モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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5章:託された想い・5話

 ………

 

 ……

 

 …

 

 (なかなか、寝られねー)

 

 なんとかして無心を保とするが、それができそうになかった。常に脳裏に過ぎる光景、それがなかなか頭から離れないのだ。コンテスト結果発表時に言ったあの言葉――

 

 〝気持ちの面では大丈夫だから、深く心配しないでね″

 

 何処辛そうにしつつもそれを必死で隠そうとしているサユリのあの言葉が、その都度、消しては泡の様に湧いて出てくる。その事により、なかなか寝付けなかった俺は、とうとう目を覚まし――そのまま天井を見つめた。

 まだ、部屋の中が暗かったことから、どうやらまだ深夜帯なのだろう。今何時なのかは確認せずとも感じ取れた。布団を剥ぎ取り、隣で添い寝しているミルクを起こさない様気を配り起き上がる。ベッド上で端座位になった俺は、ふぅっ、と一息吐き、暫しの間、ぼけ〜となった。

 指先で軽く空を切り画面を表示。サユリの様子が気になっていた俺は、チャットを通して気持ちの面で大丈夫かどうか訊こうとする。だが、いざチャットを開いた後、その表示された文面に書き込もうとしたら、思わず躊躇してしまいその指が止まってしまう。

 どう書き込んでいいか。それが分からなくなってしまったのだ。そうした中、添い寝していたミルクが、うう〜ん……、とか言ってぐずつくのに気付く。ふさふさとした茶褐色の毛並みにそっと手を当て、その愛くるしくも丸まった背中を愛でてやる。撫でるうちに思うのだが、その感触と言い肌触りと言い、まるで本物の生きた猫を撫でるような感覚に陥ってしまいそうで、思わず心が和んでしまう。

 静かな時が流れていき――そこで一息を入れると、

 

 (画面越しにいくら悩んでても仕方ないな)

 

 と埒が明かないと感じた俺は、チャット画面を閉じゆっくりと立ち上がった。背伸びをしてニ三回首をコキコキと鳴らすと玄関先へ。そのまま自室から出た。

 部屋を出た俺は、廊下を見渡した。廊下は所々灯が付けられてはいたが、やはり夜中だけあって薄暗くやや不気味な感じが漂っていた。

 

 (確かサユリの部屋は、ケインの部屋の隣だったような……)

 

 そんな事を思いながら、薄暗い廊下を伝って歩く。と言っても、ケインの部屋はT字廊下を挟んで俺の自室の隣であったためか、かなり近かった。さらにサユリの部屋も、彼の隣室だったこともあってすぐに辿りつけそうだった。

 廊下を歩いて行くにあたり小耳を立ててみると、ログハウス周辺からは人々の喧騒は無くなっており、すっかりと静まり返っていた。このことにより、流石の俺も、どうやらハロウィンイベントは完全に終わったんだなあと感じられた。

 サユリの自室前まで来た俺。ドアノブに手を当て、そこでメッセージが表示されたのを目にする。メッセージには〝留守〞と一言だけ表示されており、さらにドアはなぜか開きっぱなしになっていた。彼女にしては不用心だなあと意外性を感じつつも、その部屋に吸い込まれるようにして入ってしまう。しかし、自然と入ってみたはいいが、そこでいくら狩友とは言え、女性の部屋だけにハッとなって我に返った後、思わず緊張してしまう。

 おじゃましま~す、と心の中で言いながら、恐る恐る奥へと入って行き、そこで特定のアイコンが表示されているのを目にする。プカプカと宙に漂うそのアイコンは、俺の部屋にもあった部屋を明るくするための灯アイコンだったため、躊躇わずアイコンに手をかざし、とりあえず部屋を明るくしてみる。

 燭台の灯が仄かな光を放ち、部屋の隅々まで照らしていく中、部屋の装飾(デコレーション)はそのままになっていた。

 改めて人の気配がなかったことを感じた俺は、今度こそ奥へ奥へと歩いて行く。そして、部屋の中ほどに来た俺は、そこで円卓上に置手紙が合ったのを目にする。小首を傾げ不思議に思った俺は、歩み寄って手紙を手にした。

 手紙は4つ畳みにされており、ゆっくりと丁寧に広げて一文をさらっと読み上げると

 

「これは……」

 

 と一言つぶやいた。と言うのも、その文面にはこう書かれてあったからだ。

 

――親愛なる狩友達へ――

 

 ケインさん、ユウトさん、そしてミルクちゃん。突然いなくなってごめんね、びっくりしたでしょう。私、ちょっと急用を思い出しちゃって、今夜から暫くの間、あなた達から離れないといけなくなりました。暫く離れるとは言ったけど、絶対に戻って来ないわけではないので安心してね。←ここ重要です。あと、自分の体調のことなんだけど、本当に大丈夫だからあまり気にしないでね。そう言うわけで、暫くの間、席を外します。……あ、そうそう。あともう一つ注意しておくことを伝えるね。自分のことは極力探さないでくださいね。では、今までありがとう。さようなら。

 

 とのことであった。一見して、ただの置手紙のよう。だが、ハロウィンパーティーの時に見せたサユリの不可かな仕草。そして、2回ほどであるが倒れたことを踏まえると、これはまさに

 

 〝距離を置く〞

 

 そう捉えてもおかしくなかった。しかもただ距離を置くのではない。俺たち3人から、後ろめたさが合ってか、もう合わせる顔がない。そう考えてもおかしくないものであった。う~ん……、とそこで思案する中、後ろめたさの意味するところを考えた俺は、憶測ながらある結論に達し、嫌な予感が脳裏をよぎった。

 

「まさか……」

 

 アイテムリストを表示させ置手紙を回収すると、サユリの部屋を出、隣室のケインの部屋の前へと急いで来る。

 

 ドンドンドン!! ドンドンドン!! ドンドンドン!!

 

 何回か強くノック。サユリの捜索に協力してもらうべく、ケインを叩き起こそうと躍起になる。そうした中、部屋の中から弱弱しい返事が聞こえてきた。

 

「うるさいな~、誰だよ、こんな夜中に……」

 

 そして、ガチャリ! 部屋のドアが開いた。寝惚け眼で目をこすりながら現れたケイン。ようやく目を開いた彼は、そこに俺がいることに気付く。が、叩き起こされたことに不満が合ってか、第一声は文句からであった。

 

「おいおい。……ユウトじゃないか。ったく、こんな夜中に叩き起こさんでくれよ~」

「それはすまない。だが、緊急なんだ! これを見てくれ。そして、協力してくれないか?」

 

 そう言って先ほどの置手紙をケインに見せる。手にとって一文をさらりと読んで見るが、無理もないのだろう。未だに眠たいこともあってか、まともに思考が働かないこともあって何が書いてあるのか視認できないでいた。

 何回か文面の角度を調整したり、はたまた、眠たい目をこすりながらようやくと言った感じで読み進めていくと、流石のケインもこれには驚きの表情を滲ませていく。

 

「ユウト、これは……」

「察しの通りだ。だから探すの手伝ってくれないか?」

「まぁいいが。……あっ、だったら、ミルクにも協力してもらった方が」

「そのつもりだ」

 

 そして、言ったそばから画面を開きアイテムリストを表示した俺は、そこでマップを選択。手元に出現させると、見開いた後、ケインにも見せた。マップはミナガルデ全域を網羅しており、その詳細が事細かに記載されていた。

 

「この地図は、一体どこで……?」

 

 入手経路が分からなかったのだろう、ケインが訊いてくる。だがしかし、

 

「ああ、その話は後。っで、早速説明するけど。今、俺たちがいる場所がここな」

 

 有無を言わさずそう言って指示す箇所。そこにはログハウスを意味する〝家アイコン〞が表示されていた。続けて――

 

「見て分かる通り、このログハウスの前には環状大通りがあるよな」

 

 ログハウス前の環状大通り。そこは住宅街を挟んで中心にあの噴水広場があり、環状大通りはその広場を取り囲むようにして伸び、枝状に郊外へと続いていた。そのこともあり、大まかな地理を理解していたケインは、ああ、と言って頷いた。

 

「で、そこでなんだが。俺は先にミルクを起しに部屋に戻るから、ケインは環状大通りと噴水広場周辺をくまなく探して欲しいが、頼めるか?」

「ああ、いいが。っで、ユウトの方はどこを探すつもりなんだ?」

「俺は捜索範囲が広くなっちゃうけど、郊外を探しに行く。ミルクも一緒なら、多分、なんとか回れると思うから」

「そっか」

「じゃ、手筈通りにな。あと、改めて。……すまないな、こんな夜中に叩き起こしちゃって」

 

 居住まいを正し再度謝罪。しかし、ケインはそのことなんてもう気にしていなかったらしく。いや、むしろ開き直った感じでこー応える。

 

「いや~何。仲間のためだ、これくらい当然だろう。それに、俺だって心配してんだ。サユリちゃんの容体のことがよ」

「ケイン……」

 

 彼もまた俺と同じ気持ちだったんだな。ダテにサユリと共にハンターライフしてきたわけではなかったのかもな。俺はケインのその言葉に関心した。

 

「さ、決まったなら速く探しに行こうぜ」

「……だな」

 

 その言葉を最後に、ケインはログハウスの外へ。俺は自室へと、ミルクを起しに戻った。

 部屋に戻った後、未だにすやすやと気持ちよさそーにしていたミルクを目にする。しかし、起さなくてはいけないと思っていたこともあり、俺はおもむろに彼女に歩み寄った。

 激しく揺すりながら呼びかける。

 

「おい!! 起きろ、ミルク! おい! おーい!!」

 

 しかし、起きない。余程爆睡しているのだろう。俺の呼びかけには全くの無反応を示す。だが、俺はあきらめない。バサッ!! と掛け布団をはぎ取ると同時に叫ぶ。

 

「おい!! 一大事だから、起きろって――!! ミルク――!!」

 

 しかし、当のミルクは……

 

「なんだにゃ、今、忙しいのにゃ、後にしてくれにゃ」

 

 とか言って、またもやぐずついてしまった。舌打ちした後――

 

「ったく……」

 

 と愚痴をこぼす。が、その気持ちよさそうに寝ている様を見続けていた俺は、とうとうあきらめの気持ちが湧きあがると共に、なんだか起したくないような変な感慨までもが込み上げ、はぁ~、とため息が漏れてしまった。

 

「仕方ないな~。これは無理かな、流石に」

 

 諦めと共に出た言葉。俺は再度布団をミルクにかけると、渋々、俺一人でサユリの捜索へ出かけることにした。が、部屋を出る寸前、ふと思ったことがあった。

 

 (とりあえず書きとめておこう)

 

 そう思った俺は、画面を表示するやメモ帳を選択した後、手元に羊皮紙のメモ帳を出現。自室の真ん中にある円卓へと歩み寄った俺は、そこに用紙を置いてメモを書きつける。

 

「……こんなものか」

 

 まさに適当だった。けれど、何も書き遺さないよりかはマシだとは思っていたので、念のためにメモ書きを残した。

 

 (さて……、これで準備OKかな)

 

 やるべきことはやったはず。そう判断した俺は、今度こそ自室を後に。真夜中のミナガルデへと出、サユリの捜索をすることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユウトが捜索に出かけてから10分後――

 

 何処の樹海より、ミルクは目の前の狩人により崖っぷちまで追い詰められていた。追い詰められていたことから、当然、目の前の狩人は自分に対して、敵意? を見せつけられていたわけであり、結果的にこうなってしまったとは言え、ミルクには目の前にいる狩人は自分にとって大切なパートナーであった。

 なぜこんな結果を招いてしまったのか? 彼女自身、その理由ははっきりと自覚していた。とは言え、それは自分にとって理解できないものであり、そもそものきっかけが理不尽な事だったからだ。

 何をされたのか? いや、何を命令されたのかになるのか。ともかくそれはミルクにとって到底納得いかないものだった。

 まさに背水の陣と言った中で、ミルクはその狩人に自分の意見をぶつける。

 

「やっぱり無理だにゃ‼︎  同じ仲間をターゲットした時もそう。ましてや仲間ではないにしろ、自分達を助けてくれた命の恩人から装備を略奪するなんて」

 

 もっともな意見だったと思う。少なくともミルクは、そう確信していた。しかし、当の狩人を慕うもう一人の狩人が見守る中、ミルクを追い詰めていた狩人が返した言葉は、あまりにも冷酷だった。

 

「ほぉー、そう口答えするか。自分達が生き残り続け上位を目指すに当たって、極力リスクを犯さずして装備強化を図るのは道理と言うものだがな」

「何が道理だにゃ‼︎  人から装備を略奪して装備強化を図るなんて。ましてや嫌がっていた者の命まで手にかけるとか、ほんと、最低だにゃ!」

 

 話の途中から語気を強めるミルク。だが、その狩人の表情は余裕の笑みを浮かべていた。まるでその様は、ミルクの弱みを握っているかのように。

 

「へぇ〜、そう言うのかミルク。今まで良きオトモだったのにな〜」

「うぐく……」

 

 苦虫を噛みしめるように、弱みを言われたミルクはそれ以上は反論できなかった。ただ、これだけは言えた。

 

「で、でも。逆に訊くけど、なんでそんなに変わってしまったにゃ? あの時はそこまで酷くはなかったのに」

 

 心に問いかけるミルク。その本心は、また、あの良きパートナーに戻って欲しい。そんな切な願いが篭っていた。しかし――

 

「あの時? あーデスゲームが始まる以前の時か。あれは確かに自分でも甘かったと思っているよ。低レベルの装備を自慢して粋がっていた自分にな。……ほんと、腹立つわ」

 

 ミルクは狩人の自身への怒りと怨嗟の声に返す言葉はなかった。そして、狩人は続きを語る。

 

「だが、このDIONは変わった。いや、生まれ変わったと言うべきか。デスゲームが始まって団員内で何人か犠牲が出るようになってから、DIONはある結論に達したのだよ。今までのようなやり方では、最悪、自分までもが生き残れないとね」

「だからって……」

「そう、だからだよ。モンスターを相手に身を犯すリスクを取り装備強化を図るよりも、他者の強い装備を奪いその装備で持って危険のリスクを下げた上で上位へと目指すのは」

「く……。なら、ダリルはどうなのにゃ? ダリルなら、流石に今の考えには賛同しきれないよにゃ?」

 

 無駄とは思いつつも、ミルクは最後の希望にすがるようにダリルに助け舟を出す。だが、予想していた通り、ダリルの返事は期待を裏切るものであった。

 

「私はDION殿の腹心です故」

「……賛成だと……」

 

 ミルクの判断にダリルは何も答えなかった。そして――

 

「そう言うことだミルク。お前には選択肢は二つしかない。〝従う″か〝ここから身投げして屍に成り果てる″か、な」

「くっ……」

 

 まさに非情な選択肢であった。どっちを選んでも望まない結末は目に見えていたから。奥歯を噛みしめる中、ミルクは自分の気持ちを確かめるように目を瞑る。暫しの沈黙のうち、ミルクは覚悟を決め目を開き真っ直ぐかつての相棒(パートナー)を睨む。

 

「なら……ボクは第3の選択肢だにゃー‼︎」

「第3の選択肢? ふんっ、そんな選択肢は……」

 

 叫ぶミルクにDIONは、くだらない、と言わんばかりに鼻を鳴らす。だが、その傲慢な笑みは、次のミルクの行動によって消えることになる。

 地面に両手を付き何かを持ち上げる仕草を見せるミルク。直後、掘り出されたのは、なんと! タル爆弾。それもモンスターに大ダメージを与えかねないような威力もある大タル爆弾であった。

 早速、導線に点火がなされ、DIONの表情は瞬く間に青ざめる。

 

「おいおい、まさかだよな〜?」

 

 信じられないと言う表情で問いかけるDION。だが、ミルクは本気だった。

 

「そのまさかだにゃ‼︎  お前のせいでこれ以上、犠牲者を出すのは堪えられない。覚悟にゃー‼︎」

「ちょ、ちょい待て! 俺たちは――」

 

 もはや聞く耳を持たず。ミルクは自爆特攻せんとばかりにDIONに突撃した。一方、ミルクの強気の態度に唖然としてしまいその場で動けなくなってしまうDION。彼の命運もこれまで。そう決まりかけたその時、2人のやりとりを静かに見守っていたダリルがDIONの前に。突撃するミルクの前に立ちはだかる。

 

「ダリル‼︎」

 

 思わず腹心の名を叫ぶDION。直後――

 

 ボカ――ン‼︎

 

 爆弾の大きさが大きさだけにその爆発の威力が凄まじく、DIONを庇ったダリルはおろか、後方にいたDIONをも瞬く間に飲み込み大炎上。それに伴い周囲に衝撃波を放った。

 

 ………

 

 ……

 

 …

 

 暫くして爆煙が薄くなってきた頃、爆発の直撃をもろに受け意識を失いかけていたミルクは、時間経過と共に意識を取り戻しつつあった。

 けれど、投擲後の爆発直後にボーンピックでガードしていたとは言え、その受けたダメージは大きく、立ち上がるところか指先一つ動かすことすら出来なかった。

 うう……、と呻く中、一方で爆発で吹き飛ばされた2人のうち、DIONが先に目を覚まし手足を動かし始めたのを目にする。

 

 (どうやら仕留め損ねたみたいだにゃ……)

 

 装備強化とそれに伴う自己顕示欲を満たすためだけに、他者の装備を略奪すると共に惨殺を目論むDION。かつては良きパートナーであったが、デスゲームを境にすっかりそう変わってしまった彼に対し、ケジメを付けられなかったミルクは悔しさと無念さを滲ませる。

 先程までの耳鳴りが収まりつつある中、額に手を当てていたDIONの声が風に乗って微かに聴こえてくる。

 

「俺は……助かったのか?」

 

 ゆっくりと上半身を持ち上げ、DIONは周囲を見渡す。爆発のダメージで体が言うこと効かないミルクの傍ら、周囲を見渡していたDIONは様変わりした風景に驚いていたが、やがてダリルを見つけると慌てて呼びかける。その間、この後の最悪な展開を予想していたミルクは、自力で逃げようと動かない体に鞭を打つ如くもがく。

 だが、言うことを効かない体を前に、無常にも時間が経過していき、そこで爆発に巻き込まれ負傷したダリルの安否を確認したDIONが怒りの声を荒げる。

 

「このぉー‼︎  よくもよくも、このDIONの相棒に重傷を負わせやがって……」

 

 怒気迫る鬼の形相を浮かべ立ち上がると、握った拳にありたっけの力を込め、こちらに歩みよってきた。

 

 〝まさに、命の危機″

 

 そう捉えざるを得ないくらい、そのDIONの表情は殺意で満ちていた。

 

 (なんとかこの場から、早く逃げなければ)

 

 しかし、そう焦燥感にいくら駆られても、未だに体は言うこと効かず。そうこうしているうちにミルクの眼前にDIONがやってきてしまい、そこで徐に、グイッ! と力任せに摘み上げられてしまう。

 

「離せ離せ!! 離すんにゃ!」

 

 当然のごとく必死に抵抗するミルク。爆発による負傷で思うように動かせない体に鞭を打って、彼の手から逃れようと暴れ出す。DIONはそんな健気に抵抗するミルクを目の前まで持ち上げると、嫌々する彼女をよそにきつく一睨み。そして――

 

「くぅ、このクソがー!!」

 

 怒声を浴びせるや、勢いよく地面に叩きつけた。肺胞に含まれる空気が勢いで吐き出させ、グニャー!! と悲鳴を上げてぺちゃんこ。立て続けに、

 

「この!! この!! この!! ……」

 

 と何度も何度もその重厚な金属のグリーヴで乱暴に踏みつけ。徹底的にニ度と立ち上がれないよう酷く痛めつける。その様は、まるで憎き杭を思いっきり脚で地面に埋め込むかのように。

 一方、ミルクはその小さな体を蹲りながら必死に堪え続ける。連続で浴びせかけられる暴力が呼吸を阻害し、意識が遠のきそうになりながら。

 しかし、踏みつけリンチが一瞬だが、そこで終わってしまう。このことにより、直後、まともな呼吸ができたことにわずかな安心感を抱いた。

 

 (やっと終わったのかにゃ?)

 

 その安心感から疑問が湧く。――が、その直後、DIONが片足を大きくそらしたのを垣間見。

 

「死ねや!! この役立たずのゴミくず猫がー!!」

 

 大きくそらした片足が思いっきり振り子のように襲い掛かり、悲劇的にもミルクの腹部に突き刺さり。そのまま――

 

 ぎにゃ――!!

 

 断末魔を上げるや否や、ミルクはDIONの蹴飛ばしによって暗き谷底へと転落してしまった。

 

 ………

 

 ……

 

 …

 

「はっ!」

 

 バサリッ!

 

 布団から目覚めたミルクは、そこで起き上がる。いつもの光景が広がっていたことから、安心感を抱き胸を撫で下ろす。

 

「……なんだ、夢かにゃ」

 

 心臓の鼓動が激しくなっていること。そして、額には冷や汗をかいていたことから、自分が酷い悪夢を見ていたことを自覚させられる。

 

「……にしても、やな夢だったにゃ」

 

 忘れられるはずもない、あの時のことは。

 

 そう、あの時……。

 

 DIONと完全に決別したあの時を。

 ミルクは自分のお腹をそっと見る。

 

 (やはりまだあったにゃ)

 

 そこにはDIONに蹴られた痕跡が、未だにくっきりと残っていた。恐らくであるが、背中の痣もきっと残っているのかもしれない。確認する術がない中、諦めてそっとお腹をしまう。

 窓辺を見ると未だに月明かりが射しこんでいた。何時時かは分からなかったが、明けの明朝になるまでには十分な時間があったのを察する。布団をはぎ取りベットから降りたミルクは、よちよちと歩き、月明かりが射しこむカーテン際まで歩み寄る。そっとカーテンをめくり外の様子を窺うと、すでに街は鎮まっておりハロウィンイベントが終わったことを知る。

 は~、と何気なくため息を漏らし振り向くと、そこには廊下の明かりが扉の隙間から零れているのを目にする。

 

 ん?

 

 首を傾げたミルクは、静かにその扉へと歩み寄ると、隙間から頭を出し廊下を窺う。廊下は人の気配がないことに、扉がなんで開いていたのか流石に疑問が湧く。けれど、そっと頭を引っ込めると、気のせいか。などと思い寝床へと戻った。

 ふかふかのベット上へとよじ登り、布団をかける。ユウトもまだ寝てるし、ボクも寝ようかにゃ。なーんて思いながらふと視線を隣へと向けると、ミルクはそこで暗がりになっていて分かりずらかったものの、遅れて彼の存在がいないことに気付く。

 

「ユウト?」

 

 布団の中にでも潜っているのか、ミルクは布団の中へと潜った。だがしかし、そこにも彼はいなかった。

 

「あれ? どこ行ったのにゃ? ユウト? ユウトー!!」

 

 不安から心配へと。そして、その心配から彼がいないことによる焦燥感へと心境が変化して行った。慌ててベットから降りたミルクは、再び、開いた扉の方へと目線を向ける。

 

「もしかして……」

 

 先ほどの疑問は、まさに確信へと変わって行った。収納ボックスへと歩み寄ったミルクは、寝巻を変え外出着に。ユウトを探しに冷たいそよ風が差し込む廊下へと出、そのままミナガルデの街へと出た。

 

 

 

 

 深夜帯だけあって街は一層冷え込んでいた。身震いし、ひもじい思いを抱きながらミルクは、迷子にならないようログハウス周辺散策に踏み出す。そうした中で、ミルクはぶつくさと文句を言っていた。

 

「全く……こんな寒い中、ボクを一人で歩かせるような真似しやがって。……しかもニ度も、ニ度もだよ。……グスンッ! 見捨てるとか、あり得ないにゃ。ほんとに……へーくしょん!! ……うぅぅ、さみ~」

 

 未だ11月頃と言うこともあって降雪はまだ早い感じがするものの、鼻から垂れ出ている鼻水は今にも凍りそうな感じであった。身を引き締め寒さに堪え続け散策を続けるミルクの心境としては、一刻も早くユウトを見つけ出したい気持ちでいっぱいであった。

 

「ほんと、どこ行っちゃんだにゃ。ユウト殿」

 

 遂には散策に夢中になりすぎてしまい、ログハウスから離れいつの間にかどこかの桟橋へと来てしまう。が、辺りを見回しながら散策を続けていたミルクは、そこで目の前に立てかけられた立て札に気付かずに顔面から激突。ぶっ!! とか言って勢いで転んでしまう。

 

「いつつつつ……。一体全体なんなんにゃ?」

 

 痛さに顔を覆う。だが、このことが功をさしたのか。ぶるぶるぶる……と首を横に振ると、我に返ったミルクは目の前に立札があること。そして、立ち上がるや否や、自分が既にログハウスから遠く離れてどこかの桟橋まで来てしまったことに気付いた。

 

「ここは……」

 

 ポツリと呟く。そしてその目の前の立札には、〝ココット村方面へ″と書かれていたのを目にする。この事により、どうやら自分はミナガルデの街外れに来てしまったらしいことを自覚した。

 

「まさかにゃ……」

 

 (仲間を置いて自分だけこの街を出て行ったんじゃ……)

 

 ふと嫌な予感が脳裏を過ぎる。しかし、少なくともユウトを信じていたミルクは、脳裏に過ぎった悪い予感とやらを首を振って振り払った。とは言え、そこから見える景色は、小川を挟んで対岸に灯りが何軒か灯る村が点在しているのが遠目で確認できた。真夜中とは言え、まだ起きている人達もいるんだなぁと思う中、今時の季節にあった紅葉の木々が見て取れる。

 建物から溢れる仄かな灯りがその木々を照らしている様は、まるでどこか幻想的なものを醸し出していた。ーーとそんなこんなで、景色を一望していたミルクの心は、いつの間にか不思議なことに穏やかになっていた。

 しかし、靡く夜風が肌に触れたことでミルクは我に返り、先程までユウトを探していたことを思い出す。

 

「あっ、いかんいかん。そうだ、探すんだったにゃ」

 

 名残惜しさを胸に抱き、踵を返す。ーーが、そこで涼風に乗って、微かにだが声が聴こえてきた。声の主はどうも少女の声であり、耳を澄ましてみると、その声は嗚咽を伴ったすすり泣きのようだった。

 

「誰だろう……」

 

 当然、気になったらミルクは、その泣き声を頼りに向かう。方角からして桟橋の方みたいだが、桟橋上を見ても人影らしきものは見つからず。けれど、自分が低身長と言うこともあってか、よく確認する意味を込めて、桟橋の前まで直接向かった。

 

「……やっぱりいないにゃ。どこからだろう?」

 

 やっぱり気のせいなのだろうか。泣き声を気にしながらそう感じた。このことにより、時が経つにつれその声は次第に聴こえなくなっていた。

 

 ふぅ〜。

 

 手摺枠に両手を当ておっかかり、微かにだが白い溜息を溢す。

 

「ほんと。こんな遅くにどこ行ってしまったのにゃ」

 

 彼が忽然と寝室から消えてしまったことに、ミルクの胸は締め付けられる思いであった。

 桟橋下を流れる小川は真夜中により、水流の音しか聞こえない。けれど、この優しくて緩やかな水流音に心を馳せれば、なんだか不安な気持ちも紛らわせられそうであった。

 

 ぼーとする中、暫く一時の時間が流れる。

 

「はぁ〜、戻ろうかにゃ」

 

 諦めた感じになり、ミルクは来た道へと戻るべく踵を返した。ーーとそこで、月明かりに僅かに照らされた桟橋下に人影が見えたのを垣間見る。

 

「ん?」

 

 当然、気になったミルクは視線を戻し、手摺枠から顔を覗かせる。しばし、見つめる中、桟橋下の暗がりから人影の一部が僅かに見え隠れしているのを目撃。首を傾げ

 

「誰だろう……?」

 

 呟く中、まさかユウトかにゃ? などと期待を滲ませながら、桟橋下に続く階段へと向かった。

 階段を下った先、桟橋下前へと来たミルクは、時折すすり泣きが聴こえてくる暗がりに向かって声を掛ける。

 

「そこにいるのは、誰だにゃ?」

 

 その呼びかけに答えるかのように、

 

「その声は、……ミルクちゃん?」

 

 暗がりから二つの目がこちらを向く。両目は僅かばかりか、涙目になっていた。ミルクは聞き憶えのある声に、余所余所しく語りかける。

 

「ん? その声は、もしかしてサユリちゃん?」

 

 やや間を置いて、

 

「……うん」

 

 何処元気が無さそうな返事が返ってきた。月明かりが桟橋下を照らしていくにつれサユリの顔半分を照らし、体育座りでその場に腰を下ろしている様を映し出す。

 元気のないサユリの声音。ミルクは心配して気遣う。

 

「どうしてこんな夜中に。それも一人で」

「うん……ちょっとね。一人になりたくて」

 

 なんだか自分の気持ちをはぐらかすような返答だった。しかし、彼女と出会って間もないミルクのこと。そのことを気付かなかったミルクは、ただ一言返す。

 

「そっか……」

 

 そして、

 

「ボクも隣に来ていいかにゃ? ユウトが何処行っちゃって、今、心細いから」

 

 心境を語るミルク。サユリは事情をよく知らない上、詮索もしてこなさそうなミルクに対して、自分の隣に手をポンポンと優しく叩く。

 

「いいよ。……こっちにおいで」

 

 温もりのある手招きに導かれ、ミルクはよちよちとサユリに歩み寄り

 

「じゃ、遠慮なく……」

 

 ゆっくりと彼女の隣に腰を据えた。きっとサユリも一人は寂しかったのだろう。ミルクはそんな彼女の心境を察した。

 そして、特に何をするでもなく、二人のたわいない会話は真夜中のミナガルデに溶けていった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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