川辺沿いに歩くこと数十分。心地良く和む水流の音と小動物の鳴き声に身を馳せながら、俺とケイン。そして、水先案内役のアイルーの3人は、揃って目的地のネコの住処へと目指していた。
ゴミ捨て場からここまでの道のりは当然のことながら整備されてなく、道中、茂みを掻き分けながら進んでいたため、多少、苦労する羽目にはなった。だが、一旦、川辺沿いに出た今、邪魔な障害物はこれと言ってなく、それまでの苦労が嘘のように歩きやすくはなっていた。とは言え、完全に障害物がなくなったわけではなく、道中、倒木した木々に邪魔されることは少しはあった。
まあ、今までのことを振り返れば、一番苦労したのは俺とケインの前に歩いているアイルーくらいだろうとは思うが……。
何せ、草木に絡まれ毛並みがボサボサ。所々、体中に枝葉がこびりついていたからである。
「もう少しで着くはずだけど、道中険しかったから、大丈夫だったかにゃ?」
「俺たちは大丈夫だけど。てか、それはこっちの台詞だな。お前こそ大丈夫なのか? 全身ズタボロだぞ」
NPCを気遣うのも変だが、あまりにも見た目がボロボロになっていたので、不思議と気を使ってしまう。しかし、当のアイルーは、見た目なんかには頓着しなかった。
「このくらいは何ともないにゃ。あの時に比べれば」
「あの時……?」
ケインがそれに返す。
「そうだにゃ、あの時だにゃ。今回の討伐対象になっているモンスターが自分達の住処を奪った時だにゃ」
「それを言うと言うことは、トラウマになっているんだな。どのくらいかは具体的には分からないけど」
すると、そのアイルーは近くにあった丸太に腰を据えた。そして、遠い昔を思い出すかのように、上の空で語りだす。
「あれは、大体今から一週間と三日くらい前になるかにゃ。ちょうどその頃、自分は雇い主であるハンターから捨てられ、同族たちに保護された時だったにゃ」
語りだすアイルーに、俺とケインもアイルーが腰を据えている丸太に同じく腰を据える。その中で思う。きっとこのアイルーが言うハンターとは、多分、プレイヤーのことなんだろうと。
「そんで」
続きを聞く俺に、アイルーは再び口を開く。
「元々人間暮らしに慣れていたこともあって、最初はなかなか馴染めなかったにゃ。でも、自分に気遣ってくれる同族達のおかげやそこで飼い慣らしていたモスやグークとも親しくなっていくにつれ、自然と仲良くなっていったにゃ。だけど……」
そこで表情に影がよぎる。それはまさに、楽しかった人生が逆転したかのように。
「そこに奴が来たにゃ。それも突然に」
単なるNPCとは思えない、感情の籠った仕草でこぼれおちる涙を拭い
「雷の如き奴の襲来によって住処は一瞬にして壊滅。……同族たちは奇跡的にも全員無事だったけど、……ひっくっ! ……そこで飼いならされていたモスやグーク達は食べられてしまったにゃ。ぐすんっ」
「うぅ……なんと哀れな」
同情してか、そこでケインが涙ぐむ。
「おいおい、泣くことかぁ?」
話を聞けば可哀想だけども。あくまでそう言う設定だろう、設定。ケインとは違い、合って間もないこのアイルーに対しては、共感はできるかもしれないが同情までとはいかなかった。
そんな彼をよそに、このアイルーは続けて語る。
「そんで命からがらあのゴミ捨て場まで逃げて来れたけど、いつか必ず、みんなで住処だけでも取り返したいと願っていたにゃ」
「なるほどねぇ。わかったよ。よーくわかった」
二の腕を組み、気持ちを察する。一方、俺はそんな彼を見てか、この際、仕方ないなあと思った。と言うのも、当初は、ただ単にメラルーに奪われたジャックランタンをただ取り返すだけだったからである。まさかこのアイルーのそう言った事情を詳しく知ることになるとは、束縛されていた時に聞かされ分かってはいたが、ケインがこんな風に同情してしまうとは思いもよらなかった。――が、
「ところで気になったんだけど」
俺はそこで、話を切り替える。
「なんだにゃ?」
こちらを向くアイルー。
「ゴミ捨て場へと逃げて来たって言ってたけど、あの場所は、本来、なんだったんだ?」
それを言ったことで、ケインも同じく気になったのだろう。
「そう言えば、確かに……」
と、気になりだす。しかし、当のアイルーは
「うーん、そのことについてだけど、ボクも実はよく知らないのにゃ」
言われて
「えっ!? なんだよそれ」
拍子抜けたような表情を見せるケイン。俺もまた
「おいおい」
と、腑に落ちない気持ちになる。ゴミ捨て場で集団生活するくらいなら、その場所のことくらい知ってるはずだと思ったのだが、これには意外だった。続けてそのアイルーは、言い訳っぽく言う。
「だって、今の今まで関心なかったにゃ。ゴミ捨て場の本来の意味なんか。でも……長老なら何か知ってるかも知れないにゃ」
「長老、ねぇ〜」
確かに長老と言われるくらいなら、何か知ってそうな気もした。それに話を聞く限り、このアイルーは元々オトモアイルー。最初からその場所に住んでいる訳でもなかったことにより、無理もないか。そう考えた。
「まあいいや、その話は。っで、話変わるけど、互いに自己紹介、まだ、してなかったな。多分、表示されているから分かると思うけど、俺はユウトな。で、こっちが――」
会話を遮るように、ケインは友好的に屈託な笑みを浮かべて手を差し伸べる。
「ケインだ。よろしくな」
小さな猫手が彼の掌に包まれる。
「……ミルクにゃ」
少しだけ抵抗感あったのか、弱々しく自己紹介する。一方知ってか知らずか、ケインは冗談交じりで返す。
「牛乳?」
釣られて
「そうにゃ、牛乳にゃ。……って、そう意味じゃないにゃ!」
「じょ、冗談だよ」
「全くもー」
謝罪するケインに、ミルクは名前を弄られたことに少しだけ憤慨した。
「名前の捉え方だな」
ミルクに聞こえないよう、俺はポツリと呟いた。
「ところでよぉ。前々から思ってたけど」
何を思ったのか、そこでケインが話を変えてくる。
「あの時、なんで俺たちを助けたんだ?」
「あの時?」
小首を傾げるミルク。その様子から、聞かれて心当たりがなさそうみたいだった。このことにより、ケインは具体的に話す。
「あの時だよ。俺たちがお前らに撃退されてた時」
そこであの時の意味を知ったのか、ミルクは相槌を打つ。
「あー、あの時かにゃ。あ、アレは……」
言いづらいのか言葉に詰まってしまう。だが、視線をずらしながらも、勇気を出して訳を話す。
「が、外敵じゃないと感じたからにゃ」
「と言うと?」
「ボク達の接し方というか何というか……」
途切れ途切れに話すミルク。何を言いたいのか何となく理解した俺は、彼女の代わりに応えてやる。
「好意を抱いた。そういうことだろう?」
「そ、そうだにゃ。好意、好意を抱いたからにゃ」
その通りだ。そう言わんばかりに答えた。一方、顎をしゃくり出したケインは、どこか意地悪っぽい笑みを浮かばせる。
「なるほどねぇ〜」
その表情を見たミルクは
「なんだにゃ? その怪し笑みは?」
「いや、別に〜」
「?」
疑問符を抱いた俺も、彼が何を思って悪戯っぽい笑みを浮かべたのか理解出来なかった。しかし、ミルクはそこで何かを察したのだろうか。
「あっ、もしかしてからかっている?」
だけどそこは、誤魔化すかのように明後日の方へ口笛を吹くのみだった。一方、ミルクは彼の態度に疑いを抱いたのだろう。ジー、と見透かすかのようにジト目で睨みつけた。だが、本心を晒せそうもないと思ったのか
「まあ、いいにゃ」
と、諦めた。
「とりあえず、そういうことにゃ。ボクがキミらを助けた理由は。だから感謝するんだにゃ」
「了解」
「へいへい」
「ん? なんだそのふざけた返事は」
「いやぁ、なんでも。了解だよ、了解」
「全く〜」
しょうがないなぁ。そんな感じを見せた。そうしたやり取りの中、俺はふと立ち上がった。自己紹介も形だけだが終わったことだし、再び住処とやらに向かおうか。そう思い歩き出した。――とその時、俺はふと何かの痕跡を見つける。
ん?
多分、ドスジャグラスの痕跡だろうか。そう思い歩み寄った。そして、よくよく近くで見ると、鋭い3本線が刻まれており、その様は何かを強く引っ掻いた痕にも見える感じ。そんでもって、その刻まれた箇所の真ん中には、なぜか何かの被り物が置かれてあるではないか。
なんだろうか?
夢中になる俺。その様に気が付いたケインは声をかけてくる。
「ん? 何か気になるものでも見つけたのか?」
「ん、まあな」
適当に返す。そして、剥ぎ取りナイフを手にした俺は、そこでその謎の被り物にナイフを突き立てた。スコップでほじくり返すかのように剥ぎ取ると、スコップから実際に手に取ってみた。表示されたメガネ虫アイコンを宙でタップし、何の素材なのか調べ上げる。するとそこにはあるメッセージが表示され、俺はやっぱりなと感じた。と言うのも、そこに書かれていたメッセージには
〝獣人族の冠〞
と遠からずもそう書かれていたからだ。名前から、そして、ジャックランタン風な被り物のような見た目からして思うに、これはチャチャブー。そう推測したからである。
「被り物みたいな素材だな、それ」
「みたい、じゃなく。実際にかぶり物だ。それも恐らくチャチャブーの」
そこで心当たりあるのかないのか、ミルクは考察を踏まえてくる。
「それはおかしいにゃ。住処に暮らしていた時はいなかったから」
「え⁉︎ それはどういう」
ケインの疑問。右に同じく俺も耳を傾け、ミルクは続けて訳を話す。
「だって、住処に暮らしていた時なんか、周りを散策してもチャチャブーに限らずそう言った外敵の気配なんてなかったからにゃ。それにドスジャグラス 襲来した時も同じく」
うーん……。
少し推測してみる。あれこれと思いつく限り考えてみるが、これだなあと思ったのは一つしかなかった。そう、それはーー。
「考えられる要素としては、多分、ドスジャグラス 襲来後の可能性があるな」
「てことは、奴に着いてきたってことか?」
「どんな風に着いてきたかは分からないが、恐らくその線が有力だろうな」
そのことを聞いて、ミルクは気怠さを滲ませる。
「ドスなんちゃらだけでなく、他にもそいつがいるってことは……はぁ、なんだか前途多難だにゃ」
「なんでお前がため息を漏らすんだ? 実際に戦うのは俺とケインだけなのに」
「確かにな」
ケインも同意見とばかりに頷く。一方、ミルクはその訳を愚痴のように語る。
「そんなことないにゃ。実際に討伐戦になれば、どのみち巻き込まことは明白だにゃ。それにいくら水先案内役とはいえ、君たちに任せっきりにする訳にはいかないにゃ」
「随分と優しいんだな」
とケイン。しかしミルクは反論する。
「勘違いするにゃ。お前たちだけじゃ頼れなさそうだから手を貸すだけだにゃ。それに、これは住処を奪われた復讐でもあるし」
「へぇ〜」
「へぇ〜とはなんだにゃ」
「いや、別に……」
訳を話さないケイン。俺もミルクと同じく彼の意図が読めなかった。あまり気に留める会話じゃなかったこともあり、痕跡の採取を終えた俺はそこでスッと立ち上がる。二人に向き直って
「じゃ、早速、行くか」
「えっ、もういいのか? 調査の方は?」
「まあな。痕跡調査というものは、その痕跡がどんなモンスターなのか、それが分かれば十分だし」
「そっか」
そっけない返答。俺は剥ぎ取りナイフを仕舞うと、二人を連れてドスジャグラスを追って住処へと向かった。
ミルクの言った通り、例の住処とやらは散々たる様になっていた。それは生態マップで表示された目印から察するイメージとは180度真逆の光景。マップ上では、きちんと整然された建物ーーいや、遺跡と言うべきか。その遺跡とやらが立ち並んだ感じで表示されていた。が、実際には、何もかも破壊され尽くされ、まともに原型が残っていたものは皆無に等しかったからである。
唖然とする中、俺たちの心境を代弁する形でケイン吐露する。
「なんじゃ、これは」
散らかり放題の瓦礫。その中から、一欠片を俺は手にとってみる。掌サイズに収まるその一欠片のオブジェクト。多方向から色々と観察して思う。極端な話、単なるデータの塊にしかならないその一欠片ではあるが、デジタル式の感触からして確かに伝わってきた。
そう、……これはまるで岩石のように、簡単には破壊できそうにない
と。
つまり、俺の導き出した推測の答えはこうだった。大抵の大型モンスターは簡単には遺跡などのオブジェクトを破壊は不可能。そこから察するに
〝G級クエストに出現する大型モンスターに匹敵するような特大サイズの
はずだと。それを裏付けるかのように、俺は前方を睨みながら呟く。
「やな予感がするな……」
苦戦は間逃れそうにない。そう感じていた。一方、そのことを知る由もないケインは、破壊された遺跡群を改めて見渡すと
「暴れっぷりもほどがあるよな」
と端的に感想を漏らすのみ。
「さーて、面倒な依頼、とっとと終わらせてこようぜ」
そう意義込んだ。一方、そんな彼に俺は念を押してやる。
「でも、油断すんなよ」
「勿論だとも」
そう言うやケインは遺跡に足を踏み入れて行った。相変わらずな陽気な性格。いやな予感がする中、ため息を漏らすと彼に続けてミルクと共に歩き出した。
しばらく住処と言う名の遺跡群を歩いていると、どこからともなくモンスターの鳴き声が聞こえてきた。そして、タイミングを計ったかのように、物陰から数頭の小型モンスターも現れる。
俺は遠目からそれを確認すると、手をかざしケインとミルクに〝待て″の合図を送る。
「鳴き声聞こえていたから、居たのか? そいつ」
その場でしゃがみ込む俺と同じく、彼もまたしゃがみ込んでそう尋ねる。
「ああ」
そっけなく応える俺。そしてその目先には、よくよく見るとトカゲのような体色と体形にて、四足歩行でのそのそと歩くモンスター――ジャグラスが数頭いた。
視認した俺は心の中で、やはり、思った通りだ。と呟く。
「どれどれ、俺にも見せろよ」
脇からズイッと顔をのぞかせるケイン。奴らにバレそうになったので、俺は慌てて制止に入る。
「おいっ、ちょっと」
さらにミルクも様子が気になるのか、ケインの隣にて匍匐して覗き見る。
「まあ、いいじゃないか。ちょっとくらい」
「ちょっとくらい……って、俺の肩に体重かけんなよ」
俺の肩に体預けやがって。怨嗟の思いがこもる。――が、彼はそんなことはお構いなしと言った感じに、見るのに夢中になっていた。
「あれが、例のアレか。ドス……なんちゃらというのは?」
「ドスジャグラスな、ドスジャグラス。それにあいつらはそいつの下っ端。ジャグラスだよ、ジャグラス」
「なるほどね。……にしても、よくよく見ると小物だけしかいなさそうだな。で、なんでこう隠れたりするんだ?」
「それ、知りたいにゃ」
2人して、こう隠れる理由を知りたがる。俺は向き直って訳を話す。
「ジャグラスが数頭、あそこにいるだろう? てことはだな。
そこでケインが、うーん、と言いながら想像を駆け巡り合わせる。そして、
「確かに。群れがいるってことは、その親玉もいるよな。うんうん」
「だろう」
ところが
「でもよ。パッと見た感じ、その親玉とやらはいなかったぞ」
「今はな、多分」
遠くから視認しただけで、そこにいないと言う確証はなかった。むしろ影に隠れて見えていなかっただけかもしれないが。
「多分て……。ま、いいや。ともかく、人狩り行こうぜ、早速」
言うや否や彼は立ち上がる。しかし俺は、いやな予感もあったことにより、再び彼を制止させる。
「おいおい、待てって。そんな安易に」
「いいじゃないか。もう、俺自身もジャグラスくらいの小物相手にビクつくようなレベルじゃあるまいし」
「それはそうだけどよ……」
何というか。どう説明すればいいのか考えがまとまらずにいた。どの道、ジャグラスに攻撃すれば自ずとドスジャグラスを相手にしないといけないことには変わりないが、問題はそのドスジャグラスがどれほどの脅威になるか分からなかったのである。と言うのも、簡単には破壊できないはずの遺跡郡を、いともたやすく破壊の限り尽くしたから。
いくら大型モンスターとは言え(ドスジャグラスはどちらかと言うと、普通は中型モンスターの部類にはいるが)、遺跡郡だけに限らず、そう言った
もしかして、俺たちが相手にしようとしているのは、今まで見たことがないような規格外のサイズを誇るドスジャグラスではないのだろうかと。
そうしたなか、ケインは俺のことを気にかけて
「ん!? 何か問題でもあるのか?」
「なんか、んーなんと言うか。こーう、嫌な予感がするんだよな」
「そうか? お前にしては珍しいなあ。相手はただのジャグラスだぜ」
「そうだけどよ……ん?」
そこで俺は気付く。ミルクが何かを発見し興味を抱いていたところを。
「何してんだ? そこで」
一方、ケインも俺の目線が気になったのか、振り向いた。顔を覗かせて見ると、ミルクはあるモノに対して、警戒感を抱きつつも枝の先で突っついる感じ。そしてそのモノとは、まさに
〝肉焼きセット″
だった。
(なんでこんなところに?)
一瞬だがそんな疑問が脳裏をよぎった。が、その直後、ドスジャグラス の痕跡からチャチャブーの落し物が見つかったことを思い出し危機感を抱く。
「待て‼︎ そいつから離れろ!」
「え⁉︎」
――がしかし、時既に遅く、何気なく置かれていた肉焼きセットは、真の姿へと化ける。いや、化けると言うか、肉焼きセットの下から、凶暴な何かが飛び出してきた感じであった。そしてその何かと言うのは、まさにチャチャブー達奇面族の王、キングチャチャブーであった。
「な、なんだにゃ‼︎」
いきなり飛び出してきたことに腰を抜かして驚く。同じく、ケインもまた、驚き咄嗟に身構えた。一方、キングチャチャブーは、周囲を見回すと俺たちの方へ向くや声高らかに奇声を放つ。その様は、まさに俺たちのことを外敵だと判断。威嚇を意味する奇声だった。
いずれ得体の知れないドスジャグラスを相手にすることになると言うのに、こんなとこでキングチャチャブーと遭遇するとは。
「ちっ、面倒だなあ」
舌打ちし毒突く。できる限りジャグラス達の群れに見つからないよう警戒しつつ、俺は抜刀する。
ともかく、こいつを撃退しなければ。いる場所から距離を取りつつ、ケインやミルクに合図を送ってキングチャチャブーを誘い込む。
「いいか。討伐中にジャグラス達に見つからないよう、気をつけて――って、おい!」
最後まで言わずもなが、自分よりも若干低身長なことをいいことに敵を侮ったケインが先陣を切って駆けた。背にかけた
ガキ――ン‼︎
甲高い金属音を響かせ火花を散らし、彼の放った一撃は、キングチャチャブーが手にした分厚く禍々し棍棒によって呆気なくガードされてしまう。そして、弾かれたことに仰け反りそうになった彼は、そこで踏ん張りを効かせて再び斬りかかる。
しかし、キングと言う名だけあって、その二撃目も容易くガード。小柄な体格とは裏腹に、持ち味の怪力を発揮せんとばかりに鍔迫り合いになった状態から押し返されてしまう。
一方、そのことにより、今度ばかりは流石のケインも勢い負けしたことから尻餅を付いてしまい、あわや凶悪な棍棒の餌食に。だが、俺も指を加えて見守っているわけではなかった。寸前のところで飛び出した俺は、二人の間合いに割って入り盾を突き出す。驚愕の表情を浮かばすケインの傍ら、直後、キングチャチャブーの一撃が俺の盾にぶち当たる。
盛大な火花を散らし、小柄な体格から全然
「くっ」
「ユウト!!」
ケインの叫び声が聞こえてくる。が、気にする余裕なんてものはなかった。盾をずらし、その一撃を受け流した俺は、バランスを崩した奴の隙をついて回転切りをお見舞いしてやる。
しかし、小柄な割にタフなのか、イマイチダメージを負っていないのだろう。少量の鮮血が迸るのみであった。だが、連続攻撃を浴びせかけるチャンスでもあったため、キングチャチャブーの背後にいたミルクに呼び掛ける。
「ミルク!! 今だ! しかけろ」
弾かれたかのように反応したミルクは、脇にぶら下げた筒からピッケル状の武器を取り出すと、バックアタックをけしかける。が、これもまたダメージがイマイチ。と言うよりか、当然のことだが、先ほどよりも全然効いていない感じではあった。
「大丈夫かケイン」
「ああ、なんとか」
差し出した手を取り、彼は立ち上がる。そして、キングチャチャブ―との間合いを空け、出方を窺う。――のだが、そこでミルクが一声を上げた。
「後ろ! 危にゃい!!」
「えっ」「っ!」
俺とケインは同時に振りかえる。直後、ジャグラスの一頭が飛びかかってきた。咄嗟に――
「う、うわー!!」
「くっ!!」
俺はケインを蹴飛ばし盾を身構え、その攻撃を受ける。鋭利な爪が盾にぶち当り軽い金属音を響かせ、反撃。キングチャチャブーみたくあまりタフな方ではなかったのか、それなりのダメージを与えた確かな感触が握った柄から感じてくる。
一方、驚きたじろいでいたケインも、俺に続けて太刀を振るった。
パシュー‼︎
血飛沫のエフェクトを撒き散らし、ジャグラスは怯む。俺はキングチャチャブーとジャグラスの動向を伺うかのように距離を置いて、そこで気付く。
「ちっ、すでに囲まれていたか」
そう。
すでに俺たち3人は、複数匹ものジャグラスに包囲されていたのだ。俺だけならまだしも切り抜けられる自信はあった。だが、ケインは違う。少なからず実力は上がってきてはいるが、こう言った状況下においては、彼の身に何かありそうで心配だった。それに奴らの親玉――ドスジャグラスと遭遇するのも、こうなると時間の問題。そそくさに退散し一旦出直す必要性があった。
「ケイン‼︎ ここは一旦、引くぞ」
だが、彼は意気込む。
「こんな雑魚ども。俺なら――」
再び立ち向かおうとする。が、そこは見逃さなかった。彼の肩を掴み説得する。
「待てって」
「えっ、なんでだよ」
威勢を削がれたことに不愉快を抱くケイン。以心伝心で俺は首を横に振った。
「ちぇ〜、わかったよ」
納刀する。
「ほら、ミルクも。ここは一旦引くぞ」
「仕方ないにゃ」
状況を理解してか。彼女は素直に従った。そして、二人を説き伏せた俺は、ドスジャグラスが現れる前にジャグラスの包囲網突破を試みるべく、先陣切ってそのうちの一体を怯ませるべく切り掛かった。
一方、そのジャグラスもただではやられないとばかりに反撃に出る。が、それを軽やかに交わした俺は、首元に斬撃を加えて怯ませた。
「さあ、今のうちに」
二人に呼びかけ、抜け穴ができた包囲網から脱出を図るべく駆けた。そしてそれはいとも容易く脱出でき、これでようやく奴らの縄張りから抜け出せる。そう、思った。――が、その矢先、突如として眼前で遺跡の壁が崩落。俺たちはそこで足止めを食らう羽目になってしまう。
(まさか、もう奴が)
崩落の影響で土煙が巻き上げられ視界が遮られる中、嫌な予感が脳裏をよぎる。
げほげほ‼︎
「な、なんだ⁉︎ 一体」
舞い上がった土煙でむせたケインが驚きの声をあげる。抜刀し身構える俺。それを見たケインもまた、柄に手をあてがった。やがて視界がひらけてくる中、その乱入者は土煙の中から姿を現す。頭から現れる感じで全貌が明らかになり、頭の位置から2階ほどの高さもある巨体だと察した俺は、これから始まるであろう死闘を念頭に全神経をそいつに集中させた。
さらに間合いを取るべく距離を取った俺は、そこで意表を突かれてしまう。全神経を現れたドスジャグラスに集中していたことにより、後方から迫っていたジャグラスの一撃を受けてダウン。それに気を取られてしまったケインは、俺の方を向く。が、それがこちら側の隙をドスジャグラスに晒してしまうことになり、そのチャンスを逃さないとばかり、飛びかかってきた。
「ケイン‼︎」
「え⁉︎ う、うわー‼︎」
「くっ!」
まさに一瞬の出来事だった。飛びかかってきたドスジャグラス を相手に、振り向きざまに驚いたケインは、俺と共に別々の方へと跳びのき。ミルクに関しては、交わし損ねて痛烈な一撃を受け
「ふぎゃー‼︎」
と、悲鳴をあげ吹き飛ばされた。そして最悪なことに、ドスンッ‼︎ と地鳴らしを立てるや、その衝撃で遺跡の壁は崩壊。ガラガラガラと音を立てて崩れゆく中、あわや巻き添えを食らいそうになった俺とケインは、慌てて逃げる。が、その崩壊の巻き添えを避けるべく駆けたものの、俺と同じ方向へ逃げ損ねたケインは、途中で遺跡の残骸に阻まれてしまう。
「ケイン‼︎」
振り向きざまに呼びかける。一方、ケインも同じく、トーンを一段と落として――
「ユウト!」
だが、皮肉なことに、雪崩の如く崩壊した遺跡によって巻き上げられた土煙によって彼の姿は消えてしまった。
「ちっ」
舌打ち。そして、背後からモンスターの唸り声が聞こえた俺は、そこで振り向く。対峙するは、ずんぐりとまでとはいかないまでも、
(どの道、こいつらを片付けないことには、合流できそうにないな)
そう判断した俺は、そこで抜剣。改めてドスジャグラスと奴の取り巻きである複数匹のジャグラスと対峙する。