モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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4章:小さな狩人・8話

 しばらくミルクと抱き合っていたが、そこで一向に高台に登って来ないことに疑問符を浮かべる。もしかして、登れない? とかじゃあ。そんな感じがしたケインは、ミルクから離れ、恐る恐る高台の端の方へと近寄る。

 下に目線を落とし、そこでうじゃうじゃとチャチャブーが集まりまくって何やら喚いている様子を目の当たりに。その気持ち悪い感じから、彼は、げげっ、とか言いながら後ずさる。一方、ケインの様子を傍観していたミルクは、気になって彼のところへと歩み寄る。そして、彼女もまた、下を覗き見、ケインと同じく気持ち的に引いた。

 

「で、でも、この感じだとしばらくは登ってこれなさそうだし、まずは一安心かもにゃ」

 

 冷や汗をかきながら安全確認をする。しかし、ケインはあまり安心できたものじゃないらしく

 

「まずは、な」

 

 と、意味深なことを述べる。とは言え、このままでは、脱出できないところか、ユウトが助けに入れなさそうなのも事実。ケインは高台奥の壁周辺を見て、どこか脱出できそうな箇所がないか探り始める。

 しかし、これと言っていい脱出路らしきものは、見当たらず。

 

「参ったなぁ。本当に詰んだかも」

 

 そう諦めた感じになり、空を見上げた。すると、偶然、目に留まる箇所が目に入る。

 

「ん?」

 

 一方、ミルクもミルクで脱出路を探していたらしく、壁周辺に何か仕掛けとかないのかどうか探りを入れていた。そうしたなか、ケインが気になって見たもの。それは、こちらからは登れそうにはないが、壁の上には通路らしきものがあったからだ。茂みが生い茂り分かりづらい感じではあるが、多分、そんな感じだろうと思う。

 そのこともあり、ケインは確かめるかのように、二、三歩、後ろへと下がる。方やミルクはそんな彼の行動が気になったのか

 

「ん? 何か見つけたのかにゃ?」

「ま、まあな」

 

 それを受け、彼女もまた気になったのか、ケインの見つめる先を目線で辿りはじめる。同じく何歩か後ろに下がり、そこでケインが

 

「やっぱりな」

 

 どこか確信した表情を見せる。一方、ケインよりも背丈が小さいミルクは、登れそうにない崖の上がどうなっているのかよく分からずじまい。

 

「えっ? やっぱりとは?」

 

 そう、彼の意図が何なのかを尋ねる。しかし、ケインはそれには答えず、顎に手を当て何やら考え中。彼の心境としては、あの道は一体どこに繋がっているのだろう、とか。何か工夫さえできればあそこから逃げれるんじゃ。とか何とか言った感じであった。

 何やら考え事しており返事を返す気ないなぁ、と感じたミルクは、まぁいっかとなり振り返る。チャチャブー達が有象無象と寄せ集まる中、うわぁと感嘆を漏らし、そこで気になるものを見つける。目を凝らして見ると、どうもそれは梯子のよう。どこから持ち込んで来たのだろうか。それも何台も担がれてやってきたのである。

 

 (まさか)

 

 嫌な予感が脳裏をよぎる。ミルクは焦りを感じでケインに声を掛け、裾を引っ張る。

 

「ねぇ、ケイン殿。それよりも、なんだか嫌な予感がするにゃ」

 

 しかし、ケインは相手にしない感じで

 

「おいおい引っ張るなよ。元から今がヤバイ状況なのは知っているからさ」

「でも、……もっと嫌な予感がしてきたにゃ」

「もっと嫌な予感って。第一、ここまで登って来な……」

 

 そこで、ねぇねぇとしつこく裾を引っ張るミルクに仕方なく振り向いたケインは、彼女が指し示した方へと振り向いて表情を変える。彼もまたヤバイと感じたのだろう。

 

「あ〜、なんか不味い感じが」

 

 梯子を何台か担いで持ってくるその意味。それはまさに高台に梯子をかけ攻めてくることを意味していた。とどのつまり、ここはもう〝安全地帯″ではないことを示しており、ケインは先程までの思案をやめ防衛体制に入るのだが。

 

「おっと、その前に」

 

 思い出したかのようにアイテム一覧から漁るようにして回復薬を選択すると、手元に出現させ、グビッっと勢いよく飲み干す。半分以上削られていた体力が全快まで回復までとはいかないものの、3割程度は回復。これ以上は回復薬自体が現地点では貴重だったこともあり、流石に使用は控え、改めて掛けようとする梯子の邪魔をしにかかる。

 太刀を引き抜き身構え、迎え撃つ。一方、ミルクもボーンピックを取り出し同じく構えた。

 

「いつまで持ち堪えられるか分からないが、ぜ、全力で行くぞ」

 

 全身、恐怖で震えていたが、それでも自分に言い聞かせるように声掛けする。方や、ミルクもまたそれに応える。

 

「分かってるにゃ」

 

 しかし、討伐中、逃走したと言う経緯があったこともあり、ケインの中ではその返答に半信半疑。けれど、今は逃げないことを祈るのみだった。

 担がれてきた梯子のタイミングに合わせ段差の前へ出たケインは、梯子をかけて来、案の定、登ってくるタイミングに合わせ、梯子に蹴りをかます。けれど、かけられた梯子にはどうも耐久値が設定していたらしく、一度や二度の蹴りでは梯子を蹴飛ばせず。若干、焦りを感じたケインは4回目にしてようやく梯子を蹴飛ばすことに成功。蹴飛ばされた梯子は倒れ、登って来た2匹のチャチャブーは倒壊した梯子の下敷きになる。

 

「よしっ、いいぞ」

 

 自身を励ますかのように鼓舞すると、次の迎撃地点へ移動。その間、ちらりとミルクの方へ見る。

 

「えい、えい、えいにゃ――‼︎」

 

 彼女もまた梯子を外すのに懸命になっていた。非力だったことが仇となり、ケイン以上に掛けられた梯子の耐久値を削り切るのに時間かかったものの、ようやく梯子を外すことに成功する。

 

「やったにゃ――!」

 

 純粋な笑みを浮かべる。しかし

 

「喜ぶのはまだ早いぜ。ほらっ、見ろ! また、何台も」

 

 視線の先、そこには先遣隊が持ってきた倍の数の梯子が運び込まれようとしていた。その数、ゆうに4台ほど。梯子の耐久値のことも考えると、攻め込まれるのは必至かに見えた。血相を変えたミルクは青ざめ焦り出す。

 

「流石にこの数はヤバイにゃ。どうするのにゃ、ケイン殿?」

「それ、俺に言われても困るぜ。俺だってどうすればいいのか」

「と、とりあえず。こんな多勢にやられるのはごめんだにゃ」

 

 そこで、一方的に逃げ出すかのように踵を返す。それを見たケインは、また、逃げ出すのかと思い焦って呼び止める。それも語気を強めて。

 

「お、おい‼︎ どこ行くんだよ。また、逃げ出す気か!」

 

 しかし、ミルクはそこで立ち止まり振り返って

 

「勘違いするでないにゃ。何か抜け道ないか、また探るだけだにゃ」

「抜け道って。さっき探してみただろう。どこにもない……って」

 

 ――とそこで、ミルクを相手に無駄話が過ぎてしまったことに気付いたケインは、ヤバッと感じて振り返る。しかし時すでに遅し。梯子はすでに3台ほど掛けられ、今まさに数匹のチャチャブーが登り切ろうと言わんばかりに攻めてきていた。

 

 〝不味い″

 

 ミルクとの対話をよそに、慌てて駆け出す。太刀を手にしたまま、蹴りまくり梯子を倒そうと躍起。あわや登ってきたチャチャブーと一戦交えたが、間一髪のところで外すことに成功する。だが、もう二つの方は手が回らなかったのだろう。今にも上がり切ろうとしていた。

 

「ミルク、頼む。手を」

 

 しかし、ミルクは状況を理解していたらしく

 

「言われなくても」

 

 そう言うと、言われる前から駆け付け、梯子を外しにかかっていた。だが、懸命な努力も虚しく、登ってきたチャチャブーに攻め込まれ一撃の名の下に、

 

「ふぎゃ――‼︎」

 

 悲鳴と共に吹き飛ばされてしまう。一方、その光景を見ていたケインは、急いで二つ目の梯子を蹴り飛ばすと、攻め込まれた3つ目の梯子の方へと駆け寄る。太刀を上段に構え、1匹のチャチャブーに斬りかかり一閃を放つ。そして、当たりどころがたまたま良かったのか、血飛沫を立て痛撃(クリティカルヒット)を見舞い。切り飛んだ。

 負傷したミルクの前に立ち、迎え撃つ中、彼女を気遣う。

 

「大丈夫か?」

 

 前を見ながらだったため様子は確認できなかったが、

 

「なんとか。まだまだ大丈夫だにゃ」

「それなら良かった。なら、早速、手を貸してくれ。俺一人では――、ッ⁉︎」

 

 言っている側から、横槍を入れる感じでチャチャブーが奇襲。間一髪交わしかすり傷。あわやモロに食らいそうになる。だが、のけぞった際、段差で足元をすくわれ――

 

「うわっ」

 

 転倒してしまう。しかし、すぐさま態勢を整える。が、その僅かな隙が更に不利な状況を招いてしまい……。

 

「ケイン殿!」

 

 呼ばれて見た先、ミルクは既に2体を相手に苦戦を強いられていた。ケインは思わず叫ぶ。

 

「ミルク‼︎」

 

 だが、その直後、彼にも3体のチャチャブーが迫り、もはや助太刀する余裕は皆無。保身で手一杯になってしまう。まともに切り結ぶことを避ける中、ちらりと段差の方へ視線を。すると、すでに梯子が4台も掛けられていることに気付く。今更、梯子を蹴り倒し侵入阻止を図る余裕もない中、ケインはユウトに助けを乞う。それも必死に懇願するように。

 

 (ユウト、頼むから来てくれよ。頼むよ、ほんと、お前だけなんだから)

 

 3体のチャチャブーとの間合いを図るかのように後ずさるケイン。一方、さらに追い詰めようと棍棒を振りかざし襲いかかるチャチャブー。何合か切り結ぶ中、思わず小石に足を取られ――

 

「う、うわ‼︎」

 

 直後、振りかざれた棍棒が彼の顔面に迫り、ケインは咄嗟に太刀を盾にし、だが、当然、太刀は盾になるはずがなくモロに食らい

 

 ぐはっ‼︎

 

 吹き飛ばされてしまう。何回か転げ回り、何かに激突。呻く中、やっとのことで目を開き背後を見やる。そしてそこには、

 

 〝壁″

 

 遺跡の壁があった。ヨロヨロと立ち上がる中、ケインはちらっと後方に視線を送った後、思う。

 

 (もはや後がない、か……。くっそー)

 

 まさに背水の陣とはこのことを意味していた。一人に対して一度に数匹も襲いかかるチャチャブー。気合いで交わしつつ、なんとか隙を見出し反撃に転じようと躍起になるケイン。だが、それも限界に達し、遂には振り回してきた棍棒と切り結んだ太刀が衝突。打ち負けたケインの手から太刀が吹き飛ばされてしまい尻餅。別のチャチャブーが棍棒を振り下ろそうと掲げる中、ケインは両目をつむり心中

 

 (もはやここまでか。ユウト、頼むぅ‼︎)

 

 死を覚悟。そう悟ったその時――

 

 〝ピカ――‼︎″

 

 突如、どこからともなく閃光が炸裂。辺り一帯を一面真っ白に輝かせた。その余りにも眩しく、そして、暴れるかのような閃光に目を開けられなくなったケイン。しかしその中で、少し間を置いてやっとのことで薄目で視界を覗き見た彼は、そこで人影を目撃。誰だかよく確認できないその人影は、何を思う、こちらに手を差し伸べる。

 

「さあ、ここから抜け出そうぜ」

 

 声のトーンからしか判断できなかったケインは、聞き覚えのある声音を聞きそこで思わず

 

「ユウト?」

 

 そう声に出す。しかし、その手を取っていたケインは、ユウトと呼ばれた人影に導かれるように立ち上がり、その場から離れた。だが、走る中、周囲が眩しかったこともあり段差の位置を間違え足を踏み外し――

 

「うわっ⁉︎」

 

 ズテンッ‼︎ 

 

 盛大に転んだ。

 

「イテテテテ……」

 

 ヨロヨロと立ち上がる。そんな中、人影は自分を気遣う。

 

「おいおい、大丈夫かよ」

「まぁ、なんとか……」

 

 本当は遅くなって助けてきたことに文句を言いたい感じではあったが、眩い閃光の中、人影の正体が本当にユウトなのかはっきりしなかったこともあり何も言えなかった。

 やがて閃光の光が弱まり視界が開けてきた頃、ケインは気になって後方を見やる。すると先の先までチャチャブーが襲って来なかった理由がはっきりと分かった。

 

 (どうりで)

 

 内心納得するケインの眼前には、閃光玉の光で9割型目眩状態になったチャチャブー達が群れ全体で動けなくなっていた。――とそんな時、彼を先ほどまで先導していた人影(ハンター)――ユウトが、こちらに振り向き、改まって謝罪する。

 

「わりぃーな、来るの遅くなって」

「ほんと、来るのおせぇーよ。こっちはもうダメかと思ったよ」

「本当にすまんな。ドスジャグラスを相手に色々あって、随分、時間食っちまったから」

「まぁ、いいよ。どの道、助けに来てくれたんだ、ありがとうよ。んでよ、ところでミルクは大丈夫なんか?」

 

 不思議と気にしてしまうケイン。しかし、ユウトは平然と答える。

 

「まぁ、ミルクのことは大丈夫だと思うな。なにせ、俺たちプレイヤーと違って、あいつは極端な話、NPCだし。それに体力が尽きてヤバくなった場合、穴を掘って勝手に逃げるとかして戦線離脱できるしさ」

 

 それを聞いて、思い当たる節があることを思い出す。と言うのも、二人だけでキングチャチャブーと初対峙した際、一撃を受けたミルクが勝手に逃げる場面が見受けられたからである。ユウトの説明が正しいのなら、あれは自分を見捨てて逃げたのではなく、彼女も言っていた通り、自身の体力の回復を図っていた。そう言うことだったのだ。

 

「だからあの時……」

 

 呟き納得する。一方、ユウトは彼の言葉が気になったのか、ここで聞き返す。

 

「あの時?」

 

 しかし、ケインは首を小刻みに振って

 

「いや、なんでもない。ただ、思い当たる節があっただけさ」

 

 詳しいことは言わなかった。

 

「まぁ、詳しいことは詮索しないでおくよ。それよりも、早く包囲網から離脱するぞ」

 

「ああ」

 

 ダベっている場合ではなかったこともあり、ケインとユウトは、揃って一旦、エリアからの脱出を図るべく出口へと駆けた。走り続けるなか、所々瓦礫やらガラクタやらが散乱し行く手を阻んでいたが、二人は急ぐあまり物ともしない勢いで乗り越えて行った。そして、眼前にエリア圏外へ通じる出口が差し迫った頃、ケインはひとまず安心感を抱く。

 

 (これでようやく……)

 

 だが、その直後、急ぐ二人の前に突如、奇声が響き渡る。何事か。思わず二人は、聞き覚えのある奇声にその場で立ち止まり、辺りを警戒。さらに再び聞こえてきた奇声に、二人は声のした方へと振り向き――

 

「チャ、チャチャブー⁉︎」

「いや、あれは――」

 

 言っている側から、二人の前にそいつが凶悪な鉈を振り下ろしながら飛び込んできた。思わず

 

「ちっ」

 

 と、舌打ちするユウト。一方、ケインは情けない感じで

 

「ひ、ひぇ〜‼︎」

 

 その場から全力疾走の如く逃げ出す。直後、間髪入れず、凶悪な鉈が先ほど2人がいた場所に振りおろされ地面にめり込んだ。振り返ってケインは思う。あの鉈をもろに食らえば、一撃死はま逃れなかっただろうと。

 

「ケイン!!」

 

 ユウトの呼ぶ声。ケインは思わずそちら向く。すると、ユウトの示す方向――そちらには、先ほどまでめまい状態を起して動けなかったはずのチャチャブー達が数十匹とこちらに押し寄せていた。

 

「見て分かる通り、俺たちに時間がない。急いでそいつを叩くぞ」

 

 凄むユウト。ケインは、だがしかしと言わんばかりにこう反論。

 

「だってよ、そいつを討伐したところで、どうにかなる問題じゃあ……」

 

 しかしユウトは、あたかも知っていたかのような口調で説明づける。

 

「チャチャブー達を統率しているのはそいつ、キングチャチャブーだ! こういったリーダーがいるようなモンスターの群れはそのリーダー格。ここで言うと、そのキングチャチャブーを先に討伐してしまえば、統率が乱れ、恐らく彼らは大混乱するはず。しかも、うまくいけば勝手に逃げていくはずだと思う。だから……」

 

 早口口調でやや理解するのに時間を要したが、ケインは自身に言い聞かせるかのようにこう要約。

 

「つまりアレか。リーダーを潰せばこの危機的状況を何とか切り抜けられるとでも」

「そう言うことだ」

 

 きっぱりと答える。一方、対するケインは、この危機的状況下において、彼の言ったことが、正直、半信半疑だったものの、ここはユウトの意見を聞き入れることに。

 

「あー、わかった、分かったよ。じゃあ、俺はどうすれば? お前と一緒に共闘でいいのか? キングなんちゃらを討伐するために」

「まあ、そんなとこだ。だが、その前に……」

 

 そこで何か言いかけ、彼は眼前にウィンドウ画面を表示させると、慣れた手つきで手早く操作。手元に白い球状の何かを出現。グッと握り締めると、ぞろぞろと群れでやってくるチャチャブー達にめがけ投げつけた。それも一個だけでなく、いつの間にやら何個も手にしていたらしく、3個、4個と立て続けに放ったのである。

 

 (なんでそんなに?)

 

 疑問に思う中、ユウトは振り返りキングチャチャブ―と再度相対する。何を放ったのだろうか。気になってケインは、後方を振り返ろうとするが――

 

「ケイン、よそ見は厳禁だぞ」

 

 呼びとめられてしまう。これを受け、ケインは仕方なしに彼に尋ねる。

 

「何放ったんだ? ユウト」

 

 するとユウトは

 

「煙玉さ」

 

 と即答。直後、後方から、ボンッ! ボンッ! ボンボンッ! と小さな爆音が聞こえてくる。そしてそれに伴って、しばしの間を置いた後、後方から白煙がモクモクと2人の前を漂いながら流れてくる。このことを受け、ケインは確かにユウトは煙玉を放ったんだと認識する。しかし、こんなものでチャチャブー達の気を紛らわすことなんてできるのだろうか? 少し不安だった。

 

「さあ、とっとと片を付けに行くぞ、ケイン」

「ああーでも。後ろのチャチャブー達無視でいいんかよ?」

「視界を奪ったんだ。多分、大丈夫だ。少しの間だけだが、こちらにはやってこないと思う」

「多分って……。はあ~、ったくよー」

 

 何のとりえもない策に不安でだけしか残らなかったが、ケインは渋々、キングチャチャブ―へと立ち向かうユウトに追随する形で立ち向かっていく。

 

 

 

 

 時は一刻の猶予もなかった。煙玉の効果はそんなに長くはなかったから。だから、キングチャチャブ―の討伐には、まさに全身全霊で挑むこととなった。ユウトが(キングチャチャブー)の重い一撃を受け、受けている間、ケインが太刀を振りかざし切り刻む。まさに2人掛かりで編み出す攻防一体の戦法。戦況は順調に運ぶかのように見えていた。だが、さすがのキングチャチャブーも、堪りかねて頭上の肉焼きセットを燃え上がらせたことで一変。睨みを一層利かせケインに、流れが変わったことへの合図を送る。

 

「怒り状態に入った。気を付けろ、ケイン」

「ああ……」

 

 唾を飲み込み、さらに集中力を研ぎ澄ませる。一方、ユウトもまた、いつでも交わせるよう何回か飛び跳ね、両足の力を抜いた。時折火の粉を撒き散らし、これまた怒りの奇声を捲し立てるキングチャチャブー。等身大の鉈を頭上に振り回すや否や、手が滑って鉈が飛んでくるんじゃないだろうな、と言わんばかりにめちゃくちゃに振り回し突っ込んできた。

 流石にあんなめちゃくちゃな攻撃、受ける気もなかったのだろう。ユウトはキングチャチャブーを中心に半円を描きながら、間合いを計りにかかった。いわば〝牽引〞しているのだろう。幸いなことに太刀が故にガードができないケインには、怒りの矛先は来る気配はなかった。とは言え、このまま黙って様子見し続けるわけにもいかないのも事実。なんとしてでもユウトの加勢にかかりたいところであったが、怒り状態のキングチャチャブーの暴れようには、全くと言っていいほどに隙がなく……。

 

「ケイン、時間がない。加勢を頼む」

 

 まともに攻撃を受けないよう立ち回りをうまくやっているユウトであるが、さすがに自分一人では討伐するのに時間がかかりすぎるのだろう。彼はそう懇願するかのように言ってきた。

 

「んなこと言ったってよ……」

 

 加勢したい気持ちはあるものの手が出せない。手を出せば被弾のリスクが非常に高まり危険。ユウトも本当は分かっているはずであるが、言わずにはいられなかったのだろう。ケインはそのことを察し、自分にできることを考え、被弾するリスクをできる限り抑える形をとるべく、太刀のリーチの長さを生かし霞の構えをとった。

 そして、背後から忍び寄り――

 

 (そこだ!!)

 

 キングチャチャブーの攻撃後の隙をついて、背後から痛烈な一撃をお見舞い。このことにより、ブシュー!! と盛大に血が噴き出しのけ反った。

 

「いいぞ、ケイン。そのまま立て続けに行け!」

「言われなくても」

 

 ユウトに言われるがまま、ケインは二撃、三撃、四撃と連続攻撃を浴びせまくった。一方、ユウトもまた、ケインの連続攻撃に加勢するかのように斬りかかる。

 2人掛かりの連撃。まさに斬撃見まがう袋叩きと言わんばかりの猛攻であった。

 

 (これならイケる。イケるぞー)

 

 調子に乗って、遂には自己流を繰り出し始めるケイン。ユウトも右に同じくと言わんばかりに、彼なりの技を繰り出し浴びせ続けた。

 ――だが、その猛攻も長くは続かなかった。さすがキングと言うだけあって、そんのそこらのチャチャブーとは一線を介してタフネスを持ち合わせていた奴は、突如として、凶悪な鉈を横に。高速回転切りをかましてきたのである。

 まさに一瞬の出来事。強引に旋回してきた鉈の餌食となったケインとユウトは、

 

「ぐほぉ!!」「くっ!」

 

 と、揃って吹き飛ばされてしまう。片手剣(ドスバイトダカー)がゆえに、咄嗟にガードできたユウトは衝撃からくるダメージだけで済んだ。だがしかし、太刀がゆえにガードできないかったケインは、その攻撃をもろに受けてしまい、血飛沫のエフェクトを迸りながら放物線を描き吹き飛ばされてしまっていた。

 

「ケイン!!」

 

 その場でガードして踏みとどまったユウトが、ケインの安否を気にかける。一方、ケインは

 

「う、うう……」

 

 と呻き声をあげ、つぶっていた目をゆっくりと開く。すると、眼前に表示された体力ケージが、もはや残り2割以下に達していたのを目にし――

 

 (なんとか、……命拾いしたか)

 

 間一髪で一撃キャンプ送りにならなかったことを感謝する。安堵のため息が零れる中、ゆっくりと立ち上がろうとして、そこで眼前に小柄の鉈が目に飛び込んできた。さすがのケインもこれには驚きを隠せず――

 

「うわっ!!」

 

 飛び起きる感じで、間一髪、回避。ニ度目の九死に一生を得る結果となった。

 

「どうした?」

 

 ユウトの声。続けて状況を理解したのだろう。

 

「ちっ」

 

 と、舌打ちをする。険しい表情になるユウトを見たケインは、嫌な予感がしてチャチャブー達の方へと再度向き、そこで青ざめる。

 

「げげっ! もう覚めちまったか」

 

 尻ズリで後ずさりした後、ケインは素早く立ち上がるや距離を取った。キングチャチャブーへと向き直るユウト。彼の背中と自分の背中を合わせ、互いに眼前の標的と向き合った。ケイン側では、数十匹にも及ぶチャチャブー達の群れ。一方、ユウト側は、エリア外への出口の前に立ちはだかるようにいるキングチャチャブー。まさに絶対絶命。ほぼ完全なる包囲網にかかってしまっていた。

 

「キツイかもしれないが、そっちは任せられるか?」

「正直、代わって欲しいかも」

「だろうな。だが、こっちはこっちで手強いぜ」

 

 肩を落とすと共に

 

「はぁ、どの道、辛い戦いになりそうだな」

「だな。だが、一つだけ幸いなことがあるぜ」

「幸いなこと?」

「ああ、幸いなこと。奴は今、裂傷状態になっているからな」

「てことは、つまり……」

「時間の問題だな。やりむか現状を凌げれば、この状況を打破できるぞ」

 

 それを聞いたケイン。疑問をやや抱きつつも少し安堵の表情を浮かべ

 

「てことは、完璧に絶望的状況じゃない、てことか?」

「そういうこったな」

「なら、安心だな。だったらそっちの処理は頼んだぞユウト」

「ああ、任せろ。なるべくそっちに行かないよう牽制も兼ねてやるからよ。それにそっちも無茶はするなよ」

「無茶も何も。この数、無茶しないようにするのが無理難題ってもんだろう」

 

 吐き捨てるや否や、手元に回復薬を2つ出現させると、2つともグイッと一気飲み。体力を8割型回復させると、迫り来るチャチャブーの群れを迎え撃つ。

 引きつけつつ、タイミングを見計らって真横に一閃。まとめて一撃を食らわし、一歩後退。いわゆる〝斬り下がり″をお見舞いすると、ケインは抜刀しながらユウトの真似地味た感じに半円を描きながら横へ横へと走り出す。

 しかし、見様見真似だけあって、チャチャブー達にはその動きをすぐに捉えられてしまい、途中から人海戦術の前にも壁際に追い詰められてしまう。キングチャチャブーみたく凄まじい怪力を繰り出す訳ではないが、太刀が故、多勢を相手に切り結ぶには辛いものがあった。

 幾度も刀身がぶつかり合い、その度に火花を散らす中

 

「流石にこいつは、もたねぇー」

 

 少なからず狩りを経験し、少しは腕を上げていたケインであるが、背水の陣が故、これ以上は限界。と、そんな時、一歩下がる際、そこらに散らかっていた瓦礫に足を掬われ

 

「のわっ⁉︎」

 

 転倒。体勢を崩してしまったばかりに大きな隙ができてしまい――

 

 キィ――‼︎

 

 勝利の雄叫びと言わんばかりの奇声と共に、目の前に死の凶器が振り下ろされ、ケインは両目を力強く瞑り死を覚悟した。――とそんな時

 

 ガキーンッ‼︎

 

 何かが打つかったような甲高い金属音が鳴り響く。ケインは恐る恐る両目を開け、そこで奇跡的にもアイツが自分を庇っている様を目の当たりにする。

 

「ミルク⁉︎」

 

 叫ぶ彼の目の前、そこにはチャチャブーの一撃を頼れなさそうな小さなボーンピックで受け止めるミルクがにいた。

 

(もしかして)

 

 そんな期待を込めるような思いが脳裏をよぎる。しかし、彼女は一匹のチャチャブーの攻撃を受け止めるだけで手一杯。まさにその様は、天敵に追い詰められ切羽詰まった小動物のように見えた。ポカーンとするケイン。そこに彼女がこちらに視線を向け叱咤する。

 

「何をしているかにゃ!! 早くケイン殿も」

 

 言っているそばから、もう一体のチャチャブーが襲い掛かって来

 

「危ないミルク!!」

 

 叫ばれたが否や、彼女は今のも振りかざせんと襲いかかるチャチャブーを目の当たりに。彼女もまた、一撃を覚悟した。その時――

 

 ズバ!! ブッシュー!!

 

 ぶった切るような効果音。それと共に

 

「ふぅ~、助太刀、御苦労さん、ミルク」

 

 その声、まさしくユウトであった。

 

「ユウト!」

「立てるか?」

「ああ、なんとか」

 

 差し出された手。思わずケインはその手を借りたくなり、手を差し出した。が、途中で遠慮。

 

「いや、自分で立てるよ」

「そうか」

 

 続けて

 

「ミルク、助かったよ」

 

 そう言って立ち上がると、尻に突いた土を払いのける。

 

「別に礼なんかいいにゃ。それよりも、ユウト殿」

「ああ、分かっている」

 

 前方を向き、改まって身構えると

 

「今度こそ、討伐しきろうぜ」

 

 その言葉と共に、ユウトはキングチャチャブーとの持久戦へ。ケインとミルクは、数十匹にも及ぶチャチャブーとの防衛戦へ。それぞれが互いの命を守り合う形で、再び立ち向かう。

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