モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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4章:小さな狩人・3話

 入り組んだ根っこがそこらじゅうに蔓延り、それによって足元がおぼつかない中、生い茂る草木や蔓などを掻き分け出た先は、聳え立つ塔とその塔をうねるように取り巻く巨大樹を中心とした開けた場所であった。

 空を多い尽くすほど生い茂る木々と聳え立つ古びた塔とその塔を取り巻く巨大樹。こぼれ光が隙間から差し込み塔を照らすその光景は、気球船上では感じることができなかったくらいに神秘的なものであった。頂上を見上げても取り巻く巨大樹と他の木々に隠れて良く見えない。気球船上から見た感じでは、そこまで高くはないと思うのだけれども。なーんて推測していると、隣でサユリのため息が聞こえてきた。

 

「なーんかどこかの幻想風景と酷似してますね、この光景」

 

 それには何も答えなかったが、心のなかでは同感していた。首を二三度コキコキと鳴らせ、真っ正面にある巨塔の入り口を見据える。入り口はとても大きな、それも最大サイズのイャンクックよりも一回り大きな鋼の扉で閉じられていた。第一印象からして、力任せではとてもこじ開けれそうな感じでない分厚く重い扉だと見えた。

 閉ざされた扉の前に塔内の様子に対しすぐに興味をなくした俺は、塔とその塔を取り巻く巨大樹周辺を見渡す。

 

 (他には特になさそうだな)

 

 そう思いつつも、塔周辺散策すべく歩き出す。そうした中、先程の俺と同じく塔に対して。いや、実際には塔内部の様子に対して興味を抱いたケインが、固く閉ざされた扉の前に歩み寄っていくのを見かける。そして、扉の前に立つや否や大きな扉を見上げる。

 

「にしてもでけぇ~な、これ」

 

 手をそっと扉に当て、せーの! の掛け声と共に力強く押して見せる。

 

「ふぬぬぬぬぬぬぅ……」

 

 何度も何度も押し、その度に何度も何度も体勢を変えて無駄にこじ開けようとするその様。呆れた表情を浮かべて言ってやる。

 

「無駄だと思うぜ、それ」

 

 しかし、ケインは諦める様子は見せない。

 

「最後までやってみないと分からないじゃないか」

「やれやれ」

 

 無駄に頑張る彼に、かける言葉がなくなってしまう。そうした中、サユリもやはり気になったのか、扉の前へと歩み寄る。上から目の前まで目配せ、そして、腫れ物にでも触るかのように扉にそっと手を当ててみる。

 

「冷たい……」

 

 そうポツリと呟いた。――とその時、ポンッ! と機械的な効果音がなったかと思うと、彼女の眼前に何かしらの小さなアイコンが突然表示された。当然のごとく、サユリは小さく、きゃあ! と悲鳴を上げてすぐに扉から手を離す。一方、ケインは不思議そうに見てはいたが。俺は気になり歩み寄る。一見して、はてなマーク。何か特定の条件をこなせばイベントフラグが発生する。そういう意味のマークであった。

 

「どうも、ただ開かないだけの扉では無さそうだな」

「これは一体なんです?」

 

 心配そうな心持ちでサユリは尋ねてくる。俺はこのアイコンの意味について、さらっと告げる。

 

「そういう意味だったんですね」

 

 一方、ケインもサユリとの会話を少なからず聞いていたのか

 

「特定の条件というのは現地点ではわからないけど、それでも期待はできるみたいだな」

 

「まあ、期待、ねぇ~」

 

 ?アイコンの示す意味は必ずしも扉の開閉なのかどうかは不確かではあったが、それでもケインの期待には適当に答えてやる。

 

「さて……」

 

 気を取りなし、ここで生態マップを開く。一方、二人は合図したかのように、俺に向かって歩み寄る。二人にちらっと目線を送ってからこれからの道筋について語る。

 

「今、この辺にいるから」

 

 と塔を示す場所に指先を当て、そこから迷路地図をなぞるかのように軌跡を描いていく。

 

「……と、こんな感じになるかな。今後のルートは」

「にしても、改めてみて思うけど、道、ほっせぇな~」

「確かに。なんか迷いそうですね」

「しょうがないだろう。他は崖に阻まれて行けそうにないし。それに……、っ!?」

 

 そこで俺は、何かの気配を感じ不意に辺りを見回す。

 

 (この感じ……まさか殺意!?)

 

 俺は危機感を募らせ、身を構える。一方、俺の意図が読めていないのか、不思議に思った二人のうち先にケインは言う。

 

「どうしたんだ? そんなに身構えて」

 

 続けてサユリも

 

「何か潜んでいるんですか?」

「ちょっ静かに!!」

 

 ことの危機感から、俺は声を荒らげて二人を黙らせる。さすがの二人も、これには押し黙ってしまい、俺と同じく状況があまり読めていないものの、辺りを見回す。周囲をくまなく見渡すなか、向こうから突き付けてこられる殺意は、未だに衰える気配がない。まさにこの状況。天敵に狙われた獲物といったところであった。大変ヤバイ。ヤバすぎる。しかし、その気配の正体が掴めないのも事実。何か打つ手は。モンハンにかけての知識をフル回転させ、思考を巡らせ、そして、聴覚を最大限に研ぎ澄ます。残すものは高鳴る鼓動のみ。あとは、張り詰めた静寂が全てを支配する。

 

 ……

 

 十数秒単位の時間経過だけが、無常にも緩やかに過ぎて行った。

 

 (気のせい、……なのか~)

 

 もし、そうならばいいのだが。そう感じて来たところで、全身の緊張を徐々に研いで行く。そして、危機感は気のせいだったと判断しきった俺は、納刀したところで一息を着いた。一方、俺の様子を静かに見守っていた二人も、軟化した俺の態度を見て安堵の表情を浮かべる。

 

「もう、大丈夫? そう……」

 

 サユリが心配そうに聞いてくる。俺は前を向いたまま、

 

「多分、な」

 

 とだけ答えた。

 

「多分、かぁ。まあ、大丈夫、って事なんだな?」

「ま、まあな。あっ、でも……」

 

 そこまで言いかけて、ケインはすっかり気を緩めてしまったらしく、

 

「あ~あ、な~んだ。気のせいでよかった」

 

 とかなんとか言いながら、羽を伸ばしてしまった。――とそこで、

 

「きゃっ」

 

 とサユリが小さな黄色い悲鳴を上げた。俺たちは、何事かと思い揃って彼女の方を振り向いた。

 するとそこには、なんと――

 

 メラルー

 

 の姿が。

 しかも、驚いたサユリの傍ら、吹き出しアイコンが表示されており、そこには、ぬか喜びさながら皮肉にも

 

 〝肉球スタンプを2枚盗られました″

 

 と書いてあった。

 

「なあんだ。メラルーか」

 

 と拍子抜けするケイン。一方、彼女は

 

「なあんだ、じゃないです。早く取り返さないと」

 

 プンスカ怒り、すぐさま抜刀。……しかしそこで、躊躇ってしまう。思うに

 

 〝やーい、やーい。盗ってやったぞー″

 

 的な感じで喜ぶメラルーを相手に。いや、それ以前に、可愛いモンスター大好きな性分上、唐突に噴き出した斬りつけ難い思いが邪魔したからだと思われる。

 要するに、盗まれた物を取り返すには、システム上、その盗んだモンスター(この場合は、そのメラルーだが)を斬りつけ討伐という形をとらないといけない。そういう訳で、サユリは上段の構えのまま固まってしまい、くっ、と苦虫を噛むように渋い表情を見せながら、結局のところそのまま逃してしまった。

 溜めてた呼気を出し切る感じで脱力し、肩を上下させて荒い息をあげる。項垂れ

 

「やっぱり、私には無理でした」

 

 と悔しい思いを抱いたまま、弱音を吐く。俺としては、予めマイボックスに大事な物をしまっていなかったお前がそもそも悪いけどな、と思った。けど、盗られた枚数的に少なかったこともあり、ここはあえて言う気にはなれなかった。その代わり――

 

「まあ、ドンマイだな。でも、それがお前の優しさだよ」

「でも、盗られちゃったんですよ。素材」

 

 そこでケインが軽い口調で

 

「いいじゃないか、素材の一つや二つ。また、見つければいいんだし」

「でも……」

 

 すねる彼女に俺は共感して答える。

 

「悔しいのも分かるよ。確かに専用素材というだけあって、なかなか入手しづらい素材だからな」

「そう言われてみればそうかも。専用って書いてあるくらいだからな」

 

 少し考え、ケインが納得する。そして――

 

「でもよユウト。また、貰えるんだよな? ログボ(ログインボーナス)とかで?」

「一応な。でも、多分、枚数限られていると思うぜ。一般的な素材の入手経路とは違うから」

 

 それを聞いて、サユリはさらに一段と元気を無くしたのか、表情がかなり暗くなる。一方、ケインは彼女を元気付けようと励ます。

 

「そんな暗い顔するなって。まだ、生産できなくなったとは限らないからさ。それに、最悪の場合、俺のスタンプもいくらかあげるからさ」

「……ありがとう」

 

 今にも消えそうな小声で答えた。一方、そんな様子に見かねた俺は、ここで一つの案を出す。ため息をついて。

 

「でも、盗られた物を返す方法。なきしにもあらずだがな」

 

 それを聞いて、サユリが興味を抱いたのか尋ねてくる。

 

「えっ、それはどういうこと?」

「なきしにもあらず。……つまり、方法はあるってことだ」

「それ是非聞きたいです」

 

 しかし、興味を抱く彼女の傍ら、そこでケインが期待外れなことを口に出す。

 

「どうせ方法とは言え、結局、メラルーとかアイルー達を斬り伏せて、お宝、……てか、この場合はスタンプと言うべきか。とにかくそれを奪い返すってことだろう」

 

 それに同調して、サユリが

 

「えっ、そうなんですか? それなら別にいいです。斬るくらいなら……」

 

 しかし俺は、それには否定する。

 

「いやぁ、別に斬り伏せなくても、取り返せることはできるんだけど」

 

 さすがのケインも、

 

「えっ!?」

 

 となってこれには意外だなあと言った感じで驚く。と言うのも、斬り伏せる以外の方法なんて、ケインの奴、全然知らなかったらしいと思ったからだ。

 

「どんな方法なんです?」

 

 彼女の質問に、俺は端的に答える。

 

「最終目的地とは別の〝集落〞、そこに行くんだ」

 

「別の集落?」

 

 さすがに首をかしげるサユリ。ケインも続けて、彼女と同じく疑問符を浮かべる。

 

「もう一つあるってことなのか?」

「そうだ」

 

 俺はここでもう少し、具体的に付け加える。

 

「そう、別の集落。と言っても、実際にはゴミ捨て場なんだけどな」

 

「へぇ~」

 

 なぜかどこか納得するケイン。続けて

 

「っで、どこにあるんだ。そこは?」

 

 とサユリに代わって場所を聞いてくる。俺は生態マップを見開き二人に見せると、親指と人差し指を使って縮小していき、ややスライドしたところである一点を示した。その場所は、まさに最終目的地である集落から曲がりくねった小川を挟んで向かい側にあった。

 

「大体ここ、になるかな」

 

 その示された場所――そこには、大小様々な楕円がいくつも描かれていた。

 

「パッと見、岩場に見えそうなんですけど」

 

「右に同じく」

 

 第一印象を語る二人。俺はそんな二人を見て、その地形について考察してみる。

 

「特に目印になりそうなものはないけど、俺の知っている限りでは、メラルーに盗られたアイテムとかは、メラルーやアイルー達の集落に持ち込まれているはずなんだ。今回の仕様もそうだと確実なことは言えないけど。でも、今までモンハンしてきて、そう言った仕様が変わった例なんてなかったからな。そこだけは言えると思う」

 

 説得力あったのかどうかはさて置き、モンハンにかけての知識が豊富でない二人は、とりあえずそう言うもんなんだなあと頭に入れたみたいだった。

 

「でも、ゴミ捨て場というくらいなんだから、きっと見つかると信じてみようと思います」

「なんとも言えないけど、サユリが信じるなら俺も一応、理解しとくよ」

 

 二人はそう納得した。そして、生態マップに再び目を落とすと、例の場所から自分たちのいる塔の場所までの道筋を指でなぞり確認。

 

「じゃ、行こうか。取り返しに」

 

 情けない話ではあるが、俺たちはメラルーに盗られた物〝肉球スタンプ″を取り返しに、最終目的地の集落の対岸に当たる位置に点在するその集落へと、足を運ぶことになった。

 

 

 

 

 集落と言うかゴミ捨て場というか。その示された場所は、塔のあるエリアからそんなに離れてはなかった。と言っても、直線上で1キロほどあるし、道は所々曲がりくねっていたり足元が枝葉などでおぼつかなかったりしたものだから、辿り着くまでに30分から40分とかなりかかってしまった。

 しかし、実際に集落だと思われる場所の近くまで来ると、マップ上に示された通り、色々なガラクタが乱雑されているのが見えた。そして、所々、アイルー達の姿も。

 大きな岩に所々空洞があり、そこに何匹かのアイルーやメラルーが共同生活している感じが見て取れることから、ある意味その様は、俺が先に言った通り〝集落″に相応しかった。

 

〝盗られた物を取り返す″

 

 その為に来たとは言え、相手からしてみれば俺たち3人は部外者であり、外敵に変わりない。そう簡単に入れさせてくれるとは限らないが……。

 

「ここで様子伺っても、結局、拉致があかないぜ。さっさと取り返しに行こう」

 

「あ、ああ。そうだな」

 

 確かにこのまま集落の中の様子を伺っていても、埒があかないのは変わりない。それに見つかってしまっても、相手はたかがメラルーやアイルー。

 チャチャブーみたく凶悪な獣人族じゃないのだから、もし襲ってきたとしても、逆に蹴っ飛ばせば済む話だしな。なーんて、短絡的に考えに至った。

  けれど、サユリのことを思うと、ここはできる限り見つからず穏便に済ませたかった意図もあり……。

 

「じゃ、さっさと行って済ませてこようか」

 

「だな。ここに来た目的はそれだけだし」

 

 盗まれた物のありかに目星を立て、そして、出向こうとした矢先、どこからともなく、ニャオー、と猫が唸るような鳴き声が聞こえてきた。

 出かかった態勢のまま、

 

「ん!?」

 

 と、なり、隣にいたケインの方へと向く。

 

「何か言ったか?」

 

 すると、ケインは

 

「いや、何も」

 

 と、何も喋っていなかったらしく、素っ気ない返答をしてきた。それを受け、

 

 

 (そうか……。なら、気のせいかなぁ)

 

 とかなんとかそう思った。

しかし、それから数秒が経った後、またもや、どこからともなく、ニャオー、と聞こえてきた。

 今度こそ確かに聞いていた俺は、

 

「やっぱり気のせいじゃない」

 

 と呟き、辺りを見回す。一方、その様子を見たケインもさすがに気になったのか、俺と同じように辺りを見回し始めた。

 そうした中、後ろの方で控えていたサユリから、何かの合図をするかのようにトントンと肩を軽く叩かれる。

 

 どうした?

 

  と言わんばかりに、俺は彼女の方へと振り向く。

 

「あの~」

 

 何か言いたげそうな表情を浮かばせる彼女。俺はサユリが指指した先を見据える。すると、そこにはアイルーの姿が。それも、何やら毛並みを逆立て、威嚇している様を目にするではないか。

 あっちゃあ、バレてしまったかあ、と苦笑気味に表情を引きつらせ、何か起きたとしても別に大したことはないのかもしれないが、これ以上、刺激しないよう手振り身振りで宥めようと試みる。が、そこで、ケインがその状況に油をさしてしまう。

 

「あ~あ、結局、見つかっちゃたか」

 

 そして、徐に近寄ってしまう。

 

「よ~しよ~し、いい子だ」

 

 と言いながら、不用意に。一方、俺の隣では、

 

「ケインさん……」

 

 と無駄に心配するサユリの姿が目に移る。

 臨戦態勢になって威嚇し続けるアイルー。不用意に近づくケイン。両者の距離は徐々に縮まっていき――手を差し伸べた。

 ――と、その時、

 

 ニャッ!!

 

 一鳴きしたと同時に、手にしていた棍棒〝ねこ?ぱんち″で叩かれてしまう。

 

「あたっ!?」

 

 と驚き、思わず叩かれた頭を庇う。が、予想と反して全然痛くなかったのか

 

「って、あれ?」

 

 と疑問符を浮かばせてしまう。そして、頭をカリカリと掻きながら、

 

「痛くない。てか、寧ろ気持ちよかったような」

 

 などと感想を述べた。しかし、彼の眼前には、きちんと体力ゲージが表示されており、それもよくよく見ると僅かながら。それも目を凝らさないと分からないくらいだが、ダメージを食らったことを意味する赤ゲージがミリ単位で表示されていた。

 けれど、そんなことを全然気にしていなかったのか、或いは、気付いていないのか、ケインは続けて

 

「なんか、こーう、ふにゃふにゃクッションで叩かれたみたいな感じだったな」

 

 などとぼんやりとしながら呟いた。さらに、初撃がなかなか気持ち良かったのか、

 

「ユウトも食らってみるか」

 

 などと誘ってくる始末である。本来なら緊迫した状況なのだが、そうした空気をぶち壊す彼の言動。和む空気に強制的に変わろうとする中、

 

「いや、俺は別に、いいかな」

 

 と、遠慮しておく。しかし、彼女――サユリは違った。

 ケインの感想を受けてか、

 

「なーんか、一度でも体験してみたいかも。それに、手にしている棍棒、肉球が付いていて可愛い感じがする」

 

 と、述べるや否や、前に出た。

 

「おいおい、別に体験しなくても」

 

制止する俺。それをよそに、サユリはケインのところへと歩み寄る。半ば呆れた俺は、自然と肩の力が抜けたのか、ため息が溢れ

 

「まあ、いっか」

 

 とぼやいた。しかしその反面、何か大切なことを忘れているような。そんななんとも言えない感慨が頭に引っかかってしまう。

そうした中、度々聞こえてくる威嚇とも言える鳴き声。その度に叩かれる効果音。二人はその後も敵対するアイルーと戯れ続けるのであった。

 それから暫くして、本来の目的があったことにより、頃合いを見計らった俺は、二人に呼びかける。

 

「お前ら、そろそろいい加減に」

 

 交互に双眼鏡で使い合いマジマジと観察するケインとサユリ。観察しながら

 

「あと、もうちょっとだけ」

 

「私も、もう少し……」

 

 口々に名残り惜しそうに言う。はあ~、と軽く息を吐き、二人に本来の目的のことを話す。

 

「いいのか? 盗られた物、取り返さなくて」

 

 そこで、サユリはハッとなって思い出したかのか、

 

「あっ! そうだった」

 

 と立ち上がった。そして、隣で観察に夢中になっているケインに呼びかける。

 

「行きましょう、ケインさん。盗られた素材、取り返しに」

 

 しかし、ケインは余程アイルーの仕草が気に入ったのか、あと、もうちょっとだけ。あと、ほんの少し……などと、一向に止めようとはしなかった。

 そこで痺れを切らしたサユリは、

 

「もう、ケインさんったら!!」

 

 とか言うや否や、強引に双眼鏡を取り上げてしまう。反射的に

 

「ああ、ちょっと」

 

 と、今いいところだったのに~、とか駄々こねる子供のように不平を漏らした。

 

「さ、行きましょう」

 

「ちぇ~」

 

 ケインは渋々立ち上がると、サユリから双眼鏡を返してもらいウィンドウ画面を開くやさっさとしまった。

そして、未だに威嚇をやめないアイルーを尻目に、俺たち3人は集落の方へと歩き出した。

 ――と、その直後、後ろにいた二人が

 

「あ!?」

「えっ!?」

 

 同時に声を漏らしたかと思ったら、

 

 バタンッ!

 

 と倒れる音がした。

 

 なんだ?

 

 そう思った俺は、またかよ、とか思って呆れて振り返る。すると、そこにはうつ伏せになったまま身悶える二人がいるではないか。

 

「何してんだ? お前ら」

 

 問いかけに、二人は気合いで差し出した手を戦慄かせ応える。

 

「なんか急に痺れて」

 

「俺も……」

 

「痺れた? まさか~。……あっ!? そう言えば」

 

 そこで肝心なことを思い出す。が、しかし同時に、まさかそんな事って、と信じられない思いも過ぎった。と言うのも、アイルーが手にしている棍棒〝ねこ? ぱんち″だが、それはハンターが武器製作で手にする事もでき、性能として、モンスターに対してマヒらせる効果を有する。それを踏まえた上で、その武器で相手をマヒらせることができるのは、ハンターかオトモアイルーくらいしかできないと常識的に思っていたのだ。

 しかし、今、目の前にいる野生のアイルーがその武器を使い、実際にその武器特有のマヒ効果を発揮している。今回のゲームに限っての仕様なのかもしれないが、正直、これには若干、驚きを隠せなかった。

 そういうこともあり、俺は二人を安全な場所まで運ぶ羽目になった。とは言え、同時に二人を運ぶのは現実的に無理。なので、とりあえずはサユリから負ぶることにしたわけであるが……。

 

「ほら、負ぶるぞ。よいしょっと」

 

 ところがサユリは、男性に負ぶられるのが始めてなのか、あっという間に赤面顔になり

 

「わ、わ、わ、いいですよ。そんな~」

 

 マヒ状態で身動きが取れないながらも、心で遠慮がちに抵抗してしまう。

 

「遠慮すんなって」

 

「でも……」

 

 ここで赤面状態のまま口籠ってしまうサユリ。一方、この状況に便乗してか、ケインが調子こいて捲し立てる。

 

「ひゅーひゅー! カッコいいぞ、ユウト」

 

 それを受け、俺も彼女と同じく恥ずかしさが込み上げ

 

「おいっ、図に乗るなよ」

 

 と、必死に誤魔化そうとする。ほんと、他者どころか、ましてや異性を負ぶったことない俺にとってこの状況は、まさに恥辱そのものであった。

 また、ケインが捲し立てたことにより恥ずかしさに拍車がかかってしまったのであろう。サユリは俺の背に顔を埋め尽くすような形で、すっかり顔を隠してしまう始末である。

 後で仕返ししてやるからな、とか、恨みを残し、恥ずかしさを噛み締めながら、俺は近くの茂みへと走った。――が、そこでその茂みから、一匹のアイルーが姿を現わした。さらに悪いことに、点火状態の小タル爆弾を抱えて。

 特攻してくるアイルー。

 舌打ちした俺は、すぐさま避けようとする。が、彼女を負ぶっていたことにより、それが仇となって引き返すのに僅かな隙ができてしまう。

 結果、振り向きざま、自爆特攻してきたアイルーの爆発に巻き込まれ、俺とサユリは揃って吹き飛ばされてしまった。

 大タル爆弾と違って威力はそこまで大したことないものの、人間を吹き飛ばす程の威力は最低限持ち合わせている小タル爆弾のこと。4メートル弱飛ばされたところで、全身から煙が燻っている中、よろよろと体を起こした。そして、同じく爆発に巻き込まれたサユリの元へと這いつくばる感じで身を寄せる。

 体力ゲージを見た感じ、そんな大したダメージを負ってはいなさそうな印象を受けるが、一応呼びかけてみる。

 

「大丈夫か」

 

 すると、サユリは申し訳なさそうに言う。

 

「ごめんなさい、私の不注意で」

 

「いいんだ、そんなの。それより、俺こそ悪かったよ。まさかアイルーの攻撃にマヒ効果あるなんて思わなかったから」

 

 そして、周囲を一瞥する。いつの間にかではあったが、先まで二匹しかいなかったアイルーがもう数匹にも達していたことに気付く。

 すぐさま立ち上がって抜剣し、動けない二人を庇うかのように前に立つ。もはや、もう、こうなったら、真面目に戦うしかないと思ったからだ。いくら非力な獣人族とは言え、集団で来られたら、どうなるか分からない。身を引き締めて身構えた。

 一方、周囲にいたアイルー達は、相手が相手だけあってむやみに手は出して来なかった。その代わり、やっぱり警戒しているのか、威嚇はしていたが。

 張り詰める程ではないが、やや緊迫した雰囲気が漂う中、先陣切って匍匐全身で間合いを詰めてくる一匹のアイルーに集中。直後、地を蹴った後、一撃をお見舞いしてやった。

 

 ふぎゃー‼︎

 

 絶叫とも、悲鳴とも呼ぶ声と共に大量の鮮血がエフェクトと言う形をとって迸り、そのアイルーは、

 

 クルクルクルー、パタンッ! 

 

 と、何回か横回転した後、バタンッ、キュー、と目を回したのかそのまま倒れてしまった。

 そして、慌てて起き上がるや否や、地を掘り返し頭から穴に突っ込んで退散。後には何も残らず、こちらが危害を加えたことを引き金に、周囲にいたアイルー達は更に奮起しだすのみとなった。

 静まり返る中、集落周辺から、ブヒブヒ、と(モス)の鳴き声が聞こえてくる中、やがてこの状況にシビレを切らしたのか、3、4匹ほどのアイルーが手に持ったボーンネコピックを振りかざし、よちよちと突撃してくる。その愛くるしい姿に攻撃を一瞬だけ躊躇ってしまうが、雑念を振り払って出迎えた。

 間合いに入った直後、飛びかかってモンスターの牙が付いたピッケル状の武器――ボーンネコピックを振りかざす。が、俺は難なくそれを躱すと、斬りつける代わりに蹴飛ばしてやった。

 直後、

 

 ふにゃー‼

 

 と、これまた可愛い悲鳴を上げると、そのアイルーは放物線を描いて飛んでいった。一方、仲間をまたしてもやられてしまったアイルー達は、ここでヤケ糞になったのだろう。一斉に飛びかかってきた。

 だが、それは俺にとっては、無駄な足掻きでしかなく……。

 一旦納刀すると、居合の構えをとった後、再び抜剣し周囲を一閃。獲物を狩る紅き線が半円状に描き、そこに食らいついたアイルー達は、ギニャー‼︎ と悲鳴を上げるや血飛沫のエフェクトを伴って斬り飛んだ。

 俺は構えたまま次に備えつつ、ちらっと二人を見やる。手足は少しずつ動かせるようにはなってきてはいたが、麻痺状態から完全に立ち直るまで、もう少しかかりそうであった。

 一方、獲物を狩るがごときドスバイトダカーの一撃の餌食になったアイルー達は、その大半が瀕死の深手を負ったのだろう。地に穴を掘り、そのままその穴に逃げ込む形で姿をくらましてしまった。

 しかし、この一撃でいくらかアイルーの数を減らしたとは言え、危機? (なのかなぁ)は以前として去っていなかった。生き残ったアイルー達は、今度こそ総出で外敵を確実に対処しようと考えたのか。そのうちの一匹は、応援を呼びに集落に戻り、あとに残ったアイルーは、集落への侵入を防ぐべく武器を構え、無駄な抵抗するかのように立ちはだかったのである。

 一方、俺として。いや、俺たちは、なのだが、別に集落を荒らすつもりはなく、メラルーに盗られた物をただ取り返すだけなのだが、どうも方向は良くない方へと導かれつつあったことを悟り始めていた。そういうこともあり、ここは敵意がない意思表示を見せる必要があると考え納刀。降参を示すべく両掌を見せた。が、しかし、やっぱり仕様は仕様なのか、その意思表示は相手に届かず。結局のところ、応援が来るまでの間、立ちはだかっていたアイルー達の中から、再びボーンネコピックを振りかざし、よちよちと数匹が突撃してきた。

 落胆というべきため息が溢れ、この無駄な抵抗に気怠るさを抱いた俺は虚しさを感じ、もはや斬るまでもないと判断。仕方なく最後まで適当に付き合うかと攻撃を軽く交わしては蹴飛ばし、そして、再び交わしては蹴飛ばしてを繰り返し、そんな中で、いたずら半分に摘み上げては放り投げるなどして相手してやった。

 そうした中、その単純な作業に夢中になってしまったのであろう。集落の方からいきなり、ドンッ! と火砲が聞こえて来たのにハッとなって我に返った俺は、咄嗟に音がした方ーー集落の方へと向いた。

 するとそこには、一見して集落を取り巻く草花が咲きほこる柵が邪魔して見えづらくなってはいたものの、一台の戦車が見えるではないか。

 タイミングが遅かれそれに気付いた俺は、咄嗟に先までいた地点から飛びのく。が、直ぐに着弾しなかったことに不思議に思った俺は、そこで辺り一帯を警戒する。が、その直後、上空から風を切るような音が聞こえてきたため、思わず上を見上げた。すると、周囲の背景に溶け込んで良く見えなかったものの、何かが飛んでくるのを目の当たり。

 その〝何か″は、空中で花開くかのように四方に広がると、俺たちのいる場所へと襲い掛かってきた。

 

「ちっ」

 

 こいつはヤバイと判断した俺はそこで舌打ち。明後日の方へとダイブしようとした。だが、時すでに遅く。その〝何か″は、広範囲に覆い被さるように着弾。俺たち3人を飲み込んでしまった。

 

 (くっそ、油断した)

 

 奥歯を噛み締め、油断したことを悔やむ。が、そんな余裕なんてなかったことも自覚していたので、ここは気持ちを切り替え、手早くウィンドウ画面を開くや剥ぎ取りナイフを選択。俺たちを覆い被さる拘束網を解くべく、懸命にハギハギして絡む網を捌いていく。

 そうしなか、未だに麻痺状態から抜け出せない上、俺と同じ目に遭っていた二人は、心配そうに声掛けてくる。

 

「ユウト……」

「ユウトさん」

 

 俺は二人を安心させようと、それに応える。

 

「待っていろよ。今すぐここから……」

 

 だが、そこで俺は、もっと危機的状況を目の当たりにする。と言うのも、不意に視線を前にした先には、アイルー達の一匹が何かとてつもない物を持ち出そうとしていたからだ。

 

 (嫌な予感がする)

 

 背筋に悪寒が走る中、案の定、それは数秒の時を経て、皮肉にも的中する事になった。

 

 〝大タル爆弾″

 

 そのアイルーが地面から持ち出した物は、まさにそれだった。そして、その爆弾は小タル爆弾とは規模が違い投げ付けることが不可。ととのつまり、意味するところは、一つだった。

 

 〝特攻自爆″

 

 文字通り、そのアイルーは外敵排除のためなら自らの犠牲を省みず、俺たちに向かって点火までしだした大タル爆弾を持って突撃しようとしていた‼︎

 流石にこれはマズイ。いくら防具を強化したとは言え、大タル爆弾の爆発に巻き込まれれば、ただじゃ済まない。それも俺も含め誰か犠牲が出かねない。しかも、アイルーごときに。

 プライドが許せない上、死を間近にして焦った俺は、一刻も早く拘束網から抜け出そうと、さらに高速で網を捌いていった。だが、それも間に合いそうになくーーとそこで、他とは違った一匹のアイルーが、自爆特攻をしようとしていたアイルーの前に立ちはだかった。

 この信じられない光景に、俺は

 

「えっ⁉︎」

 

 となり、思わずキョトンとなる。そしてそれは、後ろにいる二人にも同じ光景を目の当たりにして、同じ反応を見せたに違いないだろう。立ちはだかったアイルーは、ちょっと待って、と言わんばかりに、両手を広げていた。

 一方、仲間の思わぬ妨害を受けて躊躇してしまったアイルーは、!アイコンを表示したまま固まってしまい、そのまま起爆。

 

 ドカーン‼︎

 

 と、火柱を伴って大爆発し、例のアイルー以外の他のアイルー達を巻き込んで自爆。さらには、近くでブヒブヒと呑気に散策していたモスまで巻き込まれ

 

 ブヒ――‼︎

 

 と、断末魔を叫ぶや一瞬で、豚焼きになった。

 爆発による影響で辺りが一変した中、命の危機から難を逃れ胸を撫で下ろした俺は、敵か味方か分からないそのアイルーをなんとも言えない思いを抱いたまま凝視。そのどんぐりシリーズを装備したアイルーは、眼前で燃えている光景を暫く見つめていたが、やがて何を思ったのだろうか。こちらに振り向いた。

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