時は遡り、遺跡の壁が崩落し、舞い上がった土煙からドスジャグラスが姿を露わした頃――。
思わぬ事態に巻き込まれたケインは、たちまち土煙に巻かれ咳き込み
「な、なんだ!? 一体」
と、驚きを見せる。ユウトの様を見、得体の知れない天敵が現れたと思ったケインは、咳き込みながらもなんとか抜刀、身構える。
やがて、土煙が薄くなってきた頃、中からその正体が露わになって行く。彼は得体の知れない巨体に武者震いしてなのか怯えてなのか、全身を震わせていた。思うに後者だろう。ケインの両脚はすでにすくみかけていた。
そうしたなか、ちらりとユウトの方を見る。やはりと思うが、彼はそんなモンスターを相手にしても動揺せず、冷静に物事を捉えている感じであった。さすがは歴戦のハンターだけはある。視線だけを送って感心する中、遂にユウトは間合いを詰め始め――そこで、彼の背後に一匹のジャグラスが近づいてきているのを目撃。思わず――
「あっ」
声にならないような微かな声。しかし、時すでに遅し。そのジャグラスは背後から彼に飛びかかり、一撃ダウンを奪ってしまう。直後、先に動いたのは巨?を誇るドスジャグラス 。
「ケイン??」
言われて、えっ、となり弾かれるように視線を戻した矢先、ケインとユウト、そして、後方にいるであろうミルクを一緒くたに巻き込まんばかりに飛びかかってきたのである。
「う、うわー??」
驚愕に見開かれる目。まさに一瞬の出来事であった。闇雲ではあるが、命の危機に間一髪、回避すべくその場から飛び退いたのである。だがしかし、その飛び退いた方向がまずかった。
ドスジャグラスの飛び掛かりに巻き込まれ悲鳴を上げるミルクの傍ら、ケインが飛び退いた方向はユウトが飛び退いた方向とは真逆。しかもこれが仇となり、直後、その衝撃により遺跡がまたもや崩壊。その流れから、ユウトと逸れてしまう。
崩壊する遺跡の向こうから
「ケイン??」
彼の叫ぶ声が、崩壊音と混じって聞こえてくる。だが、ケインはその声をあまり認識できず、間の抜けたかのようにトーンを一段と低くして
「ユウト!」
そう、返すのみ。
やがて崩壊が収まり、それと共に視界が晴れ渡る中、眼前には瓦礫の山が立ち塞がっていた。もはや向こう側には行けそうもない。一目で感じた。
「まいったな」
頭を掻きながら戸惑う。そうした中、どこからともなくミルクの声が聞こえてきた。それも何かを警戒しているのだろう。張り詰めた感じに語りかける。
「呑気に頭掻いている場合じゃないにゃ。奴がいるにゃ。凶暴な奴が」
「凶暴な奴?」
言われてそちらへ向く。すると、そこにはミルクとその前方、先程まで存在をすっかり忘れていたキングチャチャブーがそこにいた。
「あっ」
思わず声を漏らす。一方、キングチャチャブーは体格がミルクよりも若干背丈が高いくらいだったが、そこから放たれる殺意は、空気を通して確実に伝わってくる。それもあってか、ミルクに習ってケインも抜刀。幼体リオレイアの素材から作り出された鉄刀【毒牙】のギザギザとして刀身が煌めく。
相手は一頭。しかし、外見に反してタフな体格と怪力を有するモンスターであることを知っていたケインは、ここは真剣にことを構える。
一触触発の緊迫した空気が暫し漂った後、遂に両者は激突。先に動いたのはキングチャチャブーであった。凶悪な棍棒を振り回し奇声を上げて突っ込んで来る。が、そこはケインの前にいたミルクが率先して受けて立つ。――のだが、奴の怪力の前に斬り結んだ瞬間、呆気なく吹き飛ばされ
「ふぎゃー??」
と、悲鳴。そして――
「ミルク??」
叫ぶケイン。だがしかし、視線をキングチャチャブーに戻し、柄を握り直す。相手は小柄とは侮れない。リオレイア戦とは違った意味で強敵だと再認識したケインは、タイマン勝負で間合いを図る。
ジリジリと詰めていく中、極度の緊迫感から額にツーと汗が流れ落ちる。一瞬、吹き飛ばされたミルクの方へ見、やや動けなさそうな感じだったことから、この修羅場を切り抜けるのは自分だけしかいないと責任感が湧いてくる。
一方、キングチャチャブーの方は、対峙しているケインには興味がないのか、周囲を見回していた。そして、何を思ったのだろうか。よちよちとあらぬ方向へと歩き出す。
その様、相手に背中を見せていたことにより、ケインはチャンスだと確信。速やかに討伐せんと攻勢に出る。ダンッ?? と地を蹴って振りかざし、背中に一太刀。がら空きだけに弱点だったらしく鮮血が迸る。
流石にこれには仰け反ってしまうキングチャチャブー。先の一撃を看過できないと思ったのか、厄介な奴を先に排除せんと襲いかかってくる。ブンブン棍棒を振り回してケインに目掛け飛びかかって、しかし、ケインは太刀の攻撃リーチが長い特性を生かし突きを入れる。
もろに腹部に突き刺さるが、相手はお構いなしに振りかざし、彼の頭部へと重い一撃が迫る。ケインは頭を庇うかのように左腕をかざしガード。あわや致命的な攻撃を防いだものの、その一撃の前に吹き飛ばされてしまった。
地を何回か転がり、先に吹き飛ばされていたミルクの隣へと来てしまう。
「ててて……、なんて重い一撃なんだ」
そう言いながら、再び立ち上がろうとする。離してしまった太刀を手に持ち、
「ミルク、もう行けそうか?」
問いながら案じて彼女の方へと向く。だが、そこでケインが見たものは、何故か懸命に穴を掘る彼女の姿がそこにあった。流石にこれには疑問を抱いてしまうケイン。訝しげな表情を見せる。
「ん? 何してんだ、お前?」
すると、ミルクは懸命に掘りながら答える。
「見ての通り逃げる準備にゃ」
「は?」
意外な返答。これにはケインも流石に何を言ってるんだとばかりにキョトンとなる。だが、しかし――
「逃げるって、まさか……」
「そうだにゃ。ヤバくなったから、とりあえず逃げるにゃ」
「えっ、まさかお前一人でか?」
「そうだにゃ。あとは任せたにゃ」
そう言いうや否や、穴を掘り終わったミルクは、そこでこれから飛び込もうとする。一方、ケインはそんなミルクを焦って静止させようと呼び止める。
「任せるって、お、俺はどうなるんだよ!」
戸惑いと焦りを滲ませる彼に、ミルクは一言。
「そんなこと知らないにゃ」
それだけを残すと、掘った穴に飛び込み姿をくらましてしまった。それを受け暫し唖然としていたが、流石にこの状況下で独りぼっちはマズイと感じたのだろう。
「お、おい待てよ?? だったら俺も」
そう叫ぶやケインは縮まっていく小穴に飛びつく。そして、懸命に穴を掘り返し、無駄に自分もこの場から逃げようと画策。しかしその様は、側から見れば、まさに滑稽としか言いようがなかった。さらに、プレイヤーには穴を掘って逃げる、なーんてそのような仕様があるわけではなく、
「くっそー! ダメか。……にしてもあいつ、一人だけ逃げやがって。次会ったら、ただしゃ置かないからな」
怨嗟を込めた文句を漏らした。
はぁー、とため息を零し仕方ないので、この場からなんとか生きて逃げ切ることを前提に振り返った。が、その直後――
キィ――!!
奇声と共に凶悪な棍棒がケインの顔をめがけ、ブォオーン!! と空気音を靡かせ振り下ろされる。これに驚愕したケインは、目を見開き
「う、うわ――??」
反射的に後ずさり、間一髪額をかすめ、ドサッと地を巻き上げた。かすめただけにダメージはミリ単位しか削られなかったものの、彼はすっかり腰が抜けたらしく立ち上がることすらままならない状態に。
「ひ、ひぇ――!!」
冷静に物事を捉えれば相手の体格なんてそんなに大したことないはずなのに、恐怖のあまり、相手に背中を見せた状態で赤ちゃんハイハイになって逃げ出してしまう。
(死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。……)
死への恐怖が彼を駆り立て、赤ちゃんハイハイで逃げる。だが、周囲が崩壊した遺跡郡だけに障害物だらけで逃げられにくい。だが、逆に言えば身を隠すのに打ってつけでもあった。
瓦礫を乗り切っては転げ回り、乗り切っては転げ回りを繰り返し、やっとのことでキングチャチャブーの視界から逃れたところで、崩れかかった廃屋へと身を潜めた。荒い息を吐きバクバクと荒げる心臓を落ち着かせるべく胸に手を当てる。
「ここまで来れば、いくらなんでも……」
一息ついた後、危機的状況はひとまず脱したと少し安心したケインであるが、念のために恐る恐る瓦礫の隙間から覗き見る。所狭しと瓦礫が乱立する中、背丈が小さいキングチャチャブーを発見するのは難しいかった。だが、時折聴こえて来る奴の声を頼りによくよくそちらの方へと視認すると、よちよちと歩いている姿を確認する。
たまにキョロキョロと周囲を見回している様子から、多分ではあるが、ケインを見失ったみたいであった。
(これで本当の意味でひとまず安心だな)
居場所も特定したこと。そして、自分を見失ったことにより安心しきったケインは、そこで溜め込んでいた息を全て出し切る。
頭を空っぽにしボーとする中、ふと両手を見る。心では安心したはずなのに、両手は未だに小刻みに震えていた。余程恐怖を感じたのだろう。そう自覚した彼は、震えた手を包み込むように胸に宛てがった。
…………
……
数分後、両手の震えが止まったケインは、再び瓦礫の隙間から外の様子を伺う。見渡す中、さっきまでの奴の声が聞こえず、時々、聞こえてくる小鳥の鳴き声以外、静けさが漂っていた。何処へ行ってしまったのだろうか。恐る恐る廃屋から半身を出して様子を伺ってみる。
そうした中、キングチャチャブーがいた場所に目をやる。一見して姿が見えないないことから、やっぱり何処かへ行ってしまったのだろう。そう感じて、胸を撫で下ろす。
(なんとかしてユウト達と合流しなきゃ)
安心する中、そう思う。とは言え、さっきまでの緊張感から解放されたのか、急に全身の力が抜けてしまいその場でへたり込んでしまう。近くの瓦礫に背中を預け一服。ボーとしてしまう中、ふと小雨降る空を見上げる。
雨粒が顔に何滴か滴る中、
「……にしても、俺って全然変わらないな」
先の討伐戦を振り返って、そう弱音を漏らす。省みて思うのだが、やっぱり臆病な性格は変わらないみたいであった。ユウトやサユリと共にクエストやってきて、最大の強敵〝リオレイア″をも討伐して臆病な自分に打ち勝ったはずなのにだ。
「簡単には変わらない、か……」
今までの苦難とその成長が思い込みに過ぎなかったと知り、改めて自分の不甲斐なさを思い知る。落胆から自然とため息が漏れ、俯いてしまう。とは言え、このままユウトに甘えっぱなしってのも、自分の中ではよくないとも考えていた。いつかは乗り越えなければならない、いつかは……。まだまだ、だな。自分は。未熟さを感じてやまなかった。
「さてと……」
呟くと共にいつまでもこうしても仕方ない。そう前向きに気持ちを切り替えて、よっこらせ、と言わんばかりに立ち上がろうとする。
――とそこで、今の今まで気付かなかったある〝もの″を見つける。
「ん?? 肉焼きセット?」
首を傾げハテナを浮かばせるケインの目の前には、如何にも怪しい肉焼きセットがぽつんと置いてあった。外見からして、自分たちが普段、たまに使う肉焼きセットに近いものである。訝しげな表情を浮かべて近寄るケインであったが、そこでキングチャチャブーと初対峙した時のことを思い出し、そこで踏み止まる。
脳裏によぎった光景。そしてそこから伝わってくる感情。
〝これは罠だ??″
そんな警戒心が本能的に呼び覚まされたのである。静かに抜刀し、柄を強く握る。肉焼きセットに擬態しているであろうキングチャチャブーとの間合いを読む感じで、恐る恐る詰めていく。だが、奴は微動だにせず。それを読んだケインは、今度こそ奇襲を受けまいと、構えを変え、太刀独特のリーチの長さを生かした構え〝霞の構え″を取った。
ど突く形で剣先を肉焼きセットへと向け睨む。これから攻勢に転じようとする中、ふと心に不安がちらつく。先程、みたいな討伐戦になれば、きっと自分は足がすくみまともに戦えないのではないのかと。そして、今度こそ命の保証はないものになるであろう、と。
死の恐怖に絡められ立ち向かえず、なされるがままやられていく自分の姿が恐怖のイメージとして脳内を駆け巡ってしまう。そんななか、現実逃避みたいな形で、ここは敢えて討伐戦に打ってでず、避けるように相手にしなければいい。と、考えてしまった。だが、ケインはそんな考えには従わない選択をした。
ここで逃げるのは簡単だ。だが、クエストを進めてユウトと共に上位を目指す以上、ここは避けてはならない。そう、判断したのである。それに、これは自分に課せられた試練みたいなもの。勇気を持って立ち向かわなければ。
逃げたくなる思いを払いのけ、奥歯を噛み締めてケインは打って出た。鋭い一撃が、肉焼きセットに突き刺さり――
ふぎぃ――??
案の定、剣先が刺さった肉焼きセットから血飛沫を紛らし
意表を突かれた奴――キングチャチャブーが驚いて飛び出してきた。ユウトに教えてもらった基本的な戦術〝ヒット&ウェイ″に従って、間合いを空ける。
構えを正し、ぎこちないながらも中段の構えを取り、相手の出方を伺う。一方、何が起きたと言わんばかりに、周囲をキョロキョロとしながら戸惑っていたキングチャチャブーは、やがて自分に危害を与えた敵を見つけると、声高らかに奇声を放った。それは、まさに自分を鼓舞するかのような様でもあり、見た目に反して狂気に満ちていた。
ゴクリと唾を飲み込み、額からツー、と脂汗が滴る。一方、柄を握っていた両手もそうであり、手汗によって感触が気持ち悪くなっていた。
外見上は自分よりも背丈が小さかったが、先の戦いから見た目に反して怪力でありタフ。一匹とは言え、油断ならない相手だと知っていたケインは、間合いを詰めすぎないよう慎重に足運びをする。だが、先に動いたのはキングチャチャブ―の方。奇声を放ちながら、やみくもに棍棒を振り回して飛びかかってきた。
このまま突きを入れ相手の出鼻をくじく攻撃をけしかけてもよかったのだが、ここはサッと無難に交わす。一方、キングチャチャブ―は自身の攻撃が空ぶったことにより、その場で転んでしまった。
柄空きになった相手。チャンスだと読み、ケインはダンッと地を蹴って背後から斬りかかる。一撃、二撃、三撃、四撃……と連続で浴びせかけ、一気に相手の体力を奪っていく。だが、ケイン自身は冷静であった。奴の行動を呼んで深追いせず、再び立ち上がったキングチャチャブ―を見たケインは、そこで一旦距離をとった。
再び様子見しつつ、いつでも避けられるように深呼吸した後、全身の力を抜く。次はどんな攻撃に出るのだろうか。警戒心を強くして様子を見る中、キングチャチャブ―はと言うと――
「ん?」
腰に手を当て、ごそごそと何かを探り始めた。再び斬りかかってくると思っていたケインは、そこで訝しげな表情をする。もしかして、投擲アイテムなのだろうか。そんな推測が脳裏をよぎる。一方、キングチャチャブ―は、腰から何かを探り当てたのだろうか。何かを握ったまま、こちらに向かって軽く投げてきた。
(まさか爆弾!?)
反射的にその場から飛び抜く。直後、もやもやとした白煙があぶり出てき、なんだ、煙玉かよ。と、胸を撫で下ろした。しかし、完全に安心したわけではなかった。例え煙玉とは言え油断はできないこともあり、念のためにその場からさらに距離をとった。
しばらくして……。
徐々に白煙が薄くなってきた頃、そこにはキングチャチャブーの姿はいなかった。
「あれ? どこ行ったんだ?」
周囲をきょろきょろと見回してもどこにもいない。さすがのケインも予想外の事態に戸惑う。あんなに攻撃されて、堪えられず逃げたんだろうか。はたまた、どこかに隠れ奇襲を窺っているのだろうか。疑心暗鬼が深まっていく。
そうしたなか、太刀を一旦しまった彼は、先ほどまで奴がいた場所へと歩み寄る。だが、そこには肉焼きセットらしきものはなく、代わりに点々と小さな痕跡が残されていた。
(もしや、これはユウトが言う痕跡とやらなのだろうか)
点々と続く足跡。それはまさにキングチャチャブーが慌てて逃げた感じであるかのように、遺跡群の奥地へと続いていた。
(とりあえずは脅威は去ったみたいだ)
安心したケインは肩の力を抜く。しかし、後方は瓦礫の山で通行不可。ユウトとの合流を考えると、どうも足跡が続く一本道を突き進むしかなく、ケインは仕方なしに続く足跡に沿って奥地へと、ユウトとの合流を目指して歩き出す。
しばらく歩いていると、だだ広い広場へとでた。それに伴い、足跡も広場の中心へと向かって続いていた。別に足跡を辿ってきたわけではないのだが、ユウトとの合流を考えるのと進める道がこれしかなかったのもあって必然的にそうなってしまっただけであった。とは言え、広場の中心には山のようなガラクタが積まれてあった。足跡はそのガラクタの山の方へと繋がっており、恐らくであるが、キングチャチャブ―はそこに潜んでいるのには間違いなかった。
遭遇しないようケインはガラクタの山を迂回しながら、反対方向へと抜けようと左側に向かって歩く。そうしたなか、ふとユウトのことを心配する。
「ユウトの奴、大丈夫かな」
無駄な心配だと分かっているのだが、一瞬だったにしろ、見るからにキングチャチャブ―よりも手ごわそうな
「いや、……気にしすぎだな」
一人でごちる。
「それにしても、なんなんだろうな、このガラクタの山は」
そこで立ち止まってガラクタの山を見上げる。見るからに寄せ集めのガラクタであり、その種類も種々雑多と言った感じ。それもゴミ捨て場にあったような感じと同じ印象があった。
「確かミルクの奴、ここが元々、自分達の住処とか言ってたっけかな。……にしても、どこからこんなガラクタを集めてくるんだろうな? ゴミ捨て場にあったガラクタの山も然り。ま、ゲームの世界だから、予め配置されていたオブジェクトと捉えればそこまでなのだが、やっぱり気になるな」
ユウト見たいにそこに関心が向いてしまう。そうしたなか、ケインはガラクタの山の端部分にある一つの小さなガラクタへと歩み寄る。そして、手のひらサイズの小さなガラクタを手にし、色々と角度を変えながら観察。自分なりの考察を一つの余興として導き出してみる。
一見して、球状の道具類のように見えるが、どう見ても何かの飛び道具にそっくり。思い当たることをあれこれ思い出してみる。が、その途中で――
「めんどくせぇな。どうせ、ただのボールだろうな、きっと」
そう言いながら、そこら辺に捨てるべく放り投げた。一方、謎の球体は適当な放物線を描き、瓦礫の一部に当たるやカランコロンと軽い金属音を立て転げ回り――とそこで、
ピカ――!!
一瞬にして眩い閃光が弾け、周囲を白一色に染め上げた。
「な、なんだ!? あ、あれは閃光玉だったのかよ!」
得体の知れない球状のガラクタがまさかの閃光玉だと知り、予想外の事態に困惑するケイン。そのまぶしさから、思わず手をかざし顔を庇う。
「くっ、まぶしぃぜ」
一瞬の閃光ならまだしも、閃光玉と言う投擲類は数秒間から十数秒間は輝き続ける性質を持っている。それゆえ、この眩しさからはしばらくその場から動けなさそうな感じであった。だが、そうしたなか、自体は悪い方向へと流れ行ってしまう。と言うのも、輝き続ける閃光の傍ら、どこからともなく、あの忌々しい奇声が聞こえてきたのである。
キィ――!!
そう叫ぶは、あのキングチャチャブ―。そしてその声のする方をちらっと見たケインは、そこで思わぬ閃光玉による攻撃を受けめまい状態になって現れた奴の姿が、案の定、そこにいた。
(げげ、炙り出しちゃったか)
一瞬だが、心中、やらかしたと思った。しかし、相手が閃光玉によって目眩状態で動けないことから、これはある意味、チャンスだと睨む。そして、そのチャンスを逃さなかったケインは、ダンッと地を蹴り瓦礫を踏み越え抜刀。今度こそ討伐しきる勢いでズバズバ切り刻んでいく。
めちゃくちゃに切り刻む中、相手は堪らず仰け反り、その間、幾多にも血が吹き出た。だが、
「かったいなぁ、こいつ」
小柄なわりに身体が硬い。それはまるで殴っているかのよう。確かな一撃一撃は、なかなか与えることができなかった。――と、そんな中、流石のキングチャチャブーも目眩から復帰したのか、今まで頭上に表示されていたヒヨコ達の輪は消失。伴って、両目の焦点も定まる。だが、その一方で、無我夢中で斬りまくっていたケインはそのことに気付かず、棍棒を突如振り回してきた奴の反撃を受け、怪力の前に腹部に命中。
ぐはっ??
身体全体に衝撃を受け、吹き飛ばされてしまう。いくつもの瓦礫を蹴飛ばしながら転げ回り、壁に激突。思わず苦悶の表情を浮かべる。
「う、うう……」
間一髪気絶はま逃れたものの、うっすらと開いた視界に表示された体力ケージのバーは、7割ほど一気に削られ、その痛烈な一撃のやばさを物語っていた。さすがにガに事のやばさを感じたのか、今度は焦りが生じ始めてくる。
「ま、まずいな……」
太刀を手にやっとの思いで立ち上がったケインは、再び構え直す。視界に再びあのキングチャチャブ―を捉え、奴の動向を注視しながらウィンドウ画面を表示。回復アイテムを選択するべく、手でササッと動かす。――とそこで、いつの間にかであったが、ユウトからの返信が届いていたのを知る。
(助けを求めなければ)
返信メールに事の重大性を伝えるべくキーボードバーを表示させ、だがそこで、先ほどまでこちらの様子を窺っていたキングチャチャブ―は、突如としてこれまで以上に甲高い奇声を放つ。その様はまるで仲間を呼ぶかのように、どこまでも響いた。一方、思わず奴の行動に目が行ってしまい、返信が滞ってしまうケイン。ハッとなって我に返り、返信文を再び書き始める。だが、その直後、奴の奇声に反応してか、どこからともなく数多の奇声が鳴り響き、
「な、なんだ!? 一体」
思わず何が起きているのか、慌てふためいてしまう。そして、数多の奇声は、推測した通り、最悪の展開へと発展してしまう。と言うのも、数多の奇声と共に多種多様な瓦礫に紛れていたモンスター 〝チャチャブー?が、擬態を跳ね除け突如として現れたのである。それも2、3匹ではなく、十数匹以上も同時に。
さすがのケインもこれには動揺を隠せず、しどろもどろになってしまう。
「あわ、あわ、あわわわわ……。こ、これはやばすぎる」
命の危機。いや、それ以上に、死を目の当たりにした恐怖と言うべきか。ケインはその圧倒的な数のチャチャブーを相手に、逃げ出す以外、どうすることもできなかった。もはや、キングチャチャブ―討伐なんてする余裕なんてない。一刻も早く逃げ出さないと、包囲される前に。そう言った焦燥感に駆られてしまう。そして、今今逃げ出そうとしたその時、地中から思わぬ助っ人? が
「にゃ、オーン!!」
と、元気よく飛び出した。それも場違いなところに来てしまったかのように
「完全復活だにゃ」
とか言って張り切って。一方、
「な、なんだ?? ……って、ミルク!?」
驚くケイン。しかしその直後、思い出しかのように怒りがふつふつ湧き上がり
「お、お前。さっきはよくも俺を見捨てて」
文句を言いたげそうな口調で問い詰める。それはまさに、この裏切り者!! あるいは、卑怯者!! と言わんばかりの勢いで。だが、ミルクはそれは違うぞと言わんばかり反論。
「それは違うにゃ。自分を元気付けるために一時退散しただけだにゃ」
しかし彼は納得せず言い返す。
「はあ? だってよ、あの時、お前が逃げる際、そんなこと知らないにゃ、とか言ってたじゃないか」
「あ、あれは……その……」
言葉に詰まってしまうミルク。さらに問い詰めようと、彼女に詰め寄るが、視界にチャチャブー達の群れが迫って来ているのを見て我に返る。
「ちっ、はあ。ともかくその話は、あとでたっぷりと聞かせてもらうからな。とりあえずこいつらを何とかするのを手伝ってくれよな? 折角、復活したんだからさ」
「こいつらって?」
状況を理解していなかったらしく、ミルクは言われて周囲を一望。最初は瓦礫の山の方に目が行ってしまったようだが、次第にそこで自分達が置かれ立場を理解。
「えっ! こ、これは……」
ガタガタガタ……と体を強張らせ、何を勘違いしたのか
「こ、こいつらは、もしかしてあのキングチャチャブー!?」
「ちーと違うが、とりあえず狙われている、こいつらにな。そう言うことだ」
すると血相を変え、あわをくいながら180°向きを転換。
「こ、こんなの無茶に決まっているにゃ」
「えっ?」
面を食らって素っ頓狂になるケイン。てっきり助けに来てくれたのかと期待していたことにより、その場で硬直。一方、ミルクはそんなことはお構いなしに
「と言うことで、……バイビーだにゃ」
とか言って、一目散に逃げてしまう。そのことを受け、先ほどから硬直していたケインは、しばしの間を置いてハッとなって我に返り、
「お、おい!! に、逃げるなよ。まってくれよー!!」
ケインもまたミルクの後を追って、その場からずらかることに。しかし、逃げるにしてももはや包囲網は固く閉ざされていたらしく、その後、とうとう俺とミルクは瓦礫エリアの端にある高台へと瞬く間に追い詰められてしまった。2人して抱き合い身震いする中、ケインは命乞いをするように切羽詰まった言葉を返信文に綴って返信。ユウトの助けを一方的に待つ形となってしまった。