モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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5章:託された想い・2話

 

「大体、こんなものか~」

 

 内装の最終仕上げの前段階、細かなデコで彩られた部屋の中央に大きなジャックランタンを配置して一息を突く。後はこのジャックランタンにどう装飾するか。自分の役割としては、ただ、それだけとなっていた。

 

「こっちも準備できたぜ」

「同じくにゃ」

 

 玄関先でデコ配置担当を担っていたケインとミルクが、揃って戻って来、OKのサインを出す。そして、目の前のジャックランタンを見たケインは、少し驚きの声を上げる。

 

「お、なかなかでっけぇ~の仕入れて来たな」

「まあな」

「このくらいの大きさなら、4人分の装飾、好きなだけ飾れそうだにゃ」

「だろう。手に入れるのに、なかなか苦労したんだぜ」

 

 そう自慢する俺。というのも、このジャックランタンは特注であり、ミナガルデ中の一般店舗にはなかなか売られていなかった代物だからである。

 

 どこで仕入れたか。

 

 それは、たまたま見かけた骨董品店舗にて、タイムセールスで販売したのを目撃。そこで偶然にもこの特大サイズのジャックランタンを発見。即購入したからに他ならないからであった。

 比較するに、購入したこのログハウスのお値段よりかはだいぶマシだった。

 しかしそれでも、金額はバカにならないくらい高く、ざっと100万zはくだらないほど。4人全員が一つのデコに好きなように装飾できるよう、俺がじきじきに大枚はたいたようなものであった。

 

「そうみたいだな。この大きさ、そんのそこらの店には売られてそうにないみたいだしな」

 

 外見だけで判断したケインがそう答える。

 

「さて……早速、始めたいところだが……」

 

 続きを言いかけた俺は、そこで別室の方へと向いた。触り心地のよい生地で仕上げられたカーテンの向こうの部屋。そこは3人が寝る部屋となっており、その部屋には未だに寝ているであろうサユリがいた。彼女の容態を気になって向いた俺は、様子を伺うべくケインとミルクの方へと向く。

 

「ちっとどうなったか診てくるわ。お前らは自分が何を装飾したいか先に考えててくれ」

「あいよ」

「わかったにゃ」

 

 二人の了承を得た俺は、早速、そのカーテンへと歩み寄った。

 はらりとカーテンをめくりつつ

 

「どうだ?」

 

 と、具合を尋ねる。視線を寝ているであろう彼女の方へと向くと、すでにサユリは起きていた。こちらに背を向けベット上で端座位になっていたサユリは、何かしている様子であった。

 

「あ、な〜んだ、起きていたのか」

 

 そして

 

「もう具合の方は大丈夫なのか?」

 

 しかし、サユリは何かの作業に夢中になっていたのだろう。返事がなかった。俺は、ん、と首を傾げ気になってゆっくりと彼女に歩み寄る。

 

「サユリ……サユリ? おーい!」

 

 すると流石に気付いたのだろう。振り向いて

 

「あっ、ユウトさん」

 

 と、驚いた表情を見せた。そんな彼女の傍ら、ふと視線がサユリの見ていたソレに行ってしまう。ソレは画面であり、全身と脳のスキャン画像。そして、何かを示すパラメータが表示されてあった。見るからにソレは自身の自己診断画像であり、俺はポツリと何気なく呟いてしまう。

 

「ん? バイタルモニター?」

 

 すると、サユリは視線をチラリと見ていた画面へ。直後、慌てふためき、速攻で画面を閉じた。しかもどこか誤魔化すかのように捲し立てる。

 

「あ、いや、これはなんでもないの! そう、なんでもない。だから、気にしないで。それよりも――」

 

 彼女の挙動不審の意味がかさっぱり分からず、疑問符を浮かべまくる俺。それをよそに、サユリは180度話題を捻じ曲げ、話を続ける。

 

「ところでどうなったの? あの後」

「あの後って?」

「ほら、あの後だよ。私が倒れて――、って、ここは? それよりも、パーティーは?」

 

 何かに動揺しまくっているのだろう。彼女の言っていることがややめちゃくちゃになりかけていた。ともかく俺はサユリを落ち着かせようと、とりあえず質問には端的に答えた。

 

「ミナガルデのログハウスだ。それよりもまずは落ち着けって。なんか動揺しかけているぞ、おまえ」

 

 すると、自覚ないのか

 

「えっ⁉︎ 私、動揺なんて……」

「してるぜ。多分、自覚ないと思うが」

「そ、そんなはずは……」

 

 言われて、そんなまさか。そう言わんばかりの訝しげな表情を浮かべる。納得いかなさそうなサユリは、自身を見つめるためなのか、目を閉じ胸に手をそっと添えた。

 

「ともかくなんで動揺したのか分からないけど、さっき見た画面のことは見なかったことにするよ。だから、また、少し落ち着いたら、一緒にデコろうぜ」

「う、うん……」

 

 戸惑う表情を見せつつも、彼女は頷いた。

 

 (もうしばらくはそっとしておこう)

 

 心配りから、そっとカーテンを閉めた。

 

「っで、どうだった?」

「一応起きてたけど、もうしばらくは安静にした方がいいかもな」

「そっか――。でも、なんだったんだろうな、突然倒れたりなんかして。昨日だって、お前が言うにはふらついたとか言ってたしな」

 

 俺だけでなく、ケインも不安を口にする。無理もないのだろう。同じ仲間として、当然の心境に違いなかった。

 

「ボクも、なんだか心配だにゃ」

 

 NPCにしては珍しく、あたかも心があるような感じでミルクも心配していた。本人には言わないけど、多分、システム的にそう解釈するようプログラムされているとは思うが……。

 

「どの道、俺たちにはどうすることもできないさ。ただの疲れからくるものだけだったらいいのだがな」

 

 自分で言うのもアレだが、確かにどうすることもできなかった。こればかりは、現実世界の人たちがなんとかしてくれることを祈るだけでしかない。一プレイヤーでしかない俺たち。寄り添ってあげるくらいにしかできないことに、歯がゆい感じを覚える。

 だけど――

 

「ま、とりあえず心配しても仕方ないから、俺たちは俺たちでできるだけサユリに無理させないで行こうぜ」

「そうだな」

「了解だにゃ」

 

 心配したところでどうすることもできないことに、二人は仕方なく頷いた。

 

「さて、そうと決まれば、俺たちは先に装飾作業を進めておこうぜ」

 

 その言葉を皮切りに、早速、サユリ抜きで仕入れてきたジャックランタンに飾り付けをする作業を始めた。

 

 

 

 

 頭の高さかそれよりも一回り大きいジャックランタンに、多種多様の装飾が施されていく。その中で、特に目、口共に灯された蝋燭は、この巨大デコをより見栄えさせるにはもってこいのものであった。暗かった内部に仄かに明るくなるジャックランタン。まさに今回のイベ(ハロウィン)を象徴するものとなった。

 一段と見栄えが良くなっていく中、頃合いを見計らって作業の手を止める。

 

「おまえら飾り付けに夢中になるのはいいけど、サユリの分も空けておけよ」

 

 そこで、ハッとなって我に返ったケインは、いかんいかん、と口にして返事する。

 

「了解だ、ユウト」

 

 続けて、足元のデコ配置を担っていたミルクも、彼に続けて答える。

 

「分かったにゃ」

 

 2人が揃って答える中、先ほどの呟きを聞いていた俺は、ケインを茶化すようにツッコミを入れた。

 

「おいおい。もしかしてさっきまで忘れてたな~ケイン?」

 

 すると、ケインはどこかとぼけたように反応。

 

「うう、……なんのことかな~」

 

 しまいには口笛を吹く始末である。まさにサユリの分を残して置くことをすっかり忘れていた上、それをごまかそうとしていた反応であった。そのことにより、もう一段とツッコミを入れても良かったのだが、彼のその心情を見抜いていた俺は、それ以上はあえて責めないで上げた。

 その後、暫く黙々と作業を続けていき、ようやく一段落ついた頃。俺は、ふぅ〜、と息を吐き額を拭った。

 

「ざっとこんなものか」

 

 上出来と言わんばかりの仕上げに、自己満足に浸る。ケインとミルクの方を見ると、彼らも彼らで、経った今仕上がった感じであった。それゆえ――

 

「完成ぇ~、と」

「できたにゃ」

 

 2人して完成の合図を出す。そのことにより、よーうし、これで後はサユリを待つだけ。そう思った矢先――

 

「おっ、サユリちゃん、おはよー」

 

 と気前よく挨拶するケインの声が聞こえてくる。彼の声を聞いた俺は、思わず声をかけた方を見る。すると、そこにはサユリの姿が。さっきまでとは違い、どこか落ち着いたような。しかし、なんだか申し訳ないような表情を浮かべた彼女がそこにいた。

 

「もう、大丈夫なのか?」

 

 声をかける俺。サユリは合いそう笑いを浮かべて応える。

 

「3人ともゴメンね。心配かけたよね?」

「俺は別に問題ないさ」

 

 特に大した心配はないさと言わんばかりに、そう素っ気なく返す。一方、ケインは余程心配してたのか、彼女を問い詰める。

 

「本当に大丈夫なのか? 俺からしたら――」

 

 しかしそこで、俺は手で彼を制止させ、向き直って首を横に振った。余計な心配はかけさるな。そう言う意図で無言のうちに伝えたつもりだった。一方、ケインはそのことを理解したのだろう。それ以上は、話さなかった。

 向き直って

 

「まぁ、とりあえず回復してよかったよ。飾り付けスペース、ある程度残しておいたし、それにパーティー開催までもう少し時間あるから、やってきな自分の分を」

「うん」

 

 そこは素直に頷いた。しかし、いざ、その空きスペースを見ると、あまり十分とは言えなかったのだろう。サユリは苦笑いを浮かべるに留めた。

 その様子を見るや、早速、飾り付け作業を始めようとするサユリの傍ら、俺は肘でケインを突っついた。

 

「何が了解だよ。あまり空きスペースが残ってないじゃないか」

 

 彼女に聞こえないよう小言で不満を口にする俺。ケインは問題ないさと言わんばかりに答える。が、その口調は、どこか自信なさげであった。

 

「だ、大丈夫さ、きっと。それなりに残しているからさ。例えば……」

 

 そこで、証明するかのようにある箇所を示す。

 

「ほらっ、あそことか。それに……こことかも」

 

 示す先、そこは自分が飾り付けた装飾品と装飾品の隙間。大きいものは無理でも、小さい物ならなんとか飾り付けられるんじゃないか、と言わんばかりの僅かなスペースであった。

 

「あんなスペース……。残したところで無いようなものじゃ無いか」

 

 そこで、俺たちのやり取りを聞いていたミルクが参戦。顎に拳を当て、箇所を吟味するかのように観察する。

 

「できなくはないけど、かなり制限されちゃう感じだにゃ。パッと見たところ」

「ほら。ミルクだって言っているじゃないか」

「ぐぬぬぬ……」

 

 俺とミルク、二人に指摘され言葉に詰まるケイン。だがしかし、そこは気合いで反論に打って出る。

 

「だけどよ……」

 

 しかし、いつの間にか俺たちの声が大きくなってしまいサユリに聞こえてしまったのだろう。作業しながら

 

「いいよ、二人とも!」

 

 その悲痛そうな声に、口論になりかけていたであろう俺とケインは、彼女の方へと注意が向く。

 

「いいの、いいのこれで。どの道、遅く来た私が悪いんだから」

「でもさ……」

 

 そこで一旦作業の手を止めると、立ち上がってこちらに向き、どこか寂しそうな表情を見せる。

 

「でもさあ、何? ケインさんが少なからずだけど、私の分も残してくれた。それだけでも、私は嬉しい。それに、ね」

 

 顔を俺に向けて

 

「感謝しているの。倒れた私を介抱しただけでなく、あまり詮索しなかったことに」

 

 それを言われ、内心、別に詮索する気なんて……。ただ、ほんの少しだけ、サユリが見ていた画面が気になっていたことは確かであったが、と思った。それゆえ、若干、身構える形になってしまい、一言二言

 

「そ、そうか」

 

 とだけ言っておく。

 

「だからともかく、そう言うことなの。だから別に空きスペースの有無なんて気にしていないからね」

 

 はっきりとした考えに気圧された形で、俺とケインは揃って固まってしまう。思うに、こうもはっきり言われることなんて、サユリもなんだか俺たちと接しているうちに変わってきたんだなあと実感しざるをえなかった。

 

 しばらくして……

 

 サユリの飾りつけ作業も完成に近付いてきた頃、作業する彼女の傍ら、俺はふと思ったことをミルクに話す。

 

「ところでさ~」

「なんだにゃ?」

 

 ケインとミルクの注意が俺に向く。その中で

 

「ふいに思ったんだけどさ。お前の前のパートナーって、なんでお前を捨てたんだ? 気に病むなら言わなくてもいいんだけどさ」

 

 そこでサユリが、驚きの声を上げる。

 

「えっ!? ひどい。何それ? どういうこと?」

 

 続けてケインまでもが、耳を傾ける。あの時、その場に居合わせており、俺とミルクの間での会話、掻い摘んで聞いていたはずなのに、だ。恐らく、彼自身も、そのことに関して気になったんだろう。

 

「その話。あの時、多分聞いたと思うけど、確かに気になるな。うんうん」

 

 3人の疑問。それらを向けられたミルクは、何やら話さなくてはいけないような雰囲気に囚われてしまったのだろう。思い出したくないような苦い表情を浮かべ、力強く両目をつむった後、意を決する。

 

「分かった、分かったにゃ!」

「いや、無理にとは言ってないけど」

「私も……」

 

 しかし――

 

「それでも、なんだか話さなくてはいけないような雰囲気だから、ここは言うにゃ」

「いや、だから……」

 

 だが、ミルクは俺の制止を振り払うかのように話し出す。それはまるで、辛い過去を乗り越えようとするかのように。

 

「あれは確か……公開祭当日からだったかにゃ」

「おーい」

 

 無理しなくてもという意味合いで呼びかけた言葉。けれど、ミルクの告白は止まらず。まさに独り言のように話し続ける。

 

「当時、ネコバァにお世話になっていたボクは、そこで一人のハンターに雇われたにゃ。名前は……確かDION(ディオン)とか言っていたにゃ」

「DION?」

 

 当然だが聞き覚えのない名に、疑問符を浮かべる。しかし、次の話から、俺たちの接点が見えてきた。

 

「そうだにゃ。そんでそいつの話曰く、少数からなる猟団で、うーんと、確かデスペラードのリーダーを務めていたにゃ」

 

 そこで、うる覚えだが猟団名に見覚えがあった俺は、公開祭当日に行われた焼き肉早焼き大会の結果発表の時を思い返す。

 

「デスペラードって……確か」

 

 続けてケインも、記憶に残っていたのだろう。

 

「ああ、間違い無いと思うぜ。俺の記憶が正しければ、確か上位に位置していたはずの猟団だった気がする」

 

 そこで、DIONのことはおろか、デスペラードのことさえ知らなかったサユリが尋ねる。

 

「二人とも、その猟団のこと、何か知ってるみたいだね」

「え、えー、まぁな」

 

 とどこかしどろもどろになってしまう俺。ケインもややどう解説していいのか戸惑ったが、なんとか順序立てて話す。

 

「あー、知ってるというか何というか。公開祭当日に行われたイベントの結果発表で上位にその猟団がいたのを見ただけなんだけどね」

 

 そこで俺は耳打ちする。

 

「説明助かったよ。人に説明するのは苦手だからさ」

「いやあ、なんてことないさ。そのくらい」

 

 サユリに向き直る。 一方、サユリはケインの説明に理解を示したのか、

 

「なるほどね。てことは、直接、出会ったわけでもないんだね」

 

 今度は俺が答える。

 

「ま、そう言うことだな」

 

 そこでミルクが咳払い。

 

「続き、いいかにゃ?」

「あ、ああ、そうだな。で、それからどうしたんだ?」

 

 続きが気になることを示す俺。俺、ケイン、サユリの3人の視線が向けられる中、ミルクは淡々と再び語り出す。

 

「えーと、その後、正式にDION達デスペラードの仲間になって、最初はみんなに好かれる感じで接してもらってたにゃ。ただ、彼だけは、どこか自己顕示欲が人一倍強い面が見え隠れしてたにゃ」

 

 そこで俺が、小首を傾げ疑問を投げかける。

 

「自己顕示欲?」

 

 と。話を聞いていたケインは、その疑問に的確に答える。

 

「まあ、端的に言うと、目立ちたがり屋、と言うやつだろう」

「つまりはそうだにゃ。っで、話を続けると、それで……」

 

 そこで表情が一段と険しくなる。それはまさに、これから語るであろう悲劇を象徴するかのように、だ。

 

「あの事件を境に、団全体の雰囲気がDIONを中心にガラリと変わってしまったにゃ。アットホームに近いような雰囲気から、こーうなんと言うか、殺伐とした雰囲気に」

 

 〝あの事件〞というのは……。

 

 思い当たる節を辿って行く。その中で、大きな事件として印象に残っていたのは、やはりデスゲームが始まったあの瞬間。多分、そのことを指しているのだろうか。そんな事をふと思っていると、ケインが質問を投げかける。

 

「あの事件? って」

 

 すると、ミルクは当たり前のように話す。

 

「デスゲーム事件だにゃ。それしかないにゃ」

 

 それを言われ、やはりなあと俺は納得する。しかし、ケインは

 

「それしかない、って。他にもあったかもしれないじゃん。事件なんて」

 

 そこでサユリが、ミルクに共感したようで上の空で話す。

 

「でも、印象に残っている事件と言えば、確かにデスゲームが始まったあの瞬間だよね」

「まあ、確かに。印象に残っているとしたら……」

 

 他に思い当たることがなかったのだろう。ケインはサユリの意見に賛同した。

 

「で、話を整理すると、つまりアレか。そのデスゲーム事件の影響で、団全体の雰囲気がまずくなったと」

「つまりはそう言うことだにゃ」

「と言うことは、要するにだ。団全体の雰囲気が悪くなって、どう言うわけかミルクだけがのけものにされた、とか」

 

 勝手な解釈をするケイン。けれど、ミルクの答えは往々にして半々であった。と言うのも――

 

「極論を言っちゃうとそうだけど、でも、そんな単純じゃないにゃ」

 

 そして、思い返して湧き出るどす黒い感情を吐き出さんばかりに勢いづける。拳を強く握りながら。

 

「あれは……まさしく使い潰しのゴミ同然のような扱いだったにゃ」

 

 ゴミ同然とは?

 

 キーワードから連想される事柄。まともな扱いじゃないことを、イメージさせられる。それ故に、次に出た言葉は、案の定、俺たちにはとても考えられないことであった。

 

「デスゲーム以来、すっかり人が変わってしまったDIONは、ボクを奴隷のようにこき使うようになり、しまいには彼の考えに賛同しない仲間から装備一式を奪ってくるよう言われるようになってしまったにゃ。それもこれも、より強そうな装備を着こなし、他人から注目されたいがために。そして、自分だけがデスゲームにおいて、生き残ろうとするがためににゃ」

 

 それを聞いたサユリは同情したのだろう。

 

「ひっどーい! 何それ」

 

 続けてケインも、ほぼ同じことを述べる。

 

「最低だな、そいつ。仲間をなんだと思ってるんだろう」

 

 しかし、二人が同情の眼差しを向ける中、俺だけは内心酷いやつだなぁと感じながらでも、案外、不思議なことに冷静であった。

 

「まぁ、自己顕示欲だっけか。多分、そのこだわりみたいなのが、デスゲーム事件以来、より強くなった、ってことだろう」

「でもよ、いくら拘りが強くなったからって、仲間の装備を同じ仲間をこき使って奪うとか、酷くないか? 絶対に正気の沙汰とは思えないよ、そいつ」

「確かにな〜」

 

 その点に関しては頷けた。

 

「だけど、賛同しない者が出たと言うことは、反対に賛同した者とかはどうなんだ? 普通に考えれば、誰一人として、そいつについていくヤツなんかいないと思うけど」

 

 するとミルクは、そこで意外なことを言う。

 

「実はそうでもないにゃ」

「えっ、てことはまさか……」

 

 驚きの表情を浮かべるケイン。サユリも同じく驚く。

 

「そうだにゃ。意外にもDIONに賛同する者は、何人かいたにゃ」

「え、マジかよ」

「ほんとにー」

 

 流石に2人はこれには、ドン引きを隠せなかったようだ。その表情からして、よくそいつについていくヤツなんていたなぁ、と言わんばかりである。

 

「でも、1人を除いて皆、仕方なくみたいな感じだったにゃ」

 

 それを聞いてなんとなく理解した俺は、軽く鼻を鳴らす。

 

「そう言うことか」

 

 また、サユリやケインも何処と無く理解したらしく

 

「それを聞くと、なんか分かるような気がするな」

「確かに。自分の身を守るためと考えれば、賛同しざるを得ないな」

「でも、1人、そうでもないとか言ってたけど、そいつは周りとかとは違うのか?」

 

 確かに。1人だけDIONに対して捉え方が違うというのは、気になるものであった。ミルクは少しだけ、う〜ん……、とか言って戸惑った表情を見せると

 

「違うと言えば違っていた気がするにゃ。でも、だからと言って親友みたいな関係でもなかったにゃ」

「ん? どう言うことなん?」

 

 疑問に思うケイン。ミルクは記憶の糸を手繰り寄せるように話す。

 

「彼は……どちらかと言うと、DIONに忠誠を誓っていた感じだったな」

「忠誠? 言うところの主従関係とか言うやつか?」

 

 とケイン。サユリもこれには、あまりいい顔をしなかった。

 

「ま、そんな感じだにゃ」

「まぁ、そいつの名前までは知る必要ないと思うけど、どの道、忠誠を誓っているって地点で、DIONとか言うヤツと同等、ロクなヤツじゃないな」

 

 コメントする俺に、ケインとサユリは頷き、サユリは感想を口にする。

 

「どの道、私は関わりたくないな〜」

 

 続けてケインも

 

「俺も。そんなロクでなしとは関わりたくないぜ」

 

 とか言って、そこには賛同した。

 

「っで、話を戻すけど、ミルクはどうなんだ? 多分、捨てられたと言うから、反対か何かしたと思うけど」

 

 すると彼女は

 

「当然、彼の考えとは真っ向から反対だったにゃ。でも……」

 

 そこで声のトーンが一段と下がり、その表情にはどこか寂しいような感じを匂わせる。それもそのはず、ミルクの口からは

 

「変わってしまう前のあの優しかった頃のDIONのことを思うと、いくら反対していたとは言え、自分から出ていくことには辛いものがあったにゃ」

「なんだか複雑な心境だなぁ、それは」

「同感」

 

 2人はミルクの立場になって見て、口々に心のうちを一言述べる。

 

「でも、捨てられたと言うくらいだから、どっかで見限られたんだろう?」

「そうだにゃ。その日までは、少なからずボクの席を置いてくれてたけど、あのクエストを機に捨てられることになってしまったにゃ」

 

 そして、振り返り天井を見上げて思索しながら語る。それはまるで辛い過去と向き合うように。

 

「順を追って話すと……クエスト名までは分からなかったけど、クエスト中、あの凶暴なモンスターと出くわしたにゃ。その際、たまたまそのクエストに居合わせていたハンターに助けられて、その場はなんとか逃げ切れることができたにゃ。そして、そのハンター曰く、自分たちが相手したモンスターはアンナジャフ と言って、現状の装備では敵わないと言われたにゃ」

 

 確かに。初期の頃の装備では、アンナジャフと戦うには無謀と言わざるを得ないな。聴きながら、俺はそう共感する。ミルクの思索は続く。

 

「一時避難する中、デスゲーム以降、DIONとの関係悪化が進んでいたボクは、そこで彼が良からぬ考えを口にするところを耳にしたにゃ」

 

 そこで親身に聴いていたケインが

 

「良からぬ考え? まぁ、どうせ聴いた限りだと、そいつがそのハンターの装備を奪って自分の物にしたい、とか言う感じだろうけど」

 

 するとミルクが、あっさりと答える。

 

「そう。そのまさかにゃ」

「げげ、マジかよ」

 

 ミルクの答えに、ケインはそうドン引きを隠せなかった。なんとなくDIONのことを訊いてはいたが、俺もまた彼と同じ気持ちになる。

 

「っで、そいつのことだろうけど、当然のように命令されたんだろう?」

「対立関係にあったとは言え、当然、そうだにゃ。でも、ボクはその命令を拒もうと必死だったにゃ。けれど、彼の巧みな心理誘導の前に、結局、命令を呑まざるを得なくなってしまったにゃ」

「じゃあ――」

 

 そこで乗り出すケイン。しかし、ミルクは彼の次の言葉を遮るかのようにその続きを話す。

 

「やってないにゃ! 絶対に。……でも、正直、やりかけたのは事実だにゃ」

「踏み止まったってわけか、途中で」

「……そうだにゃ」

 

 そこで、サユリがミルクを褒めたたえる。

 

「偉い! 偉いよミルクちゃん」

 

 そして、どう言うわけか俺とケインの方へ向き、同意を求める。

 

「ね、ユウトさん達も思うでしょ?」

「ま、まあ……」「う~ん、確かに……」

 

 非常識な命令に背いたのは、確かに当然と言うべきか偉いと言うべきか、なんだろうが、サユリにこーも尋ねられると、逆に返答に困ってしまう。それゆえ、ケインもその反応だと、俺と同じ感じなのかもしれない。一方、俺とケインの反応が微妙だったのか、今度はサユリが疑問を抱いてしまう。

 

「えっ? 違うの?」

「いや、別に違わなくないけどさ」

「そうそう」

「じゃあ、なんでそんな反応するの?」

 

 問いかけるサユリ。俺は微妙な心境を話す。

 

「う~ん……、なんと言うか。その……、こーも当然のことを改めて尋ねられると、返答に困ると言うか……」

「……右に同じく」

「う~……、ケイン、パス!」

 

 そこで説明がめんどくさくなった俺は、強制的に口が達者であろうケインに説明責任を押し付けた。いわゆる責任転換ってやつだ。一方、ケインもケインでめんどくさかったのだろう。

 

「えっ、俺!? 俺が説明するの?」

 

 と困惑した表情を見せる。しかし、押しつけられたからにはきちんと言わなくてはならないと思ったのだろう。俺とサユリの交互に視線をやりくりした後、

 

「あ―も―!!」 

 

 と、やけくそに叫び、いやいやながら話す。

 

「つまり、アレだ! アレ」

 

 その何とも言えない返答に、サユリだけでなく俺まで首をかしげてしまい、思わずサユリは、

 

「アレ?」

 

 と、疑問符を頭上に浮かばす。それをよそに、ケインは無理やり押しだした勢いに任せ、続きの説明責任を行使する。

 

「そうだ、アレだ。当然のように思っていたのを相手から言われると、微妙な感じに陥ってしまうアレだ」

「ええ、なんだそりゃ」

 

 俺がさっき言っていたの、ほぼそのまんまじゃないか。そう言わんばかりに、内心、ツッコミを入れてコケてしまった。一方、サユリもサユリで、ケインの返答に思わず白けてしまう。唯一、まともに受けていたのは、彼女――ミルクだけであり、ミルクは、

 

「うんうん、分かるような気がするにゃ」

 

 と勝手ながら理解したようであった。そんな中、場の空気を変えようと、ケインは強引にも話を繋げにかかる。

 

「と・も・か・く・だ! そう言うことなんだ」

「う~ん、なんというか……」

「私も……」

 

 俺はともかくとして、サユリはケインの言いたいこと、あまり理解していなかったようであった。仕方ない。このままだと埒が明きそうにないな。そう思った俺は、ここで話の流れを変えるべく行動に移す、口で。

 

「それで、話の続きはどうなんだ? ミルク」

 

 いきなりふられ、そこでハッとなり我に返った彼女。やや戸惑いつつも

 

「え? ああー、そうだにゃ。えーと、確か……」

「非常識な命令を拒みきれず命令を実行に移そうとしたけど、そこで躊躇しちゃったって話からだったな」

 

 言われて思い出したかのように

 

「あっ、確かそうだったにゃ」

 

 続けて

 

「それで実行に移し切れなかったボクは、そこでそのハンターに気付かれてしまったにゃ。なんとかその場は誤魔化し難を逃れたものの結果は失敗。そのことが仇となって、翌日の早朝、決定的な事件が起きてしまったにゃ」

「と言うと?」

「ダリルにDION以外人気無いところに呼び出されて、……ダリルの目の前でDIONから〝この役立たずのゴミぐず猫″と罵られた上、……グスンッ、……未だに……グスンッ、名前を決められてなかったボクは、……そいつから、クズ、と名付けられ、ボコボコに殴られた挙句、その場所が断崖絶壁だったこともあり、そこから……投げ捨てられてしまったにゃ」

 

 全てを吐き出し吐き出すかのように語ったミルク。もはやその表情は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。その凄惨さを終始聴いていたサユリも、自身も仲間から見捨てられたといったほぼ同じ境遇を経験していたことから、半ば同情していたのだろう。半泣きになっていた。故に――

 

「酷い‼︎  酷すぎるよ、それ。あんまりだよ」

 

 続けてケインや俺も、気持ち的に引いてしまい

 

「ひでぇな。いくらなんでも」

「うわ~、想像に度し難いな」

 

 と口々に漏らした。

 

「でもよ、崖から落とされたんじゃあ、ただでは済まないよな」

 

 とケイン。俺的には口には出さなかったが、NPCだけに、システム上、死なないとは分かってはいたが、彼が言った通り無事では済まなかったはずだよな。と、同じく考えさせられてしまう。しかし、ミルクの反応は意外なもので――

 

「それが、意外にも、若干、溺れかけた以外、なんともなかったにゃ。と言うよりも、気が付いたら、ふかふかの藁の上で寝かせられていたにゃ」

「てことは、誰かが介抱したってこと?」

「つまりはそう言うことだにゃ。誰だか分からないけど、とにかく助けられたのは事実で、そこからの流れであの元ネコの住処でお世話になったというわけだにゃ」

 

 そこで考察するに、俺は補足を付け足す。

 

「つまりだ。誰がミルクを介抱したかは特定できなかったけど、全体的に言えばあの集落のアイルー達に助けられた。そう言うわけだな」

「要約すると、そんな感じだにゃ」

「なるほどねぇ~。でも、こうして紆余曲折を経て俺たちの仲間になったわけだけど、DIONとの一件以来、俺たちプレイヤーに対しては、不信感は少なからずあったはずだよな。どうしてなんだ?」

 

 するとミルクは、どこか歯切れの悪そうな口調で答える。

 

「それは……その……つまりだにゃ。あの時も言ったと思うけど、ボク達獣人族の接し方を見て、お前達ととりあえず同行しても問題ないと思ったのがきっかけだにゃ。でも、その時は半信半疑だったのも、正直なところだったにゃ」

「まあ、そうだよな。あんなひどい目に遭ったんだから、当然と言えば当然かもな」

「うんうん、想像の範囲内だけど、分かるような気がするなぁ、それは」

 

 俺とケインは、揃って頷いた。とそんな中、サユリがミルクの今までの話を聞いていて思ったことがあったのか、質問を投げかける。

 

「ところでさー、思ったんだけど」

「なんだにゃ?」

「ん?」

 

 俺とケイン、それにミルクまでがサユリに注目する中、彼女の口からは思いがけない言葉が飛び出した。

 

「なんでミルクって名前が付いたの?」

 

 すると、これを聴いたケインが、ふいに興味を抱いたのかこう呟いた。

 

「確かに……、それはそれで気になるな。名前の由来、なんなんだ?」

 

 と。一方、俺も俺で口にはしなかったものの、内心、気になるところであった。DIONから初めて〝クズ″と酷い名を与えられてから、集落の獣人族に介抱された訳だから、多分……いや、確実にその集落で新しい名前〝ミルク″と付けられたとは思うが。

 3人に見つめらる中、ミルクは名前の由来に関しては、デリケートな一面があるのだろう。

 

「そ、それは……」

 

 とか言いながら、恥ずかしいのか、次第に頬を赤らめていった。そして、声にならない声で、ボソボソと小言で理由を明かすのだが、当然、俺たちには聞こえず。何を言っているんだ? と?マークを浮かばせる中、ケインが代表して責め立てる。

 

「え? 何? よく聞こえないよ。もっと大きな声で言ってくれ」

 

 しかし、当のミルクは恥ずかしすぎるのか、それ以上、やはり大きな声では言えずじまい。この事により、業を煮やしたケインは、さらにはやし立てる。

 

「え? 何? どうしたって? よーく聞こえないよ」

 

 しまいには、ミルクのそばまで歩み寄ってくる始末。一方、傍から見ていた俺は、その光景にやりすぎだろうと感じ始めていた。ミルク本人も、見たところ言いたくない様子。流石に止めに入った方がいいような。そう思って、ケインに近付いた。――とその時、ケインのしつこさに堪えかねたミルクが、そこで爆発。思わずと言った感じで、こーう叫んでしまう。

 

「モスの乳を飲んでいる光景を見た同胞が、ボクをそー呼んだのにゃ!!」

 

 と。対して、その告白を訊いてしまった俺たちは、そこで3人して同時に、えっ、とか言って固まってしまう。思いの丈を吐き出してしまったことで、はあ、はあ、はあ、と息絶え絶えになってしまうミルク。ケインを止めに入ろうとしたがそこで固まってしまった俺をよそに、最初に動き出したのがケイン。彼はポツリとつぶやいた。

 

「モスの、乳ぃ!?」

 

 そして――

 

「それって、まさかあの豚の。それも苔の生えた豚の……乳っ!?」

 

 なぜか、〝乳〞の部分を強調して答える。一方、そこでハッとなって我に返ったミルクは、さらにカーと顔を赤らめて、湯気を悶々と吐き出す始末。部屋中がその湯気で満たさんばかりに、超・度恥ずかしくなると、

 

「も、もーう!! ダメだにゃ――!!」

 

 とか言って、すっごく慌てて部屋の外へ。ハロウィンの街へと電光石火のごとく飛び出してしまった。このことにより、取り残された俺たち3人。言いすぎたな、流石に。と心の中で反省する中、

 

「乳、乳、ねぇ――」

 

 とか言って反芻して呟いていた。そうした中、両腕を組んでケインが何やら考えごとをする。

 

「乳、乳、か~。あのモスにそんなものあったけ? かな~」

「なんだか、責めすぎちゃいましたね、私達」

「あ、ああ。そうだな」

 

 しかし、

 

「でも、ミルクの名前の由来が、状況がどうであれ、モスのミルクをミルク自身が呑んでいたことからそう呼ばれるようになったなんて、やっぱり、――かっわいぃぃぃ!!」

 

 自分で言っておきながら、サユリはどこか白昼夢に耽るような感じで自己陶酔に浸ってしまった。反芻して考え込むケイン。意味分からなかったが、勝手に白昼夢に浸るサユリ。これはしばらく帰って来そうにないな。とか、ふと思う中、外では本祭が始まったのだろう。楽しくにぎわっている人々の声が聞こえてきた。

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