モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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4章:小さな狩人・2話

 ミナガルデから南東に位置すると思われるパティパトム樹海。その目的地に向かうに当たって、小型気球船で入り組むんだ渓谷を飛行してゆくのだが、何せ辺り一面が濃霧で覆われており、視界は芳しくなかった。

 それ故、時折だが岩壁に気球船がぶつかったりと、どこか安定しない飛行を続けていた。舵を任されているのはアイルー。話を聞く限り、設定上においてベテランパイロットとのこと。飛行していく上での不安感は募るばかりであったが、とにかく無事にBC(ベースキャンプ)へ到着することを祈るばかりであった。

 

「防具を着込んでいるとはいえ、ちと肌寒いな」

 

 イャンクックシリーズの防具を着込んでいるケインが、身震いさせながらそう弱音を漏らす。

 

「そう言われてみれば、確かに」

 

 と同感。と言うのも、彼が弱音を吐くのも無理もなかった。この濃霧から吹き込む冷えた山風。寒さには少しだけ抵抗がある俺でも、まるで冷凍庫の中に閉じ込められたかのようなこの寒さの前には、辛いものがあったからだ。

 眼前に表示されたスタミナケージ。この寒さの前に、さすがに低下傾向を示していた。歩み寄って支給品ボックスへと向かう。アイコンをタップし、支給品一覧を表示させる。下位クエストであったことが幸いしてか、3人分の支給品が十分なくらい備わっていた。

 

「二人ともぉ。寒いだろうから支給品、ありがたく貰いなよ」

 

 気遣いにも声をかけてしまう俺。早速と言わんばかりに、遠慮なくケインが支給品ボックスの前に出る。

 

「おっ、いっぱいあるじゃん、ホットドリンク。4つほど貰っておくな」

「おいおい、4つもかよ」

 

 さすがに4つは多い。そう思ってか、彼に遠慮するよう伝える。

 

「多くて2つくらいじゃないか。第一、ホットドリンクの使いどころっていったら、今くらいなものだし。それに、BCに到着したら恐らくそこまで寒くはないと思うぜ」

 

 画面を表示させたまま返答する。

 

「そうかぁ。なら、遠慮して2つに」

 

 ケインが支給品を吟味しながら貰っていく間、俺はサユリの方へと向く。

 

「サユリも、寒かったら貰っておいてもいいぞ」

 

 気遣って声をかける俺に、サユリは寒さ以上に何やら画面を表示させたままそれに注視していた。気になることでもあるのだろうか、時折、切なそうに溜め息なんかを漏らす彼女にもう一声かけてみる。

 

「ん? サユリ」

 

 すると、今度は気付いたのか、ハッとなってこちらに振り向く。

 

「あ、はい。なんでしょうか?」

「いやぁ、寒かったらホットドリンクでもどうだろうかと思って」

「そ、そうですね」

 

 そう言うと、先程まで表示していた画面を消し、こちらに歩み寄ってきた。――とそこで、またしても船体に岩壁をぶつけてしまったのか、ドシンっと大きな振動が。彼女は

 

「あっ!」

 

 と小さな悲鳴をあげバランスを崩し、こちらに寄りかかってきた。思わず俺は、彼女を抱き締めてしまう。

 目をつぶっていたサユリが安心したのか目を開き、目と目があって間近でみつめ合ってしまう。離れていてもその幼い素顔は何度も見たことがあるが、こう間近で見るのは初めて。内心ドキドキしてくる中、そこで俺はハッとなって我に。慌ててサユリとの距離をとる。

 

「あ、あ、いや。これは別に」

 

 照れながらでも何か言い訳を探す。そうした中、視線をサユリの方へと映してみると、彼女もまたどこか恥ずかしそうにチラチラとこちらを見たり見なかったりとしていた。

 気まずい雰囲気。どうこのムードを切り返していいのか、言葉を入念に探してしまう。両者とも押し黙ってしまう中、場の雰囲気を切り裂くかのように舵を任されていたアイルーが知らせてくる。

 

「もうすぐBCに着く頃だにゃ。準備はいいかにゃ?」

「おっ、あ、ああ。了解」

 

 しどろもどろながら返事を返すと、俺はそこで支給品ボックスへ前にて表示されていた吹き出しアイコンから〝装備〞の項目をタップした。自身の装備確認をしていく中、二人にも声をかける。

 

「お前たちも今のうちに装備確認しておけよ」

 

 弾かれたかのようにケインが

 

「お、おお。そうだな」

 

 と言って、装備確認し始める。一方、サユリはこちらが声をかける前から装備確認をしていたみたいだった。各々が支給品を回収しし終える頃、ケインが画面を表示させたまま興味本意で聞いてくる。

 

「ところでよ、ユウト」

「ん?」

「前から気になっていたが、チャチャブーってどんなモンスターなんだ? 詳しく聞いてなかったから」

 

 その質問を聞いていたのか、サユリもこちらを向く。二人の注目が自分に向くなか

「そうだなあ」

 

 と言って、自分の知っている限りを話す。

 

「端的に言うと、何かに擬態して隠れていることだな」

「擬態? 何かに化けているんですか?」

 

 と首をかしげるサユリ。

 

「まあ、そんなところだな」

 

 二の腕を組んで考えていたケインはそこで憶測を述べる。

 

「擬態しているということは、何かと見つけるのが厄介そうだな」

「それな。てか、ケイン、俺と晃の二人でモンハンしていた時、チャチャブー討伐クエスト、挑まなかったけか? もうあれこれ、1、2年くらい前になるけど」

 

「え!? うーん………」

 

 記憶を掘り起こそうとするケイン。そこで、曖昧ながらでも思い出したかのように

 

「あ、あ~。そう言えば」

 

 と答える。

 

「だろう」

「でも、あれは確かに討伐クエストには挑んだことあったけど、晃が(モンハンアルカディアの)体験会行こうとか言って、チャチャブー見つける前にプレイ辞めてしまったんじゃなかったけか」

「そうだったけか?」

 

 俺もそのときの記憶は、多少ながら曖昧な部分でもあった。

 

「確かそうだと思うぜ」

「う~ん」

 

 そこでサユリが、

 

「お二人さんは少ないながらでも、経験者なんですね」

「まあな。どっちかと言うと、モンハン歴長いのはユウトの方だけどな」

「だとすると、どのみち私の先輩ですね。私なんか、今作が初めてなんで」

「大丈夫さ。俺たちがついているから」

「心強くて助かります」

「さて……、そろそろだな」

 

 頃合いを見計らって船首の方へと向く。いつの間にか前方を覆っていた濃霧は薄くなっており、緑生い茂る樹海が見えていた。

 

「もうそろっと着くけど、装備の方は大丈夫か?」

「私はもう大丈夫です」

 

 ちょうど、ホットドリンクを飲み終えたサユリがOKサインをだす。一方で、ケインもケインで、表示画面を閉じた後、

 

「俺も」

 

 とグッドサインを出して準備オーケーの旨を伝えてきた。

 二人のOKサインを見て自分も再度装備を確認。

 

 (こんなものか)

 

 そう思う俺の眼前には、武器は片手剣(ドスバイトダガー)でシリーズ防具はバラバラなものの、防御力は100近くと十分なくらいあった。多少なりとも、以前よりかは攻撃力は増したし、また、打たれ強くはなったと思う。自信は十分あった。

 

「俺もOKだ」

 

 あとはBC到着まで待つだけであった。

 

 ………

 

 ……

 

 今まで覆っていた濃霧はすっかりと晴れ渡り、視界も良好であった。その代わりと言っていいほどに、視界全面には山々を縫って樹海がどこまでも広がっていた。そのなかで一際目立つ塔を取り巻く巨大な樹木。それが印象に残る感じに、樹海の中腹に聳え立ってた。

 気球船はそうした樹海の一角にある切り開いた場所にて、降り立つこととなった。

 梯子を下してようやく地に足が付く中、ケインが伸び伸びと背伸びをする。

 

「やっぱり地上が一番だな」

 

 それ、言えてる。心の中で俺も同感であった。どの道無事に到着するよう予め設定されているとは言え、不安定な船旅は不安を覚えてならない。それもあってか、ニ度と乗りたくないと思っていた。

 

「私はここで待っているにゃ。無事に依頼を達成できることを祈っているにゃ」

「どうも。さて……」

 

 向き直り、前方に広がる樹海に目を凝らす。これから行く先にはどんな困難が待ち受けているだろうか。と言っても、想像する範囲ではチャチャブーとの戦闘くらいしか思い当たらないが。それでも、気を引き締めるに越したことはなかった。

 

「じゃ、準備できたことだし行くか」

「そうだな」

「はい」

 

 どこまでも続いているであろう樹海。俺たちはついに足を踏み入れるに至った。

 

 

 

 

 遊歩道の終わりが近づいてきた頃、ここから先は道に迷うかもしれない。そう考え、ここで一旦立ち止まる。つられて後方で歩いていたサユリやケインも、つられて立ち止まった。

 

「どうしたんだ? 急に立ち止まって」

「あ、ああ。突然で済まない。道がなくなりそうだから、一旦ここで確認しようと思ってな」

 

 そう言いながら画面を表示すると、先の支給品で入手しておいた生態マップを表示させた。2人にも見えるように振り返り、マップの一面を広げる。一見して、マップ上においては、第一印象、想像以上に地形が入り組んでいるように見えていた。それもあってか、ケインが

 

「うわぁ。なんだ、これ」

 

 と第一声を上げる。

 

「この入り組み方だと、あっという間に道に迷ってしまいますね」

「だろう。だからここで一旦確認しようと思ってな」

「なるほどね」

 

 納得するケイン。入り組むんだ地形とにらめっこしながら、俺は思考を巡らしていく。とは言え、最終目標地点の集落だと思われる場所は一目見た時からわかっていた。それもあってか、そこまでのルートをどう確保していけばいいのかと言ったくらいしか考える要素はなかった。

 しばし黙り込んで考える。そのなかで、サユリはポツリと言う。

 

「集落まで一直線、とはいかないですよねぇ」

「流石にそれは………」

 

 地形の構造上、難しいものがあった。多少の高低差ならともかく、要所要所にある切り立った崖や大岩はどう見ても通行不可としか思えなかったからである。

 

「導虫とかなら……って、それも難しいか」

「だと思うぜ。それに集落と言っても、恐らくチャチャブーの集落のことだから、そのチャチャブーの痕跡を見つめけないといけないし、それに奴を見つけたとしてもなあ」

 

 そこで思い悩んでしまい言葉が途切れてしまう。

 

「なにか問題でもあるのか?」

 

 とのケインの問いに、俺は

 

「まああるんだな」

 

 と答える。一方、サユリは持ち前の少ない知識を掘り起こして意見を述べる。

 

「うる覚えなんですけど、チャチャブーは討伐するとメラルーやアイルーと同じく地面を掘って逃げてしまうような気がしたような。と言っても、前にいた団から聞いた話なんですけどね」

「そう、それなんだ。だから俺が言いたいのは、討伐して奴が自分の集落に戻る際、その痕跡を辿ろうにも地面に潜ってしまえば辿りようがないと言うことなんだ」

「じゃあ、結局、ダメじゃん。導虫は」

「まあそういうことになるな。うーん……」

 

 唸る俺は、再び生態マップとにらめっこする。さて、どうしたものだろうか。ゴール地点である集落。そして、現在地。これら二つの地点を迷路を解くかのように、目線で入り組むんだ地形を辿っていく。そのなかで、着眼点となった箇所に指先を置き楕円を描く。

 

「まずはここを目指すか。一度にルートを決めてしまっては、後で迷う原因にもなるからな」

「確かにそうだろうけど。でも、ここって……」

「見た感じ川辺ですね。しかも釣り場を示すアイコンが表示されていますし」

「さらに言うと、ここからの最短ルートだしな」

「うーん、あっ! 確かに」

 

 そうサユリが納得するのには訳があった。それは曲がりくねった細道であるものの、ここからの一本線だと言うこと。一番分かりやすいポイントでもあったからだ。

 一方、ケインもケインで目をしかめてルートを辿り、彼女に続いて「なるほどねぇ」と納得する。

 思うに俺は、この釣り場に行けば何か収穫があればいいのだが、とやや期待感を抱く。と言うのも、どのみち、最終目的地である集落に行くまでに、俺らが必要とされる素材を集める必要があったから。手ぶらでゴール。そのままクエストクリア、なんてことにはしたくはなかったからだ。

 そんな感じで思いつつも進路を確認し終えると、生態マップを縮小表示させ

 

「じゃ、早速、行くか」

 

 と声をかけた。

 俺を先頭に、後ろにはケインとサユリが列をなして歩を進ませていく。遊歩道の終わりから暫く進んだ頃、若干開けた場所に出た俺は、そこで立ち止まる。

 

「ところでさ。気球船に乗っていた時から気になっていたんだけど、画面越しにため息なんかついてどうしたんだ?」

 

 振り向き様に言ったからだろうか、ケインが思わず自分のことだろうと思って

 

「えっ、俺!?」

 

 となって素っ頓狂に答える。

 

「違う違う」

 

 手を振ってサユリのことだと伝える。一方サユリは、俺の心配事の意味を汲み取っていたのか

 

「え、あ、あ~あのときは」

 

 としどもどろになって言葉を探す様子を見せた。そして、続けざまに応える。

 

「そ、装備を確認していたんです。それで」

「装備確認、ねぇ」

 

 どこか慌てて出たような言い訳っぽい感じがして、俺は怪訝そうに思った。でも、

 

「まあいっか」

 

 と、それ以上、なにも言わなかった。しかし、ケインは

 

「装備確認するにしても、見た感じ十分な気がするけどな。なんか装備で気になることでもあったのか?」

 

 詮索するケインに、俺は彼の肩に手をおく。

 

「まあ、いいじゃないか。彼女も彼女なりに、装備とかに気を使うようになってきたということだろう」

 

 本当は何か違うような気がしていたが、そう言うと共に俺はあまり深く考えないようにした。

 

「まあ、そう言うなら」

 

 そう言って、彼も俺と同じくこれ以上の詮索はせず、一歩後ろに下がった。

 

「と、とにかく、先を急ぎません? ここで立ち話をしていたら、いつモンスターの標的になるか分からないですし」

「それもそうだな」

「だな」

 

 ケインと共に頷き合い、再び歩き出す。そして、暫く散策し続けること20分。ようやくと言っていいのか、水の流れる音が聞こえてきた。それもあってか、生態マップを拡大表示にすれば、現在地から河川まで徒歩5分もかからない距離に近づいていたことが示されていた。

 

 そう……。

 

 最初に示した目標地点――釣り場は、もう目の前なのだ。歩を早める俺たち。一番乗りを目指さんとばかりに、ケインが子供っぽくはしゃぎたてる。俺は遠い目で一言。

 

「あいつ、やけに調子いいな」

 

 焦る必要性も感じなかった俺は、歩を早めるものの、ケインほどはしゃぎたてるわけでもなくサユリと共に向かう。

 小川近辺に辿り着いた俺は、和むような流れる音とそよ風を全身に受けつつ目一杯深呼吸をして見せる。それはまるで、現実世界の自然の恵そのもののように思えた一時であった。

 薄暗かった樹海から開けたこの場所では、小鳥たちが数羽、茂みから飛び立つのがよく見える。そんななか、近くでブヒブヒと嘶く声が聞こえてくる。気になった俺は、思わず声が聞こえた方へと視線を動かす。すると、近くにモスがいたではないか。

 

 (なんだ、モスか………)

 

 心の中で呟く俺の前、モスは何かを呑気に散策していた。暇潰しに進行方向を辿っていく。すると、いくつかのキノコが群生を為している箇所を発見。しかも、キノコの群生地帯には、一つだけ他とは異なる形状をしたキノコがあるではないか。

 

「おっ、これは」

 

 と興味が湧いた俺は、好奇心の赴くまま二人から離れてしまう。そして、俺が見た特異的なキノコと言うのは、まさしく――

 

 〝カボチャ(ジャックランタン)のキノコ″

 

 であった。と言っても、笠の部分がカボチャの形状をしたキノコと言うことだけになるのだが。

 歩み寄る中、ここで俺はあることを思い出しふいに警戒心を抱いた。ある程度距離を取り、いつでも抜刀できるよう柄に手を宛がう。一方、そんな俺をよそに、後方から二人の嬉しそうな声が聞こえてくる。

 

「きゃあー、かっわいー! 一匹、持ち帰りたいかも」

「こいつが。なんだかかうぇいな」

 

 何を見つけたのやら。二人の声を聞きながらふとそんな風に思った。半ばあきれつつも目の前のキノコに警戒心を抱いていた俺の傍ら、しまいにはガ―ガ―となんだかアヒルのような声まで聞こえてくる。どうやらケインたち、グークを見つけたみたいだな。そう感じた。

 ゆっくりとキノコに近づいていく。すると、わずかながら、キノコ自体、動いていることに気付く。案の定、こいつは間違いなくチャチャブーだ。そう確信した。柄に手を宛がいながら間合いを詰めていく。――とそこで、ケインがこちらの存在に気付いてか、気さくに声をかけてきた。

 

「おーい、ユウト。こっちにかうぇいヒヨコいるから一目見にこっち来いよ」

「あー、後でいく」

 

 すると、ケインは俺の臨戦態勢に気付いたのだろうか

 

「ん? 何身構えてんだ、お前?」

 

 と無用心にもこちらに歩み寄ってくるではないか。俺と俺の目線の先にあるキノコ。両方見比べた後、キノコ群のなかに変わったキノコがあることに気付いて興味を抱く。

 

「おっ、珍しいな、このキノコ。カボチャにそっくりな形しているじゃないか」

 

 そう言って無用心に近づく。俺は慌てて呼び止める。

 

「お、おい待て!」

 

 しかしケインは、俺の制止に気にも止めず

 

「えっ、何でだ?」

 

 とか言って、そのキノコに手を伸ばした。――とその直後、カボチャキノコを隠れ蓑としていたチャチャブーが突如として飛び出してきた。当然のごとく、ケインは

 

「うわぁ!?」

 

 と驚いて腰を抜かす。

 続けてグークを構っていたサユリまでもが、彼の驚き声に気付いて

 

「えっ!?」

 

 とこちらを振り向いた。隠れ蓑から飛び出した小人は、等身大ほどもある小柄な鉈を手に周囲を見渡す。そして、目の前のケインを、一番の標的である彼を見ることなく、どういうわけかサユリの方を見るなり、高らかに奇声を上げるのであった。しかもその奇声は、敵意を剥き出したものではなく、喜びそのもの。自分だけの宝物を見つけた子供のような興奮そのものであった。

 その小人ことチャチャブーは、その小さな足でちょこちょこと可愛らしくサユリの元へと歩いていく。一方サユリは、その様を見て思わず再び

 

「えっ!?」

 

 と言って戸惑ってしまう。

 しかし、鉈を持っていることはさておき、その可愛らしい容姿に、サユリは思わずなのか、おいでおいでと愛でてしまう。まさにその光景は、自分が知っている狂暴なチャチャブーではなく、メラルーやアイルーを愛でるみたいなものであり、なんだか和む光景、そのものであった。

 だ、大丈夫そう、だな。半分緊張した心持ちで見守る。一方、ケインはそうではなかった。鉈を手にしていることから、いつサユリに危害を加えるか分からない。危険だと判断していたのか、ここで堪えかねて注意喚起する。

 

「サユリちゃん!! そいつから離れるんだ!」

「ケイン………」

「ケインさん……」

「そいつは鉈を持っている。鉈を持った奴が可愛がられようとするはずがない」

「でも………」

「くっ!」

 

 見かねたケインは、そこでサユリに危害が及ぶ前に助け出そうと思ったのか、地を蹴って駆け寄る。俺は慌てて呼び止める。

 

「お、おい‼ ちょっと待てよ!」

 

 しかし、手遅れだった。

 

「このぉ!!」

 

 チャチャブーの横へと近づくや否や、今にも爆発しそうな爆弾を蹴り飛ばすかのごとく思いっきり蹴飛ばしてしまう。

 あちゃあ~、と思う俺の傍ら、

 

「さあ、今のうちに」

 

 と、彼女を手引きしてチャチャブーから離れるよう促す。しかし、サユリは

 

「でも……」

 

 とチャチャブーを気にかける様子。

 

「いいから、早くこっちに!」

 

 引き剥がすかのように手を引っ張る。一方、その様子を起き上がりながら見ていたチャチャブーは、そこで立ち上がるとまたもや奇声を上げた。しかも今度は、先程までの歓喜による奇声ではなく、その逆の感情。いわば敵意剥き出しの怒りの感情であった。今度ばかりは間違いなく襲ってくる。そう感じた俺は、柄に手を宛がい身構えた。

 動き出すチャチャブー。しかし、急には襲いかかっては来なかった。何を思い立ったのか、後ろ手にごそごそと探し出す。そして、その〝何か〞を思いっきり投げてきた。小さすぎてよく分からなかったが、念のために警戒する。直後、もわもわもわと白煙が大量に溢れでてきた。なんだ、なんだ!? 惑するケインたち。そんな彼らをよそに、周囲は瞬く間に白煙で覆われていく。

 そして

 

 〝来る″

 

 直観が囁いたその直後、三度目の奇声を上げてくると共に、鉈を振り回しながら奴は飛びかかってきた。予め警戒していた俺は、咄嗟に身を返してこれを交わす。

 もはやこうなったら討伐しかない。さっきまでの和んでいた光景を振り払って、抜刀。背後から斬りかかった。切れ味がある程度あったお陰なのか、それとも元から耐久性がそんなに高くなかったのだろうか。

 

 バシュー! ブシュー! 

 

 と幾度となく血が吹き出た。初撃でのけ反ったチャチャブーに立て続けにコンボを決めていく中、白煙の中からサユリの悲しげな声が聞こえてくる。

 

「やめて‼ やめてってば! 可愛そうだよ」

「ダメダメ。行っちゃあ、ダメだよ」

 

 二人の声が重なると同時に、白煙の中からチャチャブーの元へと行こうとするサユリを必死で説得するケインが姿を現す。

 

 〝これはまずい〞

 

 そう直感したその直後、チャチャブーの標的は、彼らに。それも、多分だと思うが、ケインの方へと向いた。

 そして――

 

 キィー!! キィー!! キィー!! &▲×◎▼♯!!!

 

 わけの分からない奇声を上げるや否や、鉈を振り回して突っ込んで行く。

 

「う、うわー!!」

「キャー!!」

 

 二人の叫び声が見事なまでに重なり合う。危険が二人に差し迫る中、俺は「このぉー‼」と気合い声を発すると共に、襲いかかっていくチャチャブーを背後から駆け寄り思いっきり蹴飛ばしてやった。すると、奇襲が成功したのか、当の奇面族はまたもや弧を描いて飛んでいき、未だに立ち込める白煙の中へと消えてしまう。

 

「さ、今のうちに」

 

 彼らを手引きして、急いで白煙の外へと脱出を試みた。その際、多少の名残惜しさをサユリは滲ませていたように見えた。

 白煙の外へと出た俺たち。周囲を見渡して、すでにさっきまでいたであろうグークの姿はどこにもいなくなっていたことにすぐ気付く。きっとさっきの騒動で逃げたのだろう。そう見てとった。

 一方、サユリもそのことに気付いたらしく、少し残念そうな表情を浮かばしていた。

 その後、一向にチャチャブーの再来が来ない中、さっきまで漂っていた白煙は次第に薄れていった。再び襲ってこなくなったことに対して不思議に思っていると、消え行く白煙の中から取り残されたであろうカボチャ(ジャックランタン)が姿を現す。きっと逃げたのだろう。ぽつんと置かれたままのカボチャを見てそう判断した。

 ほっと一息ついた後、そのカボチャに向かって一握りの石ころが投げられた。すぐ隣にはケインがいたので、彼だろうと思って尋ねる。

 

「ん、どうしたんだ? 石ころなんか投げて」

「いやあ、また擬態しているかと思ってな」

「それはないと思うぜ」

 

 そう言うと、おもむろに残されたカボチャへと歩み寄っていく。

 

「あっ、ちょっと」

 

 慌てて止めようとするケイン。警戒しすぎだなあと思う中、剥ぎ取りナイフを手にカボチャに触れた。何事もなくハギハギする俺の姿に安心したのか、これ以上、何も言ってこなかった。

 

 〝専用素材:ジャックランタン、を入手しました〞

 

 ハロウィン専用素材を手に入れたことを裏付けるメッセージが眼前に表示された。

 

「二人には悪いけど、先に専用素材貰っておくよ」

「大丈夫です、私は。また、グーク探せばいいだけですし」

「すまないな。さて………」

 

 再確認のために生態マップを開く。その様子を見るや、二人は俺のもとへと歩み寄ってきた。

 

「現在地はここだから、次は……ここだな」

 

 そう言いながら、ある一点を指差し、目印と言わんばかりに楕円を描く。目印として付けた場所。そこには塔のらしき建物が描かれていた。

 

「ここからだと大分距離あるな」

 

 と黙視で判断するケイン。一方、サユリは見覚えがあるのか

 

「この場所って……」

 

 と呟く。

 

「ああ、気球船で見た塔だ」

「そう言えば、確かに見かけたなあ。すっかり巨大樹に半分ほど飲み込まれていたけど」

「そうそう、それ。ここから距離あるけど分かりやすい次の目的地だと思ってな」

「なるほどねぇ」

「んー………」

 

 彼が納得する中、サユリはそこまでの道筋が気になったのか、指で道伝いに線を描く。見守るなか、彼女もまた道筋を理解したのか、やがて頷いた。二人が道筋を把握したことを受けて、

 

「じゃ、行こうか」

 

 と呼び掛け釣り場ポイントをあとにするのであった。

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