紅葉が咲き乱れる石造りの街――ミナガルデ。今の
〝ハロウィンinミナガルデ″
年に一回行われるイベントであり、
そうしたなか、イベントにあやかってか、俺たちの
円卓を囲むようにして、俺達は一つのパンフレットを見ながらあーだこーだと意見交換し合う。
「色々とシリーズ見て思ったんだけど、やっぱり私はこれかな~」
感想を述べるサユリが指差すそれは、アヒルの着ぐるみをした防具――グークシリーズの欄であった。グークシリーズでは、白、赤、青、碧と4種類のグーク装備が描かれており、その中でサユリは白を選んでいた。
「いいじゃないか」
とケイン。
「ただ……」
と顎をしゃくりながら眉間に皺を寄せ
「動きづらいと思うけどなあ」
そう感想を述べる。一方俺は、それを優しく否定するかのように意見する。
「いや、恐らく大丈夫だと思うな。周囲からは動きづらいように見えるけど、当の本人はさして影響はないだろう」
「そうか? どう見ても動きずらいと思うけどな」
と反論を述べた後、
「でも、まあいいさ。こればかりはサユリちゃんが決めることだし。ねぇ、サユリちゃん」
と開き直って彼女に振る。一方、当の彼女は
「う~ん……」
先のケインの考えを聞いてか、再び迷う様子を見せ始めてしまう。けれど、しばしの間の後、彼女は別の思いを抱いたらしく
「ぎこちなくて着れにくそうでも、可愛いからいっかな。やっぱりこれにする」
と決めた。
「なら、決まりだな。じゃあ、次はお前だな、ケイン」
「俺は、とうに決まっているかな。うーんと」
と言いながら、チラシのページを数ページめくったところで、
「これにするぜ」
と一つのシリーズものを自信ありげに指さす。
「アイルーシリーズ? これにするのか?」
そう言う俺が見たものとは、まさにアイルーの着ぐるみセットであった。
「悪いのかよ」
やや照れくさく言うケイン。
「いや、別に悪いとかではなく。……ただ、珍しいなあと思ってな」
それに呼応するかのように、サユリも同意見で述べる。
「同感。ケインさんなら、なんかこう格好いいようなシリーズ選ぶかとてっきり思っていたので」
「そうそう」
と付け足す俺。そこでケインは、自分の近くにあったかぼちゃのデコを抱き抱えるようにして胸中を語る。
「まあ、正直言って、これでも結構悩んだんだけどね。当初、恥ずかしい感じも少なからずあったから」
「やっぱりそうだと思った。で、決め手となったのは?」
問う俺に彼は振り返るようにしてこう答える。
「野郎どもが可愛さ重視で着ぐるみ着ているのを見かけた時かな。見かけた時、折角のハロウィンイベントだし、恥ずかしさなんて関係ないよなと思ってな」
「なるほどねぇ~」
彼の選んだ経緯について納得する。一方、そこでサユリはケインに問う。
「ちなみにアイルーを選んだ理由は? 他にも可愛いものならあったと思うけど」
「う~ん、イベントのパンフを見たときから、感覚的にこれだなと思ったことかな。それにプレゼントで肉球スタンプいくつか貰ってたし、それに………」
そこでサユリは彼の口から出た素材名に興味を抱いたのか、続けて喋ろうとしていたケインを遮って
「肉球スタンプ?」
と首をかしげた。疑問符を浮かばせる彼女に、俺はそれに説明を入れる。
「イベントに合わせたキャンペーンボーナスってコンテンツだろう。サユリにもいくつか貰ったと思うぜ」
「ふーん。私、貰った素材があまりにも多すぎたこともあり、いちいち確認していなかったので気付かなかったかも」
そう言うと、サユリはウィンドウ画面を表示させて、〝お知らせ〞の内容を確認し出す。少しの間をおいて、俺が言っていたことが本当のことだと確認できた彼女は
「あ、確かに。肉球スタンプ、何枚かあった」
と納得する。
「種類はざっと40はあったような気がするな」
「数えたのかよ」
驚くケイン。
「どんなものあるのか見るついでにな」
「すげぇな。そこまで気を回せるなんて」
「だってさ、季節限定装備だからさ、気になるじゃん」
「まあ、確かによ」
「さて、次は俺だな」
そう呟くと、ペラペラとページをめくり出す。
「ところで、ユウトさんはどんなものにするの?」
「俺か? 俺はなあ………」
そこでめくり終えると、
「これかなあ」
と指差した。
「ハロキューシリーズ。へぇ~、まさに(ハロウィンイベントの)イメージにぴったりじゃん」
「だろう」
「今時の雰囲気に合っているね。特にこのカボチャのアクセサリなんかは、印象的」
二人とも口を揃えて感想を述べる。
「今回のイベントには、これが一番ふさわしいと思ってさ」
「ところでパンフ見ていて思ったんだけどさ。素材に必ずハロウィンチケット必須って書いてあるんだけど、これってどうやって稼げるんだ? キャンペーンボーナスでは毎日一枚は貰えるみたいだけど。もっと増やすにはどうするんだ?」
そこでサユリもどう意見だったらしく、俺に尋ねてくる。
「私も、それ知りたい。色々と装備作ってみたいから」
二人の意見はごもっともだ。折角の期間限定イベントなんだから、俺だって色々と作ってみたいと思っていた。しかし、実際はそうではなかった気がする。そう考えてか
「俺もそれに同意見だよ。ただ、確か条件があったような……」
言いながら見開きページの隅々まで目配せをしていき、ある一ヶ所に視線を落とす。
「あったあった。うーんと……」
と条件の項目を読んでみる。
〝期間限定アイテム・ハロウィンスタンプは、その後に控えている優秀賞結果発表の関係上、10個までとします。つきましては、そのハロウィンスタンプの入手経路は配布以外にはありません〞
とのことだった。
やっぱりなと思った。そして、条件項目を二人にも確認してもらうべく、指先で操作して拡大表示させると共に
「これを見てくれ」
と言う。
二人が視線を泳がせてよーく見る。一拍置いて記載された条件にケインがケチをつける。
「なんだよ。個数に限度ありかい」
「確か、限定防具に必要な素材には……」
「スタンプが10個必要。そうだろう」
「てことは」
「ああ~、お前の推測通りだ。作れる防具は一種類のみってことさ」
それを聞き、頭では分かっていたのだろう。サユリは肩をすくめた。
「あ~あ。種類増やしたかったな」
「まあ、そう落ち込むなよ」
そこで俺は、パンフレットのページをめくり始める。パンフレットは製本ではなく電子書籍みたいなものなので、スライド形式にパラパラと効果音を鳴らしてめくられていき、あるページのところで止めた。そこには、大体的に゛優勝景品内容〝と記載されていた。リストを一瞥して励ます。
「代わりに優勝景品には、色々と限定グッズが貰えるみたいだからさ」
「優勝景品って、私、そこまで行ける気がしない……」
「まあまあ。狙ってみないとわからないだろう。それにダメだったとしても、それなりに見返りはあるしさ」
「見返りって? ちょっと貸してみ」
そこでケインは、パンフレットを手元に持ってきた。ふむふむ、なるほどねぇ~とか納得する。
一方でサユリはケインの見ている項目が気になったのか
「何があるの?」
と訊ねる。
「見てみるか? サユリちゃんも」
パンフレットを彼女に優しく手渡す。吟味していく中で、
「う~ん、微妙……」
と表情を曇らせる。
「参加賞程度なら、そのくらいが妥当だと思うぜ」
「あ、でも、限定グッズは一つくらいは貰えるみたい」
「どれどれ」
気になったのか、ケインが覗き見る。一方で、俺もまた、彼と同じく覗きみた。参加賞の中でほとんどが農場開拓に必要なポイント還元チケットだったり、回復薬グレートや粉塵の粉などの回復関係の道具類でいっぱいになっている中、一つだけであるが限定アイテムがあったのを目にする。
「置物か………」
まあまあという案配で、悪くないなあと思った。
「なんの置物かは知らないけど、貰えないよりかはマシか」
ケインが妥協する。俺もまた、ある意味同じ考えであった。
「ところで……」
そこで頃合いを見計らって、サユリが話題を変えてくる。
「順位とかは、どんな形式で判定されるんだろう?」
「それは……。確かパンフレットの最初のページに記載されていたような……」
そう言いながら、またしてもペラペラとページをめくり最初ページの方へと移行。記載されている項目をさらりと読んでみる。ちなみに記載されていた内容は、こんなものだった。
イベントの流れ ―投票編―
① 期間限定防具や武器を一種類決め、対象のクエスト内で指定条件を満たす。
② シリーズ装備を揃えた後、自動で投票になります。
※シリーズ防具と武器が異なっていない場合、投票されません。
③ 投票に伴う多数決により一番多い方から順に1~3位が決定付けられます。
④ 4位以下で受賞した方は参加賞としてそれ相応の限定アイテムが貰えます。
⑤ 入手した
とのことだった。
「なるほどね」
と自分で改めて理解する。一方でケインとサユリは、揃って重要なことだと思ったのか、気になる様子を見せる。
「見てみるか?」
俺は彼らに手渡す。うんうんうん………と頷き合うなかで、疑問に思ったのか、サユリが先に
「ん?」
と怪訝そうな表情を浮かべる。
「内容は大体理解したけど、この※印の意味、なんだろう……」
「右に同じく」
二人して同じ箇所に疑問符を浮かべる。※印とは注意書のことだと認識していた俺は、
「あ~あ、そこはな」
と言って簡潔に説明する。
「シリーズ防具とそのシリーズに関連した武器が異なった場合、投票できませんという意味だな」
「てことはつまり………例えばだけど、グークシリーズの防具作るなら、グーク関連の武器を作る必要があるってことなんだな」
「そう言うこと」
「なるほどねぇ~」
「ふ~ん」
当然のように答えた俺に、両者はほぼ同時に理解した。
「ちなみにトップ3までの景品って何が貰えるのかなあ?」
「う~ん………」
そう言いながら、目次を見開いて一覧を見ていく。実を言うと、俺も彼女の言う通り、優秀賞の景品内容はとても気になっていた。そう言うこともあって、やや必死になって目を細める。すると、〝景品内容〞の項目に目が止まり、これこれと心の中で呟く。ショートカットするべく下段に指を宛がい、一気にページを飛ばす。見開き表示で見えるようにして――。
「1位~3位まで限定模様替えセットかあ~。やっぱり、いいなあ」
「4位以下は参加賞で、対象のデコが貰えるくらいで内容は皆同じみたいだな。模様替えセット貰えないだけで」
二人はそう言って吟味し合う。俺もまた、3位までの景品内容に魅力され、物欲センサーが反応してしまう。
「まあ、見続けても仕方ないけどな。実際はどうなるか分からないし」
はいっ、おしまい。と言わんばかりに俺はこれ以上見ても余計に欲しくなってしまうだけで仕方ないだけだと考え、手早くそのページを閉じた。直後、
「あっ」
とサユリの物欲しそうな声が聞こえた。
「ところでよ、ユウト。シリーズ装備を揃えるに当たって、どんなクエストを受ければいいのか目処はついているのか?」
「大体はな」
言ったそばから目次ページを開き、再確認するかのように指先で一覧をなぞる。
「グークシリーズ、アイルーシリーズ、そして、ハロキューシリーズの各素材がほぼ同時に取れるクエストは、確か一つだけあったはず………」
記憶を手繰り寄せるかのように思い出していくと同時に対象ページを見開いて、そこである項目に目がいく。
「あったあった。これこれ」
と検討違いじゃなかったことを再認識する。指し示したクエスト名をケインがぽつりと言う。
「奇面族のお宝?」
続けてサユリも
「奇面族?」
と口調を揃えて言う。
「このクエストなら………って、お前らどうしたん? 二人とも揃って不思議そうに見つめて」
気になった俺は二人を見る。そうしたなか、サユリの目と俺の目が合ってしまい――とそこで、サユリが訳を話す。
「あっ、うんうん。ただ、対象モンスターのところに、奇面族、って書いてあったからつい気になっちゃって」
(対象モンスター?)
そう疑問に思った俺は、クエスト内容に目線を向ける。そこには、クエスト名からも想像できる通り、危険対象モンスターとして、チャチャブーと記載されていた。
「あ~あ、こいつね」
軽い口調で答える俺。別に大したモンスターじゃないなと思った。だが、それは俺自身だけで相手にする場合だけであって、装備の水準が上がってきたとは言え、二人にとっては脅威ともなり得る存在であった。その事もあってか、心の中で咳払いをして居ずまいを正す。
「えっ!? 分かるの?」
とサユリ。一方、ケインは俺の実力と知識に信頼感があってか
「あ~あ、分かるとも。なあ、ユウト」
と法螺でも吹くかのように振ってきた。チャチャブーとはどういったモンスターなのか分かってはいたが、先手で彼にそこまで言われると、
「あ、ああ。まあな」
と少々、緊張して表情がひきつってしまう。しかしそこは、一旦軽く深呼吸して落ち着きを払った後、冷静になって解説をする。
「端的に言うと、アイルーやメラルーと言った獣人族の類に属するモンスターだな」
そして、身ぶり手振りを交えつつ
「ピンからキリまで入るけど、大体
と言いながら、最大サイズにおいて腰の高さまでのやつもいるよ~と表現して見せる。
「なんというか。外見はイメージできないけど、なーんかサイズを聞いた感じ、メラルーやアイルーと同じくらい小柄そうで、なんとなく……可愛い感じがするぅ~」
と勝手に自分好みのモンスターリストに、彼女は加えてしまう。
可愛い、ねぇ~。
男である俺には、理解しがたい気持ちであった。いや、それ以前に、チャチャブーとはどういったモンスターでどのくらい危険なモンスターであることも知っていたので、とてもそんな感情を抱けなかった。
それもあってか、うーんと唸ってしまう。一方、ケインはその気持ちに賛同なのか、
「サユリちゃんが可愛いと言うくらいだから大丈夫だろうな、きっと。見たこともないけど」
と軽く言って見せる。見たこともないと言うのは、サユリもそうだが、流石に危ういな、これは。俺はそう心配にならざるを得なかった。
表情をひきつらせたまま、クエストの内容を確認。依頼内容はこう記載されていたのを目にする。
【クエスト名】
奇面族のお宝
【目的地】
樹海
【報酬金】
ハロウィン専用高級焼肉セット納品時のみ、2,500z
【対象シリーズ装備】
ハロキューシリーズ
グークシリーズ
アイルー及びメラルーシリーズ
【クエスト達成条件】
ネコタクチケットの納品、または、ハロウィン専用高級焼肉セットの納品
【危険対象モンスター】
チャチャブー
【依頼内容】
※以下省略
〝以下省略〞と言うのは、別に読まなくてもいいと思い、あえて表示させなかったからである。
「高級肉焼きセットねぇ~」
ぽつりと呟く。入手経路自体、大体そうなっていくのだろうなあと憶測はあったけど、確実性には欠けていた。とは言え、ハロウィンパーティー開催には必要不可欠なもの。どうしたものだろうかと憶測ばかり並べて考えてみせる。――とそこで、依頼内容を見てかケインが感想を述べる。
「にしても、改めて思うが、
イベント期間中、ずっとイベントクエスト攻略を共にしてきた仲間の関心を寄せる言葉に、俺はさらりと応えてやる。
「期間中、ずっと挑んできたから分かるだろうけど、通常のクエストとは内容が異なるからな、イべクエは」
「確かになあ。でもよ、ユウト」
「ん?」
「通常クエストでもよ、聞いた話では、イべクエと同じく特異的な条件付きでクエストクリアになるのも今後出てくる見たいだぞ。どうも」
彼からの意外な言葉。多少驚くと同時に疑問が生じる。
「ん? どこから聞いたんだ? それ」
「どこからって……」
やや言葉に詰まってしまうケイン。そこでサユリが、彼を擁護するような形で「いつでもフレンドリーなケインさんのことですから、他の団員さん達から聞いてくるなんて容易いんじゃないでしょうか」
「まあ、そう言われてみれば……」
確かに。ケインの陽気でフレンドリーな性格のことだから、どこからか情報を得たのは不思議ではないのだ。続けて彼が言う。
「まあ、噂を小耳で挟んだ程度なんだけどね。まあ、俺もそれ以上はよく分からないし、気にすんな」
噂ねえ。具体的にどう言った噂なのかはっきりとはしないけれども、今後、クエストを進めていく上で必要な情報の一部であることには間違いない。でも、現地点では噂の具体的な内容が分からないこともあり、仕方なかった。それもあってか、それ以上は深く考えないようにしておいた。
「は、はあ……」
と肩をすくめる。一方、ケインはそんな俺をよそに何気なくウィンドウ画面を表示させるや否や、
「おっ、もうこんな時間かぁ」
と気付く。その様子にサユリも時間が気になってか
「えっ」
となり、同じく指でさっと空を切ってウィンドウ画面を表示させる。
「あ、もうこんな時間なんだ。2人ともそろそろ解散にしよう」
「そうだな。それに明日は(イベント)最終日と言うこともあってか、最後のイべクエを受注するにしろ、どの道、朝早い方がいいしな」
「そうだね」
「だな。……そうと決まれば」
そこでケインは、すくっと立ち上がって俺とサユリの両方見ると
「今日はもう遅いし、俺はこれにて先に失礼するぜ」
「ああ」
「おやすみ~」
「おやすみなさい」
手を振ってバイバイをすると、ケインは早々と退室してしまった。
ケインが退室した後、残りは俺と彼女だけとなってしまった。サユリは丸太椅子からおもむろに立ち上がると、両手を後ろで軽く組んで一ニ歩と歩き、ベランダの方へと歩み寄る。
「素敵な夜空だね。まるで
そう感想を言うと、蚊帳をめくりベランダに出る。俺もそんな彼女の様子に惹かれるかのように、立ち上がった。そのままサユリのあとを追うように、一緒にベランダに出る。
柵に二の腕を置いて、よそ風が吹き付ける頃、俺も心境を語りだす。
「良くできているよな、この
彼女はそれには答えず、ハロウィンに彩られたミナガルデの街並みを眺めるだけに留めた。仄かに光る洞窟やレンガ造りの家々。それに装飾されたハロウィンのデコレーション。2階から眺めるこの場所では、幻想的な風景がそこに広がっていた。
見飽きないその光景に、俺はぼーとして感傷に浸る。静寂なる街並みを眺め、暫しの沈黙が続いた後、サユリはようやく口を開いた。
「振り返って思えば、色々なことがあったね」
「だな」
言われて思えば、確かに色々なことがあったと思う。彼女との出会いから始まって、辛いことや悲しいこと。自信にもなったことや嬉しかったこと。まだ、2、3ヶ月くらいしか経っていないはずなのに様々な思い出が駆け巡る。
「私、思うんだ。このまま、ユウトさんたちと一緒にずっとハンターライフできたらいいなあって」
「いいと思うぜ」
最初はケイン以外の他者に心を開くことなんか抵抗があったはずなのに、心からそう思っていた。不思議なくらいに。
「俺も、このまま3人でハンターライフを続けたいと思っているしな」
そう言われ、共通の思いが通じあったのか、彼女はわずかに頬を赤く染めて言う。
「……なんだか嬉しいかも。そう思ってもらえると」
と微笑んだ。続けて本心を語りだす。
「私、本当の狩友と呼べる人なんて、一人もいなかったから」
「そうか? 結果はどうであれ、仲間がいたのではないのか。実際、
しかし、彼女は首を横に振った。
「うんうん、違うかな。表面上は仲良くやっていたけど、本心を語れるほど本当の狩友と呼べる仲じゃなかった」
「……意外だな」
「そうかな」
「全然、意外だと思うよ。団員とはちょっとしか面識がなかったけど、少なくとも初対面同士と言った感じには見えなかった。寧ろやや馴染んでいるようにも見えたしな」
「それは、掲示板で知り合っただけで」
「掲示板?」
「うん、掲示板。モンハン部の」
「モンハン部の? ……あ~」
一瞬ではあったが、忘れかけていた掲示板名を思い出す。そして、実際、前にも活用していたことがあって、なるほどねぇ、と相づちを打った。それもそのはずで、俺も今は亡き親友・神宮寺 晃と出会うきっかけとなった掲示板だったからである。それもあってか、彼女とは少しだけだが、どこか親近感を覚えることになった。
「その反応だと、モンハン部の掲示板のこと知っているみたいだね」
「ああ、知ってるよ。だって、俺も使ったことあるから」
驚いた表情を見せると共に、サユリは口元に手を当てがう。
「まあ、奇遇ぅ」
「だな」
「ところで」
そこでサユリは、改まって俺と向き合う。俺としては、そんなに改まってどうしたんだ? と言いたかったが、先にサユリが口を開いてしまったので、俺は思わず口を閉ざしてしまう。
「前々から思っていたんだけど、ユウトさんたちって、何か大きな目標とかってあるの? このご時世、何か大きな目標とか、決意、みたいなことがないと、この先、生きていける気がしないから」
「大きな目標って………」
一瞬だけだが、戸惑ってしまう。
「まあ、なくはないけど………」
「なら、是非聞いてみたいかな。もしかすると、私にも何か目標ができるかもしれないし」
「そうか?」
とは言いつつも、別に大したことでもないんだよなぁ、と心の中で呟く。
「まあ、いいけど」
夜空の星々を眺めながら、横でサユリの視線を感じながら上の空で語りだす。
「そうだなあ。この際、きちんと話しておこうか、俺の目標を。折角だし」
そう言うや否や、心に秘めたこの思い。ケインと俺で秘密にしていたこの思いを、サユリに打ち明けることにした。
「デスゲームになった今、最低限の目標として生き抜くこと。それが俺たちの目標なんだ。だけど、それ以上に、ある親友との約束を果たすことも念頭に入れているんだな」
「ある親友?」
首を傾げるサユリ。当然の反応であった。彼女にはまだ話していなかったからである。亡き親友・晃との約束のことを。
そう考え、俺は話してもいいと思ったので、この際、打ち明けることにした。
「ああ、ある親友、さ。今はこの世にはいないけどな」
それを聞いてサユリはやっと思い出したのか、彼女はこう言った。
「あー! そう言えば、前にも言っていたような。ごめんなさい、つい忘れてました」
と。
「いや、いいんだ。今までまともに話していなかったしさ」
「でも……」
「いいのいいの。そう謝らなくても。……で、そんでな、その親友との約束と言うのがな、一緒に〝狩人王のトロフィー〞を得ようってことなんだ」
それを聞き、サユリはそのトロフィーのことを少なからず知っていたのか、おぼろげな記憶を頼りに答える。
「狩人王のトロフィー、てあの……」
「分かるのか?」
迫る俺に彼女は、上の空で答える。
「うーん、前にどこかで聞いたような気がしたから。うーん、なんだっけかなあ」
記憶を手繰り寄せるかのように、彼女は額に手を宛がった。しかし、そこで俺は
「まあ、そんなに無理して思い出さなくてもいいさ。そんなに出回っている情報でもないからさ」
「ごめん。やっぱり、あまり覚えていなかったかも」
「まあ、気にすんな」
「そうする」
「……っで、話をもとに戻すけど、つまりそう言うことなんだ。俺の本当の目標と言うのは」
「なるほどねぇ。なんだかんだ言って、壮大な目標を掲げているんだね、ユウトさんは。それに比べて、私なんか、全然そこまで思い付かないな。今を生きているだけで手一杯だし」
「別にそれでいいと思うよ。無理して壮大な目標掲げなくてもさ。それに、こんな大きな目標を本気で掲げているのって、今のご時世、俺とケインくらいだしさ、多分。……さーて」
そこで、俺は画面を表示させて時刻を確認する。時刻はもう10時15分を指そうとしていた。
「明日は早いし、俺たちもそろそろ寝よっか」
「そうだね。私もそろそろ寝なくちゃ」
「ああ、また明日な」
「おやすみなさい」
軽く手を振る俺の前、踵を返してサユリは歩きだした。
(戻って行ったな)
彼女から視線を外し、もうちょっとだけここにいようかなあ。なーんて思っていたら、背後から突然
「あっ!」
と小さな悲鳴がすぐに聞こえてきた。俺は
「えっ」
となって咄嗟に振り向く。すると、サユリはよろけていて倒れる直前。突然の事態に自然と体が動いたのか、思わず俺は倒れる彼女をお姫様抱っこみたく体を支えてやった。
心配して
「だ、大丈夫か?」
と一言。しかし、サユリはどこか遠慮がちに
「あ、うんうん、ありがとう。ちょっと目眩がしただけだから。もう大丈夫、平気」
そう言って、何事もなくすっと立ち上がると
「じゃ、また明日」
と言い残して早々に部屋に戻ってしまった。一人ベランダに残された俺は思う。め、目眩ねぇ、と、サユリのどこか焦るような言動を気にして。