心境が複雑になってしまう。

 

「どうするんですか、ユウトさん」

 

 俺は舌なめずりをした後、2人に向き直る。

 

「作戦通りに行こうと思う。だがその前に、レイアの存在だけ確認して置いてくれ」

「了解」

「わかりました」

 

 2人が揃って返事をする。そして、覗くように顔を出した。俺は2人にレイアの存在を指さして示す。

 

「あれが……」

 

 とサユリ。一方、ケインは

 

「……ん!?」

 

 と怪訝そうな表情を浮かばせた。

 

「遠いせいなのかどうかわからないけど、俺たちが出くわしたリオレイアと比べるとなんだか一回り小さいような……」

 

 その発言に、ケインも俺と同じ考えを抱いたんだなあと思った。

 

「やはりそう思うか?」

「ああ」

 

 続けて

 

「なんかこう、子供っぽいような感じがするレイアだなあと思ってな」

「だけど油断でないぜ、ケイン。俺は奴と対峙して思ったのだが、食らった時のダメージが半端なかった。油断しているとあっさりとキャンプ送りになってしまうくらいにな」

「見た目で判断できないってわけか」

「そんなところだな。……ところでサユリはどう思う? いや、どう感じた?」

「どうって、言われても……」

 

 返答に困っている感じであった。それもそのはずで

 

「私、実はレイアと実際に相対するの初めてなんです。正直、サイズに関係なく恐い……」

「そうか……。だけど、そこは俺も同じだ」

 

 口で言うのもなんだけど、実際には俺も怖かった。そう……、このゲームでのキャンプ送りが現実世界での死。それが脳裏をよぎるたびにとてつもなく恐かったのである。命に関わるゲームじゃなきゃ、こんな恐怖、思わなくてもよかったのにとさえ思っていた。

 

「狩りの経験が豊富なユウトさんでも……」

「昨日の夜、話しただろう。俺も怖いって」

「確かに……」

 

 俯きながらの返答。そこには元気がなかった。とそこで、ケインが励ましの言葉を投げかける。

 

「俺も怖いんだ。実際、サユリちゃんに出会う前にレイアと遭遇して襲われたことあるからね」

「ケインさん……」

「個体は違えども仇を取ってやろうぜ、サユリ」

 

 俯いたまましばしの沈黙の後、彼女は意を決する。

 

「そうですね。3人で力を合わせれば、きっと」

「そうそう」

「ああ」

 

 俺とケインの自信ありそうな返事を聞いて、サユリは少し自身が付いたのか笑みを浮かべるのであった。

 サユリも少しは元気出たことだし、早速、本題に取り掛かることにしようか。そう思ってか、

 

「さて……」

 

 と話を切り替える。

 

「3人で力を合わせれば、今回のクエストは必ず成功すると思う。というわけで、早速、作戦通りに行くぞ」

「ああ」

「はい」

 

 そう言うわけで、俺たち3人はレイアに直接相対する前に、作戦メモに書いてあった通り実行に移すこととなった。罠を張り、爆弾の調合なり、閃光玉の調合素材を確認したりと、念入りに新調して行く。

 そして……

 

「罠張ったぞ、ユウト。こっちはOKだ」

 

 ケインの合図を聞いて、いよいよ、作戦を開始する。

 

 手にした小石を見つめながら、俺は息を飲み込む。この小石が放たれたその時、あとには引き返せない戦いが待っている。ケインとサユリ、2人が俺を見つめる中、俺は彼らの顔を見た。両名は以心伝心のごとく頷く。その答えを受け取るや、俺は意を決し、あとには引き返せない一石を投じる。

 きれいに、そして、緩やかな放物線を描き、小石はレイアの後方、およそ40mのところで落ちた。当然のように、!マークのアイコンを浮かばせ、レイアはそれに気付くと、何だろうかと言いたそうな様子で、転がった小石のある方へとゆっくりと近づいて行く。小石のある方は、落とし穴がある。はまった直後、戦闘が始まるのである。

 

「いいかお前ら?」

 

 その言葉にサユリとケインは、俺の言った言葉を理解してか小さく頷く。ゆっくりと落とし穴に近付くレイアを観察しながら、その時を待つ。

 

 待って

 待って

 待ちに待って。そして……

 

 ギャオオオ――!!

 

 と驚きの悲鳴と共に、レイアはケインが作った落とし穴に、ドスンッ!! と音を立てて見事に嵌った。

 

「今だ!!」

 

 俺の突撃の合図が轟く。猛然とダッシュして駆け寄り、手早くウィンドウ画面を表示。先に調合して作っておいた試作型大タル爆弾を出現させ、設置しにかかる。俺のは3つ。2人はと、暴れまわりもがくレイアをしり目に彼らに向き直る。

 

「こっちはオーケーだぜ」

「私も準備できました」

 

 2人もそれぞれ、俺から貰った試作型大タル爆弾の調合材料を使って作成。手早く設置し終えていた。

 

「じゃ、起爆させるぞ」

「おう」

「うん」

 

 2人はその返事と共に爆弾からすぐさま距離をとった。続けて俺も、2人と同じく爆弾から距離を放す。そして、再度手に出現させたペイントボールを握り、思いっきり試作型大タル爆弾に向けて投げつけた。

 直後――

 

 ドッカ―ン!! ドッカ―ン!! ドッカ――ン!! ――!!

 

 試作型とは言え、連鎖的にけたたましい爆音を伴って、もがくレイアを瞬く間に爆炎で包み込んだ。それはあまりにも凄まじいものであり、ある程度距離をとったであろう俺たちは、その爆発から放たれる衝撃波によって吹き飛ばされてしまうほどであった。

 ……しばしの間の後、

 

「いつつつ」

 

 と頭を押さえながら、よろよろと立ちあがる。眼前に表示された体力ケージ、さすがの衝撃波だけあって大木に強打されなかったとはいえ、1割強も減らされていた。

 もろに食らったらお陀仏だったなと冷や汗を掻きながら、ケインとサユリの無事を確かめる。

 

「おい、大丈夫か?」

 

 すると、先に気が付いたケインが、その安否の言葉に応えるかのように

 

「ああ、とりあえずはな」

 

 一方、サユリはと言うと、地に伏したまま倒れたままであった。俺はまさかと思い、心配になって慌てて声を荒げる。

 

「サユリ? おい!! しっかりしろ! サユリ!」

 

 すると、さすがに聞こえたのか

 

「う、うう……」

 

 と呻き声をあげもぞもぞとし出した。その様子に俺はひとまず胸をなでおろす。

 

「私は一体……」

 

 どこかおぼろげな表情を浮かべるサユリ。先の衝撃波で頭かなんかを打って一時的な記憶喪失になったみたいであった。それゆえか、少し間を置くと、彼女はハッとなってさっきまでの記憶を取り戻した。

 

「そう言えば、私、先の爆発で吹き飛ばされて……」

「そうだ。そんで……」

 

 そこでケインが今の状況を伝えてくる。

 

「どうやらゆっくりと話している場合じゃないぜ。あれを見ろよ」

 

 彼が示した方向。爆発をもろに受けたレイアがいる方向を俺たちは見る。すると、黒煙であまりよく見えなかったが、黒煙が薄くなるにつれ未だに暴れまわる巨影が次第に見えてきた。

 やはり一筋縄ではいかないか……。そう思ってか、サユリに声をかける。

 

「まだ、行けるか?」

 

 すると、少し間を置く中で、自分の精神状態を確認でもしているのであろうか、彼女の視線はきょろきょろと動くのが垣間見えた。

 

「……大丈夫、かな。行けます」

「よしっ、じゃあ続けよう」

 

 そう言って、俺は彼女を少しばかり気遣ってあげ立ち上がらせた。

 黒煙が薄くなり、視界が良好になる頃、俺たち3人は各々武器を引き抜き立ち向かっていく。特に俺は、少しだけの時間稼ぎをするべく、手に閃光玉を握り、レイアの眼前めがけ放つ。直後、激しくもまばゆい閃光が弾け、周囲を瞬く間に真っ白な世界へと誘う。一方、サユリとケインもそれを受け、攻撃を中断して顔を覆っている様子であった。

  やがて閃光が和らぐと、俺たちの視線は一点、めまい状態を起していたレイアへと向く。一方、レイアの方はすでに怒り状態に入っているはずなのだが、怒り状態になる以前にめまいを起こしていることでよく確認できなかった。

 俺はレイアが落とし穴から抜け出した後のことも視野に入れて、サユリとケインに指示を出す。

 

「先に攻撃していてくれ。俺はシビレ罠を張る準備に取り掛かるから」

「了解です」

「おう、さきにやっておくぜ」

 

 その後、勇猛果敢のごとく雄叫びをあげて、暴れるレイアの背後へと回るや否や、がむしゃらに連続攻撃を叩き込め始めた。

 シビレ罠の設置は、落とし穴の設置とは違い、単純に踏み込み装置の設置と網を張り巡らせる作業だけだったのですぐに終わることができた。

 

「さてと、こんなものか……」

 

 と一息を入れて、ケインとサユリの方を向く。一方、彼らは、はたから見てよく頑張ってくれているとも思えた。団員を全滅に追いやったであろうレイアに恐怖を押し殺すかのように声を荒げ立ち向かうサユリ。リオレイア初対面時、いきなり襲われてその恐怖を味わう羽目になってしまったケイン。彼らの共通するレイアが怖いと言った印象を消し去るほどに、その戦う様は勇ましいものであった。

 頃合いを見て、俺は2人に声を張り上げて指示を出す。

 

「その辺でいいぞ!! そろそろレイアが罠から抜け出す頃合いだ」

 

 そう言われて、一時冷静になった2人は、慌てて一目散に逃げ出す。俺は身構え、いつでも回避できるよう身構える。そして、遅れて数秒後、落とし穴の効果が切れたのだろう、レイアはツバサを大きくはばたかせ宙へと舞い上がった。

 

 バサ、バサ、バサ……。

 

 大きく羽を羽ばたき、ゆっくりと着地。そして、推測していた通り、レイアは大きく首をもたげると怒涛の怒りの咆哮をぶちまけてきやがった。

 鼓膜をぶちぬくような咆哮。咄嗟にブレスブレイドを盾代わりにした俺は、その咆哮を強烈な金属音を轟かせてガードする。現実世界に置いては、咆哮と言えば、その対策となるのが耳塞ぐことであるが、このVR(MHA・O)においては、武器を盾代わりにすれば(中には、武器で咆哮をガードすることができないものもあるが)、防ぐことができる仕様(システム)になっているのである。

 それゆえ、ブレスブレイドを盾代わりにして防いだ俺は、無事に耳をつんざき動けなくなってしまうと言うことは待逃れたわけであった。

 一方、ケインやサユリの方は、どうなったのかは分からない。と言うのも、咆哮を防ぐことやレイアに意識が集中していることもあってか、彼らに見向き出きるほど余裕はないからだ。

 それもあって、すぐさまブレスブレイドを納刀すると、いつでも交わせるよう再度態勢を整える。

 強烈な咆哮後、血走っているのか、眼前にいた俺めがけ、ギャオ―!!!! と雄叫びをあげると共に猪突猛進のごとく突っ込んできた。

 力強く、そして、食らえば一撃でキャンプ送りになりかねない強大な死。それが風を切り物凄い勢いで突っ込んでくる。そして、ぶつかる寸前、俺は気合い声と共に思いっきり真横に飛びのいた。

 うまくかわした後、一回前転して態勢を立て直す。一方、誰かまわず突っ込んできたレイアは、見事に俺がいた場所――つまり、シビレ罠がある場所へと突っ込み、見事、罠にかかっていた。

 

「今のうちだ!!」

 

 再度、攻撃の合図をかける。

 

「うおおお――!!」

 

 ケインの雄叫びが聞こえ、そして、あとに続くようにしてサユリが武器を手にレイアに向かって駆けていく。俺はウィンドウ画面を開き、調合リストを開き、売店で売られていた火薬袋と大タルを手早く調合させると、最大3つ、試作型大タル爆弾を作成。レイアの頭に素早く設置する。

 

「お前らちょっと離れてろ」

 

 そう言うや否や、俺はある程度距離をとって、再び、ペイントボールを投擲。3つの試作型大タル爆弾を起爆させ、レイアを爆炎に再び飲み込ませた。

 

 (これだけ爆弾を食らわせれば…)

 

 俺の心に余裕の二文字が浮かび上がる。と言うのも、爆弾の威力は武器で攻撃するよりも遥かに大きく、落とし穴ではめた時とシビレ罠ではめた時とを合わせて10個前後は食らわせていることもあり、レイアの体力は3分の1は削れたであろうと見込んでいたからである。

 それゆえ、ある程度体力を削らないと切断できない上、切断しないと後々の戦いで脅威になるであろう尾を切断できると考えていたからだ。だから、それもあってか、ケインとサユリに届く限りの範囲で尾を集中攻撃するよう命じようと思った。

 

「お前ら、尾を徹底的に攻撃してくれ。後々、厄介なことになるからな」

「いいけど、ユウトはどうするんだ?」

「俺も、今からそっちに向かって攻撃をしにかかるさ」

 

 それだけ言うと、ダッシュして2人の元に駆け寄る。そして、彼らと共に攻撃しにかかった。

 ケインは太刀(鉄刀【神楽】)を、サユリは片手剣(アサシンカリンガー)を、それぞれ、尾に向けて攻撃し続ける。ところがその中で、サユリは片手剣の特徴から剣先が尾に当たらず苦戦する羽目になっていた。

 

「う~ん、なかなか、届かないです」

「あまり無理するな。片手剣は、その剣の長さから尾を狙うのは難しい。代わりに、脚を狙ってくれ」

「脚? 分かりました」

 

 そう言って、サユリは攻撃箇所を変えた。

 立て続けに攻撃して行く中で、次第にこれはいけるぞと思い始めてきた。尾の切断。シビレ罠にはめた状況下で一気に尾を切断すれば。そんな油断が自然と出てきていた。だが、無我夢中で攻撃していた俺は、そこで決定的なミスをすることとなった。それは、怒り状態のレイアは罠の効果時間が半減すること。それもあってか、そのことをうっかり忘れていた俺は、そこでレイアの罠が突如として解除されてしまったことに意表を突かれてしまった。

 シビレ罠の装置が火花を散らして自己破損する。

 

「わ、罠が!?」

「あっ」

 

 ケイン、サユリの驚きの声が重なる。俺はこの後すぐにかまされるであろう咆哮を察知してか、2人に向け声を張り上げて投げかける。

 

「これはまずい!! 2人とも逃げろ―!!!」

「えっ?」「あっ」

 

 だがしかし、その忠告は時すでに遅かった。直後、強烈なまでの咆哮。それが咄嗟に逃げようとしていた俺たちの背後から、思いっきりかまされてきた。途端、耳をつんざくような咆哮をかまされ、一時的ではあるが俺も含め3人とも動けなくなってしまう。

 

「う、ううう……」

 

 咆哮対策用のスキル〝耳栓〞が発動されていなかったこともあり、そして、無防備なところをされたこともあって、爆音で思考が停止して頭が痛くなる。そして、その一瞬を狙われたこともあって、リオレイアは突進態勢に入ったのを垣間見てしまう。標的は俺。

 

 (まずいっ!!)

 

 そう頭をよぎった直後、レイアは突進を開始。俺はまともに奴の巨体の前に蹴っ飛ばされてしまう。

 宙を舞う中、怒り状態のレイアの突進を食らったこともあってか、俺の体力ケージは一瞬にして底を尽き0に。もはやキャンプ送り確定が避けられない中、俺は周囲の景色がまったりと流れていく中、あ~、もう終わってしまったんだなあと他人事のように思ってしまう。

 どこからともなく、ケインやサユリの悲鳴に似たような声が聞こえてきたが、それすら頭に入ってこないような曖昧な感じになっていた。そして、地面へと叩きつけられキャンプ送り確定になる――その直前、俺の死を告げる体力ケージが突如として息を吹き返した。俺の周囲に薄緑色のエフェクトリングを2重か3重に纏わせると共に。

 キャンプ送りを間一髪で待逃れた俺は、そのエフェクトの正体をすぐに察する。

 

 〝生命の粉〞

 

 範囲は限られているものの、使用すれば自分以外の味方までをも回復させることができる回復薬の一種であった。

 俺はレイアとの戦闘中で遭ったこともあって、すぐさま立ち上がって周囲を確認する。すると、ケインとサユリ、彼らは何が起こったのか分からない様子で、辺りを見渡していたのを目にする。

 その様子から、ケインとサユリ、2人のうちどちらかがやったというわけではなさそうな感じではあった。となると一体誰が……。そんな疑問が湧く中、茂みの中から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「なんとか間に合ったぜ。お前ら、早くこっちに来い!!」

 

 俺たち3人は、自然に言われるがまま、声のした方。つまり茂みの方へと全速力で逃げ出す。直後、背後からレイアの雄叫びが聞こえ、地面をけるような音を立ててきた。

「う、うわー!!! な、なんだか分からないが、とにかく声のした方へと逃げろ―!」

 

 とパニック状態となるケイン。サユリも悲鳴を上げて一心不乱に逃げ続ける。

 3人が逃げ続ける中、背後から追撃を仕掛けてきたレイア。声が聞こえてきた茂みまであともう少しというところで追いつかれそうになり――とそこで、なにやら投擲アイテムが。直後、背後に強烈な閃光が弾け周囲が真っ白な空間で覆われる。

 一瞬、どこへと飛び込んでいいのか迷ったが、構わず俺は。いや、俺たちは、そのまま前方へとダイブした。

 するとそこがちょうど茂みだったこともあってか、全身、枝葉でこびりついてしまう。続けてケイん、サユリが茂みの中へと飛び込んで行き、やがて、激しかった閃光の光も次第に弱まっていく。

 辺り一面が真っ白だった景色もようやくはれてきて――そこで、目の前に一人の大柄なハンターが膝をついていた。

 

「やはり、お前だったか」

 

 続けてケインも声の主の正体が分かったらしく、突拍子もなくアダ名を言い放つ。

 

「ぶ、豚頭!?」

「豚頭とは失礼な!! 俺にはちゃんとJ.Oって、名前が付いているだろうが。J.Oって名がな」

 

 心の中で、どこからどう見てみてもそう呼ばれても不思議ではないがなとツッコミを入れるくらいに、その者――J.Oは、頭の防具がモスフェイクで覆われていた。

 

「それよりも……」

 

 そこで俺とケインとのやり取りを見てか、サユリが不思議そうに言う。

 

「お二人はこの方(J.O)を御存じのようで」

「ま、まあな。公開祭の時にな」

「そうそう」

 

 と続けてケインが口を揃える。とそこで、俺は思い出したかのように、

 

「――とそんな場合ではなかった。ここは一時、退散するんだった。豚頭」

 

 とうっかり発言してしまい、

 

「ああ!?」

 

 と険しい表情を浮かべてしまうJ.O。俺は慌てて訂正して

 

「あ、いや、J.O、さっきは助かったよ、ありがとう」

 

 と礼を述べる。それを受けてか、彼自身もどこかタイミングがずれてしまったらしく、

 

「お、おう」

 

 と思わず調子を合わせた。

 その後、俺の公言した通り、一時、J.Oを伴って退くこととなった。その際、めまいを起こして動けないでいたレイアには、当然のように、再度、ペイントボールを当ててきた。念には念のため。ペインボールの効果時間を踏まえての判断であった。そういうわけで、俺たち4人は、ひとまずレイアのいる湖のほとりエリアから退き、隣の洞窟エリアへと向かうのであった。

 

 

 

 

 小川が流れる洞窟エリアでは、少々、肌寒い感じでもあった。しかし、ホットドリンクを飲むほどにまで寒い感じでもなく、どちらかというと肌寒いような涼しいような。そんな曖昧なところであった。実際、スタミナケージにはなにも影響していないことから、使う必要性がなかった。

 

「じゃあ、さっきまであのドスファンゴを……」

 

 サユリが驚きの声を上げる。

 

「そうだ。このブルタスクハンマー改でな。けれど、残念なことに逃してしまったぜ。ったく畜生なことだよ」

 

 愚痴を漏らすJ.O。先の話から、俺たちが遭遇したドスファンゴは、さっきまで彼一人で戦っていたドスファンゴであり、あの折れた双牙はその戦いの中で部位破壊したものであったことを俺は、J.Oとの会話の中でようやく知ることができた。

 

「そんで、見失った。そういうことなのか?」

「いや、そこはぬかりなくだな。奴が退散する間際、きちんとボール(ペイントボール)は付けて来たぜ。だから……」

 

 そこでウィンドウ画面を表示、生態マップを表示させたJ.Oは、俺たちにドスファンゴの居場所を示した。

 

「へぇ~。豚頭……いや、J.Oもやる時はやるんだな」

 

 そこで見くびられていたと思ったJ.Oは、ケインに食ってっかかる。

 

「おいっ、俺を誰だと思っているのか?」

「誰って、言われても……あの(モス)好きの変態だろう。あんた」

「なんだとぉぉぉ――!!」

 ストレートに言われ、たちまち怒り状態になってしまうJ.O。俺とサユリは、

 

「まあまあまあ」

 

 となだめるように説得を試みる。そこで、状況を理解していないのか、アホなケインは

 

「なんだなんだ。本当のことを言っただけじゃん」

 

 とうろたえる。

 

「このバカ!! 火に油を注ぐなよ」

 

 そう言って、俺はガツンッ!! と一発、少々強めのげんこつを入れる。

 

「いってぇ~。何するんだよ、ユウト」

 

 さすがのケインもいきなりげんこつを入れたことに戸惑い、痛いことに涙目になって驚きを見せる。

 一方、俺とケインとのやり取りを見てか、J.Oは怒りを鎮めた。一拍置き、切り替える。

 

「まあいい。とりあえず、奴が言ったことは帳消ししにしておく」

 

 俺はほっと一息を吐き、頭をさするケインをよそに安心する。

 

「ともかく、俺はその逃げたドスファンゴを追いかけてきたわけなんだが、途中で、いきなりどでかい咆哮が聞こえてきてな」

「そこで気になって来てみれば、俺たちとレウスの戦闘を目撃した。そういうことだな」

「まあ、そういうことだ。っで、危なかそうに見えたので、念のために生命の粉を調合。間一髪、ユウト、お前の危機を救ったわけだ」

「そのことについては、私からも感謝します」

 

 助かったのは俺自身だが、サユリも仲間を助けてくれたことでお礼を言いたかったのだろう。頭をぺこりと下げた。続けて、俺も再度、サユリに続いて礼を述べた。

 

「とりあえず、状況は分かったよ」

 

 よこからケインが、何を思ったのかしゃしゃり出てくる。

 

「ユウトが何を思って俺にげんこつをかましてくれたのかはさておき――」

 

 さっきから頭をさすり続けるケインに、

 

「あまり痛くはないだろう。そんなに」

「いてぇよ」

 

 と返し、続けて

 

「心が痛かったわ」

 

と訴えてきた。思うにペインアブソーバーのシステムにより俺が直にげんこつをかましたとしても、現実世界見たく、衝撃はあるもののかなり痛いように感じるわけではない。そういうこともあって言ってみたのだが、彼にしては実際の痛さよりも心で受けた痛さの方が効いたみたいであった。

 

「まあいい。ユウトが何を思ってげんこつをかましてくれたかは、振り返ってみればなんとばく察しがついたよ」

 

 そして

 

「ところでさ、今後どうするんだ。クエストではレイア討伐しなきゃ終われないんだろう?」

「そこをこれから考えるんだよ」

 

 俺はうーんとなって考え始める。頭の中で、J.Oにはドスファンゴ討伐と言う目標があるし、それを邪魔したくはないし。かと言って、レイア相手にJ.Oがいてくれたら助かるし……と言ったような考えが脳内を駆け巡る。

 

「いいぜ」

 

 唐突にJ.Oが言ってくる。思わず俺は

 

「えっ?」

 

 となった。

 

「だからさ、いいぜと言っているんだ。ついでだよ次いで、レイア討伐くらいはな」

 

 思いがけない言葉に俺は言葉を失った。戸惑う俺に代わってサユリが尋ねる。

 

「本当にいいんですか? 相手は私たちが苦戦したあのレイアですよ」

 

 しかし彼は、遠慮なく返す。

 

「いいんだ。どの道、避けて通れないはずのクエストだと思うしさ。今のうちに慣れておこうと思ってな」

「保証しないぜ」

「ああ。ただ、やばくなったら、その時は勝手に退かせてもらうからな」

「それは構わない。むしろ逆に死んでしまっては、罰が悪いしさ」

 

 そこでJ.Oはニヤリと口端を釣り上げ、自慢げになる。

 

「ふん、そこはさじ加減で対応させてもらうぜ」

「なら、決まりだな。J.O、討伐メンバーに加わってくれて助かるよ。よろしくな」

「こちらこそな」

 

 そうして、俺とJ.O。そして、3人は再度準備をした後、作戦を再度練りなおす。

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