モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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3章:越えるべき壁・終話

 リオレイアとの再戦は、けたたましい咆哮によって切ってお落とされた。眼下に見える広場では、J.Oがうまい具合に立ちまわっている姿が見える。攻撃をせず動き回り、誘導路へと誘い込もうと懸命に立ち向かうその姿は、まさにBT時代、リオレイアと死闘を繰り広げた自分自身の姿を連想させるにふさわしいものであった。

 

 (よし、いいぞ。そのまま……)

 

 うまいこと俺が指定した誘導路へとリオレイアが入っていく。やがて、俺のいる位置の間下付近までやってくると、俺も頃合いを見計らって飛び乗る体勢へと移行する。

 構え……やがて、その真下へ来ると、俺は勢いよく飛び出す。

 

「とりゃああー!!」

 

 同時に鉤爪型スリンガ―を発射。レイアの背中へと突き立て、レイアの右翼へとうまいこと飛び移った。すかさず、ワイヤーをまいて背中へと辿り着くや、がっちりとしがみついた。一方、リオレイアは背中にいる邪魔者を排除せんとばかりに、おもいっきし暴れ出す。が、しかし、場所が場所だけに思うように身動きが取れない状態であった。

 

「いいぞ、ユウト!! そのままダウンを取れ!」

 

 J.Oの怒号のような声援が聞こえてくる。俺が無我夢中でしがみつき、レイアが一時的な疲弊を見せる瞬間まで堪えた。

 そしてその瞬間がやってくる。すばやくナイフを取り出し、堅い鱗で覆われた背中へと何度も突き立てまくる。

 

(この、この、この、この、この……)

 

 無我夢中で突き立てていく中、とうとう、集中的に突き立てた場所の鱗にひびが割れ、そのひびの隙間にナイフが刺さった。途端、レイアは悲鳴を上げるや否や、翼を大きくはばたかせて上空へと舞い上がった。俺は、予想外の動きに驚き、ナイフ片手にしっかりとワイヤーを掴み堪えるしかなかった。

 

「ユウトー!!」

「ユウトさーん!!!」

 

 彼らの心配の声が眼下に聞こえてくる。しかし、俺はそれどころではなく、暴れまわりながら上空へと舞い上がるレイアにしがみつくことで手一杯。返事する余裕などなかった。

 

「くっそー!! このままでは」

 

 じり貧に陥り、やがて振り落とされかねない事態。俺はこの事態を打開しレイアを地上へと叩き落とすべく、ナイフを再び手に取った。そして、再び突き立てようと振りかざしたその直後、暴れるレイアの勢いが勢いだけに、巻いていたワイヤーのストッパーが外れてしまう。

 

「うわっ―!!」

 

 バランスを崩し後方にのけぞりかえる。そしてそのまま、レイアから振り払われ宙に投げ出されてしまう。その様、まさに振り回される振り子のごとく、俺は振り回されまくる羽目になった。

 さらに悪いことに、ワイヤーの耐久値が、目の前に表示される。耐久ゲ―ジが勢いよく減少して、緑から黄色、そして、赤のゾーンへと移行して行く。

 

(このままではまずい。耐久値がゼロになれば、ワイヤーが切れて……)

 

 焦りが生じ始めた。俺は一か八かの賭けに出た。振り回されながらだが、俺はワイヤーをおいっきし再度巻き始める。そしてそれと同時に、ブレイズブレイドを抜き放ち、レイアの背中に向かって気合い声を放つと共に大きく振りかぶった。

 

「うぉおおおおおお――!!」

 

 ズバッ!! 

 

 と肉を絶つかのような感触と共に、鱗の裂け目に入ったのだろうか。盛大な血飛沫が吹き荒れた。途端、レイアはその一撃の前に怯み、力なく落下し始めた。そして、地面に激突寸前、俺は素早くワイヤーを解除して地面へと着地を果たす。

 

「今だ!!」

「ぬぉおおおー!!」

「おりゃあー」

 

 J.Oとケインの気合い声が響き渡る。J.Oは頭部への攻撃を、ケインとサユリは尾への集中攻撃と、それぞれ筋書き通りに攻撃を仕掛けていく。体勢を立て直し、俺も尾への攻撃へと打って出た。ダウン状態で身動きがとりずらくなっているレイア相手に猛攻に猛攻を重ねていく。

 気合いを込めた各々の一撃一撃がレイアの堅い鱗をかち割り、肉へと斬り込むたび鮮血が迸る。そして、とうとうその強靭なまでの尾は堪えかね、一刀両断される。

 

 ギャオオオ――!!

 

 悲痛とも呼べるレイアの悲鳴が響き渡り、バランスを崩して前方へとのけぞった。直後、J.Oはその隙を逃すまいとして駆け寄るや否や、気合い溜めモーションから頭部への重い一撃をかます。

 続けて2、3度殴ったところで、最後のとびっきり大きな一撃をもかまし、それに堪えかねたレイアはとうとうめまい状態をも引き起こしてしまう。

 シビレトラップへの誘導には失敗したが、そのおかげでさらなる猛攻撃を叩きこむチャンスができた。

 

 (ナイスだ!! J.O!)

 

 心の中でそうグッジョブする。

 

「今だ!! さらに畳みかけろぉ!」

「うおおおー!!」

 

 とケイン。

 

「やあー!!」

 

 のサユリ。

 負けじとJ.Oも味方を巻き込まない距離で、弱点でもある頭部への攻撃をけしかけていく。

 

 (これでもか、これでもか、これでもか)

 

 一撃を放つたびに心の中でそう気合い声を放ちまくる。何度も何度も吹き荒れる鮮血。もはやレイアは部位破壊されまくり、ズタボロ状態へと化して行った。

 やがて、めまい状態から復帰したレイアはよろよろと立ち上がりを見せる。

 

「距離を取れ!!」

 

 警戒の合図を出す。各々がその警戒の声の元に距離を取り、再び様子を見る。――とその時、どこからともなく、

 

 ブヒブヒッ!!

 

 と、何者かがいななく声がした。まさに嫌な予感がした瞬間であった。俺はいな鳴き声がした方へとふいに視線を送る。すると、なんということだろうか。袋小路の入り口付近。つまり、先ほどいた広場に、ドスファンゴがいたではないか。

 

「まずっ!」

 

 まさにやばい状況であった。想定はある程度はしていたが、まさにこうなるとは。青ざめ焦った俺は、3人に高台への避難を呼びかける。

 

「速く!! 高台へ登れー!」

「えっ!?」

「「っ!」」

 

 突然の事態に何事かと驚く面々。訳の分からない状況に陥った面々の中で

 

「何事だ。ユウト」

 

 といち早く声を上げたのは、J.O。彼は俺の見る方向を見るや、すかさず状況を理解し再び声を上げる。

 

「ッ! ドスファンゴだ! お前ら高台へ早く登れー!!」

「えっ、ドスファンゴだと」

「え、ええ、何!」

 

 ケインは慌てて高台へ。戸惑いを見せるサユリは、俺が手を引っ張ってやりむか高台への避難を始める。一方、この状況において、こちらの存在を見かけたドスファンゴは、

 

 ブルるるるる……

 

 といななくや否や、全速力で俺たちのいる袋小路へと突っ込んできた。俺たちはレイアへの攻撃を中断し、高台への避難を余儀なくされてしまう。直後、よろめきながら立ち上がろうとするレイアと猪突猛進で突っ込んできたドスファンゴが激突をする。

 再びバランスを崩して横倒れするレイア。倒れるレイアをよそに構わずそのまま突進し続けるドスファンゴ。そんな光景が見て取れ、せっかくレイアのために使おうとしていたシビレ罠には、なんとドスファンゴがかかってしまうことになった。ようは、罠が無駄になってしまったのである。

 びりびりと痺れ状態に陥るドスファンゴをしり目に、先の突進攻撃がさらなる痛手となったであろうレイアは、息を堪え絶えに足を引きずり状態になり、弱っていたのを垣間見る。

 

「ユウト、今のうちに」

 

 しかし俺は、手でケインを制止させる。

 

「いや、待て」

「なんでだよぉ」

 

 代わりにJ.Oが訳を話す。

 

「何事も深追いは厳禁だ。決着は奴の巣で決めよう」

 

 そう言われ、ケインはおとなしく抜刀していた太刀(鉄刀【神楽】)を納刀する。その後、切断した尾から素材採取をした後、この場を後にした。

 

 

 

 

 リオレイアの巣がある湖近くの洞窟エリアにて……。

 弱り切ったリオレイアとの決着は、先の激戦とはまるで嘘のようにあっけないものであった。止めを刺したのはまさに、余った材料で拵えた試作型大タル爆弾二つ。寝ているそばから起爆させ、完全に仕留める形となった。

 

「あっけないな」

 

 ぽつりとつぶやく。

 

「結局、こやし玉、使い道なかったな」

 

 とJ.O。

 

「結果がどうであれ、ないよりかはましだったけどな」

 

 と俺は返す。

 

「仇、取った形になるのかな……」

「嬉しくないのか?」

「んー、複雑な感じです。しかもこのレイア、なんだか幼い感じがしますし」

 

 するとJ.Oが早速と言わんばかりに素材採取をする。そして、サユリの言っていることが正しいと言わんばかりに言ってくる。

 

「どうも、幼いというのは間違っていないみたいだぞ。これを見ろ」

 

 表示させてあるウィンドウ画面をくるりと反転させ、こちらに見せてくる。そこには、素材名が書かれており、素材の名は、〝雌火竜の幼鱗〞と記載されていた。

 ついでに詳細の項目も確認してみると、やはりと名ばかりに、幼いレイアから取れる素材でなんたらかんたらと御丁寧に説明付けられていた。

 浮かない表情を見せるサユリ。いくら仇とは言え、あるいはキークエストクリアにおいて越えなければならない試練とは言え、相手は子供のレイア。どこか罪悪感を抱かずにはいられないのだろう。俺は彼女の肩にそっと手を添えた。

 

「感情移入しちゃうのも、なんとなくわかる気がするよ。でも、割り切らないとな」

 

 しばしの間を置いて、彼女はぽつりと言葉を発した。

 

「……そうですね」

 

 その言葉を最後に、J.Oに続いて剥ぎ取りにかかった。

 しばらく剥ぎ取り作業をした後、J.Oに今後どうするのか尋ねる。

 

「J.O、お前は今後どうするんだ?」

「そうだなあ、クエストの途中だったからな」

 

 そう言うと、透過して見える生態マップをみながら、ある一点を注視する。

 

「追うのか。あいつ(ドスファンゴ)を」

「ああ、そうだな。そんなところだ」

 

 そこで、サユリは優しそうに彼に同行を申し出しでる。

 

「あの……、よかったら、私たちも同行させてみてはどうですか? 一人だと何分、きついと思ういますし」

「ああ、ありがとよ、譲ちゃん。でも、俺は、基本、ソロで進めていくタチなんでね。気持ちだけ頂いておくよ」

「そうですか……」

「残念だったな」

 

 ケインが慰める。

 

「さて、用が済んだどころで、俺は本来のクエストに向かうぜ。お先にな」

 

 向きを変え、立ち去ろうとするJ.O。俺も彼の後姿を見ながら礼を述べる。

 

「ああ、色々とありがとうな。助かったよ」

 

 続けて、手を振るサユリ。ケインも腰に手を宛がい、彼を見送りに出す。――とそこで、J.Oはふと何かを思い出したかのように、立ち止まってこちらに振り向く。

 

「そうだな。言い忘れていたというかなんというか。お前らとはまたどこかで会えるような気がするな。なんてたって、これで通算3回目だし」

「何かの縁かもな。それ」

 

 モスフェイクを被ったままであったが、その素顔では少しばかり鼻で笑った感じがした。

 

「じゃあな」

 

 そう言い残すと、今度こそ洞窟を去っていった。まさに彼との今回の出会いは、風のように出会い風のように去っていた存在であった。 

 

 

 

 

 クエストから戻ってきた頃には、もう夕方のドンドルマになっていた。行き交う人々も、夜になるにつれ少なくなっていく感じであった。

 そうしたなか、俺たち3人はドンドルマ広場の中心にある一本の木の下にあるベンチで適当にだべっていた。

 別に内容としては大したことではないが、拠点解放クエストをクリアしたことからこれから向かうであろうミナガルデについて話題が持ちきりと言った感じ。俺としては公開祭が始まる前に雑誌でミナガルデについての紹介ページを読んだこともあったから、多少なりとも事前情報は押さえていたつもりでいた。

 

「詳細までは言えないけど、簡単な紹介くらいならできるぜ」

「なら、どう言った感じのする街なんだよ。気になるじゃないか?」

 

 興味津々に詰め寄るケインに、俺はややたじろいでしまう。

 

「そんなに近寄ってまで聞きに来ないでくれよ。周りから変な目で見られるからさ」

 

 とサユリに助け船を出しながら拒んで見せる。ところが、サユリはケインの子供っぷりな反応と俺とのやりとりが少しおかしかったのか、クスリと笑うだけにとどめてしまっていた。

 そんなこんなでいては埒が明かないと思った俺は、一旦ケインを無理強いに引き剥がして、深呼吸をする。

 

「と・も・か・く! 位置的には西シュレイド地方にあって、切り立った崖に囲まれ、洞窟でできた家々が立ち並ぶ街並みと言った感じだな。雑誌で読んだところでは」

「洞窟でできた家?」

「まあ、崖に囲まれているから、そう言った洞窟でできた家を中心に建てられた街並みといったところなんでしょうね」

 

 ケインの疑問にそうサユリが補足してやる。

 

「百聞は一見に如かず。まあ、行けば分かるさ」

「それもそうか。でも、新しい拠点だと言うことだから、買える品々とかクエスト情報とかは変わってくるよな」

「いい点、突くじゃないか。ケイン」

 

 さすがと言わんばかりに俺は指摘した。

 

「適当に言っただけだけどな」

「それでもさ」

 

 俺は持ち前のMH知識と推測で考察してみる。

 

「恐らくだけど、クエスト内容はここよりかは断然違ってくるだろうし、難度も上がってくるだろうさ。それに雑誌で読んだ限り、近いうちにミナガルデでイベントを開催するって話だ」

「雑誌って。それ、今回の事件が起きる前のことだろう。今はどうなのか分からないじゃん」

 

 ケインが当然のことのように反論する。しかし俺は、デスゲームが起きてもなお、ある意味、楽しみと言わんばかりの期待を持っていた。

 

「確かにそうだろうけど。でも、もしかしたらっていうのもあるじゃんか。デスゲームが起きてもなお、雑誌で記載されていたスケジュールが変更されていないかもしれないし」

 

 そこで、サユリがどこか楽しそうな笑みを見せる。

 

「私としては、ないよりあった方がいいと思います。だから、ユウトさんに一票」

「一票って……」

 

 どこか腑に落ちないような表情を作るケイン。けれど、彼自身、つまらない常識的なことよりも非常識的な。俺が言っていたように、あるかどうかも分からないミナガルデ特有のイベントの方に期待を寄せていた方がいいような気がして、そちらの方に考えを変えてしまうのであった。

 両目を閉じ、どこか期待するような表情を浮かべてみせる。

 

「まあ、期待してみるか。そのイベントとやらに」

「デスゲームだけで終わりのモンハン、出ないと思うしさ」

「私も、そう信じます」

「さて、……」

 

 そこでウィンドウ画面を表示させた。現時刻、18時と言ったところ。確認した後、2人に集合時間と場所を告げる。

 

「これ以上クエストをこなすにしても遅いしさ。とりあえず解散にしておこう。明日、9時頃に、広場に集合。それでいいな」

「ああ」

「はい」

 

 2人はそれだけ答えた。

 

「じゃあ、解散。明日、またな」

 

 その言葉を最後に、各々が背を向け帰って行った。――のはずだったのだが、そこで、サユリが何か思い出したらしく、途中で立ち止まり、俺のその後どうするのかが気になったのか歩み寄って来る。

 

「そうだ。……ユウトさん、この後、どうするんですか?」

「この後どうするって……」

 

 唐突な質問に一時戸惑ってしまう。が、そこはなんとか持ち直して冷静に受け答えをする。

 

「俺も自宅(マイハウス)に帰るよ。ちょっと、鍛冶屋に立ち寄った後に」

「そうですか~」

 

 何か言いたそうな様子を見せるサユリ。俺は気になって突いてみる。

 

「何か気になることでも?」

「うんうん、特に。ただ、どうしようかなあと思って」

 

 どうしようかなあって。何を迷っているのだろうか。俺は不思議そうに思っていると、サユリは何かを決めたらしく「やっぱり、向こうに行ってからにしようかな」と勝手に何かを決めてしまう。

 俺は何の事だかさっぱりだったが、彼女は特に俺の疑問に意を介さなかったようで

 

「じゃあ、明日、またね、ユウトさん」

 

 とそう言い残して、去って行ってしまった。

 次の日、ドンドルマ中央にある広場にて。俺は、昨日、サユリが最後に何が言いたかったのか気になっていた。そのおかげで、夜中、半分ほど、寝られなかったわけであるのだが……。

 うんうんと今に至るまでそのことで二の腕を組んで拘っていたところ、時間ちょうどにケインが姿を見せた。

 

「おーい!!」

 

 遠くから聞こえてくるほど、手を振って元気な挨拶をしてくる。一方、俺はやや遅れて彼の存在にハッとなって気付いて、

 

「よう」

 

 と挨拶を返す。

 

「いよいよだな、ユウト」

「ああ……」

 

 どこか悩んでいる様子を浮かべていた俺に気が付いてか、ケインが気にかけてくる。

 

「どうしたんだ? 浮かない顔して」

「あ、いや、なんでもない。そうだな。いよいよだな」

 

 と取り繕って見せる。ケインはその様子に少しは気になっていたものの、まあいっかと言った感じでそれ以上は何も言わなかった。

 数分後、なかなかサユリが姿を見せないことに、俺は少し心配になってきた。ケインも同じく心配になってきたのだろうか、

 

「なんか、こねぇな。サユリちゃん。どうしたんだろう?」

 

 と呟く。

 そうした中、一通のメッセージが送られてくる。〝New〞と表示されたアイコンを見てもしかしてと思い、俺はアイコンを選択。開封した。すると、メッセージにはこう書いてあった。

 

 〝返事遅くなってしまってごめんなさい。ちょっと、昨日気になっていたことがどうしても頭から離れなかったので、それを済ますまでもう少しだけ待っていてください〞

 

 とのことであった。俺はそれを見て、やっぱりなあと思った。方やケインは、何やら俺がウィンドウ画面を操作していることに気付いてか、もしかしてと思ったのだろう。尋ねてくる。

 

「ん? 来たのか? サユリちゃんから」

「まあな」

「で、なんと?」

「遅れるとさ。ほんの少しばかりに、な」

「そっか」

 

 そっけない返事を返す。そして、サユリが付くまでの間、人々の往来を何気なく眺める。そうしたなか、俺は思う。また、帰ってくるかもしれないけれど、とりあえずは見納めになるのかな、と。BT期間中からやってきたこともありなじみ深い街。旅立つ前の余興として振り返ってみる。

 初のログインから本物そっくりのような街並みに驚きを見せた頃。

 色々な武器を練武広場で試していきながら、NPCごときの教官に何度も叱られたこと。

 トライアルマスターを獲得した時の溢れんばかりの達成感を得たこと。

 そして、最近では、サユリと出会ったことで、彼女と共に色々なクエストをこなしつつ絆を深めていったこと。

 ともかく、色々なことがあった。そしてそれは思い出として、しっかりと残っていたのである。

 俺は軽く息を吐く。

 

「なあユウト、これからミナガルデに行くんだろう? なんだか、ここも見納めになると少しばかり寂しくなるかもな」

「それは俺も同じだ。でも、また、帰ってくるよ。クエストをこなしていけばいずれは、な」

「そうだよな」

 

 ケインもまた、自分と同じ気持ちを抱いていた。

 それから数分後、商店街方面からこちらに向かって走ってくる少女――サユリを見かける。サユリはなにやら慌てた様子を浮かばせ、全力で走っている様子であった。

 

「はあ、はあ、はあ、はあ、おまたせしました。遅くなって済みません」

 

 膝に手を宛がいながら息が絶えた絶えになって、ぺこりと謝る。

 

「別にいいさ。そんなに急いでいるわけじゃないし」

「でも……」

「いいよ、いいよ。俺たちそんなに気にしていないからさ。なあユウト」

「ま、まあな」

 

 振られて適当に返事を返す。確かに。ケインの言う通り、そんなせかせか急いでいるわけでもなかった。ただ、正直なところ、彼女が気になっていたこと。そのことが気になってはいたが。

 

「サユリも来たことだし、そろそろ行こうぜ。ユウト」

「そうだな」

 

 そう言うと、俺はドンドルマ発着場へと彼らを案内させる。

 

 

 

 

 ドンドルマ発着場は、ドンドルマ郊外にある。ここでは他の拠点へと移動するための手段として、気球船がいくつもあった。とはいえ、実際に乗れるのは一つだけだし、行き先も、拠点解放クエストをクリアして解放した拠点――いわば村や街だけしか定期便が出ていないと言うのが実情であった。

 そうしたなか、俺たち3人は、いくつかある気球船のうち、比較的小型の気球船の乗り場にきていた。

 受付嬢ならぬ受付アイルーの前にて、受付を済まそうとする。

 

「では、これにて確認しましたにゃ。では、こちらへお乗りくださいにゃ」

 

 ウィンドウ画面を閉じ、気球船の方へと向く。先まであった、侵入不可の×印アイコンはすでになくなっていた。

 

「じゃ、行こうぜ」

「もういいのか?」

「ああ。受付は済ましたし、ほら、先まであった侵入不可のアイコンは消えているしさ」

「あ、ほんとうだ」

 

 今さらのように気付くケイン。サユリもこのことに気付く。

 ケインが先に乗り込み、続いてサユリが、俺がと続いて乗りこむ。

 

「私、気球船、乗るの初めてなんです」

「実は俺も」

 

 2人同様、俺も実際にこうして。というよりか、VR越しであるが乗るのは初めてであった。BT期間では、体験した感じのようにも思われるかもしれないが、残念ながらそう言った要素はなかったのである。

 

「現実世界では滅多に乗る機会があるわけではないからな」

「ユウトさんもです?」

「まあな」

「ふーん」

 

 珍しそうな物でも見るかのように、ケインが不思議と視線を当ててくる。

 

「なんだよ、その目は」

「いやあなに、珍しいと思ってな。BT期間中でもやり込んでいたはずのお前さんでも、乗った経験がないなんてな。と思ってな」

「あいにく、そのような乗船コンテンツはありませんでしたよーだ」

 

 と意地悪っぽく返してやった。

 

「そろそろ発着するにゃ。指定席へお座りくださいにゃ」

「おっと」

「そろそろだな」

「なんだか、緊張します」

 

 各々が席に座る。そして、入口は閉ざされ、気球船を固定するロープは取り払われた。自由を手にした気球船は、羽ばたくかのように大空へとふわりと舞い上がって行く。それは鳥にでもなたっかのような感覚を有して――。

 発着からしばらくすると、気球船は雲の上を突き抜けた。後方には小さくなったドンドルマの街並みが雲の間から見え隠れしていた。飛行も安定してきた頃、俺は席を立って手摺の方へと足を運ぶ。そよ風が頬を優しく撫でるなか、腰に両手をあてがい将来的な思いをはせる。

 それは漠然であるが、生きてこのゲームを終わらせること。そして、亡き親友・晃との約束を果たすためでもあった。

 

「眺めいいですね」

 

 いつの間にかであるが、サユリが声をかけてくる。ウィンドウ画面を表示して防具。特にヘルム脱着を選択したのか、その素顔――現実世界の顔と酷似したような素顔がさらけ出される。とは言え、アバターであることには変わりないが、俺としては間近で彼女の素顔を見るのは、レイア討伐クエスト前夜、2人っきりになったあの夜以来、すごく久しぶりに見たような気がさえした。

 

「恐くないのか」

 

 何気なく話してみる。

 

「高いところは平気です。でも、ケインさんはダメみたいですね」

 

 そう言うと、ケインのいる方へと振り向く。俺もつられて振り向き、ケインの情けない様を見ることとなった。その様、うずくまり身震いしている感じ。しかもよく見ると表情が青ざめており何かブツブツと自分に言い聞かせていた。

 

「高くない、高くない、高くない、高くない、高くない……」

「何言っているんだ、あいつ」

「高所恐怖症ですかね」

「見た感じ、そのようだな」

「おいっ、ケイン!!」

 

 しかしケインの反応はなかった。どうやら、自分のことだけで手一杯。聞く耳持たずってところであった。

 

「しょうがない。あいつのことは着いてからだな」

「そうですね」

 

 続けてそこでサユリは俺に聞いてくる。

 

「ところで、ふと思ったんですけど、ユウトさんって何か目的とかあります? とりあえず、私は生きてこの世界を終わらせて家族にあいたいことですけど」

「目的?」

 

 唐突な質問であった。多少戸惑ってしまうが、

 

「そうだな……」

 

 とそんなことを言いながら、前々から思っていたことを放してみる。

 

「生きてこの世界から帰ることが前提だけど、それ以前に約束があるんだなあ」

「約束?」

 

 気になったのか、首を傾げるサユリ。

 

あいつ(ケイン)と俺と、もう一人。今はいないけいどその親友とで約束したことがあってな」

 

 そう約束……。

 

 今さらながら自分で言って思いだしたけど、確かにあった。

 

「どんな約束なんです?」

 

 聞き返す彼女に、俺は胸に秘めたこの思い。別に隠す理由とかなかったので話してみる。

 

「3人でHR1000を目指して、狩人王のトロフィーを取ろうって約束なんだ」

「ふーん。友達との約束みたいなものなんですね」

 

 そこでかいつまんで聞いていたのか、自分のことで手一杯ながらでもケインは横から口を出してくる。

 

「そうだ。……そうなんだよ。あ、あいつとの思いを胸に、や、約束を果たそうって奴さ。だろう? ユウト」

「ああ、そんなところだな」

「なんだか、すごそうですね。なーんかどこかの某アニメに出てきそうです」

 

 当然のように話したつもりでいたのだが、どうやらサユリは感心したみたいであった。

 

「まあ、結局は俺とこいつだけでその約束を果たしていく感じに結局はなってしまったけどな」

「ちなみに、その友達って今はどうしているんです? 聞いた限り何か諸事情でもあるみたいですけど」

「ああ、それはな……」

 

 なんとなく言ったつもりだろうが、彼女のデリカシーのない質問に俺は少々言い出しずらくなてしまう。代わりにケインが投げやりのように応えてやる。

 

「亡くなったよ。そいつは」

「ああ、す、すみません。私、ついデリカシーのないことを」

「いや、いいんだ。知らなかっただけだろう」

「それでも……」

「ところでさ」

「えっ? なんでしょう」

 

 突然の話の切り替えに戸惑う表情を見せるサユリ。けれどそれを無視して、そこで俺は昨日の解散の時から気になっていたことを持ち出してみる。

 

「昨日からどうしても気になっていたんだけど、何か気になることでもあったのか。遅れてきたこともあったし」

「あ、それはですね」

 

 そう言うと少々頬を赤らめて、照れくさいような仕草を見せて話す。

 

「ぼ、防具の新調で気になっていたんです。……そ、そのぉ新しい素材が手に入ったので」

「新しい素材? ……ああ、レイアのか? もしかして」

「そ、そうです。確か、素材名が〝雌火竜の幼鱗〞、とかだったような気が。それでどんな防具が作れるのかなあと気になっていたので」

「あははは、そんなことか」

「笑わないでいくださいよ。真剣なんですから」

「わりぃわりぃ。サユリも防具のことで気になりだすとか、珍しいと思ってな」

「気になるも何も、今後どんなクエストに当たるのか分からないから、念には念を入れておかなくちゃと思ったんです。だから」

「まあ、自然なことだな。それは」とケイン。

「確かになあ。当然って言えば当然かもな」

「だったら」

 

 活き込む彼女に、俺は冷静に、うんうん、と頷きながら共感する。

 

「分かるよその気持ち。俺も新しい素材手に入ると、どんな装備が作れそうになるのか気になるからな」

 

 とそこで、視界に目的地の街がふいに映り込んできた。

 

「お、どうやら見えてきたみたいだぜ」

「え?」

 

 つられてサユリは俺の見ている方へと視線を遠くに向ける。俺の見ている方向。そこには岩壁に囲まれた街並み――ミナガルデの街並みがあった。サユリはその光景に感動したのか、さっきの防具の件はすっかりと忘れ、身を乗り出すかのようにして手摺に乗っかった。

 

「うわあ、これが……」

「そう、これが俺たちの次の拠点、ミナガルデさ」

 

 雑誌の紹介ページで見たことあるけど、実際に見てみるとその風貌が何とも言えないような感動を呼ぶのであった。

 

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