モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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5章:託された想い・3話

 ここ、噴水広場があるミナガルデ中心街から西端に位置する場所――ハロウィン行進のスタート地点会場。多種多様な仮装をしたプレイヤーで賑わうこの会場では、今、まさにこれから行進に加わろうとしている人たちの受付がひっきりなしに行われていた。そんな中、俺、ケイン、サユリの3人は、これから受付するべく長蛇の列に加わり並んでいた。

 本当はミルクも来るはずだったのだけれど、ケインが彼女の名前の由来の件で茶化しすぎたせいか、結局、外へと飛び出したっきり帰って来ず。結局、この3人で行くことになったのである。とは言え、ウェブ画面からの予約を済ませれば、この長蛇の列に並ばなくてもよかったのも然り。

 しかし、出発間近になって予約画面を開いたところ、すでに予約待ち1時間をオーバーと言った状況。このことにより、予約できる時間まで長蛇の列に並んで予約待ちをするのとでは大差ないだろうとのことで、こうして待ち続けていたのであった。

 長蛇の列を並んでいる中、丁度、列の中頃に着た頃、ケインが退屈に堪えかねて愚痴をこぼす。

 

「しっかし、なっげ~なぁ、おい。ざっと見た感じ、あと半分もあるのかよ」

「無理もないよ。出るのが遅くなったんだから。……私のせいで」

「いやいや、あれは仕方ないよ。そんな責めないでよ、サユリちゃん」

「でも……」

 

 ケインの気遣いも虚しく、表情が暗くなり浮かない顔をするサユリ。慰めにもならないとは思うが俺は声をかける。

 

「サユリの体調がどうであれ、どの道仕方ないと思うよ。なにせ人気だからな、このイベント自体」

「そ、そうだよ。だからさ……」

「……そ、そうだよね」

 

 どこか遠慮がちに答える。けれど、その表情はすでに暗いものではなかった。気を取り直したサユリを見て、俺自身もわずかばかりほっとした。――とそんな中、暫く動かなかった列が最前列から波が立つように動き始める。

 その様子に、ようやくか、と待ちわび、ケインもまた期待を込める。

 

「お、やっとだな」

 

 しかし、動き出したのも束の間、再び列は止まってしまった。わずかな距離しか動いていなかったことに、ケインが舌打ちをする。

 

「何を手どまっているんだろう……」

 

 サユリもまた、ケインに続けるかのようにそわそわとし出す。

 

「多分、色々とあるんじゃないか?」

「多分、て……。例えば?」

「そりゃあ……」

 

 そこで思いつく限りのことを述べてみる。と言っても、片手に数える程度しかないとは思うが。

 

「配布する物とか、記入事項とか……」

「なんだそりゃ? 配布物ならともかくとして、記入事項はいらないと思うけどな」

「そう言われても……」

 

 返答に困る俺。自身も、なんでこんなに列が動かなくなるほど手間取っているのか、さっぱりだっていうのに、と、内心、文句を言う。そんな中、最前列の方からどこか聞き覚えのある声がしてきた。

 

「あっ、いたいた。お久~」

 

 声のした方へと思わず視線を向ける。するとそこには、なんと! ジャックランタンのトレードマークを模したギルドナイトの衣装を着こなした女性ハンターが。それも、よくよく見ると、いつぞやのクエスト出発前に再会したことのあるセツナがそこにいるではないか。――とゆうのは、このゲームの仕様上、アバターと現実のセツナが同じ顔をしていたお陰で気付けたのだが――俺は思わず拍子抜けたような表情をしながら呟いてしまった。

 

「あ、セツナ……」

 

 そして、ケインもまた彼女の呼びかけに応える。それも気軽に

 

「おっ、セツナじゃないか」

 

 と。そんななか、初対面であったサユリは2人に問う。

 

「2人とも、知合いなの?」

 

 俺とケインは、揃って視線だけを彼女に向けて、

 

「ま、まあな」「ちょ、ちょっとな」

 

 そして、その返答に不満があったのか、次はセツナが俺とケインに対して文句を言う。

 

「まあな? ちょっとな? そんな関係じゃないでしょ!! あたし達!!」

 

 言うや否や、そのまま俺とケインの耳をいきなり引っ張りだす。それも問答無用で、しかも彼女が何で怒ったのか理解できないまま。

 

「いつつつ……」

「イテテテ……、よせよせよせ……」

 

 しかし、彼女は手を離さず、

 

「この世界じゃ、千切れないでしょ!! 耳くらい」

「でも、いてぇーよ! いつつつつ……」

「右に、……同じく」

 

 苦悶の表情を浮かべて答える。一方、サユリは俺たちのやり取りを見て心配になったのか

 

「あの~」

 

 と、弱弱しく尋ねる。このことにより、流石のセツナも、ちーとばかしやりすぎたと思ったのか、ふぅ~、と息を吐き冷静さを取り戻すと、俺とケインを解放してくれた。

 

「つつつ……」

 

 揃って痛めた耳を摩りながら、さっきの適当な反応が悪かったのだろうかと勝手に解釈し謝る。とは言え、内心ではそんな些細なことで怒んなくてもな……。と、セツナのやりすぎ感を抱きながら。

 

「悪かった。悪かったよ、セツナ」

「俺も、悪ぅ~ございやした」

 

 腰に手を当てて、セツナは

 

「全くも~」

 

 と文句を垂れた。――とそんな中、さっきまでの疑問を残していたサユリが喋る。

 

「あの~、さっきの質問……」

 

 それを訊いて、ハッとなったセツナは、簡潔に俺たちの関係について解説をし出す。

 

「ああ、そうね。えーと、あたしたちは、幼馴染ってやつね。特にケインはユウトほどではないけど、OBT(オープンベータテスト)体験会の時からの知り合いかな」

「OBTの時って、それを訊くとそこまでの関係じゃないように聞こえるんだけど……」

 

 とぽつりと述べるケイン。しかし、そこでセツナはそれを黙らせんばかりに、彼をギラリと睨みつけ、その目力で抑え込む。ケインは、うぅ、と呻き声を上げるや、口元に手を当てた。

 

 〝俺は何も喋ってましぇ~ん〞

 

 その態度で事なきをえたと見たセツナは、今度は俺とセツナとの関係についても話そうとするがひと足早くサユリが口を開いてしまう。

 

「OBT体験会と言うと……」

 

 人差し指を立てウィンク。ここが肝心なところだよー、とでも言わんばかりに

 

「ま、アレね。正式リリースが始まる前に行われたイベントってこと。東京ビックサイドで行われたやつね」

 

 続けて

 

「で、話を戻すけど、あたしとユウトは、つまりその……小学校入学前に……いや待って、この話はいいか」

 

 ここで何を躊躇ったのだろうか。セツナは一旦口を閉ざして一区切りを入れた。そして、俺が彼女の態度に疑問を抱く中、改めて話し出す。

 

「ともかく、森丘中学1年生からの知り合いなの。そう言うこと」

「そう言うことって……」

「いいじゃない」

 

 (う~ん……。確かに去年からの知り合いではあるけど、そこまで親しかったけな)

 

 彼女の言っていることには、わずかばかり腑に落ちない面があった。特にさっき言いかけてたみたいだけど、小学校入学前とか。正直、セツナに会ったかどうか以前に小学校入学前の記憶がないこともあって、その地点で全くと言っていいほど覚えていなかった。

 腑に落ちず怪訝そうな表情を浮かばせる俺をよそに、セツナは自身の自己紹介がてら、サユリにも訊く。

 

「ところで、あなたはどこで?」

「えっ!?」

 

 思わずと言った驚きの表情を見せるサユリ。緊張からなのか、たどたどしい言葉を発する。

 

「私は……。そう、私は……クエスト中に2人に助けられて、それから」

 

 顔を覗くように前のめりになると、ふ~ん、とか言って、サユリの素性を雰囲気だけで詮索し始めた。そして――

 

「助けられた、ねぇ~」

「な、なんでしょうか?」

 

 気が小さくなっていくサユリ。セツナはどこか納得したような感じで、得意げな表情を見せる。

 

「あたな、もしかして初心者(ルーキー)ね。でも、やり始めてから、1、2ヶ月、と言ったところかしら」

「ま、まあ、そうですけど。でも、それが?」

 

 するとセツナは

 

「やっぱりね」

 

 そこでセツナのサユリの接し方を見てられなかった俺は、異議ありと言わんばかりに彼女に問う。

 

「やっぱりって、どう言うことなんだよ。それに、あまり彼女をいじらないでくれ」

「はいはい、分かった分かった」

 

 仕方ないなあと言った感じで、それ以上詮索するのはやめた。だが、それとは引き換えに、詮索して分かったことを話す。

 

「でも、これだけは言わせて。あなた、この2人から教えてもらったんだと思うけど、私たちのとこに来れば、今以上に、学べると思うわよ」

 

 それを言われて、サユリは意外なことを言われたのか、えっ、となる。一方、俺はさすがにそれは良くないと思い

 

「おいっ、セツナ。それは……」

 

 そこで態度を一変させて、頬笑みを見せると共に気安く振る舞う。掌をひらひらさせて。

 

「冗談冗談。でも、もし何か縁があって来るようなら大歓迎するわ。えーと、名前は……」

 

 サユリの個人情報開示が俺たちだけの設定になっているのだろう。セツナはサユリの名前が分からず戸惑いの表情を見せた。そのことを察したのか察しなかったのか、サユリが自分の名前を言う。

 

「サユリ、です……」

「サユリ、サユリちゃんね。改めて、あたしはセツナ。よろしくね」

「私、こそ」

 

 戯けなさが残りつつも、サユリは差し出されたセツナの好意的な手を握った。

 

「さて。あたしはそろそろ……あ、そうだ!」

 

 そこで何を思い付いたのだろうか。セツナは眼前にウィンドウ画面を表示させ、軽快な手付きで操作。何かを選択させると、画面を開いたまま掌に何かを出現させた。

 

「はいこれ。せっかくだからあげるね。ちょうど余っていたから」

「はいこれって……」

 

 唐突に差し出されたことに、思わず受け取ってしまう。なんだこれ? とか思っているこまに、直後、メッセージが表示。その文面にはこう書かれてあった。

 

 〝行進許可証3枚と3人分の配布お菓子セットを受け取りました″

 

「これは……一体……」

 

 するとセツナは

 

「余っちゃったの。だから、ね」

「余っちゃったって……。余った人数分、キャンセルすれば良かったのに」

「だってね……」

 

 そこで、どうしようもなかった事情を説明し出す。

 

「あたしが代表して、せっかく人数分揃えたんだけど、受付後にメッセージが来て、1人を残して全員、意味の分からないドタキャンしちゃったのよ。んで、キャンセルしようにも、また、長蛇の列を並ばなくちゃならないし。ウェブからのキャンセルも、色々と手続きとらないといけないみたいだしでめんどくさくなっちゃって」

「ドタキャンね〜。それは余るわな」

 

 事情を知ってなんとなくだが、彼女の言い分、理解する。ケインもまた、それは災難だったな。などと口々に漏らした。セツナは2人の反応を見るや、今までの不満を吐き出すかのように愚痴りだす。

 

「ねぇー、聞いてよ。ちなみにそのドタキャンした理由、酷いんだよ」

「ドタキャン自体酷いと思うけど、なんだ?」

「うちの団員、あたしを除いて5人いるんだけど、そのうち4人もがドタキャンしたんだよ! 一人はうちのパパ。他の団との集会に呼ばれたとかで急用でいなくなるし。2人の中国人姉弟なんか、知り合いから呼び出しがあったとか言って、弟連れてどこかへ行っちゃうし――」

 

 話はまだ続く。その中で、ほとんどが誰かに呼び出された系じゃないか。とかツッコミたくなる。そして最後に、

 

「特にあの変態豚頭!! モスのことが唐突に心配になったとか意味不明なこと言って、勝手にクエストへ赴いちゃったんだよ。もーう、どいつもこいつも酷いんだよ、ほんとに」

 

「変態豚頭、ねぇ」

 

 誰のことを指しているか、記憶を手繰り寄せる中、思いつくのはあいつしかいないと思った。ただ、ソロでクエスト攻略を信条としているあいつのこと。一体何があって、入団したんだろうか? セツナの話を聞きながら、そう思った。

 

「だからそういうことなの。捨てるのはもったいないから、ね」

「はいはい。そう言うことなら、受け取りましょうかね」

 

 列にこれ以上並ばなくて済む話。不幸中の幸いと言うべきか。そう言う言葉が合っているのかどうか分からなかったが、俺はとにもかくにもありがたく受け取ることにした。

 

「――ところでよ、さっきの話」

 

 そこでケインが質問を投げかける。俺、セツナ、サユリの3人が彼に向く中

 

「一人だけドタキャンしなかったみたいだけど、そいつとは大丈夫なんか?」

 

 するとセツナは

 

「ああ、レイナのことね。彼女は大丈夫。てか、レイナだけドタキャンしなかったから、今回のハロウィン、最後の最後でつまらない思い出にならなくて済みそうだけどね」

「なーんだ。ちゃんといるじゃん、相方」

 

 ケインが安堵のため息を漏らす。

 

「でも、本当のことを言えば、団員全員で行きたかったな」

「でしたら」

 

 そこでサユリが、勇気を出して意見を言う。――がしかし、

 

「うんうん」

 

 と首を横に振り

 

「今回はやめておく。サユリちゃんだっけ? 気持ちだけ頂いておくわ。ありがとね」

 

 礼を述べるにとどまった。――とその時、セツナの眼前に表示された画面から、新着を知らせるメッセージが届く。セツナはそのメールが知人からの知らせだと気付いたのか。

 

「どうやら、レイナが待っているみたい。悪いけど、ここで失礼するわ。じゃあね」

 

 画面表示を消すなり、セツナはその場からそそくさと立ち去ってしまった。

 

「なんだか、活発的そうな人だったね」

「まあな」

 

 そう返事する傍ら、俺は去っていくセツナの後姿を目で追いかけた。

 

 

 

 

 ミナガルデ中心部へと向かって行進して行く中、俺たち3人はそれぞれの仮装をしながら行進していた。互いに互いが不格好な仮装のためか、時折、クスクスと言った笑みがこぼれる。特にサユリが仮装しているグークシリーズの仮装着。前方が見えずらく、また、意外にも動きにくかったせいか、時折、つまずきそうになる。そうしたなか、ケインはそんな彼女をいじるのが楽しいのか。悪戯に押したりひっぱたりして遊んでいた。

 

「もう! やめてってば、ケインさん」

「だってよ、見れば見るほど……ねぇ」

「そ、そんな風に見ちゃいやです。もー!!」

 

 仮装していることから直接見えないながらでも、彼女の表情はまさに! その仕草から読むに恥ずかしさのあまり、真っ赤になっているに違いなかった。そんな2人のやりとりを見ていた俺は、苦笑いを通り越して、はぁ〜、と呆れた溜息を零す。

 

「でもよ、俺たち3人の中で一番様になっている点を考えると、ユウト、お前が一番らしい感じがするな」

「そうか?」

 

 素っ気なく返す。サユリもまた、振り向き様、一時転びそうになるがなんとか立て直し俺の方を向く。

 

「それを言うなら、私もそんな気がするかも。この仮装だけに全容は見えないけど、そのカボチャハットとか特に似合ってるし」

「ふぅ〜ん」

 

 鏡は持ち合わせていなかったけど、目線を上擦りハットを見ると、そんなものなのかなあと感じた。

 

「でも、それを言うなら、2人も一応、様になっているぞ。特にサユリ、その仮装、可愛いしな」

「そ、そんな可愛いなんて……」

 

 さりげなく褒めたつもりの言葉。サユリは照れ臭くなったのだろう。その場にしゃがみ込み、うずうずしながらその仕草を見せた。別にそこまで照れなくても〜とは思ったが、彼女の好きにさせた。

 

「ところでよ」

「ん?」

「話によると、この後、こいつを配りに回るんだよな? なんかセツナから沢山貰ったんだけども」

 

 そう言うや、ケインは手元から紙バックを出現させた。セツナから俺に。そして、ケインへと分けて渡した紙バック。大きさから、未だに使っていないこともあって、未開封のままだった。

 

「ああ、そうだな。えーと、イベの内容では、確かそいつを持って一軒一軒回ってそこで一つずつ渡すことになっているな」

「てことは、一軒一軒回るに当たって、どこでもいいってことなのか? その辺、疑問に思っちゃってさ」

「うーん、確かに」

 

 言われてみれば確かにそうだった。今の今までなんでそこに疑問を抱かなかっだのだろう。そう不思議に思う中、俺は適当に推測する。

 

「あ、でも、ガイドラインでは、その辺のこと確か書かれてなかった気がするから、特に気にする必要ないんじゃないかな。つまりは適当、ってことだと思う」

「ふ〜ん、なるほどねぇ」

 

 曖昧な表情を見せるケインからは納得をしたかどうか定かではなかったが、とりあえず理解だけはしたようであった。

 

「だったら、とりあえず周りに行こうぜ。その方がどの道早いしな」

 

 活気付くケイン。俺はそんな彼につられて、歩き出す。一方、俺に言われた褒め言葉に未だに浮かれていたサユリは、先に歩き出した俺とケインを見るやハッとなって我に返り

 

「あっ、まってよー‼︎」

 

 と慌てて追いかけた。

 

 そして、それから暫くして……

 

 手当たり次第、家々に訪問して回っていた俺たちは、未だにセツナから貰った配布お菓子を渡せないでいたった。7軒も回って渡すことができないでいた俺たち。流石にやり方が違うのだろうか、と互いに気づき始めていた。

 訪問する度に鳴り響く、ぶぶー‼︎  とか言う不正解時の効果音。もう聞き飽きてきた頃合いであった。その中で、最後に行き着いた一軒家で、ぶぶー‼︎  の効果音を鳴らすと、我慢の限界だったらしく、ケインが頭を悩ませ、その堪忍袋の尾がとうとう臨界点を超えてしまう。

 

「だー‼︎  一体どうなってるんだよー! 全く配れないじゃないか」

「まぁまぁ、とにかく落ち着いてケインさん」

 

 ヤケを起こしそうになっていた彼の傍ら、同じ気持ちになっていたサユリがケインをなだめる。しかし――

 

「んなこと言ったってよ、落ち着いてられるかよ。もう数軒も訪問してできなかったんだぜ。どうすりゃあいいんだ、一体」

 

 サユリがケインを宥めている中、先程まで俺自身も戸惑いを隠せそうになかったが、不思議と俺の気持ちを代弁するかのようにケインがヤケを起こしそうになっているのを垣間見ていたこともあってか、至って冷静になれていた。

 そうした中、この件に関して、顎に手を当てて俺なりに考察してみる。

 

「ん〜……」

 

 振り返って見る中で思う。今の今まで一軒一軒回ってみたが、配布お菓子を一つ足りとも渡すことができなかった。ガイドラインではこう言った注意書きとか条件みたいなことは書かれていない。このことを考えると、参加者はパニックになるのは当然なはず。しかし、それが起きていないと考えると、やはりやり方が違うのだろうか。

 そう言った結論に行き着くと、俺は画面を表示させた後、ハロウィンイベントに関するガイドラインを片っ端から目を通す。細かい文字だらけで、見えづらい感じではあったが、頑張って読み進めていく。

 そんな中、なんとか冷静を取り戻したケインが尋ねてくる。

 

「何か分かったか?」

 

 しかし、読んでいる最中であった俺は

 

「いやまだ、なんとも……」

 

 とだけ答えるに留めた。そして、読み終えた俺は

 

「やっぱり書いてないか……」

 

 と呟く。このことにより、はぁ〜、と溜息が溢れる中、そっと画面を閉じようとした。――と、まさにその時、ん? と俺は気になる箇所を目にする。

 閉じかけた手をそっとその項目へ。〝備考″の項目をクリックした。すると――

 

「こ、これは……」

 

 そう言う俺。眼前に映し出されたのは、まさにハロウィン行進に関わる簡潔的な記載が施された説明欄であった。それも関連アイコンに関するもの。文字の大きさは、より大事な情報ゆえか一回り大きく表示されており、見やすくなっていた。

 横から見ていたケインが、気になったのか声を掛けてくる。

 

「何か分かったのか?」

 

 その問いかけに、率直に答える。

 

「分かったも何も、これで今までなんで配布できなかったのかと言った問題が一気に片付けられそうな感じだよ」

「「え?」」

 

 その返答に流石に興味を抱いたのか、ケインだけでなくサユリまで歩み寄ってきた。2人が期待の眼差しを向ける中、俺は眼前に表示された画面を手に取り彼らに見せる。

 

「ほらっこれ。この箇所がそうさ」

 

 先程まで見ていた重要枠を親切に示す。ちなみにその欄には、※の注意書きとしてこう記載されていた。

 

 〝ハロウィン行進における配布物譲渡にあたって〞

 

 そしてその見出しの下には

 

 〝受付所から受け取った配布物(お菓子)は、特定のハウスでしか渡すことができません。条件としては、玄関先に紙袋アイコンが表示されており、かつ、待機中、となっているハウスのみ可能です。なお、留守、の時は、帰宅時間になるまで待機中にならないのでご注意ください〞

 

 と、懇切丁寧に書かれていたのである。そのことを受け、2人はすぐに納得。特にケインは、

 

「あー、そう言うことだったんかよ。どうりで」

 

 とか言って、今までのことを反省するのであった。

 

「ともかく、これで問題解決だね。先を急ごう、2人とも。もう大分経っちゃったから」

「そうだな」

「おお」

 

 サユリのその言葉を合図に、俺たちは先の説明書きを頼りにハロウィン行進を再開する。

 

 その後……

 

 先ほどまでとはうって違い、事は順調に進むようになった。その成果は、ミナガルデ中心部へと向かって行進するに当たり、今まで全くと言っていいほど配布物のお菓子を渡せなかったのが、なんと7軒も配るのに成功するくらい。そしてそれに伴って、仮装の評価ポイントも順調に伸ばしていった。

 現在のところ、俺が16点、ケインが14点、サユリが29点、と言った感じ。3人の中でサユリが飛び抜けて一番点数が稼げたのは、やはりそのグークシリーズの仮装における可愛さゆえなのかもしれない。そのことを思い、改めて彼女の仮装を見ると、なかなか愛着が湧く仮装だなあ、と感心するに至る。

 

「なかなか人気らしいなその仮装」

 

 ケインが羨ましそうに言い、サユリを褒める。一方、彼女は恥ずかしながら、やや自嘲気味に答える。

 

「そ、そうかな。この中では、一番かもしれないけど、他の人は分からないよ」

「それを言うならそうかもしれないけど、俺としては、だいぶ、似合っていると思うぜ」

 

 続けて俺も、ケインに続けて彼の言葉に付け加えるように喋る。

 

「同意見だな。その証拠に、ほらっ、仮装評価の点数でも、俺たちとは断然勝っているし、ね」

「そこまで言われると……」

 

 理に適ったかのような言葉を受け、サユリは少し照れると同時にどこか自信が持てたような表情を見せた。

 

「まあまあ、それはさておき。次行こうぜ次。まだまだいっぱいあると思うしさ。それに時間だってそんなに残されているわけでもないし」

「それもそうだな」

「そ、そうだね」

 

 それを皮切りに、俺とサユリは頭を切り替えると、ケインの言葉と共に歩きだす。そう、今まで散々、配布に失敗し続けていた無駄な時間を取り戻すべく、だ。本祭の一つであるハロウィン行進。いくら行進時間終了までの残り時間がまだあるとは言え、制限時間がないわけではない以上、こうしてだべっている余裕はさほど多くはない。だから、それもあって、彼の言う通りに従って歩き出すのだ。

 勿論、ただ行進を続けると共に配布お菓子を配り、仮装の出来具合の評価点数を稼いでいるだけの作業をこなしているわけではない。そうしたなかで、俺たちはイベントを満喫して楽しんでいた。どちらかと言うと、そこが重要なのかもしれない。

 ――と、そんなこんなで、それからというもの、俺たちは揃って対象のハウスを訪問し続け、それに伴ってミナガルデ中心部を通過。ゴール地点のミナガルデ東ゴール地点会場へと向かった。そのなかで俺は思う。

 

 (些細なことではあるが、こんな楽しいひと時がいつまでも続きますように)

 

 と、ね。それに、多分ではあるが、ケインだけでなくサユリ自身もそう思っているのではないのだろうか。そんな感じもしていた。本来あるべき姿を変えデスゲームへと変貌を遂げてしまったこの世界――モンスターハンターアルカディア・オンライン。死と隣り合わせでしかないこの残酷な世界において、この一時は、俺の中で決して忘れることができない思い出として残って行くんだろうなあ、と記憶に刻まれていくのであった。

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