モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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4章:小さな狩人・10話

 触れば冷やっとした石造りの一室。吹き抜けの窓から時折流れ込んでくるそよ風を肌で感じ、俺は藁のベッド前の子椅子に腰掛けていた。特に何かするって訳でもなかったが、なんとなく心配に感じていたのかもしれない。ベッド上で寝てるミルクを見守りながら、何気なくそう思っていた。

 先の討伐戦で余程疲弊したのだろう。当のミルクは、鼻提灯を膨らませ、爆睡していた。

 

「……何やってんだろう、俺」

 

 たかがNPCであるはずの彼女を前にして、すっかりこの世界を現実世界として錯覚してしまっていた俺は、自分の気持ちに対して情けない感情を抱いてしまっていた。

 

「はぁ〜」

 

 それがあってか、溜息が自然と漏れる始末である。でも、そう錯覚しちゃうのも無理もなかった。この世界があまりにも現実世界と似ていたから。……いや、現実世界と言うのは変か。敷いて例えるなら

 

 〝本物の異世界〞

 

 そう読んでもおかしくない気がしていた。だって、NPCにしたってモンスターにしたって、あまりにも自然的な生態系を営んでいたから。動作一つとってもそう。典型的な例を挙げるなら、目の前のアイルーだって例外ではない。言動一つ一つがまさに本当に生きているように感じられるのだ。

 

 (なんだろう)

 

 まるで本当の現実世界のことなんてすっかり忘れ、あたかも最初からこの世界の住人として生きているような。そんな感慨を頭ではNOと否定しても心のうちではそう抱いてしまっていたのである。

 そうした思いに囚われていた中、そこで、トントン、とドアノックが聞こえ誰かが入ってくる。

 

 (誰だろう?)

 

 反射的に振り向く。

 

「あっ、ここにいたんですね」

 

 先にしゃべったのは、サユリからであった。

 

「長老が呼んでいましたよ。何か礼がしたいとか」

「長老が、俺に? てか、あいつらの言葉が分かるようになったのか?」

 

 元からオトモアイルーだったとかそういうわけではないアイルー達やメラルー達。例外ではないはずの長老だって、何をしゃべっているのか分からないはずなのに。なんでサユリは分かったんだろう。そうふと疑問に思ったことを口にしてしまう。だが、サユリはきっぱりとそれに応えた。どこか嬉しそうな笑みを浮かべて。

 

「はい。私、……あの子たちと交流重ねるうちに、なんかスキルを習得したらしく、いつの間にか理解し合えるようになったんですよね」

「スキル? どんな?」

 

 すると、サユリは画面を表示させ、ぎこちない感じで操作すると、自分のステータス画面を俺に見せた。ぱっと見た感じ、いつものステータスとして、プロフィール(ニックネームや自己紹介コメント)やらHR(ハンターランク)。それに称号や所持金やらそれ以外のいくつかの項目。そんな普段見慣れているようなものが整列されていた。だが、よくよく見ると、ある一つの項目の中に、〝New〞と書かれている項目――交流カードがあった。それもあってか、彼女はその箇所に指をさす。

 

「ここなんですよね」

 

 そして、ワンクリック。するとそこには、スキル一覧として、整然と描かれた〝????〞のうち、一箇所だけ、翻訳スキル・Ⅰ、と表示されたものが見つかる。思うに、交流と書かれているから、他種族との交流か何かだとは思うが……。

 実際、サユリはその箇所を指でなぞると、詳細みたいなものを表示させてくれた。そして、案の定、その読みは的中した。

 

          ――以下その詳細――

 

翻訳スキル・Ⅰ

 

スキル詳細:

別名、ネコの翻訳スキル。初期設定で得られる給仕ネコ、または、雇用で得られるオトモアイルーや元オトモアイルー以外のアイルーやメラルー。ここで言う、野性のアイルーやメラルーたちと一定期間交流することで発動するスキルです。その効果として、プレイヤーにとって何を喋っているか分からない彼らの言葉を分かりやすく翻訳してくれます。

 

 とのことであった。

 

「なるほどね。よかったじゃん、習得できて」

「うん、本当に良かったです。どのような形で習得に至ったのかまでは分からないけど。でも、便利なスキルを習得できて、本当、助かりました」

 

 とそこで、

 

「……あ、そうだ」

 

 何かを思い出したらしく、サユリは表示した画面を一旦閉じると、今度は素材リストを表示。これ、と言わんばかりにあるものを指さす。

 

「こんなものが手に入ったんです。スキル習得と同時に」

「しろねこ服キット? ……おっ、これ、アレじゃん。多分、専用素材の」

「専用素材?」

 

 小首をかしげるサユリ。俺はもう一言付け足す。

 

「ハロウィン専用素材のさ。多分、素材名からして、アイルーシリーズの作成に必要なものかも」

「アイル―シリーズ。……てことは、ケインさんが作ってみたいなあとか言っていた……」

「だろうな。多分、それに必要な素材だと思う」

「そうでしたか。なら、……ああー、でも、その前にやるべきことが」

「長老からの礼、だろう。行くよ、今から。その代わり、通訳の方、頼んでもらってもいいかな? 俺には翻訳スキルないからさ」

「いいですよ。任せてください」

 

 その言葉と表情。まさに自信ありげそうな感じに見て取れた。俺は、そんな責任感あるようなサユリに委ねるように了承を得ると、すっと立ち上がり、彼女と共にこの寝室を静かに出た。

 

 そして、暫くして……。

 

 長老が待っているであろう広場へと向かうに当たり、2人揃って歩きながらそう言えばと俺はふと思った。

 

「ところで、あの後、ケインの奴、どこ行ったか知らないか?」

 

 するとサユリは、う~んと、とか思い出すような仕草で、口元に手を当て上目遣いする。

 

「確か、技の練習してくるとか言っていたような。矢継ぎ早で早口調で言っていたから、あまり聞き取れなかったけれど」

「そっか」

 

 (技の練習ね……)

 

 思い当たる節があるとすれば、アレしかなかった。多分、アレ。そう……

 

 〝鬼刃斬り〞

 

 の練習のこと。本人いわく、あまり実感が湧かなかったような感じだったから、きっと実感できるようになるまでやっているんだろうなぁ、と。俺はそんな風に想像していた。

 

「ところで、ケインさんがどうかしたんです?」

「いや、別にこれと言って用がある訳じゃないんだ。ただ、あの後、少しだけ気になってな」

「ふ〜ん」

 

 別に気になった訳でもないのだろう。サユリはそれ以上、何も言って来なかった。

 一方、俺としては、ケインが鬼刃斬りに対して思うような節が見え隠れしていたものだから、きっと何処で何かする筈だろうなあと感じていた。だから、そのこともあり、確認する意味を込めて彼女にケインの行方について尋ねたのであった。――のだが、別にそれは言う必要ないなと感じていたため言わなかった。

 しばし二人で歩いていると、大小様々な石造りのかまくらのような家々を横切った先で、遂に長老が待っているであろう広場に辿り着いた。目の前の光景を見て少し驚く。

 

「おっ、なんかいっぱい集まっているな」

 

 そう呟く俺の眼前には、集落に住むアイルー達やメラルー達が大勢集まっていた。その数、数十匹。恐らく集落に住む者全員が集まっているような感じであった。

 長老を中心に取り囲んでいる群衆のうちの1匹が、こちらの存在に気付く。するとその1匹に気付いてか、皆が一斉にこちらを見、長老までの道筋を作るかのように集団が割れた。

 手招く長老。俺とサユリは、割れた群衆の中を突き進み長老の元まで歩いていく。目の前に来た俺とサユリ。長老はサユリの小耳に(ことず)けをする。長老が何を伝えているのか分からなかったが、長老から託けを終えると、彼女は俺の方へと向く。

 

「我々の住処をモンスターから取り返してくれたお礼で、渡したい物があるって」

「渡したい物?」

 

 (なんだろうか?)

 

 自然と疑問が湧く中、長老、自ら前に来、手渡してきた。手元にはキラキラと輝く何かがあった。直後、視界にウィンドウ画面が表示され、はい、いいえ、の二択を伴ったメッセージ〝贈り物を受け取りますか?″が表示される。

 別に受け取るくらいなら別に構わないか。そう判断した俺は、躊躇わず〝はい″を選択。受け取った。そして、気になっていた俺は、すぐに中身を確認。そこで贈り物の正体が、グーク生産チケット、回復薬グレート×3つの2種類を入手したことを知る。

 

「これは……」

 

 現地点では入手が難しい貴重な回復薬グレードを入手できたことに嬉しく思う。けれど、それはともかくとして、イベント専用素材〝グーク生産チケット″を入手できたことに、それ以上、嬉しく思う。――が、しかし

 

「これは、サユリの物だな」

 

 そう言うや、俺はグーク生産チケットを彼女に手渡す。

 

「このチケットって……」

「ああ、恐らくお前が作りたかったであろうグークの着ぐるみを作るのに必要な素材だな。一応、お前の物だし」

「……ありがとう」

 

 どこか遠慮がちに頬を赤らめ、サユリは礼を述べた。

 

「さて、貰えるものは貰ったし、俺たちも……」

 

 それにこの後にハロウィンのパーティーもあるし、なんて考え彼女と共にケインを連れて帰ろうとした。その矢先、

 

「えっ!?」

 

 と彼女の小言が。俺は

 

「ん?」

 

 となって振り返る。すると、サユリは長老にちょっと待ってと言わんばかりに、その手を掴めていた。そして、彼女の耳元へと何かを話しかける。黙ってその様子を見ていた俺であるが――

 

「どうしよう」

 

 少し戸惑った表情を見せた。

 

「ん? 何が?」

 

 そう尋ねる俺。彼女は長老から告げられた言葉を俺に告げる。

 

「この際、折角だから皆で宴したいって。住処の解放記念に」

「宴?」

「うん」

「ふーん……」

 

 眉間にしわを寄せ、今度は俺も戸惑ってしまう。きっと長老は、あの遺跡群の住処の解放がよほど嬉しかったのだろう。先程のお礼だけじゃ物足りないと考えているのかもしれない。だけど……

 

「どうしてもなのか? それは」

 

 すると彼女は、逆に長老に耳打ちを。一方、長老の答えは明白であっだのだろう。考える仕草もなく、何かを即返答する。

 

「どうしてもだって。うーん、困ったね」

「だよな……」

 

 パーティーの開催時刻は、確か20時頃だったはず。今の時刻は……。そこで、さっと空を切って画面を表示。画面端に表示されてある時刻を確認する。時刻は、17時5分前を指しており、ここからBCへ戻る時間も考慮。流石にゆっくりできそうな時間帯ではなかった。

 

「んー、どのくらいで終わるか尋ねてくれない?」

 

 と伝言ゲームのようにサユリに話す。唯一の通訳者である彼女のこと。彼女は嫌とは言わなかった。そのこともあり、長老に向き直る。

 すると、流石の長老もこれには考える点があるのだろう。その小さな腕を組み、うーん、と言わんばかりに考え込んでしまう。そして、挙句には、周囲の同胞たちにも相談。しばし話し込んだ後、結論が出たのであろう。サユリに向き直る。

 

「そんなに時間取らせないから、儀式だけでも付き合って欲しいだって」

「儀式?」

 

 どう言ったものだろうか? 多分、住処をモンスターから取り返したことによるものと関係があると思うが。でも、儀式くらいならいいっか。そう思う中、少し首を傾げたが、

 

「まぁ、どんな儀式かは分からないけど、それならいいってことを伝えてくれるかな」

「うん」

 

 長老に向くや、俺の返答を伝える。その間、俺は思う。正直、儀式の内容にもよるけどな、と。

 

「ありがとう、だって。ちなみに儀式は、住処を取り戻したことによる祝いの儀式だって」

 やっぱりな。推測した通りであった。

 

「祝いの儀式、ねぇ〜。わかった。そしたら、ケインをとっと見つけてやりに行こうぜ」

 

 時間は限られている。長老は儀式を早速始めるべく、皆に儀式の準備を執り行うよう指示。俺とサユリはケインを探し始めた。

 

 

 

 

「儀式? なんでまた?」

 

 疑問が湧き立つケイン。俺は儀式をする意味を、簡潔文の如く一言で言い表す。

 

「祝いの儀式、だってさ」

 

 続けてサユリも、ついでのように補足を付け足す。

 

「住処を取り戻したことによる祝いの儀式をやりたいんですって。本当は宴したいって言ってましたけど」

 

 するとケインは、二の腕を組んで納得する。

 

「なるほどね。確かに祝いたい気持ち、分からなくはないな」

「まぁ、彼らなりの感謝の形だと思うな。どの道、宴を省いてくれただけでも助かるけど」

「そこは俺も同意見だな。宴なんか誘われてたら、パーティーの開催に出遅れちゃうし」

「だな」

 

 そこで俺とケインは、意見の一致したことに頷き合う。けれど、側から見ていたサユリは、どこか寂しそうな表情を浮かべていた。

 

「でも、長老さん達、残念そうにしてましたけどね」

「仕方ないさ。俺たちだって用事あるんだから。それとも、パーティー蹴ってそっちに参加するなら別だけど」

 

 それを言われ、サユリは口元でごにょごにょとなんだかあやふやな返答をする。その様、どこか自信なさそうな感じであった。

 

「……そ、それはちょっと……」

 

 なんとか絞り出した言葉。思うに、長老達の思いを汲み取ってやりたいけども……的な感じだろう。狭間で葛藤しているように見えた。だが、

 

「だろう。まぁ、この後の用事なければ、参加してもいいんだけどな」

 

 そして、ケインに向き直り、話が一段落したと見た俺は、話題を切り替える。

 

「ところでさぁ、思うんだけど」

「ん?」

 

 小首をかしげるケイン。続けて俺は 多分、分かっていると思うが、言わずにはいられなかった。

 

「さっきまでやっていた素振りって、もしかして」

「ああ、新技の練習さ。鬼刃、なんちゃらとかいう技の、な」

「やっぱりか」

 

 案の定、であった。一方、俺の反応を見てか、ケインが反発する。

 

「やっぱり、ってなんだよ」

「いやあ、なんと言うかさ。愚直に練習していたみたいだから、ここで言っておきたいなあと思ってさ」

「愚直で悪かったな。でも、俺は真剣なんだぜ。この先のクエストを進めていくためにも、技の一つや二つ、マスターしておかないと思っているからよ」

「すまんすまん。でも、これだけは言わせてくれないか」

「これだけって。……なんだよ、言ってみなよ」

 

 なんだか、どこか身構えてしまうケイン。俺は少し遠慮がちに言いたいことを告げる。

 

「あの(鬼刃斬り)は、素振りだけでどうこうできるようなものじゃないぜ」

 

 自分で言って再確認するのも変だが、確かにその技はそう言ったものであった。どういうことかと言うと、何かを斬りつけるか何かしてやらなければ、技の発動までこぎつけないからであった。しかし、当のケインは、俺の言ったことが理解できなかったらしく、少し怪訝そうな表情を浮かばさせる。

 

「えっ? どういうことだよ。つまり、俺のやり方が違うってことか?」

「やり方と言うか。違うと言えば違う、かな」

「なんだよそれ。じゃあ何か。今までの練習が無駄だったってことか?」

「無駄、と言えば無駄になるかな」

「おいおいおい。それじゃあ……」

 

 そこで側にいたサユリが堪らず口を挟む。

 

「ユウトさん、もったいぶらないでどういうことか説明してくださいよ。なんだか、私も気になります」

 

 続けて、ケインもサユリにつられて

 

「そうだぜユウト。そこんとこ詳しく話してくれないと俺も困るよ」

「はあ、仕方ないな」

 

 2人に言われ、俺は、渋々、技のことに関してより詳しく説明する羽目になった。とは言え、どの道、説明しなくてはいけないなあと思っていたのも事実。しかし、説明する中で、どうしてもあやふやな点があり、そのことも含めて説明しないといけないので、正直、さわりだけの説明に留めておくつもりだったのである。

 もはやこうなった以上、やむを得ない。あやふやな点も含めて、知る限りの情報、解説することにした。一拍置き、口を開く。

 

「あの技――鬼刃斬りと言うのはな、太刀特有の技なんだよな。恐らく、今後、新しい技とか覚えていくだろうけど、そこは今回は省くとして……」

 

 真剣そのものの表情をした二人。黙っていながらも頷く。その眼差しを受けて、俺はやや緊張気味となってしまい、口元が戦慄いてしまう。が、ここで一旦咳払いをして気を取り直す。

 

「で、だな。技の発動条件と言うのはな、相手を一定時間の間に斬りつけまくった末に発するオーラを纏った時なんだよな」

 

 そこで思うところがあるのだろう。

 

「オーラ? つまり、闘気、みたいなものか?」

「まあ、そんなところだな。それにケインは目の当たりにしたと思うぜ、それを。太刀が紅く仄かに輝く様を、な」

 

 それを言われ、ケインは気付く。

 

「あ、もしかして、あの現象のことかぁ?」 

「そう、それ。それだよ」

 

 そのことだよ、と言わんばかり指摘する俺。一方、サユリにはその場に居合わせていなかったこともあり、ややパッとしない表情を浮かばせる。しかし、俺の言ったことを自分なりにまとめるように解釈する。

 

「つまり、こう言うことですか? そのオーラと言うか闘気、と言うか。それが刀身に纏うことが前提条件だと」

「まあ、そういうことだな。で、話し続けるけど、その刀身にオーラを纏った状態で相手を斬りつけると、最終的に技の完成、ってやつだな」

「なるほどねぇ」

 

 どことなく納得した感じであった。けれど、

 

「でもよ、一つ疑問に思ったんだけど。その一定時間の間に、というのはどういうことなんだ? 聞いた感じじゃあ、制限時間あるみたいに思えるけど」

 

 そこで俺は、やっぱりなぁ、と思った。と言うのも、そこが一番、あやふやで不確かな部分だったからである。しかし、俺は適当ながらでも応える。

 

「恐らく、……いや、多分だと思うが、ゲージみたいなものがあるんだと思うんだ。非表示になっていて見えないだろうけど」

「ゲージ、ねぇ。っで、そのゲージとやらが今回の鬼刃斬りの発生と関係あるんだな?」

「まあ、そんなところだな。ちなみに、そのゲージと言うのは、斬れば斬るほど溜まっていき、何もしないと減っていく。俺もはっきりと断言できないけど、今回のモンハンの仕様もそうだと思うんだ」

「ふ〜ん、なるほどね〜」

「なるほどですね。大体、理解できたかもです」

 

 二人は頷き合い、俺の説明に納得したよう。俺自身も結果的にうまく説明できたことに、内心、ほっとする。そして、

 

「さて……」

 

 そろそろ長老たちの元へと戻ろうか。きっと準備できているに違いないしな。なーんて、思い至った矢先、案の定、と言うべきか。集落の中心へと続く方面からミルクの呼ぶ声が風に乗って聞こえてくる。

 

「あっ、ここにいたんだにゃ」

 

 そちらの方へと向く俺たち。続けて彼女は、

 

「儀式の準備が済んだから、呼びに来たにゃ」

「了解」

 

 続けてケインとサユリに向き直って

 

「そろそろ行こうか」

 

 と呼びかけ。2人は

 

「だな」

「そうですね」

 

 と了承。ミルクの案内に導かれるまま歩きだす。――そして、しばらく歩いて行く中、ゴミ捨て場と言うか一種の集落と言うべきか。とにかく、ケインが練習していた場所は、その集落から少し離れた地点でもあったため、集落中心まで行くのにやや時間がかかってしまう。

 そうしたなか、集落中心へと向かうにつれ、石造りの家々が、そして、ガラクタと言うべきか。それがだんだんと増えていく中、歩きながらミルクは頃合いを見て話し出す。

 

「ところで、ユウト殿があの時聞きたかったこの場所の由来に関して、長老から教えてもらったにゃ」

「ゴミ捨て場の由来?……そんなこと言ったっけか」

 

 何のことだろうか。首をかしげ、う~んと唸りながら思い出してみる。一方、その思い悩む様子に業を煮やした彼女は、助け船を出すようにして付け加える。

 

「ほら、あの時の。元々の住処へと向かう途中で言ってたじゃにゃいか。なんて言ったけか……」

 

 そこで俺は、ふと吹っ切れたように思い出す。

 

「あ~、あの時か。確かに言ってたな。どうでもいいような気もしてたけど」

 

 自分で言っていたことをすぐには思い出せなかったけれど、確かに言っていたことを思い出した。

 

「で、なんて言っていたんだ? 長老は?」

 

 そこで一旦立ち止まり、明後日の方を向きながら

 

「そうだにゃ。……確か、こう言っていたにゃ。元々この場所は、ボク達アイルーが崇めるネコ地蔵が奉られていた場所であったと。で、同族であるメラルー達を仲間にしたところ、手癖の悪い彼らのこと。ハンターや御者から物資を盗って来ては、長老たちに見つかり怒られ。捨てるに捨てられず、密かにこの場所に集めていった末、今のような感じになっちゃったんだって」

 

「あー、なるほどねぇ」

 

 聞いているうちに思ったのだが、正直、半ば呆れてしまう理由であった。確かにこのゴミ捨て場には、何匹かのメラルーも見かける。彼らの習性を鑑みれば、ミルクの言っていることは、筋が通っていることに頷けるものであった。それに俺だけでなく、ケインも同じことを思ったのだろう。どこかしらけた表情を見せていた。

 

「ちなみに、長老さんはメラルーを仲間に取り入れる際、彼らの性格とか把握してなかったんですか?」

 

 するとミルクは、こう答えた。

 

「そこまでは聞かなかったけど、多分、そうなんじゃないかにゃ。この場所が窃盗品で溢れていたことに気付くまで、かなり時間がかかったみたいだし」

「はぁ〜、長老も長老だな」

 

 長老のお人好しさ。そして、後先のことを考慮できていない性分が垣間見れる内容であった。俺たちには全く関係ないことなのだが、あまり頼り甲斐がないような長老、と言う感じがしてならなかった。

 

「でも、その長老のおかげで、当初、少数だったボク達の仲間が今ではいっぱい増えて心強くなれたにゃ。それに住処の規模も今では広がったし、住処の護衛だって……」

 

 そこでケインが、水を差すように言ってきた。

 

「でも、結果的に壊滅しちゃったけどな」

「それは……」

 

 予想外の事を言われ戸惑ってしまったのだろう。ミルクは言葉に詰まってしまった。助け舟を出すつもりはないけど、あの遺跡群からなる住処について前から気になっていた俺は、そこで質問をする。

 

「それはそうと、前からあの住処の燦々(さんさん)たる光景を見て思っていたんだけど……」

 

 そこで3人の視線が俺に向けられる。が、俺は構わず話し続ける。

 

「体躯がさほどでもなかったあのモンスター(ドスジャグラス)を前に、あんなに簡単に破壊されるものなのか? 俺にはどうも腑に落ちないんだよね」

 

 本当は補足として、オブジェクト耐久値について自身が思う常識とやらを語るつもりだったが、多分、ケインやサユリはちんぷんかんぷんに思うだろう。そう察してあえて言わなかった。

 両腕を組み、う〜ん……、と唸りながら暫し考え込むミルク。その後、彼女の口から自身の考察を述べる。

 

「多分だけど、ボク達が作ったものだから構造的に壊れやすかったのかも。それに作ったと言っても、基本的に石と石を積み重ねていただけだし」

 

 そこで思い当たる節があったのだろう、サユリが遠慮がちに言う。

 

「あの……、私、その住処とやらは見たことないですけど、それを言うならこの場所で建てられていた石造りの家も大体そんな感じの作りになってましたよ」

 

 周囲を見渡し

 

「そう言えば、確かに」

 

 破壊されていたとは言え、作りがあの遺跡群と大して変わらない建造物をよくよく視認した俺。近くの家の壁へと歩み寄ると、そっと壁に手を当てた。ちょっとオブジェクト耐久値を確認するつもりだったのだが、そこで気になったのだろう。ケインが近寄って来、覗き込むように尋ねてきた。

 

「何してんだ? ユウト」

「ちょっと、ね。確認したいことがあって」

 

 言われてケインが見守る中、ステータスを表示させると、2つの項目が露わに。そこで、俺はオブジェクト耐久値を選択。表示させた。

 

「やっぱりか……」

 

 呟く俺。眼前に表示された数値には、予想通りと言ったところか。耐久値が50を下回っていた。つまり言うところの、あの遺跡郡とほぼ同じ耐久値であったのである。

 

「やっぱりって、どう言うことなんだ?」

 

 呟きに首をかしげるケイン。ん、と言った後に彼と向き合い、俺は知り得た情報をもとに話す。

 

「ああ、まあ、お前もあの遺跡群の惨状を見ただろう?」

「あ、ああ。まあ、な。……で、でも、それとそのオブジェクト……なんたらとどう言った関係があるんだよ? 俺にはその専門的な表記についてはさっぱりだぜ」

「だよな。じゃあ、今から説明するけど、この数値(オブジェクト耐久値)はいわばオブジェクトの体力ケージみたいなものなんだ」

「オブジェクトの体力ケージ? んー、つまり、アレか。プレイヤーで言うところの体力ケージみたいな」

「そうそう。まあ、そんなところだな。察しがいいじゃないか」

 

 さすがだよと言わんばかりに指摘する。だが、ケインの反応は違った。

 

「なんとなくそう思っただけだよ。体力ケージ、って聞いたから、俺もそのくらいは何となく予想が付いたよ」

「じゃあ、話が早いな。要するに――」

 

 ――とそこで、サユリが俺の言葉を遮って、調子に乗って持論を述べてしまう。 

 

「つまりアレですよね。そのオブジェクト耐久値がなんらかの攻撃を受けて0になったら、破壊されてしまう的な。プレイヤーで言うところのキャンプ送り(ゲームオーバー)的な感じと同じと言うか」

 

 思っていることを先に述べられてしまったからだろう。俺は言葉を詰まらせてしまう。

 

「あ、ああー。まあ正解だな。それも100%」

「やったー!!」

 

 なぜかウキウキウキになり喜ぶ彼女。そんなサユリの喜ぶ姿を初めて見たことに意外性を感じてしまってか、俺は唖然としその場で固まってしまう。その間、内容を理解したのだろう。

 

「なるほどねぇ。そう言う意味だったのか」

 

 と両腕を組んで頷いた。そして――

 

「てことはよ。つまり、この数値が低いこのオブジェクトは破壊されやすいってことで。……あー、なるほどね。だからあの遺跡群は」

「まあ、おまえが想像した通りだな」

「なるほどなるほど、了解。これで100%理解できたよ」

 

 そう何回も頷く。俺は彼らに十分理解させることができたことにどこか満足すると、ここにいてもしょうがないと感じ、切り上げる意味も込めてステータス画面を閉じた。

 

「分かったなら、さっさと――」

 

 が、そこでさらに気付いたことでもあったのか、

 

「……でも、まてよ。耐久値が低いってことは、つまり……」

 

 何を思ったのか、ケインはミルクの方へと視線を向けると、ジト目を送りつけた。一方、対するミルクはそのことに身構えてしまい――

 

「な、なんなのにゃ?」

 

 しかし、ケインは、はぁ、とため息を漏らすと、ポツリとつぶやいた。それも皮肉の意味を込めて。

 

「ボロッちい作りだな」

 

 聞こえないよう、口元で小さく言った呟き。対するミルクは、反発する。

 

「むっ! き・こ・え・た・ぞ~!! ボロッちいとはなんなのにゃ! ケイン!!」

 

 怒り口調だったためか。彼を呼ぶ時の名前の語尾に付ける、殿、がすっとばされていた。まさに同胞を侮辱されたと解釈し、本気で怒っているようだった。しかし、当の彼はそんなことをお構いなしに思ったことを続けて口走る。

 

「だってそうだろう。耐久値が低いと言うことは、いざ(モンスターに)襲われた際、一気に壊滅することを意味するじゃないか。現にめちゃくちゃにされちゃってはいるけど」

 

 思ったことをすぐ口走ってしまう辺り、彼らしい一面なのだが、ある意味、それは他者とのトラブルになり兼ねない短所でもあった。現に公開祭の時だってそう。当初、知り合いでもなんでもなかったJ.Oを怒らせたと言う苦い過去を持っているからだ。

 フレンドリーな性格なのはいいことなのだが、まさにその点だけがたまに傷であった。

 

「ぐぬぬぬぬ……。ボク達の苦労をなんだと思っているのにゃ」

 

 具の字も出ないミルク。彼らの苦労をなんとなく聞いていた俺は、そこでケインが言いたい気持ちを理解していたものの肩に手を当て止めにかかった。

 

「おいおい、その辺にしておけよな」

「だってよー」

 

 しかし、俺は首を横に振った。もうよせよ、そう言う意味合いも込めて。

 

「仕方ないな」

 

 彼は渋々と言った表情を浮かばせて、それ以上は口をつぐみ何も言わなかった。俺としては、本当のことを言えば、パーティー開催まであまり時間がないこと。そのこともあり、こんなくだらない痴話(ちわ)喧嘩であまり時間を盗らせたくなかったし、何より、どうでもいい喧嘩に突き合っているのもめんどくさいように思えたからであった。

 ケインが身を引いたことにより、さっきまで憤慨していたミルクも、そこで一旦、はぁと息を吐き、冷静になる。しかし、その表情からは、他に文句を言いたげそうな苛立ちが見え隠れしていた。

 2人が離れたことにより、傍から見守り何も喋れないでいたサユリは、そこで話の区切りを付ける意味合いも込めてこう言う。

 

「ささ、早くいきましょう。長老さん達も待っていることだし」

 

 その様、まさに仲裁に入るような感じであった。そのこともあり、彼女の言われるがまま

 

「お、おお。そうだな」

 

 ミルクに反発して怒っているわけではなかったケインは、ここで冷静に答え、それを皮切りに俺たちは長老の待っているであろう場所へと向かうことになった。

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