ねこ地蔵を背に、結局はアイルー達によって縛り組みにされてしまう羽目になった俺たち。とは言え、大タル爆弾による〝爆死=キャンプ送り″はま逃れたのは、不幸中の幸いだった。それでも、ハロウィンイベント最中、こんな目に遭うとは思っても見なかったのは否めなかった。
(参ったな……)
ため息と共に肩を落とす。
「これからどうなるんでしょうか? 私達」
心細いのか、心境を吐露するサユリ。現状、どうすることもできなかった俺は、ただただ、無責任な態度で返す。
「さあな」
一方、ケインはサユリのことを思ってか。或いは、自分の身の保証を考えてか。いずれにせよ、食ってかかる。
「さあなって、そんな無責任なこと言うなよ。博識なんだろう? モンハンにかけては」
モンハンにかけての知識の豊富さだけは否定はしなかったが、立場的な状況を伝える。
「確かにある程度はそうだけど。けど、現状、今、何ができるって言うんだよ。それに爆弾で爆死しなかっただけでも幸いじゃないか」
それを言われ、ケインは弱腰になる。
「た、確かに。そうだけどよ」
そこで右隣にいるサユリに顔を向けると、そのまま話を振る。
「サユリちゃんはどう思うんだ?」
しかし、彼女は前を向いたまま何も答えず。ケインはそんな彼女に、再度、問いかける。
「サユリちゃん?」
そこで我に返ったのか、サユリはケインの方へと向くと、やや慌てた表情を見せる。
「あっ、はい。何でしょうか?」
話の流れどころか内容までど忘れしていたサユリ。俺的には〝聞いていなかったのかい″と軽くツッコミを入れるところなのだが、ケインとしては違ったようだ。やや、反応を鈍らせ困った表情を見せる。
「あっ、い、いやぁ、聞いていないなら、いいんだ」
そして、ボーとしていたことに対して気になったのか、別の話題に切り替えるかのようにそのことを聞いてみる。
「ところで、さっきボーとしてたみたいなんだけど、何か気になるものでもあったのか?」
すると、彼女は再びさっきまで気になっていたものの方へと視線を移行。しかし、その気になっていたものがいつの間にかどこかへと引っ込んでしまったのだろう。あっ、と小さな一声を漏らしたかと思えば。
「うんうん」
と、横に振り、何ごともなかったかのように応える。
「やっぱり、なんでもない。それより話の内容聞いていなくてごめんなさい」
謝る彼女に、ケインは
「いや、別にいいんだ。大した内容でもないからな」
そこで俺は、ボソッと小言でゴチる。
「大したことない、かぁ」
そして、内心、そもそも不安を口にしたのは、サユリからなんだけどなあ。とも、思った。
一方、縄でグルグル巻きに拘束されている俺たちの傍ら、数匹のアイルーやメラルー達は、一つの寂れた円卓を前に、身の丈にあった木箱を用い囲むように座っていた。何やら談話しているような感じではあったが、彼ら独特の言語なのか、にゃーにゃー、くらいしか聞こえず、何を話し合っているのか全く分からなかった。
けれど、例のどんぐりシリーズを装備したアイルーも参加していることから、きっと俺たちに関係することなんだろう。そう推測はできた。何を話し合っているのだろうか。やや、気になる中、円卓を囲む彼らの前に、一匹の一風変わったアイルーが現れた。 背筋が曲がっている中、杖をついてトボトボと円卓に歩み寄るその様は、一見して年寄りアイルーであり、貫禄漂うその様はどうやらここの長老みたいであった。
そこら辺の木箱に腰を据えると、長老アイルーは円卓に杖を預け、これまた何を言っているのか分からないネコ語で話しを始めた。そしてそのまま、俺たちには何を言っているのか理解できない中会談は続けられ、時には意見をぶつけ合うかのように威勢を見せたりしながら、理解不明な会談は続いていった。
暫くして、話し合いは一定のところまでまとまったのだろうか。各々のアイルーやメラルー達は席を立ち、会談は終わりを告げた。けれど、散り散りになる中、例のアイルーと長老アイルーだけはその場に残ることとなった。
そして、お互いどこか納得したような仕草を見せると、例のアイルーだけ、俺たちの方へと歩み寄ってきた。
「話し合いの結果、お前たちを解放することにしたにゃ」
それを聞いて、単純なことにケインがぬか喜びしたかのように期待を込め反応。
「おっ、だったら」
しかし、そこで釘を刺すかのように人差し指を立て言う。
「ただし、条件があるにゃ」
「条件?」
(一体なんの条件だろうか。てか、多分、解放するからには、ただじゃないとは思うけども)
なんとなくそんな憶測じみた事柄を並べてみる俺。そんな中、そのアイルーはもう少し具体的に述べる。
「そうだにゃ。解放する上での条件だにゃ」
「具体的には?」
詳細を聞き出そうとする俺。一方、そのアイルーはチラッとだけ長老アイルーの方へと向くと、その長老の頷きを見てから俺たちの方へと向き直った。
「単刀直入に言うと、依頼を受けることだにゃ」
「依頼? どんな?」
疑問を投げかける俺。アイルーは脇にぶら下げている筒に手を充てがうと
「具体的には、モンスターの討伐を受けて欲しいにゃ」
そう言うや否や、筒から一枚の布紙を取り出した。そしてその布紙を見開くと
「討伐?」
と、問いかける俺に、そのアイルーはこれまでのいきさつを語り始めるかのように口を開く。
「そう、討伐。ボクたちの住処を占領したモンスターの討伐を頼みたいにゃ」
「住処って、ここじゃないのか?」
「うんうん、全然違うにゃ。ここは、ただのゴミ捨て場にゃ。本来の住処は別にあるにゃ」
そこで言われてそう言えばと思い出す。と言うのも、この
本来辿り着くべき最終目的地。そこは確かに、地図上ではこの場所とは違った表記が示されてはいたが、確かに集落と呼べるに相応しい表記がなされていた。そう言うこともあり、俺はこのアイルーが言う本当の住処とは、そのことだろうと確信した。
そして、案の定、そのアイルーはその集落のことを指すかのように喋ってきた。
「具体的には、この場所から河を挟んで向かい側にある場所だにゃ」
そこでサユリも、俺と同じ考えに行き着いたのだろう。
「河を挟んで対岸にある場所って言ったら……」
続けてケインも、彼女に釣られて応える。
「確かにあったな。てか、たった今思い出したけど、そこって俺たちの最終目的地じゃあ……」
「俺もそう思っていたところだ」
一方でアイルーは
「なんのこと言っているのかわからにゃいけど、とにかくそう言うことだにゃ。さあ、どうするにゃ」
選択を迫る。とはいえ、縛り組みの俺たちには、選択肢なんてものはなかったこと。それにハロウィンイベントをこんなつまらない事で台無しにしたくなかったこともあり、俺よりも先にケインが返答する。
「どうするかって、受けるしかないじゃないか」
しかしアイルーは、疑っているのだろうか。俺たち3人の満場一致を確かめるかのように俺にも聞いてきた。
「お前はどうするかにゃ?」
「ふん、どうするも何も、右に同じくだな」
そして、サユリにも視線を向け。一方、彼女もやや緊張した怖持ちだったがそれに答える。
「わ、私も二人に賛成です」
3人分の意見を聞き、満場一致と見たアイルーはそこで鼻を鳴らすと、何を思ったのだろうか。長老に向き直る。二人の会話。猫語だけに何を話し合っているのか分からなかったが、話がまとまったのか、そのアイルーはこちらに歩み寄ってきた。そして、脇にぶら下げた筒から矢じりを取り出すや、矢じりを縄に当てがい、釘をさすかのように忠告してくる。
「これからお前たちを解放するにゃ。ただし、変な真似だけはしないことだにゃ」
仕方なしに俺は、気だるい感じで答えてやる。
「はいはい」
と。そして、矢じりを使って縄を解かれていく中、心中、ほんと、こいつ疑い深いなあ、と呟いた。
ドサッ!
俺たちを縛り付けていた丈夫な縄が音を立て解かれた。各々が立ち上がると、やっと自由な身になったことで久しぶりの安堵感と共に、心の翼を広げた。
二、三度首をコキコキさせストレッチ。――とそこで、ケインがついでに手を組み関節をパキパキさせると、冗談めかしてこれよがしと挑発的な態度を取り始める。
「さーて、どうしてくれようか」
いい気になってここぞとばかりに態度をでかくする彼。一方で先程までめちゃくちゃ警戒していたアイルーは、この冗談を間に受け武器を構えた。にゃうー、と唸り声を立て、長老を庇うかのように俺たちの前に立つ。そんな様子の中、俺はケインの肩に手を充てがう。
「よせよ、ケイン。冗談でもやめときな」
忠告され、ケインは愛想を浮かべると、彼は両掌を見せた。
「ははは、冗談だよ。悪かった、悪かった。もう、やめるよ」
そう言った後、アイルーの方へと向き直った。一方、アイルーの方は、その様子に今度こそ安心したのか、警戒を緩めた。
先程までの緊張感がなくなった後、アイルーは矢じりを筒に戻し、先程から持っていた布紙を両手で持って俺たちに見せる。さっきまでは距離的に離れていたため見えずらかったが、近くで見せてくれたので何を描かれていたのか今ならはっきりと分かった。
「では、早速だけど、先の話を進めるにゃ」
そう言って、布紙を地面に置き、自らも腰を据えた。俺たちも俺たちで、このアイルーと同じく腰を据える。そして、肝心の布紙には、刺繍を施された感じではあったが、ある種のここら辺一帯を示す地図が描かれていた。
小さくて可愛気な猫手で、ある一点に指を差す。
「ここが今いる場所だにゃ。そして――」
何を言いたいのか。そして、どの場所なのか大体分かっていた俺は、先制するかのようにある場所に指差した。
「ここだろう? さっき言っていた住処と言うのは」
すると、少し驚いた感じになって
「えっ⁉︎ どうして分かったにゃ」
「言うまでもないさ。だって俺も地図持っているから。それに集落と思える場所なんて、こことそこ以外、他に見当たらないからな」
そして、その台詞を裏付けるかのように、俺は指先で少しだけ縦に空を切ると、ウィンドウ画面を表示。例の地図――生態マップとやらを見せた。
「ほら、この通りに」
一方、アイルーは俺が差し出して見せた地図を、マジマジと見つめ始めた。さらに興味を抱いたのか、
「ちょっと貸してもらってもいいかにゃ」
「ああ、別に構わないが」
そう答えると、アイルーは地図を手に取って覗き込むように見入った。そして、ふむふむ、とどこか納得したような表情を浮かばせると、長老に向き直り見せてあげる。
アイルーから見せてもらった長老は、うーむ、これは……、と言わんばかりに顎をしゃくってそのアイルーと同じく納得したような感じになると、そのアイルーに何かを語りかけた。
やがて、アイルーは長老からの伝言を受け取ったのか、俺たちの方へと向く。
「確かに出来のいい地図だにゃ。これは返しておくにゃ」
そう褒めると、あっさりと返却。
「どうも」
と言う俺に、続けてそのアイルーは
「なら、話が早いにゃ。解放した条件として、その住処をモンスターから解放してもらうにゃ」
「まあ、内容によるけど、俺は全然構わないがな」
そう、内容。
本当のことを言うと、その内容――つまり、どんなモンスターを討伐することになるのかは、ここで聞いておくべきなのだが、その一方で、別な考えも脳裏によぎってしまい、結局、言い出せないでしまったのである。と言うのも、期間限定イベントだけに、どうせ大したモンスターなんていないだろう。危険を孕んでいるメインクエストではあるまいし。チュチャブーは例外としても、きっと大丈夫だろう。なーんて、奢り高ぶった考えが脳裏をよぎったからである。
そのこともあり、このまま話が進むだろう。一瞬、そう思っていた矢先、前者の考えを代弁するかのように、ケインがその討伐対象であるモンスターについて、心配そうに尋ねてきた。
「全然構わない、って。お、俺はそうはいかないぞ。どんなモンスターなんだ? そいつは」
そこでアイルーは、身振り手振りを混じえてて表現する。その様は、見たままを表現するかのように。
「えーと、体格はかなり大きかったにゃ。何せ大木がいとも簡単に破壊されてしまうくらいに。そして、特徴と言えば、四つん這いに歩き、悲しいことながら、うちで飼っていたモス達を丸呑みにしちゃったにゃ。そいつは」
そのことを聞いて、俺はさっき大タル爆弾の爆発に巻き込まれて豚焼になってしまったモスのことを思い出す。
そして、もしかして、あのモスはたまたまそこに居合わせていただけではなかったのか、とも思い、続けて、あのモスは
「四つん這い、丸呑み、ねぇ〜」
ぽつりと呟き、キーワードを並べてみる。自分の頭の中にある知識という名の辞書を幾重にもめくっていき、やがてあるモンスターの存在が浮上する。
「その様子からだと、何か知ってそうだな」
「まあな。大体、察しがついている。……アイツだな、間違いない」
そう、アイツ……。
小物の
「なんか聞いた限り怖そう。相手を丸呑みしちゃうとか」
不安を漏らす彼女に、俺は気休め地味た感じで語りかける。
「まぁ、そう心配するな。どのみち、きっと大したことないと思う。それにヤバイと思ったら、お前らだけ逃げても全然構わないしな」
「てことは、つまりアレか。リオレイアよりマシってことで」
「まぁな」
適当に返す。とは言え、100%ドスジャグラスだと言う根拠はなかったが。
「どのみち、そいつを討伐することが条件だにゃ。その感じだと承認してくれるよにゃ?」
そこでそのアイルーの眼前に画面が表示され、俺らに選択を迫る。どうするか決める中、その内容はこう記載されてあった。
【クエスト名】
大食漢のならず者
【依頼内容】
縄張り化したねこの巣の解放。
【報酬内容】
4000z、または、専用素材
「ん? 専用素材?」
疑問に思ったのか、ケインが口に出す。右に同じく、俺も依頼内容を見てそう思った。
専用素材と書いてあるってことは、きっと今回のイベント関係の素材なんだろうとは思うが。振り返って思い出してみると、考えられる要素としては3つほどあった。多分、残り3つのハロウィン専用素材のうちの一つだとは思うが。
しかしアイルーは、言われて提示した依頼内容を再確認すると、肝心の専用素材については
「ああー、これは達成した時のお楽しみだにゃ」
と、触れてくれなかった。それを受け、仕方ないので俺は承認することに。指先で〝受注しますか″の欄で〝はい″を選択しようとした。――がそこで、補足を入れるかのように言ってきた。
「あ、言い忘れてたけど、
「条件?」
「そ、条件。参加するに当たって、二人のみで参加してもらいたいにゃ」
「なんでだ?」
疑問符を浮かばせる。一方、ケインもケインで同じくそう感じたのだろう。
「二人だけって。討伐なんだから3人で行けば確実じゃないか」
しかしそのアイルーは、それを否定するかのように訳を話す。
「確かにそうかもしれないけど、そこには訳があるにゃ。一番の理由はクエストリタイアからの逃亡を防ぐためににゃ。僕も水先案内人で同行・監視をするけど、その方が確実だからにゃ」
「随分と疑い深いんだな、お前」
右に同じく、ほんと全くである。一方、アイルーは罵りを受けるかのように、卑下して言う。
「いくらでも言うがいいにゃ。で、誰がここに残るのにゃ?」
俺たち3人は顔を見合わせる。俺が行くのは確実だとして、あとはケインかサユリかのどちらかになるとは思うが。うーん……。
「俺が残ろうか。なんかお二人さん、仲良いしさ。それに実力を上げる上で――」
「おいおい。それ、どう意味だよ。まるで俺とサユリが特別な関係にあるような言い草じゃないか」
反論する俺。彼女とは特別と言う訳ではなく、ただの狩友として見ているはずだったのだ。それなのに
「だってよ。俺、何回か見ていたぜ。夜な夜な二人っきりになるところをよ」
「うぐ、そ、それは……」
ぐうの音も出なかった。彼の言っていることは、確かにそうだったからである。思い出してみると、それは確か二つほどあった。
一つはリオレイア討伐前夜。そして、二つ目は今回のクエストを受ける前日の夜だった。だが、この二つに関しては、どちらもケインが居合わせていなかった場面であり、特に前者なんかはマイホームでの談笑だったこともあり、直接は見られることはなかったはずなのだ。それなのに、何回も見ていた? とは。俺は思った。ただのハッタリなのかと疑って。だがしかし、俺がただ単に気が付かなかっただけで、彼の言っていることも本当のことかもしれない可能性だってあった。
それゆえ、ケインに対して、どこで見たんだ、それ。と、言い返す勇気がなかった。そうした考えが頭の中を駆け巡るなか、サユリの方へとちらっと目線を移動させた俺は、そこで彼女がほんのわずかに頬を赤らめていることに気付く。
「っ! まさか」
思わず言いてしまう。するとサユリは
「ごめんなさい。ケインさんの言っていることは、とうからず当たっています」
「え? てことは」
「リオレイア討伐前夜での談笑の帰り、そして、今回のクエストを受ける前日の夜での談笑のあと。どちらも彼に見られてしまいました」
なんてこったであった。しかし、だからと言って、より深い関係とかそう意味ではなかったこともあり、俺は弁解しにかかる。その際だが、多分、俺自身も顔を赤らめていたに違いなかった。なにせ、顔全体がほてった感じになったからだ。
「か、勘違いするなよ。俺とサユリは、そう言う関係じゃ」
「はいはい、分かった分かった」
適当な返事。俺は半信半疑で疑いにかかる。
「本当に分かったのかよ!」
「分かっているさ。そりゃあ、俺とおまえの仲だろう? 無駄に疑ってどうするん」
「うーん、それは……」
口を紡いでしまう。確かにこれ以上詮索しても仕方なかった。一方、俺たち3人のやり取りをずっと見ていたアイルーは、そこで埒が明かないと感じたのだろう。痺れを切らして
「で、どうするにゃ? ずっと聞いていても話が全然進まない感じだし……」
俺たち3人は、改めて言われて再び顔を見合わせた。
「どうするって……」
呟く俺。互いに探り合う中、そこで何を気遣ったのだろうか。サユリが意を決して申し出る。
「私が残ります」
「サユリちゃん……」
とケイン。俺は何も言えなかったが、彼は言った。
「本当にいいのかい?」
「うん、それでいいです。このままだと話が進まないし。それにさっき気になっていた物があったので」
「気になるもの?」
一体なんだろうか? ふと、そんなことが頭の中によぎる。色々と考えてみるが、しかし――
「まあいいや、それは。なら、決まりだな。ケインもそれでいいよな?」
「う、うーん。まあ、サユリちゃんがそう言うなら」
そこで
「どうやら話がまとまったみたいだにゃ」
「まあな」
そう言うなり、先ほど表示されていた選択肢の画面。そこで俺はクエスト受注を選択する。
※
2人がクエストに出発してからどのくらい経ったのだろうか。木箱に腰を据えていたサユリは、そこですくっと立ち上がった。ゴミ捨て場と言うくらいだから何か落ちていないはずがないのかもしれないが、それでもあまり期待感を抱けるような感じにはなれなかった。
けれども、希望としてはここに来る前、メラルーに盗られてしまった
しばらく散策する中、所々アイルーやメラルー達が共同生活しているところがちらほら見られた。気軽に生活を覗いてみたいとも思ったけれども、どのみち彼女は部外者。ここは変な真似だけは慎まなければならず、今、こうして散策しているのも、彼らに対して怪しまれる行動になることには変わりなかった。とは言え、このゴミ捨て場は想像していたよりもわずかばかり広く、道端のあちらこちらでどこから持ってきたのだろうか。種々雑多な道具類が散乱していて足元がおぼつかない感じではあった。
そうしたなか、できるだけ目立たずゴミ捨て場を半周してきたサユリは、そこで隅に寄せられたガラクタを発見した。色んなものが散乱していた中、その場所だけ集中してかき集められたような感じで集うガラクタ。サユリはその場所に興味を抱いたのか、歩み寄った。すると突然、近寄ったことに反応してか!アイコンが表示されるではないか。
塔を前にした時も同じように表示されたアイコンだったこともあり、彼女はその場所に何かあるに違いないと、周りを気にしながらもガラクタを搔き分けるように漁り始めた。できるだけ音を立てずに漁る中、吹き出しアイコンが表示されては、
〝何もありませんでした″
と言った落胆させるようなメッセージが流れた。何回か漁る中、サユリはついにため息を漏らす。
「やっぱり、あるわけないか〜」
ポツリと呟いた。でも、ユウトが言うには、大体あるはずだとのこと。モンハンにかけて知識豊富な彼のことだから、もう少しだけ粘ってみよう。そう思い、あと3、4回ほど我慢して漁って見た。すると、ちょうど3回目にして表示された吹き出しアイコンのメッセージが変わったのを目にする。吹き出しメッセージはこう書かれていた。
〝何か見つけました″
まさか。そう思ったサユリは、すぐさま画面を表示して、入手した内容を確かめる。すると、案の定、そこにはメラルーに盗られていた専用素材〝ジャックランタン″があるではないか。
「よかった〜。これで」
盗られた物が取り返せた。心の底から安堵する。そして思った。ここにはもう用がないから、さっさと立ち去ろう、と。いつまでいても仕方ないとそう考えたサユリは、そこで立ち上がった。――がそこで、
にゃお〜‼︎
近くから猫の唸り声が聞こえてきた。それも、ここに来る直前にバッタリと出くわしたアイルーの威嚇を意味する唸り声だった。このことを受け、サユリはハッとなり、しまったと感じてそちらに向く。
するとそこには、2匹の獣人族――アイルーとメラルーがいた。それも、ちっちゃなモス、3頭を連れて。
その3頭は、ぶっ、ぶっ、ぶっ、と可愛らしく鼻を鳴らしながら、地面をほじくり返したり、はたまた、雑草をしゃぶったりしていた。が、彼女の存在に気付くと、地面を嗅ぎながらこちらへと向かってきた。一方、モスを飼いならしていた2匹の獣人族は、そんな無警戒かつ無邪気なモスに、慌てて呼び止めようと抑えにかかる。
けれど、小さいとは言え、体格的には2匹の獣人族の半身ほどもあったことにより、2匹で一頭を抑えるのに手一杯。案の定、2匹はサユリの元へと来てしまった。
そして、サユリの足元に来るや否や、ぶっ、ぶっ、ぶっ、と鼻を鳴らしながらスリスリと身を寄せてきた。一方、このことにより、サユリはこの2頭はきっと自分に懐いたのだろうと感じ、好意からかその場でしゃがみ込んでしまう。
「かっわい〜!! よーし、よしよしよし……」
言いながら優しく撫で回す。その際、気付いたことだが、背に僅かばかりの苔が点々と付着しているのを目にする。サユリは思った。そう言えば、モスの背には苔がびっしりと生えていたような、と。わずかばかりの豆知識ではあったが、そんな気がした。そして、そこから察するに、この子たちはもしかして、モスの赤ちゃん――モスベイビー(勝手な呼称だが)ではないのだろうか、とも。
そう思ったら、ますます母性本能がくすぐられたのか、彼女はそのうちの一匹を抱きかかえ、頬にすりすりっと愛でてしまう。
一方、小さなモスの方は、相変わらず嬉しいのかそうでもないのか、ぶっ、ぶっ、ぶっ、といつものように鼻を鳴らすだけで、特に暴れるような様子はなかった。
モスの赤ちゃんを盗られたことを勘違いし憤慨している2匹の獣人族をよそに、サユリは頬をすりつける以外に、全身マッサージ見たく、もみもみもし出す。そしてその感触と言えば、まさに柔らかクッションを揉んでいるかのようにぶよぶよしており、とても美味しそうなお肉を揉んでいるような感覚を覚えた。
そうしたなか、ふと、モスベイビーの尻尾を見た彼女は、このバネ状にくるっと巻かれた尻尾に、もしや、と気が付く。と言うのも、この尻尾の形状。長老アイルーが立ち会いの元、ユウトとケインが例のアイルーと会話している際にふと気になったものであったからである。
つまり、サユリが気になって見入っていたものとは、このモスベイビーの尻尾のことであった。
「どうりで」
辻褄が合ったのか、自分で納得する。
「……にしても、この感触。たまらな~い」
揉んでいるうちにすごく気に入ったのか。彼女は抱き枕のように、抱きついてしまった。一方、そのモスを愛でる様をずっと見ていた二匹の獣人族は、やがて敵対関係じゃないことに気付き始めて来たのだろう。唸り声は自然と消えていった。そして、モスを愛でるついでにちらっと2匹の獣人族に目線を映したサユリは、抱えていたモスを下におろすや、こっちにおいで~、と言わんばかりに誘う。すでに警戒心が解かれていたアイルー、メラルーは、共に顔を見合わせると、そのうちのメラルーが率先して、彼女の元によちよちと歩み出て行った。
このあと、少し間を置いて、アイルーの方もサユリの虜になってしまうわけだが、その波及は、集落全土へと広がって行くことになるとは、彼女も含めて誰も知る由もなかった。